説明

射出成形布靴の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、布を積層してなる胛被材を撥水・防汚加工した射出成形布靴の製造方法に関し、特に、撥水防汚加工を施した胛被と靴底とが強固な接合状態を確保して接着一体化し得るとともに、撥水防汚性が長期間にわたって持続し得る射出成形布靴の製造方法に関する。
【0002】
【技術背景】一般に、布靴を射出成形法により製造するには、布を積層してなる胛被をラストモールドに吊り込み、このラストモールドにボトムモールドとサイドモールドを適合させて構成されるモールドキャビティ内に熱可塑性樹脂を主体とする靴底材を射出し、靴底を成形すると同時に、該靴底と上記の胛被とを接着一体化する方法が採用されている。ただし、胛被の表布と靴底材とは本来接着性に欠けるため、両者を強固に接着すべく、次のような手法を併用する必要があった。
【0003】(1)の手法:胛被と射出成形される靴底とが接着する部分の胛被の表布に、溶剤系のポリウレタン系接着剤,ポリエステル系接着剤等を刷毛塗り等の方法により塗布し、乾燥した(いわゆる接着剤の部分塗りを行った)後、靴底材を射出し、該接着剤により靴底と胛被とを接着一体化する。
【0004】(2)の手法:特公昭58−29081号公報や特公平3−20241号公報等に見られるように、胛被の表布に原反の段階で、ホットメルト型のポリウレタン系処理剤,ポリエステル系処理剤を30〜50メッシュのグラビアロールで全面処理したり、ナイフコーター等で全面コーティーグ処理したものを裁断,縫製して胛被とし、射出成形により靴底を成形すると同時に、表布のこれらの処理剤により靴底と胛被とを接着一体化する。
【0005】したがって、撥水防汚性の射出成形靴を製造するには、(1),(2)の手法を併用した射出成形工程の終了の後に、胛被表面に撥水剤を刷毛やスプレー等の方法で塗布することで対処せざるを得ない。しかし、胛被表面には、(1),(2)の手法によりポリウレタン系やポリエステル系の接着剤や処理剤が塗布されており、撥水剤は、これらの接着剤や処理剤との密着性が十分でないため、靴を1〜2回程度洗濯することで、撥水防汚性が低下ないしは消失してしまうと言う問題がある。
【0006】また、胛被の表布を、原反の段階で、撥水剤により処理しておくと言う技法も考えられる。しかし、上記したように、撥水剤と(1),(2)の手法によるポリウレタン系やポリエステル系の接着剤や処理剤との密着性が十分でないため、この技法によれば、靴底と胛被との接着強度が極端に低下してしまい、優れた耐久性と、優れた撥水防汚性を長期間にわたって兼備する射出成形靴を製造することは不可能ないしは極めて困難である。
【0007】さらに、ポリウレタン系やポリエステル系の接着剤や処理剤との密着性が十分な撥水剤を開発すると言うことも考えられるが、この開発には多大の費用と時間とが必要であるし、しかも所望の特性を備えた撥水剤の開発が確実にできるとは言えない。
【0008】ところで、本発明者らは、先に、(1),(2)の手法の欠点、すなわち、(1)の手法では、接着剤が所定の接着部分よりはみ出して外観品位を劣化させ、また手作業が主体であることから作業性、生産性が悪く、コストアップの要因となる上、接着安定性に欠ける等の点、(2)の手法では、処理剤の樹脂分により布の織り組織、編み組織が固められて、布の風合いが硬くなり、素材本来の触感が欠如し、特に起毛素材や起毛感のある素材は実質的に使用不可能であり、また素材のカラーが濃色側にシフトしたり、ボケる等して本来のカラーが製品として生かせず、さらには胛被が処理剤で硬化して、胛被のラストモールドへの吊り込み作業が困難になる上、フィットした吊り込みが不可能ないしは極めて困難になる等の点を解消すべく、特殊な組成の靴底材を使用した射出成形靴の製造方法を提案している(特願平3−309839号)。
【0009】この先提案の方法によれば、布を積層してなる胛被材を、(1)や(2)の手法を施すことなく、そのままラストモールドに吊り込んで、靴底材を射出成形するのみで、胛被と靴底との接合強度を十分確保することができ、耐久性に優れるとともに、以上のような種々の欠点のない射出成形靴を得ることができる。
【0010】
【発明の目的】本発明は、この先提案の技術を基礎として踏まえ、上述した優れた撥水防汚性を長期間にわたって保持し得るとともに、優れた耐久性をも兼ね備えた射出成形靴を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【0011】
【発明の概要】すなわち、先提案の特殊な組成の靴底材によれば、(1)や(2)の手法を施さない布を積層してなる胛被材と強固な接着状態を実現するため、胛被材に、原反の段階で、あるいは裁断後や縫製後の段階で、市販の撥水剤による処理を良好に施すことができる。したがって、予め撥水剤による処理を施した胛被材に、先提案の特殊な組成の靴底材を射出成形すれば、優れた撥水防汚性を長期間にわたって保持し得、かつ優れた耐久性をも兼備した射出成形靴を提供することができる。
【0012】本発明は、このような技術的認識の下でなされたもので、熱可塑性樹脂を主成分とする靴底材を射出成形し、布を積層してなる胛被と接着一体化する射出成形布靴の製造方法において、前記胛被がフッ素系撥水剤で処理されたものであって、前記靴底材が、エチレン−塩化ビニル共重合体100重量部に対し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー5〜50重量部および可塑剤80〜120重量部を含み、射出成形時の溶融粘度が、1mm割型ダイスの高化式フローテスターによる190℃,10kg荷重において、10〜10g/cm・secであることを特徴とする。
【0013】また、本発明は、上記のフッ素系撥水剤で処理された胛被の表布が、JISL−1096に規定される気孔容積率が50〜90%で、かつ接着剤処理されていないことをも特徴とする。
【0014】さらに、本発明は、上記の熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、ポリエステルを骨格とした分子量が10〜10のホットメルト型ポリウレタンエラストマーであることをも特徴とする。
【0015】本発明における胛被は、布を積層してなるものであって、例えば、表布と裏布とを接着剤を介して積層したもの、表布と裏布の間に発泡した軟質ポリウレタンフォームを挟んで積層したもの(なお、この場合、接着剤を介して積層する場合と、軟質ポリウレタンフォームの表面を加熱溶融して積層する場合とがある)、表布と裏布の間に補強材として織布や不織布を挟み接着剤を介して積層したもの、表布と裏布を接着しないフリーの状態で重ねたもの等がある。
【0016】本発明では、このような構成の胛被において、表布のみがフッ素系撥水剤で処理されたものであってもよいし、表布とともに裏布もが、さらには間に挟む上記各種の材料もがフッ素系撥水剤で処理されたものであってもよいが、実用的には、表布を処理するだけで充分な撥水・防汚性を得ることができる。処理の時期は、表布、裏布の原反の段階で行ってもよいし、裁断の後、あるいは胛被の形態に縫製した後の段階で行うこともできるが、原反の段階で行うことがコスト的なメリットがある。
【0017】上記のフッ素系撥水剤は、市販のもの、例えば、大日本インキ株式会社製商品名“ディックガード”、住友スリーエム株式会社製商品名“スコッチガード”、旭硝子株式会社商品名“アサヒガード”等が良好に使用できる。これらの撥水剤は、水で希釈して使用される。このときの希釈度合は、あまり高すぎると(撥水剤濃度が低すぎると)、所望の撥水・防汚効果を得るために複数回の処理工程が必要となって、生産効率が低下し、逆にあまり低すぎると(撥水剤濃度が高すぎると)、胛被材と靴底材との接着性を低下させる。したがって、本発明では、フッ素系撥水剤/水=1〜10/100(重量比)の範囲で使用することが適しており、好ましくはフッ素系撥水剤/水=2〜5/100(重量比)の範囲である。
【0018】なお、胛被の撥水剤としては、上記のフッ素系の外に、シリコン樹脂系やジルコニウム塩系等の撥水剤も一般に使用されているが、これらのフッ素系以外の撥水剤を使用すると、例えば、シリコン樹脂系では胛被材と靴底材との接着性が阻害され充分な接着強度が得られないことがあり、ジルコニウム塩系では耐久性に劣るため、本発明ではフッ素系撥水剤を採用するものである。
【0019】また、上記のフッ素系撥水剤には、胛被を構成している布への該撥水剤の浸透性を高めるべく、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤や、アルコール等を少量(具体的には、フッ素系撥水剤と水との合計量の0.01〜10重量%程度)配合することもできる。
【0020】一方、本発明の靴底材を構成するエチレン−塩化ビニル共重合体は、一般に射出成形靴底に用いられる塩化ビニルホモポリマーと異なり、エチレンが共重合されたものであり、エチレンの共重合率は0.5〜10%、好ましくは0.8〜5%の範囲のものが使用できる。エチレンが共重合されることにより、ポリ塩化ビニルの溶融時の粘度が低下し、射出時の流動特性が著しく改善され、フッ素系撥水剤で処理された胛被の表布の気孔部に侵入し、該胛被との接着一体化を容易にするが、エチレンの共重合率が0.5%を下廻ると射出時の流動特性が悪化し、10%を超えると塩化ビニル樹脂本来の特性低下が大きく靴底材として適さないものとなる。
【0021】また、本発明におけるエチレン−塩化ビニル共重合体の重合度は、一般に靴底材として使用されている範囲内であれば全て使用できるが、好ましくは平均重合度800〜4000、さらに好ましくは平均重合度1000〜2500が適している。エチレン−塩化ビニル共重合体の平均重合度が変わると、溶融時の粘度も異なってくるが、平均重合度が800未満であると溶融粘度が低下し、射出時の流動特性が良好となり、フッ素系撥水剤で処理された胛被の表布の気孔部に侵入し易く、該胛被との接着一体化を容易にする反面、靴底材としての物性が低下してしまい、靴底として実用に耐え得ないものとなる。逆に、平均重合度が4000を超えると、靴底材としての物性は良好になるものの、溶融粘度が高く、射出時の流動特性が悪化し、フッ素系撥水剤で処理された胛被との接着一体化が困難となる。
【0022】上記のエチレン−塩化ビニル共重合体に配合される熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、1,4−ブタンジオールアジペート,1,6−ヘキサンジオールアジペート等で代表されるポリアルキレンジアジペートや、ε−カプロラクトンを開環重合したポリカプロラクトン等の代表的なポリエステルに、エチレングリコール,プロピレングリコール,ネオペンチルグリコール,1,3−ブタンジオール,1,4−ブタンジオール,1,5−ペンタンジオール等の低分子量脂肪族グリコール、水添加ビスフェノールAで代表される低分子量脂環族グリコール、エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ピペラジン,イソホロンジアミン,4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の有機ジアミン等の鎖延長剤を必要に応じて使用し、脂肪族,脂環族,または芳香族ジイソシアネートと反応させて得られるものが使用される。なお、このジイソシアネートとしては、靴底の要求特性,カラー等により、無黄変の脂肪族または脂環族を使用したり、黄変タイプの芳香族を使用することができる。
【0023】上記の熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、主成分であるエチレン−塩化ビニル共重合体100重量部に対し、5〜50重量部、好ましくは8〜30重量部を使用する。5重量部未満では、靴底材の射出により靴底を成形すると同時に、該靴底と胛被とを接着一体化する作用、すなわち靴底とフッ素系撥水剤で処理された胛被布とを接着する効果がなくなり、50重量部を超えると射出成形時に射出した靴底材が著しく粘着性を帯び、ボトムモールドやサイドモールドと粘着あるいは接着してしまい、成形作業が困難となる。
【0024】本発明では、好ましくは、上記の熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、ポリエステルを骨格とした分子量が10〜10の範囲、さらに好ましくは2×10〜5×10の範囲のホットメルト型ポリウレタンエラストマーが使用される。この場合、分子量が10未満では、射出成形時の流動特性は良好であるが、射出成形靴底とフッ素系撥水剤で処理された胛被布との接着力が低下し、本発明の目的に合致しなくなり、10より多いと射出時の流動特性が低下し、やはり射出成形靴底と該胛被布との接着特性が低下する。
【0025】本発明において、上記の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを射出成形用靴底材配合物に添加,配合する方法としては、次のような方法が採用できるが、これらに限定されるものではない。
(1)熱可塑性ポリウレタンエラストマーを他の配合成分とともにブレンドし、フルコンパウンドとしてペレット化する。
(2)熱可塑性ポリウレタンエラストマーをエチレン−塩化ビニル共重合体,可塑剤等と予め高濃度に混合しておき(すなわち、マスターバッチ化しておき)、必要量を靴底材コンパウンドに添加する。
(3)熱可塑性ポリウレタンエラストマーを微細化,粉末化して、靴底材コンパウンドに添加し、ペレット化することなく、パウダー状態のままで使用する。
【0026】上記のエチレン−塩化ビニル共重合体および熱可塑性ポリウレタンエラストマーに配合される可塑剤は、通常のポリ塩化ビニル樹脂の配合に使用されるものであれば全て使用することができる。例えば、ジブチルフタレート,ジオクチルフタレート等に代表されるフタル酸誘導体,ジオクチルアジペート等に代表されるアジピン酸誘導体、イソフタル酸誘導体,テトラヒドロフタル酸誘導体,アゼライン酸誘導体,セバシン酸誘導体,マレイン酸誘導体,フマル酸誘導体,トリメリット酸誘導体,クエン酸誘導体,イタコン酸誘導体,オレイン酸誘導体,リノール酸誘導体,ステアリン酸誘導体,リン酸誘導体,グリコール誘導体,グリセリン誘導体,パラフィン誘導体等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0027】また、本発明では、上記のエチレン−塩化ビニル共重合体、熱可塑性ポリウレタンエラストマーおよび可塑剤の外に、安定剤、熱分解型発泡剤、フィラー、顔料、その他適宜の添加剤を配合することができる。このうち安定剤としては、バリウム・亜鉛系安定剤が好ましく使用でき、該バリウム・亜鉛系安定剤としては、ポリ塩化ビニル樹脂に使用されるものであれば全て使用することができ、特に制限はない。バリウム・亜鉛系安定剤は、上記の熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐久性、すなわち耐加水分解性等の物性に影響が少ない安定剤であるとともに、後述する熱分解型発泡剤の分解触媒の働きも兼ねるものである。このバリウム・亜鉛系安定剤とともに、エポキシ樹脂,エポキシ化大豆油,ホスフェート,ホスファイト,酸化防止剤,紫外線吸収剤,水酸化カルシウム,酸化マグネシウム,酸化カルシウム等の安定剤を併用することできるが、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの耐久性(耐加水分解性)に影響を与えるもの、例えば有機錫系,有機鉛系等は使用することは好ましくない。
【0028】以上の各成分を配合してなる靴底材は、射出成形時における溶融粘度が、10〜10g/cm・sec(高化式フローテスター,190℃,10kg荷重,1mm割型ダイス)の範囲内にあることが重要である。射出成形時における溶融粘度は、該靴底材の射出成形により靴底を成形すると同時に、該靴底と、布を積層してなり、かつフッ素系撥水剤で処理された胛被とが接着一体化するために最も重要な要素である。さらに詳述すれば、上記の溶融粘度範囲内にある靴底材は、射出成形時にフッ素系撥水剤で処理された胛被表布の布目および繊維間隙に侵入して、靴底と該胛被布とを接着一体化するために最も重要な投錨(アンカー)効果を実現するとともに、繊維表面との濡れを促進し、該靴底材の配合成分である熱可塑性ポリウレタンエラストマーによる接着効果との相乗作用により、さらに強固な接着を実現する。
【0029】上記の溶融粘度が10g/cm・sec未満であると、射出成形時に溶融した靴底材配合物がモールド嵌合部やモールド擦り合わせ部からバリとして洩れ易くなり、射出成形作業が困難となるとともに、安定した発泡射出成形が難しくなる。また、10g/cm・secを超えると、射出した靴底材配合物がフッ素系撥水剤で処理された胛被表布の布目および繊維間隙に効率良く侵入することが困難となり、靴底材と胛被を接着一体化するために重要な投錨(アンカー)効果が実現できなくなるとともに、繊維面との濡れが充分に行われず、靴底材の配合成分である熱可塑性ポリウレタンエラストマーの効果も充分に発揮できないものとなる。
【0030】本発明において、上記の靴底材配合物を好ましく適用することのできる胛被の表布(胛被の表面に有る布を意味し、多数枚の布を重ねて積層する場合には少なくとも最上層の布を意味する)は、前述のフッ素系撥水剤による処理はなされているが、接着剤による処理はなされていない状態において、JISL−1096に規定される気孔容積率が50〜90%の範囲内にある。この表布は、靴用として一般に使用されている綿,スフ,アクリル繊維,ポリエステル繊維,ナイロン繊維および各繊維の混紡,混織の織布,編布,不織布が使用できる。前述の投錨(アンカー)効果を高めるためには、合成繊維においては、フィラメント系の繊維より、短繊維,ステープル系繊維による織布,編布,不織布が好ましい。なお、JISL−1096に規定される気孔容積率は、下式により表すことができる。
【0031】
【数1】


【0032】胛被の表布の気孔容積率は、50〜90%の範囲であり、この範囲において前述の射出時における靴底材溶融物が胛被表布の布目および繊維間隙に効率良く侵入して、靴底と胛被を接着一体化するために重要な投錨(アンカー)効果を実現し、さらに繊維表面との濡れを容易にして、靴底材の配合成分である熱可塑性ポリウレタンエラストマーの接着効果を発揮させ易くし、強固な接着一体化を容易に実現する。
【0033】気孔容積率が50%未満であると、射出時における靴底材溶融物が胛被表布の布目および繊維間隙に効率良く侵入できず、靴底材と胛被を接着一体化することが困難となる。また、気孔容積率が90%を超えると、胛被の表布の物性が靴用としては適さないものとなり、実質的に製靴することは不可能となる。
【0034】
【実施例】以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例1(1)胛被の作成組織が(20/2×16/3)/(70×24),気孔容積率68%の綿平織り織布を表布とし、これを、表1に示す組成に調整し、ディップ槽に投入したフッ素系撥水剤中に浸漬し(ディップし)、ゴムロール間を通して絞り(ニップし)、再度ディップし、ニップすると言う2ディップ,2ニップ加工を行い、120〜140℃の熱風乾燥を約1分間行い、さらに180℃で1分間のキュアリングを行った。
【0035】
【表1】


【0036】上記のようにして撥水・防汚処理を施した表布に、スフ綾織りの織布を裏布として、溶剤系天然ゴムで貼合せて原反を製造した。この原反を、裁断,縫製後、中底材を逢着し、一般にカリフォルニア甲と呼ばれる袋状の胛被を得た。
【0037】(2)射出成形用靴底材配合物熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、ポリヘキサンアジペート,1,4−ブタンジオール,ヘキサメチレンジイソシアネートからなる平均分子量4×10のポリウレタンエラストマーのペレットを塊状重合法により得た。このエラストマーを用いた射出成形靴底材配合物を表2の配合にてドライブレンド法によりコンパウンディングした後、バンバリーで混練し、単軸押出機でホットカット法によりペレット化した射出成形靴底材コンパウンドを得た。このコンパウンドの190℃における溶融粘度は、9×10g/cm・sec(高化式フローテスター,10kg荷重,1mm割型ダイス)であり、本発明の目的に合致するものであった。
【0038】
【表2】


【0039】(3)製靴上記の(1)により得た胛被を、ラストモールドに吊り込み、該ラストモールドにサイドモールドおよびボトムモールドを適合させて靴底成形用キャビティを形成した。このキャビティ内に、上記の(2)で得た射出成形靴底材コンパウンドを射出成形機にて射出温度190℃で射出し靴底を成形すると同時に、該靴底を胛被に底付し(すなわち、胛被と靴底とを接着一体化し)、冷却後、靴製品を得た。
【0040】このようにして製造された靴製品は、従来から行われていた胛被表布の接着剤処理が施されていないため、胛被表布の風合いはもとより、カラー発色性も良好であるのみならず、胛被がラストモールドに良くフィットし、靴としての仕上がりも良好かつ美麗であった。また、胛被と靴底との接着強度も3.5kg/cmあり、靴として全く問題のないものであった。
【0041】上記の靴製品について、市販の洗濯機で洗剤洗い10分、水洗い5分を洗濯1回として表3に示す回数の洗濯を行い、各回数毎に撥水防汚性を調べ、この結果を表3に示した。比較のために、上記(1)の撥水防汚処理を表布の原反の段階で行わずに、上記(2)で得た射出成形靴底材コンパウンドを上記(3)の製靴工程で射出し、靴底を成形すると同時に胛被と接着一体化し、冷却して得た靴製品の胛被部に、表1に示す組成のフッ素系撥水剤をスプレー処理したものについても、上記と同様にして洗濯を行い、撥水防汚性を調べ、この結果を表3に併せて示した。
【0042】なお、表3の撥水防汚性は、JISL−1092の撥水度試験に準じて撥水度を測定し、胛被表面のいずれにも湿潤状態を示さないものを○とし、胛被表面積の1/2以下の面積に湿潤状態を示すものを△とし、胛被表面積の1/2以上の面積に湿潤状態を示すものを×として評価した。
【0043】
【表3】


【0044】実施例2(1)胛被の作成組織が(10/2×10/2)/(45×34),気孔容積率73%の綿平織り織布を表布とし、これを実施例1と同様にして撥水防汚処理を施した後、ウレタンフォーム(厚味3mm)とナイロントリコットハーフを片面ラミネートした複合材を裏材として、溶剤系天然ゴム貼合糊(目付量400g/m)で貼合せ、乾燥後、加硫し、胛被用貼合せ原反を得た。この原反を裁断,縫製後、中底材を逢着し、一般的にカリフォルニア甲と呼ばれる袋状の胛被を得た。
【0045】(2)射出成形用靴底材配合物熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、ポリカプロラクトン,1,4−ブタンジオール,イソホロンジイソシアネートからなる平均分子量6×10のポリウレタンエラストマーを溶融重合法により製造し、脱溶媒後、フレーク状のエラストマーを得た。このエラストマーを用いた射出成形靴底材配合物を表2の配合にてドライブレンド法によりコンパウンディングした後、バンバリーで混練し、単軸押出機でホットカット法によりペレット化した射出成形靴底材コンパウンドを得た。このコンパウンドの190℃における溶融粘度は、3×10g/cm・sec(高化式フローテスター,10kg荷重,1mm割型ダイス)であった。
【0046】
【表4】


【0047】(3)製靴上記の(1)により得た胛被と、(2)により射出成形用靴底材配合物とにより、実施例1と同様にして製靴し、靴製品を得た。
【0048】このようにして製造された靴製品は、従来から行われていた胛被表布の表面処理が施されていないため、胛被の風合い,カラー発色性とも良好であるのみならず、胛被がラストモールドに良くフィットし、靴としての仕上がりも美麗であった。また、胛被と射出成形靴底との接着強度も3.3kg/cmあり、靴として良好な強度であり、本発明の目的に合致するものであった。
【0049】上記の靴製品について、実施例1と同様にして洗濯を行い、撥水防汚性を調べたところ、表3の実施例1の場合と同様の結果を得た。比較のために、上記(1)の撥水・防汚処理を表布の原反の段階で行わずに、上記(2)で得た射出成形靴底材コンパウンドを、上記(3)の製靴工程において、射出し、靴底を成形すると同時に胛被と接着一体化し、冷却して得た靴製品の胛被部に、表1に示す組成のフッ素系撥水剤をスプレー処理したものについても、上記と同様にして洗濯を行い、撥水防汚性を調べところ、表3のスプレー処理による靴の場合と同様の結果を得た。
【0050】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、先提案の技術、すなわち、胛被表布に接着剤を塗布したり、あるいは接着剤により表面処理することなく、射出成形布靴の製造技術上最も重要な胛被と射出成形靴底との接着一体化を可能とする技術を基礎として踏まえることにより、胛被材の原反の段階で市販のフッ素系撥水剤による撥水防汚加工を施すことができるため、持続性の高い良好な撥水防汚性を備えるとともに、優れた耐久性をも有する射出成形靴を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性樹脂を主成分とする靴底材を射出成形し、布を積層してなる胛被と接着一体化する射出成形布靴の製造方法において、前記胛被がフッ素系撥水剤で処理されたものであって、前記靴底材が、エチレン−塩化ビニル共重合体100重量部に対し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー5〜50重量部および可塑剤80〜120重量部を含み、射出成形時の溶融粘度が、1mm割型ダイスの高化式フローテスターによる190℃,10kg荷重において、10〜10g/cm・secであることを特徴とする射出成形布靴の製造方法。
【請求項2】 フッ素系撥水剤で処理された胛被の表布が、JISL−1096に規定される気孔容積率が50〜90%で、かつ接着剤処理されていないことを特徴とする請求項1記載の射出成形布靴の製造方法。
【請求項3】 熱可塑性ポリウレタンエラストマーが、ポリエステルを骨格とした分子量が10〜10のホットメルト型ポリウレタンエラストマーであることを特徴とする請求項1,2記載の射出成形布靴の製造方法。

【特許番号】第2589250号
【登録日】平成8年(1996)12月5日
【発行日】平成9年(1997)3月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−239049
【出願日】平成4年(1992)8月15日
【公開番号】特開平6−62907
【公開日】平成6年(1994)3月8日
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)