説明

封止用組成物及びそれを用いた封止用シート

【課題】UV硬化型でありながらも、接着力が強く、透湿度の低いシール部材を作製可能な、保存安定性に優れた封止用組成物を提供する。
【解決手段】(A)重量平均分子量が3×10〜2×10であるビスフェノール型エポキシ樹脂と、(B)重量平均分子量が200〜800であるフェノール型エポキシ樹脂と、(C)光カチオン重合開始剤と、(D)エポキシ基又はエポキシ基と反応可能な官能基を有するカップリング剤と、(E)光増感剤と、を含み、(B)フェノール型エポキシ樹脂100重量部に対する、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が200〜620重量部であるとともに、(B)フェノール型エポキシ樹脂、(D)カップリング剤、及び(E)光増感剤の合計100質量部に対する、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が180〜600質量部である、封止用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用組成物、及びそれを用いた封止用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器の中でも、有機ELディスプレイは、消費電力が少なく、かつ視野角依存性が低いことから、次世代のディスプレイ又は照明装置として期待されている。しかしながら、有機EL素子は、大気中の水分や酸素によって劣化し易いという問題がある。そのため、有機EL素子はシール部材で封止されて使用されるが、より透湿度の低いシール部材を作製するための封止材料が切望されている。
【0003】
発光素子又は電子部品の封止材料として、フルオレン骨格を含むエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、及びカップリング剤等を含有する熱硬化型の組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この組成物の熱硬化物は、透湿度が比較的低い。しかしながら、この組成物又はこの組成物からなるシート等は使用可能な期間が短く、長期保存が困難であるといった問題がある。また、封止時には熱硬化させることから、有機EL素子に対する熱負荷が懸念される場合がある。
【0004】
一方、熱硬化型の封止用組成物よりも長期の保存が可能な封止材料として、UV硬化型の組成物が知られている。具体的には、有機EL素子等の封止材料として、ビスフェノール構造を含むエポキシ化合物を(メタ)アクリル化して得られるエポキシ(メタ)アクリレートを主成分とする光硬化性樹脂と、活性ラジカルを発生する光重合開始剤とを含有する光硬化性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。また、二種類のビスフェノール型エポキシ樹脂と、光カチオン重合開始剤として機能する、ボロン酸を対イオンとするオニウム塩と、を含有する有機EL素子封止用接着剤が提案されている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−41925号公報
【特許文献2】特開2004−139977号公報
【特許文献3】特開2007−38445号公報
【特許文献4】特開2006−169540号公報
【特許文献5】特開2007−254743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2〜5に記載された光硬化性樹脂組成物等は、従来の熱硬化型の組成物に比して保存安定性に優れているといった利点がある。しかしながら、これらの光硬化性樹脂組成物等からなる硬化物は、熱硬化型の組成物からなる硬化物に比して接着力が弱いという問題があった。更には、これらの光硬化性樹脂組成物等からなる硬化物は、熱硬化型の組成物からなる硬化物に比して透湿度が高いという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、UV硬化型でありながらも、接着力が強く、透湿度の低いシール部材を作製可能な、保存安定性に優れた封止用組成物、及び封止用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明によれば、以下に示す封止用組成物、封止用シート、封止用シートの製造方法、有機ELパネル、及び有機ELパネルの製造方法が提供される。
【0009】
[1](A)重量平均分子量が3×10〜2×10であるビスフェノール型エポキシ樹脂と、(B)重量平均分子量が200〜800であるフェノール型エポキシ樹脂と、(C)光カチオン重合開始剤と、(D)エポキシ基又はエポキシ基と反応可能な官能基を有するカップリング剤と、(E)光増感剤と、を含み、前記(B)フェノール型エポキシ樹脂100重量部に対する、前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が200〜620重量部であるとともに、前記(B)フェノール型エポキシ樹脂、前記(D)カップリング剤、及び前記(E)光増感剤の合計100質量部に対する、前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が180〜600質量部である、封止用組成物。
【0010】
[2]前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むオリゴマーである、前記[1]に記載の封止用組成物。
【0011】
【化1】

【0012】
前記一般式(1)中、Xは、単結合、メチレン基、イソプロピリデン基、−S−、又は−SO−を示し、Rは、それぞれ独立して炭素数が1〜5のアルキル基を示し、nは、2以上の整数を示し、Pは、0〜4の整数を示す。
【0013】
[3]前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量が3×10〜7×10である、前記[1]又は[2]に記載の封止用組成物。
【0014】
[4](F)溶剤を更に含む、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の封止用組成物。
【0015】
[5]前記(F)溶剤が、ケト基を有する化合物である、前記[4]に記載の封止用組成物。
【0016】
[6](G)カチオン成分を捕捉可能な反応調整剤を更に含む、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の封止用組成物。
【0017】
[7](a)前記[1]〜[5]のいずれかに記載の封止用組成物からなる封止層を備えた、封止用シート。
【0018】
[8](a)前記[6]に記載の封止用組成物からなる封止層を備えた、封止用シート。
【0019】
[9]有機EL素子の封止に用いられる、前記[7]又は[8]に記載の封止用シート。
【0020】
[10]前記(a)封止層の含水率が0.1重量%以下である、前記[7]〜[9]のいずれかに記載の封止用シート。
【0021】
[11]前記(a)封止層の一方の面側の表層は、実質的に前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる、前記[7]〜[10]のいずれかに記載の封止用シート。
【0022】
[12](b)前記(a)封止層の他方の面側に積層されるガスバリア層を更に備える、前記[11]に記載の封止用シート。
【0023】
[13]基材フィルム上に、前記[4]〜[6]のいずれかに記載の封止用組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜に含まれる溶剤を蒸発乾燥させて封止層を形成する工程と、前記封止層の少なくとも一方の面上に保護フィルムを積層する工程と、を含む、封止用シートの製造方法。
【0024】
[14]有機EL素子が配置された表示基板と、前記表示基板と対になる対向基板と、前記表示基板と前記対向基板との間に介在し、前記有機EL素子を封止するシール部材と、を備え、前記シール部材は、前記[7]〜[12]のいずれかに記載の封止用シートの前記(a)封止層の硬化物である、有機ELパネル。
【0025】
[15]前記[7]〜[12]のいずれかに記載の封止用シートの前記(a)封止層を有機EL素子に溶融密着させる第一の工程と、前記有機EL素子に溶融密着させた前記(a)封止層に光を照射する第二の工程と、光を照射した前記(a)封止層を加熱硬化させる第三の工程と、を含む、有機ELパネルの製造方法。
【0026】
[16]前記[8]〜[12]のいずれかに記載の封止用シートの前記(a)封止層に光を照射する第一の工程と、光を照射した前記(a)封止層を有機EL素子に溶融密着させる第二の工程と、前記有機EL素子に溶融密着させた前記(a)封止層を加熱硬化させる第三の工程と、を含む、有機ELパネルの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の封止層組成物はUV硬化型であるため、熱硬化型の組成物に比して保存安定性に優れている。また、本発明の封止用組成物は、UV硬化型でありながらも、熱硬化型の組成物と同等の接着力を有するとともに、透湿度の低いシール部材を作製することができる。このため、本発明の封止用組成物、及びそれを用いた封止用シートを用いれば、製品信頼性の高い有機ELパネルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の封止用シートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機ELパネルの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の有機ELパネルの製造方法の一実施形態を説明する模式図である。
【図4】本発明の有機ELパネルの製造方法の他の実施形態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.封止用組成物
本発明の封止用組成物は、(A)高分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂と、(B)低分子量のフェノール型エポキシ樹脂と、(C)光カチオン重合開始剤と、(D)カップリング剤と、(E)光増感剤とを含む。
【0030】
((A)ビスフェノール型エポキシ樹脂)
(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂は、ビスフェノールとエピクロロヒドリンとをモノマー成分として含む樹脂又はオリゴマーであり、好ましくはオリゴマーである。(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、3×10〜2×10であり、好ましくは3×10〜7×10である。(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)を上記の数値範囲とすることで、接着力が強く、透湿度の低いシール部材を作製することができる。また、重量平均分子量(Mw)が上記の数値範囲である(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂を含む封止用組成物は、良好な塗工性を有するとともに、シート状に形成し易いものである。なお、本明細書における「重量平均分子量(Mw)」は、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0031】
(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂は、ビスフェノールとエピクロロヒドリンとをモノマー成分とするオリゴマーであることが好ましい。なお、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂のモノマー成分の全てをビスフェノールとエピクロロヒドリンとしてもよい。但し、モノマー成分の一部には、ビスフェノールとエピクロロヒドリン以外の化合物(コモノマー成分)が含まれていてもよい。コモノマー成分の例には、2価以上の多価アルコール(例えば、2価のフェノールやグリコール等)が含まれる。モノマー成分の一部に上記のコモノマー成分を含めることで、得られる(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)を所望の値に制御することができる。
【0032】
(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し構造単位を含むオリゴマーであることが好ましい。
【0033】
【化2】

【0034】
前記一般式(1)中、Xは、単結合、メチレン基、イソプロピリデン基、−S−、又は−SO−を示し、Rは、それぞれ独立して炭素数が1〜5のアルキル基を示し、nは、2以上の整数を示し、Pは、0〜4の整数を示す。なお、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂は、下記一般式(1−1)で表される繰り返し構造単位を含むオリゴマーであることが更に好ましい。
【0035】
【化3】

【0036】
前記一般式(1−1)中のX、R、n、及びPは、いずれも前記一般式(1−1)中のX、R、n、及びPと同義である。前記一般式(1−1)において、Xがメチレン基である化合物はビスフェノールF型エポキシ化合物である。また、前記一般式(1−1)において、Xがイソプロピリデン基である化合物はビスフェノールA型エポキシ化合物である。特に、ビスフェノールF型エポキシ化合物が好ましい。
【0037】
前記一般式(1)及び(1−1)中のPは0であることが好ましい。また、前記一般式(1)及び(1−1)中のRはメチル基であることが好ましい。
【0038】
(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、500〜10000g/eqであることが好ましい。
【0039】
本発明の封止用組成物には、(B)フェノール型エポキシ樹脂に比して(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂が多く含まれている。具体的には、(B)フェノール型エポキシ樹脂100重量部に対する、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量は200〜620重量部であり、好ましくは300〜620重量部、更に好ましくは350〜620重量部である。(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が上記の数値範囲であるために、本発明の封止用組成物を硬化させた硬化物(シール部材)は、透湿性が低く、接着力が高い。
【0040】
(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が多過ぎると、硬化物(シール部材)の透湿度が高くなる。また、有機EL素子等に圧着させる際の流動性が低くなり、封止用シートと有機EL素子等との間に隙間が形成され易くなる。一方、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が少な過ぎると、硬化物(シール部材)の接着力が低下する。また、ポリエチレンテレフタレート等からなる基材フィルムに封止用組成物を塗布した場合に、封止用組成物がはじかれてしまい、シートを作製することが困難になる。
【0041】
また、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、過剰に高くなく、適切に制御されている。このため、本発明の封止用組成物を硬化させた硬化物(シール部材)は、透湿性が低く、接着力が高い。また、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂のモノマー成分を適切に選択することにより、封止用組成物の塗膜表面の平滑性を向上させることができる。
【0042】
((B)フェノール型エポキシ樹脂)
(B)フェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は200〜800であり、好ましくは300〜700である。前述の(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂に比して低分子量の(B)フェノール型エポキシ樹脂を含有させることで、主として有機EL素子に圧着させる際の封止用シートの流動性を高め、有機EL素子への密着性を高めることができる。
【0043】
(B)フェノール型エポキシ樹脂は、(i)2価以上のフェノール型エポキシ化合物、又は(ii)フェノール誘導体とエピクロロヒドリンとをモノマー成分として含むオリゴマーであることが好ましい。
【0044】
(i)2価以上のフェノール型エポキシ化合物の例には、ビスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等が含まれる。ビスフェノール型エポキシ化合物は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましく、下記一般式(2−1)で表される化合物であることが更に好ましい。なお、下記一般式(2)及び(2−1)中のX、R、及びPは、前記一般式(1)中のX、R、及びPと同義である。
【0045】
【化4】

【0046】
【化5】

【0047】
(ii)フェノール誘導体とエピクロロヒドリンとをモノマー成分として含むオリゴマーにおける「フェノール誘導体」の例には、ビスフェノール、水素化ビスフェノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が含まれる。
【0048】
(B)フェノール型エポキシ樹脂としては、前記一般式(2)及び(2−1)中のnが2〜4であるオリゴマーが、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂との親和性が高いために好ましい。なお、(B)フェノール型エポキシ樹脂に含まれる繰り返し構造単位は、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂に含まれる繰り返し構造単位と同一であっても、異なっていてもよい。
【0049】
(B)フェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100〜800g/eqであることが好ましい。
【0050】
((C)光カチオン重合開始剤)
(C)光カチオン重合開始剤は、光が照射されることで、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂と(B)フェノール型エポキシ樹脂のカチオン重合を開始させる機能を有する化合物である。このような機能を有する化合物である限り、(C)光カチオン重合開始剤の構造には特に制限はない。(C)光カチオン重合開始剤を含有させることで、光照射(例えばUV照射)によって硬化させることが可能となる。なお、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂及び(B)フェノール型エポキシ樹脂を重合させるための開始剤として(C)光カチオン重合開始剤を用いることで、光照射から完全に硬化するまでの時間を遅延させることができる。
【0051】
(C)光カチオン重合開始剤の好適例として、下記一般式(3)で表される構造を有するオニウム塩を挙げることができる。このオニウム塩は、光反応し、ルイス酸を放出する化合物である。
[R12131415W]n+[MXn+mm− ・・・(3)
【0052】
前記一般式(3)中のカチオンはオニウムイオンである。WはS、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、I、Br、Cl、又はN≡Nを示し、R12、R13、R14、及びR15は、相互の独立に有機基を示し、a、b、c、及びdは、相互に独立に0〜3の整数を示す。なお、「a+b+c+d」はWの価数に等しい。Mは、ハロゲン化錯体[MXn+m]の中心原子を構成する金属又はメタロイドである。Mの具体例としてはB、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Co等を挙げることができる。XはF、Cl、Br等のハロゲン原子を示し、mはハロゲン化錯体イオンの正味の電荷を示し、nはMの原子価を示す。
【0053】
前記一般式(3)で表される(C)光カチオン重合開始剤におけるオニウムイオンの具体例としては、ジフェニルヨードニウム、ビス(4−メトキシフェニル)ヨードニウム、4−メチルフェニル−4’−イソプロピルフェニルヨードニウム、ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、トリルクミルヨードニウム、トリフェニルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウム、ビス〔4−(ジフェニルスルフォニオ)−フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(ジ(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)−フェニル〕スルフィド、η−2,4−(シクロペンタジェニル)〔1,2,3,4,5,6−η−(メチルエチル)ベンゼン〕−鉄(1+)等を挙げることができる。
【0054】
前記一般式(3)で表される(C)光カチオン重合開始剤における陰イオンの具体例としては、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサクロロアンチモネート等を挙げることができる。なお、生体に対する安全性の面からは、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヘキサフルオロホスフェートが好ましい。
【0055】
(C)光カチオン重合開始剤としては、反応性が高く、イオン成分が溶出し難い等の観点から、下記式(4)で表される4−メチルフェニル−4’−イソプロピルフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。なお、(C)光カチオン重合開始剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
【化6】

【0057】
封止用組成物に含有される(C)光カチオン重合開始剤の量は、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂と(B)フェノール型エポキシ樹脂の合計100重量部に対して、通常0.1〜10重量部であり、好ましくは0.1〜3重量部である。(C)光カチオン重合開始剤の含有量が0.1重量部以上であると、封止用組成物の硬化状態が良好となるために好ましい。一方、封止用組成物の硬化後に(C)光カチオン重合開始剤の溶出を防止する観点から10重量部以下が好ましい。なお、(C)光カチオン重合開始剤の含有量が10重量部超であると、例えば遅延硬化性の封止用組成物として用いることを想定した場合、遅延硬化性が損なわれる傾向にある。これは、光照射しただけで硬化が進んでしまい、溶融密着性が乏しくなるためである。
【0058】
((D)カップリング剤)
本発明の封止用組成物には(D)カップリング剤が含有される。(D)カップリング剤を含有する本発明の封止用組成物は、封止用シートとした場合に有機EL素子の基板等との密着性が高い。
【0059】
(D)カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等を用いることができる。シランカップリング剤の具体例としては、(1)エポキシ基を有するシランカップリング剤、(2)エポキシ基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤、及び(3)その他のシランカップリング剤等を挙げることができる。なかでも、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂や(B)フェノール型エポキシ樹脂と反応させ、得られる硬化物中に残留する低分子量成分の量を低減するためには、(1)エポキシ基を有するシランカップリング剤、又は(2)エポキシ基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。なお、「エポキシ基と反応する」とは、エポキシ基と付加反応すること等をいう。
【0060】
(1)エポキシ基を有するシランカップリング剤は、グリシジル基等のエポキシ基を含むシランカップリング剤である。この(1)エポキシ基を有するシランカップリング剤の例には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が含まれる。
【0061】
(2)エポキシ基と反応可能な官能基を有するシランカップリング剤における「エポキシ基と反応可能な官能基」の具体例としては、1級アミノ基、2級アミノ基等のアミノ基;カルボキシル基;メタクリロイル基、イソシアネート基等の「エポキシ基と反応可能な官能基」に変換される基等を挙げることができる。この「エポキシ基と反応可能な官能基」を有するシランカップリング剤の例には、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(4−メチルピペラジノ)プロピルトリメトキシシラン、トリメトキシシリル安息香酸、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン等が含まれる。
【0062】
(3)その他のシランカップリング剤の例には、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が含まれる。(D)カップリング剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
封止用組成物に含有される(D)カップリング剤の量は、封止用組成物の全体に対して0.05〜30重量%であることが好ましく、0.1〜20重量%であることが更に好ましく、0.3〜10重量%であることが特に好ましい。
【0064】
((E)光増感剤)
封止用組成物には、(E)光増感剤が含有される。(E)光増感剤が含有されることで、封止用シートの硬化時に照射されるUVに対する(C)光カチオン重合開始剤の反応性(感度)が向上し、接着力の高い硬化物(シール部材)を形成することができる。
【0065】
(E)光増感剤の具体例としては、ケトクマリン系色素、キノリン系色素、スチリルキノリン系色素、チオキサンテン系色素、キサンテン系色素、チオピリリウム塩系色素、メロシアニン系色素、オキソノール系色素、シアニン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム塩系色素等を挙げることができる。なかでもチオキサンテン系色素が、その吸収帯が、紫外線照射用のメタルハライドランプから放射される光の波長とよく一致するために好ましい。なお、チオキサンテン系色素の好適例としては、9H−チオキサンテン−9−オン(チオキサントン)、2,4−ジエチル−9H−チオキサンテン−9−オン、2−イソプロピルチオキサントン等を挙げることができる。
【0066】
封止用組成物に含有される(E)光増感剤の量は特に限定されず、例えば、(i)光照射光源のスペクトル、(ii)封止層の厚み、吸光係数及び吸収スペクトル、並びに(iii)光カチオン重合開始剤との相互作用等を考慮した上で最適化される。
【0067】
また、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量は、(B)フェノール型エポキシ樹脂、(D)カップリング剤、及び(E)光増感剤の合計100重量部に対して180〜600重量部であることが好ましく、260〜600重量部であることが更に好ましく、290〜600重量部であることが特に好ましい。(B)フェノール型エポキシ樹脂、(D)カップリング剤、及び(E)光増感剤は、いずれも分子量が比較的小さい。このため、(B)フェノール型エポキシ樹脂、(D)カップリング剤、及び(E)光増感剤の合計100重量部に対する、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量を上記範囲とすることで、素子等に溶融圧着する際の封止用シートの流動性を適度にし、密着性を高めることができる。
【0068】
((F)溶剤)
本発明の封止用組成物には、各成分をより均一に混合する等の観点から、(F)溶剤が含まれていることが好ましい。(F)溶剤は、特に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂を均一に分散又は溶解させる機能を有する。(F)溶剤の具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;エーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコ−ルモノアルキルエーテル、エチレングリコ−ルジアルキルエーテル、プロピレングリコール、ジアルキルエーテル等のエーテル類;N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルフォルムアルデヒド等の非プロトン性極性溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等を挙げることができる。なかでも、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂を溶解し易い等の観点から、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒(ケト基を有する化合物)が好ましい。
【0069】
封止用組成物に含まれる(F)溶剤の量は特に限定されないが、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂100重量部に対して、通常50〜300重量部、好ましくは100〜200重量部程度である。
【0070】
((G)反応調整剤)
封止用組成物には、(G)反応調整剤が含有されることが好ましい。封止用組成物に(G)反応調整剤を含有させることで、封止用組成物に光を照射した直後の硬化を抑制し、加熱することによってはじめて硬化させることができる。即ち、(G)反応調整剤を含有させることで、封止用組成物に遅延硬化性を付与することができる。封止用組成物を遅延硬化性とすることにより、予め光を照射した封止用組成物からなる封止層を有機EL素子に溶融密着させ、封止層を硬化させながら有機EL素子を封止することが可能となる。このため、遅延硬化性の封止用組成物は、硬化時間の調整が必要な、後述する本発明の第二の有機ELパネルの製造方法に特に好適に用いることができる。
【0071】
(G)反応調整剤は、(C)光カチオン重合開始剤から発生する、エポキシ樹脂の重合を促進させるカチオン成分を捕捉可能な性質を有する。ここで、「カチオン成分を捕捉可能」とは、カチオン成分と安定な会合体を形成して安定化することで、室温におけるカチオン成分の反応性を低下させることが可能であることを意味する。(G)反応調整剤としては、エーテル、水酸基、ケトン、エステル、アミド等のカチオンと会合体を形成し得る官能基をその分子構造中に含む弱塩基性の化合物が好ましい。なお、(G)反応調整剤のカチオン捕捉効果は強いほど好ましい。加熱前の段階における重合による硬化を抑制しつつ、封止層を有機ELパネルに溶融密着する作業が容易になるからである。
【0072】
(G)反応調整剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシジルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、メチルセルロース、アセチルセルロース、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。また、上述のカチオンと会合体を形成し得る官能基を多く含むオリゴマー又は高分子化合物が、官能基の密度が高く、カチオン捕捉効果(安定化効果)が高くなるために好ましい。なお、これらの(G)反応調整剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
(G)反応調整剤の含有量は、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂と(B)フェノール型エポキシ樹脂の合計100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜5重量部であることが更に好ましい。(G)反応調整剤の含有量が多過ぎると、封止用組成物の吸水率が大きくなったり、透湿度が大きくなったりする場合がある。一方、(G)反応調整剤の含有量が少な過ぎると、十分な遅延硬化性が得られない場合がある。
【0074】
(その他の任意成分)
本発明の封止用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の任意成分を含有させることができる。その他の任意成分としては、樹脂成分、充填剤、改質剤、安定剤等を挙げることができる。樹脂成分の具体例としては、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリブタジェン、ポリクロロプレン、ポリエーテル、ポリエステル、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、石油樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、セルロース樹脂、フッ素系オリゴマー、シリコン系オリゴマー、ポリスルフィド系オリゴマー等を挙げることができる。これらの樹脂成分は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、樹脂成分の具体例のうち、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエステル、ケトン樹脂、セルロース樹脂、及びポリスルフィド系オリゴマーは、前述の(G)反応調整剤としても機能しうる。
【0075】
充填剤の具体例としては、ガラスビーズ、スチレン系ポリマー粒子、メタクリレート系ポリマー粒子、エチレン系ポリマー粒子、プロピレン系ポリマー粒子等を挙げることができる。これらの充填剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
改質剤の具体例としては、重合開始助剤、老化防止剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤等を挙げることができる。これらの改質剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、安定剤の具体例としては、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤等を挙げることができる。これらの安定剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
本発明の封止用組成物は(C)光カチオン重合開始剤を含有し、光照射してから硬化が始まるまでの時間が比較的長い。即ち、本発明の封止用組成物は、遅延硬化性を有するものである。より具体的には、本発明の封止用組成物は、(i)光照射直後(室温において1〜60分以上)は硬化反応がほとんど進行せず、(ii)硬化反応が進行しない間は、低温かつ短時間であれば有機EL素子等と溶融密着させることが可能であり、(iii)有機EL素子等と溶融密着させた後、加熱して十分に硬化させることが可能なものである。但し、十分な硬化を得るために(C)光カチオン重合開始剤の含有量を多くすると硬化反応が速やかに進行してしまう場合がある。そこで、(G)反応調整剤を更に含有させることで、カチオンの反応性を制御(抑制)し、遅延硬化性を確保することが可能となる。以上より、本発明の封止用組成物を用いれば、光照射の工程と、有機EL素子への貼り付け工程とを分離することができる等、有機ELパネルを製造する際の設計自由度を上げることができる。
【0078】
封止用組成物が硬化したか否かは、封止用組成物(又は封止用シート)に光を照射し、ゲル化したかどうかを指触にて確認して判断すればよい。なお、エポキシ基の転化率から、封止用組成物が硬化したか否かを判断してもよい。エポキシ基の転化率は、硬化反応させる前と硬化反応させた後の封止用組成物のIRスペクトルをそれぞれ測定し、測定したIRスペクトルにおけるエポキシ基の吸収減少率から求めることができる。
【0079】
25℃における封止用組成物の粘度は、0.01〜10Pa・sであることが好ましい。封止用組成物の粘度を上記数値範囲内にすることで、塗工性を高め、シートへの成形を容易にすることができる。25℃における封止用組成物の粘度は、E型粘度計(例えば、商品名「RC−500」(東機産業社製)等)を使用して測定することができる。
【0080】
(封止用組成物の製造)
本発明の封止用組成物は、本発明の効果を損なわない限り、任意の方法で製造することができる。例えば、(1)各成分を準備する工程と、(2)(F)溶剤以外の成分を(F)溶剤に溶解させ、30℃以下で混合する工程と、を含む方法で製造することができる。(1)の工程では、各成分を一度に混合してもよいし、(F)溶剤に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂を溶解及び混合した後、他の成分を添加して混合してもよい。各成分を混合する方法には、各成分をフラスコに装入して攪拌する方法や、三本ロールで混練する方法が含まれる。
【0081】
2.封止用シート
本発明の封止用シートは、前述の封止用組成物からなる封止層を備える。この封止層は、例えば、封止用組成物の塗膜の溶剤を蒸発乾燥することにより形成される層である。なお、本発明の封止用シートは、基材フィルムと、基材フィルム上に配置される封止層と、封止層上に配置される保護フィルムと、を備えることが好ましい。
【0082】
封止層の含水率は、被封止材への水分の影響を抑制する点から、0.1質量%以下であることが好ましく、0.06質量%以下であることが更に好ましい。有機EL素子は水分により劣化し易いので、有機EL素子をシールする際に有機EL素子に接触する封止層の含水率は低いことが好ましい。封止層の含水率は、例えば封止用シートを真空乾燥すること等により低減することができる。
【0083】
封止層の含水率は、カールフィッシャー水分計を使用し、約0.5gの封止層(封止用シート)の試料片を150℃に加熱し、発生する水分量を測定することにより求めることができる(水分気化法)。
【0084】
封止層の厚みは、被封止材の種類にもよるが、通常1〜100μmであり、好ましくは10〜30μm、更に好ましくは15〜25μmである。封止層の厚みは、(F)溶剤を含む封止用組成物を基材フィルム等に塗布後、乾燥し、(F)溶剤を除去した後の乾燥厚みである。
【0085】
封止層は、圧着時の温度領域において適度な流動性を有することが好ましい。有機EL素子を封止する際に、流動化した封止層(封止用シート)を有機EL素子表面の凹凸に円滑に充填し、隙間を埋めるためである。圧着時における封止層の流動性は、封止層の溶解点で判断することができる。溶解点とは、封止層を加熱した際に流動性を発現する温度をいう。封止層の溶解点は30〜100℃であることが好ましい。
【0086】
封止層の溶解点は、ホットプレート上に載置したガラス板上に転写した封止用シート(封止層、厚み:15μm)を徐々に加熱し、封止層が溶融し始めたときの温度を測定することにより求めることができる。
【0087】
溶解点(流動温度)が30℃未満であると、転写する際、又は硬化させて封止する際に、封止層の流動性が大き過ぎて垂れが生じ易くなり、硬化物の膜厚の管理が困難になる場合がある。一方、溶解点(流動温度)が100℃超であると、転写する際の作業性が悪くなるため隙間が形成され易くなる場合がある。
【0088】
本発明の封止用シートは、光(UV)照射により発生するカチオンの作用によって重合が開始されて硬化する光(UV)硬化型のシートである。このため、有機EL素子を封止する際に加熱する必要がないため、熱による有機EL素子への悪影響がない。従って、本発明の封止用シートを用いれば、製品信頼性の高い有機ELパネルを製造することができる。
【0089】
本発明の封止用シートの封止層は、貼り合わせ時の温度域において適度な流動性を有するため、有機EL素子と隙間なく密着させることができる。但し、空気の混入や、低分子量成分の分解ガスの発生等により、有機EL素子と封止層との間に隙間が形成される場合も想定される。このようにして形成された隙間は、真空引きしても排除することが困難であるため、いわゆる「面荒れ」となる場合がある。
【0090】
このような「面荒れ」を回避すべく、封止層の一方の面(有機EL素子と接する面)側の表層を、「その融解温度(Tm)が貼り合わせ時の作業温度(約30℃)以上であるとともに、実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層」とすることが好ましい。これにより、封止用シート表面のタック(べたつき)を低減でき、有機EL素子との間に隙間が生ずることを回避することができる。
【0091】
実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層には、その他の低分子量成分(例えば(D)カップリング剤)がわずかに含まれていてもよい。このように、封止層の表層を「実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層」としても、有機EL素子と貼り合わせて圧着する際に、表層以外の部分から(D)カップリング剤等の低分子量成分が表層へと拡散しうる。
【0092】
封止層のうちの実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層(表層)の厚さは、適度なタックと、圧着時に適度な流動性とが得られる範囲に調整されればよい。具体的に、実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層(表層)の厚さは、封止層全体の厚さに対して20〜40%であることが好ましい。
【0093】
保護フィルムは、封止層の表面を保護するためのフィルムであり、封止用シートを使用するに際して容易に剥離可能であればよい。基材フィルムや保護フィルムの具体例としては、公知の離型フィルムを挙げることができる。基材フィルムや保護フィルムとしては、水分バリア性又はガスバリア性を有するフィルムが好ましく、ポリエチレンフィルムやポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルムが更に好ましく、PETからなるフィルムの表面をシリコーン等で離型処理したフィルムが特に好ましい。基材フィルムや保護フィルムの厚さは、材質にもよるが、有機EL素子等の被封止材への追従性を有する等の観点から25〜50μm程度であればよい。
【0094】
なお、基材フィルムとしては、非透光性のフィルムを用いることもできる。このような非透光性の(不透明な)フィルムの具体例としては、ステンレス箔、銅箔、銅箔付きポリイミドフィルム、PETとアルミ箔との積層フィルム等を挙げることができる。
【0095】
封止層には、ガスバリア層が積層されることが好ましい。ガスバリア層は、外気中の水分等、有機EL素子を劣化させる水分やガスの、有機ELパネル内への透過を抑制しうる。このようなガスバリア層は、有機EL素子と接する面以外であれば、どこに配置されてもよいが、好ましくは基材フィルムと封止層との間に配置される。
【0096】
ガスバリア層を構成する材料は特に限定されないが、具体例としてはAl、Cr、Ni、Cu、Zn、Si、Fe、Ti、Ag、Au、Co等の金属;これらの金属の酸化物;これらの金属の窒化物;これらの金属の酸化窒化物等を挙げることができる。これらの材料は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ボトムエミッション方式の有機EL素子の封止に用いられる封止用シートのガスバリア層は、光反射率の高い材料であることが好ましい。具体的にはAl、Cu、Fe等が好ましい。一方、トップエミッション方式の有機EL素子の封止に用いられる封止用シートのガスバリア層は、光透過率の高い材料であることが好ましい。具体的にはSiの酸化物や窒化物等が好ましい。ガスバリア層の厚みは0.1〜10μm程度であればよい。
【0097】
ガスバリア層を有する封止用シートは、例えば、基材フィルム上にガスバリア層を形成した後、封止層を更に形成することにより製造することができる。ガスバリア層の形成方法は特に制限されず、ドライプロセスとウエットプロセスのいずれであってもよい。ドライプロセスの具体例としては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の各種PVD法;プラズマCVD等のCVD法を挙げることができる。また、ウエットプロセスの具体例としては、めっき法、塗布法等を挙げることができる。
【0098】
図1は、本発明の封止用シートの一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の封止用シート10は、基材フィルム12と、基材フィルム12上に形成されるガスバリア層14と、ガスバリア層14上に形成される封止層16と、封止層16上に配置される保護フィルム18とを有する。そして、封止層16の表層16aは、実質的に(A)成分からなる層である。この表層16aは、保護フィルム18と接している。
【0099】
封止用シート10は、例えば、保護フィルム18を剥がして露出させた表層16aを、有機EL素子が配置された表示基板と接するように配置して用いることができる。
【0100】
本発明の封止用シートは、例えば、基材フィルム(又は保護フィルム)上に形成した封止用組成物の塗膜を乾燥させることにより製造することができる。塗膜の厚さは、乾燥して形成される封止用シート(封止層)が所望の厚さ(例えば、10〜30μm)となるように設定すればよい。封止用組成物の塗布方法は特に限定されず、例えばスクリーン印刷、ディスペンサー、各種塗布ロールを使用する方法等がある。本発明の封止用シートは、原料となる封止用組成物の塗工性が良好であるため、高い膜厚均一性を有する。
【0101】
塗膜の乾燥温度及び乾燥時間は、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂や(B)フェノール型エポキシ樹脂が硬化せず、(F)溶剤を蒸発除去できる程度に設定すればよい。乾燥温度は、例えば20〜70℃である。また、乾燥時間は、例えば10分〜3時間程度である。具体的には、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気のオーブンで、40〜60℃で10分間程度塗膜を乾燥した後、更に2時間程度真空乾燥することが好ましい。真空乾燥することで、比較的低い乾燥温度で(F)溶剤や水分を除去できる。乾燥方法は特に限定されず、例えば熱風乾燥、真空乾燥等がある。
【0102】
前述の「実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層」を形成するには、例えば、(1)「実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層」を所定の箇所に塗布形成してもよいし、(2)予めシート状に形成されたシート状の「実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層」をラミネートしてもよい。
【0103】
封止層の上面には、更に保護フィルムをラミネートすることが好ましい。ラミネートは、例えばラミネータを用いて60℃程度で行うことが好ましい。保護フィルムの厚さは、例えば38μm程度である。
【0104】
本発明の封止用シートは、含水率を一定以下に維持するため、シリカゲル等の乾燥剤とともに保管することが好ましい。なお、本発明の封止用シートは光(UV)硬化型であるため、熱硬化型の封止用シートに比して保存安定性に優れている。
【0105】
3.封止用シートの用途
本発明の封止用シートは、硬化させることによりシール部材として用いられる。シールされる対象は特に限定されないが、例えば光デバイスが好ましい。光デバイスの例には、有機ELパネルを構成する有機EL素子、液晶ディスプレイを構成する液晶、LED素子等が含まれる。
【0106】
本発明の封止用シートは、特に有機ELパネルのシール部材として用いられることが好ましい。有機ELパネルに組み込まれる有機EL素子は、水分によって容易に劣化するため、有機EL素子をシールするシール部材は透湿度が低いことが要求される。本発明の封止用シートの硬化物は透湿度が低く、接着力が高いため、有機ELパネルのシール部材として特に有効である。本発明の封止用シートは、有機ELパネルのなかでも、特にボトムエミッション構造の有機ELパネルのシール部材として好適である。
【0107】
本発明の封止用シートの硬化物の透湿度は、40g/(m・24h)以下であることが好ましく、35g/(m・24h)以下であることが更に好ましい。透湿度は、厚み100μmのシート状の封止用組成物の硬化物について、JIS Z0208に準拠し、60℃、90%RH条件で測定される。また、本発明の封止用シートの硬化物と被封止材との接着力は、15MPa以上であることが好ましく、25MPa以上であることが更に好ましい。硬化物と被封止材との接着力は、封止用シート(厚み:12μm)を、2枚のガラス板で挟んだ後、UV照射(紫外線放射メタルハライドランプ)(露光量:3000mJ/cm)することにより硬化させた後、70〜100℃で0.1〜2時間加熱硬化してガラス板と接着させ、次いで、2枚のガラス板を引張速度:2mm/minで引き剥がした際の接着強度を測定することにより求められる。また、本発明の封止用シートの硬化物のガラス転移温度(Tg)は75℃以上であることが好ましい。硬化物のガラス転移温度(Tg)は、熱機械分析装置(型式「TMA/SS6000、セイコーインスツル社製)を使用し、昇温速度:5℃/分の条件で測定される線膨張係数の変曲点から求められる。
【0108】
有機ELパネルは、通常、有機EL素子が配置された表示基板と、表示基板と対になる対向基板と、表示基板と対向基板との間に介在し、有機EL素子を封止するシール部材とを有する。シール部材が有機EL素子と対向基板との間に形成される空間に充填されているものを、面封止型の有機ELパネルという。本発明の封止用シートは、特にボトムエミッション構造の有機ELパネルの、面封止型のシール部材の作製に適する。
【0109】
図2は、本発明の有機ELパネルの一実施形態を模式的に示す断面図である。本実施形態の有機ELパネル20は、ボトムエミッション構造であって、面封止型の有機ELパネルである。本実施形態の有機ELパネル20は、表示基板(透明基板)22と、有機EL素子24と、対向基板(封止基板)26とがこの順に積層されている。有機EL素子24の周囲と、対向基板(封止基板)26との間には、封止層(封止用シート)の硬化物であるシール部材28が充填されている。
【0110】
表示基板22及び対向基板26は、通常、ガラス基板又は樹脂フィルムなどである。表示基板22と対向基板26の少なくとも一方は、透明なガラス基板又は透明な樹脂フィルムである。このような透明な樹脂フィルムの例には、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の芳香族ポリエステル樹脂等が含まれる。
【0111】
有機EL素子24は、表示基板22側から順に、ITOやIZO等からなるアノード透明電極層30、有機EL層32、及びアルミニウムや銀等からなるカソード反射電極層34が積層されることで構成されている。アノード透明電極層30、有機EL層32、及びカソード反射電極層34は、真空蒸着及びスパッタ等により成膜されうる。
【0112】
次に、有機ELパネルの製造方法について説明する。本発明の第一の有機ELパネルの製造方法は、(1)封止用シートの封止層を有機EL素子に溶融密着させる第一の工程と、(2)有機EL素子に溶融密着させた封止層に光を照射する第二の工程と、(3)光を照射した封止層を加熱硬化させる第三の工程と、を含む。
【0113】
図3は、本発明の有機ELパネルの製造方法の一実施形態を説明する模式図である。有機ELパネルを製造するに際しては、先ず、基材フィルム52、封止層56、及び保護フィルム58がこの順に積層された封止用シート100を用意する(図3(A))。用意した封止用シート100から保護フィルム58を剥離するとともに、露出した封止層56の表面に対向基板(封止板)76を積層した後、基材フィルム52を剥離する(図3(B))。次いで、有機EL素子74が配置された表示基板72上に封止用シート100の封止層56を載置し、押圧して積層体を得る(図3(C))。
【0114】
なお、保護フィルムを剥離して露出させた封止層を表示基板上に載置した後、基材フィルムを剥離して封止層を転写してもよいし、保護フィルムを有しない封止用シートの封止層を、表示基板上にロールラミネータ等を使用して配置してもよい。
【0115】
あるいは、対向基板上に封止層を形成したものを予め用意しておき、その封止層を表示基板に貼り合わせて積層体としてもよい。この方法は、例えば封止用シートの基材フィルムを剥離させず、そのまま有機ELパネルに組み込む場合に有効である。
【0116】
封止層の表層が、実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層である場合、この表層が有機EL素子と接するように、封止用シートを貼り合わせることが好ましい。実質的に(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる層は、タックが低減されているため、有機EL素子と貼り合わせる際に生じ易い「面荒れ」を抑制することができる。
【0117】
その後、対向基板76を通じて封止層56にUV光50を照射する(図3(D))。UV照射するための光源としては、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、エキシマレーザー等を使用することができる。UV照射の条件は、封止層56が硬化する条件に適宜設定すればよい。具体的には、紫外線照射用メタルハライドランプで光を、露光量:3000〜5000mJ/cmとなるように照射すればよい。
【0118】
UV照射した後、70〜100℃で0.1〜2時間加熱することにより封止層を硬化させてシール部材78(硬化物)を形成すれば、有機ELパネル80を得ることができる(図3(E))。なお、温度を100℃以下とするのは、有機EL素子にダメージを与えないためである。
【0119】
本発明の第二の有機ELパネルの製造方法は、(1)封止用シートの封止層に光を照射する第一の工程と、(2)光を照射した封止層を有機EL素子に溶融密着させる第二の工程と、(3)有機EL素子に溶融密着させた(a)封止層を加熱硬化させる第三の工程と、を含む。
【0120】
図4は、本発明の有機ELパネルの製造方法の他の実施形態を説明する模式図である。有機ELパネルを製造するに際しては、先ず、保護フィルム88、封止層86、及びUV非透過性対向基板(封止板又はフィルム)90がこの順に積層された封止用シート200を用意する(図4(A))。封止層86は、予めUV非透過性対向基板90に封止用組成物を塗布して塗膜を形成したものでもよいし、図3(A)に示すように、用意した封止用シート100から保護フィルム58を剥離するとともに、露出した封止層56の表面に対向基板(封止板)76を積層したものであってもよい。用意した封止用シート200から保護フィルム88を剥離するとともに、露出した封止層86に対してUV光60を照射する(図4(B))。UV照射するための光源、及びUV照射の条件は、前述の第一の有機ELパネルの製造方法の場合と同様である。
【0121】
封止層を構成する封止用組成物は、光カチオン重合開始剤の作用により重合が開始されるタイプの組成物であり、前述のように、光照射から完全に硬化するまでの時間が長くなるように調整されている。このため、図4(B)に示すように封止層86に対してUV光60を照射した場合であっても、封止層86は直ちに硬化することはない。従って、封止層86に対してUV光60を照射した後から、封止層86の硬化が開始するまでの間に、有機EL素子84が配置された表示基板82上に封止層86を載置して押圧すればよい(図4(C))。
【0122】
例えば、(i)有機EL素子が光に弱い場合、(ii)ガスバリア層が不透明である場合等には、上記のように、予め光照射してから封止層を有機EL素子に溶融密着させることで、信頼性に優れた封止部を形成することができる。即ち、本発明の第二の有機ELパネルの製造方法は、封止する対象となる有機EL素子や、その他の構成材料の特性に柔軟に対応することができ、設計自由度が高い。
【0123】
UV光照射から封止層の硬化が開始するまでの時間は、封止用組成物に含まれる各成分の比率や、UV照射の条件等によって左右されるが、通常は1〜60分、好ましくは60分以上に調整されている。UV光照射から封止層の硬化が開始するまでの間に、封止用シート200を表示基板82に溶融密着する(図4(D))。
【0124】
その後、70〜100℃で0.1〜2時間加熱することにより封止層を硬化させてシール部材98(硬化物)を形成すれば、有機ELパネル120を得ることができる(図4(E))。
【実施例】
【0125】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた各成分を以下に示す。
【0126】
<(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂>
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(1)(商品名「jER4005」、三菱化学社(旧ジャパンエポキシレジン社)製)、Mw:6200(ポリスチレン換算)、エポキシ当量:1070g/eq
【0127】
<(B)フェノール型エポキシ樹脂>
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(2)(商品名「jER807」、三菱化学社製)、分子量:338、エポキシ当量:169g/eq、性状:室温で液体
【0128】
<(C)光カチオン重合開始剤>
4−メチルフェニル−4’−イソプロピルフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(商品名「R2074」、ローディア ジャパン社製)
【0129】
<(D)カップリング剤>
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM−403」、信越化学工業社製)、分子量:236
【0130】
<(E)光増感剤>
2,4−ジエチル−9H−チオキサンテン−9−オン(東京化成工業社製)、分子量:679
【0131】
<(F)溶剤>
メチルエチルケトン(MEK)
【0132】
<(G)反応調整剤>
ポリエチレングリコール(商品名「ポリエチレングリコール20000」(PEG20000)、和光純薬工業社製)、平均分子量:20000±5000
【0133】
(実施例1)
MEK2重量部が装入されたフラスコに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(1)70重量部、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(2)30重量部、4−メチルフェニル−4’−イソプロピルフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート9重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1重量部、及び2,4−ジエチル−9H−チオキサンテン−9−オン0.23重量部を添加した。室温で攪拌して封止用組成物を得た。得られた封止用組成物を、離型処理したPETフィルム(商品名「ピューレックス」、帝人デュポン社製、厚み:25μm)上に塗工機を使用して塗工した。真空条件下、40℃で2時間乾燥し、常温域(約25℃)で固形の封止用シート(厚み:約15μm)を得た。
【0134】
(比較例1〜7)
表1に示す配合としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして封止用組成物及び封止用シートを得た。
【0135】
【表1】

【0136】
実施例1及び比較例1〜7で得られた封止用シートの平均接着力、ガラス転移温度(Tg)、及び透湿度を以下に示す方法で測定した。測定結果を表2に示す。
【0137】
[平均接着力]
所定のサイズに切り出した封止用シートを5枚用意した。各封止用シートを2枚のガラス板で挟んで厚み12μmとした後、メタルハライドランプ(露光量:3000mJ/cm)でUV照射した後、100℃、30分間加熱硬化させてガラス基板と接着させた。2枚のガラス板を引張速度:2mm/minで引き剥がした際の接着強度を5回測定し、平均値を「平均接着力(MPa)」とした。
【0138】
[ガラス転移温度(Tg)]
上述の「平均接着力」に記載した方法と同様の方法により得た封止用シートの硬化物について、熱機械分析装置(型式「TMA/SS6000」、セイコーインスツル社製)を使用し、昇温速度:5℃/minの条件で線膨張係数を測定した。測定した線膨張係数の変曲点から、ガラス転移温度(Tg)(℃)を求めた。
【0139】
[透湿度]
上述の「平均接着力」に記載した方法と同様の方法により得た封止用シートの硬化物(厚み:100μm)について、JIS Z0208に準拠し、60℃、90%RHの条件で透湿度(g/(m・24h))を測定した。
【0140】
【表2】

【0141】
(評価)
表2に示す結果から、(B)フェノール型エポキシ樹脂100質量部に対する、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が多過ぎる場合(比較例3)には、所定の数値範囲内である場合(実施例1)に比して透湿度が高いことが明らかである。一方、(B)フェノール型エポキシ樹脂100質量部に対する、(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が少な過ぎる場合(比較例6及び7)には、所定の数値範囲内である場合(実施例1)に比して接着力が弱いことが明らかである。以上より、本発明の封止用シートは、接着強度と透湿度のバランスが良好な硬化物を形成可能であることが分かる。
【0142】
(実施例2)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(1)70重量部、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(2)30重量部、4−メチルフェニル−4’−イソプロピルフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート1重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン4重量部、2,4−ジエチル−9H−チオキサンテン−9−オン0.2重量部、及びポリエチレングリコール2重量部をフラスコに入れた。室温で攪拌して封止用組成物を得た。
【0143】
(実施例3、参考例1〜5、及び比較例8)
表3に示す配合としたこと以外は、前述の実施例2と同様にして封止用組成物を得た。
【0144】
【表3】

【0145】
実施例2及び3、参考例1〜5、及び比較例8で得られた封止用組成物を用いて形成した封止層(封止用シート)の90°剥離強度、ガラス転移温度、及び透湿度を測定した。また、封止用シートの密着性を評価した。測定及び評価結果を表4に示す。なお、90°剥離強度の測定方法を以下に示す。
【0146】
[90°剥離強度の測定(1)]
厚み17μmのアルミ箔上に封止用組成物を塗工して、厚み17μmの封止層(封止用シート)を形成した。メタルハライドランプ(露光量:3000mJ/cm)でUV照射し、15分経過後、ガラス基板(商品名「Eagle2000」、Corning社製)に封止用シートをラミネートした。なお、ラミネートにはエム・シー・ケー社製の商品名「ドライフィルムラミネーター」を使用し、ラミネート温度は80℃、線速は0.3m/minとした。次いで、80℃で60分間加熱硬化して封止層を硬化させた。
【0147】
90°剥離強度(gf)は、剥離幅:15mm、n=3、引張速度:50mm/minの条件で測定した。
【0148】
【表4】

【0149】
(評価)
(C)成分の含有量が0.1重量部の場合には硬化不良を起こしてしまい、粘着性となった(参考例5)。また、(C)成分の含有量が0.3重量部の場合には(参考例4)、剥離強度は高いがわずかに硬化不良であった。更に、(C)成分の含有量が1重量部の場合(参考例2)と0.5重量部の場合(参考例2)では、90゜剥離の開始部分でガラス面との界面で剥離したが、その後、アルミ箔との界面で剥離し、安定した密着が得られなかった。
【0150】
一方、(G)成分を含有させたことにより、ガラス面に対する密着性が良好になるとともに、90°剥離強度も安定することが判明した(実施例2)。
【0151】
[90°剥離強度の測定(2)]
実施例2及び参考例2で得た封止用組成物を使用し、UV照射後、ラミネートするまでの時間(遅延時間)を5分、15分、及び30分とした場合の90゜剥離強度を測定した。測定結果を表5に示す。
【0152】
【表5】

【0153】
(評価)
表5に示すように、(G)成分を含有させた封止用組成物(実施例2)を用いた場合には、(G)成分を含有しない封止用組成物(参考例2)を用いた場合に比して、90°剥離強度の個体差が小さく、安定した強度を示すことが明らかである。また、(G)成分を含有しない封止用組成物(参考例2)を用いた場合には、ガラス面との界面で封止層の硬化物が剥離してしまい、密着力が不安定であることが判明した。これに対して、(G)成分を含有させた封止用組成物(実施例2)を用いた場合には、アルミ箔との界面で封止層の硬化物が剥離した。これにより、(G)成分を含有させることで良好な遅延硬化性が付与されうることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の封止用組成物からなる封止用シートの硬化物は、接着力が強く、透湿度が低いものである。このため、本発明の封止用シートは、有機EL素子等を封止するための材料として好適である。
【符号の説明】
【0155】
10,100,200 封止用シート
12,52 基材フィルム
14 ガスバリア層
16,56,86 封止層
16a 表層
18,58,88 保護フィルム
20,80,120 有機ELパネル
22,72,82 表示基板(透明基板)
24,74,84 有機EL素子
26,76 対向基板(封止基板)
28,78,98 シール部材
30 アノード透明電極層
32 有機EL層
34 カソード反射電極層
50,60 UV光
90 UV非透過性対向基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が3×10〜2×10であるビスフェノール型エポキシ樹脂と、
(B)重量平均分子量が200〜800であるフェノール型エポキシ樹脂と、
(C)光カチオン重合開始剤と、
(D)エポキシ基又はエポキシ基と反応可能な官能基を有するカップリング剤と、
(E)光増感剤と、を含み、
前記(B)フェノール型エポキシ樹脂100重量部に対する、前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が200〜620重量部であるとともに、
前記(B)フェノール型エポキシ樹脂、前記(D)カップリング剤、及び前記(E)光増感剤の合計100質量部に対する、前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の含有量が180〜600質量部である、封止用組成物。
【請求項2】
前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むオリゴマーである、請求項1に記載の封止用組成物。
【化1】

(前記一般式(1)中、
Xは、単結合、メチレン基、イソプロピリデン基、−S−、又は−SO−を示し、
は、それぞれ独立して炭素数が1〜5のアルキル基を示し、
nは、2以上の整数を示し、
Pは、0〜4の整数を示す)
【請求項3】
前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂の重量平均分子量が3×10〜7×10である、請求項1又は2に記載の封止用組成物。
【請求項4】
(F)溶剤を更に含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の封止用組成物。
【請求項5】
前記(F)溶剤が、ケト基を有する化合物である、請求項4に記載の封止用組成物。
【請求項6】
(G)カチオン成分を捕捉可能な反応調整剤を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の封止用組成物。
【請求項7】
(a)請求項1〜5のいずれか一項に記載の封止用組成物からなる封止層を備えた、封止用シート。
【請求項8】
(a)請求項6に記載の封止用組成物からなる封止層を備えた、封止用シート。
【請求項9】
有機EL素子の封止に用いられる、請求項7又は8に記載の封止用シート。
【請求項10】
前記(a)封止層の含水率が0.1重量%以下である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の封止用シート。
【請求項11】
前記(a)封止層の一方の面側の表層は、実質的に前記(A)ビスフェノール型エポキシ樹脂からなる、請求項7〜10のいずれか一項に記載の封止用シート。
【請求項12】
(b)前記(a)封止層の他方の面側に積層されるガスバリア層を更に備える、請求項11に記載の封止用シート。
【請求項13】
基材フィルム上に、請求項4〜6のいずれか一項に記載の封止用組成物を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に含まれる溶剤を蒸発乾燥させて封止層を形成する工程と、
前記封止層の少なくとも一方の面上に保護フィルムを積層する工程と、
を含む、封止用シートの製造方法。
【請求項14】
有機EL素子が配置された表示基板と、
前記表示基板と対になる対向基板と、
前記表示基板と前記対向基板との間に介在し、前記有機EL素子を封止するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、請求項7〜12のいずれか一項に記載の封止用シートの前記(a)封止層の硬化物である、有機ELパネル。
【請求項15】
請求項7〜12のいずれか一項に記載の封止用シートの前記(a)封止層を有機EL素子に溶融密着させる第一の工程と、
前記有機EL素子に溶融密着させた前記(a)封止層に光を照射する第二の工程と、
光を照射した前記(a)封止層を加熱硬化させる第三の工程と、を含む、有機ELパネルの製造方法。
【請求項16】
請求項8〜12のいずれか一項に記載の封止用シートの前記(a)封止層に光を照射する第一の工程と、
光を照射した前記(a)封止層を有機EL素子に溶融密着させる第二の工程と、
前記有機EL素子に溶融密着させた前記(a)封止層を加熱硬化させる第三の工程と、を含む、有機ELパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−82266(P2012−82266A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227707(P2010−227707)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】