説明

封鎖ポリ(アリーレンエーテル)組成物並びに方法

硬化状態で吸水性の低減を示す熱硬化性組成物は、オレフィン性不飽和モノマー、並びに非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造された封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を含む。硬化組成物による吸水に寄与する極性不純物の濃度を低減する方法によって、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を単離し、且つ/又は精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)組成物及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性ポリ(アリーレンエーテル)樹脂とスチレンやアクリル酸エステルのようなコモノマーを含む硬化性組成物は、例えばYeager他の米国特許第6352782号及びYeager他の米国特許出願公開第2001−0053820号に記載されている。かかる組成物の潜在的用途の一つはプラスチック封止電子デバイスの製造用である。こうした電子デバイスの製造の経験から、硬化状態での保水性の低減した硬化性組成物に対する必要性が示唆された。
【特許文献1】米国特許第3375228号明細書
【特許文献2】米国特許第4148843号明細書
【特許文献3】米国特許第4806602号明細書
【特許文献4】米国特許第5219951号明細書
【特許文献5】米国特許第6384176号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2001/0053820号明細書
【特許文献7】欧州特許261574号明細書
【特許文献8】米国特許第3306875号明細書
【特許文献9】米国特許第6251308号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2002−0169256号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2002−0173597号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2002−0177027号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2003−0096123号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2003−0215588号明細書
【特許文献15】米国特許第4562243号明細書
【特許文献16】米国特許第4634742号明細書
【特許文献17】ドイツ特許出願公開第3117514号明細書
【特許文献18】ドイツ特許出願公開第4103140号明細書
【特許文献19】米国特許第4663402号明細書
【特許文献20】米国特許第4665137号明細書
【特許文献21】米国特許第4677185号明細書
【特許文献22】米国特許第4701514号明細書
【特許文献23】米国特許第4760118号明細書
【特許文献24】米国特許第4806601号明細書
【特許文献25】米国特許第4923932号明細書
【特許文献26】米国特許第5071922号明細書
【特許文献27】米国特許第5079268号明細書
【特許文献28】米国特許第5091480号明細書
【特許文献29】米国特許第5171761号明細書
【特許文献30】米国特許第5304600号明細書
【特許文献31】米国特許第5310820号明細書
【特許文献32】米国特許第5352745号明細書
【特許文献33】米国特許第5834565号明細書
【特許文献34】米国特許第5965663号明細書
【特許文献35】米国特許第6051662号明細書
【特許文献36】米国特許第6352782号明細書
【特許文献37】米国特許第6469124号明細書
【特許文献38】米国特許第6521703号明細書
【特許文献39】米国特許第6569982号明細書
【特許文献40】米国特許第6617398号明細書
【特許文献41】米国特許第6627704号明細書
【特許文献42】米国特許第6627708号明細書
【特許文献43】米国防衛出願第521号明細書
【非特許文献1】K.P.Chan, D.S.Argyropolis, D.M.White, G.W.Yeager, and A.S.Hay, “Facile Quantitative Analysis of Hydroxyl End Groups of Poly (2,6−dimethyl−1,4−phenylene oxide)s by 31P NMR Spectroscopy”, Macromolecules, 1994, Vol.27, pp.6371−6375
【非特許文献2】C. Pugh and V. Percec, Polym. Prepr. (Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem.)(1985), 26(2), 303−5
【非特許文献3】“Plastics Additives Handbook, 4th Edition” R. Gachter and H. Muller (eds.), P.P. Klemchuck (assoc. ed.) Hanser Publishers, New York 1993, pp.901−948
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一実施形態は、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造された封鎖ポリ(アリーレンエーテル)及びオレフィン性不飽和モノマーを含んでなる硬化性組成物であって、硬化後の当該組成物の85℃及び相対湿度85%における7日後の吸水量が1重量%未満である、硬化性組成物である。
【0004】
硬化組成物、その硬化組成物を含む物品、及びその硬化組成物の製造方法を始めとする他の実施形態については、以下で詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
硬化性熱硬化性組成物の用途の一つは、プラスチック封止電子デバイス用の封止材である。この分野での製造経験から、電子デバイスは、硬化させた熱硬化性組成物に吸収された水の揮発によって、ハンダ付け時に損傷することがあることが判明した。損傷としては、デバイス、デバイス基板その他のインターフェースからのプラスチックの層間剥離、並びにデバイス上のプラスチックの膨れ及びプラスチックパッケージの亀裂が挙げられる。これらの問題を防ぐため、デバイスを通例組立直前にベーキングして乾燥させる。また、電子デバイスを乾燥窒素雰囲気中で取り扱うこともある。こうした経験から、硬化状態での吸水量の低減した硬化可能な熱硬化性組成物の必要性が示唆された。かかる組成物は、プラスチック封止電子デバイスの製造プロセスを簡単にし、効率を向上させるはずである。
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、硬化性ポリ(アリーレンエーテル)組成物から製造された硬化製品の保水性は、重合したポリ(アリーレンエーテル)マクロマーの製造・単離方法によって左右される可能性があるという知見を得た。具体的には、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応によって1種以上の封鎖基を有するポリ(アリーレンエーテル)(つまり、封鎖ポリ(アリーレンエーテル))を製造する際に、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)に含まれる無水物封鎖剤の量及び水分量は、製造方法によって種々異なることがある。封鎖反応にアミン触媒を用いた場合、アミン触媒が硬化性組成物中に存在すると、硬化状態での吸水性に寄与しかねない。アミン触媒は、遊離酸又は無水物いずれかとの反応によって、無水物の遊離酸加水分解生成物との塩を形成することもある。後記の実施例に示すように、硬化組成物による吸水性は、これらの極性不純物の量の増加に伴って増加することが判明した。本発明者らは、こうした極性不純物を低減する様々な方法によって、硬化状態での吸水量の低減した硬化性組成物を処方できることを見い出した。
【0007】
一実施形態は、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造された封鎖ポリ(アリーレンエーテル)及びオレフィン性不飽和モノマーを含んでなる硬化性組成物であって、硬化後の当該組成物の85℃及び相対湿度85%における7日後の吸水量が1重量%未満である、硬化性組成物である。
【0008】
硬化性組成物は、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造された封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を含む。本明細書では、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)とは、封鎖剤との反応によって対応非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)に存在する遊離ヒドロキシル基の50%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに一段と好ましくは95%以上、なお一段と好ましくは99%以上が官能化されたポリ(アリーレンエーテル)と定義される。封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は次の構造で表される。
【0009】
Q(J−K)
式中、Qは一価、二価又は多価フェノールの残基、好ましくは一価又は二価フェノールの残基、さらに好ましくは一価フェノールの残基であり、yは1〜100であり、Jは次式の繰返し構造単位からなる。
【0010】
【化1】

式中、mは1〜約200、好ましくは2〜約200であり、R及びRは各々独立に水素、ハロゲン、第一もしくは第二C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アミノアルキル、C〜C12ヒドロキシアルキル、フェニル、C〜C12ハロアルキル、C〜C12ヒドロカルビルオキシ、ハロゲン原子と酸素原子との間に2以上の炭素原子が介在するC〜C12ハロヒドロカルビルオキシなどであり、R及びRは各々独立にハロゲン、第一もしくは第二C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アミノアルキル、C〜C12ヒドロキシアルキル、フェニル、C〜C12ハロアルキル、C〜C12ヒドロカルビルオキシ、ハロゲン原子と酸素原子との間に2以上の炭素原子が介在するC〜C12ハロヒドロカルビルオキシなどである。Kはポリ(アリーレンエーテル)のフェノール性遊離ヒドロキシル基と無水物封鎖剤との反応で生成した封鎖基である。得られる封鎖基には、以下のものがある。
【0011】
【化2】

式中、Rは1又は2個のカルボン酸基で適宜置換されたC〜C12ヒドロカルビルであり、R〜Rは各々独立に水素、1又は2個のカルボン酸基で適宜置換されたC〜C18ヒドロカルビル、C〜C18ヒドロカルビルオキシカルボニル、ニトリル、ホルミル、カルボン酸、イミデート、チオカルボン酸などであり、R〜R13は各々独立に水素、ハロゲン、C〜C12アルキル、ヒドロキシ、アミノ、カルボン酸(−COH)などである。本明細書で用いる「ヒドロカルビル」とは、炭素と水素のみからなる残基をいう。この残基は、脂肪族又は芳香族でも、直鎖又は環式又は二環式又は枝分れでも、飽和又は不飽和でもよい。ただし、ヒドロカルビル残基は、その旨明記したときは、置換基の炭素と水素に加えてヘテロ原子を含んでいてもよい。例えば、かかるヘテロ原子を含むと特記されている場合、ヒドロカルビル基は、カルボニル基、アミノ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子などを含んでいもよいし、或いは、ヒドロカルビル基の主鎖中にヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0012】
一実施形態では、Qは多官能性フェノールを含めたフェノール類の残基であり、次式の構造の基を包含する。
【0013】
【化3】

式中、R及びRは各々独立に水素、ハロゲン、第一もしくは第二C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アミノアルキル、C〜C12ヒドロキシアルキル、フェニル、C〜C12ハロアルキル、C〜C12ヒドロカルビルオキシ、ハロゲン原子と酸素原子との間に2以上の炭素原子が介在するC〜C12ハロヒドロカルビルオキシなどであり、R及びRは各々独立にハロゲン、第一もしくは第二C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アミノアルキル、C〜C12ヒドロキシアルキル、フェニル、C〜C12ハロアルキル、C〜C12ヒドロカルビルオキシ、ハロゲン原子と酸素原子との間に2以上の炭素原子が介在するC〜C12ハロヒドロカルビルオキシなどであり、Xは水素、C〜C18ヒドロカルビル、又はカルボン酸、アルデヒド、アルコール、アミノ基などの置換基を有するC〜C18ヒドロカルビルでもよいし、Xは硫黄、スルホニル、スルフリル、酸素その他の2以上の原子価を有していて各種のビス−又はそれ以上のポリフェノールを生成する橋かけ基でもよく、n(すなわち、Xに結合したフェニレンエーテル単位の数)は1〜約100、好ましくは1〜3、さらに好ましくは約1〜2である。Qは2,6−ジメチルフェノールのような一価フェノールの残基であってもよく、この場合nは1である。Qは2,2′,6,6′−テトラメチル−4,4′−ジフェノールのようなジフェノールの残基であってもよく、この場合nは2である。
【0014】
非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)Q(J−K)を参照して、Q(J−H)と定義することができ、Q、J、及びyは上記で定義下通りであり、封鎖基Kの代わりに水素原子Hを有する。一実施形態では、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は、以下の構造の1種以上の一価フェノールの重合生成物から基本的になる。
【0015】
【化4】

式中、R及びRは各々独立に水素、ハロゲン、第一もしくは第二C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アミノアルキル、C〜C12ヒドロキシアルキル、フェニル、C〜C12ハロアルキル、C〜C12ヒドロカルビルオキシ、ハロゲン原子と酸素原子との間に2以上の炭素原子が介在するC〜C12ハロヒドロカルビルオキシなどであり、R及びRは各々独立にハロゲン、第一もしくは第二C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アミノアルキル、C〜C12ヒドロキシアルキル、フェニル、C〜C12ハロアルキル、C〜C12ヒドロカルビルオキシ、ハロゲン原子と酸素原子との間に2以上の炭素原子が介在するC〜C12ハロヒドロカルビルオキシなどである。適当な一価フェノールとしては、例えばHayの米国特許第3306875号に記載されているものが挙げられ、非常に好ましい一価フェノールとしては、2,6−ジメチルフェノール及び2,3,6−トリメチルフェノールが挙げられる。ポリ(アリーレンエーテル)は、2,6−ジメチルフェノール及び2,3,6−トリメチルフェノールのような2種以上の一価フェノールの共重合体であってもよい。例えば、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル−コ−2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル)又はこれらの混合物を含んでいてもよい。一実施形態では、非封鎖ポリ(フェニレンエーテル)を沈殿によって単離され、有機その不純物含有量は好ましくは約400ppm未満、さらに好ましくは約300ppm未満である。有機不純物としては、例えば2,3−ジヒドロベンゾフラン、2,4,6−トリメチルアニソール、2,6−ジメチルシクロヘキサノン、7−メチル−2,3−ジヒドロベンゾフランなどが挙げられる。
【0016】
一実施形態では、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は次の構造の1種以上の封鎖基を含む。
【0017】
【化5】

式中、R〜Rは各々独立に水素、C〜C18ヒドロカルビル、C〜C18ヒドロカルビルオキシカルボニル、ニトリル、ホルミル、カルボン酸、イミデート、チオカルボン酸などである。非常に好ましい封鎖基としては、アクリレート(R=R=R=水素)、及びメタクリレート(R=メチル、R=R=水素)が挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0018】
別の実施形態では、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は次の構造の1種以上の封鎖基を含む。
【0019】
【化6】

式中、Rは、1又は2個のカルボン酸基で適宜置換されたC〜C12ヒドロカルビルなど、好ましくはC〜Cアルキル、さらに好ましくはメチル、エチル、又はイソプロピルである。本発明の有益な特性は、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)に炭素−炭素二重結合のような重合性官能基がない場合であっても達成できる。
【0020】
さらに別の実施形態では、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は次の構造の1種以上の封鎖基を含む。
【0021】
【化7】

式中、R〜R13は各々独立に水素、ハロゲン、C〜C12アルキル、ヒドロキシ、アミノ、カルボン酸などである。この種の好ましい封鎖基としては、サリチレート(R=ヒドロキシ、R10〜R13=水素)が挙げられる。
【0022】
封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応によって形成される。一実施形態では、無水物封鎖剤は次の構造を有する。
【0023】
【化8】

式中、Yは各々独立に以下のものである。
【0024】
【化9】

式中、Rは、1又は2個のカルボン酸基で適宜置換されたC〜C12ヒドロカルビルなどであり、R〜Rは各々独立に水素、C〜C18ヒドロカルビル、C〜C18ヒドロカルビルオキシカルボニル、ニトリル、ホルミル、カルボン酸、イミデート又はチオカルボン酸であり、R〜R13は各々独立に水素、ハロゲン、C〜C12アルキル、ヒドロキシ、アミノ、アミノ、カルボン酸などである。適当な無水物封鎖剤の具体例としては、例えば無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水サリチル酸、無水フタル酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸など、さらにはこれらの組合せが挙げられる。無水物封鎖剤としては、さらに、封鎖反応条件下で対応環状無水物を形成し得る二酸も挙げられる。かかる二酸としては、例えばマレイン酸、リンゴ酸、シトラコン酸、イタコン酸、フタル酸などが挙げられる。
【0025】
一実施形態では、無水物封鎖剤は次の構造を有する。
【0026】
【化10】

式中、R〜Rは各々、C〜C18ヒドロカルビル、C〜C12ヒドロカルビルオキシカルボニル、ニトリル、ホルミル、カルボン酸、イミデート、チオカルボン酸などである。別の実施形態では、無水物封鎖剤は、無水アクリル酸、無水メタクリル酸又はこれらの混合物を含む。
【0027】
非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を無水物封鎖剤と反応させる方法は、例えばHoloch他の米国特許第3375228号、Goossensの米国特許第4148843号、White他の米国特許第4806602号、Nelissen他の米国特許第5219951号、Braat他の米国特許第6384176号、Yeager他の米国特許出願公開第2001/0053820号及びPeters他の欧州特許第261574号に記載されている。
【0028】
一実施形態では、硬化性組成物はアルケニル芳香族モノマーを含んでおり、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)は、溶媒としてのアルケニル芳香族モノマー中での非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物との反応で製造される。
【0029】
封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の分子量又は固有粘度に特段の制限はない。一実施形態では、本組成物は、数平均分子量約1000〜約25000原子質量単位(AMU)の封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を含む。この範囲内で、数平均分子量約2000AMU以上、さらに好ましくは約4000AMU以上の封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を使用するのが好ましい。別の実施形態では、本組成物は、クロロホルム中25℃で測定して約0.05〜約0.6dL/gの固有粘度を有する封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を含む。この範囲内で、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の固有粘度は、好ましくは約0.08dL/g以上、さらに好ましくは約0.1dL/g以上である。同じくこの範囲内で、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の固有粘度は好ましくは約0.5dL/g以下、さらに一段と好ましくは約0.4dL/g以下、なお一段と好ましくは約0.3dL/g以下である。一般に、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の固有粘度と対応非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の固有粘度との差はわずかである。具体的には、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の固有粘度は概して非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の固有粘度の10%以内である。分子量及び固有粘度の異なる2種以上の封鎖ポリ(アリーレンエーテル)のブレンドの使用も当然に考えられる。組成物は、2種以上の官能化ポリ(アリーレンエーテル)のブレンドを含んでいてもよい。かかるブレンドは、別個に製造・単離された官能化ポリ(アリーレンエーテル)から製造し得る。別法として、かかるブレンドは、1種類のポリ(アリーレンエーテル)と2種以上の官能化剤との反応で製造することもできる。例えば、ポリ(アリーレンエーテル)を2種類の封鎖剤と反応させてもよいし、或いはポリ(アリーレンエーテル)を金属化して2種類の不飽和アルキル化剤と反応させてもい。別法では、モノマー組成及び/又は分子量の異なる2種以上のポリ(アリーレンエーテル)樹脂の混合物を、1種類の官能化剤と反応させてもよい。組成物は、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)樹脂と非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)樹脂のブレンドを適宜含んでいてもよく、これらの2成分の固有粘度は適宜異なっていてもよい。
【0030】
未封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物との反応に封鎖触媒を使用してもよい。かかる化合物の例としては、フェノールと上記封鎖剤との縮合を触媒することができる当技術分野で公知のものがある。有用な物質としては、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラアルキルアンモニウムなどの塩基性化合物水酸化物塩、トリブチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルブチルアミンなどの第三アルキルアミン、N,N−ジメチルアニリンなどアルキル−アリール混成第三アミン及びその置換誘導体、イミダゾール、ピリジンなどの複素環式アミン及びそれらの置換誘導体、例えば2−メチルイミダゾール、2−ビニルイミダゾール、4−ジメチルアミノピリジン、4−(1−ピロリノ)ピリジン、4−(1−ピペリジノ)ピリジン、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどを始めとする塩基性化合物が挙げられる。例えばイソシアネートやシアン酸エステルとフェノールとの縮合触媒として公知のスズや亜鉛の塩などの有機金属塩も有用である。これに関して有用な有機金属塩は、当業者に周知の多数の刊行物及び特許で当技術分野で公知である。
【0031】
一実施形態では、封鎖触媒は有機アミン触媒である。好ましい有機アミン触媒には、例えば第三アルキルアミン、アルキル−アリール混成第三アミン、複素環式アミンなどが挙げられる。有機アミン触媒には、有機アミンのプロトン付加によって形成されるアンモニウムイオンが挙げられる。一実施形態では、封鎖触媒は次の構造の4−ジアルキルアミノピリジンを含む。
【0032】
【化11】

式中、R23及びR24は各々独立に水素又はC〜Cアルキルであり、R25及びR26は各々独立にC〜Cアルキルである。好ましい実施形態では、封鎖触媒は、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)を含む。
【0033】
硬化性組成物は、官能化ポリ(アリーレンエーテル)とオレフィン性不飽和モノマーの合計100重量部当たり約5〜約90重量部の封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を含む。この範囲内で、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)樹脂の量は、好ましくは約10重量部以上、さらに好ましくは約15重量部以上である。同じくこの範囲内で、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)樹脂の量は、好ましくは約80重量部以下、さらに好ましくは約60重量部以下、さらに一段と好ましくは約50重量部以下である。
【0034】
硬化性組成物はオレフィン性不飽和モノマーを含む。本明細書では、オレフィン性不飽和モノマーとは、炭素−炭素二重結合を有する重合性モノマーと定義される。適当なオレフィン性不飽和モノマーとしては、例えばアルケニル芳香族モノマー、アリルモノマー、アクリロイルモノマーなど、さらにはこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
アルケニル芳香族モノマーとしては、次式のものがある。
【0036】
【化12】

式中、R16は各々独立に水素又はC〜C18ヒドロカルビルであり、R17は各々独立にハロゲン、C〜C12アルキル、C〜C12アルコキシル又はC〜C18アリールであり、pは1〜4であり、qは0〜5である。芳香族環上の任意の部位が水素原子で置換される。適当なアルケニル芳香族モノマーとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−t−ブチルスチレン、3−t−ブチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、1,3−ジビニルベンゼン、1,4−ジビニルベンゼン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、芳香族環上に1〜5個のハロゲン置換基を有するスチレンなど、並びにこれらの組合せが挙げられる。スチレンが特に好ましいアルケニル芳香族モノマーである。
【0037】
オレフィン性不飽和モノマーはアリルモノマーでもよい。アリルモノマーは、1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上のアリル(−CH−CH=CH)基を含む有機化合物である。適当なアリルモノマーとしては、例えばフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、メリト酸トリアリル、メシン酸トリアリル、トリアリルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、これらの混合物、これらの部分重合生成物などが挙げられる。
【0038】
オレフィン性不飽和モノマーはアクリロイルモノマーであってもよい。アクリロイルモノマーは次の構造の1以上のアクリロイル部分を有する化合物である。
【0039】
【化13】

式中、R20〜R22は各々独立に水素、C〜C12ヒドロカルビル、C〜C18ヒドロカルビルオキシカルボニル、ニトリル、ホルミル、カルボン酸、イミデート、チオカルボン酸などである。一実施形態では、アクリロイルモノマーは2以上のアクリロイル部分を含む。別の実施形態では、アクリロイルモノマーは、3以上のアクリロイル部分を含む。適当なアクリロイルモノマーとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートともいう。)、エトキシル化(2)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(なお、エトキシル化という語に続く数は、ビスフェノールAの各酸素に結合したエトキシレート鎖中のエトキシ基の数の平均を意味する。)など、さらにはこれらのアクリロイルモノマーの1種類以上を含む混合物が挙げられる。
【0040】
一実施形態では、オレフィン性不飽和モノマーはスチレン及びトリメチロールプロパントリメタクリレートを含む。
【0041】
本組成物は、一般に封鎖ポリ(アリーレンエーテル)とオレフィン性不飽和モノマーの合計100重量部当たり約10〜約95重量部のオレフィン性不飽和モノマーを含む。この範囲内で、約20重量部以上、さらに好ましくは約30重量部以上の量のオレフィン性不飽和モノマーを使用するのが好ましい。同じくこの範囲内で、約80重量部以下、さらに好ましくは約60重量部以下のオレフィン性不飽和モノマーを使用するのが好ましい。
【0042】
硬化後の組成物を、85℃、相対湿度85%に7日間曝露した後の吸水量は、約1重量%未満、好ましくは約0.5重量%未満、さらに好ましくは約0.3重量%未満、さらに一段と好ましくは約0.2重量%未満である。本発明者らは、従前開示されてきたポリ(アリーレンエーテル)硬化性組成物では、かかる低レベルの吸水性は達成されていなかったと思料する。本発明者らは、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の単離及び/又は精製に当たり、無水物封鎖剤、無水物封鎖剤の加水分解で得られる遊離酸、有機アミン、及び有機アミンと無水物封鎖剤又はその遊離酸加水分解生成物とで形成される塩のような、封鎖関連試薬及び副生物の1種以上の残留濃度を低減する方法によって、硬化組成物の吸水性を低減できることを見いだした。吸水性の低減は、通例、高湿度条件下でのガラス転移温度の向上、高湿度条件下での熱膨張率の低下、高湿度条件での曲げ強さの向上、及び高湿度条件下での靭性向上を始めとする有益な特性を伴う。
【0043】
一実施形態では、本組成物は、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の重量を基準にして、50未満、好ましくは30未満、さらに好ましくは10ppm未満の無水物封鎖剤を含む。封鎖ポリ(アリーレンエーテル)樹脂及び該樹脂を含む硬化性組成物の従前の報告では、無水物を含む残基の濃度を低減させることの重要性は認識されておらず、かかる低濃度を達成する方法は教示されていなかった。低無水物濃度は様々な方法で達成できる。例えば、実施例で示すように、封鎖反応混合物をイソプロパノールのようなC〜Cアルカノールと混合することによって、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を沈殿させると、予想外に低い無水物濃度がもたらされる。適当なC〜Cアルカノールとしては、例えばエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール(イソブタノール)、2−メチル−2−プロパノール(t−ブタノール)、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、シクロペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、5−メチル−1−ペンタノール、5−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、2,2−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、2,3−ジメチル−1−ブタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、1−メチルシクロペンタノール、2−メチルシクロペンタノール、3−メチルシクロペンタノール、シクロペンチルメタノール、シクロヘキサノールなど、さらにはこれらの混合物が挙げられる。好ましいC〜Cアルカノールはイソプロパノールである。他の貧溶媒での沈殿では、50重量ppm未満の無水物濃度を達成するのに必ずしも十分ではないが、無水物濃度の実質的な低減は達成できる。かかる他の貧溶媒には、例えばメタノール、炭素原子数3〜約10のケトン、炭素原子数5〜約10のアルカンなど、さらにはこれらの混合物が挙げられる。無水物その他の不純物の濃度の実質的低減は、封鎖反応混合物を水溶液で洗浄することによっても達成できる。水溶液は水を含むが、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)溶液からの無水物の抽出及び/又は変換を容易にするために酸、塩基、又は塩を適宜含んでいてもよい。一例として、水性洗浄液は、約1〜約7のpHを有していてもよい。別の例として、水性洗浄液は約7〜約13のpHを有していてもよい。別の例として、水洗浄液は、遊離酸の抽出並びに無水物の加水分解及び抽出を容易にするために約0.0001〜約1規定の水酸化ナトリウムを含んでいてもよい。別の例として、水洗浄液は、4−ジメチルアミノピリジンなどの塩基性種の抽出を容易にするため0.0001〜約1規定の塩酸を含んでいてもよい。塩基性不純物と酸性不純物との効率的な抽出は、酸と塩基で順次、又はその逆の順序で洗浄することによって達成できる。例えば、実質的にすべての塩基性残渣を除去するのに十分な酸性pH(例えば、約1〜7のpH)及び緩衝強度の洗浄液と、次いで実質的にすべての酸性残渣を除去するのに十分な塩基性pH(例えば、約7〜約13のpH)及び緩衝強度の洗浄液とすることができる。ここで、様々な実施形態における「実質的にすべて」とは、当初存在した残渣の重量を基準にして、約90重量%超、又は約95重量%超、又は約98重量%超、又は約99重量%超、又は約99.5重量%超を意味する。一実施形態では、残渣は実質的にすべて除去されるが、これは通常の分析技術では残渣を検出できないことを意味する。無水物濃度を実質的に低減させる別の方法は、封鎖反応混合物の脱揮によるものである。脱揮法は、例えばBraat他の米国特許第6384176号に記載されている。従前教示された脱揮法は、50ppm未満の無水物濃度の達成には十分であるとは思えないが、脱揮を水性洗浄などの前処理と併用することによって上記のレベルを達成することができる。
【0044】
上記の無水物濃度の低減法は、他の極性不純物の濃度も低減されるという追加の利益をもつ。例えば、無水物の加水分解に由来する遊離酸の濃度は、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の重量を基準にして、約1重量%未満、好ましくは約0.8重量%未満、さらに好ましくは約0.7重量%未満に低減できる。無水物が、好ましい非環式系で対称である場合、その加水分解によって、2分子の遊離酸が生成する。無水物が、非環式系で非対称である場合、上述の限定における「遊離酸」は、無水物の加水分解によって生成する2つの酸のいずれかに対応する。無水物が環状である場合、その加水分解によって、1分子のジカルボン酸が生成し、上述の限定における「遊離酸」はジカルボン酸に対応する。したがって、一実施形態は、オレフィン性不飽和モノマーと、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造された封鎖ポリ(アリーレンエーテル)とを含む硬化性組成物であり、当該組成物は無水物封鎖剤の加水分解で得られた遊離酸を、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の重量を基準にして、1重量%未満しか含まない。上記の無水物濃度の低減法は、存在する有機アミンの濃度も低減できる。具体的には、上記方法は、有機アミン濃度を、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の重量を基準にして、約1000ppm未満、好ましくは約600ppm未満、さらに好ましくは約400ppm未満に低減することができる。例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)の無水メタクリル酸による封鎖を4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)て触媒する場合、上述の反応混合物の処理によって、DMAPの残留濃度を約1000ppm未満に低減することができる。
【0045】
別の実施形態は、オレフィン性不飽和モノマー、粒子状充填剤、及び非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造され、C〜Cアルカノールでの沈殿を含む手順によって単離された封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を含む硬化性組成物であり、硬化後の組成物の85℃及び相対湿度85%における7日後の吸水量が1重量%未満である硬化性組成物である。
【0046】
別の実施形態は、非封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)と無水メタクリル酸との反応で製造され、イソプロパノールでの沈殿を含む手順によって単離したメタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)約1〜約23重量%、2以上のアクリロイル部分を含むアクリロイルモノマー約1〜約23重量%、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−t−ブチルスチレン、3−t−ブチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、1,3−ジビニルベンゼン、1,4−ジビニルベンゼン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、芳香族環上に1〜5個のハロゲン置換基を有するスチレン及びその組合せからなる群から選択されるアルケニル芳香族モノマー約1〜約23重量%、及び溶融シリカ約75〜約95重量%を含む硬化性組成物であって、重量%はすべて組成物全体の重量を基準にしたものであり、硬化後の組成物の85℃及び相対湿度85%における7日後の吸水量が1重量%未満である硬化性組成物である。好ましいアクリロイルモノマーとしては、トリメチロールプロパントリメタクリレート及びエトキシ化(2)ビスフェノールAジメタクリレートが挙げられる。
【0047】
硬化性組成物は、さらに、不飽和成分の硬化速度を高めるため適宜硬化触媒を含んでいてもよい。開始剤とも呼ばれる硬化触媒は、当技術分野で周知の不飽和ポリエステル、ビニルエステル及びアリル熱硬化性樹脂を始めとする多数の熱可塑性樹脂並びに熱硬化性樹脂の重合、硬化又は架橋の開始に使用し得る。硬化開始剤の非限定的な具体例としては、Smith他の米国特許第5407972号及びKatayose他の第5218030号に記載されているものが挙げられる。熱硬化性樹脂の不飽和基用の硬化触媒には、高温でフリーラジカルを生成し得る化合物が包含される。かかる硬化触媒には、ペルオキシ系及び非ペルオキシ系ラジカル開始剤が包含される。有用なペルオキシ系開始剤の具体例としては、例えば過酸化ベンゾイル、ジクミルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、過酸化ラウリル、シクロヘキサノンペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルベンゼンヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオクトエート、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキシ−3−イン、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α′−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジ(t−ブチルペルオキシ)イソフタレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)ペルオキシド、トリメチルシリルフェニルトリフェニルシリルペルオキシドなど、さらにこれらの硬化触媒の1種以上を含む混合物が挙げられる。代表的な非ペルオキシ系開始剤としては、例えば2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−トリメチルシリルオキシ−2,3−ジフェニルブタンなど、さらにこれらの硬化触媒の1種以上を含む混合物が挙げられる。熱硬化性樹脂の不飽和基用の硬化触媒は、不飽和成分のアニオン重合を開始し得る化合物をさらに含んでいてもよい。かかるアニオン重合触媒としては、例えばナトリウムアミド(NaNH)やリチウムジエチルアミド(LiN(C)のようなアルカリ金属アミド、C〜C10アルコキシドのアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、水酸化アルカリ金属及び水酸化アンモニウム、シアン化アルカリ金属、アルキルリチウム化合物であるn−ブチルリチウムのような有機金属化合物、グリニャール試薬のフェニル臭化マグネシウムなど、さらにこれらのアニオン重合触媒の1種以上を含む組合せが挙げられる。好ましい実施形態では、硬化触媒は、t−ブチルペルオキシベンゾエート又はジクミルペルオキシドを含む。硬化触媒は、約0℃〜約200℃の温度で硬化を促進し得る。
【0048】
硬化触媒が存在する場合は、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)とオレフィン性不飽和モノマーの合計100部当たり約0.1〜約10重量部の量で使用できる。この範囲内で、好ましくは約0.5重量部以上、さらに好ましくは約1重量部以上の量の硬化触媒を使用し得る。同じくこの範囲内で、好ましくは約5重量部以下、さらに好ましくは約3重量部以下の量の硬化触媒を使用し得る。
【0049】
硬化性組成物は、さらに、ゲル化時間を短縮するための硬化促進剤を適宜含んでいてもよい。適当な硬化促進剤としては、ナフタン酸コバルトのような遷移金属塩及び錯体、並びにN,N−ジメチルアニリン(DMA)やN,N−ジエチルアニリン(DEA)のような有機塩基が挙げられる。好ましくは、ナフタン酸コバルトとDMAの組合せが用いられる。促進剤が存在する場合、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)とオレフィン性不飽和モノマーの合計100部当たり約0.05〜約3部の量で使用できる。
【0050】
組成物は、さらに、組成物の早期硬化を防止するための硬化抑制剤を適宜含んでいてもよい。適当な硬化抑制剤としては、例えばジアゾアミノベンゼン、フェニルアセチレン、sym−トリニトロベンゼン、p−ベンゾキノン、アセトアルデヒド、アニリン縮合物、N,N′−ジブチル−o−フェニレンジアミン、N−ブチル−p−アミノフェノール、p−メトキシフェノール、2,4,6−トリフェニルフェノキシル、ピロガロール、カテコール、ヒドロキノン、モノアルキルヒドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、C〜C−アルキル置換カテコール、ジアルキルヒドロキノン、2,4,6−ジクロロニトロフェノール、ハロゲン−オルト−ニトロフェノール、アルコキシヒドロキノン、フェノール及びカテコールのモノ−及びジ−及びポリスルフィド、キノンのチオール、オキシム及びヒドラゾン、フェノチアジン、ジアルキルヒドロキシルアミンなど、さらにこれらの硬化抑制剤の1種以上を含む組合せが挙げられる。適当な硬化抑制剤としては、さらに非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)(すなわち、遊離ヒドロキシル基を有するポリ(アリーレンエーテル))も挙げられる。好ましい硬化抑制剤としては、ベンゾキノン、ヒドロキノン及びt−ブチルカテコールが挙げられる。硬化抑制剤が存在する場合、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)樹脂とオレフィン性不飽和モノマーの合計100重量部当たり約0.01〜約10重量部の量とすることができる。この範囲内で、硬化抑制剤の量は好ましくは約0.1重量部以上である。同じくこの範囲内で、硬化抑制剤の量は好ましくは約2重量部以下である。
【0051】
組成物は、さらに粒状充填剤及び繊維状充填剤を始めとする1種以上の充填剤を含んでいてもよい。かかる充填剤の例は当技術分野で周知であり、“Plastic Additives Handbook, 4th Edition” R. Gachter and H. Muller (eds.), P.P. Klemchuck (assoc. ed.) Hanser Publishers, New York 1993, pp.901−948に記載されているものがある。本明細書では、粒状充填剤とは、平均アスペクト比約5:1未満の充填剤と定義される。充填剤の非限定的な具体例としては、溶融シリカや結晶シリカのようなシリカ粉末、熱伝導性が高く、誘電率が低く誘電正接の低い硬化生成物を得るための窒化ホウ素粉末及びホウケイ酸塩粉末、これらの粉末とアルミナ、及び高温伝導性用の酸化マグネシウム(又はマグネシア)、並びに、表面処理ウォラストナイトを始めとするウォラストナイト、硫酸カルシウム(その無水塩、半水塩、二水塩又は三水塩)、チョーク、石灰石、大理石及び合成沈降炭酸カルシウム(概して粉砕粒子の形態であり、98+%のCaCOと残部の炭酸マグネシウム、酸化鉄、アルミノケイ酸塩のような他の無機物を含むことが多い)を始めとする炭酸カルシウム、表面処理した炭酸カルシウム、繊維状、結節状、針状及び層状タルクを始めとするタルク、中空ガラス球、中実ガラス球、及び通常はシランカップリング剤のようなカップリング剤及び/又は導電性コーティングを含む表面処理ガラス球、硬質、軟質、焼成カオリン、並びに熱硬化性樹脂中での分散性及び相溶性を高める当技術分野の公知の各種コーティングを有するカオリンを始めとするカオリン、メタライズドマイカ、及び良好な物性をブレンドに付与するためアミノシラン又はアクリロイルシランコーティングで表面処理したマイカを始めとするマイカ、長石及び霞石閃長岩、ケイ酸塩球、煙塵、セノスフェア、フィライト、シラン化及び金属化アルミノケイ酸塩を始めとするアルミノケイ酸塩(アモルスフェア)、天然ケイ砂、石英、ケイ石、パーライト、トリポリ、珪藻土、各種シランコーティングを有するものを始めとする合成シリカのような充填剤が挙げられる。
【0052】
好ましい粒状充填剤としては、平均粒径約1〜約50μmの溶融シリカが挙げられる。特に好ましい粒状充填剤は、メジアン径約0.03μm乃至1μm未満の第1の溶融シリカと、メジアン径1μm〜約30μmの第2の溶融シリカとを含む。好ましい溶融シリカは、通常は再溶融によって達成される本質的に球状の粒子を有する。上記の粒径範囲内で、第1の溶融シリカは、好ましくは約0.1μm以上、好ましくは約0.2μm以上のメジアン径を有する。同じく上記粒径範囲内で、第1の溶融シリカは、好ましくは約0.9μm以下、さらに好ましくは約0.8μm以下のメジアン径を有する。上記の粒径範囲内で、第2の溶融シリカは、好ましくは約2μm以上、好ましくは約4μm以上のメジアン径を有する。同じく上記粒径範囲内で、第2の溶融シリカは、好ましくは約25μm以下、さらに好ましくは約20μm以下のメジアン径を有する。一実施形態では、本組成物は、第1の溶融シリカと第2の溶融シリカを約70:30〜約99:1、好ましくは約80:20〜約95:5の重量比で含む。
【0053】
繊維状充填剤としては、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び硫酸カルシウム半水和物の1種以上を含むブレンドに由来するものなど処理無機繊維を始めとする無機短繊維が挙げられる。繊維状充填剤には、炭化ケイ素、アルミナ、炭化ホウ素、炭素、鉄、ニッケル、銅を始めとする単結晶繊維又は「ウィスカー」も包含される。繊維状充填剤には、E、A、C、ECR、R、S、D及びNEガラスのような織物用ガラス繊維を始めとするガラス繊維、並びに石英も包含される。好ましい繊維状充填剤には、直径約5〜約25μm、コンパウンディング前の長さが約0.5〜約4cmのガラス繊維が挙げられる。その他多数の適当な充填剤は、Yeager他の米国特許出願公開第2001/0053820号に記載されている。
【0054】
組成物は、充填剤又は外部コーティング又は基板との熱硬化性樹脂の接着性を向上させる接着促進剤を含んでいてもよい。上述の無機充填剤を接着促進剤で処理して、接着性を高めることもできる。接着促進剤としては、クロム錯体、シラン、チタネート、ジルコアルミネート、プロピレン−無水マレイン酸コポリマー、反応性セルロースエステルなどが挙げられる。クロム錯体としては、DuPont社からVOLAN(登録商標)という商品名で市販されているものがある。シランとしては、一般構造(RO)(4−n)SiYの分子(式中、n=1〜3、Rはアルキル又はアリール基であり、Yはポリマー分子との結合を形成し得る反応性官能基である)が挙げられる。カップリング剤の特に有用な例は、構造(RO)SiYを有するものである。代表例としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシ)シラン、フェニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。シランには、例えばトリメトキシフェニルシランのような反応性官能基のない分子も包含される。チタネートとしては、S. J. Monte et al. in Ann. Chem. Tech Conf. SPI (1980), Ann. Tech Conf. Reinforced Plastics and Composite Inst. SPI 1979, Section 16E, New Orleans、及びS. J. Monte, Mod. Plastics Int., volume 14, number 6, pg. 2 (1984)によって開発されたものが挙げられる。ジルコアルミネートとしては、L.B. Cohen in Plastics Engineering, volume 39, number 11, page 29 (1983)に記載されているものが挙げられる。接着促進剤は熱硬化性樹脂自体に配合してもよいし、或いは充填剤と熱硬化性樹脂との接着性を高めるため上述の充填剤のいずれかにコートしてもよい。例えば、かかる接着促進剤は、樹脂マトリックスの接着性を向上させるため、ケイ酸塩繊維又は充填剤の被覆に使用し得る。
【0055】
粒状充填剤が存在する場合、組成物の全量を基準にして、約5〜約95重量%の量で使用し得る。この範囲内で、約20重量%以上、さらに好ましくは約40重量%以上、さらに一段と好ましくは約75重量%以上の量の粒状充填剤を使用するのが好ましい。同じくこの範囲内で、約93重量%以下、さらに好ましくは約91重量%以下の量の粒状充填剤を使用するのが好ましい。
【0056】
繊維状充填剤が存在する場合は、組成物の全量を基準にして、約2〜約80重量%の量で使用し得る。この範囲内で、約5重量%以上、さらに好ましくは約10重量%以上、さらに一段と好ましくは約15重量%以上の量の繊維状充填剤を使用するのが好ましい。同じくこの範囲内で、約60重量%以下、さらに好ましくは約40重量%以下、さらに一段と好ましくは約30重量%以下の量の繊維状充填剤を使用するのが好ましい。
【0057】
以上の充填剤は、処理せずに熱硬化性樹脂に添加してもよいし、表面処理(概して接着促進剤による)後に熱硬化性樹脂に添加してもよい。
【0058】
硬化性組成物は、さらに当技術分野で公知の1種以上の添加剤を適宜含んでいてもよく、例えば染料、顔料、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、流動性調整剤、ドリップ抑制剤、粘着防止剤、帯電防止剤、流動性促進剤、処理助剤、基板接着剤、離型剤、強化剤、低収縮剤、応力除去添加剤、難燃剤など、並びにこれらの組合せなどを含んでいてもよい。当業者であれば、過度の実験を行わなくても、適当な添加剤を選択し、適量を決定することができる。
【0059】
本組成物の製造方法には、85℃及び相対湿度85%で7日後の硬化組成物が吸水量が支障なく1重量%未満となる限り、特に制限はない。組成物は、官能化ポリ(アリーレンエーテル)とオレフィン性不飽和モノマーとを含む均質ブレンドを形成することによって製造し得る。組成物は、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)をオレフィン性不飽和モノマーの一部に溶解し、封鎖剤を添加してオレフィン性不飽和モノマーの存在下で封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を形成し、反応混合物を水溶液で適宜洗浄し、その他の任意成分を添加して硬化性組成物を形成することによって、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)から組成物を製造することができる。一実施形態では、組成物は、非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造され、C〜Cアルカノールでの沈殿によって単離した封鎖ポリ(アリーレンエーテル)をオレフィン性不飽和モノマーとブレンドして、硬化性組成物を形成することによって製造することができ、硬化後の組成物は、85℃及び相対湿度85%で7日後の吸水量は1重量%未満である。C〜Cアルカノールは好ましくはイソプロパノールを含む。一実施形態では、組成物は、溶液のポリ(アリーレンエーテル)を封鎖し、溶液を水溶液で洗浄し、洗浄した溶液を分別し、洗浄した溶液を貧溶媒と混合して封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を沈殿させ、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を真空乾燥し、他の任意成分を添加して熱硬化性組成物を形成することによって製造することができる。
【0060】
本組成物の硬化方法に特段の制限はない。組成物は、例えば熱又は高周波加熱、UV照射及び電子線照射を始めとする照射法を用いて硬化することができる。例えば、組成物は、10秒間の高周波加熱で連鎖反応硬化を開始することによって硬化させてもよい。熱硬化を用いる場合、選択温度は約80°〜約300℃とすることができる。加熱期間は約5秒〜約24時間とすることができる。硬化は数段階で実施してもよく、まず不粘着性樹脂へと部分硬化し、次いで長時間又は高温で加熱して完全に硬化する。
【0061】
一実施形態は、上述の硬化性組成物の硬化によって得られる硬化組成物である。「硬化」という用語には、部分硬化と完全硬化が包含される。硬化性組成物の成分は、硬化時に互いに反応し得るので、硬化組成物は、硬化性組成物成分の反応生成物を含むものとして表現することができる。
【0062】
別の実施形態は、硬化組成物を含む物品である。硬化性組成物は、広範な物品の製造に有用であり、電子デバイス用封止材としての使用に特に適している。本組成物は非常に望ましい特性を示す。低減した吸水性は上述した通りである。さらに、一実施形態では、硬化組成物は、UL94のV−1、好ましくはV−0難燃性評価を示すこともある。硬化組成物は、120℃以上、好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上のガラス転移温度を示すこともある。
【実施例】
【0063】
次の非限定的例によって、本発明をさらに説明する。
【0064】
製造例1
本例では、固有粘度約0.12dL/gのメタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)の製造について述べる。トルエン(30.5kg)及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(30.5kg、固有粘度0.12dL/g)を混合して約85℃に加熱した。ジメチルアミノピリジン(0.420kg)を添加した。固体がすべて溶解したと思われる時点で、無水メタクリル酸(3.656kg)を徐々に添加した。得られた溶液を連続混合しながら85℃に3時間維持した。次いで、溶液を室温に冷却して、メタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)のトルエン溶液を得た。
【0065】
製造例2
本例では、メタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)の沈殿による単離について述べる。製造例1に記載の通り、固有粘度0.12dL/gのメタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)のトルエン溶液を製造した。ブレンダで激しく攪拌した室温のメタノール4Lに、トルエン溶液2Lをゆっくりと添加して、メタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)を沈殿させた。トルエン溶液は好ましくは加温してからメタノールに添加する。加温によって溶液の粘度が下がる。メタノールへのトルエン溶液の添加速度は、ポリマー流を微細分散物として連続的に沈殿させるのに十分な程度に遅くしたが、ポリマーが連続ストランドへと凝固できるほど速くはなかった。メタノールとトルエン溶液の体積比は2:1超であればよいが、これを下回ると、沈殿ポリマーの凝集及び凝固を引き起こすことがある。沈殿ポリマーを濾過し、メタノールで洗浄し、85℃で一晩乾燥した。
【0066】
製造例3〜9
貧溶媒の種類並びにポリフェニレンエーテル溶液と貧溶媒との混合方法の異なる様々な沈殿法で、メタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)樹脂を単離した。メタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(固有粘度=0.12dL/g)の50重量%の溶液は、上述の通り、対応非封鎖ポリフェニレンエーテル(1406g)と無水メタクリル酸(188.6g)のトルエン溶媒(1406g)をジメチルアミノピリジン触媒(17.9g)を用いて反応させることによって製造した。
【0067】
封鎖ポリフェニレンエーテルのトルエン溶液を貧溶媒に注入するいわゆる「通常」沈殿法を以下の通り実施した。室温の貧溶媒(メタノール、イソプロパノール、アセトン又はメチルエチルケトン(MEK))400mLを、容量1000mLのガラス容器を備えたWARING(登録商標)ブレンダに添加した。ブレンダ中の貧溶媒を撹拌しながら、予め秤量した約封鎖ポリフェニレンエーテル溶液約140gを40℃で滴下し、封鎖ポリフェニレンエーテルの沈殿を生じさせた。得られた混合物を、ガラスフィルターを備えたPYREX(登録商標)ブランドのブフナー漏斗に注ぎ、沈殿した封鎖ポリフェニレンエーテルのフィルターケークを形成させた。フィルターケークが形成すると、濾過器を真空に引いて溶媒を除去した。沈殿をさらに貧溶媒50mLで洗浄し、真空オーブン中、15標準立方フィート/時間(0.425標準立方メートル/時間)の窒素流で、130℃、20インチ(508mm)の真空で3.5時間乾燥した。材料をオーブンから取り出し、室温に冷却した後、秤量した。
【0068】
貧溶媒をポリフェニレンエーテルのトルエン溶液に注入するいわゆる「逆」沈殿法を以下の通り実施した。予め秤量した封鎖ポリフェニレンエーテル溶液約140gを約40℃でブレンダに添加した。ブレンダの内容物を撹拌しながら、貧溶媒400mLを、約6分かけて添加し、封鎖ポリフェニレンエーテルの沈殿を生じさせた。得られた沈殿を、「通常」沈殿について記載した通り、濾過、洗浄及び乾燥した。
【0069】
沈殿した各封鎖ポリフェニレンエーテルの特性を、分子量及び残留不純物の測定によって決定した。原子質量単位(AMU)で表される数平均分子量(M)及び重量平均分子量(M)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)でポリスチレン標準を用いて決定した。すべてppm単位で表すトルエン、メタクリル酸、無水メタクリル酸及びジメチルアミノピリジン(DMAP)の残留濃度は、ガスクロマトグラフィーで水素炎イオン化検出器を用いて求めた。すべてppm単位で表す貧溶媒(メタノール、イソプロパノール、及びアセトン)の残留濃度は、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)で求めた。表1に結果を示す。結果から、「逆」法は、「通常」法よりも低レベルのトルエン及びメタクリル酸、及び高レベルのDMAPを与えることが分かる。イソプロパノールを用いた「通常」法は、驚くほど低レベルの残留無水メタクリル酸をもたらす。MEKを用いた「通常」沈殿は、高分子量の封鎖ポリフェニレンエーテルを選択的に沈殿させるが、この選択性は収率を犠牲にして達成される。
【0070】
【表1】

製造例10及び11
前記の例に記載した通り、メタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(固有粘度=0.12dL/g)の50重量%トルエン溶液を製造した。トルエンを真空オーブン中、2つの条件下:(1)200℃で4時間(製造例10)、又は(2)100℃で2時間(製造例11)で除去した。封鎖ポリ(アリーレンエーテル)分子量、及び残留トルエン、メタクリル酸、無水メタクリル酸及びDMAPを決定するために非揮発性残渣を分析した。表2に、結果を示す。結果から、脱揮によって単離したときの封鎖ポリフェニレンエーテル樹脂の分子量には認めうるほどの影響はないことが分かる。
【0071】
【表2】

製造例12〜23
残留不純物の量を低減するために、脱揮前に水洗して単離を行った。メタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)のトルエン溶液を所定の温度に加温し、次いで所定量の温水と30秒間手作業で混合した。混合物を20000回転/分で2分間遠心し、有機層を回収した。有機層を真空オーブン中、120℃で4時間乾燥した。得られた粉末を、メタクリル酸(MA)、無水メタクリル酸(MAA)、ジメチルアミノピリジン及びトルエンについて分析した。表3に、洗浄条件及び結果を示す。
【0072】
【表3】

結果から、溶液中のポリフェニレンエーテル濃度が高く、混合温度が高く、及び水/有機比が高いと、単離ポリフェニレンエーテル樹脂中の残留化合物の濃度が改善(低減)することが分かる。
【0073】
比較例1〜7
7種類の組成物を製造し、成形した。これらはすべて、スチレン中の封鎖反応混合物として得られたメタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)樹脂を使用したが、封鎖反応に用いた無水メタクリル酸及びジメチルアミノピリジンの濃度が異なる。表4に、無水メタクリル酸/ポリフェニレンエーテル遊離ヒドロキシル基のモル比及びジメチルアミノピリジン/ポリフェニレンエーテル遊離ヒドロキシル基のモル比を示す。各封鎖反応混合物について、反応混合物中の非封鎖ポリフェニレンエーテル樹脂と封鎖ポリフェニレンエーテル樹脂の遊離ヒドロキシル末端基含有量との比較から、非封鎖ポリフェニレンエーテルから封鎖ポリフェニレンエーテルへの転化率%を求めた。遊離ヒドロキシル末端基含有量は、P. Chan, D. S. Argyropolis, D. M. White, G. W. Yeager, and A. S. Hay, Macromolecules, 1994, volume 27, pages 6371 ffに記載されているように、リン試薬での官能化と31P NMRで決定した。非封鎖ポリフェニレンエーテル樹脂は、0.1658重量%の遊離ヒドロキシル末端基含有量を有していた。
【0074】
成形用組成物はすべて、29.2重量%のメタクリレート封鎖ポリフェニレンエーテル、54.1重量%のスチレン、14.7重量%のトリメチロールプロパントリメタクリレート及び2.0重量%のt−ブチルペルオキシベンゾエートを含んでいた。成形用組成物は、メタクリレート封鎖ポリフェニレンエーテルのスチレン溶液とトリメチロールプロパントリメタクリレートを混合し、成分が十分にブレンドされるまで水浴上で加熱することによって製造した。次いで、混合物を140℃に加熱し、真空下で約10分間脱気し、約80〜100℃に冷却し、t−ブチルペルオキシベンゾエートを添加した。次いで、組成物を金型キャビティに注入し、90℃で60分間、次いで150℃で60分間硬化した。
【0075】
成形試料を予め秤量し、次いで沸騰水に浸漬し、1日、4日及び5日後に再秤量した。重量変化値は、各条件における3つの試料の平均を表す。表4に、組成物及び吸水性をまとめた。結果から、硬化試料の吸水性は、封鎖反応混合物中の無水メタクリル酸及びジメチルアミノピリジンの濃度と正の相関関係をもつことが分かる。さらに、結果から、無水メタクリル酸及びジメチルアミノピリジンの濃度が漸減すると、非封鎖ポリフェニレンエーテルから封鎖ポリフェニレンエーテルの転化率が低下し、組成物の硬化特性が損なわれることが分かる。したがって、実質的に過剰の封鎖剤を使用せずに、ポリフェニレンエーテルの本質的に完全な封鎖を達成することは困難である。
【0076】
硬化組成物の透明性は、封鎖反応混合物に使用した無水メタクリル酸及びジメチルアミノピリジンの濃度に反比例したことも観察された。すなわち、低濃度の無水メタクリル酸及び4−ジメチルアミノピリジンを有する封鎖混合物から製造された硬化ディスクは、着色が少なく、高い透明性を示すが、高濃度の封鎖混合物から製造したものは、着色が強く、透明性が低かった。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

実施例1及び2
シランカップリング剤の有無の点で異なる2種類の組成物を製造した。メタクリレート封鎖ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)(MA−PPE)は、固有粘度0.30dL/g(実施例1)、或いは0.12dL/gと0.30dL/gの材料のブレンドであった(実施例2)。これらのポリマーは、製造例2に記載したものと同様の手順を用いた沈殿によって単離した。溶融シリカは電気化学工業(株)から市販のFB570及びSPF30であった。シランカップリング剤メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MAPTMS)は、Dow Corning社から市販のZ−6030であった。アクリロイルモノマーエトキシ化(2)ビスフェノールAジメタクリレートはSartomer社から市販のSR−348であった。アルミノリン難燃剤はClariant社から市販のOP930であった。離型剤はClariant社から市販のLICOWAX(登録商標)OPとであった。実施例2では、2種類の溶融シリカとプレブレンドし、85℃に2時間曝露してシランカップリング剤を組成物に導入した後、得られた混合物を残りの成分と混合した。硬化ディスクは、組成物を160℃で10分間圧縮成形して製造し、さらに175℃で2時間硬化した。寸法1/8インチ(0.3175cm)×1/2インチ(1.27cm)×4インチ(10.16cm)の試験片を、ディスクからカットした。試験片を115℃で1時間乾燥し、次いで秤量し、85℃、相対湿度(RH)85%に1〜7日間曝露し、次いで再秤量した。表5に、組成物及び吸水性の結果を示す。成分量は重量部で表す。表5の重量変化は、試料の乾燥前の最初の重量に対する、重量の増分として表す。結果から、85℃及び相対湿度85%で7日後の試料の吸水性はいずれも0.2重量%未満であったことが分かる。
【0079】
【表6】

本発明を好ましい実施形態を参照して説明したが、様々な変更を行うことができ、等価形態を、本発明の範囲から逸脱することなくその要素と置換できることを当業者は理解されよう。さらに、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるように、多くの修正をその本質的な範囲から逸脱することなく行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために考えられた最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されるものではないこと、本発明は、添付の特許請求の範囲内に入るすべての実施形態を包含するものであることを意図する。
【0080】
引用された特許、特許出願、及び他の参考文献はすべて、その全体を参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造された封鎖ポリ(アリーレンエーテル)、及び
オレフィン性不飽和モノマー
を含んでなる硬化性組成物であって、硬化後の当該組成物の85℃及び相対湿度85%における7日後の吸水量が1重量%未満である、硬化性組成物。
【請求項2】
当該組成物が無水物封鎖剤の加水分解で得られる遊離酸を、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の重量を基準にして、1重量%未満しか含まない、請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】
非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応が有機アミン触媒の存在下で実施され、当該組成物が有機アミン触媒を、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の重量を基準にして、1000重量ppm未満しか含まない、請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記封鎖ポリ(アリーレンエーテル)が次式の封鎖ポリ(アリーレンエーテル)樹脂である、請求項1記載の硬化性組成物。
Q(J−K)
式中、Qは一価、二価又は多価フェノールの残基であり、yは1〜100であり、Jは次式の繰返し構造単位からなり、
【化1】

(式中、R及びRは各々独立に水素、ハロゲン、第一もしくは第二C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アミノアルキル、C〜C12ヒドロキシアルキル、フェニル、C〜C12ハロアルキル、C〜C12ヒドロカルビルオキシ及びハロゲン原子と酸素原子との間に2以上の炭素原子が介在するC〜C12ハロヒドロカルビルオキシからなる群から選択され、R及びRは各々独立にハロゲン、第一もしくは第二C〜C12アルキル、C〜C12アルケニル、C〜C12アルキニル、C〜C12アミノアルキル、C〜C12ヒドロキシアルキル、フェニル、C〜C12ハロアルキル、C〜C12ヒドロカルビルオキシ及びハロゲン原子と酸素原子との間に2以上の炭素原子が介在するC〜C12ハロヒドロカルビルオキシからなる群から選択され、mは1〜約200である。)、Kは以下の式からなる群から選択される封鎖基である。
【化2】

(式中、Rは1又は2個のカルボン酸基で適宜置換されたC〜C12ヒドロカルビルであり、R〜Rは各々独立に水素、C〜C18ヒドロカルビル、C〜C18ヒドロカルビルオキシカルボニル、ニトリル、ホルミル、カルボン酸、イミデート及びチオカルボン酸からなる群から選択され、R〜R13は各々独立に水素、ハロゲン、C〜C12アルキル、ヒドロキシ、アミノ及びカルボン酸からなる群から選択される。)
【請求項5】
前記無水物封鎖剤が次の構造のものである、請求項1記載の硬化性組成物。
【化3】

式中、Yは各々独立に以下の構造のものから選択される。
【化4】

式中、Rは、1又は2個のカルボン酸基で適宜置換されたC〜C12ヒドロカルビルであり、R〜Rは各々独立に水素、1又は2個のカルボン酸基で適宜置換されたC〜C18ヒドロカルビル、C〜C18ヒドロカルビルオキシカルボニル、ニトリル、ホルミル、カルボン酸、イミデート又はチオカルボン酸であり、R〜R13は各々独立に水素、ハロゲン、C〜C12アルキル、ヒドロキシ、アミノ又はカルボン酸である。
【請求項6】
封鎖ポリ(アリーレンエーテル)の製造が、封鎖ポリ(アリーレンエーテル)を貧溶媒から沈殿させることを含む、請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記貧溶媒がイソプロパノールを含む、請求項6記載の硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1記載の硬化性組成物の硬化によって得られる反応生成物を含んでなる硬化組成物。
【請求項9】
請求項8記載の硬化組成物を含んでなる物品。
【請求項10】
硬化性組成物の製造方法であって、当該方法が、
非封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と無水物封鎖剤との反応で製造し、C〜Cアルカノールでの沈殿によって単離した封鎖ポリ(アリーレンエーテル)と
オレフィン性不飽和モノマーと
をブレンドして、硬化性組成物を形成する段階を含み、硬化後の組成物の85℃及び相対湿度85%における7日後の吸水量が1重量%未満である、方法。

【公表番号】特表2007−507592(P2007−507592A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534038(P2006−534038)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/031880
【国際公開番号】WO2005/035625
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】