説明

封着材料ペースト及びこれを用いた封着材料層付きガラス基板

【課題】本発明は、低出力のレーザにより、適正にレーザ封着が可能な封着材料ペースト及び封着材料層付きガラス基板を創案することにより、有機EL素子パッケージを備える有機ELデバイス等の長期信頼性を高めることを技術的課題とする。
【解決手段】本発明の封着材料ペーストは、無機粉末とビークルを含む封着材料ペーストにおいて、無機粉末がSnO含有ガラス粉末を含み、ビークルが樹脂バインダーと溶剤を含み、質量比で無機粉末/ビークルの値が0.45〜1.65であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封着材料ペースト及びこれを用いた封着材料層付きガラス基板に関し、具体的にはレーザによる封着処理(以下、レーザ封着)に好適な封着材料ペースト及びこれを用いた封着材料層付きガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットディスプレイパネルとして、有機ELディスプレイが注目されている。有機ELディスプレイは、直流電圧で駆動できるため駆動回路を簡略化できると共に、液晶ディスプレイのように視野角依存性がなく、また自己発光のため明るく、更には応答速度が速い等の利点がある。現在、有機ELディスプレイは、主に携帯電話等の小型携帯機器に利用されているが、今後は超薄型テレビへの応用が期待されている。なお、有機ELディスプレイは、液晶ディスプレイと同様にして、薄膜トランジスタ(TFT)等のアクティブ素子を各画素に配置して、駆動させる方式が主流である。
【0003】
有機ELディスプレイは、2枚のガラス基板、金属等の陰電極、有機発光層、ITO等の陽電極、接着材料等で構成される。従来、接着材料として、低温硬化性を有するエポキシ樹脂、或いは紫外線硬化樹脂等の有機樹脂系接着材料が使用されてきた。しかし、有機樹脂系接着材料では、気体の侵入を完全に遮断できない。このため、有機樹脂系接着材料を用いると、有機ELディスプレイ内部の気密性を保持することができず、これに起因して、耐水性が低い有機発光層が劣化し易くなって、有機ELディスプレイの表示特性が経時的に劣化するという不具合が生じていた。また、有機樹脂系接着材料は、ガラス基板同士を低温で接着できる利点を有するものの、耐水性が低いため、有機ELディスプレイを長期に亘って使用した場合に、ディスプレイの信頼性が低下し易くなる。
【0004】
一方、ガラス粉末を含む封着材料は、有機樹脂系接着材料に比べて、耐水性に優れると共に、有機ELディスプレイ内部の気密性の確保に適している。
【0005】
しかし、ガラス粉末は、一般的に、軟化温度が300℃以上であるため、有機ELディスプレイへの適用が困難であった。具体的に説明すると、ガラス粉末を含む封着材料でガラス基板同士を封着する場合、電気炉に有機ELディスプレイ全体を投入して、ガラス粉末の軟化温度以上の温度で焼成し、ガラス粉末を軟化流動させる必要があった。しかし、有機ELディスプレイに用いられるアクティブ素子は、120〜130℃程度の耐熱性しか有していないため、この方法でガラス基板同士を封着すると、アクティブ素子が熱により損傷して、有機ELディスプレイの表示特性が劣化してしまう。また、有機発光材料も耐熱性が乏しいため、この方法でガラス基板同士を封着すると、有機発光材料が熱により損傷して、有機ELディスプレイの表示特性が劣化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6416375号明細書
【特許文献2】特開2006−315902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような事情に鑑み、近年、有機ELディスプレイを封着する方法として、レーザ封着が検討されている。レーザ封着によれば、封着すべき部分のみを局所加熱できるため、アクティブ素子等の熱劣化を防止した上で、ガラス基板同士を封着することができる。
【0008】
特許文献1、2には、フィールドエミッションディスプレイのガラス基板同士をレーザ封着することが記載されている。しかし、特許文献1、2には具体的な材料構成、特に封着材料ペーストの材料構成について記載がなく、どのような材料構成がレーザ封着に好適であるのか不明であった。なお、レーザの出力を上げると、材料構成を適正化しなくても、レーザ封着が可能になるが、この場合、アクティブ素子等が加熱されて、有機ELディスプレイの表示特性が劣化する虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、低出力のレーザにより、適正にレーザ封着が可能な封着材料ペースト及び封着材料層付きガラス基板を創案することにより、有機EL素子パッケージを備える有機ELデバイス等の長期信頼性を高めることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意検討の結果、封着材料として、SnO含有ガラス粉末を含む無機粉末を採用すると共に、無機粉末とビークルの含有比率を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の封着材料ペーストは、無機粉末とビークルを含む封着材料ペーストにおいて、無機粉末がSnO含有ガラス粉末を含み、ビークルが樹脂バインダーと溶剤を含み、質量比で無機粉末/ビークルの値が0.45〜1.65であることを特徴とする。ここで、「SnO含有ガラス粉末」とは、ガラス組成として、SnOを20モル%以上含むガラス粉末を指す。
【0011】
本発明に係る無機粉末は、少なくともSnO含有ガラス粉末を含む。SnO含有ガラス粉末は、軟化温度が低く、低温で軟化流動し得る。このため、レーザ封着の効率、信頼性を高めることができる。
【0012】
また、ガラス基板上に封着材料ペーストを塗布する場合、通常、スクリーン印刷法が用いられる。本発明者等は、封着材料ペーストを塗布した後に焼成してなる封着材料層とガラス基板等の被封着物を密着させると、低出力のレーザでレーザ封着し得ることを見出した。つまり、レーザ封着の効率と信頼性を高めるためには、封着材料層の表面平滑性を高めることが重要になる。そして、本発明者等は、鋭意検討の結果、封着材料ペーストの印刷性が封着材料層の表面状態に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0013】
そこで、質量比で無機粉末/ビークルの値を0.5〜1.5に調整すれば、封着材料層の表面平滑性が向上して、封着材料層とガラス基板の密着性が顕著に向上し、低出力のレーザでレーザ封着することが可能になる。その結果、有機EL素子の熱劣化を防止しつつ、有機ELデバイス内部の気密性を適正に確保することが可能になる。
【0014】
第二に、本発明の封着材料ペーストは、ビークルが、分子量が相違する複数の樹脂バインダーを含むことが好ましい。
【0015】
第三に、本発明の封着材料ペーストは、樹脂バインダーが脂肪族ポリオレフィン系カーボネートであり、且つその数平均分子量が50000〜500000であることが好ましい。
【0016】
第四に、本発明の封着材料ペーストは、溶剤として、更に、N,N’−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルスルホキサイド、炭酸ジメチル、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、カプロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、フェニルジグリコール(PhDG)、フタル酸ジブチル(DBP)、ベンジルグリコール(BzG)、ベンジルジグリコール(BzDG)、フェニルグリコール(PhG)から選ばれる一種又は二種以上を含むことが好ましい。
【0017】
第五に、本発明の封着材料ペーストは、SnO含有ガラス粉末が、ガラス組成として、モル%で、SnO 35〜70%、P 10〜30%を含有し、且つその最大粒径D99が10μm以下であることが好ましい。ここで、「最大粒径D99」は、レーザ回折式粒度分布計で測定した値を指し、レーザ回折式粒度分布計により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒径を表す。
【0018】
第六に、本発明の封着材料ペーストは、無機粉末が、更に耐火性フィラーを含み、且つその最大粒径D99が5μm以下であることが好ましい。耐火性フィラーは、熱膨張係数が低いため、封着材料層の熱膨張係数を低下させることが可能である。
【0019】
第七に、本発明の封着材料ペーストは、無機粉末が、更に顔料を含むことが好ましい。顔料は、発色性に優れるため、レーザの吸収性が良好である。
【0020】
第八に、本発明の封着材料ペーストは、顔料が非晶質カーボン又はグラファイトであり、その一次粒子の平均粒径D50が1〜100nmであることが好ましい。ここで、「平均粒径D50」は、レーザ回折式粒度分布計で測定した値を指し、レーザ回折式粒度分布計により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒径を表す。
【0021】
第九に、本発明の封着材料ペーストは、有機ELデバイスの封着に用いることが好ましい。ここで、「有機ELデバイス」には、有機ELディスプレイ、有機EL照明等が含まれる。
【0022】
第十に、本発明の封着材料ペーストは、不活性雰囲気における脱バインダー処理に供されることが好ましい。ここで、「不活性雰囲気」には、Nガス雰囲気、Arガス雰囲気等の中性ガス雰囲気、真空雰囲気等の減圧雰囲気が含まれる。
【0023】
第十一に、本発明の封着材料ペーストは、レーザ封着、特に不活性雰囲気におけるレーザ封着に供されることが好ましい。上記の通り、レーザ封着を行うと、封着すべき部分のみを局所加熱できるため、アクティブ素子等の熱劣化を防止した上で、ガラス基板同士を封着することができる。レーザ封着には、種々のレーザを使用することができる。特に、半導体レーザ、YAGレーザ、COレーザ、エキシマレーザ、赤外レーザ等は、取扱いが容易な点で好ましい。
【0024】
第十二に、本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料ペーストをガラス基板に塗布した後に焼成してなる封着材料層付きガラス基板において、封着材料ペーストが上記の封着材料ペーストであり、且つ封着材料層の平均厚みが8μm以下であることを特徴とする。ここで、「封着材料層の平均厚み」は、非接触型レーザ膜厚計で測定した値を指す。
【0025】
第十三に、本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料層の表面粗さ(Ra)が1.1μm以下であることが好ましい。ここで、「表面粗さ(Ra)」は、表面粗さ計で測定した値である。
【0026】
第十四に、本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料層の表面粗さ(RMS)が1.7μm以下であることが好ましい。ここで、「表面粗さ(RMS)」は、表面粗さ計で測定した値である。
【0027】
第十五に、本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料層の平均厚みが2.2〜8μmであり、且つ封着材料層の表面粗さ(Ra)が1.1μm以下であることを特徴とする。
【0028】
第十六に、本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料層の平均厚みが2.2〜8μmであり、且つ封着材料層の表面粗さ(RMS)が1.7μm以下であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】マクロ型DTA装置で測定した時の無機粉末の軟化温度Tsを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の封着材料ペーストにおいて、質量比で無機粉末/ビークルの値は0.45〜1.65、特に0.5〜1.5が好ましい。無機粉末/ビークルの値が0.45未満の場合、封着材料ペーストの粘度が低くなり過ぎて、スクリーン印刷等の塗布作業の際に、滲みが発生して、塗布膜の膜厚が目標値よりも大きくなる。特に、額縁状に塗布膜を形成した場合、コーナー部でその傾向が顕著となる。また、無機粉末/ビークルの値が0.45未満の場合、封着材料ペーストをガラス基板に転写する際、版離れが悪化するため、封着材料層の表面粗さが大きくなる。一方、無機粉末/ビークルの値が1.5より大きい場合、封着材料ペーストの粘度が高くなり過ぎて、スクリーン印刷等の塗布作業の際に、塗布膜の膜厚バラつきが大きくなると共に、塗布膜のレベリング性も低下するため、封着材料層の表面粗さが大きくなる。よって、無機粉末/ビークルの値が上記範囲外の場合、レーザ封着の前に、封着材料層とガラス基板を均一に密着させることが困難になるため、低出力のレーザでレーザ封着することが困難になる。
【0031】
本発明の封着材料ペーストにおいて、ビークルは、分子量が相違する複数の樹脂バインダーを含むことが好ましく、その樹脂バインダーは同種の樹脂バインダーであることがより好ましい。封着材料層の平均厚みを低下させる場合、封着材料ペースト中の無機粉末の含有量を少なくする必要がある。しかし、無機粉末の含有量を少なくすると、封着材料ペーストの粘度が低下して、印刷性が低下し易くなる。その結果、封着材料層の表面粗さが大きくなり、低出力でレーザ封着し難くなる。そこで、分子量が相違する複数の樹脂バインダーを用いると、特に高分子量の樹脂バインダーを併用すると、封着材料ペースト中の無機粉末の含有量を低減しても、封着材料ペーストの粘度を調整し易くなる。また、同種の樹脂バインダーを複数用いると、更に封着材料ペーストの粘度を調整し易くなる。
【0032】
本発明の封着材料ペーストにおいて、樹脂バインダーは、脂肪族ポリオレフィン系カーボネート、特にポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートが好ましい。これらの樹脂バインダーは、脱バインダー又はレーザ封着の際にSnO含有ガラス粉末を変質させ難い特徴を有する。また、それらの数平均分子量は50000〜500000、特に80000〜300000が好ましい。このようにすれば、封着材料ペーストの粘度を適正化し易くなる。
【0033】
本発明の封着材料ペーストにおいて、溶剤として、N,N’−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルスルホキサイド、炭酸ジメチル、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、カプロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、フェニルジグリコール(PhDG)、フタル酸ジブチル(DBP)、ベンジルグリコール(BzG)、ベンジルジグリコール(BzDG)、フェニルグリコール(PhG)から選ばれる一種又は二種以上を含むことが好ましい。これらの溶剤は、脱バインダー又はレーザ封着の際にSnO含有ガラス粉末を変質させ難い特徴を有する。特に、これらの溶剤の内、プロピレンカーボネート、フェニルジグリコール(PhDG)、フタル酸ジブチル(DBP)、ベンジルグリコール(BzG)、ベンジルジグリコール(BzDG)、フェニルグリコール(PhG)から選ばれる一種又は二種以上が好ましい。これらの溶剤の沸点は240℃以上である。このため、これらの溶剤を使用すると、スクリーン印刷等の塗布作業の際に、溶剤の揮発を抑制し易くなり、結果として、封着材料ペーストを長期的に安定して使用することが可能になる。更に、フェニルジグリコール(PhDG)、フタル酸ジブチル(DBP)、ベンジルグリコール(BzG)、ベンジルジグリコール(BzDG)、フェニルグリコール(PhG)は、顔料との親和性が高い。このため、これらの溶剤の添加量が少量でも、封着材料ペースト中で顔料が分離する事態を抑制することができる。
【0034】
SnO含有ガラス粉末は、ガラス組成として、モル%で、SnO 35〜70%、P 10〜30%を含有することが好ましい。上記のようにガラス組成範囲を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
【0035】
SnOは、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は35〜70%、40〜70%、特に50〜68%が好ましい。なお、SnOの含有量が50%以上であれば、レーザ封着の際に、ガラス粉末が軟化流動し易くなる。SnOの含有量が35%より少ないと、ガラスの粘性が高くなり過ぎて、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。一方、SnOの含有量が70%より多いと、ガラス化が困難になる。
【0036】
は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの熱安定性を高める成分である。その含有量は10〜30%、15〜27%、特に15〜25%が好ましい。Pの含有量が10%より少ないと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。一方、Pの含有量が30%より多いと、ガラスの耐候性が低下し、有機ELデバイス等の長期信頼性を確保し難くなる。
【0037】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分を添加してもよい。
【0038】
ZnOは、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。その含有量は0〜30%、1〜20%、特に1〜15%が好ましい。ZnOの含有量が30%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。
【0039】
は、ガラス形成酸化物であり、ガラスを安定化させる成分であると共に、ガラスの耐候性を高める成分である。その含有量は0〜20%、1〜20%、特に2〜15%が好ましい。Bの含有量が20%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎて、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0040】
Alは、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分であると共に、ガラスの熱膨張係数を低下させる成分である。その含有量は0〜10%、0.1〜10%、特に0.5〜5%が好ましい。Alの含有量が10%より多いと、ガラス粉末の軟化温度が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0041】
SiOは、ガラス形成酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。その含有量は0〜15%、特に0〜5%が好ましい。SiOの含有量が15%より多いと、ガラス粉末の軟化温度が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。
【0042】
LiOは、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。LiOの含有量が5%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。NaOは、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。NaOの含有量が10%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。KOは、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。KOの含有量が5%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。
【0043】
MgO+Ta+MoO+WOは、ガラスの熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。MgO+Ta+MoO+WOの含有量が10%より多いと、ガラス粉末の軟化温度が不当に上昇して、所望のレーザ出力でレーザ封着し難くなる。MgO、Ta、MoO、WOの含有量は、各々0〜5%が好ましい。ここで、「MgO+Ta+MoO+WO」は、MgO、Ta、MoO、及びWOの合量を指す。
【0044】
BaOは、ガラスの熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜10%が好ましい。BaOの含有量が10%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透し易くなる。
【0045】
Laは、ガラスの熱的安定性を高める成分であり、またガラスの耐候性を高める成分である。その含有量は0〜15%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Laの含有量が15%より多いと、バッチコストが高騰する。
【0046】
Inは、ガラスの熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。Inの含有量が5%より多いと、バッチコストが高騰する。
【0047】
は、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。Fの含有量が5%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し易くなる。
【0048】
上記成分以外にも他の成分(CaO、SrO等)を例えば10%まで添加することができる。
【0049】
SnO含有ガラス粉末は、環境的観点から、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0050】
SnO含有ガラス粉末は、実質的に遷移金属酸化物を含まないことが好ましい。このようにすれば、ガラスの熱的安定性が低下し難くなる。ここで、「実質的に遷移金属酸化物を含有しない」とは、ガラス組成中の遷移金属酸化物の含有量が3000ppm(質量)以下、好ましくは1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0051】
本発明の封着材料ペーストにおいて、SnO含有ガラス粉末の最大粒径D99は10μm以下、特に7μm以下が好ましい。このようにすれば、塗布層の最表面の軟化温度が低下して、塗布層の軟化流動性を高めることができる。その結果、封着材料層の表面平滑性が向上し、レーザ封着に要する時間が短縮されると共に、封着材料層とガラス基板間の熱膨張係数差が大きくても、封着部分やガラス基板にクラック等が発生し難くなる。
【0052】
本発明に係る無機粉末は、更に耐火性フィラーを含むことが好ましい。このようにすれば、封着材料層の熱膨張係数、機械的強度を高めることができる。耐火性フィラーとして、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、石英、β−スポジュメン、コーディエライト、ムライト、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、NbZr(PO等の[AB(MO]の基本構造をもつ化合物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
若しくはこれらの固溶体が使用可能であるが、特に熱膨張係数の低下効果が大きいリン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、NbZr(POが好ましい。
【0053】
耐火性フィラーの最大粒径D99は5μm以下、特に3μm以下が好ましい。このようにすれば、封着材料層の表面平滑性を高めることができる。特に、封着材料層の平均厚みが8μm以下の場合、その効果が顕著になる。
【0054】
本発明に係る顔料は、無機顔料が好ましく、カーボン、Co、CuO、Cr、Fe、MnO、SnO、TinO2n−1(nは整数)から選ばれる一種又は二種以上がより好ましく、特にカーボンが好ましい。これらの顔料は、発色性に優れており、レーザの吸収性が良好である。カーボンとして、非晶質カーボン又はグライファイトが好ましい。これらのカーボンは、一次粒子の平均粒径D50を1〜100nmに加工し易い性質を有している。
【0055】
顔料の含有量は0.05〜1質量%、特に0.1〜0.8質量%が好ましい。顔料の含有量が少な過ぎると、レーザの光を熱エネルギーに変換し難くなる。一方、顔料の含有量が多過ぎると、レーザ封着の際に封着材料層が軟化流動し難くなり、また封着強度を高めることが困難になる。
【0056】
顔料の一次粒子の平均粒径D50は1〜100nm、3〜70nm、5〜60nm、特に10〜50nmが好ましい。顔料の一次粒子の平均粒径D50が小さ過ぎると、顔料同士が凝集し易くなるため、顔料が均一に分散し難くなって、レーザ封着の際に封着材料層が局所的に軟化流動しない虞がある。一方、顔料の一次粒子の平均粒径D50が大き過ぎても、顔料が均一に分散し難くなり、レーザ封着の際に封着材料層が局所的に軟化流動しない虞がある。
【0057】
顔料は、環境的観点から、実質的にCr系酸化物を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にCr系酸化物を含有しない」とは、顔料中のCr系酸化物の含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0058】
本発明に係る無機粉末において、軟化温度は450℃以下、420℃以下、特に400℃以下が好ましい。軟化温度が450℃より高いと、レーザ封着の効率が低下し易くなる。軟化温度の下限は特に限定されないが、SnO含有ガラス粉末の熱的安定性を考慮すれば、軟化温度を300℃以上に規制することが好ましい。ここで、「軟化温度」とは、窒素雰囲気下において、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化温度は、図1に示す第四屈曲点の温度Tsを指す。
【0059】
本発明の封着材料ペーストは、不活性雰囲気における脱バインダー処理に供されることが好ましく、特にN雰囲気における脱バインダー処理に供されることが好ましい。このようにすれば、脱バインダーの際にSnO含有ガラス粉末が変質する事態を防止し易くなる。
【0060】
本発明の封着材料ペーストは、不活性雰囲気におけるレーザ封着に供されることが好ましく、特にN雰囲気におけるレーザ封着に供されることが好ましい。このようにすれば、レーザ封着の際にSnO含有ガラス粉末が変質する事態を防止し易くなる。
【0061】
本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料ペーストをガラス基板に塗布した後に焼成してなる封着材料層付きガラス基板において、封着材料ペーストが上記の封着材料ペーストであり、且つ封着材料層の平均厚みが5μm以下であることを特徴とする。このようにすれば、封着材料層とガラス基板の熱膨張係数差が大きくても、封着部分やガラス基板にクラック等が発生し難くなる。よって、無機粉末中の耐火性フィラーの含有量を低減することが可能になり、封着材料層の軟化流動性を高めることができる。結果として、封着材料層の表面粗さが小さくなるため、照射したレーザの光を熱エネルギーに効率的に変換することができ、低出力、高速度のレーザ照射でガラス基板同士を封着することが可能になる。
【0062】
本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料層の表面粗さ(Ra)が1.1μm以下、0.8μm以下、0.6μm以下、特に0.5μm以下が好ましい。このようにすれば、封着材料層とガラス基板の密着性を高めることができる。
【0063】
本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料層の表面粗さ(RMS)が1.7μm以下、1.3μm以下、1.0μm以下、特に0.8μm以下が好ましい。このようにすれば、封着材料層とガラス基板の密着性を高めることができる。
【0064】
本発明の封着材料層付きガラス基板は、封着材料層の平均厚みが8μm以下、2.2〜8μm、特に2.5〜5μmが好ましい。このようにすれば、レーザ封着の効率を高めることができる。なお、封着材料層の平均厚みを2.2μm以上にすれば、塗布膜の膜厚バラつきが低減されるため、レーザ封着の信頼性を高めることができる。
【0065】
また、有機ELデバイス用ガラス基板には、通常、無アルカリガラス基板(例えば、日本電気硝子株式会社製OA−10G)が用いられる。無アルカリガラス基板の熱膨張係数は、通常、40×10−7/℃以下である。無アルカリガラス基板同士を封着する場合、封着材料層の熱膨張係数を無アルカリガラス基板に整合させる必要がある。そのためには、無機粉末中の耐火性フィラーの含有量を多くする必要があるが、封着材料ペーストの軟化流動性が低下してしまう。そこで、封着材料層の平均厚みを8μm以下に規制すれば、レーザ封着時のガラス基板中の熱歪み量を低減できるため、封着材料層とガラス基板間の熱膨張係数差が大きくても、封着部分やガラス基板にクラック等が発生し難くなる。
【実施例】
【0066】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。但し、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0067】
次のようにしてSnO含有ガラス粉末を調製した。まず所定のガラス組成(モル%で、SnO 59%、P 20%、ZnO 5%、B 15%、Al 1%)になるように、原料を調合した後、この調合原料をアルミナ坩堝に入れて、窒素雰囲気下において、900℃で1〜2時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスを水冷ローラーによりフィルム状に成形した。続いて、ボールミルによりガラスフィルムを粉砕した後、分級し、SnO含有ガラス粉末を得た。得られたSnO含有ガラス粉末の密度は3.88g/cmであり、その粒度は、平均粒径D50:1.5μm、90%粒径D90:3.5μm、最大粒径D99:5.7μmであった。
【0068】
耐火性フィラーとして、リン酸ジルコニウム粉末を用いた。リン酸ジルコニウムの粉砕、分級条件を調整することにより、粒度が異なるリン酸ジルコニウムa、bを得た。リン酸ジルコニウム粉末の密度は3.80g/cmであり、その粒度は、aが平均粒径D50:1.6μm、90%粒径D90:3.3μm、D99:5.1μmであり、bが平均粒径D50:1.1μm、90%粒径D90:1.8μm、最大粒径D99:2.4μmであった。
【0069】
顔料として、ケッチェンブラック(グラファイト)を用いた。顔料の一次粒子の平均粒径D50は20nmであった。
【0070】
SnO含有ガラス粉末、耐火性フィラー、顔料の粒度は、レーザ回折式粒度分布計により体積基準で測定した値である。
【0071】
上記により調製した無機粉末(SnO含有ガラス粉末 60〜90体積%、耐火性フィラー 10〜40体積%)99.6質量%と顔料0.4質量%とを混合して、封着材料A〜Dを作製した。得られた封着材料A〜Dに対して、軟化温度と熱膨張係数を測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
軟化温度は、マクロ型DTA装置で測定した値である。測定は、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分で行い、室温から測定を開始した。
【0074】
熱膨張係数は、押棒式TMA装置を用いて、測定温度範囲30〜300℃で測定した値である。測定試料として、緻密に焼結させた焼結体を所定形状に加工したものを用いた。
【0075】
表2は、本発明の実施例(試料No.1〜4)と比較例(試料No.5、6)を示している。
【0076】
【表2】

【0077】
まず表中の質量比で無機粉末とビークルを三本ロールミルで均一になるまで混練して、封着材料ペーストを作製した。樹脂バインダーとして、2種のポリエチレンカーボネート(以下、PEC)を用いた。一方のPECの数平均分子量は130000であり、他方のPECの数平均分子量は230000であった。溶剤として、プロピレンカーボネート(以下、PC)とフェニルジグリコール(以下、PhDG)を用いた。なお、PC/PhDGを質量比で90/10に調製した。また、PEC/(PC+PhDG)を質量比で25/75に調整した。
【0078】
次に、縦40mm×横50mm×厚み0.5mmのガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10G)の周縁部に、上記の封着材料ペーストをスクリーン印刷機で額縁状に塗布した。スクリーン印刷を行った後、大気雰囲気下にて、85℃で10分間乾燥した。続いて、窒素雰囲気下にて、軟化温度+50℃の温度で10分間焼成して、封着材料ペースト中の樹脂バインダーを焼却(脱バインダー処理)すると共に、封着材料ペーストをガラス基板に固着させて、封着材料層付きガラス基板を得た。
【0079】
得られた封着材料層(焼成膜)に対して、平均厚み、表面粗さ(Ra、RMS)を測定した。
【0080】
封着材料層の平均厚みは、非接触型レーザ膜厚計で測定した値である。
【0081】
封着材料層の表面粗さ(Ra、RMS)は、表面粗さ計で測定した値である。
【0082】
続いて、窒素雰囲気下で封着材料層の上に縦50mm×横50mm×厚み0.5mmのガラス基板(日本電気硝子株式会社製OA−10G)を重ねるように配置した後、封着材料層が形成されたガラス基板側から封着材料層に沿って、波長808nmのレーザを照射することにより、封着材料層を軟化流動させて、ガラス基板同士を気密封着した。レーザの照射速度は20mm/sであり、レーザ出力は表中に記載の通りである。最後に、気密封着後のガラス基板に対して、高温高湿高圧試験:HAST試験(Highly Accelerated Temperature and Humidity Stress test)を行い、封着部分における剥離の有無を観察し、剥離がなかったものを「○」、剥離が認められたものを「×」として、レーザ封着性を評価した。なお、HAST試験の条件は、121℃、湿度100%、2atmの、24時間である。
【0083】
表2から明らかなように、試料No.1〜4は、すべてのレーザ照射条件にて、レーザ封着性が良好であった。一方、試料No.5、6は、レーザ出力が15W以下の場合、HAST試験後、封着部分に剥離が認められた。試料No.5は、封着材料層の表面平滑性に乏しいため、十分なレーザ封着性を発現できなかったと考えられる。試料No.6は、表面粗さRaが小さかったものの、ペースト粘度が低過ぎて、滲み等により塗布膜の膜厚バラつきが大きくなり、結果として15W以下の低出力条件では、十分な封着性を発現できなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の封着材料は、有機ELディスプレイ、有機EL照明等の有機ELデバイス以外にも、色素増感型太陽電池等の太陽電池のレーザ封着、リチウムイオン二次電池のレーザ封着、MEMSパッケージのレーザ封着等にも好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末とビークルを含む封着材料ペーストにおいて、
無機粉末がSnO含有ガラス粉末を含み、
ビークルが樹脂バインダーと溶剤を含み、
質量比で無機粉末/ビークルの値が0.45〜1.65であることを特徴とする封着材料ペースト。
【請求項2】
ビークルが、分子量が相違する複数の樹脂バインダーを含むことを特徴とする請求項1に記載の封着材料ペースト。
【請求項3】
樹脂バインダーが脂肪族ポリオレフィン系カーボネートであり、且つその数平均分子量が50000〜500000であることを特徴とする請求項1又は2に記載の封着材料ペースト。
【請求項4】
溶剤として、更に、N,N’−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、ジメチルスルホキサイド、炭酸ジメチル、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、カプロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、フェニルジグリコール(PhDG)、フタル酸ジブチル(DBP)、ベンジルグリコール(BzG)、ベンジルジグリコール(BzDG)、フェニルグリコール(PhG)から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の封着材料ペースト。
【請求項5】
SnO含有ガラス粉末が、ガラス組成として、モル%で、SnO 35〜70%、P 10〜30%を含有し、且つその最大粒径D99が10μm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の封着材料ペースト。
【請求項6】
無機粉末が、更に耐火性フィラーを含み、且つその最大粒径D99が5μm以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の封着材料ペースト。
【請求項7】
無機粉末が、更に顔料を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の封着材料ペースト。
【請求項8】
顔料が非晶質カーボン又はグラファイトであり、その一次粒子の平均粒径D50が1〜100nmであることを特徴とする請求項7に記載の封着材料ペースト。
【請求項9】
有機ELデバイスの封着に用いることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の封着材料ペースト。
【請求項10】
不活性雰囲気における脱バインダー処理に供されることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の封着材料ペースト。
【請求項11】
レーザ封着に供されることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の封着材料ペースト。
【請求項12】
封着材料ペーストをガラス基板に塗布した後に焼成してなる封着材料層付きガラス基板において、
前記封着材料ペーストが請求項1〜10の何れか一項に記載の封着材料ペーストであり、且つ前記封着材料層の平均厚みが8μm以下であることを特徴とする封着材料層付きガラス基板。
【請求項13】
前記封着材料層の表面粗さ(Ra)が1.1μm以下であることを特徴とする請求項12に記載の封着材料層付きガラス基板。
【請求項14】
前記封着材料層の表面粗さ(RMS)が1.7μm以下であることを特徴とする請求項12又は13に記載の封着材料層付きガラス基板。
【請求項15】
封着材料層の平均厚みが2.2〜8μmであり、且つ前記封着材料層の表面粗さ(Ra)が1.1μm以下であることを特徴とする封着材料層付きガラス基板。
【請求項16】
封着材料層の平均厚みが2.2〜8μmであり、且つ前記封着材料層の表面粗さ(RMS)が1.7μm以下であることを特徴とする封着材料層付きガラス基板。


【図1】
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【公開番号】特開2013−6720(P2013−6720A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139262(P2011−139262)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】