説明

射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマー及びその製造方法

【課題】
製造工程を削減した射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法が提供でき、及び、その方法により製造された射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、高硬度でありながら、衝撃吸収性向上と低融点化を実現できること。
【解決手段】
数平均分子量Mnが600〜1000のポリテトラメチレングリコール10〜25モル%と、芳香族基がアルキレン基と結合している芳香族ジイソシアネート45〜55モル%とを反応させてプレポリマーを製造し、次いで、該プレポリマーに、芳香族環を有するジオール25〜40モル%を反応させて鎖延長して射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーを製造する射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法、及び、その製造方法によって製造されたポリウレタンエラストマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマー及びその製造方法に関し、詳しくは、高硬度でありつつ衝撃吸収性に優れた射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、一般的に成形加工性にすぐれ、不揮発性残留物なども少なく、多用途の緩衝材として利用されてきたが、緩衝性の温度依存性が大きいという性質がみられる。
【0003】
例えば、ハードディスクドライブ(HDD)において、ストッパーの緩衝能力が小さい(減速度が大きい)場合、アームの平行移動エネルギーは、垂直方向の振動エネルギーに変換され易くなり、ハードディスクに損傷を与える可能性が高くなる。
【0004】
一方、緩衝性が高い材料でも、高温時に変位量が大きくなると、ハードディスクから情報を読み取るヘッド部の移動範囲が拡がり、他の部品と接触して破損するおそれがある。
【0005】
HDDが使用される環境により、HDDの仕様や機構は多岐に渡るため、ストッパーに対する要求も様々であるが、寸法安定性、衝撃吸収性および低VOC(揮発性有機化合物)性はいずれも重要な要求特性項目となる。
【0006】
ストッパーの衝撃吸収性が乏しいと、HDDの仕様や機構によっては、ハードディスク(メディア)や情報を読み取るヘッドが損傷する恐れがあるが、衝撃吸収性を高めるあまり硬度を低く設定すると、寸法安定性に欠けたり、VOCが発生しやすくなるなどのデメリットがある。
【0007】
また、多岐にわたるHDDの仕様において、ストッパーに、高硬度(ショアAで96〜A99の範囲)の材料を要求されることも実際にあるため、高硬度でありつつ、衝撃吸収性に優れた材料という物性も必要となる。
【0008】
特許文献1には、硬度の温度依存性が小さく衝撃吸収性に優れる熱可塑性ポリウレタンエラストマーが記載されている。特許文献1は、高温でも剛直性を維持できるようにハードセグメントの結晶性を高めた分子構造であり、分子量が1400のポリテトラメチレングリコール(PTG)に、剛性を重視して、o−トリジンジイソシアネート(3,3′−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート)等の芳香族ジシソシアネートを用いてプレポリマーを形成している。
【0009】
しかしながら、単純に配合比率の変更による高硬度化を企てると、ハードセグメントが長くなり、結晶性が高くなり過ぎてしまう。結果として衝撃吸収性(tanδ)が低下し、射出成形時の成形性も悪化する。成形性の悪化とは、具体的にはキャビティー内に材料が完全に充填される前に、材料の固化が始まる現象が起こり、外観不良や寸法不良が生じやすくなることや、成形直後、離型時の脆さなどがみられるようになることである。
【0010】
高硬度でありつつも優れた衝撃吸収性を保持させるために、高硬度化を担うハードセグメントと柔軟性を担うソフトセグメントのバランスをコントロールすることが必要である。
【0011】
特許文献2〜4のように、ソフトセグメントに脂肪族ポリエーテルグリコールのような柔軟性を有するタイプと芳香族ポリエステルグリコールのような剛直性を有するタイプをブレンドし、ジイソシアネートとの重付加により共重合体を得るといったものである。
【0012】
しかしながら、特許文献2〜4のように、ソフトセグメント側で硬度調整を行うと、衝撃吸収性は低下し、ポリエステルの場合には加水分解も懸念される。
【0013】
また、特許文献2〜4では、芳香族を有する鎖伸長剤については記載がない。
【0014】
特許文献5は、両末端がイソシアネート基(NCO)のプレポリマーと、両末端がヒドロキシ基(OH)のプレポリマーを事前に合成し、それらの2液を衝突・混合させて、ポリマー(成形物)を製造する技術を開示している。この技術では、両末端がヒドロキシ基のプレポリマーを作成するために、PTG、MDI、BD(1,4−ブタンジオール)を混合、反応させている。
【0015】
BDはPTGに比べて分子量が小さく(BDはPTGのモノマーとして考えられる)、MDIの反応性を考えると、BDの方がPTGよりも速いと考えられる。
【0016】
いずれにしても両末端ヒドロキシ基のプレポリマー配合からすると、PTGは確実に未反応の状態でプレポリマーの中に残る。
【0017】
そのような状態のまま、2液を衝突混合させると、−PTG−MDI−PTG−や、−PTG−MDI−PTG−MDI−PTG−というユニットを生成することになる。
【0018】
これはソフトセグメントが長くなることを意味しており、結果的にはソフトセグメントと対に存在するハードセグメントの長さも長くなることを意味する。
【0019】
このように引用文献5では、ハードセグメントの長さが長くなるので、高硬度材に配合した場合に、結晶化温度(融点)が高くなり、離型直後の脆さなどの問題がある。
【0020】
また特許文献5では、2液を事前に合成する手法を採用するので、製造工程が増加する問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2005−281655号公報
【特許文献2】特開2005−290248号公報
【特許文献3】特開2005−325220号公報
【特許文献4】特開2006−192750号公報
【特許文献5】特開平06−316617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
そこで、本発明の課題は、製造工程を削減した射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法が提供でき、及び、その方法により製造された射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、高硬度でありながら、衝撃吸収性向上と低融点化を実現できることにある。
【0023】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0025】
高硬度でありながら、衝撃吸収性と低融点化を実現するために、まず、高硬度のポリウレタン材を得ることを考えると、ハードセグメント濃度を高める必要がある。
【0026】
そこで、ハードセグメントの長さに着目し、ハードセグメントを長くせず、逆に小さく分割できれば結晶性は抑えられると考えた。ハードセグメントは短いが、それらの数を増やせば結果的にハードセグメントの濃度を高めることができる。
【0027】
一方で、ソフトセグメントも短くする必要がある。ハードセグメントとソフトセグメントは交互に位置する(存在する)ので、互いの数はおおよそ等しくなると考えられる。従って、ソフトセグメントが長いとソフトセグメント濃度も高くなり、相対的にハードセグメントの濃度が低下し、軟化してしまうからである。
【0028】
かかる知見に基づき、高硬度でありつつ結晶性を抑制する方法として、ハードセグメントの分子構造を変えるというのも有効であると考えて実験を重ねたところ、以下の各発明に至った。
【0029】
(請求項1)
数平均分子量Mnが600〜1000のポリテトラメチレングリコール10〜25モル%と、芳香族基がアルキレン基と結合している芳香族ジイソシアネート45〜55モル%とを反応させてプレポリマーを製造し、
次いで、該プレポリマーに、芳香族環を有するジオール25〜40モル%を反応させて鎖伸長して射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーを製造する射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法。
【0030】
(請求項2)
前記ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量Mnが、800〜900である請求項1記載の射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーを製造する射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法
【0031】
(請求項3)
請求項1又は2記載の製造方法によって製造されたポリウレタンエラストマーであり、
該ポリウレタンエラストマーの硬度がショアAで96〜99であり、DSCによる結晶化温度が200℃以下である射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【0032】
(請求項4)
請求項1又は2記載の製造方法によって得られた射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーをHDDのストッパーとして用いる射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの使用。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、製造工程を削減した射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法が提供でき、及び、その方法により製造された射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、高硬度でありながら、衝撃吸収性向上と低融点化を実現できる。
【0034】
本発明においては、ポリテトラメチレングリコール(PTG)と芳香族基がアルキレン基と結合している芳香族ジイソシアネート(MDI)でプレポリマーを合成するが、その反応により−MDI−PTG−MDI−と、MDIモノマーの混合物が得られる。
【0035】
ここで、MDIとPTGの配合比はPTG10〜25モル%に対してMDI45〜55モル%であり、MDIはPTGに対して過剰に配合されており、且つPTG-MDIの反応は比較的マイルドに進行するので、特許文献5で開示されているような−MDI−PTG−MDI−PTG−MDI−といったものや、それ以上の長さのユニットは形成されない。
【0036】
ソフトセグメントはPTG1ユニットの長さ以上にはならず、特許文献5の方法で合成されたものよりもソフトセグメントの長さが短くなるので、結果的にハードセグメントの長さも短く抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0038】
本発明の製造方法における第1工程は、数平均分子量Mnが600〜1000のポリテトラメチレングリコール10〜25モル%と、芳香族基がアルキレン基と結合している芳香族ジイソシアネート45〜55モル%とを反応させてプレポリマーを製造する工程であり、第2工程は、上記第1工程で得られたプレポリマーに、芳香族環を有するジオール25〜40モル%を反応させて鎖伸長して射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーを製造する工程である。
【0039】
ここで、モル%の表示は、前記第1工程及び第2工程で使用される原料である「ポリテトラメチレングリコール」、「芳香族ジイソシアネート」及び「ジオール」の合計モル数100モル%に対するモル%を表している。
【0040】
ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量Mnは、好ましくは700〜950の範囲であり、特に好ましくは800〜900の範囲である。
【0041】
平均分子量がこれよりも小さいものを用いると、高温時の剛性に乏しくなり、加熱、軟化による形状安定性にも欠けるようになり、一方、これよりも大きいものを用いると、低温時の柔軟性に乏しくなる。
【0042】
本発明において、プレポリマーを製造する上で、ポリテトラメチレングリコール10〜25モル%と芳香族ジイソシアネート45〜55モル%を反応させるが、好ましい反応比は、ポリテトラメチレングリコール15〜20モル%と、芳香族ジイソシアネート48〜55モル%の範囲であり、より好ましい反応比は、ポリテトラメチレングリコール16〜19モル%と、芳香族ジイソシアネート50〜54モル%の範囲である。
【0043】
芳香族ジイソシアネートに対してポリテトラメチレングリコールの使用割合が25モル%越えると、目的とする材料硬度が得られにくくなるばかりか、得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの熱安定性が乏しくなり、一方、10モル%未満の割合で使用されると、得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの低温における柔軟性が損われ易くなる。
【0044】
ポリテトラメチレングリコールと反応してプレポリマーを形成するのに用いられる芳香族ジイソシアネートとしては、芳香族基がアルキレン基と結合しているものが好ましく、中でも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0045】
MDIは良好な耐熱性を付与できるが、2つのベンゼン環がメチレン基でつながれているため、やや柔軟な分子構造となり、結晶性を抑えられるからである。
【0046】
特許文献1のように、o−トリジンジイソシアネート(3,3′−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート) (TODI)は、芳香族ジイソシアネートではあっても、ビフェニル構造であるので、分子内の2つのイソシアネート間が常に直線状の配置にあり、非常に剛直性が強いので、衝撃吸収性が悪化してしまい好ましくない。
【0047】
また、鎖伸長剤として使用されるジオールとしては、例えば1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート、p−ヒドロキシフェネチルアルコールなどの芳香族環を有するジオール、好ましくは1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンが用いられる。
【0048】
芳香族環を有するジオールが鎖伸長剤として用いられると、芳香族ジイソシアネートの使用と相俟って、ハードセグメントの芳香族環濃度が高められる結果となり、ポリエーテルソフトセグメントと共に、低温領域ですぐれた柔軟性を維持し、かつ高温領域での形状安定性を併せ持つ熱可塑性ポリウレタンエラストマーを得ることができる。
【0049】
鎖伸長剤としてのジオールは、反応原料合計モル数中25〜40モル%、好ましくは30〜35モル%。さらに好ましくは30〜33モル%の割合で用いられる。鎖伸長剤ジオールの使用割合がこれよりも少ないと、ハードセグメントの割合が少なくなって高温時の剛性に乏しくなり、一方これよりも多い割合で用いられると、ハードセグメントの割合が多くなりすぎ、すなわちソフトセグメントの割合が少なくなりすぎ、低温時の柔軟性に乏しくなる。
【0050】
また、ポリテトラメチレングリコールと鎖伸長剤ジオール中の合計OH基に対する芳香族ジイソシアネート中のNCO基のモル数比(NCO/OH)は、0.9〜1.2の範囲が好ましく、より好ましくは1.0〜1.1の範囲である。
【0051】
反応の結果、得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマーには、必要に応じて離型剤、着色剤、滑剤、可塑剤、カップリング剤、耐熱安定剤、難燃剤などを添加した後、周知の成形方法、例えば射出成形法、押出成形法などによって、緩衝材などとして求められる所望の形状に成形される。これらの各種成形法の内、作業性や生産性の点からは射出成形法が好適である。
【0052】
本発明の製造方法によって製造された射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)による結晶化温度が200℃以下であり、この射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いて成形された成形品は、硬度がショアAで96〜99である。
【0053】
本発明では、ショアA96〜A99と高硬度の配合においても、製品成形時の安定性に優れるところである。理由としては、ハードセグメントの結晶性が高く、材料自体も高硬度となるにも関わらず、融点(結晶化温度)が相対的に低いからである。このことが成形安定性を良化し、結果として成形直後(離型直後)の製品、スプルおよびランナーが破損し難くなるのである。ハードセグメントの濃度が高い割に融点が低めに抑えられるのは、ハードセグメントを短くした効果である。また、ハードセグメントには結晶性が高い芳香族環を用いているので耐熱性には優れるが、MDI由来の2つのベンゼン環はメチレン基でつながれているため分子が動きやすい状態になる。つまり、結晶性(融点)が低下する訳である。
【0054】
また本発明によって製造される熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、高硬度でありながら衝撃吸収性を有する。ハードセグメントと同様にソフトセグメントも短く分子設計されているため、柔軟性を発現し難い環境ではあるが、ポリエーテルポリオールの柔軟な分子構造により衝撃吸収性が優れる。つまり、ポリテトラメチレングリコールのマイクロブラウン運動により、柔軟性と衝撃吸収性が付与されている。
【0055】
衝撃吸収性向上などのために添加物を使用しておらず、VOCを増加させない配合となっている。また、ポリオールは低分子化合物の少ない、単分散に近いものを選定することが好ましい。
【0056】
本発明によると、ポリウレタンエラストマーの強度や熱的安定性などの諸特性を変えることなく、且つ融点を上昇させずに高硬度化を図ることができた。
【0057】
また、それら高硬度材(ショアA96〜99)の配合において、射出成形時における成形性や寸法安定性も向上することができた。
【0058】
このようにして得られたポリウレタンエラストマーは高硬度でありながら、衝撃吸収性に優れるので、HDDのストッパーとして有用に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により、本発明を更に説明する。なお、以下の実施例において、「部」とあるのは、特に断らない限り、重量部を表す。
【0060】
実施例1
ポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業製PTG850SN、ポリ(オキシテトラメチレン)ジグリコール;平均分子量850)100部と、芳香族ジイソシアネート(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、三井化学製コスモネートPH:CAS No.101−68−8)90部を100〜140℃の温度範囲において30〜90分間反応させ、プレポリマーを得た。
【0061】
得られたプレポリマーを100〜140℃に保ち、それにBHEB(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、サンテクノケミカル製:CAS No.104−38−1)44.6部(100〜140℃)を加えて鎖伸長反応を行い、ポリウレタンエラストマーを得た。
【0062】
実施例2
ポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業製PTG650SN、ポリ(オキシテトラメチレン)ジグリコール;平均分子量650)100部と、芳香族ジイソシアネート(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、三井化学製コスモネートPH:CAS No.101−68−8)100部を100〜140℃の温度範囲において30〜90分間反応させ、プレポリマーを得た。
【0063】
得られたプレポリマーを100〜140℃に保ち、それにBHEB(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、サンテクノケミカル製:CAS No.104−38−1)44.9部(100〜140℃)を加えて鎖伸長反応を行い、ポリウレタンエラストマーを得た。
【0064】
実施例3
ポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業製PTG1000SN、ポリ(オキシテトラメチレン)ジグリコール;平均分子量1000)100部と、芳香族ジイソシアネート(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、三井化学製コスモネートPH:CAS No.101−68−8)85部を100〜140℃の温度範囲において30〜90分間反応させ、プレポリマーを得た。
【0065】
得られたプレポリマーを100〜140℃に保ち、それにBHEB(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、サンテクノケミカル製:CAS No.104−38−1)44.3部(100〜140℃)を加えて鎖伸長反応を行い、ポリウレタンエラストマーを得た。
【0066】
比較例1
ポリテトラメチレングリコール(保土谷化学工業製PTG1400SN、ポリ(オキシテトラメチレン)ジグリコール;平均分子量1400)100部と、芳香族ジイソシアネート(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、三井化学製コスモネートPH:CAS No.101−68−8)80部を100〜140℃の温度範囲において30〜90分間反応させ、プレポリマーを得た。
【0067】
得られたプレポリマーを100〜140℃に保ち、それにBHEB(1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、サンテクノケミカル製:CAS No.104−38−1)46.2部(100〜140℃)を加えて鎖伸長反応を行い、ポリウレタンエラストマーを得た。
【0068】
〔評価〕
以下の項目について、下記測定法、評価法によって測定、評価した。結果を表1に示す。
【0069】
1.常態物性値
ゴム硬度Hs(ショアA):JIS K6253に準拠し、タイプAデュロメーターで測定した。
引張応力100%モジュラス(MPa):JIS K6251に準拠(5号ダンベル)
引張強さTB(MPa):JIS K6251に準拠(5号ダンベル)
伸びEB(%):JIS K6251に準拠(5号ダンベル)
【0070】
2.圧縮永久歪(CS)
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーを射出成形して得られた各試験片(φ13.0mm×厚み2.1mm)をそれぞれ3枚ずつ重ね、JIS K 6262に準拠して80℃×70時間(25%圧縮)後の圧縮永久歪(%)を評価した。
【0071】
3.融点(℃)
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーについて、示差走査熱量測定(DSC)とフローテスターを各々用いて、融点を測定した。
【0072】
4.結晶化温度(℃)
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーについて、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、結晶化温度を測定した。
【0073】
5.成形性
(1)成形直後の強度
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーを用いて射出成形した後、金型から各試験片を離型する際の金型のスプル部につながるランナ部に残留する材料片(厚み約2mmのシート状)を約90°屈曲した時の屈曲部の表面状態を目視で観察し、クラック(ひび割れ)について、以下の基準で評価した。なお、屈曲は離型直後に行った。
【0074】
<評価基準>
○(強い):クラックが発生していない
△(やや脆い):わずかにクラックが発生している
×(脆い):著しくクラックが発生している
【0075】
(2)外観
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーを用いて得られた射出成形品について、目視にて観察し、以下の基準で評価した。
【0076】
<評価基準>
○:ヒケ、フローマークなし
△:ヒケ、フローマークわずかにあり
×:ヒケ、フローマーク著しくあり
なお、ヒケとは、成形後に収縮によって生じるへこみ、窪みであり、フローマークとは、(半)固化した樹脂の流れる跡が模様として成形品表面に現れたものである。
【0077】
(3)寸法安定性(収縮率;%)
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーを用いて得られた射出成形品について、アニーリング後の成形品の寸法を測定した。この寸法と、金型の寸法とで、以下の式にて寸法安定性(収縮率;%)を求めた。
寸法安定性=(1−(アニーリング後の成形品寸法/金型寸法))×100
なお、アニーリングは125℃で15時間加熱した。
【0078】
6.耐熱性
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーを用いて得られた射出成形品について、JIS K6257に準拠し(5号ダンベル)、120℃、1000時間加熱した後に引張強さを測定し、引張強さ保持率(%)=(1000時間経過後の引張強さ/加熱前の引張強さ×100)で算出した。なお、引張強さ保持率は、60%以上が好ましい。
【0079】
7.耐水性
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーを用いて得られた射出成形品について、JIS K6258に準拠し(5号ダンベル)、80℃の熱水に2000時間浸漬した後に引張強さを測定し、引張強さ保持率(%)=(2000時間経過後の引張強さ/熱水浸漬前の引張強さ×100)で算出した。なお、引張強さ保持率は、60%以上が好ましい。
【0080】
8.VOC(揮発性有機化合物)
実施例1〜3、比較例1のポリウレタンエラストマーを用いて得られた射出成形品について、下記測定方法でVOC値を測定した。HDDのストッパー材として、VOC値が65μg/g以下であることを実用上の必須条件に設定した。
【0081】
<VOC測定方法>
(1)日本分析工業社製のHM−04を用い、110℃にて18時間、Heガスを毎分150ml流しながらTenax缶にVOCを吸着させた。
(2)日本工業社製のJHS−100を用いて濃縮する。具体的には250℃で15分間、Tenax缶に吸着されたVOCを脱着させ、−60℃に冷却されたガラスウールに再吸着させる。
(3)日本工業社製のJHS−100を用いてガラスウールに吸着させ、濃縮したVOCを255℃で30秒間加熱し、そのVOCをGC/MS装置に注入する。
【0082】
【表1】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量Mnが600〜1000のポリテトラメチレングリコール10〜25モル%と、芳香族基がアルキレン基と結合している芳香族ジイソシアネート45〜55モル%とを反応させてプレポリマーを製造し、
次いで、該プレポリマーに、芳香族環を有するジオール25〜40モル%を反応させて鎖伸長して射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーを製造する射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法。
【請求項2】
前記ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量Mnが、800〜900である請求項1記載の射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーを製造する射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法によって製造されたポリウレタンエラストマーであり、
該ポリウレタンエラストマーの硬度がショアAで96〜99であり、DSCによる結晶化温度が200℃以下である射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項4】
請求項1又は2記載の製造方法によって得られた射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーをHDDのストッパーとして用いる射出成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマーの使用。



【公開番号】特開2011−184667(P2011−184667A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54680(P2010−54680)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】