説明

射出成形機

【課題】加熱対象部材の温度をより柔軟に制御可能な射出成形機を提供すること。
【解決手段】本発明の実施例に係る射出成形機は、複数の温度制御ゾーンZ1、Z2、Z3、Z4に分割されて温度制御される加熱シリンダ1と、複数の温度制御ゾーンZ1、Z2、Z3、Z4のうちの所定の温度制御ゾーンZ1を加熱するバンドヒータ30と、バンドヒータ30で所定の温度制御ゾーンZ1以外の箇所Z1.5の温度を所定温度に制御する温度制御部20と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱対象部材を有する射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形機における加熱筒の温度を制御する装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この装置は、加熱筒における複数の温度制御ゾーンのそれぞれに取り付けられた温度センサからの温度データに基づいて、PID制御によるクローズドループ制御を実行しながら、複数の温度制御ゾーンのそれぞれに対応するバンドヒータをフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−137119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、特定の温度制御ゾーンに対応するバンドヒータとその特定の温度制御ゾーンに対応する温度センサとの組み合わせを用いてその特定の温度制御ゾーンの温度を制御する。すなわち、特許文献1に記載の装置は、複数の温度制御ゾーンのそれぞれの温度を別個独立に制御する。そのため、特定の温度制御ゾーンの温度の調整が、その特定の温度制御ゾーンに対応するバンドヒータと温度センサのみに基づいて閉鎖的に行われ、温度制御の応答性が制限されるという問題がある。
【0006】
上述の問題に鑑み、本発明は、加熱対象部材の温度をより柔軟に制御可能な射出成形機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明の実施例に係る射出成形機は、複数の温度制御ゾーンに分割されて温度制御される加熱シリンダと、前記複数の温度制御ゾーンのうちの所定の温度制御ゾーンを加熱する加熱部と、前記加熱部で前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所の温度を所定温度に制御する温度制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述の手段により、本発明は、加熱対象部材の温度をより柔軟に制御可能な射出成形機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される温度制御システムの構成例を示す概略図である。
【図2】図1の温度制御システムにおける温度制御部により温度制御される加熱シリンダの温度分布の一例を示す図である。
【図3】第一温度制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図1の温度制御システムにおける温度制御部により温度制御される加熱シリンダの温度分布の別の一例を示す図である。
【図5】第二温度制御処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例に係る射出成形機に搭載される温度制御システム100の構成例を示す概略図である。本実施例において、温度制御システム100は、加熱対象部材としての加熱シリンダ1の温度を、温度検出部としての温度センサ4で測定しながら、加熱部としてのバンドヒータ3により加熱シリンダ1の温度を制御する。
【0012】
加熱シリンダ1は、スクリュ(図示せず。)を回転可能且つ軸方向移動可能に収容する部材である。加熱シリンダ1は、主に、水冷シリンダ部10、第一円筒部11、第二円筒部12、ノズル部13で構成される。なお、水冷シリンダ部10、第一円筒部11、第二円筒部12、及びノズル部13は何れも金属で形成され、互いに熱をやり取りすることができる。水冷シリンダ部10に取り付けられるホッパ(図示せず。)を介して供給される樹脂は、加熱シリンダ1内で溶融・可塑化され、スクリュによってノズル部13の方向に給送される。
【0013】
温度制御システム100は、主に、制御部2、バンドヒータ3、及び温度センサ4から構成される。
【0014】
制御部2は、温度制御システム100の動作を制御する機能要素であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータである。具体的には、制御部2は、温度制御部20に対応するプログラムをROMから読み出してRAMに展開しながら、温度制御部20に対応する処理をCPUに実行させる。
【0015】
バンドヒータ3は、加熱シリンダ1を加熱する加熱部の一例である。本実施例では、バンドヒータ3は、加熱シリンダ1の第一円筒部11を加熱する二つのバンドヒータ30、31と、第二円筒部12を加熱する一つのバンドヒータ32と、ノズル部13を加熱する一つのバンドヒータ33とを含む。なお、加熱シリンダ1の第一円筒部11は、水冷シリンダ10の近くに配置されるバンドヒータ30によって加熱される温度制御ゾーンである第1ゾーンZ1、第二円筒部12の近くに配置されるバンドヒータ31によって加熱される温度制御ゾーンである第2ゾーンZ2、及び、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2との間に配置されるゾーンZ1.5を有する。また、加熱シリンダ1の第二円筒部12は、バンドヒータ32によって加熱される温度制御ゾーンである第3ゾーンZ3を構成する。また、加熱シリンダ1のノズル部13は、バンドヒータ33によって加熱される温度制御ゾーンである第4ゾーンZ4を構成する。以下では、バンドヒータ30〜33は、加熱対象となるゾーンに合わせて、第1ゾーンバンドヒータ30、第2ゾーンバンドヒータ31、第3ゾーンバンドヒータ32、第4ゾーンバンドヒータ33と称する。
【0016】
また、バンドヒータ3は、制御部2が出力する制御信号に応じて動作し、例えば、制御部2が出力するPWM(Pulse Width Modulation)信号に応じてオン、オフを切り替える。
【0017】
このように、加熱シリンダ1は、複数の温度制御ゾーンZ1、Z2、Z3、Z4に分割されて温度制御される。
【0018】
温度センサ4は、加熱シリンダ1の温度を検出する温度検出部の一例であり、例えば、熱電対で構成される。本実施例では、温度センサ4は、第1ゾーンZ1の温度を検出する第1ゾーン温度センサ40と、ゾーンZ1.5の温度を検出する第1.5ゾーン温度センサ41と、第2ゾーンZ2の温度を検出する第2ゾーン温度センサ42と、第3ゾーンZ3の温度を検出する第3ゾーン温度センサ43と、第4ゾーンZ4の温度を検出する第4ゾーン温度センサ44とを含む。また、温度センサ4は、制御部2に対して所定周期で繰り返し検出値を出力する。
【0019】
制御部2の温度制御部20は、加熱シリンダ1の温度を所定の設定温度に制御する機能要素であり、例えば、温度センサ4の検出値に基づいてバンドヒータ3をPWM制御する。
【0020】
図2は、温度制御システム100における温度制御部20により温度制御される加熱シリンダ1の温度分布の一例を示す図であり、加熱シリンダ1の概略図の下に、基準点からの距離と温度との関係を表すグラフを示す。なお、そのグラフの基準点は、水冷シリンダ10の中心点であり、その距離は、基準点からノズル部13の方向(図の左方)に向かって増大する。
【0021】
温度制御部20は、例えば、第2ゾーン温度センサ42の検出値を継続的に監視し、その検出値が設定温度T1未満の場合に第2ゾーンバンドヒータ31をオンにし、その検出値が設定温度T1を上回る場合に第2ゾーンバンドヒータ31をオフにする。その結果、温度制御部20は、第2ゾーンバンドヒータ31により第2ゾーンZ2の温度を設定温度T1に制御する。このように、温度制御ゾーンに対応するバンドヒータによりその温度制御ゾーンの温度を制御する方法を「第一温度制御方法」と称する。この場合、温度制御部20は、設定温度T1と第2ゾーン温度センサ42の現在の検出値(<T1)との差が大きい程、第2ゾーンバンドヒータ31に対するPWM信号のデューティ比を大きくして温度上昇率を増大させてもよい。第3ゾーンZ3及び第4ゾーンの温度を設定温度T1に制御する場合についても同様である。なお、設定温度T1は、例えば、加熱シリンダ1に供給される樹脂の融点である。
【0022】
また、温度制御部20は、第1.5ゾーン温度センサ41の検出値を継続的に監視し、その検出値が設定温度T1未満の場合に第1ゾーンバンドヒータ30をオンにし、その検出値が設定温度T1を上回る場合に第1ゾーンバンドヒータ30をオフにする。その結果、温度制御部20は、第1ゾーンバンドヒータ30によりゾーンZ1.5の温度を設定温度T1に制御する。このように、温度制御ゾーンに直接対応しないバンドヒータによりその温度制御ゾーンの温度を制御する方法を「第二温度制御方法」と称する。この場合、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達した時点では、第1ゾーンZ1の温度は、通常、設定温度T1未満である。第1ゾーンZ1は、比較的低温な水冷シリンダ部10に接しており、ゾーンZ1.5に比べ温度が上昇し難いためである。但し、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達したときの第1ゾーンZ1の温度は、設定温度T1より高い場合もある。なお、「設定温度に達した」とは、設定温度を含む所定幅の温度範囲内に、温度センサ4の検出値が所定時間にわたって留まった状態を含む概念である。
【0023】
その後、温度制御部20は、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達した時点において第1ゾーン温度センサ40が検出する温度を、第1ゾーンZ1の設定温度T2とし、第1ゾーンバンドヒータ30により第1ゾーンZ1の温度を設定温度T2に制御する。このように、第二温度制御方法を実行した後で、第二温度制御方法において新たに設定した設定温度を用いて、温度制御ゾーンに対応するバンドヒータによりその温度制御ゾーンの温度を制御する方法を「第三温度制御方法」と称する。なお、第1ゾーンZ1の設定温度T2は、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達したときに第1ゾーン温度センサ40が検出する温度そのものではなく、その温度に所定の係数を掛ける等、その温度に基づいて間接的に導き出される温度であってもよい。
【0024】
温度制御部20が第三温度制御方法を採用するのは、第1ゾーンZ1の温度を設定温度T2に制御することによってゾーンZ1.5の温度を設定温度T1に制御できるものと考えられるためである。また、温度制御部20が第三温度制御方法に切り替えることなく第二温度制御方法を継続した場合には、ホッパから供給される樹脂や水冷シリンダ部10の冷却により第1ゾーンZ1の温度が急激に低下したときの第1ゾーンZ1の加熱が遅れ、加熱シリンダ1の温度バランスを大きく崩すおそれがあるためである。
【0025】
図2のグラフは、第1ゾーンZ1〜第4ゾーンZ4の全ての温度制御ゾーンに対して第一温度制御方法を採用した場合の温度分布(破線)と、ゾーンZ1.5に対して第二温度制御方法を採用し且つ第1ゾーンZ1に対して第三温度制御方法を採用した場合の温度分布(実線)とを示す。
【0026】
図2の破線で示すように、第1ゾーンZ1〜第4ゾーンZ4の全ての温度制御ゾーンに対して第一温度制御方法を採用した場合には、第1ゾーンZ1、第2ゾーンZ2、第3ゾーンZ3、及び第4ゾーンZ4が設定温度T1に制御されるが、対応するバンドヒータが存在しないゾーンZ1.5の温度が制御されずに設定温度T1を上回る温度となる。
【0027】
一方、図2の実線で示すように、ゾーンZ1.5に対しては第二温度制御方法を採用し且つ第1ゾーンZ1に対しては第三温度制御方法を採用した場合には、第1ゾーンZ1が設定温度T2に制御され、且つ、対応するバンドヒータが存在しないゾーンZ1.5が設定温度T1に制御される。なお、第2ゾーンZ2、第3ゾーンZ3、及び第4ゾーンZ4は、図2の破線で示す場合と同様、設定温度T1に制御される。
【0028】
このようにして、温度制御システム100は、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2との間にある、対応するバンドヒータが存在しないゾーンZ1.5における温度の非制御状態(例えば、オーバーシュートの状態である。)の発生を回避することができる。
【0029】
次に、図3を参照しながら、温度制御部20が加熱シリンダ1の温度を所望の状態に制御する処理(以下、「第一温度制御処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図3は、第一温度制御処理の流れを示すフローチャートである。温度制御部20は、例えば、タッチパネル等の入力部(図示せず。)を介した操作者の操作入力に応じて、この第一温度制御処理を実行する。
【0030】
最初に、温度制御部20は、第1ゾーンバンドヒータ30によるゾーンZ1.5の温度制御(第二温度制御方法)を開始する(ステップS1)。
【0031】
具体的には、温度制御部20は、第1.5ゾーン温度センサ41の検出値を継続的に監視し、その検出値が設定温度T1未満の場合に第1ゾーンバンドヒータ30をオンにし、その検出値が設定温度T1を上回る場合に第1ゾーンバンドヒータ30をオフにする。
【0032】
また、温度制御部20は、第2ゾーンバンドヒータ31による第2ゾーンZ2の温度制御(第一温度制御方法)、第3ゾーンバンドヒータ32による第3ゾーンZ3の温度制御(第一温度制御方法)、及び、第4ゾーンバンドヒータ33による第4ゾーンZ4の温度制御(第一温度制御方法)を同様に開始する。
【0033】
その後、温度制御部20は、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達したか否かを監視する(ステップS2)。なお、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達したとの判断は、例えば、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1になったまま所定時間が経過した場合に行われる。ゾーンZ1.5の温度が安定的に設定温度T1になったことを確認するためであり、ゾーンZ1.5の温度が瞬間的に設定温度T1になっただけであるにもかかわらず、第二温度制御方法を第三温度制御方法に切り替えてしまうことがないようにするためである。なお、設定温度T1は、所定の幅を有する温度範囲であってもよい。
【0034】
ゾーンZ1.5の温度が未だ設定温度T1に達していないと判断した場合(ステップS2のNO)、温度制御部20は、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達したか否かの監視を継続する。
【0035】
一方、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達したと判断した場合(ステップS2のYES)、温度制御部20は、第1ゾーンZ1の現在の温度、すなわち、第1ゾーン温度センサ40の現在の検出値を、第1ゾーンZ1の設定温度T2とする(ステップS3)。
【0036】
その後、温度制御部20は、第1ゾーンバンドヒータ30による第1ゾーンZ1の温度制御(第三温度制御方法)を開始する(ステップS4)。
【0037】
具体的には、温度制御部20は、第1ゾーン温度センサ40の検出値を継続的に監視し、その検出値が設定温度T2未満の場合に第1ゾーンバンドヒータ30をオンにし、その検出値が設定温度T2を上回る場合に第1ゾーンバンドヒータ30をオフにする。
【0038】
以上の構成により、温度制御システム100は、第1ゾーンZ1に対応する第1ゾーンバンドヒータ30を用いて、対応するバンドヒータが存在しないゾーンZ1.5の温度を制御する。その結果、温度制御システム100は、対応するバンドヒータが存在しないゾーンの温度を所望の温度に制御でき、加熱対象部材としての加熱シリンダ1の温度をより柔軟に制御することができる。
【0039】
また、温度制御システム100は、第1ゾーンバンドヒータ30を用いてゾーンZ1.5の温度を目的温度T1に制御した後で、ゾーンZ1.5の温度が設定温度T1に達したときの第1ゾーンZ1の温度を設定温度T2とする。そして、温度制御システム100は、第1ゾーンバンドヒータ30を用いて、対応する第1ゾーンZ1の温度を目的温度T2に制御する。その結果、温度制御システム100は、第1ゾーンバンドヒータ30により、第1ゾーンZ1の温度を設定温度T2に制御しながら、ゾーンZ1.5の温度を設定温度T1に制御することができる。
【0040】
また、温度制御システム100は、第1ゾーンバンドヒータ30を用いて第1ゾーンZ1の温度を目的温度T2に制御した後で、再び、第1ゾーンバンドヒータ30を用いてゾーンZ1.5の温度を設定温度T1に制御するようにしてもよい。この場合、温度制御システム100は、ゾーンZ1.5の温度制御と第1ゾーンZ1の温度制御とを順番に繰り返すようにする。その結果、温度制御システム100は、第1ゾーンバンドヒータ30により、第1ゾーンZ1の温度を設定温度T2に制御し、且つ、ゾーンZ1.5の温度を設定温度T1に制御することができる。
【0041】
また、温度制御システム100は、所定の温度制御ゾーンを加熱する加熱部で、その所定の温度制御ゾーンとこれに隣接する温度制御ゾーンとの間の領域の温度を制御する。すなわち、温度制御システム100は、第1ゾーンZ1を加熱する第1ゾーンバンドヒータ30で、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2との間の領域であるゾーンZ1.5の温度を制御する。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、温度制御システム100は、所定の温度制御ゾーンを加熱する加熱部で、他の温度制御ゾーン間の領域の温度を制御するようにしてもよい。
【0042】
次に、図4を参照しながら、温度制御部20による別の温度制御処理(以下、「第二温度制御処理」とする。)について説明する。
【0043】
図4は、温度制御システム100における温度制御部20により温度制御される加熱シリンダ1の温度分布の別の一例を示す図であり、図2に対応する。図4は、加熱シリンダ1の概略図の下に、基準点からの距離と温度との関係を表すグラフを示す。なお、図2の場合と同様、そのグラフの基準点は、水冷シリンダ10の中心点であり、その距離は、基準点からノズル部13の方向(図の左方)に向かって増大する。
【0044】
温度制御部20は、第一温度制御方法にしたがって、第3ゾーンバンドヒータ32により第3ゾーンZ3の温度を設定温度T1に制御し、且つ、第4ゾーンバンドヒータ33により第4ゾーンZ4の温度を設定温度T1に制御する。
【0045】
以上の温度制御により、加熱シリンダ1の温度分布は、図4の一点鎖線で示すように、第3ゾーンZ3及び第4ゾーンZ4のそれぞれにおいて設定温度T1となる。
【0046】
しかしながら、例えばサイクルアップや樹脂の供給量増大により加熱シリンダ1に対する必要熱量が第4ゾーンバンドヒータ33の供給熱量を上回るような状態では、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1に到達できない状況が発生し得る。
【0047】
そこで、第4ゾーンZ4の温度が閾値温度T3未満の温度のまま所定時間にわたって停滞した場合、温度制御部20は、第4ゾーンZ4に隣接する第3ゾーンZ3に対応する第3ゾーンバンドヒータ32による第4ゾーンZ4の温度制御(第二温度制御方法)を開始する。第4ゾーンZ4の温度を設定温度T1に制御するためである。なお、閾値温度T3は、第4ゾーンバンドヒータ33の異常の有無を判定するための温度であり、例えば、設定温度T1から所定温度だけ低い温度である。
【0048】
具体的には、温度制御部20は、第4ゾーン温度センサ44の検出値を継続的に監視し、その検出値が設定温度T1未満の場合に第3ゾーンバンドヒータ32をオンにすることで、第3ゾーンバンドヒータ32により第4ゾーンZ4の温度を設定温度T1に制御する。この場合、温度制御部20は、設定温度T1と第4ゾーン温度センサ44の現在の検出値(<T1)との差が大きい程、第3ゾーンバンドヒータ32に対するPWM信号のデューティ比を大きくして温度上昇率を増大させてもよい。また、温度制御部20は、第3ゾーン温度センサ43の検出値を継続的に監視し、その検出値が閾値温度T4(>T1)に達した場合に第3ゾーンバンドヒータ32をオフしてもよい。第3ゾーンZ3の温度が既に設定温度T1に達しているにもかかわらず、第4ゾーンZ4の温度を上昇させるために第3ゾーンバンドヒータ32を更に継続してオンにした結果、第3ゾーンZ3の温度が設定温度T1を過度に上回ることを防止するためである。
【0049】
図4のグラフは、上述の理想的な温度分布(一点鎖線)に加え、第4ゾーンバンドヒータ33に異常が生じている場合に、第4ゾーンバンドヒータ33によって第4ゾーンZ4の温度を制御した場合、すなわち、第4ゾーンZ4に対して第一温度制御方法を採用した場合の温度分布(破線)を示す。さらに、図4のグラフは、第3ゾーンバンドヒータ32によって第4ゾーンZ4の温度を制御した場合、すなわち、第4ゾーンZ4に対して第二温度制御方法を採用した場合の温度分布(実線)を示す。
【0050】
図4の破線で示すように、第4ゾーンバンドヒータ33が第4ゾーンZ4を十分加熱できない場合に、第4ゾーンZ4に対して第一温度制御方法を採用し続けた場合には、第4ゾーンZ4の温度は、設定温度T1に達することなく、閾値温度T3を下回る温度で推移する。
【0051】
一方、図4の実線で示すように、第4ゾーンバンドヒータ33が第4ゾーンZ4を十分加熱できない場合に、第4ゾーンZ4に対して第二温度制御方法を採用した場合には、第3ゾーンZ3の温度を閾値温度T4(>T1)未満としながらも、第4ゾーンZ4の温度を設定温度T1に制御することができる。
【0052】
このようにして、温度制御システム100は、対応するバンドヒータの異常等に起因する温度制御ゾーンにおける温度の非制御状態を回避することができる。
【0053】
次に、図5を参照しながら、第二温度制御処理の流れについて説明する。なお、図5は、第二温度制御処理の流れを示すフローチャートである。温度制御部20は、例えば、第4ゾーンZ4の温度、すなわち、第4ゾーン温度センサ44の検出値が所定時間にわたって閾値温度T3を下回ったままである場合に、この第二温度制御処理を実行する。
【0054】
最初に、温度制御部20は、第3ゾーンバンドヒータ32による第4ゾーンZ4の温度制御(第二温度制御方法)を開始する(ステップS11)。
【0055】
具体的には、温度制御部20は、第4ゾーン温度センサ44の検出値を継続的に監視し、その検出値が設定温度T1未満の場合に第3ゾーンバンドヒータ32をオンにする。
【0056】
その後、温度制御部20は、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1に達したか否かを監視する(ステップS12)。なお、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1に達したとの判断は、例えば、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1になったまま所定時間が経過した場合に行われる。第4ゾーンZ4の温度が安定的に設定温度T1になったことを確認するためである。なお、設定温度T1は、所定の幅を有する温度範囲であってもよい。
【0057】
第4ゾーンZ4の温度が未だ設定温度T1に達していないと判断した場合(ステップS12のNO)、温度制御部20は、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1に達したか否かの監視を継続する。
【0058】
一方、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1に達したと判断した場合(ステップS12のYES)、温度制御部20は、第3ゾーンZ3の現在の温度、すなわち、第3ゾーン温度センサ43の現在の検出値を、第3ゾーンZ3の設定温度T5(<T4)とする(ステップS13)。なお、第3ゾーンZ3の設定温度T5は、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1に達したときに第3ゾーン温度センサ43が検出する温度そのものではなく、その温度に所定の係数を掛ける等、その温度に基づいて間接的に導き出される温度であってもよい。
【0059】
その後、温度制御部20は、第3ゾーンバンドヒータ32による第3ゾーンZ3の温度制御(第三温度制御方法)を開始する(ステップS14)。
【0060】
具体的には、温度制御部20は、第3ゾーン温度センサ43の検出値を継続的に監視し、その検出値が設定温度T5未満の場合に第3ゾーンバンドヒータ32をオンにし、その検出値が設定温度T5を上回る場合に第3ゾーンバンドヒータ32をオフにする。
【0061】
温度制御部20が第三温度制御方法を採用するのは、第3ゾーンZ3の温度を設定温度T5に制御することによって第4ゾーンZ4の温度を設定温度T1に制御できるものと考えられるためである。但し、温度制御部20は、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1に達した後も、第三温度制御方法を採用することなく第二温度制御方法を採用し続けるようにしてもよい。第4ゾーンZ4は、ノズル部13が接触する金型装置(図示せず。)の温度変動の影響を直接的に受けるため、第3ゾーンZ3に比べて温度が変動しやすい。このような状況において第二温度制御方法を採用し続けた場合、比較的変動しやすい第4ゾーンZ4の温度を迅速に設定温度T1に制御できるためである。なお、第二温度制御方法を採用し続けた場合、第3ゾーンZ3の温度が制御されないこととなるが、第3ゾーンZ3の温度が閾値温度T4に達した場合に第3ゾーンバンドヒータ32をオフすることによって、第3ゾーンZ3の温度が過度に上昇するのを防止できる。
【0062】
以上の構成により、温度制御システム100は、第3ゾーンZ3に対応する第3ゾーンバンドヒータ32を用いて、対応するバンドヒータに異常が発生した第4ゾーンZ4の温度を制御する。その結果、温度制御システム100は、対応するバンドヒータに異常が発生したゾーンの温度を所望の温度に制御でき、加熱対象部材としての加熱シリンダ1の温度をより柔軟に制御することができる。
【0063】
また、温度制御システム100は、第3ゾーンバンドヒータ32を用いて第4ゾーンZ4の温度を目的温度T1に制御した後で、第4ゾーンZ4の温度が設定温度T1に達したときの第3ゾーンZ3の温度を設定温度T5とする。そして、温度制御システム100は、第3ゾーンバンドヒータ32を用いて、対応する第3ゾーンZ3の温度を目的温度T5に制御する。その結果、温度制御システム100は、第3ゾーンバンドヒータ32により、第3ゾーンZ3の温度を設定温度T5に制御しながら、第4ゾーンZ4の温度を設定温度T1に制御することができる。
【0064】
また、温度制御システム100は、第3ゾーンバンドヒータ32を用いて第3ゾーンZ3の温度を目的温度T5に制御した後で、再び、第3ゾーンバンドヒータ32を用いて第4ゾーンZ4の温度を設定温度T1に制御するようにしてもよい。この場合、温度制御システム100は、第4ゾーンZ4の温度制御と第3ゾーンZ3の温度制御とを順番に繰り返すようにする。その結果、温度制御システム100は、第3ゾーンバンドヒータ32により、第3ゾーンZ3の温度を設定温度T5に制御し、且つ、第4ゾーンZ4の温度を設定温度T1に制御することができる。
【0065】
また、温度制御システム100は、所定の温度制御ゾーンを加熱する加熱部で、その所定の温度制御ゾーンに隣接する温度制御ゾーンの温度を制御する。すなわち、温度制御システム100は、第3ゾーンZ3を加熱する第3ゾーンバンドヒータ32で、第3ゾーンZ3と隣接する第4ゾーンZ4の温度を制御する。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、温度制御システム100は、所定の温度制御ゾーンを加熱する加熱部で他の温度制御ゾーンの温度を制御するものであればよく、他の温度制御ゾーンは、隣接する温度制御ゾーンに限られない。
【0066】
また、温度制御システム100は、第一温度制御処理と第二温度制御処理とを同時並行で実行するようにしてもよい。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0068】
例えば、上述の実施例において、温度制御システム100は、加熱シリンダ1の各ゾーンを加熱する加熱部としてバンドヒータを採用するが、加熱部はこれには限定されない。例えば、温度制御システム100は、加熱流体を循環させる管路を各ゾーンの周りに配置した加熱装置を採用してもよい。この場合、温度制御部20は、加熱流体の温度や流速を調整して各ゾーンの温度を制御する。
【符号の説明】
【0069】
1・・・加熱シリンダ 2・・・制御部 3・・・バンドヒータ 4・・・温度センサ 10・・・水冷シリンダ部 11・・・第一円筒部 12・・・第二円筒部 13・・・ノズル部 20・・・温度制御部 30・・・第1ゾーンバンドヒータ 31・・・第2ゾーンバンドヒータ 32・・・第3ゾーンバンドヒータ 33・・・第4ゾーンバンドヒータ 40・・・第1ゾーン温度センサ 41・・・第1.5ゾーン温度センサ 42・・・第2ゾーン温度センサ 43・・・第3ゾーン温度センサ 44・・・第4ゾーン温度センサ 100・・・温度制御システム Z1・・・第1ゾーン Z2・・・第2ゾーン Z3・・・第3ゾーン Z4・・・第4ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の温度制御ゾーンに分割されて温度制御される加熱シリンダと、
前記複数の温度制御ゾーンのうちの所定の温度制御ゾーンを加熱する加熱部と、
前記加熱部で前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所の温度を所定温度に制御する温度制御部と、
を有することを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所に設けられた温度検出部の検出値に基づいて、前記加熱部で前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所の温度を所定温度に制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所は、前記複数の温度制御ゾーンの間の領域である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所は、他の温度制御ゾーンである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所は、該所定の温度制御ゾーンと隣接する温度制御ゾーンである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形機。
【請求項6】
前記温度制御部は、前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所の温度を所定温度に制御した後、前記加熱部で前記所定の温度制御ゾーンの温度を制御する、
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の射出成形機。
【請求項7】
前記温度制御部は、前記加熱部で前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所の温度を所定温度に制御したときの前記所定の温度制御ゾーンの温度を該所定の温度制御ゾーンの設定温度として、該所定の温度制御ゾーンの温度を制御する、
ことを特徴とする請求項6に記載の射出成形機。
【請求項8】
前記温度制御部は、前記加熱部で前記所定の温度制御ゾーンの温度を前記設定温度に制御した後、前記所定の温度制御ゾーン以外の箇所の温度を制御する、
ことを特徴とする請求項7に記載の射出成形機。

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−52510(P2013−52510A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190061(P2011−190061)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】