説明

射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置及びバルブピンの速度制御方法

【課題】 射出成形機の、バルブゲートを開閉するバルブピンの高速作動において、ゲート閉塞時のバルブピンの低速化を意図してゲート損傷を無くすようにした射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置及びバルブピンの速度制御方法の提供。
【解決手段】 射出操作の都度、ゲート2を開閉するバルブピン3の頭部に有するピストン4をシリンダー5内で作動流体により往復動させてゲート2と通ずるキャビティ内の溶融樹脂を閉塞して冷却固化させて成形できるようにした射出成形機において、前記ピストン4のゲート2側に向う作動流体の作動面4aと、この作動面4aと相対向するシリンダー5の作動流体の流通路との間に設けた作動流体の排出量減少調節機構Aによりシリンダー5の流通路よりの流通量をバルブピン3の先端がゲート開口部に係入前より減少させてバルブピン3のゲート係入速度を遅延させるようにして成ることを特徴とするバルブピンの速度制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機に設けられるバルブピンのゲートに係入して溶融樹脂の射出操作を停止するための係入速度を遅延できるようにした射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置及びバルブピンの速度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機のキャビティに通ずるゲートは、射出された溶融樹脂の流出を防ぐために確固に閉塞されないと高精度の成形品が得られない。
【0003】
ゲートを閉じる構成として幾多の構成が知られるが、一般的にはバルブピンが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、バルブピンを移動させる構成としては油圧又は空気圧などを用いてバルブピンの端部に設けられるピストンを金型内のシリンダー内に摺動自在に配設して射出成形操作に関連して摺動させ、バルブピンのピン先端をゲートに係入又は離開させている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−170977号公報
【特許文献2】特開2010−269585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の特許文献2に開示されているバルブピンによるゲート閉塞又は離開は、一定速度で往復動するピストン操作に基づいて、バルブピンがゲートの閉止,解放が行われているので、高速作動が求められている現今にあっては、バルブピンが作動する閉塞時のゲートに対する閉塞速度は急速化せざるを得ず、概してゲートに急激に衝突する不都合を生じ、切損などの予期せぬ重大な故障が生ずるという問題があった。
【0007】
本発明は叙上の点に着目して成されたもので、ピストンシリンダ構成の往復駆動を行うバルブピンのゲートを閉塞する際の作動速度を、ゲート近傍で遅延させてゲートへの確実な係入を補償してゲートとの急激な衝突などを回避できるようにした射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置及びバルブピンの速度制御方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は下記の構成を備えることにより上記課題を解決できるものである。
【0009】
(1)射出操作の都度、ゲートを開閉するバルブピンの頭部に有するピストンをシリンダー内で作動流体により往復動させてゲートと通ずるキャビティ内の溶融樹脂を閉塞して冷却固化させて成形できるようにした射出成形機において、前記ピストンのゲート側に向う作動流体の作動面と、この作動面と相対向するシリンダーの作動流体の流通路との間に設けた作動流体の排出量減少調節機構によりシリンダーの流通路よりの流通量をバルブピンの先端がゲート開口部に係入前より減少させてバルブピンのゲート係入速度を遅延させるようにして成ることを特徴とするバルブピンの速度制御装置。
【0010】
(2)排出量減少調節機構は、ピストンのゲート側に向う作動面に突設する流量調節杆と、この流量調節杆と相対向するシリンダーのゲート側の一面に設けられる作動流体の流通路との間に形成され、前記流量調節杆が前記流通路内に係入する過程で流量を減少させることができるようにして成ることを特徴とする前記(1)記載の射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置。
【0011】
(3)流量調節杆は、テーパー面などの凹状表面で形成して成ることを特徴とする前記(2)記載の射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置。
【0012】
(4)射出操作に際し、シリンダー内に配設されるピストンを作動流体により往復動させてピストンに設けたバルブピンの先端でキャビティのゲートを開閉させると共に、バルブピンがゲートを閉じる過程でバルブピンの先端がゲートに近接した以降、移動速度を遅延させてゲートを閉止できるようにして成ることを特徴とする射出成形機におけるバルブピンの速度制御方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バルブピンのゲートに対する往復動に際し、ゲートに近接するまではバルブピンは高速移動されるが、ゲート係入過程では低速となり遅延されるので、バルブピンが衝撃的にゲートに侵入することなく緩やかな低速で係入でき、従って、ゲートを破損することがなく、安心して成形操作を行わせることができる。
【0014】
又、ゲートの低速化は、ピストンのシリンダー内での排出する作動流体の絞り構成で行えば良く、高価な部品を付設するなどの、面倒で手間な作業を省いて簡単に実施できる。
【0015】
さらに、流通路へ排出される作動流体の排出量減少調節機構は、形状,構造を変えることにより流通量を変更でき、これによりバルブピンのゲート内での遅延速度を自由に変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置の一実施例を示す主な構成と、その構成の要部の拡大部分を併記した断面図
【図2】同上の構成の作動過程を示す主な構成と、その要部の拡大部分を併記した断面図
【図3】同上の構成のバルブピンによるゲート閉塞過程を示す主な構成と、その要部の拡大部分を併記した断面図
【図4】同上構成において、ピストンに設けられる流量調節杆の流通路への作動過程を示す要部の過程図で、(a)作動始動時、(b)作動過程時、(c)最終段階時の構成を示す
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施例を図面と共に説明する。
【実施例】
【0018】
1は、射出成形機を構成する金型、2はキャビティに通ずるゲート、3は前記ゲート2を開閉するバルブピン、4は前記バルブピン3の基端に設けられるピストン、5は前記ピストン4が配設されるシリンダー、6は前記ゲート2に連通される溶融樹脂の流通する溶融樹脂流路を示し、射出成形機で射出操作される溶融樹脂が滞溜している。
【0019】
前記シリンダー5にはピストン4を挟んで油圧又は空気圧などの作動流体が流入又は排出される流通路7,8が設けられている。
【0020】
そして、一方の流通路8にはピストン4の作動面4aと相対向するシリンダー5の対向面5aに開口孔8aを開口し、ピストン4の前記作動面4aに設けられる流量調節杆9と係合可能となっていて、作動流体の排出量減少調節機構Aを構成している。
【0021】
そして、流量調節杆9と前記開口孔8aとは、ピストン4がシリンダー5の対向面に近づくにつれて、流量調節杆9の先端が開口孔8aの開口面に達するまでは、作動流体は開口孔8aの開口面積に応じた流量で排出されるので、ピストン4は一定の高速度で移動するが、流量調節杆9が係入されると開口孔8aは流量調節杆9の外周面との間隙部分gのみの開口面積となり、急激に流量は逓減し、これに伴いピストン4のシリンダー5内での移動速度は減じ、その結果、バルブピン3の先端はゲート2内に対し遅延した速度で係入される。
【0022】
従って、バルブピン3の先端3aは正しくゲート2内に係入されると共に、ゲート2を傷付けることはなく、反覆射出成形を行わせることができる。
【0023】
なお、作動流体の排出量の排出量減少調節機構Aの流量調節杆9の外周面は、テーパー面,D形面などの好みの凹状表面fを形成でき、流通路8との間隙部分gを形成できる。
【0024】
さらに、詳細に作用を説明する。
【0025】
射出成形機の射出操作に際し、溶融樹脂は金型1内に設けられた溶融樹脂流路6を通り、バルブピン3の外周を通り、ゲート2よりキャビティ内に射出され、所望の成形品を得ることができる。
【0026】
ゲート2より溶融樹脂がキャビティ内に射出されると、バルブピン3の先端はゲート2内に係入されるが、この係入速度は、バルブピン3のピストン4がシリンダー5内での移動速度と連動しているので、閉塞作用に誤差を生じることはない。
【0027】
即ち、ピストン4の作動流体の排出量減少調節機構Aの流量調節杆9が流通路8の開口孔8a近くまで移動し、開口孔8a内に侵入すると、作動流体の流量は急速に絞られ、ピストン4の移動速度は低下する。
【0028】
従って、このピストン4と連動するバルブピン3の先端はゲート2の開口近くで閉止速度は急速に減じ、ゲート2内を移動するバルブピン4の先端はゲート2内を緩やかな低速となって移動し、ゲート2を閉じることができる。
【0029】
即ち、バルブピン3の先端はゲート2の開口端で急速に速度が低下し、ゲート2に対して緩やかな閉止操作を行わせることができる。
【0030】
従って、急速な閉止速度による閉止が回避され、安全な低速での閉止が行われる。
【0031】
なお、キャビティ内で成形された製品は、従来方法と同様にバルブピン3はゲート2より離れ、離型処理され、金型より離れて取り出される。
【0032】
バルブピンを作動させるピストンは、作動流体のシリンダー内での作動圧で往復動させられ、ゲート2とのバルブピン3のゲート2への係合時以降において、排出量減少調節機構Aによって自動的に低速化されるので、低速化のための特別な機構を付設する必要はなく、かつ繰り返し、反覆して行われる射出成形操作の下にバルブピン3は低速でゲート2の閉塞作用を行わせることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 金型
2 ゲート
3 バルブピン
3a バルブピンの先端
4 ピストン
4a 作動面
5 シリンダー
5a 対向面
6 溶融樹脂流路
7,8 流通路
8a 開口孔
9 流量調節杆
A 排出量減少調節機構
g 間隙部分
f 凹状表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出操作の都度、ゲートを開閉するバルブピンの頭部に有するピストンをシリンダー内で作動流体により往復動させてゲートと通ずるキャビティ内の溶融樹脂を閉塞して冷却固化させて成形できるようにした射出成形機において、前記ピストンのゲート側に向う作動流体の作動面と、この作動面と相対向するシリンダーの作動流体の流通路との間に設けた作動流体の排出量減少調節機構によりシリンダーの流通路よりの流通量をバルブピンの先端がゲート開口部に係入前より減少させてバルブピンのゲート係入速度を遅延させるようにして成ることを特徴とするバルブピンの速度制御装置。
【請求項2】
排出量減少調節機構は、ピストンのゲート側に向う作動面に突設する流量調節杆と、この流量調節杆と相対向するシリンダーのゲート側の一面に設けられる作動流体の流通路との間に形成され、前記流量調節杆が前記流通路内に係入する過程で流量を減少させることができるようにして成ることを特徴とする請求項1記載の射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置。
【請求項3】
流量調節杆は、テーパー面などの凹状表面で形成して成ることを特徴とする請求項2記載の射出成形機におけるバルブピンの速度制御装置。
【請求項4】
射出操作に際し、シリンダー内に配設されるピストンを作動流体により往復動させてピストンに設けたバルブピンの先端でキャビティのゲートを開閉させると共に、バルブピンがゲートを閉じる過程でバルブピンの先端がゲートに近接した以降、移動速度を遅延させてゲートを閉止できるようにして成ることを特徴とする射出成形機におけるバルブピンの速度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91211(P2013−91211A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233946(P2011−233946)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(390029218)世紀株式会社 (11)
【Fターム(参考)】