説明

射出成形機及び電力用半導体素子消耗度監視システム

【課題】電力変換装置における電力用半導体素子の消耗度をより正確に且つより低い演算負荷で監視する電力用半導体素子消耗度監視システムを備える射出成形機を提供すること。
【解決手段】電力変換装置10における電力用半導体素子の消耗度を監視する電力用半導体素子消耗度監視システム100を備える射出成形機は、電力変換装置10の運転状態が予め設定された複数の運転パターンの何れに該当するかを判定する運転状態判定部451と、それら複数の運転パターンのそれぞれが実行された場合のその電力用半導体素子の消耗度を予め記憶する消耗度参照テーブル460と、消耗度参照テーブル460を参照して、運転状態判定部451が判定した運転パターンが実行された場合のその電力用半導体素子の消耗度を取得して積算する消耗度積算部452と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置における電力用半導体素子の消耗度を監視する電力用半導体素子消耗度監視システムを備える射出成形機及びその電力用半導体素子消耗度監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パワースイッチング素子の消耗度を監視し、寿命が尽きる前にパワースイッチング素子の保守の時期を通知したり、そのパワースイッチング素子の破壊を防止する処置を実行したりするパワースイッチング素子用寿命監視装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この装置は、インバータに適用され、複数のパワースイッチング素子のそれぞれを個別にオン/オフしてモータを回転させる運転指令を出力する状態(オン状態)と、それらパワースイッチング素子の全てをオフしてモータを停止させる運転指令を出力する状態(オフ状態)とを切り換えるスイッチを備え、そのスイッチがオンされる毎に出力する運転指令の出力回数を運転回数としてカウントし、そのカウント値が所定値を超えた場合に、そのパワースイッチング素子の交換時期の到来を通知し、或いは、そのパワースイッチング素子の動作を停止させるようにする。
【0004】
また、スイッチング回路の運転周波数、キャリア周波数、及び出力電流に基づいてそのスイッチング回路を構成するパワートランジスタの温度変化を推定し、予め用意された温度変化振幅とその温度変化振幅を発生させるのに要するパワーサイクル数との間の関係を示すグラフを参照してその推定した温度変化の振幅に対応する(パワートランジスタの総寿命である総パワーサイクル数に対する)パワーサイクル数を導き出し、そのパワートランジスタの寿命を推定する電動機制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−51768号公報
【特許文献2】特許第4367339号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、運転周波数や出力電流等が変化するインバータの運転状態にかかわらず運転指令の出力回数のみに基づいてパワースイッチング素子の寿命を監視しているため、必要以上に早くそのパワースイッチング素子の交換を促したり、或いは、そのパワースイッチング素子の交換時期の到来を通知する前にそのパワースイッチング素子の破壊を発生させたりしてしまう場合がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の装置は、パワートランジスタの運転状態(温度変化)を考慮しているものの、パワートランジスタの温度を継続的に演算し、所定の演算周期におけるそのパワートランジスタの温度の極大点と極小点との間の差である温度変化振幅を算出した上で、その演算周期に対応するパワーサイクル数を導き出すようにしているので、そのパワートランジスタの寿命を推定するための演算量が膨大となってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、電力変換装置における電力用半導体素子の消耗度をより正確に且つより低い演算負荷で監視する電力用半導体素子消耗度監視システムを備える射出成形機及びその電力用半導体素子消耗度監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明の実施例に係る射出成形機は、電力変換装置における電力用半導体素子の消耗度を監視する電力用半導体素子消耗度監視システムを備える射出成形機であって、前記電力変換装置の運転状態が予め設定された複数の運転パターンの何れに該当するかを判定する運転状態判定部と、前記複数の運転パターンのそれぞれが実行された場合の前記電力用半導体素子の消耗度を予め記憶する消耗度参照テーブルと、前記消耗度参照テーブルを参照して、前記運転状態判定部が判定した運転パターンが実行された場合の前記電力用半導体素子の消耗度を取得して積算する消耗度積算部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の実施例に係る電力用半導体素子消耗度監視システムは、電力変換装置における電力用半導体素子の消耗度を監視する電力用半導体素子消耗度監視システムであって、前記電力変換装置の運転状態が予め設定された複数の運転パターンの何れに該当するかを判定する運転状態判定部と、前記複数の運転パターンのそれぞれが実行された場合の前記電力用半導体素子の消耗度を予め記憶する消耗度参照テーブルと、前記消耗度参照テーブルを参照して、前記運転状態判定部が判定した運転パターンが実行された場合の前記電力用半導体素子の消耗度を取得して積算する消耗度積算部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上述の手段により、本発明は、電力変換装置における電力用半導体素子の消耗度をより正確に且つより低い演算負荷で監視する電力用半導体素子消耗度監視システムを備える射出成形機及びその電力用半導体素子消耗度監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例に係る射出成形機の要部構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される電力用半導体素子消耗度監視システムの構成例を示す機能ブロック図である。
【図3】コントロールカードの構成例を示す機能ブロック図である。
【図4】消耗度参照テーブルの構成例を示す図である。
【図5】消耗度監視処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例に係る射出成形機の一例の要部構成を示す図である。
【0015】
射出成形機は、本実施例では電動式射出成形機であり、射出用のサーボモータ30Aを備える。射出用のサーボモータ30Aの回転はボールネジ2に伝えられる。ボールネジ2の回転により前後進するナット3はプレッシャプレート4に固定されている。プレッシャプレート4は、ベースフレーム(図示せず。)に固定されたガイドバー5、6に沿って移動可能である。プレッシャプレート4の前後進運動は、ベアリング7、ロードセル8、射出軸9を介してスクリュ59に伝えられる。スクリュ59は、加熱シリンダ51内に回転可能に、かつ軸方向に移動可能に配置されている。加熱シリンダ51におけるスクリュ59の後部には、樹脂供給用のホッパ52が設けられている。射出軸9には、ベルトやプーリ等の連結部材53を介してスクリュ回転用のサーボモータ30Bの回転運動が伝達される。すなわち、スクリュ回転用のサーボモータ30Bにより射出軸9が回転駆動されることにより、スクリュ59が回転する。
【0016】
可塑化/計量工程においては、加熱シリンダ51の中をスクリュ59が回転しながら後退することにより、スクリュ59の前部、すなわち加熱シリンダ51のノズル51−1側に溶融樹脂が貯えられる。射出工程においては、スクリュ59の前方に貯えられた溶融樹脂を金型内に充填し、加圧することにより成形が行われる。この時、樹脂を押す力がロードセル8により反力として検出される。つまり、スクリュ前部における樹脂圧力が検出される。検出された圧力は、ロードセル増幅器55により増幅され、制御手段として機能するコントローラ56(制御装置)に入力される。また、保圧工程では、金型内に充填した樹脂が所定の圧力に保たれる。
【0017】
プレッシャプレート4には、スクリュ59の移動量を検出するための位置検出器57が取り付けられている。位置検出器57の検出信号は増幅器58により増幅されてコントローラ56に入力される。この検出信号は、スクリュ59の移動速度を検出するために使用されてもよい。
【0018】
サーボモータ30A、30Bにはそれぞれ、回転数を検出するための回転速度検出装置(エンコーダ)42A、42Bが備えられている。回転速度検出装置42A、42Bで検出された回転数はそれぞれコントローラ56に入力される。
【0019】
サーボモータ30Cは、型開閉用のサーボモータであり、サーボモータ30Dは、成形品取り出し(エジェクタ)用のサーボモータである。サーボモータ30Cは、例えばトグルリンク(図示せず。)を駆動して型開閉を実現する。また、サーボモータ30Dは、例えばボールネジ機構を介してエジェクタロッド(図示せず)を移動させることで成形品取り出しを実現する。サーボモータ30C、30Dにはそれぞれ、回転数を検出するための回転速度検出装置(エンコーダ)42C、42Dが備えられている。回転速度検出装置42C、42Dで検出された回転数はそれぞれコントローラ56に入力される。
【0020】
コントローラ56は、マイクロコンピュータを中心に構成されており、例えば、CPU、制御プログラム等を格納するROM、演算結果等を格納する読書き可能なRAM、タイマ、カウンタ、入力インターフェイス、及び出力インターフェイス等を有する。
【0021】
コントローラ56は、各工程に応じた電流(トルク)指令をサーボモータ30A〜30Dのそれぞれに送る。例えば、コントローラ56は、サーボモータ30Bの回転数を制御して可塑化/計量工程を実現する。また、コントローラ56は、サーボモータ30Aの回転数を制御して射出工程及び保圧工程を実現する。同様に、コントローラ56は、サーボモータ30Cの回転数を制御して型開工程及び型閉工程を実現する。さらに、コントローラ56は、サーボモータ30Dの回転数を制御して成形品取り出し工程を実現する。
【0022】
ユーザインターフェース35は、型開閉工程、射出工程等の各成形工程のそれぞれに対して成形条件を設定可能な入力設定部を備える。また、ユーザインターフェース35は、ユーザからの各種指示を受ける入力部を備えると共に、ユーザに対して各種情報を出力する出力部(例えば表示装置及び音声出力装置である。)を備える。
【0023】
射出成形機における射出成形の1サイクルは、典型的には、金型を閉じる型閉工程と、金型を締め付ける型締め工程と、金型のスプル(図示せず)にノズル51−1を押しつけるノズルタッチ工程と、加熱シリンダ51内のスクリュ59を前進させて、スクリュ59の前方に溜まった溶融材料を金型キャビティ(図示せず)内に射出する射出工程と、その後、気泡、ヒケの発生を抑制するために保持圧力をしばらくかける保圧工程と、金型キャビティ内に充填された溶融材料が冷却されて固まるまでの間の時間に次のサイクルのために、スクリュ59を回転させて、樹脂を溶融しながら加熱シリンダ51の前方にため込む可塑化/計量工程と、固化された成形品を金型から取り出すために、金型を開く型開工程と、成形品を金型に設けられた突出しピン(図示せず)によって押し出す成形品取り出し工程とから構成される。
【0024】
電力変換装置10は、交流電力を直流電力に変換し、更にその直流電力を各種負荷に適した交流電力に変換する装置であり、例えば、整流器11と、平滑回路12と、インバータ回路13A、13B、13C、13D(以下、集合的に「インバータ回路30」とも称する。「モータ30」、「回転速度検出装置42」及び後述の「出力電流検出装置41」についても同様である。)とを備える。
【0025】
整流器11は、交流電源20の交流電力を直流電力に変換して、平滑回路12に出力する。
【0026】
平滑回路12は、整流器11によって整流された直流電力を平滑化する回路であり、電圧検出器12aを含む。電圧検出器12aは、平滑化された直流電圧を検出する装置であり、検出した値をコントローラ56に対して出力する。
【0027】
インバータ回路13は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、IPM(Intelligent Power Module)又はパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等のパワースイッチング素子で構成され、整流器11が変換した直流電力を再び交流電力に変換する。また、インバータ回路13は、パワーサイクルに起因する寿命(以下、「パワーサイクル寿命」とする。)を有し、そのパワーサイクル寿命が尽きる前に交換される必要がある半導体回路である。なお、本実施例では、インバータ回路13Aが射出用のサーボモータ30Aに接続され、インバータ回路13Bがスクリュ回転用のサーボモータ30Bに接続され、インバータ回路13Cが型開閉用のサーボモータ30Cに接続され、インバータ回路13Dがエジェクタ用のサーボモータ30Dに接続される。
【0028】
出力電流検出装置41は、モータ30に供給される電流を検出する装置であり、検出した値をコントローラ56に対して出力する。
【0029】
交流電源20は、例えば、商用の3相交流電源であり、電力変換装置10に対して交流電流を供給する。
【0030】
図2は、図1の電力変換装置10における電力用半導体素子の消耗度を監視する電力用半導体素子消耗度監視システム100の構成例を示す機能ブロック図である。なお、図2は、明瞭化のために、インバータ回路13、モータ30、出力電流検出装置41、及び回転速度検出装置42をそれぞれ一つずつ配置するが、実際には複数個(四つ)ずつ並列に配置されているものとする。但し、インバータ回路13、モータ30、出力電流検出装置41、及び回転速度検出装置42をそれぞれ一つずつ配置する構成を除外するものではない。
【0031】
電力用半導体素子消耗度監視システム100は、主に、電力変換装置10、交流電源20、モータ30、出力電流検出装置41、回転速度検出装置42、表示装置43、音声出力装置44、コントロールカード40、及びドライバカード50で構成される。
【0032】
電力変換装置10は、複数の運転パターンによってその運転状態が区別される。
【0033】
「運転パターン」は、運転周波数、出力電流、及び、PWM(Pulse Width Modulation)制御で用いられるキャリア周波数等によって特徴付けられる、所定期間に亘る電力変換装置10の運転状態を典型パターンとして予め登録したものである。
【0034】
例えば、運転パターンは、型締、溶融樹脂充填、保圧、冷却、型開、及び成形品取り出し等の各種工程のそれぞれを実行するために射出用モータ、型締用モータ、樹脂計量用モータ、エジェクタ用モータ等の各種モータのそれぞれを駆動する際のインバータの運転状態のそれぞれを典型パターンとして予め登録したものであり、この場合、一回の射出成形サイクルは、複数の運転パターンで表されることとなる。
【0035】
また、運転パターンは、特定の工程の一部において、関連するモータを駆動する際の(例えば、型締工程の前半部分において型締用モータを駆動する際の)インバータの運転状態を典型パターンとして予め登録したものであってもよく、この場合、型締工程等の各種工程は、複数の運転パターンで表されることとなる。
【0036】
更に、運転パターンは、各種工程のそれぞれに対応する運転パターンよりも大きな纏まりを持つパターン(例えば、複数の工程に跨るインバータの運転状態を典型パターンとして予め登録したものである。)であってもよく、より小さな纏まりを持つパターン(例えば、数十ミリ秒の単位で区切られた運転パターンである。)であってもよい。
【0037】
コントロールカード40は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM、A/D(Analog/Digital)コンバータ等を備えたコンピュータであって、例えば、モータ速度補正部400及び消耗度監視部450(図3参照。)のそれぞれに対応するプログラムをROM又はRAMから読み出し、各機能部に対応する処理をCPUに実行させる。
【0038】
なお、モータ速度補正部400及び消耗度監視部450は、アナログ回路、デジタル回路、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、FPAA(Field Programmable Analog Array)等を用いてハードウェアで構成されていてもよい。
【0039】
また、コントロールカード40は、出力電流検出装置41及び回転速度検出装置42のそれぞれから検出値を取得し、上述の各種機能部による処理を実行し、表示装置43及び音声出力装置44に対して制御信号を出力する。
【0040】
更に、コントロールカード40は、所定のキャリア周波数を用いたPWM駆動によるベクトル制御を通じて、所望のモータ回転速度の指令値に応じたタイミング制御信号を生成し、生成したタイミング制御信号をドライバカード50に対して出力する。
【0041】
ドライバカード50は、電力変換装置10のインバータ回路13を駆動するための装置であり、例えば、コントロールカード40からのタイミング制御信号を増幅してインバータ回路13に出力する。
【0042】
インバータ回路13は、ドライバカード50からのタイミング制御信号に応じてパワースイッチング素子のオン/オフを切り換え、直流電力から交流電力への変換動作を行う。
【0043】
なお、本実施例では、コントロールカード40及びドライバカード50はそれぞれ、コントローラ56の一部を構成する。
【0044】
表示装置43は、各種情報を表示するための装置であり、例えば、液晶ディスプレイ又はLED(Light Emitting Diode)等であって、コントロールカード40が出力する制御信号に応じて電力用半導体素子の消耗度や交換時期の到来を示す情報を表示する。
【0045】
音声出力装置44は、各種情報を音声出力するための装置であり、例えば、スピーカやブザーであって、コントロールカード40が出力する制御信号に応じて電力用半導体素子の交換時期の到来を示す情報を音声出力する。
【0046】
なお、本実施例では、表示装置43及び音声出力装置44はそれぞれ、ユーザインターフェース35の一部を構成する。
【0047】
次に、図3を参照しながら、コントロールカード40が有する構成要素について説明する。なお、図3は、コントロールカード40の構成例を示す機能ブロック図である。
【0048】
モータ速度補正部400は、モータ30の回転速度を補正するための機能部であり、例えば、回転速度検出装置42の出力に基づいて、モータ回転速度の指令値とモータ回転速度の実測値との間の差を導き出し、導き出した差に応じてモータ回転速度の指令値を補正し、モータ回転速度をその目標値に近づけるようにする。
【0049】
消耗度監視部450は、電力変換装置10における電力用半導体素子の消耗度を監視するための機能部であり、運転状態判定部451、消耗度積算部452、累積消耗度表示部453、及び交換時期通知部454から構成される。
【0050】
消耗度参照テーブル460は、電力変換装置10の複数の運転パターンのそれぞれを実行した場合の、電力用半導体素子の消耗度を参照可能に記憶する参照テーブルであり、例えば、コントロールカード40におけるROMやNVRAM等の不揮発性記憶媒体に記憶される。
【0051】
「消耗度」は、特定の運転パターンが特定の電力用半導体素子の寿命に与える影響を表す指標であり、例えば、その特定の運転パターンが繰り返し実行されたときのその特定の電力用半導体素子のパワーサイクル寿命(最大パワーサイクル数)の逆数(1パワーサイクル当たりの消耗度)に、その特定の運転パターン一回当たりのパワーサイクル数を乗じた値で表される。
【0052】
具体的には、特定の運転パターンが繰り返し実行されたときの特定の電力用半導体素子の最大パワーサイクル数を10万回とし、運転パターン一回当たりのパワーサイクル数を10回とした場合、その消耗度は、1÷10万回×10回=0.0001(0.01%)となり、特定の運転パターンが一回実行されることによって特定の電力用半導体素子の総寿命のうちの0.01%が費やされたことを表す。
【0053】
また、消耗度参照テーブル460は、例えば、運転周波数、キャリア周波数、及び出力電流を三つの変数とする三次元テーブルであり、運転周波数、キャリア周波数、及び出力電流の三つの値で特定される一つのテーブルセル(運転パターンの一つに相当する。)のテーブル値が、対応する運転パターンが実行されたときの電力用半導体素子の消耗度を表す。
【0054】
また、消耗度参照テーブル460における各テーブルセルのテーブル値は、電力変換装置10における複数の電力用半導体素子のそれぞれに対応する消耗度を表す複数の値を含む。
【0055】
図4は、消耗度参照テーブル460の構成例を示す図であり、消耗度参照テーブル460が、三種類の運転周波数OF1〜OF3、五種類の出力電流A1〜A5、及び、五種類のキャリア周波数CF1〜CF5で構成される三次元テーブルであることを示す。
【0056】
図4において、電力変換装置10の運転状態が運転周波数OF1、出力電流A2、及びキャリア周波数CF3で特定される運転パターンである場合、その運転パターンが実行されることによる、電力変換装置10における電力用半導体素子(例えば、四つである。)のそれぞれの消耗度は、テーブルセルCL1の四つのテーブル値a、b、c、及びdで表されることとなる。
【0057】
なお、消耗度参照テーブル460は、出力電流と運転周波数又はキャリア周波数のうちの何れか一方とを二つの変数とする二次元参照テーブルであってもよく、或いは、運転周波数、キャリア周波数、及び出力電流を含む四つ以上の変数で構成される四次元以上の多次元参照テーブルであってもよい。
【0058】
累積消耗度記憶部470は、電力変換装置10における複数の電力用半導体素子のそれぞれの累積消耗度を記憶する領域であり、例えば、コントロールカード40におけるNVRAM等の書き換え可能な不揮発性記憶媒体上の記憶領域に用意される。
【0059】
「累積消耗度」は、複数の電力用半導体素子のそれぞれの消耗度を個別に積算した値であり、累積消耗度記憶部470は、例えば、IGBTやFWD(Free Wheel Diode)といったインバータ回路13を構成する電力用半導体素子のそれぞれに対応する累積消耗度を個別に記憶する。
【0060】
次に、消耗度監視部450が有する各種機能部について説明する。
【0061】
運転状態判定部451は、電力変換装置10の運転状態を判定するための機能部であり、例えば、電力変換装置10を動作させるために設定された運転周波数及びキャリア周波数と、出力電流検出装置41が検出した出力電流の所定期間(例えば、運転状態判定部451の一判定周期である。)における平均値とに基づいて、電力変換装置10の運転状態が、複数の運転パターンの何れに対応するかを判定する(電力変換装置10の運転状態に対応する運転パターンを特定する。)。
【0062】
具体的には、運転状態判定部451は、運転周波数、キャリア周波数、及び所定期間における出力電流の平均値の三つの値を用いて消耗度参照テーブル460を参照し、電力変換装置10の運転状態に対応する運転パターン(三次元テーブルである消耗度参照テーブル460の一テーブルセル)を特定する。
【0063】
消耗度積算部452は、電力用半導体素子の累積消耗度を算出するための機能部であり、例えば、運転状態判定部451によって特定された運転パターンによる特定の電力用半導体素子の消耗度(特定された一テーブルセルにおけるテーブル値のうちの一つ)を読み出す。
【0064】
その後、消耗度積算部452は、読み出した消耗度を、累積消耗度記憶部470に記憶されたその特定の電力用半導体素子に関する累積消耗度に加算して、その累積消耗度を更新する。
【0065】
消耗度積算部452は、電力変換装置10における他の電力用半導体素子に対しても同様に、消耗度を読み出して累積消耗度を更新するようにする。
【0066】
累積消耗度表示部453は、累積消耗度を操作者に提示するための機能部であり、例えば、電力変換装置10における全ての電力用半導体素子のうち最も消耗が進んだ電力用半導体素子に関する累積消耗度(以下、「最大累積消耗度」とする。)を表示装置43に表示させる。
【0067】
累積消耗度表示部453は、数値表示(デジタル表示)、バーグラフ表示、又はメータ表示等の任意の表示態様でその最大累積消耗度を表示する。
【0068】
なお、累積消耗度表示部453は、電力変換装置10における全ての電力用半導体素子のそれぞれに関する累積消耗度を表示装置43に表示させるようにしてもよく、消耗が進んだ一部の複数の電力用半導体素子に関する累積消耗度を表示装置43に表示させるようにしてもよい。
【0069】
また、累積消耗度表示部453は、最も消耗が進んだ電力用半導体素子の残存寿命(例えば、値100(%)から累積消耗度(%)を差し引くことで算出される残存率(%)として表される。また、現在の累積消耗度に至るまでの期間に基づいて算出される残存期間(日数)として表されてもよい。)を表示するようにしてもよく、累積消耗度が100%となるまでに実行可能な残りの成形ショット数(例えば、現在の累積消耗度に至るまでに実行された成形ショット数に基づいて算出される。)を表示するようにしてもよい。
【0070】
交換時期通知部454は、電力用半導体素子の交換時期を操作者に通知するための機能部であり、例えば、最も消耗が進んだ電力用半導体素子の部品交換推奨日時(例えば、現在の累積消耗度に至るまでの期間に基づいて算出され、現在の累積消耗度が50%であり、これまでに経過した時間が4年間であった場合、部品交換推奨日時は4年後よりも早い時期となる。)、又は、累積消耗度が100%となるまでの残存日数等を表示装置43に表示する。
【0071】
また、交換時期通知部454は、最も消耗が進んだ電力用半導体素子の残存寿命が閾値を下回った場合に、音声出力装置44から警報音を発し、部品交換時期が到来したことを操作者に伝えるようにしてもよい。
【0072】
また、交換時期通知部454は、累積消耗度が100%となるまでの残存日数に応じたメッセージを表示装置43に表示するようにしてもよく、例えば、累積消耗度が100%となるまでの残存日数が100日となった場合に「3ヶ月以内の交換を推奨します」のメッセージを表示し、累積消耗度が100%となるまでの残存日数が30日を下回った場合に「直ちに交換することを推奨します」のメッセージを表示する。
【0073】
次に、図5を参照しながら、電力用半導体素子消耗度監視システム100が電力変換装置10における電力用半導体素子の消耗度を監視する処理(以下、「消耗度監視処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図5は、消耗度監視処理の流れを示すフローチャートであり、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、所定のサンプリング周期(例えば、10ミリ秒である。)で出力電流検出装置41が出力する出力電流の値をサンプリングしてRAM上の出力電流ログ(図示せず。)に記録しながら、所定の判定周期(例えば、1秒である。)で繰り返しこの消耗度監視処理を実行するものとする。
【0074】
最初に、コントロールカード40の消耗度監視部450は、運転状態判定部451により、運転周波数及びキャリア周波数の現在の設定値を取得し、且つ、出力電流ログに記録された所定の判定周期における出力電流の平均値を算出する。
【0075】
その後、消耗度監視部450は、運転状態判定部451により、取得した運転周波数及びキャリア周波数の値、並びに、算出した出力電流の平均値を用いて消耗度参照テーブル460を参照し、運転パターン(テーブルセル)を特定する(ステップS1)。
【0076】
その後、消耗度監視部450は、消耗度積算部452により、その特定されたテーブルセルにおける値を読み出すことによって、その特定された運転パターンが実行された場合の電力変換装置10における電力用半導体素子のそれぞれの消耗度を取得する(ステップS2)。
【0077】
その後、消耗度監視部450は、消耗度積算部452により、それら取得した電力変換装置10における電力用半導体素子のそれぞれの消耗度の値を、累積消耗度記憶部470に記憶された、それら電力用半導体素子のそれぞれに対応する累積消耗度の値に加算する(ステップS3)。
【0078】
その後、消耗度監視部450は、累積消耗度表示部453により、複数の電力用半導体素子のそれぞれに対応する複数の累積消耗度の値のうちの最大値である最大累積消耗度(最も消耗が進んだ電力用半導体素子の累積消耗度である。)の値を表示装置43上に表示し、或いは、既に表示装置43上に表示されているその最大累積消耗度の値を更新する(ステップS4)。
【0079】
その後、消耗度監視部450は、その最大累積消耗度の値と所定の閾値とを比較し(ステップS5)、その最大累積消耗度の値がその所定の閾値以上となる場合には(ステップS5のYES)、交換時期通知部454により、その最も消耗が進んだ電力用半導体素子の交換を促す警報音を音声出力装置44から音声出力し、或いは、その交換を促すテキストメッセージを表示装置43上に表示して、操作者にその交換の必要性を通知する(ステップS6)。
【0080】
その最大累積消耗度の値が未だその所定の閾値未満である場合には(ステップS5のNO)、消耗度監視部450は、電力用半導体素子の交換を促すことなく、この消耗度監視処理を終了させる。
【0081】
以上の構成により、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、電力変換装置10の使用環境に応じて変化する電力変換装置10の運転状態を、予め登録した運転パターンの組み合わせとして認識し、各運転パターンと各運転パターンが実行された場合の各電力用半導体素子の消耗度とを関連付けて記憶する消耗度参照テーブル460を参照しながら、各電力用半導体素子の累積消耗度を監視するので、電力変換装置10の運転状態が不変であることを前提として累積消耗度を監視する場合に比べ、より正確に累積消耗度を監視することができる。
【0082】
また、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、出力電流検出装置41が検出した出力電流の値に基づいて各電力用半導体素子における発熱量をその都度演算する必要がなく、より低い演算負荷で累積消耗度を監視することができる。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0084】
例えば、上述の実施例において、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、運転周波数、キャリア周波数、及び出力電流の三つの値によって運転パターンを特定するが、登録された運転パターンの数(テーブルセルの数)が少なく、三つの値に完全に一致する運転パターンが存在しない場合には、最も近い運転パターン(テーブルセル)における消耗度を採用するものとする。
【0085】
或いは、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、所定の近似式を用いて運転パターン(テーブルセル)間を補間するようにしてもよい。この場合、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、各電力用半導体素子の消耗度をより高精度に監視することができる。
【0086】
或いは、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、発生頻度の高い運転状態については運転パターン(テーブルセル)を用いて消耗度を取得しながら、発生頻度の低い運転状態については所定の関数(計算式)を用いてそれら運転状態に対応する消耗度を取得するようにしてもよい。この場合、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、演算負荷を抑え且つ幅広い運転状態に対応しながら各電力用半導体素子の消耗度をより高精度に監視することができる。
【0087】
なお、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、全ての運転状態に対し、運転パターン(テーブルセル)を用いることなく、所定の関数(計算式)を用いてそれら運転状態に対応する消耗度を取得するようにしてもよい。
【0088】
また、上述の実施例において、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、複数の電力用半導体素子のそれぞれに対応する累積消耗度を累積消耗度記憶部470に記憶するが、電力用半導体素子が交換された場合には、その交換が行われた電力用半導体素子に対応する累積消耗度のみをリセットし、交換が行われていない他の電力用半導体素子に対応する累積消耗度をそのまま保持するようにする。交換が行われていない他の電力用半導体素子の累積消耗度の監視を継続できるようにするためである。
【0089】
また、上述の実施例において、電力用半導体素子消耗度監視システム100は、射出成形機に搭載されるインバータにおける電力用半導体素子の消耗度を監視するが、射出成形機以外の装置に搭載される半導体回路における電力用半導体素子の消耗度を監視するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
2・・・ボールねじ 3・・・ナット 4・・・プレッシャプレート 5、6・・・ガイドバー 7・・・ベアリング 8・・・ロードセル 9・・・射出軸 10・・・電力変換装置 11・・・整流器 12・・・平滑回路 12a・・・電圧検出器 13、13A〜13D・・・インバータ回路 20・・・交流電源 30、30A〜30D・・・モータ 35・・・ユーザインターフェース 40・・・コントロールカード 41、41A〜41D・・・出力電流検出装置 42、42A〜42D・・・回転速度検出装置 43・・・表示装置 44・・・音声出力装置 50・・・ドライバカード 51・・・加熱シリンダ 51−1・・・ノズル 52・・・ホッパ 53・・・連結部材 55・・・ロードセル増幅器 56・・・コントローラ 57・・・位置検出器 58・・・増幅器 59・・・スクリュ 100・・・電力用半導体素子消耗度監視システム 400・・・モータ速度補正部 450・・・消耗度監視部 451・・・運転状態判定部 452・・・消耗度積算部 453・・・累積消耗度表示部 454・・・交換時期通知部 460・・・消耗度参照テーブル 470・・・累積消耗度記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置における電力用半導体素子の消耗度を監視する電力用半導体素子消耗度監視システムを備える射出成形機であって、
前記電力変換装置の運転状態が予め設定された複数の運転パターンの何れに該当するかを判定する運転状態判定部と、
前記複数の運転パターンのそれぞれが実行された場合の前記電力用半導体素子の消耗度を予め記憶する消耗度参照テーブルと、
前記消耗度参照テーブルを参照して、前記運転状態判定部が判定した運転パターンが実行された場合の前記電力用半導体素子の消耗度を取得して積算する消耗度積算部と、を備える、
ことを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記運転状態判定部は、前記電力用半導体素子を駆動するために設定される運転周波数及びキャリア周波数と、前記電力用半導体素子が出力する出力電流とに基づいて運転パターンを判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
電力変換装置における電力用半導体素子の消耗度を監視する電力用半導体素子消耗度監視システムであって、
前記電力変換装置の運転状態が予め設定された複数の運転パターンの何れに該当するかを判定する運転状態判定部と、
前記複数の運転パターンのそれぞれが実行された場合の前記電力用半導体素子の消耗度を予め記憶する消耗度参照テーブルと、
前記消耗度参照テーブルを参照して、前記運転状態判定部が判定した運転パターンが実行された場合の前記電力用半導体素子の消耗度を取得して積算する消耗度積算部と、を備える、
ことを特徴とする電力用半導体素子消耗度監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76454(P2012−76454A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186543(P2011−186543)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】