説明

封止部材

【課題】例えば長手方向に沿う空洞部を有するサッシ材からなるサッシ枠などの中空構造体の空洞部に連通する開口部を、ノズル等の挿入部材の挿入もしくは引抜き動作に応じて、容易に開閉することができるようにした封止部材を提供する。
【解決手段】挿入部材21(25)を挿入しうる開口部19(20)に設けられる封止部材29であって、中央部に挿入部材21(25)を挿入するための通孔33を形成した基板30の裏面に、前記通孔33に整合する位置にスリット状開口部35を設けた弾性膜32を配設し、前記挿入部材21(25)の挿入もしくは引抜き動作に応じて、前記スリット状開口部35が弾性的に拡開状態もしくは縮閉状態になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば住宅や事務所等の建物躯体の開口部に組付けられる合成樹脂製窓を構成する、長手方向に沿う空洞部を有するサッシ材からなるサッシ枠などの中空構造体に、防火性能を付与するために用いられる防火性材料などの充填物を充填する際に用いられる封止部材に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂製窓は、断熱性や遮音性の特徴を活かすために、一般に、長手方向に沿う空洞部を有する合成樹脂製のサッシ材を方形に組立てることにより、サッシ枠またはサッシ框として構成される。
本明細書においては、「サッシ材」とは、枠材、框材、方立て材を総称し、「サッシ枠」とは、所謂サッシ枠の他に、サッシ框を含めて指称する。同様に、「枠」は「框」を含むものとして説明する。
【0003】
建物は、防災上の観点から不燃化が進められており、特に、火災時における窓からの類焼を避けるために、窓の外部から迫る火炎または輻射熱による着火等による類焼を防止することが重要な課題となっている。
【0004】
例えば引違い戸式または開き戸式の開閉窓あるいは嵌殺し窓等における建物の窓枠を形成するサッシ材においては、アルミニウムからなるアルミニウム製のサッシ材に代わり、断熱性、防音性および耐腐食性に優れた中空な合成樹脂製のサッシ材が、特に寒冷地を中心に普及している。
【0005】
このような合成樹脂製のサッシ材は、金属製のサッシ材に比べて結露し難く、居住性を向上させることができるが、防火性能が低いことから、火炎に対する防火性能が規定された建築基準法および同施工令によって所定の防火性能を備えるようにすることが義務付けられている。
また一般に、新たに製造されるサッシ材について、所定の防火性能を付与すべきことは云うまでもないが、既成の窓枠などを形成するサッシ枠に対しても、防火性能が付与されるように補修することが望まれる。
【0006】
また、火災時などにおけるガラスの荷重により有害な変形を生じさせないようにした防火窓としては、サッシ枠の空洞部に、耐熱性を有する特定組成のセメント組成物を充填し硬化させたものが知られている(特許文献1参照)。
【0007】
しかし、前記特許文献1に記載された防火窓は、性能自体は優れるものの、セメント組成物のサッシ枠への充填性に問題がある。
すなわち、セメント組成物は、硬化性を有するため、サッシ枠の空洞部に充填する直前に調製しなければならない。
しかも、調製されたセメント組成物は水分を相当量含有するため、例えばセメント組成物をポンプ等の圧送手段をもってサッシ枠の空洞部に充填した直後に、サッシ枠の空洞部に連通するように開口した充填口に挿入されたノズル等の充填治具を引抜くと、空洞部に充填されたセメント組成物が逆流して充填口から噴出し、作業者の着衣や周囲を汚す虞がある。
そのため、充填治具の引抜きとほぼ同時に、素早く充填口を別途に用意されたキャップ等の封止部材で閉塞しなければならないという、面倒な作業を行う必要が問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2774897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の現状に鑑み、例えば長手方向に沿う空洞部を有するサッシ材からなるサッシ枠などの中空構造体の空洞部に連通する開口部を、ノズル等の挿入部材の挿入もしくは引抜き動作に応じて、容易に開閉することができるようにした封止部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、「特許請求の範囲」の欄における各請求項に記載するように、次のような構成からなる発明によって解決される。
(1) 挿入部材を挿入しうる開口部に被着される封止部材であって、中央部に挿入部材を挿入するための通孔を形成した基板の裏面に、前記通孔に整合する位置にスリット状開口部を設けた弾性膜を配設し、前記挿入部材の挿入もしくは引抜き動作に応じて、前記スリット状開口部が弾性的に拡開状態もしくは縮閉状態になるようにする。
【0011】
(2) 上記(1)項において、弾性膜を、中央部に挿入部材を挿入するための通孔をそれぞれ形成した基板とバックアップシートの両者をもって、弾性膜のスリット状開口部と、基板及びバックアップシートの通孔との位置を整合させて挟持させ一体化する。
【0012】
(3) 上記(1)項または(2)項において、挿入部材を挿入しうる開口部を、内部に空洞部が形成された中空構造体に設けるとともに、挿入部材を前記空洞部内に充填材を充填するための治具とし、かつ封止部材を前記中空構造体の開口部に被着するためのものとする。
【0013】
(4) 上記(1)項または(2)項において、挿入部材を挿入しうる開口部を、内部に空洞部が形成された中空構造体に設けるとともに、挿入部材を前記空洞部内の空気を吸引し外部に排気するための治具とし、かつ封止部材を前記中空構造体の開口部に被着するためのものとする。
【0014】
(5) 上記(3)項または(4)項において、中空構造体を長手方向に沿う空洞部を有する合成樹脂製のサッシ材からなるサッシ枠とし、サッシ材に、前記空洞部が外部に連通する開口部としての充填口と排気口とを設けるとともに、挿入部材を前記充填口に挿着されて空洞部内に充填材を充填するための第1の治具と、前記排気口に挿着されて空洞部内の空気を吸引し外部に排気するための第2の治具とし、かつ封止部材を前記充填口と排気口とに被着するためのものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
請求項1記載の発明によれば、挿入部材の挿入もしくは引抜き動作に応じて、前記スリット状開口部が弾性的に拡開状態もしくは縮閉状態になるようにしてあるため、挿入部材の挿入時に別途特別の操作をすることなく開口部に挿入することができるとともに、開口部に挿入状態にある挿入部材を引抜いても、開口部を瞬時に閉塞することができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、封止部材を、弾性膜を基板とバックアップシートで挟持させて一体化することにより構成してなるため、請求項1記載の発明の効果を奏し、かつ弾性膜を確実に支持することができるとともに、開口部に容易に被着することができる、封止部材が得られる。
【0017】
請求項3,4記載の発明によれば、中空構造体の中空部に充填材を充填する際に、作業効率を向上させるために開口部に被着されるのに良好な封止部材が得られる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、中空構造体として、例えば合成樹脂製窓のサッシ枠を構成するサッシ材の空洞部に防火性材料を充填して耐火補修作業を行う場合のように、防火性材料の充填作業を容易にかつ円滑に行うことができるとともに、充填口からの防火用材料の噴出をし防止することができる。
このため、挿入部材を再利用(使い回し)することが可能となる。
発明の具体的な内容は、次のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明における封止部材を用いて、充填装置によりサッシ枠の空洞部内に防火性材料を充填して耐火補修した後の防火窓を一部破断して示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線の要部拡大横断面図である。
【図3】充填装置を用いて、サッシ枠の空洞部内に防火性材料を充填する場合の一実施形態を概略的に示す図である。
【図4】図3における円Aの要部拡大縦断面図である。
【図5】第1筒状治具の斜視図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図3における円Bの要部拡大横断面図である。
【図8】第2筒状治具の斜視図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】本発明の封止部材を示す斜視図である。
【図11】同じく、封止部材の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明における封止部材を用いて、充填装置によりサッシ枠の空洞部内に防火性材料を充填して耐火補修した後の防火窓を一部破断して示す斜視図、図2は、図1におけるII−II線の要部拡大横断面図である。
なお、図示の実施例では、図2において、左側を「室内側」とし、右側を「室外側」として説明する。
【実施例】
【0021】
図1及び図2に示すように、本発明の後記する封止部材を用いた耐火補修後の防火窓、例えば複層ガラス窓1は、住宅や事務所等の建物躯体2に設けた開口部3に、合成樹脂製のサッシ枠4を組付けるとともに、このサッシ枠4の内周面4aに、複層ガラスWを嵌め殺し状態をもって装着することにより構成されている。
なお、サッシ枠4は、上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cを構成する断面がやや横長矩形の中空形材からなる合成樹脂製のサッシ材5を方形に組立てることにより構成されている。
また、サッシ材5を構成する中空形材としては、例えば特開平9−137675号公報に開示されているような、塩化ビニル樹脂に、木材の粉砕物から調製したセルロース系微粉末を配合した樹脂組成物をもって形成した部材、特開平2000−303743号公報に開示されているような、表面が透明あるいは着色されたアクリル樹脂で被覆された部材等が適宜使用される。
【0022】
サッシ枠4の内周面4aには、図2に要部を拡大して示すように、前記サッシ材5と、このサッシ材5における室内側内周端縁の内側に向けて突出させた突出部6と、前記サッシ材5の室外側内周端縁に形成した取付凹部7に取付けられた押え部材(押縁)8とより囲まれた内周溝部9が形成されている。
この内周溝部9には、前記複層ガラスWの外周端が、嵌合状態をもって保持されるようになっている。
【0023】
複層ガラスWは、例えば、室内側に配置される網入りガラスW1と室外側に配置されるフロートガラスW2とより構成されている。
なお、網入りガラスW1とフロートガラスW2とは、入れ替えた配置としてもよい。
【0024】
サッシ枠4の内周面4aと複層ガラスWの外周端との間には、火災時に複層ガラスWの周囲のサッシ材5が炭化劣化して抜け落ちたとしても、火炎が複層ガラスWの周囲を通り抜けないように、耐火部材10が配設されている。
この耐火部材10としては、セラミックファイバー等の不燃性の繊維、例えば不燃性の繊維部材の全外周面を、シート状またはフィルム状の非通気性部材で被覆してなるものや、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛、ケイ酸金属塩、ホウ酸塩等の熱膨張性無機物、及びこれらを組合せたものが好適に使用することができる。
【0025】
サッシ枠4の上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cを構成するサッシ材5には、長手方向に沿って空洞部11が形成されており、この空洞部11は、前記上枠4A、下枠4B及び左右の側枠4Cの全周に亘って互いに連通しうるようになっている。
この空洞部11は、補強を兼ねた隔壁12をもって、サッシ材5内のほぼ中心部に形成した比較的大きな主要空洞部13と、この主要空洞部13の室外側に隣接させて上下方向の内外2段に形成した比較的小さな小空洞部14A,14Bとに複数に区画されている。
主要空洞部13は、更に隔壁12Aをもって、上下方向の内外2段の大空洞部13A,13Bに区画されてなるとともに、これら大空洞部13A,13Bは、前記隔壁12Aに穿設した通孔15をもって、互いに連通させてある。
【0026】
主要空洞部13には、後記する粒子状または粉末状をなす熱硬化性の乾式耐火材料からなる防火性材料16が、内外の空洞部13A,13Bに跨って充填されており、この防火性材料16の充填によって、前記サッシ枠4を、所望の防火性能を有する防火構造に補修することができる。
【0027】
なお、図1、図2に示すように、サッシ枠4を補強する目的で、ステンレススチールなどの金属からなる断面ほぼコ字形をなす長尺な補強材17が、サッシ材5の主要空洞部13A,13Bの内部に保持されるように、ビス18によって螺着されている。
【0028】
次に、建物躯体2の開口部3に装着された既成の複層ガラス窓1のサッシ枠4を防火構造に補修する作業工程を説明する。
【0029】
図3は、充填装置を用いて、サッシ枠を構成するサッシ材の空洞部内に防火性材料を充填する場合の一実施形態を概略的に示す図、図4は、図3における円Aの要部拡大縦断面図、図5は、第1筒状治具の斜視図、図6は、図5のVI−VI線断面図、図7は、図3における円Bの要部拡大横断面図、図8は、第2筒状治具の斜視図、図9は、図8のIX−IX線断面図である。
【0030】
充填装置によるサッシ枠4への防火性材料16の充填作業は、充填前に、まず、複層ガラスW、押え部材8、耐火部材10、その他のシール部材などをサッシ枠4から取除く。
【0031】
次いで、図3〜図9に示すように、サッシ枠4における上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面4aに孔明け加工を施すことにより、充填口19(図2、図4参照)を穿設する。
一方、この充填口19とほぼ対角線上に位置する前記サッシ枠4の下枠4Bにおける左右方向の端部または側枠4Cの下端部(本実施形態においては、側枠4Cの下端部)の内周面4aに孔明け加工を施すことにより、充填口19より下方に位置するように、排気口20(図7参照)を離間させて穿設する。
これらの充填口19及び排気口20は、前記サッシ材5における空洞部11の内部を主要空洞部13A,13Bに区画する隔壁12Aに設けた通孔15と対向する位置に孔明け加工されることが好ましい。
【0032】
充填装置は、図3、図4に示すように、前記サッシ枠4における上枠4Aの左右方向の一方の端部の内周面4aに開口させた充填口19から、前記サッシ材5における空洞部11の内部に向けて挿着される第1筒状治具21を備えている。
【0033】
第1筒状治具21は、図5、図6に示すように、例えば金属などの有底な円筒体22からなり、この円筒体22における長手方向のほぼ中間部外周には、充填口19への挿着時に、前記上枠4Aの内周面4aに外側から当接するように張出す平面視矩形をなす金属などの当接板23が溶接等によって固着されている。
この当接板23から上方部分の円筒体22は、前記充填口19に挿着される第1筒状治具21の挿入端部21aとなるとともに、その上端部は有底であり、かつこの挿入端部21aの周側面には、2つの吐出口24が開口されている。
この2つの吐出口24は、前記充填口19に第1筒状治具21を挿着した際に、サッシ材5の空洞部11における主要空洞部13の内部を区画する隔壁12Aに設けた通孔15を通して大空洞部13A,13Bに跨って連通しうるように配置される。
【0034】
充填装置は、第1筒状治具21以外に、図3、図7に示すように、第1筒状治具21が挿着される前記充填口19とほぼ対角線上に位置する側枠4Cの下端部の内周面4aに開口させた排気口20に挿着される第2筒状治具25を備えている。
【0035】
第2筒状治具25は、図8、図9に示すように、前記第1筒状治具21と同様に、例えば金属などの円筒体26からなり、この円筒体26における長手方向のほぼ中間部外周には、排気口20への挿着時に、側枠4Cの内周面4aに外側から当接するように張出す平面視矩形をなす金属製の当接板27が溶接等によって固着されている。
円筒体26の一方の端部は、前記排気口20に挿入される第2筒状治具25の挿入端部25aとなるとともに、この挿入端部25aに、防火性材料16を構成する乾式耐火材料の粒径または粉径よりも小径の孔部を備えた金網等からなる有底円筒状のエアーフィルター部材28を装着することによって、排気口部が形成される。
【0036】
エアーフィルター部材28は、前記排気口20に第2筒状治具25を挿着した際に、サッシ材5の主要空洞部13の内部を区画する隔壁12Aに設けた通孔15を通して大空洞部13A,13Bに跨って連通しうるように配置されることが好ましい。
【0037】
前記充填口19及び排気口20には、図4、図7に示すように、封止部材29が、サッシ枠4の内周面4aと第1筒状治具21の外周に設けた当接板23、及び第2筒状治具25の外周に設けた当接板27との間に介在するようにして被着されている。
【0038】
図10は、本発明の封止部材を示す斜視図、図11は、同じく、封止部材の分解斜視図である。
【0039】
封止部材29は、例えば硬質塩化ビニルからなる基板30と、天然スポンジゴム等からなるバックアップシート31と、基板30とバックアップシート31との間に配置した薄型のゴムシートからなる伸縮自在な弾性膜32とより構成されている。
前記弾性膜32は、基板30の裏面に配設されているとともに、前記基板30とバックアップシート31との間に挟持させ一体化されている。
これら基板30、バックアップシート31、及び弾性膜32は、前記第1及び第2筒状治具21の当接板23、27とほぼ同一な平面視矩形状を有する。
【0040】
基板30とバックアップシート31の中央部には、互いに整合する位置に通孔33、34がそれぞれ穿設されている。
基板30とバックアップシート31との間に挟持され一体化された弾性膜32の中央部には、前記通孔33、34に整合する位置に、それらの通孔33、34の孔径とほぼ同一長さのスリット状開口部35が設けられている。
【0041】
通孔33、34及びスリット状開口部35を備える封止部材29は、前記通孔33、34及びスリット状開口部35を充填口19または排気口20に位置を整合させて、充填口19または排気口20に被着されるとともに、前記弾性膜32のスリット状開口部35を、第1筒状治具21及び第2筒状治具25のそれぞれの挿入もしくは引抜き動作に応じて、弾性的に拡開状態もしくは縮閉状態になるようにしてある。
【0042】
すなわち、第1筒状治具21の前記吐出口24が形成された挿入端部21aまたは第2筒状治具25の挿入端部25aを形成するエアーフィルター部材28が、封止部材29を構成する基板30の通孔33からバックアップシート31の通孔34に向けて挿入されると、弾性膜32のスリット状開口部35が強制的に拡開方向に伸長され、拡開状態となる。
これにより、充填口19または排気口20が開口され、第1筒状治具21または第2筒状治具25を、封止部材29を介して充填口19または排気口20からサッシ枠4を構成するサッシ5の空洞部11内へ向けて挿着することができる。
【0043】
一方、第1筒状治具21または第2筒状治具25の挿着状態において、第1または第2筒状治具21,25を、サッシ材5の空洞部11から封止部材29を介して引抜くと、前記弾性膜32のスリット状開口部35が、拡開状態から縮閉状態に弾性的に復帰しうるように縮閉されることが好ましい。
これにより、第1筒状治具21または第2筒状治具25が充填口19または排気口20から引抜かれた際にも、封止部材29によって充填口19及び排気口20を閉塞させることができる。
このため、第1筒状治具21および第2筒状治具25を再利用(使い回し)することが可能となる。
第1筒状治具21および第2筒状治具25を取り外した後は、前記弾性膜32のスリット状開口部35からセラミックス繊維やガラス繊維などの不燃性繊維を詰め込んで充填口19および排気口20を塞ぎ、充填した防火性材料16がこぼれ出ないようにしてから封止部材29を取り外し、キャップ等の部品をもって充填口19および排気口20を閉塞することが好ましい。
そうすることにより長期間使用しても防火性材料16が外部にこぼれ出ることを防止することができるばかりでなく、封止部材29を再利用することができる。
【0044】
前記第1筒状治具21は、図3に示すように、防火性材料16が貯留されるホッパー36の供給口36aに、供給ホース38を介して接続されている。
ホッパー36内には、エアーコンプレッサー38に接続されたエアーホース39を介して、空気が圧送されるようになっており、これらホッパー36とエアーコンプレッサー38とにより材料圧送手段を構成している。
空気が圧送されたホッパー36内の防火性材料16は、供給ホース37に接続された第1筒状治具21を介して、空気と共にサッシ枠4の充填口19から、サッシ材5の空洞部11内に強制的に圧送される。
【0045】
ホッパー36内における供給口36aの上方近傍には、邪魔板42が配設されている。
この邪魔板42の外周面とホッパー36の内周壁面との間には、防火性材料の流通間隙43が形成されている。
邪魔板42は、防火性材料16の自重による負荷によって、ホッパー36の供給口36aを閉塞するのを防止し、防火性材料16をホッパー36の流通間隙43から供給口36aに向けて円滑に流出させるためのものである。
【0046】
第2筒状治具25は、吸引排気手段としての吸引ファン40に、吸引ホース41を介して接続されている。
吸引ファン40は、ホッパー36内からサッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11内に空気と共に圧送された防火性材料16を、第2筒状治具25の挿入端部25aを形成するエアーフィルター部材28によって、外部に漏洩しないように阻止して、空気のみを強制的に吸引し外部に排気するようになっている。
これにより、サッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11に防火性材料16を密実に充填することができる。
【0047】
すなわち、本発明では、サッシ枠4におけるサッシ材5の空洞部11内に防火性材料16を充填する場合、前記材料圧送手段のみでは、前記空洞部11内への防火性材料16の充填率が低く、また前記吸引排気手段のみでは、空洞部11内への防火性材料16の充填ができないことから、材料圧送手段による空洞部11内への空気との防火性材料16との圧送力と、吸引排気手段による空洞部11内の空気の吸引排気力とを最適にバランスさせることにより、防火性材料16の充填率を向上させることができる。
【0048】
防火性材料16は、熱硬化性であれば特に制限されないが、圧送するためには、粒子状または粉末状であることが好ましい。
例えば、粒子状または粉末状をなす熱硬化性の乾式耐火材料からなり、耐熱性無機粒子と、100℃〜800℃の温度に加熱されたときに、前記耐熱性無機粒子の結合剤として機能する高温結合剤とを含有しているものが好ましく使用される。
かかる防火性材料16を用いれば、火災時などにおいて、高温に加熱された場合には、高温結合剤が耐熱性無機粒子の結合剤として機能し、高い強度を有するとともに、耐熱性、耐火性を有する硬化体が形成される。
サッシ枠4の上枠4A,4B,4Cを構成する各サッシ材5が、熱により強度を失ったとしても、空洞部11に形成された硬化体により、複層ガラスWを支持し続けることができるため、複層ガラスWの脱落を防止することができる。
【0049】
前記耐熱性組成物における耐熱性無機粒子としては、800℃、好ましくは900℃に加熱されても、軟化したり、溶融したりしない無機物質からなる粒子または粉末であれば使用可能であり、砂、珪砂、天然岩石の粉砕物、珪藻土、シラス、アルミナ、クレー、カオリン、タルク等の天然鉱物、陶、磁器粉、ガラス粉、フライアッシュ等の合成無機材料が使用できる。
例えば、軽量化という観点から好適に使用できる耐熱性無機粒子を例示すれば、パーライト、バーミキュライト、ガラスバルーン、シラスバルーン、石炭灰バルーン、セラミック系バルーン等をあげることができる。
これら耐熱性無機粒子は、1種類のみを用いてもよく、異なる複数の種類を併用してもよい。
【0050】
これら耐熱性無機粒子の中でも、断熱性の高いガラスバルーン、シラスバルーン(フライアッシュバルーン)、セラミック系バルーン等の無機中空粒子を、特に好ましく使用することができる。
このような無機中空粒子を使用した場合には、その硬化体が高い断熱性能を有するため、火災時においても、サッシ材5の非加熱面の熱による損傷を大幅に低減することができ、より優れた防火性を発揮することができる。
なお、耐熱性無機粒子として断熱性の高い無機中空粒子を使用した場合には、加熱面からの熱が伝わりにくいため、サッシ材5の空洞部11内の耐熱性組成物が全て硬化することはないが、加熱面近傍においては、十分な硬化が起こり、更に熱が伝わらない部分のサッシ材5は、熱損傷を殆んど受けない。
したがって、残存するサッシ材5と加熱面近傍との硬化体が、未硬化の耐熱性無機粒子を保持することになり、サッシ材5の加熱面が炭化劣化や溶融して消失しても、未硬化の耐熱性無機粒子は崩落しないので、複層ガラスWを支持し続けることができるという効果が得られることになる。
このような観点から、耐熱性組成物としては、耐熱性無機粒子の30容積%以上、特に50容積%以上が無機粒子であることが好ましく、就中80容積%以上が無機中空粒子であることが最も好ましい。
【0051】
前記耐熱性組成物の1成分として使用される高温結合剤とは、100℃〜800℃の温度に加熱されたときに、反応、あるいは粘着性を発現することによって、互いに隣接する耐熱性無機粒子同士を結合させて強度を高める働きをするものを意味する。
高温結合剤としては、このような機能を有するものであれば、特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂及び/又はその前駆体、又は軟化温度が100℃〜800℃であるガラスフリット等を使用することができる。
ガラスフリットを用いた場合には、例えば800℃を超えるような高温に加熱すると、ガラスフリットの粘性が低下し、流動し易くなるために、変形防止能が低下することがあるが、熱硬化性樹脂及び/又はその前駆体を用いた場合には、加熱により硬化するので、高い強度を維持することができる。
このような理由から、高温結合剤としては、熱硬化性樹脂及び/又はその前駆体を使用することが好ましい。
【0052】
ここで、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、アルキド樹脂、ウレタン樹脂(ポリウレタン)、及びケイ素樹脂(シリコーン)を挙げることができる。
これら熱硬化性樹脂は、比較的低分子量で加熱することにより、更に硬化するものであることが好ましいが、硬化がほぼ完了したものを含んでいてもよい。
また、熱硬化性樹脂の前駆体とは、加熱することによって反応し、熱硬化性樹脂を与えるような原料物質であり、各種プレポリマーや硬化剤などを意味する。
例えば800℃を超えるような高温においても分解し難い高耐熱性熱硬化性樹脂の前駆体、又は分解したとしても炭素成分が残存して硬化体の形状を維持することのできる熱硬化性樹脂の前駆体を使用することが好ましい。
また、取扱いの容易さという観点から、常温で固体であるものを使用することが好ましい。
このような理由から、フェノール樹脂及び/又はその前駆体、具体的には、ノボラック樹脂とその硬化剤(例えばヘキサメチレンテトラミンなど)との組合せ、レゾール樹脂などを使用することが、特に好ましい。
【0053】
前記耐熱性組成物における耐熱性無機粒子と高温結合剤との配合割合は、高温結合剤が有効に機能するものであれば特に限定されず、使用する材料の種類に応じて適宜決定すればよい。
好適な配合割合は、使用する材料によって異なるため、一概に規定することはできないが、通常、耐熱性無機粒子1リットルに対し、高温結合剤10〜150g、好ましくは30〜120gの範囲である。
【0054】
前記耐熱性組成物において、高温結合剤は、単に耐熱性無機粒子と混合して使用することができるが、高温結合剤として機能を十分発揮させるためには、耐熱性組成物として前記サッシ材5の空洞部9内に充填したときに偏在しないように耐熱性無機粒子と均一に分散させることが好ましい。
また、このような均一分散の状態を確実に実現するためには、耐熱性無機粒子の表面を覆う被膜として存在することが好ましい。別言すれば、前記耐熱性組成物は、高温結合剤で被覆された耐熱性無機粒子(以下、コーティング粒子ともいう。)の集合体である粒状もしくは粉末状の組成物であることが好ましい。
【0055】
コーティング粒子を製造し易くするためには、フェノール樹脂及び/又はその前駆体、具体的には、ノボラック樹脂とその硬化剤(例えばヘキサメチレンテトラミンなど)との組合せを使用することが特に好ましい。
このようなコーティング粒子は、特開平4−114976号公報、特開平4−371806号公報などに記載された方法により容易に製造することができる。
また、このようなコーティング粒子は、耐水性を有するが、より高い耐水性を付与するために、撥水処理などを施してもよい。
【0056】
なお、このような方法により製造されるコーティング粒子からなる耐熱性組成物、例えばフライアッシュバルーンやシラスバルーンをフェノール樹脂でコートした複合体粒子からなる耐熱性組成物は、例えば180℃に加熱することにより硬化し、曲げ強度が190〜220kg/cm2、曲げ弾性率が1.85×104〜2.5×104kg/cm2といった、高い強度を有する硬化体となる。
このような強度は、硬化体単独で複層ガラスWを支えるに十分なものである。
【0057】
前記耐熱性組成物は、その効果を損なわない範囲で、耐熱性無機粒子及び高温結合剤以外の成分として耐熱発泡材料、セラミックス繊維などの難燃性材料を含んでいてもよい。
また、前記耐熱性組成物は、硬化に影響を及ぼさず、かつ液体成分が遊離せずに表面が乾いた状態の粒状もしくは粉体となるような量であれば、液体成分を含むこともできる。
【0058】
また、サッシ枠4を構成するサッシ材5では、複層ガラスWの荷重を支えるという観点から、主要空洞部13のみに防火性材料16を充填しているが、加熱時において、より強固に複層ガラスWを支持するためには、主要空洞部13の室外側に隣接する小空洞部14A,14Bの内部にも充填することが、一層好ましい。
【0059】
一般に、火災時においては、室内側から加熱されることが多いが、隣家において火災が発生した場合には、室外側から加熱されることになる。
いずれの場合においても、高い防火性を発揮させるためには、サッシ材5の主要空洞部13及び小空洞部14A,14Bの全て、更には押え部材の内部に存在する空洞部にも防火性材料16を充填することが最も好ましい。
【0060】
また、このような耐熱性組成物は、常温では硬化しないため、長期間の保存が可能であり、耐熱性組成物を調製してから充填するまでの時間的制限がないという利点もある。
したがって、耐熱性組成物を製造する場所や時期は任意に決めることができる。
さらに、充填後に硬化処理などの後処理も不要である。
【符号の説明】
【0061】
1 複層ガラス窓
2 建物の躯体
3 開口部
4 サッシ枠(中空構造体)
4A 上枠
4B 下枠
4C 側枠
4a 内周面
5 サッシ材
6 突出部
7 取付凹部
8 押え部材(押縁)
9 内周溝部
10 耐火部材
11 空洞部
12 隔壁
12A 隔壁
13 主要空洞部
13A,13B 大空洞部
14A,14B 小空洞部
15 通孔
16 防火性材料
17 補強材
18 ビス
19 充填口(開口部)
20 排気口(開口部)
21 第1筒状治具(挿入部材)
21a 挿入端部
22 円筒体
23 当接板
24 吐出口
25 第2筒状治具(挿入部材)
25a 挿入端部
26 円筒体
27 当接板
28 エアーフィルター部材
29 封止部材
30 基板
31 バックアップシート
32 弾性膜
33,34 通孔(開口部)
35 スリット状開口部
36 ホッパー
36a 供給口
37 供給ホース
38 エアーコンプレッサー
39 エアーホース
40 吸引ファン
41 吸引ホース
42 邪魔板
43 流通間隙
W 複層ガラス
W1 網入りガラス
W2 フロートガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入部材を挿入しうる開口部に被着される封止部材であって、中央部に挿入部材を挿入するための通孔を形成した基板の裏面に、前記通孔に整合する位置にスリット状開口部を設けた弾性膜を配設し、前記挿入部材の挿入もしくは引抜き動作に応じて、前記スリット状開口部が弾性的に拡開状態もしくは縮閉状態になるようにしたことを特徴とする封止部材。
【請求項2】
弾性膜を、中央部に挿入部材を挿入するための通孔をそれぞれ形成した基板とバックアップシートの両者をもって、弾性膜のスリット状開口部と、基板及びバックアップシートの通孔との位置を整合させて挟持させ一体化した請求項1記載の封止部材。
【請求項3】
挿入部材を挿入しうる開口部を、内部に空洞部が形成された中空構造体に設けるとともに、挿入部材を前記空洞部内に充填材を充填するための治具とし、かつ封止部材を前記中空構造体の開口部に被着するためのものとした請求項1または2記載の封止部材。
【請求項4】
挿入部材を挿入しうる開口部を、内部に空洞部が形成された中空構造体に設けるとともに、挿入部材を前記空洞部内の空気を吸引し外部に排気するための治具とし、かつ封止部材を前記中空構造体の開口部に被着するためのものとした請求項1または2記載の封止部材。
【請求項5】
中空構造体を長手方向に沿う空洞部を有する合成樹脂製のサッシ材からなるサッシ枠とし、サッシ材に、前記空洞部が外部に連通する開口部としての充填口と排気口とを設けるとともに、挿入部材を前記充填口に挿着されて空洞部内に充填材を充填するための第1の治具と、前記排気口に挿着されて空洞部内の空気を吸引し外部に排気するための第2の治具とし、かつ封止部材を前記充填口と排気口とに被着するためのものとした請求項3または4記載の封止部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−12914(P2012−12914A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153384(P2010−153384)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(300088186)株式会社エクセルシャノン (30)
【Fターム(参考)】