説明

射出成形機のログイン方法および射出成形機

【課題】
安全性が高く簡易な方法によってログインすることができ、操作者毎に操作可能な範囲を設定できる射出成形機のログイン方法を提供する。
【解決手段】
射出成形機(1)において操作者の認証は、識別番号(15)が記録されたIDカード(13)によって行うように構成する。識別番号(15)は、IDカード読み取り機(11)によって非接触で読み取り、コントローラ(2)内の操作者定義ファイル(12)を照会して、登録されているか否かをチェックする。このようにして認証された操作者には、操作者定義ファイル(12)に定義されている情報に従って、操作可能な操作内容だけを実施できるように許可する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機を操作するために認証を受けるログイン方法、および射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、従来周知のように、加熱シリンダと該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなる射出装置、一対の金型、これらの金型を型締する型締装置、成形品を突き出すエジェクタ装置、等から構成され、これらの装置はコントローラによって制御されるようになっている。またコントローラには、製造技術に関するノウハウも保存されている。すなわち成形条件が設定され、各装置に設けられているセンサで測定された測定値データが入力されている。つまりコントローラから操作すると、射出成形機を運転することができるし、製造技術に関するノウハウにも容易にアクセスすることができる。従って射出成形機においてはセキュリティを確保する必要があり、コントローラでは、許可された操作者のみ操作できるように、操作者の認証が行われている。例えば、従来の射出成形機においては、キーボード、または表示装置に設けられているタッチパネルから、操作者を識別する番号とパスワードが入力される。そうすると操作者はコントローラにログインすることができ、各種の操作が許可されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2620152号公報
【特許文献2】特許第4364147号公報
【0004】
本発明の直接的な文献ではないが特許文献1には、射出成形機において、作業者毎に操作可能な内容を規定して、セキュリティを確保する方法が記載されている。特許文献1によると、作業者のそれぞれにセキュリティに関する情報が記載されたICカードが配布される。これらのカードには、射出成形機の操作のうち許可されている操作範囲、あるいは射出成形機のコントローラに設けられている画面で表示可能なデータの範囲が定義されている。射出成形機を操作するときはICカードをカードリーダに挿入して操作する必要があり、許可された範囲でのみ射出成形機を操作したり、データ表示できるようになっている。
【0005】
特許文献2も本発明の直接的な文献ではないが、この文献には、射出成形機において操作した履歴は、作業者の情報と共に保存され、操作した履歴を射出成形機のコントローラの画面に表示するときには、作業者の情報と共に表示して、作業者を特定できるようにする方法が記載されている。特許文献2には、作業者を特定するために、IDカードによって作業者を識別する点も記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の、操作者を識別する番号とパスワードを入力して操作者を認証する方法によってもセキュリティはある程度確保できる。しかしながら問題も認められる。例えば入力時に第三者に見られてしまうと、パスワードが漏洩してしまうという問題がある。そうすると、なりすましによって不正な第三者が自由に射出成形機を操作できることになる。またパスワードは短いと類推されやすいという問題もあるし、長いと亡失してしまったり入力が煩雑であるという問題もある。従ってパスワードによる方法は必ずしも適切な方法であるとは言えない。特許文献1に記載の方法によれば、ICカードによって操作可能な作業内容を区別することができ、ICカードを所持している操作者は許可された作業内容を実施することができる。従って実質的に操作者が認証されたのと同じ効果が得られる。しかしながら、特許文献1に記載の方法にも問題が認められる。具体的には、ICカード内には操作可能な情報を格別に書き込んでおかなければならない点に問題が見受けられる。まず、特定の操作者に対して操作可能な範囲を増減しようとすると、その操作者が所持しているICカード内の情報を書き換えなければならない。また工場内に複数台の射出成形機があり、射出成形機毎に操作可能な範囲が異なっている場合には、複数の情報をICカード内に書き込まなければならず煩雑である。さらには、ICカードは操作可能な範囲を規定する情報を書き込めばよいので、容易に偽造することができるという問題もある。特許文献2に記載の方法によれば、操作した作業者を特定することができるので、ある程度セキュリティを確保することはできる。しかしながら、特許文献2に記載のIDカードは、メンテナンスするときには格別にパスワード入力が必要になっている点からみても、操作者を認証するためのものではない。従って、従来のパスワードを入力する方法と同様の問題があることが認められる。
【0007】
本発明は、上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した、射出成形機のログイン方法、および射出成形機を提供することを目的としており、具体的には、安全性が高く簡易な方法によってログインすることができ、それによって、第三者によるなりすましを防止でき、操作者毎に操作可能な範囲を設定でき、製造技術のノウハウの流出を防止することができるログイン方法、およびそのようなログイン方法を実施することができる射出成形機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、射出成形機において操作者の認証は、IDカードによって行うようにする。IDカードには操作者を特定するユニークな番号である識別番号が記録されており、IDカードをIDカード読み取り機にかざして非接触で識別番号を読み取らせる。射出成形機のコントローラは、コントローラ内に定義されている操作者情報を照会して、この識別番号が登録されているか否かをチェックする。このようにして認証された操作者には、操作者情報に定義されている情報に従って操作可能な範囲を制限し、操作可能な操作内容だけを実施できるように許可する。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、操作者の認証が必要であると共に、操作可能な操作内容は操作者毎に設定されるようになっている射出成形機において、前記操作者の認証は、前記射出成形機のコントローラに設けられているIDカード読み取り機によって、IDカード内の操作者の識別番号を非接触で読み取り、そして前記コントローラ内に定義されている操作者情報を照会して前記識別番号の登録の有無を確認することによって行い、前記操作可能な操作内容は、前記操作者情報に基づいて制限するように構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の方法において、前記識別番号は前記IDカードの製造番号であるように構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の方法によりログインするようになっている射出成形機として構成される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によると、操作者の認証が必要な射出成形機において、射出成形機のコントローラに設けられているIDカード読み取り機によって、IDカード内の操作者の識別番号を非接触で読み取り、そしてコントローラ内に定義されている操作者情報を照会して識別番号の登録の有無を確認することによって操作者を認証するように構成されている。つまり識別番号はIDカード内に保存されているので、パスワードのように盗まれたり、類推されて解読される恐れがない。そしてIDカードをIDカード読み取り機にかざすだけで格別にキーボード入力をする必要がないのでシンプルに操作できる。つまりシンプルでありながら、高いセキュリティが確保されている。また、操作可能な操作内容は、認証に使用された操作者情報に基づいて制限するように構成されているので、操作者毎にきめ細かく操作可能な操作内容、あるいは操作範囲を設定することができる。また、他の発明によると識別番号はIDカードの製造番号からなる。IDカードには書換可能なメモリが搭載されているタイプもあるが、製造番号は通常上書き出来ないメモリ領域に記録されており、製造時にユニークな番号が付与されるようになっている。従って、製造番号を書き換える偽造をすることができず、さらに高いセキュリティが得られる。また、IDカードの製造番号を識別番号として採用すると、鉄道の定期券、電子マネーカードのように、製造番号が記載されて読み出すことができるようになっているIDカードであれば、これらも利用することができる。そうすると、新たにIDカードを所持する必要がなく便利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る射出成形機のコントローラを模式的に示すブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る射出成形機における操作者の認証方法、および操作の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る射出成形機1は、従来周知のように、加熱シリンダとスクリュとからなる射出装置と、この射出装置から溶融樹脂が射出される型装置とから構成されている。このような射出成形機には射出成形機1を制御するコントローラ2が設けられている。コントローラ2は、図1に示されているように、CPU3、このCPU3とバス4によって接続された各装置、すなわち内部メモリからなる1次記憶装置5、ハードディスク等からなる2次記憶装置6、タッチパネルを備え入力操作が可能なディスプレイからなる表示装置7、射出成形機1との間でデータの入出力を行う入出力インターフェース9等から構成されている。
【0013】
本実施の形態に係る射出成形機1においては、IDカードと無線通信をすることができるIDカード読み取り機、すなわち無線通信装置11が設けられ、無線通信装置11はコントローラ2のバス4に接続されている。本実施の形態に係る射出成形機1においては、認証した操作者しか操作が許可されないようになっており、操作者は所持しているIDカードをこの無線通信装置11にかざして読み取らせ、それによってログインするようになっている。
【0014】
全ての操作者は、それぞれ自分のIDカードを所持しており、IDカードには操作者を特定するユニークな番号である識別番号が登録されている。操作者はこの識別番号によって認証されることになる。IDカードは、本実施の形態に係る射出成形機1の専用のカードとして提供することもでき、この場合には、操作者を特定する所定の操作者コードが記録され、それぞれの操作者に配布されることになる。このIDカードにおいては操作者コードが識別番号になる。本実施の形態においては、IDカードは鉄道の定期券として使用されているような汎用的なカードが利用されるようになっている。そしてIDカードに予め記録されているIDカードの製造番号が識別番号として利用される。従って、本実施の形態に係る射出成形機1用にIDカードを製造する必要も無いし、IDカードに格別に専用のデータを記録する必要もない。
【0015】
本実施の形態においては2次記憶装置6に操作者定義ファイル12が格納されている。操作者定義ファイル12は操作者を認証するためのファイルであると共に、操作者毎に操作可能な操作内容を定義するためのファイルである。操作者定義ファイル12には、例えば次のような情報が、複数人の操作者について定義されている。
・操作者の識別番号
・操作者に許可されている操作内容のリスト
【0016】
以下、図2も参照しながら射出成形機1におけるログイン方法、および操作の流れについて説明する。操作者は、射出成形機1において所持しているIDカード13を無線通信装置11にかざす。そうするとIDカード13内の無線通信部14と無線通信装置11が無線通信し、無線通信装置11はIDカード内に保存されている識別番号15を読み取る(ステップS1)。コントローラ2は、識別番号15が存在するか否かについてコントローラ2内の操作者情報を照会する。すなわち、コントローラ2は操作者定義ファイル12を読み込んで、定義されている複数人の操作者の識別番号の中に、IDカードから読み取った識別番号15が存在するか否かを確認する(ステップS2)。IDカードから読み取った識別番号15が存在すれば、操作者のログインを許可する(ステップS3)。以下、コントローラ2は操作者の操作の要求を受け付けることができる。
【0017】
操作者がコントローラ2において所定の操作、例えば成形条件の変更、あるいは画面の表示を要求する。コントローラ2は、操作の要求を受ける(ステップS4)。コントローラ2は、操作者がログインした時点から、あるいは操作者が前回操作した時点から経過した時間、すなわち未操作の時間をチェックする(ステップS5)。未操作の時間が規定時間を超過していたら、コントローラ2は再度操作者の認証を要求するために、ステップS1に戻る。超過していない場合には、次の処理に移行する。コントローラ2は、要求された操作が、操作者に許可されているか否かを確認する。つまり、コントローラ2は操作者定義ファイル12を参照して、要求された操作が操作者に許可されているか否かを確認する(ステップS6)。操作が許可されている場合には、要求された操作を実行し(ステップS7)、その後ステップS4に戻り次の操作を受け付ける。操作が許可されていない場合には、許可されていない旨の警告を表示装置7に表示してステップS4に戻る。ステップS7において操作を実行した後に、操作者の要求があればログアウトする(ステップS8)。
【0018】
本実施の形態は色々な変形が可能である。例えば、操作者定義ファイル12には、操作者に許可されている操作内容のリストが定義されているように説明したが、単に操作レベルだけが定義されていてもよい。そしてコントローラ2においては、操作レベルに応じて操作可能な操作内容が区別されるようになっていてもよい。また、本実施の形態においては操作者から操作要求を受け付けた後に、その操作が許可された操作内容か否かがチェックされるように説明したが、許可されていない操作は最初から選択できないようにしてもよい。具体的には、複数個の操作ボタンを備えた操作画面を表示装置7に表示して操作者からの操作を受け付けるようになっている射出成形機の場合、許可されている操作に関するボタンのみを操作画面に表示して、許可されていない操作に関するボタンは隠すようにすればよい。
【符号の説明】
【0019】
1 射出成形機
2 コントローラ 3 CPU
5 1次記憶装置 6 2次記憶装置
7 表示装置 9 入出力インターフェース
11 無線通信装置 12 操作者定義ファイル
13 IDカード 14 無線通信部
15 識別番号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者の認証が必要であると共に、操作可能な操作内容は操作者毎に設定されるようになっている射出成形機において、
前記操作者の認証は、前記射出成形機のコントローラに設けられているIDカード読み取り機によって、IDカード内の操作者の識別番号を非接触で読み取り、そして前記コントローラ内に定義されている操作者情報を照会して前記識別番号の登録の有無を確認することによって行い、
前記操作可能な操作内容は、前記操作者情報に基づいて制限するようにすることを特徴とする射出成形機のログイン方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記識別番号は前記IDカードの製造番号であることを特徴とする射出成形機のログイン方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法によりログインするようになっている射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−79209(P2012−79209A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225629(P2010−225629)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】