説明

封止材シート及びそれを用いた太陽電池モジュール

【課題】従来構成では、完全に分解し材料別に分解することは難しく、封止材に完全な非接着性材料を用いると空気層が形成され、発電効率や保持安定性、長期間耐久性に問題ある。このような、耐久性の維持、リサイクル性と、アップコストアップの防止などの課題を同時に解決する封止材シート及び太陽電池モジュールを提供することが本発明の課題である。
【解決手段】太陽電池の光電変換セルを封止する樹脂製の封止材シートであって、該樹脂に高温時において熱分解性を有する発泡剤を少なくとも1種類含有し、太陽電池パネルを廃棄する際に高温加熱することで発泡し、裏面保護シートを容易に分離できることを特徴とする太陽電池封止材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、太陽電池モジュール等の製造工程で光電変換セルを封止するために使用される封止材シート及び当該封止材シートを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を利用するクリーンな発電技術として、太陽電池が近年注目を集めている。太陽電池には、結晶シリコン、非晶シリコン、化合物半導体、有機色素等、多様な方式が存在する。中でも、結晶シリコン系太陽電池は耐候性、耐久性に優れ、比較的高い光電変換効率を有しているため、最も普及が進んでいる。
【0003】
一般的な結晶シリコン太陽電池モジュールは、前面ガラス、光電変換セル、封止材、バックシートからなり、前面ガラスとバックシートの間に配置される光電変換セルが封止材で完全に封止された構造となっている。
【0004】
このような太陽電池を構成する材料には、長期使用に耐え得る高い耐候性が求められており、各社とも20年を超えて使用可能な高耐久製品の開発に注力している。
【0005】
しかしながら、耐久性を向上させたとしても故障や寿命を完全に無くすことはできず、いずれ廃棄する時期がやってくる。耐久性を高めるために強固な構造を有する太陽電池モジュールを廃棄するのは、容易ではない。
【0006】
特にバックシートは、廃棄が難しいフッ素系材料が用いられることも多く、廃棄の際にはモジュールから分離する必要があり、易廃棄性・リサイクル性が求められている。
【0007】
太陽電池のリサイクルに関する検討としては、特許文献1にあげるように、表面部材と太陽電池セル、裏面部材と太陽電池セルの間それぞれに介在させたフィルムシートと、フィルムシートの表面部材側、裏面部材側にそれぞれ充填する第1の封止材に対し、それとは相違した、熱処理により分離分解が可能な第2の封止材で太陽電池セル表裏とフィルムシートの間に挟み込む構成の太陽電池パネルが提案されている。しかし、この方法では、結局、加熱して高温状態を保ちながら解体する必要があり、又、複数層積層している為、界面が増え、コストが高くなってしまう。また、封止材が最後まで太陽電池セルを覆ったままで、完全に分解し材料別に分解することは、非常に難しい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−252117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術に示されるような構成では、完全に分解し材料別に分解することは、非常に難しい問題が発生する。又、封止材に完全な非接着性材料を用いた場合には、光電変換セルとセパレーターの間に空気層が形成され、発電効率やセルの保持安定性に不安が残り、長期間の使用に満足できない問題もある。さらに、従来に比べ層構成が増えるため製造工程の負荷が増すなどの問題がある。このような、耐久性の維持、コストアップの防止、リサイクル性アップなどの課題を同時に解決した封止材シート及び太陽電池モジュールを提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係る封止材シートは、太陽電池の光電変換セルを封止する樹脂製の封止材シートであって、該樹脂に高温時において熱分解性を有する発泡剤を少なくとも1種類含有し、太陽電池パネルを廃棄する際に高温加熱することで発泡し、裏面保護シートを容易に分離できることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る封止材シートは、前記封止材シート発泡量が、30ml/g以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る封止材シートは、前記封止材シートの発泡開始温度が180℃以上250℃以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る封止材シートは、前記発泡剤が主剤の樹脂に対して、10〜30重量%添加されることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る太陽電池モジュールは、請求項1から請求項4のいずれかに記載の封止材シートで、光電変換セルの裏側を覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、封止材樹脂に、熱分解性を有する発泡剤を少なくとも1種類添加し、該封止樹脂の発泡量を30ml/g以上であるように調整することで、廃棄の際にバックシートを解体し易い太陽電池モジュールとなる封止材シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る封止材シートを用いた太陽電池モジュール製造時の各部材の配列構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る封止材シートを用いた太陽電池モジュールの断面図である。
【図3】比較例に用いた太陽電池モジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明に係る発泡性封止材シート3は、主材となる透明樹脂と熱分解性発泡剤からなる。
【0019】
本発明の実施の形態に係る発泡性封止材シート3の発泡量は、30ml/g以上とするが、60ml/g以上が好ましい。それは、発泡量が30ml/g未満では、太陽電池モジュールを解体する際の封止材・バックシート間の接着強度を十分に低下させることができないからである。
【0020】
本発明の実施の形態に係る発泡性封止材シート3の発泡開始温度は、180℃以上とする。発泡開始温度が180℃以下では、太陽電池モジュールの製造工程において、発泡してしまう可能性がある。しかし、250℃以上では、太陽電池セル自体が破損しすぎてしまう問題が発生し、リサイクルするのには、250℃以下で発泡させ、分解する発泡剤を使用する必要がある。
【0021】
前記熱分解性発泡剤は、主材となる透明樹脂に対して10〜30重量%添加する。なぜならば、10重量%未満では、発泡量が少なく十分な易剥離性を付与することができず、
30重量%以上では、初期の接着性が低下してしまうからである。
【0022】
熱分解性発泡剤としては、分解温度が180℃以上で主剤に分散する任意の材料を選択することができる。例えば、炭酸水素ナトリウム、アゾジカルボンアミド、ヒドラゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ビス・テトラゾール・ジアンモニウム、5−フェニルテトラゾールが用いられる。
【0023】
透明樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラート、アイオノマー、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどの透明性の高い樹脂を用いることができる。その中でも特にエチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラート、アイオノマー、ポリオレフィンが好ましい。
【0024】
透明樹脂には、密着性、耐候性、熱安定性、意匠性の観点から、架橋反応開始剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤を添加してもよい。
【0025】
架橋反応開始剤としては、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキシド、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン等が挙げられる。
【0026】
また、上記架橋反応開始剤の他に架橋反応を促進するための添加剤を添加してもよい。この架橋反応促進用添加剤としては、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート等が挙げられる。
【0027】
密着性向上のために用いられるシランカップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシプロピルシラン、トリメトキシメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリクロロプロピルシラン、トリエトキシフェニルシラン等が挙げられる。
【0028】
耐光性向上のために用いられる紫外線吸収剤としては、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0029】
上記紫外線吸収剤に加え、耐候性向上のために光安定剤を添加してもよい。光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート等が挙げられる。
【0030】
熱安定性を向上させるために用いられる酸化防止剤としては、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0031】
発泡性封止材シート3の製造方法の一例としては、主材料・添加剤を混合して加熱溶融させた樹脂を、直線状スリットを有するTダイを用いて、押し出し法にて成膜し、封止材シート3の製造を行う。
【0032】
また、ブロッキング防止のため、該成膜工程の中で、過熱溶融した状態の樹脂シートを表面に凹凸パターンが施されているロール(金属またはゴム製)にかけることにより、樹脂シート片面もしくは両面に該ロールの凹凸パターンを転写させ、封止材シート3にエンボス加工を施しても良い。
【0033】
図2に示すように、本発明の実施に係る太陽電池モジュール6aは、表面保護部材1、封止材層7、発泡性封止材層8、複数の光電変換セル4、裏面保護部材5からなる。
【0034】
表面保護材1の材料としては、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ETFE、PCTFE等が挙げられる。耐久性や耐候性、透明性の高い他の材料を用いても構わない。また、これら材料に耐久性や耐候性を付与するために、ハードコート層、UV吸収層、水蒸気バリア層等を積層しても構わない。
【0035】
光電変換セル4の材料としては、結晶シリコン、アモルファスシリコン、カルコバイライト系のCIS(CuInS)やCIGS(Cu(In,Ga)Se)、導電性ポリマーやフラーレンを組み合わせた有機薄膜、CdTe等が挙げられる。製造の簡便さとコストから、多結晶シリコンが特に好ましく用いられる。
【0036】
裏面保護部材5の材料としては、耐久性や耐候性の高い材料が必要で、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリ塩化テトラフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニルフロライド、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)など、及び、これらの積層体などが挙げられる。また、酸化珪素の蒸着層のような水蒸気や酸素バリア性を付与するバリア層を積層しても構わない。
【0037】
図1に示すように、太陽電池モジュール6aの製造方法としては、表面保護部材1、封止材シート2、光電変換セル4、発泡性封止材シート3、裏面保護部材5を順次積層し、真空ラミネート法で密着させる方法を用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1の発泡剤封止材シート3では、EVA樹脂として、酢酸ビニル含有量が30重量%のものを用いた。EVA樹脂100質量部に対し、発泡剤としてアゾジカルボンアミド12重量%、架橋剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネートを0.6質量部、シランカップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを0.4質量部、架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを0.6質量部、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.1質量部配合した樹脂材料を用いて、Tダイ法により樹脂シートを作製した。
【0039】
(実施例2)〜(実施例3)、(比較例1)〜(比較例4)
発泡剤の種類、添加量が異なる以外は、実施例1と同様にして作製した。
実施例2では、実施例1と同じ発泡剤アゾジカルボンアミドだが、添加量を倍にした。
実施例3では、実施例1とは違う発泡剤炭化水素ナトリウムを使用し、添加量は実施例2と同じにした。
比較例1では、発泡剤を添加しなかった。
比較例2は、実施例1と同じ発泡剤アゾジカルボンアミドを使用したが、添加量を4重量パーセントと、少なくした。
比較例3は、実施例1と同じ発泡剤アゾジカルボンアミドを使用したが、添加量を40重量パーセントと、非常に多く添加した。
比較例4は、実施例3と同じ発泡剤炭化水素ナトリウムを使用し、添加量を40重量パーセントと、非常に多く添加した。
【0040】
次に図1、図2、図3を用いて、太陽電池モジュール6a、6bの作製方法を説明する。図1に示すように表面保護部材1として厚さ3mmの白板ガラスを、封止材シート2として比較例1の樹脂シートを、発泡性封止材シート3として実施例1〜3、比較例2〜4の樹脂シートを、光電変換セル4として多結晶シリコンセルを、裏面保護部材5としてフッ化ビニルポリマーを順次積層させた積層体を、上蓋側とラミネート室内でそれぞれ真空引き可能なラミネーター内に配置し、ラミネート室内の温度を120℃に維持しながら上蓋とラミネート室内の両方で90秒間真空引きを行い、前期積層体内部を脱気しながら仮圧着した。(真空脱気・仮圧着)
上記仮圧着完了後、ラミネート室内の温度を150℃にし、ラミネーター上蓋側の真空状態を解除して、該積層体を大気圧により10分間熱圧着させた(本圧着)。
【0041】
以上の実施例・比較例について、封止材と裏面保護部材の発泡前後の密着強度についての評価を行った。発泡させるための温度条件は、200℃5分で行った。
【0042】
「密着強度評価」
実施例及び比較例の封止材層凝集破壊強度は、ORIENTEC製TENSILON(RTC−1250)を用いて測定した。カッターナイフで剥離きっかけとして切込みを入れ、裏面保護部材を密着強度測定機のチャックに固定し、180°の剥離角度、剥離速度300mm/分、測定サンプル幅10mmの条件で測定を行った。
【0043】
各評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

表1に示すように、実施例1〜3の構成の発泡性封止材シート3を用いることで、初期では裏面封止材との良好な密着を維持しつつ、解体の際には加熱後に剥離し易い解体性に優れる太陽電池モジュール6を作製することができる。
又、比較例2のように、発泡量が30ml/g未満の場合、加熱後の密着力が大きく、簡単に分解しにくいことが分る。その他、比較例3,4、によれば、添加量が30Wt%を越えると、初期密着強度が減少し、長期使用に耐えないものになってしまう事が分る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の発泡性封止材シートを用いることで、廃棄時に裏面保護部材を解体し易い太陽電池モジュールを作製することができ、フッ素樹脂などの環境負荷が高い材料を分離回収が容易にできる。
【符号の説明】
【0046】
1・・・ 表面保護部材
2・・・ 封止材シート(非発泡性)
3・・・ 発泡性封止材シート
4・・・ 光電変換セル
5・・・ 裏面保護部材
6・・・ 太陽電池モジュール
7・・・ 封止材層(非発泡性)
8・・・ 発泡性封止材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池の光電変換セルを封止する樹脂製の封止材シートであって、該樹脂に高温時での熱分解性を有する発泡剤を少なくとも1種類含有し、太陽電池パネルを廃棄する際に高温加熱することで発泡し、裏面保護シートを容易に分離できることを特徴とする封止材シート。
【請求項2】
前記封止材シートの発泡量が、30ml/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の封止材シート。
【請求項3】
前記封止材シートの発泡開始温度が180℃以上、250℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の封止材シート。
【請求項4】
前記発泡剤が主剤の樹脂に対して、10〜30重量%添加されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の封止材シート。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の封止材シートで、光電変換セルの裏側を覆われたことを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−62341(P2013−62341A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199191(P2011−199191)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】