説明

射出成形方法及び射出成形用金型

【課題】穴を有する成形品における樹脂材料の会合部に生ずる外観不具合(ウェルドライン)を抑制できること。
【解決手段】成形品に穴を形成するキャビティ14を備え、添加物が添加された樹脂材料1をキャビティ14内に充填させることで成形品を射出成形する射出成形用金型10であって、キャビティ14は、樹脂材料1が穴を形成すべく分岐して流れた後に会合するよう形成され、また、樹脂材料1の会合位置近傍に設けられた開口21を介してキャビティ14に連通する逃し空間20が設けられ、この逃し空間20内にキャビティ14内の樹脂材料が流入可能とされ、更に、開口21を開閉する開閉ピン22及びシリンダ装置23が設けられ、開閉ピン22は、キャビティ14内で樹脂材料1が会合した直後または会合する直前に開口21を開き、キャビティ14内で会合した樹脂材料1を、開口21を経て逃し空間20側へ流動させるよう構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の形状に起因して樹脂材料の会合部で生ずる外観不具合(ウェルドライン)を抑制するための射出成形方法及び射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光輝材を有する樹脂材料を射出成形する際に、隣り合うゲートから射出される樹脂材料の会合部を、射出充填時の圧力差を利用して流動させてずらし、光輝材の配向を揃えるようにした射出成形方法が開示されている。
【0003】
この場合、樹脂材料の会合部を流動させる機構は、複数のゲートの径を異ならせたり、各ゲートを開閉するタイミングに時間差を設けることで、樹脂材料の充填時に圧力差を生じさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−140206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述の特許文献1に記載の射出成形方法は、2以上の多点ゲートから樹脂を射出する際に生ずる樹脂の会合に対する対策であり、この会合部に生ずる成形品のウェルドラインを抑制するものである。
【0006】
従って、穴を有する成形品(リング形状の成形品を含む)を、例えば単一のゲートから樹脂材料を射出することで成形する際には、前記特許文献1に記載の技術を適用することができない。
【0007】
穴を有する成形品を射出成形する際には、金型のキャビティ内で樹脂材料が、成形品に穴を形成すべく分岐して流れた後に会合したとき、その会合部に成形品においてウェルドラインが発生しやすい。樹脂材料に光輝材などの添加物が添加された場合には、上記ウェルドラインが顕著になる。
【0008】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、穴を有する成形品における樹脂材料の会合部に生ずる外観不具合(ウェルドライン)を抑制できる射出成形方法及び射出成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る射出成形方法は、成形品に穴を形成する射出成形用金型のキャビティ内に、添加物が添加された樹脂材料を充填して前記成形品を射出成形する射出成形方法であって、前記樹脂材料が前記キャビティ内を、前記穴を形成すべく分岐して流れた後に会合する際、この会合した直後または会合する直前に、この会合位置近傍に設けられて前記キャビティを逃し空間に連通させる開口を開き、前記キャビティ内で会合した前記樹脂材料を、前記開口を経て前記逃し空間側へ流動させることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る射出成形用金型は、成形品に穴を形成するキャビティを備え、添加物が添加された樹脂材料を前記キャビティ内に充填させることで前記成形品を射出成形する射出成形用金型であって、前記キャビティは、前記樹脂材料が前記穴を形成すべく分岐して流れた後に会合するように形成され、また、前記樹脂材料の会合位置近傍に設けられた開口を介して前記キャビティに連通する逃し空間が設けられ、この逃し空間内に前記キャビティ内の樹脂材料が流入可能とされ、更に、前記開口を開閉する開閉手段が設けられ、この開閉手段は、前記キャビティ内で前記樹脂材料が会合した直後または会合する直前に前記開口を開き、前記キャビティ内で会合した前記樹脂材料を、前記開口を経て前記逃し空間側へ流動させるよう構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る射出成形方法及び射出成形用金型によれば、添加物が添加された樹脂材料がキャビティ内で会合したとき、会合部の樹脂材料が逃し空間側へ一方向に流動するので、会合部に生じた添加物の配向差が解消または緩和する。この結果、穴を有する成形品における樹脂材料の会合部に生ずる、樹脂材料中の添加物の配向差に起因する外観不具合(ウェルドライン)を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る射出成形用金型の一実施形態を示す縦断面図。
【図2】図1のII−II線に沿う矢視図。
【図3】図1のキャビティ内に充填された樹脂材料中の添加物(光輝材)の配向状況を示す樹脂材料の断面図であり、(A)が樹脂材料が会合したときの断面図、(B)が樹脂材料の会合部が一方向に流動したときの断面図。
【図4】図1のキャビティ内を流れる樹脂材料を模式的に示す斜視図。
【図5】図1のキャビティ内で会合した樹脂材料が会合部の主に左側領域でヒータにより加熱される状況を模式的に示す斜視図。
【図6】図1の開口が開放された状態を模式的に示す斜視図。
【図7】図1の逃し空間内へキャビティ内の樹脂材料を流動させている状況を模式的に示す斜視図。
【図8】図1の射出成形用金型により射出成形された成形品を示す斜視図であり、(A)が穴を有する成形品の斜視図、(B)がリング形状の成形品の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る射出成形用金型の一実施形態を示す縦断面図である。この図1に示す射出成形用金型10は、射出成形機13から溶融した樹脂材料1が供給される固定型11と、この固定型11に対して移動可能に組み合わされる可動型12とを備えて構成される。
【0014】
これらの固定型11と可動型12との接合位置にキャビティ14が形成される。本実施形態では、固定型11の接合面11Aは略平坦面に形成され、可動型12の接合面12Aに、図2にも示すように、凸部15の周囲に凹部16が形成される。可動型12の凹部16が、可動型12の凸部15と固定型11の接合面11Aとに囲まれて、成形品5(図8(A))に穴6を形成する前記キャビティ14が構成される。
【0015】
また、可動型12の接合面12Aに、キャビティ14に連通してゲート17が形成され、固定型11の接合面11Aに、ゲート17に連通してランナー18が形成され、このランナー18が射出成形機13に連通して接続される。この射出成形機13から、添加物2に(図3)が添加された溶融状態の樹脂材料1が、ランナー18、ゲート17を順次経てキャビティ14内に射出されて充填され、穴6を有する成形品5(図8(A))が射出成形される。
【0016】
ここで、キャビティ14は、図2の矢印Aに示すように、ゲート17から射出された溶融状態の樹脂材料1が、成形品5に穴6を形成すべく、可動型12の凸部15の手前で分岐して流れ、凸部15の周囲を通過した後に会合するように形成されている。この樹脂材料1の会合部を符号Bで示す。また、前記穴6を有する成形品5は、図8(B)に示すリング形状の成形品7を含む。
【0017】
キャビティ14に充填される樹脂材料1には、前述のように添加物2(図3)が添加されるが、この添加物2は、鱗片形状もしくは針形状の光輝材または顔料である。光輝材としては、例えばアルミニウム粉、マイカ、ガラス粉などがある。これらの光輝材は一般的に鱗片形状であり、光の反射、透過、屈折などの作用で成形品5に光沢感を与えるものである。また、顔料としては、例えばフタロシアニンブルーやフタロシアニングリーンなどがある。これらの顔料は針形状であり、光の反射、透過、屈折などの作用で成形品5に色味を与えるものである。
【0018】
また、樹脂材料は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などの結晶性樹脂や、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリルニトリル・エチレンプロピレンジエン・スチレン共重合体(AEPDS)などの非晶性樹脂の熱可塑性樹脂である。結晶性樹脂は融点以上、非晶性樹脂はガラス転移点以上の温度で塑性変形可能になる。
【0019】
ところで、前記射出成形用金型10は、図1及び図2に示すように、キャビティ14のほかに、加熱手段としてのヒータ19、逃し空間20、逃し空間20をキャビティ14に連通する開口21、この開口21を開閉する開閉手段としての開閉ピン22及びシリンダ装置23を有する。
【0020】
ヒータ19は、キャビティ14内の樹脂材料1を、この樹脂材料1の会合部Bを含む会合部Bの片側領域、例えば会合部Bを含む会合部Bの左側領域24で加熱するように、固定型11と可動型12にキャビティ14を挟んで対向して設置される。このヒータ19により、キャビティ14内の樹脂材料1は、塑性変形可能なガラス転移点または融点以上の温度に加熱される。このヒータ19による加熱は、射出成形機13によるキャビティ14内への樹脂の射出前から、または射出中に実施される。
【0021】
ヒータ19により加熱される領域を図5のハッチングで示す。即ち、このヒータ19によって、キャビティ14内の樹脂材料1は、会合部Bの左側領域24と、会合部Bと、会合部Bの他の片側領域(例えば会合部Bの右側領域25)の会合部B近傍部分とが加熱される。このヒータ19により加熱された領域の樹脂材料1は、圧力の作用により流動するが、加熱されていない領域の樹脂材料1は、固化が促進されて、圧力の作用によっても流動しにくくなる。
【0022】
図1及び図2に示す逃し空間20は、キャビティ14に隣接して可動型12に形成され、樹脂材料1の会合部B近傍に設けられた前記開口21を介してキャビティ14に連通する。この開口21が開放されたときに、キャビティ14内の樹脂材料1が逃し空間20内に流入可能に設けられる。前記開口21は、ヒータ19により加熱される樹脂材料1の会合部Bの左側領域24とは反対の右側領域25で、樹脂材料1がヒータにより加熱される会合部B近傍箇所に形成される。
【0023】
また、逃し空間20は、可動型12に常時空洞として形成されていてもよいが、樹脂材料1の流入時以外には例えばブロックが収納され、樹脂材料1の流入時にのみ前記ブロックが移動して空洞を形成してもよい。
【0024】
開閉ピン22及びシリンダ装置23は可動型12に設置され、シリンダ装置23が開閉ピン22を昇降動作させることで、この開閉ピン22が開口21を開閉する。開閉ピン22は、キャビティ14内で樹脂材料1が会合した直後、または会合する直前に開口21を開き、キャビティ14内で会合した樹脂材料1を、開口21を経て逃し空間20側へ移動させる。尚、上述の樹脂材料1の会合直前は、例えば会合の0.1または0.2秒前などである。
【0025】
キャビティ14内で樹脂材料1が会合したとき、樹脂材料1に添加された鱗片形状または針形状の添加物2は、図3(A)に示すように、樹脂材料1の会合部Bにおいて、その配向方向が他の部分と異なり、面方向(添加物2が鱗片形状の場合)または長軸方向(添加物2が針形状の場合)が樹脂材料1の流れ方向Cに対して略直交する。このため、成形品5、7においては、樹脂材料1の会合部Bで光の反射強度や反射角度が他の箇所と異なり、ウェルドラインD(図8)と称される外観不具合が発生しやすい。
【0026】
本実施形態では、キャビティ14内で樹脂材料1が会合した直後または直前に開口21が開くので、ヒータ19により加熱された領域で、開口21が設けられた右側領域25の会合部B近傍部分の圧力が、左側領域24の圧力よりも低くなる。この結果、図3(B)に示すように、ヒータ19により加熱された領域で、キャビティ14内の樹脂材料1は、開口21を経て逃し空間20へ流入し、会合部Bの樹脂材料1が逃し空間20側へ一方向に流動する。これにより、会合部Bの樹脂材料1中の添加物2は、その面方向(添加物2が鱗片形状の場合)または長軸方向(添加物2が針形状の場合)が樹脂材料1の流れの向きに変更されて、その配向が整えられる。このため、樹脂材料1内での添加物2の配向差が緩和または解消するので、前記外観不具合(ウェルドラインD)の発生が抑制される。
【0027】
次に、図4〜図7を用いて、射出成形用金型10を用いた射出成形方法について説明する。
【0028】
図4に示すように、射出成形用金型10のキャビティ14にゲート17から樹脂材料1を射出して充填すると、この樹脂材料1は、成形品5、7に穴6(共に図8)を形成すべく、矢印Aに示すように分岐して流れた後会合する。
【0029】
図5に示すように、樹脂成形用金型10のヒータ19は、キャビティ14への樹脂材料1の充填中または充填前から、樹脂材料1の会合部Bの左側領域24、会合部B、及び樹脂材料1の会合部Bの右側領域25における会合部B近傍部分を、ガラス転移点または融点以上の温度に加熱する。
【0030】
図6に示すように、キャビティ14内で樹脂材料1が会合した直後または会合する直前に、この会合部B近傍に設けられた開口21を、シリンダ装置23を作動させて開閉ピン22により開放させ、キャビティ14と逃し空間20とを連通させる。
【0031】
これらの逃し空間20とキャビティ14との連通により、図7に示すように、キャビティ14内でヒータ19により加熱された樹脂材料1が、キャビティ14内での圧力差によって開口21を経て逃し空間20内へ流入し、会合部Bの樹脂材料1が逃し空間20側へ一方向に流動する。これにより、樹脂材料1の会合部Bにおける添加物2の配向が樹脂材料1の流れの方向Cに変更されて整えられる。
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果を奏する。
【0032】
添加物2が添加された溶融状態の樹脂材料1がキャビティ14内で会合した直後または直前に、開閉ピン22により開口21が開放されるので、会合部Bの樹脂材料1が逃し空間20側へ一方向に流動し、この会合部Bに生じた添加物2の配向差が解消または緩和する。この結果、図8の穴6を有する成形品5における樹脂材料1の会合部Bに生ずる、樹脂材料1中の添加物2の配向差に起因する外観不具合(ウェルドラインD)を抑制できる。
【0033】
このため、成形品5、7の品質を確保でき、またはウェルドラインDを隠すために成形品5、7に塗装を施す必要がなくなる。このように成形品5、7を無塗装化できることで、塗装工程を廃止してコストを低減できると共に、塗装による環境負荷物質の大気中への排出を回避できる。
【0034】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 樹脂材料
2 添加物
5、7 成形品
6 穴
10 射出成形用金型
14 キャビティ
19 ヒータ(加熱手段)
20 逃し空間
21 開口
22 開閉ピン(開閉手段)
23 シリンダ装置(開閉手段)
24 左側領域(片側領域)
25 右側領域(他の片側領域)
B 会合部
D ウェルドライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品に穴を形成する射出成形用金型のキャビティ内に、添加物が添加された樹脂材料を充填して前記成形品を射出成形する射出成形方法であって、
前記樹脂材料が前記キャビティ内を、前記穴を形成すべく分岐して流れた後に会合する際、この会合した直後または会合する直前に、この会合位置近傍に設けられて前記キャビティを逃し空間に連通させる開口を開き、
前記キャビティ内で会合した前記樹脂材料を、前記開口を経て前記逃し空間側へ流動させることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記キャビティ内の樹脂材料を、この樹脂材料の会合部を含む会合部の片側領域で、前記樹脂材料を塑性変形可能な温度以上に加熱することを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記添加物が光輝材または顔料であることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
成形品に穴を形成するキャビティを備え、添加物が添加された樹脂材料を前記キャビティ内に充填させることで前記成形品を射出成形する射出成形用金型であって、
前記キャビティは、前記樹脂材料が前記穴を形成すべく分岐して流れた後に会合するように形成され、
また、前記樹脂材料の会合位置近傍に設けられた開口を介して前記キャビティに連通する逃し空間が設けられ、この逃し空間内に前記キャビティ内の樹脂材料が流入可能とされ、
更に、前記開口を開閉する開閉手段が設けられ、この開閉手段は、前記キャビティ内で前記樹脂材料が会合した直後または会合する直前に前記開口を開き、前記キャビティ内で会合した前記樹脂材料を、前記開口を経て前記逃し空間側へ流動させるよう構成されたことを特徴とする射出成形用金型。
【請求項5】
前記キャビティ内の樹脂材料を、この樹脂材料の会合部を含む会合部の片側領域で、前記樹脂材料を塑性変形可能な温度以上に加熱する加熱手段を備えたことを特徴とする請求項4に記載の射出成形用金型。
【請求項6】
前記開閉手段が開閉する開口は、加熱手段により加熱される会合部の片側領域とは反対の他の片側領域で、樹脂材料が前記加熱手段により加熱される箇所に設けられたことを特徴とする請求項5に記載の射出成形用金型。
【請求項7】
前記添加物が光輝材または顔料であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の射出成形用金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−91227(P2013−91227A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234258(P2011−234258)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】