説明

射出成形用プロピレン系樹脂組成物、これを用いてなる成形体及びその製造方法

【課題】本発明は、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6以上であるプロピレン系樹脂を射出成形した場合であっても、射出後の冷却時間を長期化させずに、エジェクターピンによる白化や変形などの成形不良を生じることなく金型から離型でき、寸法精度に優れている成形体を提供することが可能な射出成形用プロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の射出成形用プロピレン系樹脂組成物は、分子量分布が6以上であるプロピレン系樹脂100重量部、平均粒子径が1〜7μmであるタルク1〜3重量部、及びステアリン酸金属塩0.1〜1.5重量部を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6以上であるプロピレン系樹脂を含む射出成形用プロピレン系樹脂組成物、これを用いてなる成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系樹脂は、軽量性、成形性及び衝撃強度などに優れていることから、自動車部品や家電部品など様々な分野における成形体として用いられている(特許文献1)。
【0003】
プロピレン系樹脂を用いてなる成形体の製造は、生産性の観点から、射出成形によって行われている。射出成形法では、プロピレン系樹脂を溶融混練した後に、金型内に射出充填し、冷却固化させることにより、成形体が得られる。そして、成形体をエジェクターピンにより突出すことで、金型から成形体は離型される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−75984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プロピレン系樹脂を射出成形してなる成形体を金型から離型すると、成形体のエジェクターピンと接触した部分が白化したり、離型後に変形したりする等の成形不良を生じる場合があった。
【0006】
本発明者の検討によると、上述した成形体の成形不良は、分子量分布が6以上の分子量分布が広いプロピレン系樹脂を用いた場合に特に生じ、これは分子量分布が広いプロピレン系樹脂を射出成形してなる成形体は剛性が低く、さらに上記成形体の剛性が不均一であることが原因であること分かった。
【0007】
成形体をエジェクターピンによって突き出すことによって金型から離型しようとする際に、成形体が金型から離れようとすると成形体と金型との間が真空状態となったり、金型のリブ溝などの凹部から成形品が抜け難くなったりするために、成形体には突出し方向に対して反対の方向に力が働き、結果として成形体のエジェクターピンと接触している箇所に局所的に大きな応力が加わる。分子量分布が広いプロピレン系樹脂を射出成形してなる成形体では、剛性が低いために、エジェクターピンによって加えられる応力に耐えることができず、成形体のエジェクターピンと接触した部分に大きな応力が加わることにより白化が発生する。
【0008】
また、プロピレン系樹脂を金型内に射出成形した後に冷却固化する際に、上記プロピレン系樹脂の射出圧力や冷却速度が不均一となるために、得られる成形体には残留歪みが発生する。この残留歪みによって成形体は金型から離型された後に徐々に収縮する。分子量分布が広いプロピレン系樹脂を射出成形してなる成形体は、剛性が低く且つ剛性が不均一であるために、金型から離型された後に不均一に収縮して反りなどの変形を特に生じ易く、成形体の寸法精度が低下する。
【0009】
分子量分布が広いプロピレン系樹脂を射出成形してなる成形体の剛性を向上させ且つ剛性の均一性を向上させるためには、上記プロピレン系樹脂を射出した後、金型内で徐々に冷却を行うことにより、上記プロピレン系樹脂の結晶成長を促進させる方法がある。しかしながら、このような方法では、分子量分布が広いプロピレン系樹脂を金型内に射出した後、1分以上かけて冷却する必要があり、プロピレン系樹脂の射出後の冷却時間が長くなって成形体の製造効率や生産コストを低下させる。
【0010】
したがって、本発明の目的は、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6以上であるプロピレン系樹脂を射出成形した場合であっても、射出後の金型内での冷却時間を長期化させずに、エジェクターピンによる白化や離型後の変形などの成形不良の発生が高く低減されている成形体を提供することが可能な射出成形用プロピレン系樹脂組成物を提供する。
【0011】
さらに、本発明の他の目的は、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6以上であるプロピレン系樹脂を射出成形した場合であっても、射出後の金型内での冷却時間を長期化させずに、エジェクターピンによる白化や離型後の変形などの成形不良の発生が高く低減されている成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[プロピレン系樹脂組成物]
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6以上であるプロピレン系樹脂100重量部、平均粒子径が1〜7μmであるタルク1〜3重量部、及びステアリン酸金属塩0.1〜1.5重量部を含むことを特徴とする。
【0013】
(プロピレン系樹脂)
本発明のプロピレン系樹脂組成物に用いられるプロピレン系樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、6以上であるが、6〜12が好ましく、6〜9がより好ましい。このような分子量分布を有するプロピレン系樹脂のみを射出成形してなる成形体は、剛性が低く且つ剛性が不均一であるために、エジェクターピンによって突き出した際に白化したり、離型後に変形したりする等の成形不良を特に生じやすい。したがって、本発明のプロピレン系樹脂組成物には、分子量分布が6以上であるプロピレン系樹脂が用いられる。
【0014】
プロピレン系樹脂の数平均分子量(Mn)は、2万以上が好ましく、3万以上が好ましい。数平均分子量(Mn)が2万以上であるプロピレン系樹脂は、重合反応の制御が難しく、未反応モノマーや低分子量のプロピレン系樹脂などを多く含むために、分子量分布が広くなり易い。したがって、本発明のプロピレン系樹脂組成物には、数平均分子量(Mn)が2万以上であるプロピレン系樹脂が好適に用いられる。
【0015】
また、数平均分子量(Mn)が高過ぎるプロピレン系樹脂を含む組成物は射出成形することが困難となることから、プロピレン系樹脂の数平均分子量(Mn)は、50万以下が好ましく、30万以下がより好ましく、10万以下が特に好ましい。
【0016】
なお、本発明において、プロピレン系樹脂の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法によりポリスチレン換算として測定された値を意味する。例えば、次の要領で測定することができる。
【0017】
プロピレン系樹脂1.5gに、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びオルトジクロロベンゼン(o-DCB)を含む溶液(BHT:o-DCB(重量比)=50:50)1000ミリリットルを添加して得られた混合液を溶解ろ過装置(TOSHO社製 DF-8020)により、混合液の温度を145℃、回転速度25rpmとして、2時間振とうさせて、プロピレン系樹脂を溶解させて測定試料を得る。得られた測定試料に基づいて、プロピレン系樹脂のポリスチレン換算した数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)をGPC法によって測定することにより得ることができる。
【0018】
そして、プロピレン系樹脂におけるGPC法による数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC-8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR-H(20)HT×3本
TSKguardcolumn-HHR(30)HT×1本
移動相:o−DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSOH社製 分子量:500〜8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0019】
プロピレン系樹脂として、具体的には、プロピレン単独重合体、及びプロピレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。これらのプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0020】
プロピレン−α−オレフィン共重合体において、プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、プロピレン以外の成分であって、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、及び1−デセン等が挙げられる。また、プロピレン−α−オレフィン共重合体は、ブロック共重合体及びランダム共重合体の何れであってもよい。
【0021】
プロピレン系樹脂としては、均一な剛性を有する成形体が得られることから、プロピレン−エチレンブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0022】
プロピレン系樹脂中におけるプロピレン成分の含有量は、50重量%以上が好ましく、55〜95重量%がより好ましく、60〜90重量%が特に好ましい。プロピレン系樹脂中におけるプロピレン成分の含有量が低過ぎると、得られる成形体の剛性が低くなる虞れがある。
【0023】
(タルク)
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、タルクを用いてプロピレン系樹脂の結晶化度を向上させることにより、剛性が均一に向上され、エジェクターピンによる白化や離型後の変形などの成形不良の発生が高く低減された成形体を提供することが可能となる。
【0024】
タルクの平均粒子径は、1〜7μmであるが、4〜7μmが好ましく、4〜5μmが特に好ましい。平均粒子径が1μm未満のタルクでは、これをプロピレン系樹脂組成物中に均一に分散させることが困難となり、プロピレン系樹脂の結晶化度を均一に向上させることができず、結果として得られる成形体の剛性を均一に向上できない虞れがある。また、平均粒子径が7μmを超えるタルクは、プロピレン系樹脂組成物を射出成形してなる成形体中では異物として存在することとなり、結果として成形体の剛性を低下させる虞れがある。
【0025】
上記平均粒子径を有するタルクは、例えば、天然に産出された鉱物をジョークラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕した後、ジェットミルやスクリーンミル、ローラーミル、振動ミル等を用いて微粉砕し、その後、サイクロンエアセパレーター、ミクロセパレーター、シャープカットセパレーター等の装置で分級することで得ることが出来る。
【0026】
なお、本発明において、タルクの平均粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒度分析測定装置を用いて測定した値とする。例えば、タルクをその濃度が5重量%となるようにエタノールからなる溶媒に投入した後、超音波ホモジナイザーを用いて1kwの出力で超音波を30分間照射して懸濁液を得、この懸濁液についてレーザー回折・散乱式の粒度分析測定装置(例えば、日機装株式会社製 マイクロトラックMT3300)によりタルクの体積粒度分布を測定し、この体積粒度分布の累積50%の値をタルクの平均粒子径として算出することができる。
【0027】
プロピレン系樹脂組成物中におけるタルクの含有量は、プロピレン系樹脂100重量部に対して、1〜3重量部に限定されるが、1.5〜3重量部が好ましい。プロピレン系樹脂中におけるタルクの含有量が低過ぎると、プロピレン系樹脂の結晶化度を十分に向上させることができず、結果として得られる成形体の剛性を十分に向上できない虞れがある。また、プロピレン系樹脂組成物中におけるタルクの含有量が高過ぎると、過剰量のタルクがプロピレン系樹脂組成物を射出成形してなる成形体中では異物として存在することとなり、結果として成形体の剛性や衝撃強度を低下させる虞れがある。
【0028】
(ステアリン酸金属塩)
ステアリン酸金属塩によれば、プロピレン系樹脂組成物中におけるタルクの分散性を向上させることができる。ステアリン酸金属塩によってタルクの分散性を向上させることによって、プロピレン系樹脂の結晶化度を均一に向上させることができ、得られる成形体の剛性を均一に向上させて、成形体のエジェクターピンによる白化や離型後の変形などの成形不良の発生を高く低減することが可能となる。
【0029】
ステアリン酸金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸ナトリウム、及びステアリン酸カリウムなどが挙げられる。これらは一種のみが用いられてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0030】
なかでも、ステアリン酸金属塩としては、タルクを特に高度に分散させることが可能なことから、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウムが好ましく、ステアリン酸カルシウムが特に好ましい。
【0031】
ポリプロピレン系樹脂組成物におけるステアリン酸金属塩の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜1.5重量部に限定されるが、0.3〜1.5重量部が好ましく、0.3〜1.0重量部がより好ましい。ステアリン酸金属塩の含有量が0.1重量部未満であると、タルクを十分に分散できず、結果として得られる成形体の剛性を均一に向上できない虞れがある。また、ステアリン酸金属塩の含有量が1.5重量部を超えると、過剰量のステアリン酸金属塩が得られる成形体の剛性を低下させる虞れがある。
【0032】
また、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、上記の成分の他に、必要に応じて、たとえば、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤などの他の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0033】
[射出成形方法]
本発明の成形体を射出成形により製造するには、上述したポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練した後に金型内に射出して成形する方法が用いられる。具体的には、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6以上であるプロピレン系樹脂100重量部、平均粒子径が1〜7μmであるタルク1〜3重量部、及びステアリン酸金属塩0.1〜1.5重量部を含むポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練した後、金型内に射出して成形することにより、成形体を得ることができる。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練する際に、ステアリン酸金属塩はペースト状となって滑性を呈することでポリプロピレン系樹脂に対するタルクのなじみ性を向上させ、タルクをポリプロピレン系樹脂組成物中に高度に且つ均一に分散させることができる。このように高度に且つ均一に分散されたタルクによれば、溶融混練したポリプロピレン系樹脂組成物を金型内で冷却して成形体を得る際に、冷却に要する時間を長期化させずに短時間でポリプロピレン系樹脂の結晶化を促進させることができ、タルクを起点としてポリプロピレン系樹脂を構成している高分子鎖が規則的に配列してなる結晶部分を高度に且つ均一に分散させて成長させることが可能となる。
【0035】
また、溶融混練しているポリプロピレン系樹脂組成物中でペースト状となったステアリン酸金属塩は、得られた成形体の表面や内部において固化して固体状態となっており、成形体の剛性に影響を及ぼすことはない。
【0036】
したがって、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練した後に成形することにより得られる成形体中では、ポリプロピレン系樹脂の非晶部分からなる連続相中に高度に且つ均一に分散された島状の結晶部分が多く存在し、このようにポリプロピレン系樹脂の結晶化度が向上されていることによって、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が広いプロピレン系樹脂を用いた場合であっても、剛性が均一に向上された成形体を得ることができる。このような成形体は、エジェクターピンによる白化や離型後の変形などの成形不良の発生が高く低減される。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、上述した各成分を混合することにより得られる。タルクの分散性を向上させるために、タルク及びプロピレン系樹脂とを含むマスターバッチを予め製造し、このマスターバッチにプロピレン系樹脂及びステアリン酸亜鉛を混合することによりポリプロピレン系樹脂組成物を製造するのが好ましい。
【0038】
射出成形機内でポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練する温度は、190〜240℃に限定されるが、200〜230℃がより好ましい。このような温度でポリプロピレン系樹脂組成物を溶融混練することによって、ステアリン酸金属塩の滑性を向上させてタルクの分散性を向上させることができる。また、ポリプロピレン系樹脂組成物の溶融混練は、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなどの溶融混練機を用いて行えばよい。
【0039】
溶融させた熱可塑性樹脂組成物を射出充填する際の金型の温度は、20〜50℃が好ましく、30〜40℃がより好ましい。この範囲内であれば、固定金型と可動金型とでそれぞれ温度が異なっていてもよい。
【0040】
溶融混練したプロピレン系樹脂組成物を金型内に射出充填した後に冷却固化させることにより、成形体が得られる。冷却時間は、5〜25秒が好ましく、10〜20秒がより好ましい。本発明では、溶融混練したプロピレン系樹脂組成物を金型内に射出充填した後に冷却固化させるのに要する時間を短くしても、プロピレン系樹脂の結晶を十分に成長させて剛性が均一に向上された成形体を得ることができる。
【0041】
本発明によれば、上述した通り、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6を超えるプロピレン系樹脂を用いた場合であっても、優れた剛性を有し且つ剛性の均一性に優れている成形体を得ることができる。
【0042】
具体的には、本発明によれば、曲げ弾性率が1200MPa以上、特に1250〜1400MPaであり、且つ引張伸びが30〜70%、特に40〜65%である成形体を提供することができる。このような曲げ弾性率及び引張伸びを有している成形体は、剛性に優れており、エジェクターピンの突出しによる白化や離型後の変形などの成形不良の発生が高く抑制される。
【0043】
本発明の成形体は、様々な用途に用いることができる。用途としては、例えば、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、家具の被覆部材、医療容器、及び重量物輸送用のパレットやコンテナなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物によれば、これを溶融混練した上で射出成形することにより、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6を超えるプロピレン系樹脂を用いた場合であっても、金型内で短時間で冷却固化し、剛性に優れている成形体を提供することができる。このような成形体は、離型時にエジェクターピンの突出しによる白化の発生が高く低減されており、優れた外観を有する。さらに、上記成形体は、離型後に発生する不均一な収縮による変形も高く低減されており、寸法精度にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例において作製した成形体の上面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
まず、プロピレン−エチレンブロック共重合体(プロピレン成分の含有量90重量%、数平均分子量(Mn)64000、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))6.4、プライムポリマー社製 J706L)、及びタルクA(平均粒子径4μm、日本タルク株式会社製 微粉タルクP−6)を二軸押出機に供給して220℃で溶融混練した後に押し出してペレット化することにより、マスターバッチを作製した。なお、マスターバッチ中におけるプロピレン−エチレンブロック共重合体とタルクAとの重量比は、40:60とした。
【0048】
次に、プロピレン−エチレンブロック共重合体(プロピレン成分の含有量90重量%、数平均分子量(Mn)64000、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))6.4、プライムポリマー社製 J706L)98重量部、上記で作製したマスターバッチ5重量部、及びステアリン酸カルシウム0.3重量部を、射出成形機上に設置したホッパーから供給し、射出成形機のシリンダー内で230℃で溶融混練してプロピレン系樹脂組成物を得た。このプロピレン系樹脂組成物を溶融させた状態で30℃に設定された金型のキャビティ内に、射出速度30mm/秒、射出圧力90MPa、射出時間5秒で射出充填した後、15秒間冷却して固化させることにより成形体を得た。その後、金型を開き、エジェクターピンによって成形体を50kgf/cm2の圧力で突き出すことにより、成形体を金型から離型させた。
【0049】
なお、金型内のキャビティ形状は、図1に示す成形体Aが得られるように設計した。図1に示す成形体Aは、平面長方形状(縦300mm×横400mm、厚み2mm)である底面部10と、この底面部10の外周縁の全周から上方に向かって延設されてなり且つ一定の高さを有する四角枠状の周壁部20(厚み2mm)とからなる箱型形状を有し、且つ周壁部20の開口端縁が平面長方形状(縦296mm×横396mm)に形成されている。また、成形体Aの高さは120mmである。
【0050】
(比較例1)
プロピレン−エチレンブロック共重合体(プロピレン成分の含有量90重量%、数平均分子量(Mn)64000、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))6.4、プライムポリマー社製 J706L)のみを射出成形機上に設置したホッパーから供給した以外は、実施例1と同様にして成形体を得、金型から離型させた。
【0051】
(実施例2〜4及び比較例2〜3)
プロピレン系樹脂組成物中に含まれているプロピレン−エチレンブロック共重合体、タルク、及びステアリン酸カルシウムの配合量がそれぞれ表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして成形体を得、金型から離型させた。
【0052】
(実施例5)
タルクAに代えて、タルクB(平均粒子径7μm、日本タルク株式会社製 汎用タルク P−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を得、金型から離型させた。
【0053】
(比較例4)
タルクAに代えて、タルクC(平均粒子径13μm、日本タルク株式会社製 汎用タルク MS−P)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を得、金型から離型させた。
【0054】
(評価)
上記で作製した成形体の剛性を評価するため、成形体について、曲げ強度、曲げ弾性率、及び引張伸びを下記の要領に従って評価した。さらに、成形体における成形不良(白化及び変形)の発生を下記の要領に従って評価した。結果を表1に示す。
【0055】
(曲げ強度及び曲げ弾性率)
成形体の底面部10の内面及び外面が平坦である中央部の一部を切断することにより縦10mm×横80mmの平面長方形状の試験片を得、この試験片について、JIS K7171に準拠して、23℃における曲げ強度(MPa)及び曲げ弾性率(MPa)を測定した。そして、試験片を5個用意し、各試験片の曲げ強度及び曲げ弾性率それぞれ測定し、これらの相加平均値をそれぞれ成形体の曲げ強度及び曲げ弾性率とした。
【0056】
(引張伸び)
成形体の底面部10の内面及び外面が平坦である中央部の一部を切断することによりJIS 7113に準拠したダンベル状のJIS2号形試験片を得、この試験片について、JIS 7113に準拠して、23℃における引張伸び(%)を測定した。そして、試験片を5個用意し、各試験片の引張伸びを測定し、これらの相加平均値をそれぞれ成形体の引張伸びとした。
【0057】
(白化)
成形体を目視で観察することにより、成形体のエジェクターピンと接触した箇所における白化の発生の有無を確認した。表1において、「有」及び「無」はそれぞれ下記の通りである。
無:成形体のエジェクターピンと接触した箇所に白化の発生が全く見られなかった。
有:成形体のエジェクターピンと接触した箇所に白化の発生が見られた。
【0058】
(変形)
成形体の高さH(mm)を任意に18箇所測定し、測定した高さH(mm)のうち最大値Hmax(mm)と最小値Hmin(mm)との差Dを求め、下記の基準に従って変形を評価した。
無:差Dが2mm以下であった場合には変形が発生していないと判断した。
有:差Dが2mmを超える場合には変形が発生していると判断した。
【0059】
【表1】

【符号の説明】
【0060】
10 底面部
20 周壁部
A 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6以上であるプロピレン系樹脂100重量部、平均粒子径が1〜7μmであるタルク1〜3重量部、及びステアリン酸金属塩0.1〜1.5重量部を含むことを特徴とする射出成形用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
プロピレン系樹脂の数平均分子量が2万以上であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
プロピレン系樹脂が、プロピレン−エチレンブロック共重合体を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の射出成形用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
ステアリン酸金属塩が、ステアリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の射出成形用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の射出成形用プロピレン系樹脂組成物を溶融混練した上で射出成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項6】
分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が6以上であるプロピレン系樹脂100重量部、平均粒子径が1〜7μmであるタルク1〜3重量部、及びステアリン酸金属塩0.1〜1.5重量部を含む射出成形用プロピレン系樹脂組成物を190〜240℃で溶融混練した後、金型内に射出して成形することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項7】
プロピレン系樹脂の数平均分子量が2万以上であることを特徴とする請求項6に記載の射出成形用プロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
プロピレン系樹脂が、プロピレン−エチレンブロック共重合体を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
ステアリン酸金属塩が、ステアリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60564(P2013−60564A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201535(P2011−201535)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(390033112)積水テクノ成型株式会社 (48)
【Fターム(参考)】