説明

封着用ガラス組成物、封着用ガラスフリット、及び封着用ガラスシート

【課題】 アルカリ金属酸化物の含有量を極力抑え、且つ600〜900℃の温度域
で金属部材又はセラミックス部材を安定的に接合することができるガラス組成物を提供す
る。
【解決手段】 封着用ガラス組成物は、必須成分が、20〜50mol%のSiO、1〜9mol%のAl、5〜25mol%のB、10〜40mol%のBaO、5〜20mol%のSrOであり、ZnOの含有量が0〜10mol%であり、アルカリ金属酸化物の含有量が5mol%以下であり、PbOを実質的に含まず、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOは、総含有量が30〜50mol%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封着用ガラス組成物、封着用ガラスフリット、及び封着用ガラスシートに関し、特に、600〜900℃の温度域で用いられる固体酸化物型燃料電池(SOFC)用の封着用ガラス組成物、封着用ガラスフリット、及び封着用ガラスシートに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス部材や金属部材を構成要素とする複合体の製造に際し、セラミックス部材や金属部材を接合して複合体とするための接合用材料として封着用ガラス組成物が広く用いられている。この封着用ガラス組成物は、ガラス粉末に加工された封着用ガラスフリットとして用いられる場合と、シート状に加工された封着用ガラスシートとして用いられる場合とがある。平面同士を封着する場合には封着用ガラスフリット及び封着用ガラスシートの両方が好適に用いられ、3次元的な空隙を封着する場合には封着用ガラスフリットがより好適に用いられる。
【0003】
封着用ガラスフリットの製造方法としては、まず、用途に応じた組成となるように複数種の無機材料を混合し、これらを高温下で溶融して組成比を均一とした後、冷却してガラス組成物を得、この得られたガラス組成物を粉砕してガラス粉末とし、必要に応じてフィラー(無機質結晶を含む充填剤)等の添加物を混合させる方法が知られている。
【0004】
封着用ガラスシートの製造方法としては、上記封着用ガラスフリットの製造方法と同様に所定の組成のガラス組成物を得、これを加熱加工又は切断により所定の厚みで所定の形状を有するシートに加工する方法や、一旦フリットとしたのち、バインダー等と混合してシート状に加工する方法が知られている。このとき、フィラーを加えることもできる。
【0005】
また、複合体の製造方法は、封着用ガラスフリットを用いた場合は、上述のようにして得られた封着用ガラスフリットを、例えばペースト状にした後に、セラミックス部材に塗布し、高温下で封着用ガラスフリットを軟化させることによってセラミックス部材に融着させ、融着した封着用ガラスフリットを介してセラミックス部材に金属部材を接合させて、これらを冷却することにより複合体を得る方法も知られている。
【0006】
従来の一般的な封着用ガラスフリットとしては、600℃未満の低温域で用いられるBやPをベースにした封着用ガラスフリットと、1000℃以上の高温域で用いられる結晶化ガラスを利用した封着用ガラスフリットとが知られている。
【0007】
さらに近年、作動温度が700〜900℃近傍となる固体酸化物型燃料電池等の高温設備に用いることを要求される封着用ガラス組成物が増えてきている。特に、固体酸化物型燃料電池に用いる場合は、封着用ガラス組成物は、上記作動温度で気密性や機械的・化学的安定性が保持されるだけでなく、常温から作動温度における膨張率が、被融着部材の膨張率とほぼ一致している必要があり、この要求を満たす封着用ガラス組成物が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。この膨張率の目安は常温から作動温度付近(一般には600℃以上)の平均値が100×10−7/℃以上であり、上記封着用ガラス組成物は、膨張率を高めるためにアルカリ金属酸化物を含む。
【特許文献1】特開2000−63146号公報
【特許文献2】特願2002−294052号公報
【特許文献3】国際公開第04/31088号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、固体酸化物型燃料電池は700℃以上の温度で作動させるので、封着用ガラス組成物に熱拡散しやすい1価のイオンから成るアルカリ金属酸化物が含まれていると、熱拡散によって被融着部材であるセラミックス部材や金属部材中に1価のイオンが拡散し、固体酸化物型燃料電池の特性を著しく劣化させてしまう。
【0009】
本発明の目的は、アルカリ金属酸化物の含有量を極力抑え、且つ600〜900℃の温度域で金属部材又はセラミックス部材を安定的に接合することができる封着用ガラス組成物、封着用ガラスフリット、及び封着用ガラスシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、請求項1記載の封着用ガラス組成物は、金属部材とセラミックス部材から成る群から選択される部材同士を接合する封着用ガラス組成物において、前記封着用ガラス組成物の必須成分は、SiO:20〜50mol%、Al:1〜9mol%、B:5〜25mol%、BaO:10〜40mol%、SrO:5〜20mol%であり、ZnOの含有量が0〜10mol%であり、アルカリ金属酸化物の含有量が5mol%以下であり、PbOを実質的に含まず、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOは、総含有量が30〜50mol%であることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の封着用ガラス組成物は、請求項1記載の封着用ガラス組成物において、
広義の希土類酸化物を1〜10mol%含有することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の封着用ガラス組成物は、請求項2記載の封着用ガラス組成物において、
を1〜9mol%含有することを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の封着用ガラス組成物は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の封着用
ガラス組成物において、アルカリ金属酸化物の含有量が0.5mol%以下であることを
特徴とする。
【0014】
請求項5記載の封着用ガラス組成物は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の封着用
ガラス組成物において、CoOが3.5質量%以下添加されたことを特徴とする。
【0015】
請求項6記載の封着用ガラスフリットは、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の封着
用ガラス組成物からなることを特徴とする。
【0016】
請求項7記載の封着用ガラスフリットは、請求項6記載の封着用ガラスフリットにおい
て、フィラーとして、アルミナ、コージェライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニ
ウム、ホルステライト、ムライト、β−ユークリプタイト、及びβ−スポジューメンの群
から選択された少なくとも1種類を0.1〜10質量%添加されたことを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の封着用ガラスシートは、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の封着用
ガラス組成物からなることを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の封着用ガラス組成物は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の封着用
ガラス組成物において、前記金属部材及び前記セラミックス部材は固体酸化物型燃料電池
の構成要素であり、前記封着用ガラス組成物は当該構成要素を接合するのに用いられるこ
とを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の封着用ガラス組成物によれば、封着用ガラス組成物の必須成分は、SiO:20〜50mol%、Al:1〜9mol%、B:5〜25mol%、BaO:10〜40mol%、SrO:5〜20mol%であり、ZnOの含有量が0〜10mol%であり、アルカリ金属酸化物の含有量が5mol%以下であり、PbOを実質的に含まず、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOは、総含有量が30〜50mol%であるので、アルカリ金属酸化物の含有量を極力抑え、且つ600〜900℃の温度域で金属部材又はセラミックス部材を安定的に接合することができる。
【0020】
請求項2記載の封着用ガラス組成物によれば、広義の希土類酸化物を1〜10mol%
含有するので、融着時の失透を抑え、作動温度(700〜900℃)での充分なシール性
を満たす粘度を得ることができる。
【0021】
請求項3記載の封着用ガラス組成物によれば、Yを1〜9mol%含有するので
、失透を抑制しながら、680℃以上の降伏点を得ることができる。
【0022】
請求項4記載の封着用ガラス組成物によれば、アルカリ金属酸化物の含有量が0.5m
ol%以下であるので、セラミックや金属の特性の劣化を防止することができる。
【0023】
請求項5記載の封着用ガラス組成物によれば、CoOが3.5質量%以下添加されるの
で、セラミックス部材との接合性及び金属部材との接合性を向上させることができる。
【0024】
請求項6記載の封着用ガラスフリットによれば、請求項1乃至5のいずれか1項に記載
の封着用ガラス組成物からなるので、アルカリ金属酸化物の含有量を極力抑え、且つ60
0〜900℃の温度域で金属部材又はセラミックス部材を安定的に接合することができる

【0025】
請求項7記載の封着用ガラスフリットによれば、フィラーとして、アルミナ、コージェ
ライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニウム、ホルステライト、ムライト、β−ユ
ークリプタイト、及びβ−スポジューメンの群から選択された少なくとも1種類を0.1
〜10質量%添加されるので、封着用ガラスフリットの膨張率を適切に調整することがで
きる。
【0026】
請求項8記載の封着用ガラスシートによれば、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の
封着用ガラス組成物からなるので、アルカリ金属酸化物の含有量を極力抑え、且つ600
〜900℃の温度域で金属部材又はセラミックス部材を安定的に接合することができる。
【0027】
請求項9記載の封着用ガラス組成物によれば、上記金属部材及びセラミックス部材は固
体酸化物型燃料電池の構成要素であり、上記封着用ガラスフリットは当該構成要素を接合
するのに用いられるので、固体酸化物型燃料電池の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、金属部材とセラミックス部材から成る群から選択される部材同士を接合する封着用ガラス組成物において、前記封着用ガラス組成物の必須成分は、SiO:20〜50mol%、Al:1〜9mol%、B:5〜25mol%、BaO:10〜40mol%、SrO:5〜20mol%であり、ZnOの含有量が0〜10mol%であり、アルカリ金属酸化物の含有量が5mol%以下であり、PbOを実質的に含まず、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOは、総含有量が30〜50mol%であると、アルカリ金属酸化物の含有量を極力抑え、且つ600〜900℃の温度域で金属部材又はセラミックス部材を安定的に接合することができるガラス組成物を提供することができることを見出した。
【0029】
以下、封着用ガラス組成物の各必須成分の働きを説明する。
【0030】
SiOは、封着用ガラス組成物の主成分であり、20mol%未満ではガラス化せず、50mol%を超え、アルカリ金属酸化物の含有量が5mol%以下であると、5mol%以下1100℃でも充分に融着できない。
【0031】
Alは、作動温度(700〜900℃)付近での失透を抑制するための必須成分であり、1mol%未満ではその効果が見られず、9mol%より多いと融着時に失透し易くなる。
【0032】
は、作動温度(700〜900℃)付近での失透を抑制するための必須成分であり、5mol%未満ではその効果が見られず、25mol%より多いと融着温度付近での粘度が著しく低下してしまう。
【0033】
BaOは、所定の膨張率を得るための必須成分であり、20mol%未満では所定の膨張率を得ることができず、40mol%より多いと800℃付近で失透し易くなる。
【0034】
SrOは、所定の膨張率を得るための必須成分であり、SrOが5〜20mol%添加されると、膨張率を高めることができる。
【0035】
上記必須成分を含むガラスに、ZnOが10mol%以下添加されると、溶融時の失透を防ぐことができ、MgOやCaOが、SrO、BaO及びZnOとの総含有量が50mol%以下になるように添加されると、粘度や膨張率を適切に調整することができる。
【0036】
本発明者は、また、上記必須成分を含むガラスが、広義の希土類酸化物を1〜10mol%含有すると、融着時の失透を抑えると共に、作動温度(700〜900℃)での充分なシール性を満たす粘度が得られること、好ましくは、Yを1〜9mol%含有すると、失透を抑制しながら、680℃以上の降伏点が得られることを見出した。但し、広義の希土類酸化物を10mol%を超えて含有すると、失透が起こりやすくなる。広義の希土類酸化物とは、ランタノイド酸化物、Sc、及びYを云う。
【0037】
本発明者は、上記必須成分を含むガラスに、CoOが3.5質量%以下添加されると、セラミックス部材との接合性及び金属部材との接合性を向上させることができることを見出した。但し、添加量が3.5質量%より多いと融着時に失透し易くなる。また、接合性を改善するための遷移金属酸化物としては、CoOが効果的ではあるが、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Nb、Mo、Ta、Biの酸化物、及びランタノイド系の遷移金属酸化物も融着するセラミックス部材や金属部材の種類によっては効果的に接合性を向上させることを見出した。
【0038】
アルカリ金属酸化物は、膨張率を調整する成分として用いられるが、熱拡散しやすい1価のイオンから成るアルカリ金属酸化物が封着用ガラス組成物に含まれていると、熱拡散によって被融着部材であるセラミックス部材や金属部材中に1価のイオンが拡散し、セラミックや金属の特性を著しく劣化させてしまう。そのため、アルカリ金属酸化物は、極力含有しない方がよく、LiO、NaO、及びKOの総含有量は、用途に応じて5mol%以下、好ましくは0.5mol%以下に抑制されるべきである。これにより、セラミックや金属の特性の劣化を防止することができる。
【0039】
尚、上記封着用ガラス組成物は、封着用ガラスフリットに加工されてもよく、封着用ガラスシートに加工されてもよい。また、フィラーとして、アルミナ、コージェライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニウム、ホルステライト、ムライト、β−ユークリプタイト、及びβ−スポジューメンの群から選択された少なくとも1種類を0.1〜10質量%添加されてもよい。これにより、封着用ガラスフリットの膨張率を適切に調整することができる。
【0040】
また、本発明者は、例えば、後述する図1の固体酸化物型燃料電池の構成要素を接合するのに上記封着用ガラス組成物を用いると、固体酸化物型燃料電池の長寿命化を図ることができることを見出した。
【0041】
図1は、本発明の実施の形態に係る封着用ガラス組成物によって接合された固体酸化物型燃料電池の構成要素の概略図である。
【0042】
図1において、固体酸化物型燃料電池10は、Ni−Cr合金から成るセパレータ11、11´、(La,Sr)MnOから成るカソード12、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)から成る電解質13、YSZ/Niサーメットから成るアノード14から成る。
【0043】
セパレータ11(11´)は、カソード12にOを供給する空気流通層11a(11´a)と、アノード14にH,CO,CH等を供給する燃料流通層11b(11´b)とを有する。
【0044】
セパレータ11とカソード12、そしてアノード14とセパレータ11´は、夫々、上述の封着用ガラス組成物により接合される。電解質13は、例えば700℃以上の作動温度に加熱されたときにイオン導電性を発揮して電解質としての機能を果たす。また、カソード12とアノード14とは、不図示の電線で互いに接続されている。
【0045】
上記固体酸化物型燃料電池10では、燃料流通層11b(11´b)内を通るH,CO,CH等と電解質13中を通ってアノード14側に供給されるO2−がアノード14表面で酸化反応を起こして、HO,COを生成する。このとき同時に電子が遊離してアノード14に移動する。アノード14に移動した電子は、アノード14と接続する電線を介してカソード12に送電される。
【0046】
一方、空気流通層11a(11´a)内を通るOはカソード12表面で還元反応を起こして、O2−を生成する。このO2−が電解質13中を通ってアノード14側に供給される。
【0047】
固体酸化物型燃料電池10は、上述のように、作動時は電解質13にイオン導電性を発揮させるために、通常700℃以上の作動温度に昇温すべく加熱される。その結果、封着用ガラス組成物に熱拡散しやすい1価のイオンから成るアルカリ金属酸化物が含まれていると、熱拡散によって被融着部材であるセラミックス部材や金属部材中に1価のイオンが拡散し、固体酸化物型燃料電池10の特性を著しく劣化させてしまう。これが、アルカリ金属酸化物の含有量を極力抑え、且つ600〜900℃の温度域で金属部材又はセラミックス部材を安定的に接合するために、金属部材やセラミックス部材の接合に上記封着用ガラス組成物を用いる所以である。
【0048】
本発明の実施の形態によれば、上記組成のガラスから成る封着用ガラス組成物が固体酸化物型燃料電池10において、セパレータ11及びカソード12、アノード14及びセパレータ11´の夫々の間を接合するのに用いられるので、固体酸化物型燃料電池10の長寿命化を図ることができる。
【0049】
尚、本発明の封着用ガラス組成物は、固体酸化物型燃料電池10に用いられる場合に限定されるわけでなく、1000℃以下で金属部材やセラミックス部材と安定的に接合することができ、750℃以下で金属部材やセラミックス部材との封着状態を安定的に保つことを要するものに用いられればよいことはいうまでもない。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0051】
溶融後のガラスの総重量が300gとなる分量の原料を表1に示す組成で調合し、白金ルツボを用いて1400℃で4時間溶融した。この融体をステンレス製の金型枠にキャストし、650℃で2時間保持した後、5℃/分で常温まで冷却した。
【0052】
【表1】

【0053】
このようにして作製した実施例1〜実施例12、比較例1〜2までのガラスブロックを用いて、膨張率、ガラス転移点、降伏点、金属部材及びセラミックス部材に対する融着性、800℃における熱安定性を評価した。
【0054】
膨張率、ガラス転移点、降伏点は以下のように測定した。
【0055】
作製した各ガラスブロックの一部を直径5mm、長さ15mmの円柱状に加工し、膨張率、ガラス転移点、降伏点測定用のサンプルとした。測定にはリガク製熱分析装置TAS−100(TMA)を用いた。測定温度域は室温から降伏点付近までで、昇温速度は5℃/分とした。
【0056】
金属に対する融着性の評価は以下のように行った。
【0057】
前述の各ガラスブロックの別の部分を乳鉢で粉砕し、粒径を10〜20μmに揃えた粉体を封着用ガラスフリット21とし、これを5g程度時計皿に取り、メタノールを加えてペースト状にし、厚み1mm、縦・横が30mmのステンレス基板23上に置かれた直径10mmのリング22の中に高さが1〜2mmとなるように適量詰めて乾燥させ、充分乾燥した後にリング22を外して、融着試験用のサンプルとした(図2)。そのままの状態で、昇温速度100℃/時間で950℃まで温度を上げ、950℃で1時間保持した後、100℃/時間で常温まで冷却した。その後、サンプルがステンレス基板23に融着しているか確認した。具体的には、上記評価は、常温まで冷却した後のサンプルがステンレス基板23から全く剥離していない場合を「優」、一部剥離している場合を「良」、完全に剥離した場合を「不良」として行った。
【0058】
また、セラミックス部材に対する融着性の評価は、ステンレス基板23をジルコニア(共立エレックス社製KZ−8)から成るセラミックス基板に変更する点を除き上記方法と同様の方法で行った。
【0059】
800℃における熱安定性の評価は以下のように行った。
【0060】
前述の各ガラスブロックから約5mm角の立方体ブロックを切り出し、熱安定性評価サンプルとした。各サンプルをステンレス基板上に置き、電気炉に入れ、昇温速度100℃/時間で常温から800℃程度まで温度を上げ、800℃で48時間保持した後、100℃/時間で常温まで冷却した。具体的には、上記評価は、常温まで冷却した後のサンプルに全く変形及び失透が無かった場合を「優」、一部に変形又は失透が見られた場合を「良」、サンプル全体が変形又は失透した場合を「不良」として行った。
【0061】
上記膨張率、ガラス転移点、降伏点、金属部材及びセラミックス部材に対する融着性、800℃における熱安定性の各評価を表1に示す。
【0062】
比較例1及び比較例2において、800℃における熱安定性が低いのは、Bを含有していないと、作動温度(700〜900℃)付近で失透し易くなるからである。
【0063】
比較例2において、金属部材及びセラミックス部材に対する融着性が低いのは、SiOが64mol%もあり、アルカリ金属酸化物の含有量が5mol%以下であるからである。
【0064】
表1に示す実施例1〜12及び比較例1,2の結果から以下のことがわかった。
【0065】
ガラスの必須成分が、SiO:20〜50mol%、Al:1〜9mol%、B:5〜25mol%、BaO:10〜40mol%、SrO:5〜20mol%であり、ZnOの含有量が0〜10mol%であり、アルカリ金属酸化物の含有量が5mol%以下であり、PbOを実質的に含まず、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOは、総含有量が30〜50mol%であると、降伏点の温度を600℃以上にすることができ、もって、アルカリ金属酸化物の含有量を極力抑え、且つ600〜900℃の温度域で金属部材又はセラミックス部材を安定的に接合することができる。
【0066】
また、上記必須成分を含むガラスに、広義の希土類酸化物を1〜10mol%含有すると、降伏点の温度を640℃以上にすることができ、もって、融着時の失透を抑えると共に、固体酸化物型燃料電池等の作動温度(700〜900℃)での充分なシール性を満たす粘度が得られる。好ましくは、Yを1〜9mol%含有すると、降伏点を680℃以上に、ガラス転移点を600℃以上にすることができ、もって、失透を抑制しながら、680℃以上の降伏点が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る封着用ガラス組成物は、アルカリ金属酸化物をほとんど含まないので、1価のイオンの拡散による金属部材及びセラミックス部材の特性の劣化が起こらず、固体酸化物型燃料電池の金属部材とセラミックス部材を接合することができるため、固体酸化物型燃料電池のシール材に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態に係る封着用ガラス組成物によって接合された固体酸化物型燃料電池の構成要素の概略図である。
【図2】封着用ガラスフリットの融着性の評価に用いられるステンレス基板及びリングの斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
10 固体酸化物型燃料電池
11 セパレータ
11´ セパレータ
12 カソード
13 電解質
14 アノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材とセラミックス部材から成る群から選択される部材同士を接合する封着用ガラス組成物において、
前記封着用ガラス組成物の必須成分は、SiO:20〜50mol%、Al:1〜9mol%、B:5〜25mol%、BaO:10〜40mol%、SrO:5〜20mol%であり、ZnOの含有量が0〜10mol%であり、アルカリ金属酸化物の含有量が5mol%以下であり、PbOを実質的に含まず、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOは、総含有量が30〜50mol%であることを特徴とする封着用ガラス組成物。
【請求項2】
広義の希土類酸化物を1〜10mol%含有することを特徴とする請求項1記載の封着用ガラス組成物。
【請求項3】
を1〜9mol%含有することを特徴とする請求項2記載の封着用ガラス組成物。
【請求項4】
アルカリ金属酸化物の含有量が0.5mol%以下であることを特徴とする請求項1乃
至3のいずれか1項に記載の封着用ガラス組成物。
【請求項5】
CoOが3.5質量%以下添加されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項
に記載の封着用ガラス組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の封着用ガラス組成物からなることを特徴とする
封着用ガラスフリット。
【請求項7】
フィラーとして、アルミナ、コージェライト、シリカ、ジルコン、チタン酸アルミニウ
ム、ホルステライト、ムライト、β−ユークリプタイト、及びβ−スポジューメンの群か
ら選択された少なくとも1種類を0.1〜10質量%添加されたことを特徴とする請求項
6記載の封着用ガラスフリット。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の封着用ガラス組成物からなることを特徴とする
封着用ガラスシート。
【請求項9】
前記金属部材及び前記セラミックス部材は固体酸化物型燃料電池の構成要素であり、前
記封着用ガラス組成物は当該構成要素を接合するのに用いられることを特徴とする請求項
1乃至8のいずれか1項に記載の封着用ガラス組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−56769(P2006−56769A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200597(P2005−200597)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】