説明

射出成形機の射出制御方法

【課題】 急激な圧力変動を有効に抑制し、かつ抑制の安定化を図り、成形品の更なる高品質化及び均質化を実現する。
【解決手段】 予め、充填工程Ziにおける速度目標値V1…及び圧力Pが到達可能な所定のリミット圧Psを設定して試し成形を行い、良品が得られる試し成形の射出速度Vに係わる速度データDvを検出し、かつ圧力Pがリミット圧Psに到達した以降の速度データDvから得る所定の速度変化パターンVpを速度制御パターンVs…として登録するとともに、量産成形時に、速度目標値V1…となるように射出速度Vに対するフィードバック制御を行い、圧力Pがリミット圧Psに対応するリミット検出圧Pssに到達したなら、次の切換点tc…に達するまで、速度制御パターンVs…に基づく射出速度Vに対する速度制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度制御を行う充填工程及び圧力制御を行う保圧工程を有する射出工程における射出成形機の射出制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機は、計量工程及び射出工程を含む成形サイクルを有するとともに、射出工程は、更に、速度目標値となるように射出速度に対するフィードバック制御を行う充填工程と、速度圧力切換点に達したなら圧力に対するフィードバック制御を行う保圧工程を有している。ところで、充填工程では、複数の速度目標値を設定することにより複数の段数による速度制御を行う場合も多い。即ち、図8に示すように、充填開始(射出工程開始)から第一速度目標値V1rに基づく速度Vに対するフィードバック制御を行い、切換点t1rに達したなら第二速度目標値V2rに切換え、第二速度目標値V2rに基づく速度Vに対するフィードバック制御を行うとともに、この後、速度圧力切換点tcrに達したなら保圧工程に切換える。しかし、この場合、速度Vの切換時には、フィードバック制御系の補償特性等により、圧力Pの急激な低下変動Pxやサージ圧Pyを発生する問題がある。
【0003】
このため、従来より切換時の挙動を安定化させる制御方法も、特開平6−328528号公報で知られており、同公報には、自由に設定された加速度により速度の加減速を行う制御方法,ステップ信号の速度指令にて射出速度を制御した時の実速度が目標速度に達するか或いは殆ど近付いた時間を計測することにより、実速度が指令速度に追随する限界の加速度を自動的に計測して設定する制御方法,圧力センサ等から検出された射出圧力が予め設定された圧力に達したことにより射出速度の切り換えを行う際に、予め設定された時間は検出された射出圧力を無効として速度の切り換えを行わず、その時間が経過した後に圧力検出による速度の切り換えを有効とするか、或いは予め設定された自由な加減速により射出速度の加速や減速を行い、速度の減速区間は、検出された射出圧力を無効として速度の切り換えを行わず、減速終了後圧力検出による速度の切り換えを有効とする制御方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−331561号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来における射出成形機の制御方法(射出制御方法)は、次のような問題点があった。
【0005】
第一に、充填工程では、圧力変動のほうが速度変動よりも樹脂挙動への影響(悪影響)が大きいため、特に急激な圧力変動は、可能な限り抑制し、かつそのバラツキを小さくすることが望ましいが、従来のような加減速度の設定を行っても樹脂温度等の外乱の影響を受けることから圧力変動に対する有効な抑制(低減)及び安定した抑制(バラツキの縮小)を実現するには限界がある。
【0006】
第二に、加減速度に対する実際の設定は大変であり、的確な設定を行うのは容易でない。特に実効ある設定を行うためには、オペレータの経験やノウハウ(勘)が要求されるとともに、設定のための時間や工数が強いられることから、作業効率の低下や生産コストの上昇も無視できない。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の射出制御方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る射出成形機Mの射出制御方法は、上述した課題を解決するため、少なくとも速度目標値V1…となるように射出速度Vに対するフィードバック制御を行う充填工程Zi及び速度圧力切換点tcに達したなら圧力Pに対するフィードバック制御を行う保圧工程Zhを有する射出工程において、予め、充填工程Ziにおける速度目標値V1…及び当該充填工程Ziにおける圧力Pが到達可能な所定のリミット圧Psを設定して試し成形を行い、良品が得られる試し成形の射出速度Vに係わる速度データDvを検出し、かつ圧力Pがリミット圧Psに到達した以降の速度データDvから得る所定の速度変化パターンVpを速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)として登録するとともに、量産成形時に、速度目標値V1…となるように射出速度Vに対するフィードバック制御を行い、圧力Pがリミット圧Psに対応するリミット検出圧Pssに到達したなら、次の切換点tc,t1…に達するまで、速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)に基づく射出速度Vに対する速度制御を行うことを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、速度データDvは、時間又は位置に対して検出することができる。一方、速度目標値V1…は、充填工程Ziにおける速度制御の段数に対応した一又は二以上を設定することができる。また、速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)は、速度変化パターンVpに一致する速度制御パターンであってもよいし、或いは速度変化パターンVpから求めた当該速度変化パターンVpとは異なる速度制御パターンであってもよい。さらに、量産成形時のリミット検出圧Pssは、リミット圧Psと同一又はリミット圧Psとは異なる圧力に設定することができる。なお、量産成形時に、圧力Pがリミット検出圧Pssに到達したなら、当該リミット検出圧Pssを解除することができる。この際、リミット検出圧Pssを解除したなら当該リミット検出圧Pssよりも高い圧力となる保護用リミット圧Puを設定することができる。一方、リミット検出圧Pssには、リミット圧Psよりも高い圧力となる保護用リミット圧Puを設定することもできる。
【発明の効果】
【0010】
このような手法による本発明に係る射出成形機Mの射出制御方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0011】
(1) 速度目標値V1…となるように射出速度Vに対するフィードバック制御を行い、圧力Pがリミット圧Psに対応するリミット検出圧Pssに到達したなら、次の切換点tc,t1…に達するまで、速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)に基づく射出速度Vに対する速度制御を行うようにしたため、樹脂温度等の外乱の影響を受けることなく、急激な圧力変動を有効に抑制(低減)できるとともに、抑制の安定化(バラツキの縮小)を図ることができる。したがって、成形品の更なる高品質化及び均質化に寄与できる。具体的には、過剰な射出圧力及び圧力変動を抑止できるため、充填圧力の安定化(均一化)、更には成形品に対する無用な応力の緩和を図れるとともに、速度制御パターンVsの採用により速度制御のバラツキを縮小でき、変形,バリ,焼け等の成形不良の発生を排除して成形品質を安定化させることができる。
【0012】
(2) 良品が得られる試し成形の射出速度Vに係わる速度データDvを検出し、かつ圧力Pがリミット圧Psに到達した以降の速度データDvから得る所定の速度変化パターンVpを速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)として登録(設定)するようにしたため、設定は、いわば一定の手順に従って自動で行われる。したがって、経験やノウハウ(勘)の無い初心オペレータであっても、実効ある設定を容易かつ確実に行うことができ、作業効率向上及び生産コスト削減にも寄与できる。
【0013】
(3) 好適な態様により、速度データDvを、時間又は位置に対して検出すれば、射出成形機Mの制御方式(時間設定方式又は位置設定方式)に適した速度データDvを確保することができる。
【0014】
(4) 好適な態様により、速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)は、速度変化パターンVpに一致する速度制御パターンであってもよいし、或いは速度変化パターンVpから求めた当該速度変化パターンVpとは異なる速度制御パターンであってもよいため、制御精度や制御性などを考慮して制御系に適した速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)を設定することができる。
【0015】
(5) 好適な態様により、量産成形時のリミット検出圧Pssは、リミット圧Psと同一に設定してもよいし、或いはリミット圧Psとは異なる圧力に設定してもよいため、速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)の実効性の確実化、更には成形条件に対応した最適化を図ることができる。
【0016】
(6) 好適な態様により、量産成形時に、圧力Pがリミット検出圧Pssに到達したなら、当該リミット検出圧Pssを解除するようにすれば、特に、リミット検出圧Pssをリミット圧Psと同一或いはその近傍に設定した際に、速度変化パターンVpによる速度制御がリミット検出圧Pssにより影響を受ける不具合を回避し、安定した速度制御を行うことができる。
【0017】
(7) 好適な態様により、リミット検出圧Pssを解除したなら当該リミット検出圧Pssよりも高い圧力となる保護用リミット圧Puを設定すれば、リミット検出圧Pssの影響を回避しつつ、異常監視(保護)を目的とした本来のリミット圧力として機能させることができる。
【0018】
(8) 好適な態様により、リミット検出圧Pssに、リミット圧Psよりも高い圧力となる保護用リミット圧Puを設定すれば、リミット検出圧Pssと保護用リミット圧Puを兼用させることができるとともに、圧力Pがリミット検出圧Pssに到達した際におけるリミット検出圧Pssの解除が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
まず、本実施形態に係る射出制御方法を実施できる射出成形機Mの概略構成について、図4及び図5を参照して説明する。
【0021】
図4に示す射出成形機Mは、型締装置を除いた射出装置Miのみを示す。射出装置Miは、離間して配した射出台11と駆動台12を備え、この射出台11の前面に加熱筒13の後端が支持される。加熱筒13は、前端に射出ノズル13nを、後部に当該加熱筒13に成形材料を供給するホッパ14をそれぞれ備えるとともに、加熱筒13の内部にはスクリュ15を挿通させる。一方、射出台11と駆動台12間には、四本のタイバー16…を架設し、このタイバー16…にスライドブロック17をスライド自在に装填する。スライドブロック17の前端には、被動プーリ18を一体に有するロータリブロック19を回動自在に支持し、このロータリブロック19の中央にスクリュ4の後端を結合する。さらに、スライドブロック17の側面には、スクリュ回転用のサーボモータ20を取付けるとともに、このサーボモータ20の回転シャフトに固定した駆動プーリ21と被動プーリ18間に無端タイミングベルト22を架け渡し、これにより、スクリュ回転用の駆動機構を構成する。なお、20eはサーボモータ20の回転数を検出するロータリエンコーダであり、サーボモータ20の後端に付設される。
【0022】
また、スライドブロック17の後部には、ナット部25を同軸上一体に設けるとともに、駆動台12に回動自在に支持されたボールねじ部26の前側をナット部25に螺合させることにより、ボールねじ機構24を構成する。さらに、駆動台12から後方に突出したボールねじ部26の後端には、被動プーリ27を取付けるとともに、駆動台12に取付けた支持盤12sには、スクリュ進退用のサーボモータ28を取付け、このサーボモータ28の回転シャフトに固定した駆動プーリ29と被動プーリ27間に無端タイミングベルト30を架け渡し、これにより、スクリュ進退用の駆動機構を構成する。したがって、この駆動機構には、サーボモータ28及びこのサーボモータ28からスクリュ4に至る間の機構が含まれる。28eはサーボモータ28の回転数を検出するロータリエンコーダであり、サーボモータ28の後端に付設される。
【0023】
一方、31は、射出成形機Mの全体の制御を司るコンピュータ機能を有する成形機コントローラであり、この成形機コントローラ31の出力ポートには、サーボモータ28及び20を接続するとともに、成形機コントローラ31の入力ポートには、ロータリエンコーダ28e及び20eを接続する。また、ロータリブロック19とスライドブロック17間にはロードセルを用いた圧力センサ32を組付け、この圧力センサ32は、成形機コントローラ31の入力ポートに接続する。この圧力センサ32により圧力(射出圧力及び保圧力)Pの検出を行う。さらに、成形機コントローラ31には、各種設定を行うことができる設定部33が付属する。
【0024】
図5に、成形機コントローラ31の内部のブロック構成を示す。同図中、41はCPUであり、このCPU41には内部バス42を介してチップセット43を接続する。このチップセット43には、PCIバス等のローカルバスを用いたバスライン44を接続してHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)制御系を構成する。このため、バスライン44には、成形機コントローラ31を機能させるRAMや各種データを記憶するデータメモリ(不揮発性メモリ)を含む内部メモリ45及び各種プログラムを格納するROM等を含むプログラムメモリ46を接続するとともに、表示インタフェース47を介してタッチパネル48tを付設したディスプレイ本体48dを含むディスプレイ48を接続し、さらに、入出力インターフェイス49を介してメモリカード等の記憶メディア50に対する読出及び書込を行うドライブユニット51を接続する。
【0025】
一方、チップセット43には、バスライン44と同様のバスライン52を接続してPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)制御系を構成する。このため、バスライン52には、各種スイッチやリレー等を含む検出器群から得るモニタデータ(切換データ等)Di…をCPU41に付与するとともに、CPU41からの制御指令データDo…を対応するアクチュエータに付与する入出力インターフェイス53を接続する。また、各種センサを含むセンサ群から得る検出信号Si…を、アナログ−ディジタル変換してCPU41に付与するとともに、CPU41からの制御指令データをディジタル−アナログ変換した制御信号So…を対応するアクチュエータに付与する入出力インターフェイス54を接続する。これにより、所定のフィードバック制御系及びオープンループ制御系が構成される。
【0026】
そして、前述した内部メモリ45には、後述する速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)をデータベースとして登録するとともに、前述したプログラムメモリ46には、PLCプログラム及びHMIプログラムをはじめ、各種処理プログラムを格納する。なお、PLCプログラムは、射出成形機Mにおける各種工程のシーケンス動作や射出成形機Mの監視等を実現するためのソフトウェアであり、HMIプログラムは、射出成形機Mの動作パラメータの設定及び表示,射出成形機Mの動作監視データの表示等を実現するためのソフトウェアである。これらのソフトウェアは、成形機コントローラ31を搭載する射出成形機Mの固有アーキテクチャとして構築され、特に、本実施形態に係る射出制御方法に係わる処理を実行することができる。
【0027】
次に、本実施形態に係る射出制御方法について、各図を参照しつつ図1及び図2に示すフローチャートに従って説明する。
【0028】
まず、量産成形の前に、試し成形を行うことにより、速度制御パターンVsの登録(設定)を行う。この速度制御パターンVsの登録手順について、図2に示すフローチャート及び図6(a),(c)に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0029】
試し成形に先立ち、図6(a)に示す充填工程Ziにおける速度目標値V1及び当該充填工程Ziにおける圧力Pが到達可能な所定のリミット圧Psを設定部33により設定する(ステップS1)。そして、実際に量産成形を行う金型を利用して試し成形を行う(ステップS2)。この試し成形は良品が得られるまで行う。したがって、良品が得られるまでは、成形条件の変更はもちろんのこと、リミット圧Psも変更することができる。この場合、リミット圧Psの大きさは、図6(a)に示すように、充填工程Ziの終了時点tcに対して所定時間手前の時点tmにおいて、圧力(射出圧力)Pがリミット圧Psに到達する大きさを選定(設定)する。
【0030】
一方、試し成形時には射出速度Vに係わる速度データDvを検出する。この速度データDvは、一定の時間間隔によりサンプリングしたデータであってもよいし、一定の位置間隔によりサンプリングしたデータであってもよい。また、これら双方を含むデータであってもよい。このように、速度データDvを、時間又は位置に対して検出すれば、射出成形機Mの制御方式(時間設定方式又は位置設定方式)に適した速度データDvを確保することができる。そして、良品が得られたなら、良品が得られた試し成形時に検出した速度データDvの取込みを行う(ステップS3,S4)。速度データDvを取込んだなら、圧力Pがリミット圧Psに到達した以降の速度データDvから所定の速度変化パターンVpを求めるとともに、この速度変化パターンVpを速度制御パターンVsとして内部メモリ45に登録(設定)する(ステップS5)。
【0031】
この場合、速度制御パターンVsは、速度変化パターンVpに一致する速度制御パターンであってもよいし、或いは速度変化パターンVpから求めた当該速度変化パターンVpとは異なる速度制御パターンであってもよい。図6(c)は、速度制御パターンVsの一例を示すが、この速度制御パターンVsは速度変化パターンVpに対して異ならせている。速度制御パターンVsは、急激な圧力変動等を抑制(低減)することを目的とするため、必ずしも速度変化パターンVpに一致する速度制御パターンを設定することを要せず、例えば、速度変化パターンVpに近似する単純な一次関数等で設定してもよい。なお、図6(c)は、圧力Pがリミット圧Psに到達した以降の時間tに対する射出速度Vの大きさを示す。このように、速度制御パターンVsは、速度変化パターンVpに一致する速度制御パターンであってもよいし、或いは速度変化パターンVpから求めた当該速度変化パターンVpとは異なる速度制御パターンであってもよく、制御精度や制御性などを考慮して制御系に適した速度制御パターンVsを設定することができる。
【0032】
次に、速度制御パターンVsを利用した量産成形時の処理手順、特に、射出工程おける処理手順について、図1に示すフローチャート及び図6(b)に示すタイミングチャートを参照して説明する。
【0033】
量産成形に先立ち、図6(b)に示す充填工程Ziにおける速度目標値V1,所定のリミット検出圧Pss,このリミット検出圧Pssよりも高い圧力となる保護用リミット圧Puをそれぞれ設定部33により設定する。この場合、リミット検出圧Pssは、前述した試し成形時のリミット圧Psと同一に設定してもよいし、リミット圧Psとは異なる圧力に設定してもよい。異なる圧力として、例えば、余裕度を考慮した若干低い圧力に設定することができる。或いは、リミット圧Psよりも高い圧力となる保護用リミット圧Puを設定することもできる。このような保護用リミット圧Puを設定した場合には、リミット検出圧Pssと保護用リミット圧Puを兼用させることができるため、圧力Pがリミット検出圧Pssに到達した際におけるリミット検出圧Pssの解除が不要となる。このように、量産成形時のリミット検出圧Pssは、リミット圧Psと同一に設定してもよいし、或いはリミット圧Psとは異なる圧力に設定してもよく、速度制御パターンVsの実効性の確実化、更には成形条件に対応した最適化を図ることができる。
【0034】
以下、工程手順について説明する。今、射出成形機Mは計量工程が終了した状態、即ち、射出工程の開始直前にあるものとする。これにより、まず、充填工程が開始する(ステップS11)。充填工程の開始により、速度目標値V1に基づく射出速度Vに対するフィードバック制御を行う(ステップS12)。そして、圧力Pがリミット検出圧Pssに到達したなら当該リミット検出圧Pssを解除し、このリミット検出圧Pssよりも高い保護用リミット圧Puを設定する(ステップS13,S14)。図6(b)において、圧力Pがリミット検出圧Pssに到達した時点をtcaで示す。この保護用リミット圧Puは、必ずしも設定することを要しないが、保護用リミット圧Puを設定することにより、リミット検出圧Pssの影響を回避しつつ、異常監視(保護)を目的とした本来のリミット圧力として機能させることができる。なお、前述したように、予めリミット検出圧Pssをリミット圧Psよりも高い圧力となる保護用リミット圧Puに設定した場合には、リミット検出圧Pssが保護用リミット圧Puを兼用するため、圧力Pがリミット検出圧Pssに到達した際におけるリミット検出圧Pssの解除は不要となる。しかし、リミット検出圧Pssをリミット圧Psと同一或いはその近傍に設定した場合には、圧力Pがリミット検出圧Pssに到達した際に当該リミット検出圧Pssを解除する。これにより、速度変化パターンVpによる速度制御がリミット検出圧Pssにより影響を受ける不具合を回避し、安定した速度制御を行うことができる。
【0035】
また、リミット検出圧Pssを解除したなら、次の切換点tcに達するまで、速度制御パターンVsに基づく射出速度Vに対する速度制御を行う(ステップS15,S16)。なお、例示の場合、速度制御の段数は一段であり、速度目標値V1のみの設定である。したがって、次の切換点tcは、速度圧力切換点(切換位置又は切換時間)となる。このため、例示の場合には、リミット検出圧Pssを解除したなら、図6(b)に示すように、切換点tcに達するまで、速度制御パターンVsに基づく速度制御、即ち、内部メモリ45に登録した図6(c)に示す速度制御パターンVsに従って射出速度Vが徐々に減速する制御が行われる。この際、圧力Pの挙動は次のようになる。リミット検出圧Pssが試し成形時のリミット圧Psと同一に設定されており、量産成形時の成形環境も試し成形時と同一であれば、圧力Pはリミット検出圧Pssの大きさのまま一定に維持される。しかし、実際には、樹脂温度等の影響により量産成形時の成形環境と試し成形時の成形環境は若干異なるため、圧力Pも変動する。しかし、速度制御パターンVsは固定されているため、圧力Pの変動は僅かである。図6(b)は、圧力P(Psd)が僅かに減少する場合を示している。
【0036】
そして、切換点(速度圧力切換点)tcに達したなら保圧工程Zhに移行する。保圧工程Zhでは、予め設定した保圧目標値Phとなるように、圧力Pに対する通常のフィードバック制御が行われる(ステップS17,S18)。なお、速度制御の段数が複数段となり、複数の速度目標値V1,V2…が設定されている場合には、充填工程における同様の処理が繰り返される(ステップS17,S12…)。図7は、速度制御の段数が二段であって、二つの速度目標値V1,V2を設定した場合を示している。この場合、充填工程の開始から速度目標値V1に基づく制御を行い、圧力Pがリミット検出圧に到達すれば、この時点t1aから第一の速度制御パターンVs1による制御を行う。次の切換点は、速度目標値V1から速度目標値V2に切換わる速度切換点t1となるため、この切換点t1に達したなら第一の速度制御パターンVs1による制御から速度目標値V2に基づく制御に切換える。次いで、圧力Pが次のリミット検出圧に到達すれば、この時点tcaから第二の速度制御パターンVscによる制御を行う。次の切換点は、速度目標値V2から保圧工程に切換わる速度圧力切換点tcとなるため、この切換点tcに達したなら保圧工程Zhに移行することになる。他方、保圧工程Zhが終了したなら通常の計量工程が行われる(ステップS19,S20,21)。
【0037】
よって、このような本実施形態に係る射出制御方法によれば、速度目標値V1…となるように射出速度Vに対するフィードバック制御を行い、圧力Pがリミット圧Psに対応するリミット検出圧Pssに到達したなら当該リミット検出圧Pssを解除し、かつ次の切換点tc,t1…に達するまで、速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)に基づく射出速度Vに対する速度制御を行うようにしたため、樹脂温度等の外乱の影響を受けることなく、急激な圧力変動を有効に抑制(低減)できるとともに、抑制の安定化(バラツキの縮小)を図ることができる。したがって、成形品の更なる高品質化及び均質化に寄与できる。具体的には、過剰な射出圧力及び圧力変動を抑止できるため、充填圧力の安定化(均一化)、更には成形品に対する無用な応力の緩和を図れるとともに、速度制御パターンVsの採用により速度制御のバラツキを縮小でき、変形,バリ,焼け等の成形不良の発生を排除して成形品質を安定化させることができる。図3は、同一成形品を成形するとともに、速度制御から圧力制御に切換える際に、従来一般に行われている「位置」に基づく場合と本発明に係る射出制御方法に採用するような「圧力」に基づく場合の成形結果データを示す。この成形結果データから明らかなように、製品重量バラツキは、「位置」の場合、0.225〔%〕であるのに対して、「圧力」の場合は、0.106〔%〕となり、製品重量バラツキについては「圧力」のほうが良好な結果を得る。
【0038】
また、良品が得られる試し成形の射出速度Vに係わる速度データDvを検出し、かつ圧力Pがリミット圧Psに到達した以降の速度データDvから得る所定の速度変化パターンVpを速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)として登録(設定)するようにしたため、設定は、いわば一定の手順に従って自動で行われる。したがって、経験やノウハウ(勘)の無い初心オペレータであっても、実効ある設定を容易かつ確実に行うことができ、作業効率向上及び生産コスト削減にも寄与できる。
【0039】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、速度制御パターンVs(Vs1,Vsc)に係わるデータは、演算式により求める形式であってもよいし、データテーブルから読出す形式であってもよい。また、実施形態では、速度制御の段数として、一段の場合と二段の場合を例示したが、三段以上であってもよい。さらに、電動式射出成形機Mに適用した場合を示したが、その他、油圧駆動式射出成形機等により利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る射出制御方法を用いた量産成形時の処理手順を示すフローチャート、
【図2】同射出制御方法を用いた試し成形時の処理手順を示すフローチャート、
【図3】同射出制御方法の効果を説明するための成形結果データ表、
【図4】同射出制御方法を実施する射出成形機(射出装置)の一部断面平面図、
【図5】同射出成形機の成形機コントローラのブロック系統図、
【図6】同射出制御方法を用いた射出工程における射出速度及び圧力の変化を示すタイミングチャート、
【図7】同射出制御方法を用いた二段の速度制御を行う射出工程における射出速度及び圧力の変化を示すタイミングチャート、
【図8】従来の射出制御方法を用いた二段の速度制御を行う射出工程における射出速度及び圧力の変化を示すタイミングチャート、
【符号の説明】
【0041】
M:射出成形機,V:射出速度,V1…:速度目標値,Vp:速度変化パターン,Vs(Vs1,Vsc):速度制御パターン,P:圧力,Ps:リミット圧,Pss:リミット検出圧,Pu:保護用リミット圧,Zi:充填工程,Zh:保圧工程,tc:速度圧力切換点,t1…:切換点,Dv:速度データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも速度目標値となるように射出速度に対するフィードバック制御を行う充填工程及び速度圧力切換点に達したなら圧力に対するフィードバック制御を行う保圧工程を有する射出工程における射出成形機の射出制御方法において、予め、前記充填工程における速度目標値及び当該充填工程における圧力が到達可能な所定のリミット圧を設定して試し成形を行い、良品が得られる試し成形の射出速度に係わる速度データを検出し、かつ圧力が前記リミット圧に到達した以降の速度データから得る所定の速度変化パターンを速度制御パターンとして登録するとともに、量産成形時に、速度目標値となるように射出速度に対するフィードバック制御を行い、圧力が前記リミット圧に対応するリミット検出圧に到達したなら、次の切換点に達するまで、前記速度制御パターンに基づく射出速度に対する速度制御を行うことを特徴とする射出成形機の射出制御方法。
【請求項2】
前記速度データは、時間又は位置に対して検出することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の射出制御方法。
【請求項3】
前記速度目標値は、前記充填工程における速度制御の段数に対応した一又は二以上を設定してなることを特徴とする請求項1記載の記載の射出成形機の射出制御方法。
【請求項4】
前記速度制御パターンは、前記速度変化パターンに一致する速度制御パターン又は前記速度変化パターンから求めた当該速度変化パターンとは異なる速度制御パターンであることを特徴とする請求項1記載の記載の射出成形機の射出制御方法。
【請求項5】
前記量産成形時のリミット検出圧は、前記リミット圧と同一又は前記リミット圧とは異なる圧力に設定することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の射出制御方法。
【請求項6】
前記量産成形時に、圧力が前記リミット検出圧に到達したなら、当該リミット検出圧を解除することを特徴とする請求項1又は5記載の射出成形機の射出制御方法。
【請求項7】
前記リミット検出圧を解除したなら当該リミット検出圧よりも高い圧力となる保護用リミット圧を設定することを特徴とする請求項6記載の射出成形機の射出制御方法。
【請求項8】
前記リミット検出圧は、前記リミット圧よりも高い圧力となる保護用リミット圧を設定することを特徴とする請求項5記載の射出成形機の射出制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−96076(P2009−96076A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269990(P2007−269990)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】