説明

封止用ガラス

【課題】本発明は、非酸化雰囲気(減圧雰囲気、不活性雰囲気等)であっても、450〜800℃の中温度域で金属製被封止物を良好に封止可能なSnO−P系ガラスからなる封止用ガラスを創案することにより、長期間に亘って、封止部分の気密性を確保することを技術的課題とする。
【解決手段】本発明の封止用ガラスは、金属製被封止物を封止するための封止用ガラスであって、ガラス組成として、モル%表示で、SnO 15〜30%(但し、30%を含まず)、P 20〜40%、WO 5〜20%(但し、5%を含まず)、ZnO 3.4〜30%(但し、30%を含まず)を含有し、モル比SnO/ZnOが1以上4.5以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用ガラスに関し、特に450〜800℃の中温度域で金属製被封止物を良好に封止可能な封止用ガラスに関する。なお、以下の説明において、「封止」は部材同士を気密接合する「封着」の概念を含み、また「封止用ガラス」は「封着用ガラス」の概念を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
封止用ガラスとして、従来から低融点の封止用ガラスが使用されており、鉛を多量に含むPbO−B系ガラスが広く使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
一方、低融点の封止用ガラスとして、鉛を含有しないSnO−P系ガラスが提案されている(例えば、特許文献4〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平6−16897号公報
【特許文献2】特開昭62−209712号公報
【特許文献3】特開平5−47322号公報
【特許文献4】特開2005−350314号公報
【特許文献5】特許第2628007号公報
【特許文献6】特開2000−72479号公報
【特許文献7】特開2001−139344号公報
【特許文献8】特開2008−30972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シーズヒーターの口元封止等の場合、450〜800℃の中温度域で封止が行われる。しかし、上記のSnO−P系ガラスを用いて、450〜800℃の中温度域で金属製被封止物を封止すると、低融点であることに起因して、ガラス中に多数の気泡が発生し、結果として、長期間の使用により気泡からリークが生じて、封止部分の気密性が損なわれたり、封止部分が剥離する可能性が高くなる。
【0006】
近年、PbO−B系ガラスの無鉛代替品として、Bi−B系ガラスが使用されている。しかし、Bi−B系ガラスは、非酸化雰囲気の封止工程でビスマス成分が還元され易く、安定な状態を確保し難い問題がある(例えば、特許文献8参照)。なお、金属製被封止物の封止(金属と金属、金属とセラミック、金属とガラス等の封着を含む)は、通常、金属の酸化を防止するために、非酸化雰囲気で行われる(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
そこで、本発明は、非酸化雰囲気(減圧雰囲気、不活性雰囲気等)であっても、450〜800℃の中温度域で金属製被封止物を良好に封止可能なSnO−P系ガラスからなる封止用ガラスを創案することにより、長期間に亘って、封止部分の気密性を確保することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々の実験を行ったところ、SnO−P系ガラスのガラス組成範囲を厳密に規制することにより、非酸化雰囲気であっても、450〜800℃の中温度域で金属製被封止物を良好に封止し得ると共に、封止時にガラスと金属製被封止物の反応を適正化できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の封止用ガラスは、金属製被封止物を封止するための封止用ガラスであって、ガラス組成として、モル%表示で、SnO 15〜30%(但し、30%を含まず)、P 20〜40%、WO 5〜20%(但し、5%を含まず)、ZnO 3.4〜30%(但し、30%を含まず)を含有し、モル比SnO/ZnOが1以上4.5以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の封止用ガラスは、上記のようにガラス組成範囲が規制されている。このようにすれば、450〜800℃の中温度域で良好に封止可能になる。即ち、このようにすれば、450〜800℃の中温度域で適正に流動しつつ、ガラス中に多数の気泡が発生する事態を防止し得ると共に、封止用ガラスが金属製被封止物と適正に反応して、強固な接着性を確保することができる。また、非酸化雰囲気で封止する場合であっても、封止部分の表面が失透、変質する事態を防止でき、結果として、長期間に亘って、封止部分の気密性を確保することが可能になる。
【0010】
第二に、本発明の封止用ガラスは、実質的にPbOを含まないことが好ましい。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にPbOを含まない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0011】
第三に、本発明の封止用ガラスは、ガラス転移点が350〜500℃であることが好ましい。なお、ガラス転移点は、押し棒式熱膨張計等で測定可能である。
【0012】
第四に、本発明の封止用ガラスは、1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気における封止に用いることが好ましい。
【0013】
第五に、本発明の封止用ガラスは、酸素濃度が5体積%以下の雰囲気における封止に用いることが好ましい。
【0014】
第六に、本発明の封止用複合材料は、ガラス粉末と耐火性フィラーを含有する封止用複合材料において、ガラス粉末が、上記の封止用ガラスからなることを特徴とする。
【0015】
第七に、本発明の封止用複合材料は、ガラス粉末の含有量が45〜100体積%、耐火性フィラーの含有量が0〜55体積%であることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記のように、SnO−P系ガラスのガラス組成範囲を限定した理由を以下に説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示はモル%を指す。
【0017】
SnOは、ガラスの融点を下げる成分であり、その含有量は15〜30%(但し、30%を含まず)、好ましくは20〜28%である。SnOの含有量が15%より少ないと、ガラスの粘性が高くなって、中温度域で流動性が低下し易くなる。なお、SnOの含有量が20%以上であると、中温度域で流動性が向上するため、高い気密性を確保し易くなる。一方、SnOの含有量が30%より多いと、低温でガラスが軟化するため、作業温度が低くなり過ぎて、中温度域で使用し難くなる。
【0018】
は、ガラス形成酸化物であり、その含有量は20〜40%、好ましくは25〜35%である。Pの含有量が20%より少ないと、ガラスが不安定になる。一方、Pの含有量が40%より多いと、耐湿性が低下する。なお、Pの含有量が25%以上であれば、ガラスがより安定化し、35%以下であれば、耐候性を高めることができる。
【0019】
WOは、本発明の必須成分であり、金属製被封止物との反応性を適正化して、接着強度や気密性を高める成分である。また、WOを添加すると、耐候性が向上するため、封止部分の長期信頼性を高めることができる。WOの含有量は5〜20%(5%を含まず)、好ましくは10〜15%である。WOの含有量が5%以下であると、上記効果を得ることができない。一方、WOの含有量が20%より多いと、溶融時に分相傾向が強くなり、ガラスが不安定になる。なお、WOの含有量が10〜15%であると、中温度域において流動性が向上する。また、WOの含有量が5%より多いと、上記効果を享受できるが、大気雰囲気で封止する場合、封止時にガラスが失透し易くなる。このため、本発明の封止用ガラスは、1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気における封止、或いは酸素濃度が5体積%以下の雰囲気における封止に用いることが好ましい。
【0020】
ZnOは、中間酸化物であり、またガラスを安定化させる効果が大きい成分であり、その含有量は3.4〜30%(但し、30%を含まず)、好ましくは5〜28%である。全体的なガラスの安定性(耐失透性、分相性等)を考慮すると、ZnOの含有量は5%以上が好ましい。しかし、ZnOの含有量が30%以上になると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、封止時にガラスの表面に失透が発生し易くなる。なお、ZnOの含有量が28%以下になると、中温度域においてガラスの安定性が向上する。
【0021】
モル比SnO/ZnOは1以上4.5以下、好ましくは1以上4以下である。モル比SnO/ZnOが1より小さいと、ガラスが不安定になり易い。一方、モル比SnO/ZnOが4.5より大きいと、封止時にガラスが流動し過ぎて、金属製被封止物を封止し難くなると共に、ガラス中に気泡が発生し易くなる。
【0022】
任意成分として、以下の成分を添加することができる。
【0023】
MgOは、網目修飾酸化物であり、またガラスを安定化させる成分である。MgOの含有量は0〜20%、特に0〜5%が好ましい。MgOの含有量が20%より多いと、封止時にガラスの表面に失透が発生し易くなる。
【0024】
Alは、中間酸化物であり、またガラスを安定化させる成分であり、更に熱膨張係数を低下させる成分である。Alの含有量は0〜10%、特にガラスの安定性、熱膨張係数、流動性等を考慮すると、0.5〜5%が好ましい。Alの含有量が10%より多いと、軟化温度が上昇して、中温度域で流動性が低下し易くなる。
【0025】
SiOは、ガラス形成酸化物であり、また失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜15%、特に0〜8%が好ましい。SiOの含有量が15%より多いと、軟化温度が上昇して、中温度域で流動性が低下し易くなる。
【0026】
は、ガラス形成酸化物であり、またガラスを安定化させる成分であり、その含有量は0〜25%である。Bの含有量が25%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎて、封止時に流動性が著しく低下して、封止部分の気密性が損なわれるおそれがある。特に、本発明に係るガラス組成系において、Bの含有量が25%より多いと、ガラスが分相し易くなる。なお、Bは、ガラスの粘性を高くする傾向が強い。このため、軟化温度を大幅に低下させたい場合は、実質的にBを含有しないこと、つまり0.1%以下が好ましい。
【0027】
O(RはLi、Na、K、Csのいずれか)は、必須成分ではないが、RO成分の内、少なくとも1種類を添加すると、ステンレス等の金属製被封止物との接着性が向上する。ROの含有量は0〜20%、特に0.1〜10%が好ましい。ROの含有量が20%より多いと、封止時にガラスが失透し易くなる。また、LiO、NaO、KO、CsOの含有量は、各々0〜12%、特に0.1〜10%が好ましい。なお、RO成分の内、LiOは、金属製被封止物との接着性を高める効果が大きい。
【0028】
ランタノイド酸化物は、網目修飾酸化物であり、その含有量は0〜25%、0.1〜20%、特に0.5〜15%が好ましい。ランタノイド酸化物の含有量が25%より多いと、封止温度が高くなって、中温度域で流動性が低下し易くなる。なお、ランタノイド酸化物として、La、CeO、Nd等が使用可能である。また、ランタノイド酸化物の含有量を0.1%以上にすれば、耐候性を高めることができる。
【0029】
ランタノイド酸化物に加えて、他の希土類酸化物、例えばYを添加すると、耐候性を更に高めることができる。ランタノイド酸化物を除く希土類酸化物の含有量は合量で0〜5%が好ましい。
【0030】
さらに、ガラスを安定化させるために、MoO、Nb、TiO、ZrO、CuO、MnO、In、R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baのいずれか)等を合量で35%まで添加してもよい。なお、これらの成分の含有量が合量で35%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になり、製造が困難になる。なお、これらの成分の含有量が合量で25%以下であれば、ガラスが不安定になり難い。
【0031】
MoOの含有量は0〜20%、特に0〜10%が好ましい。MoOの含有量が20%より多いと、ガラスの粘性が高くなって、中温度域でガラスが流動し難くなる。
【0032】
Nb、TiO、ZrOの含有量は各々0〜15%、特に0〜10%が好ましい。これらの成分が各々15%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になり易い。
【0033】
CuO、MnOの含有量は各々0〜10%、特に0〜5%が好ましい。これらの成分が各々10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になり易い。
【0034】
Inは、コストを度外視した場合、高度な耐候性を得る目的で使用可能な成分である。Inの含有量は0〜5%が好ましい。
【0035】
R’Oの含有量は合量で0〜15%、特に0〜5%が好ましい。R’Oの含有量が合量で15%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になり易い。
【0036】
なお、上記成分以外にも、他の成分を例えば5%まで添加することができる。また、上記の通り、環境的観点から、実質的にPbOを含まないことが好ましい。
【0037】
以上のガラス組成を有するSnO−P系ガラスは、ガラス転移点が約350〜500℃、屈伏点が約380〜530℃、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が約60×10−7〜110×10−7/℃であり、また1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気において、500〜800℃の温度範囲で良好に封止可能であり、更に残存酸素濃度が5体積%以下の雰囲気、例えば窒素やアルゴン等の不活性雰囲気において、450〜650℃の温度範囲で良好に封止可能である。
【0038】
本発明の封止用ガラスにおいて、ガラス転移点は350〜500℃、特に400〜450℃が好ましい。ガラス転移点が350℃より低いと、中温度域でガラスが流動し過ぎて、金属製被封止物を封止し難くなると共に、ガラス中に気泡が発生し易くなる。一方、ガラス転移点が500℃より高いと、軟化温度が上昇して、中温度域で流動性が低下し易くなる。
【0039】
本発明の封止用ガラスにおいて、屈伏点は380〜530℃、特に440〜480℃が好ましい。屈伏点が380℃より低いと、中温度域でガラスが流動し過ぎて、金属製被封止物を封止し難くなると共に、ガラス中に気泡が発生し易くなる。一方、屈伏点が530℃より高いと、軟化温度が上昇して、中温度域で封止し難くなる。なお、屈伏点は、押し棒式熱膨張計等で測定可能である。
【0040】
本発明の封止用ガラスにおいて、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数は60×10−7〜110×10−7/℃、特に70×10−7〜85×10−7/℃が好ましい。このようにすれば、金属製被封止物の熱膨張係数に整合し易くなるため、封止部分にかかる応力を低減することができる。なお、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数は、押し棒式熱膨張計等で測定可能である。
【0041】
本発明の封止用ガラスは、種々の金属製被封止物に対して、良好に封止可能である。また、本発明の封止用ガラスは、封止時に金属の酸化を防止するために、1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気、或いは酸素濃度が5体積%以下の雰囲気における封止に用いることが好ましい。
【0042】
本発明の封止用ガラスは、熱膨張係数の調整のために、耐火性フィラーを添加して、複合化して使用してもよい。耐火性フィラーを混合する場合、その混合量は封止用ガラス(ガラス粉末)45〜100体積%、耐火性フィラー0〜55体積%が好ましい。耐火性フィラーの含有量が55体積%より多いと、相対的にガラス粉末の割合が少なくなり、必要な流動性を確保し難くなる。
【0043】
耐火性フィラーとして、種々の材料が使用可能であり、例えば石英、コージエライト、ジルコン、酸化錫、酸化ニオブ、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、ウイレマイト、ムライト等が使用可能である。またNbZr(PO系セラミック粉末は、成分中にリン酸を含有するため、SnO−P系ガラスと適合性が良好である。なお、NbZr(PO系セラミック粉末は、焼結助剤としてMgOが少量(例えば、0.1〜2質量%)添加されていることが好ましい。
【0044】
以下、本発明の封止用ガラスの製造方法について詳述する。
【0045】
本発明の封止用ガラスおよびこれを用いた複合材料の作製には、まず上記のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した後、850〜1000℃で溶融して、溶融ガラスを作製する。本発明に係るガラス組成範囲の場合、大気中で溶融しても支障はないが、溶融時にガラス組成中のSnOがSnOに酸化されないように留意する必要がある。ガラス組成中のSnOがSnOに酸化する事態を防止するため、N中で溶融したり、溶融ガラス中にNバブリングする等、非酸化性雰囲気で溶融することが好ましい。また、実験室レベルの溶融の場合、溶融坩堝に蓋をして溶融することが、作業性の観点から好ましい。
【0046】
被封止物が金属の場合、耐火性フィラーを混合せずに、ガラス単独で使用する場合が多い。この場合、(1)溶融ガラスを棒状に引き出して、所定長に切断したり、(2)溶融ガラスを滴下して、所定の大きさを有するチップ形状に成形したり、(3)塊状に成形後、固化することにより、封止用ガラスを作製することができる。なお、塊状の封止用ガラスは、所定の大きさに切り出された後に使用に供される。本発明の封止用ガラスは、ガラス単独で使用される場合、直方体、円柱、球、楕円球、半球、卵型、おはじき形状等の形状が好ましい。また、この場合、後述の脱バインダー等が不要になり、封止工程の簡略化を図ることができるが、ペースト化できないため、金属製被封止物の封止すべき部分に、封止用ガラスを設置するための凹部を設けることが好ましい。
【0047】
また、溶融ガラスをフィルム形状に成形した後、粉砕、分級することにより、粉末形状に加工することができる。得られたガラス粉末に対し、耐火性フィラーを混合すると、複合粉末を作製することができる。次に、得られたガラス粉末又は複合粉末(着色剤を含む場合が多い)とビークルを混練すると、ペースト材料を作製することができる。
【0048】
ビークル中の樹脂として、脂肪族ポリオレフィン系カーボネート、特にポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートが好ましい。これらの樹脂は、封止時にSnO−P系ガラスを変質させ難い性質を有する。一方、樹脂として、汎用のエチルセルロースを用いると、SnO−P系ガラスが変質する可能性が高い。ビークル中の溶媒は、N,N’−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルスルホキサイド、炭酸ジメチル、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、カプロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンから選ばれる一種または二種以上が好ましい。これらの溶媒は、封止時にSnO−P系ガラスを変質させ難い性質を有する。
【0049】
続いて、金属製被封止物の表面にペースト材料を塗布して、乾燥する。ペースト材料の塗布は、ディスペンサー、スクリーン印刷機等を使用すればよい。次に、必要に応じて、脱バインダーのために焼成(一次焼成)を行った後、他方の被封止物と接触させながら焼成(二次焼成)して、被封止物同士を封止する。ガラス粉末又は複合材料が被封止物の接着表面を濡らすのに十分な条件で二次焼成を行う必要がある。
【0050】
一次焼成は、SnO−P系ガラスの変質を防止するため、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気、特に窒素雰囲気で行うことが好ましい。
【0051】
本発明の封止用ガラスは、1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気における封止に用いることが好ましい。1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気であれば、金属製被封止物の酸化を防止することができる。また、金属製被封止物の酸化を確実に防止するため、1.0×10−3Torr以下の減圧雰囲気で封止することが更に好ましい。一方、圧力が1.0×10−2Torrより大きいと、封止時にガラスが失透、変質し易くなる。なお、1.0×10−2Torr以下の減圧であれば、一般的に使用されるロータリーポンプで到達可能である。
【0052】
金属製二重容器等の実生産において、容器中の真空度を高めるために、油拡散ポンプ(ディフージョンポンプ)で封止雰囲気を減圧する場合が多い。この場合、封止雰囲気の真空度は1.0×10−3Torr以下となる。封止雰囲気の真空度の上限は特に制限されない。なお、ロータリーポンプとターボ分子ポンプを併用することにより、1.0×10−6Torrに減圧して、封止試験を行ったところ、本発明の封止用ガラスに失透、変質が認められなかったことが確認されている。但し、実生産上、封止雰囲気の真空度は、封止用ガラスや金属製被封止物からの放出ガスの影響により、1.0×10−6Torr以下とすることは困難である。
【0053】
本発明の封止用ガラスは、酸素濃度が5体積%以下の雰囲気、例えば窒素、アルゴン等の不活性雰囲気における封止に用いることが好ましい。このようにすれば、封止時にガラスが失透、変質し難くなると共に、金属製被封止物の酸化を防止することができる。一方、封止雰囲気の酸素濃度が5体積%より多いと、ガラスが失透、変質し易くなると共に、金属製被封止物が酸化し易くなる。なお、真空ポンプ等を使用しなくても、単に窒素、アルゴン等の不活性ガスを封止雰囲気に流して、不活性ガスの雰囲気濃度を95体積%以上にすれば、封止雰囲気中の残存酸素濃度を5体積%以下にすることができる。
【実施例1】
【0054】
以下、実施例に基づいて、本発明の封止用ガラスを詳述する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0055】
表1、2は本発明の実施例(No.1〜11)を示し、表3は比較例(No.12〜16)を示している。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
次のようにして、各試料を調製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合した。また、リンの導入原料として、液体原料である正リン酸(オルトリン酸)を使用せず、ピロリン酸第一錫及びメタリン酸亜鉛を用いて、リンの導入原料をすべて固体原料とした。リンの導入原料をすべて固体原料にすると、他のガラス系と同様の製造設備を使用できるという利点がある。なお、リンの導入原料として、液体原料を直接溶融炉に入れて溶融すると、噴きこぼれの問題が発生し易くなる。そして、噴きこぼれの問題を回避するには、一旦、ガラス原料を乾燥しなければならない。
【0060】
次に、調合したガラス原料を950℃で2時間溶融した。なお、溶融の際に、SnOの酸化を抑制するために、溶融炉内に窒素を流した。窒素流入時の溶融炉内の残存酸素濃度は1%以下であった。
【0061】
続いて、カーボン冶具を用いて、溶融ガラスを直径5mm、長さ20mmの円柱状に成形した。この成形試料をアニール処理し、押し棒式熱膨張計(TMA、リガク製)により、ガラス転移点、屈伏点、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数を測定した。また、同様の円柱状の試料(アニール済み)を長さ3mmに加工して、接着性の評価に使用した。
【0062】
次のようにして、接着性の有無を評価した。評価用金属として、低温域で一般的に使用されるオーステナイト系のSUS304ではなく、高耐熱性のフェライト系のSUS430を使用した。評価用金属の形状は40mm×40mmの平板形状とした。次に、この金属製被封止物上に、上記の評価用試料を載せて、表中の雰囲気で焼成した。
【0063】
表中の「減圧焼成」は、絶えずロータリーポンプによって減圧しながら、焼成したものである。減圧焼成時には、封止用ガラスから発生した発泡ガスによる圧力の変動があったが、圧力ゲージにより、その圧力が1.0×10−2Torr以下であることを確認した。なお、焼成条件は、焼成温度650℃で10分間保持、室温から焼成温度までの昇温速度20℃/分、室温までの降温速度15℃/分であった。
【0064】
表中の「雰囲気焼成」は、絶えず表中に記載のガスを2.0L/分で流し続けながら、焼成したものである。焼成時に残存する酸素濃度は、酸素濃度計により5体積%以下であることを確認した。なお、焼成条件は、焼成温度550℃で10分間保持、室温から焼成温度までの昇温速度15℃/分、室温までの降温速度10℃/分であった。
【0065】
表1、2から明らかなように、試料No.1〜11は、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が69.6×10−7〜83.7×10−7/℃、ガラス転移点が389〜463℃、屈伏点が416〜472℃であり、また減圧焼成、雰囲気焼成共に、焼成後に失透、変質がなく、金属製被封止物と良好な接着性を示していた。よって、試料No.1〜11は、中温度域の封止用ガラスとして好適であった。
【0066】
一方、試料No.12、13、16は、減圧焼成、雰囲気焼成共に、焼成後に失透、変質がなかったが、金属との接着性がなく、封止後に金属製被封止物から剥がれ落ちてしまった。試料No.14は、減圧焼成、雰囲気焼成共に、焼成後に失透、変質がなかったが、モル比SnO/ZnOが5より大きいため、金属製被封止物上で過剰に流動して、金属製被封止物からガラスがはみ出してしまい、接着性の評価を行うことができなかった。なお、試料No.14は、融点が低過ぎて、中温度域で使用できないものと考えられる。試料No.15は、減圧焼成、雰囲気焼成共に、焼成後に失透、変質がなかったが、金属製被封止物上で殆ど流動しなかったため、接着性の評価を行うことができなかった。
【実施例2】
【0067】
以下、実施例に基づいて、本発明の封止用複合材料を詳述する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0068】
表4は本発明の実施例(No.17〜20)を示している。
【0069】
表4に記載のガラス粉末と耐火性フィラーを所定比率で混合して、各試料を作製した。なお、ガラス粉末と耐火性フィラーの平均粒子径D50を10μmとした。
【0070】
【表4】

【0071】
押し棒式熱膨張計(TMA、リガク製)により、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数を測定した。なお、各試料を緻密に焼結させたものを測定試料とした。
【0072】
次のようにして、接着性の有無を評価した。まず各試料を焼結させて、直径20mm、1mm厚の焼結体を作製した。次に、この焼結体を40mm×40mmのSUS430の金属プレート上に載置し、更にこの焼結体の上に、40mm×40mmのアルミナプレートを載せて、評価用試料を作製した。続いて、この評価用試料を表中の雰囲気で焼成した。最後に、SUS430の金属プレートとアルミナプレートの接着の有無を評価した。
【0073】
表4から明らかなように、試料No.17〜20は、30〜300℃の温度範囲における熱膨張係数が59.2×10−7〜64.5×10−7/℃であり、また表中の雰囲気による焼成で失透、変質がなく、良好な接着性を示していた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の封止用ガラスは、450〜800℃の中温度域において、金属製被封止物を良好に封止可能であるため、例えばダイオードの封止、ガラスとジュメット線の封止、シーズヒーターの口元封止、磁気ヘッドの封止に好適であり、また耐火性フィラー等を添加して、金属製被封止物の熱膨張係数に整合させると、金属とセラミックの封止、例えばICパッケージの封止等にも好適に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製被封止物を封止するための封止用ガラスであって、
ガラス組成として、モル%表示で、SnO 15〜30%(但し、30%を含まず)、P 20〜40%、WO 5〜20%(但し、5%を含まず)、ZnO 3.4〜30%(但し、30%を含まず)を含有し、モル比SnO/ZnOが1以上4.5以下であることを特徴とする封止用ガラス。
【請求項2】
実質的にPbOを含まないことを特徴とする請求項1に記載の封止用ガラス。
【請求項3】
ガラス転移点が350〜500℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の封止用ガラス。
【請求項4】
1.0×10−2Torr以下の減圧雰囲気における封止に用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の封止用ガラス。
【請求項5】
酸素濃度が5体積%以下の雰囲気における封止に用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の封止用ガラス。
【請求項6】
ガラス粉末と耐火性フィラーを含有する封止用複合材料において、
ガラス粉末が、請求項1〜5の何れか一項に記載の封止用ガラスからなることを特徴とする封止用複合材料。
【請求項7】
ガラス粉末の含有量が45〜100体積%、耐火性フィラーの含有量が0〜55体積%であることを特徴とする請求項6に記載の封止用複合材料。


【公開番号】特開2012−46408(P2012−46408A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134113(P2011−134113)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】