説明

封止樹脂の難燃性評価方法および難燃性評価用試験体

【課題】電子機器に用いられる封止樹脂の難燃性の実使用に即した評価方法を提供する。
【解決手段】この封止樹脂の難燃性評価方法は、発熱体を内蔵する封止樹脂成形体である試験体に対して、通電により発熱体を発熱させて溶断させる工程と、発熱体の溶断後通電を継続して封止樹脂を発火させる工程と、発熱体の溶断から封止樹脂の発火までに印加された電圧および/または電流を測定する工程を備える。また、この試験体は、この難燃性評価方法に使用される試験体であり、電熱線と、この電熱線の両端に接続された該電熱線よりも電気抵抗の低い金属から成る通電用端子と、前記電熱線の外周に被覆された封止樹脂層を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器(デバイス)に用いられる封止樹脂の難燃性を評価する方法、およびその方法に使用される試験体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置をはじめとする電子機器(デバイス)においては、薄型化や小型化が求められることから、素子や配線を保護する封止樹脂の体積は低減される傾向にある。また、環境負荷の低減を目的として、臭素系難燃剤と三酸化アンチモンにより封止樹脂に難燃化を図る態様から、ノンハロゲンの代替難燃剤の使用もしくは難燃剤を使用しない態様に移行することが考えられている。
【0003】
このような動向は、封止樹脂の体積低減と相まって、封止樹脂の燃焼時の発煙や発火を加速する要因となっており、封止樹脂の難燃性を評価する手法に対して、ますます重要な位置付けがなされつつある。
【0004】
封止樹脂の難燃性を評価する試験としては、UL−94規格をはじめ、大電流発火性試験(HAI)、熱線発火性試験(HWI)などが従来から提案されている。しかし、これらの試験ではいずれも、封止樹脂の成形体に対して外部から加熱する(熱源を与える)方法が採られているが、実際の電子機器の発火は、必ずしも外部からの発熱に曝された結果とは限らない。したがって、前記試験方法は実使用時における封止樹脂の難燃性を評価するものとはいえなかった。
【0005】
また従来から、樹脂封止構造体(半導体パッケージ)に発熱回路を搭載させ、発熱回路による半導体素子(チップ)の発熱で生じた封止樹脂の発煙量と消費電力、ならびに経過時間を測定することにより、封止樹脂の発煙性を評価する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、この方法では、発生する煙を効率的に収集することが難しいばかりでなく、発煙量を定量的に測定するには非常に高額の装置を必要とした。また、異なる構成材料から成る封止樹脂を評価する場合には、発生する煙の成分にも十分に留意しなければならず、試験装置が大掛かりなものとなってしまうという問題があった。
【0007】
さらに、後述するように、実際の半導体パッケージにおいて封止樹脂の発煙・発火に至るメカニズムは、半導体素子からの発熱ではなく、ボンディングワイヤーの溶断とその結果生じる封止樹脂の炭化層を介しての発熱であることから、封止樹脂の流動特性の違いからボンディングワイヤーに変形が生じると、発熱源からの封止樹脂の厚みに違いが生じ、これが試験結果を左右して誤差を生じる、という問題があった。
【0008】
半導体パッケージの内部から発熱し発煙・発火に至る状況を考えた場合、発熱初期の段階では発熱部は封止樹脂によって外部の空気(酸素)と遮断されているが、加熱が進むにつれて、封止樹脂の体積膨張や分解ガス発生に伴う内部圧力の上昇により封止樹脂の一部が破損し、空気(酸素)が供給されることになる。
【0009】
したがって、封止樹脂の難燃性を評価するには、樹脂の燃えやすさに加えて、加熱時における靱性や延性をはじめとするさまざまな物性を加味することが必要であり、外部から加熱する方式の試験方法では、難燃性を十分に指標化することができない。また、半導体パッケージとして最も避けるべき事象は、炎を伴う燃焼(発火)であり、発火が生じると周辺部品や基板ならびに樹脂製筺体を容易に延焼させるので、実製品に起こる発火現象を指標にした試験方法が望まれている。
【特許文献1】特開平2−232552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、半導体パッケージのような電子機器に用いられる封止樹脂の難燃性を、より実製品、実使用に即した条件による評価が可能な方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る封止樹脂の難燃性評価方法は、発熱体を内蔵する封止樹脂成形体を試験体とし、この試験体の前記発熱体を通電により発熱させて溶断させる加熱・溶断工程と、前記発熱体の溶断後前記通電を継続して前記封止樹脂を発火させる発火工程と、前記発熱体の溶断から前記封止樹脂の発火までに印加された電圧および/または電流を測定する測定工程を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る難燃性評価用試験体は、前記した封止樹脂の難燃性評価方法に使用される試験体であり、電熱線と、この電熱線の両端に接続された該電熱線よりも電気抵抗の低い金属から成る通電用端子と、前記電熱線の外周に被覆された封止樹脂層を備えることを特徴とする線状の発熱体と、前記発熱体の両端に接続された該発熱体よりも電気抵抗の低い金属から成る外部通電用端子と、前記発熱体の外周に前記各通電用端子の一部にまたがって被覆された封止樹脂層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の封止樹脂の難燃性評価方法によれば、半導体パッケージ等の電子機器に使用される封止樹脂の難燃性を、種々の誤差要因に左右されることなく定量的に指標化し、実使用に即した評価を行なうことができる。また、本発明の試験体によれば、前記した封止樹脂についての難燃性の評価を容易かつ簡便に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下の記載では実施形態を図面に基づいて説明するが、それらの図面は図解のために供されるものであり、本発明はそれらの図面に限定されるものではない。
【0015】
本発明者らは、まず、図1(a)に示す半導体装置(パッケージ)1に対して過電流を印加し、封止樹脂を発煙・発火させる試験を行った。そして、この試験の解析結果から、以下に示すように、封止樹脂が内部からの加熱により発煙・発火を生じるメカニズムに関する知見を得た。
【0016】
過電流試験に供した半導体パッケージ1は、ダイステージ等の基板2に搭載された半導体チップ3と外部接続端子4とがボンディングワイヤー(金線)5により接続され、その外側に封止樹脂層6が形成された構造を有する。この半導体パッケージ1において、外部接続端子4から過電流が流れ込むとボンディングワイヤー5の溶断が生じるが、このときボンディングワイヤー5が高温となるため、図1(b)に示すように、ボンディングワイヤー5の周りの封止樹脂が焦げて炭化層7が形成される。そのため、ボンディングワイヤー5は溶断されたにもかかわらず、封止樹脂の炭化層7を介する回路が形成されることで、半導体チップ3への通電は継続されることになる。封止樹脂の炭化層7は数オーム(Ω)の抵抗値を有しているので、通電が継続されると、炭化層7の発熱により周りの封止樹脂の温度が上昇する。やがて封止樹脂層6における高温領域は拡大していき、発煙や赤熱といった燃焼挙動を示すとともに、赤熱部が外部の空気(酸素)と触れることで炎を伴った燃焼となり、発火に至る。
【0017】
このような過電流試験の結果、UL−94規格で同じV−0グレードを達成した封止樹脂であっても、発火が生じるものと発火には至らないものとがあり、発火する危険性が異なることが分かった。
【0018】
表1は、モータードライバーICに対して、定格以上の電流を流す過電流試験を行った結果を示したものである。樹脂Aおよび樹脂Bはいずれも、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂を主剤にビフェニルジメチレン型フェノール樹脂を硬化剤にし、難燃剤を添加していない樹脂である。また、いずれもシリカが89重量%の割合で配合されている。樹脂Aと樹脂Bは、離型剤、カップリング剤、密着付与剤、応力添加剤のような微量配合成分の配合量のみが異なっている。樹脂Cは、オルソクレゾール型エポキシ樹脂を主剤にフェノールノボラック樹脂を硬化剤にし、難燃剤として臭素化エポキシ樹脂(テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂)を、難燃助剤として三酸化アンチモンをそれぞれ配合した樹脂である。シリカの配合量は84重量%となっている。
【表1】

【0019】
樹脂A,BおよびCはいずれも、UL−94規格でV−0グレードを有しているが、表1に示すように、過電流を印加して封止樹脂を発火させる試験(過電流試験)の結果は、樹脂の種類によって大きく異なり、樹脂Aが最も発火しやすく、次いで樹脂B、樹脂Cの順となり、樹脂Cが最も発火しにくいという結果が得られた。
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る封止樹脂の難燃性評価方法を説明するための回路図である。第1の実施形態においては、封止樹脂を用いて発熱体を封止した封止樹脂成形体を試験体21とし、この試験体21を、印加電圧を変えることができる可変電源22に接続し、試験体21内部の発熱体に外部から通電を行なう。そして、通電により発熱体が発熱し溶断した後もさらに通電を継続し、内部からの加熱で封止樹脂が発火する(炎を伴って燃焼する)までの印加電圧と電流を、電圧計23と電流計24を用いてそれぞれ測定する。また、そして、電圧計23および電流計24に接続された記録・計算計25により、電圧および電流の測定値を記録するとともに、電力量(電圧×電流)を算出する。こうして求められた発熱体の溶断から封止樹脂の発火までに要した電力量を、封止樹脂の難燃性を示す指標とすることで、封止樹脂が内部からの加熱に対して発火しやすいか否かという難燃性の程度を評価することができる。なお、電力量(電圧×電流)を難燃性評価の指標とすることが好ましいが、電圧と電流の少なくとも一方の測定値を用いて難燃性を評価することも可能である。
【0022】
このように構成される第1の実施形態の難燃性評価方法によれば、半導体パッケージをそのまま使用して試験を行なう従来からの方法に比べて、パッケージのサイズやボンディングワイヤーの線径や長さ、さらには封止樹脂層形成時のボンディングワイヤーの変形に起因する樹脂層厚の変動、といった種々の誤差要因に左右されることなく、封止樹脂の難燃性を定量的に指標化し評価することができる。また、外部から加熱を行なう従来からの難燃性試験方法に比べて、実製品、実使用に近い態様での難燃性の評価が可能となる。
【0023】
次に、第1の実施形態の難燃性評価方法に使用する試験体について説明する。本発明の第2の実施形態である試験体21は、図3(a)、(b)に示すように、高電気抵抗を有する金属から成る線状の発熱体31と、この発熱体31の両端にそれぞれ接続された通電用端子32と、発熱体31の外周に被覆・成形された封止樹脂層33を備えている。
【0024】
発熱体31は、外周部を封止樹脂により被覆される際に変形しないように十分な強度を有し、かつ試験中に溶断する必要があることから、細径の線状体であることが望ましい。このような発熱体としては、ニクロム線、カンタル線、タングステン線のような電熱線が例示される。通電用端子32は、発熱体31を構成する材料に比べて電気抵抗が低い金属、例えば銅、銀、金、アルミニウムまたはそれらの合金の管から成る。通電用端子32を構成するこのような金属管は、図4に拡大して示すように、発熱体31の両端部に、カシメ(圧着)により電気的に安定に接続されている。なお、発熱体31への金属管の接続は、溶接、ろう付けなどの方法を用いて行なってもよい。
【0025】
なお、通電用端子32である金属管を接続せず、発熱体31の両端部に直接通電するように構成した場合には、発熱体31への通電端部に接する封止樹脂層33の側面外周部(図3におけるA部)から容易に発火が生じるため、実製品におけるような内部加熱による発火事象を再現できなくなる。通電用端子32として、発熱体31に比べて電気抵抗が低い金属管を接続することで、封止樹脂層33の所定の部位(中央部)で再現性よく発火・燃焼させることができ、発火時点を観測しやすいという利点がある。
【0026】
被検体である封止樹脂から成る層33は、両端部にこのような通電用端子32が接続された発熱体31の外周に、トランスファー成形等により成形され被覆されている。封止樹脂層33の厚さは、発熱体31の全周方向で等しくせず、一方(例えば上方)の側の厚さを他方(例えば下方)の側の厚さに比べて薄くすることが好ましい。そして、層厚が厚い方(例えば下方)の厚さを、薄い方(例えば上方)の厚さの2〜5倍とすることが好ましい。このように構成することにより、層厚が薄く形成された所定の部位にだけ発火を効率的に生じさせることができるので、燃焼挙動(発火)の観察を容易に行うことができる。
【0027】
また、封止樹脂層33において、燃焼挙動を観察するための所定の部位の厚さは、予備的な試験を行なうことで決定することが好ましい。発火を観察するための部位の厚さが薄すぎる場合には、早く発火しすぎる。また、厚すぎると内部からの燃焼に必要な酸素の供給が得られないため、いつまでも発火しないおそれがあり、いずれも発火までの電力量を難燃性評価の指標とすることが難しい。
【0028】
例えば、封止樹脂として、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂を主剤とし、ビフェニルジメチレン型フェノール樹脂を硬化剤として難燃剤を配合しない樹脂について、封止樹脂層の厚さを1.0mmから1.6mmまで0.2mmずつ変えて第1の実施形態に示す難燃性を評価する方法を予備的に行なったところ、表2に示す結果が得られた。
【表2】

【0029】
この結果から、このタイプの封止樹脂の試験体の場合には、発火を観察するための層厚が薄い側(例えば上側)の部位の厚さは、1〜1.2mmとするのが好ましいことがわかった。
【0030】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0031】
実施例では、発熱体として直径0.2〜0.3mm、長さ10〜30mmのニクロム線を使用し、その両端部に、外径1.0〜2.0mmの銅管をカシメ(圧着)加工によって接続した。なお、ニクロム線と銅管との接続部については、カシメ加工後1.5Vの電圧印加を行ない、抵抗値が所定の値以下で電気的に良好に接続されたもののみを選別した。
【0032】
次に、表3に示す3種類の封止樹脂(1)〜(3)をそれぞれ使用し、ニクロム線の外周に封止樹脂層を形成した。すなわち、ニクロム線の外周に封止樹脂を175℃の温度でトランスファー成形した後、175℃で8時間加熱し、封止樹脂を硬化(キュアリング)させた。こうして図3に示す試験体21を作製した。なお、表3に示す封止樹脂(2)および(3)は、それぞれ表1でモータードライバーICの過電流試験に用いた樹脂Cおよび樹脂Bと同一の樹脂である。また、封止樹脂(1)は、封止樹脂(2)と主剤と硬化剤、難燃剤の種類が同じエポキシ樹脂である。封止樹脂(1)は樹脂の特性上モータードライバーICの封止を良好に行なうことができなかったので、過電流試験には使用されていない。
【0033】
【表3】

【0034】
こうして得られた試験体21を、図2に示す回路に組み込み、難燃性評価試験を行った。可変電源22としては、菊水電子工業製PAX35−20を使用し、電圧計23および電流計24としては、三和電気計器製デジタルマルチメーターをそれぞれ使用した。また、記録・計算計25として、三和電気計器製PC Link Piusをインストールしたコンピューターを使用した。
【0035】
試験体21に対して、図5のグラフに示す電圧を経時的に印加し、発熱体であるニクロム線を発熱させて、封止樹脂層の内部からの加熱を行なった。発熱体の溶断後も電圧印加による通電を継続して行ない、封止樹脂の発火を観察した。そして、このような加熱工程における電圧および電流の値を、記録・計算計25を用いて計測し記録した。
【0036】
なお、電圧印加による加熱工程においては、本格的な加熱(本加熱)工程の前に、封止樹脂を予備的に加熱する予熱工程を設けることが好ましい。そして、予熱工程で印加する電圧は、予め試験を行うなどの方法で決定された最適範囲に設定することが好ましい。すなわち、予熱工程で印加する電圧が高すぎる場合、封止樹脂の種類によっては、予熱が過剰となってクレータ状の大きな破損が生じ、燃焼(発火)に至らないことがある。また、印加する電圧が低すぎる場合には、予熱が不足して本加熱工程で発火に至らない場合がある。そのため、予め試験を行うことで、封止樹脂の種類に合わせた適正な予備加熱の電圧を求め、その電圧を予熱工程で印加することが好ましい。さらに、本加熱工程における印加電圧の昇圧速度は、発熱体溶断後に炭化層の形成により電流が流れる程度の値に調整することが好ましい。
【0037】
実施例では、予備試験の結果から求められた適正電圧である1.5〜2.0Vを、予熱工程で240秒間印加した。また、本加熱工程では、0.05V/sの速度で印加電圧を上昇させた。
【0038】
図6は、予熱工程および本加熱工程における印加電圧および電流の値の計測結果を示すグラフである。電圧の変化を1点鎖線で示し、電流の変化を実線で示す。電圧の値は、試験開始から0.1V/sの速度で上昇させ、予熱電圧に到達するとその電圧を240秒間保持した(予熱工程)後、本加熱工程で0.05V/sの速度で上昇させた。このような印加電圧の変化に伴って電流値も同様に変化したが、本加熱工程の途中で発熱体であるニクロム線が溶断(断線)した時点で、電流値は大きく降下(図6においてBで示す。)した。しかし、このとき封止樹脂が炭化することによって生じた炭化層が通電に寄与するため、電流値は0にはならなかった。なお、ニクロム線の溶断直後に試験体を取り出し、ニクロム線の周囲の封止樹脂を観察したところ、炭化層が形成されていることが確認された。
【0039】
実施例では、ニクロム線が溶断し電流値が大きく降下した時点から、ストップウォッチを用いて時間の計測を開始した。ニクロム線の溶断により電流値は大きく低下したが、印加電圧の上昇にしたがって電流値は再び上昇をはじめ、やがて封止樹脂の発火に至った。発火の発生は封止樹脂からの炎が目視で確認されたときとし、その時点でストップウォッチでの計測は終了した。なお、炎が確認された時点で、延焼を防止するために電源をオフにし、試験体を消火した。
【0040】
こうして、ニクロム線の溶断により電流値が大きく降下した時点から、発火までの時間をストップウォッチで計測するとともに、図6において、ニクロム線の溶断から封止樹脂の発火に至るまでに要した電力量を、C部の各時点における電圧値と電流値を掛けることで求めた。こうして、表3に示す3種類の封止樹脂(1)〜(3)について求められた、ニクロム線の溶断から発火までに要した電力量を、表4に示す。
【表4】

【0041】
表4に示す算定結果から、封止樹脂の種類により、発熱体であるニクロム線の溶断から封止樹脂の発火までに要する電力量には違いがあることが確かめられた。また、過電流試験で発火しやすかった樹脂Bと同じ樹脂である実施例の封止樹脂(3)は、発火しにくかった樹脂Cと同じ樹脂である実施例の封止樹脂(2)に比べて、ニクロム線の溶断から封止樹脂の発火までに要した電力量が小さくなっていた。このことから、ニクロム線の溶断から封止樹脂の発火までに要する電力量が小さいほど、内部からの加熱により発火しやすいことが確かめられた。そして、本発明の難燃性評価方法により封止樹脂の難燃性を定量的に指標化できることが明確になった。
【0042】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については、概略的に示したものにすぎず、また各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。したがって、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り、さまざまな形態に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】過電流試験に供した半導体パッケージを示す断面図であり、(a)は封止樹脂に炭化層が形成される前の状態を示し、(b)は炭化層が形成された状態を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る封止樹脂の難燃性評価方法を説明するための回路図である。
【図3】本発明の第2の実施形態である難燃性評価用試験体を示し、(a)は縦断面図であり、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【図4】第2の実施形態である難燃性評価用試験体において、発熱体と通電用端子とのカシメ(圧着)部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】本発明の実施例において、試験体に対して印加する電圧の変化を示すグラフである。
【図6】実施例において、印加電圧および電流の値の計測結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
21…試験体、22…可変電源、23…電圧計、24…電流計、25…記録・計算計、31…発熱体、32…通電用端子、33…封止樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を内蔵する封止樹脂成形体を試験体とし、この試験体の前記発熱体を通電により発熱させて溶断させる加熱・溶断工程と、前記発熱体の溶断後前記通電を継続して前記封止樹脂を発火させる発火工程と、前記発熱体の溶断から前記封止樹脂の発火までに印加された電圧および/または電流を測定する測定工程
を備えることを特徴とする封止樹脂の難燃性評価方法。
【請求項2】
前記測定工程は、前記発熱体の溶断から前記封止樹脂の発火までに印加された電圧と電流をそれぞれ測定し、電力量を算定する工程を有することを特徴とする請求項1記載の封止樹脂の難燃性評価方法。
【請求項3】
前記加熱・溶断工程は、前記発熱体を溶断させる前に前記封止樹脂を予備的に加熱する予熱工程を有し、この予熱工程で印加される電圧は前記封止樹脂の特性に応じて調整されることを特徴とする請求項1または2記載の封止樹脂の難燃性評価方法。
【請求項4】
請求項1記載の封止樹脂の難燃性評価方法に使用される試験体であり、電熱線と、この電熱線の両端に接続された該電熱線よりも電気抵抗の低い金属から成る通電用端子と、前記電熱線の外周に前記各通電用端子の一部にまたがって被覆された封止樹脂層を備えることを特徴とする難燃性評価用試験体。
【請求項5】
前記封止樹脂層の厚さは、前記電熱線を通る平面で2分割した一方の側が他方の側の2〜5倍の厚さを有することを特徴とする請求項4記載の難燃性評価用試験体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−151608(P2010−151608A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330005(P2008−330005)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502415560)東芝LSIパッケージソリューション株式会社 (30)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】