説明

射出成形用金型

【課題】成形材料を効果的に冷却し、サイクルタイムを短縮可能な射出成形用金型を提供する。
【解決手段】
成形材料から放出される熱によって発電する熱電モジュール(34,64)を備えるスプルーブシュ(30,60)と、前記熱電モジュールで発電された電力を用いて冷却を行う冷却モジュール(50)を備える金型部材(28)と、を有する射出成形用金型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂等の成形を行う射出成形は、様々な分野で応用されている。射出成形において、成形品を大量かつ安価に製造するためには、1回の成形に要する時間であるサイクルタイムを短縮することが効果的であり、特に高温の成形材料を効果的に冷却する技術が提案されている。
【0003】
成形材料を効果的に冷却する方法として、例えば主型の温度調整機構に加えて、冷却用の水路が形成されたスプルーブシュを有する射出成形用金型が提案されている(特許文献1等参照)。このようなスプルーブシュは、比較的固化に時間を要する傾向のあるスプルー内の成形材料を効果的に冷却することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/038694号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術では、スプルー内に冷却用の流路を形成しているためスプルーの形状が複雑になり、また、冷却用の流路へ冷却水を供給するための冷却経路を形成する必要があり、スプルー周辺の金型部材の形状も複雑になるという問題を有している。また、スプルーブシュに水路を形成する方法では、スプルーに対する冷却効果は期待できるものの、ランナーやゲート周辺などに対しては、大きな冷却効果を及ぼすことができないという問題を有している。
【0006】
本発明に係る射出成形用金型は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、成形材料を効果的に冷却し、サイクルタイムを短縮可能な射出成形用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る射出成形用金型は、
成形材料から放出される熱によって発電する熱電モジュール(34,64)を備えるスプルーブシュ(30,60)と、
前記熱電モジュールで発電された電力を用いて冷却を行う冷却モジュール(50)を備える金型部材(28)と、を有する。
【0008】
また、例えば、前記熱電モジュールは、当該熱電モジュールで発電された電力を蓄える二次電池(46,48)に電気的に接続されていても良く、
前記冷却モジュールは、接続及び接続解除を切り換え可能なスイッチ(42)を介して、前記二次電池に対して、電気的に接続されていても良い。
【0009】
なお上述の説明では、本発明をわかりやすく説明するために実施形態を示す図面の符号に対応づけて説明したが、本発明は、これに限定されるものでない。後述の実施形態の構成を適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替させてもよい。さらに、その配置について特に限定のない構成要件は、実施形態で開示した配置に限らず、その機能を達成できる位置に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る射出成形用金型の概略断面図である。
【図2】図2は、図1に示す射出成形用金型を含む射出成形機の概念図である。
【図3】図1に示す射出成形用金型に含まれるスプルーブシュを表す斜視図である。
【図4】本発明の変形例に係るスプルーブシュを示す断面斜視図である。
【図5】図2に示す射出成形機で行われる射出成形工程を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る射出成形用金型20の概略断面図である。金型20は、ロケートリング21、スプルーブシュ30、固定側取付板22、固定側型板23、可動側型板24、エジェクタプレート25a,25b、受け板26,スペーサブロック27、可動側取付板28等を有する。
【0012】
ロケートリング21は、金型20を射出成形機10(図2参照)に設置する際に、位置決めを行うための部材である。固定側取付板22は、固定側型板23を取り付けるための部材である。固定側型板23は、金型20に含まれる金型部材のなかでも、可動側型板24とともに、金型20に含まれる金型部材の主要部分を構成しており、主として成形品の外観となる部分を形成している雌型である。
【0013】
固定側取付板22及び固定側型板23に形成された貫通孔には、スプルーブシュ30が嵌合されている。スプルーブシュ30の内部には、射出成形機10のノズルから射出された溶融樹脂等の成形材を、キャビティへ搬送するための経路であるスプルー32が形成されている。また、スプルーブシュ30におけるロケートリング21側の端部には、成形機のノズルが接触する台座が形成されている。スプルーブシュ30は、成形材料から放出される熱によって発電する熱電モジュール34(図3等参照)を備えるが、詳細構造については後ほど述べる。
【0014】
可動側型板24は、固定側型板23とともに金型20に含まれる金型部材の主要部分を構成しており、主として成形品の内面となる部分を形成している雌型である。可動側型板24は、熱電モジュール34で発電された電力を用いて成形材料の冷却を行う冷却モジュール50を備える。冷却モジュールの詳細については、後ほど述べる。
【0015】
受け板26は、可動側型板24を支えるための部材である。スペーサブロック27は、内部にエジェクタプレート25a,25bを収納する空間を形成するための部材である。エジェクタプレート25a,25bには、成形品を金型20から取り出すためのエジェクタピン(不図示)が取り付けられている。エジェクタプレート25a,25bは、成形品を金型20から取り出す際に、射出成形機10のエジェクタ装置によって動かされる。
【0016】
可動側取付板28は、射出成形機10の可動盤に可動側型板24、受け板26等を取り付けるための部材である。なお、固定側型板23及び可動側型板24には、金型20の温度を調整するための冷却水や熱媒体油を通過させる水穴が形成されている。水穴には、射出成形機10に備えられる金型用温度調整機を介して、冷却水や熱媒体油が供給される。
【0017】
図3は、図1に示す金型20に備えられるスプルーブシュ30の斜視図である。スプルーブシュ30の外周側には、熱電モジュール34が備えられている。熱電モジュール34は、スプルーブシュ30の本体部31の外周面に形成された取付面に、接着等により固定されている。熱電モジュール34の高温側部34aは、スプルーブシュ30の内部に設けられたスプルー32に近接するように配置され、低温側部34bは、高温側部34aを挟んでスプルー32とは反対側に配置される。なお、熱電モジュール34は、スプルーブシュ30の本体部31に接合されていれば設置位置は限定されない。例えば、熱電モジュール34は、図3に示すように、スプルーブシュ30における固定側取付板22又は固定側型板23への嵌合面35以外の場所に配置されることが、スプルーブシュ30から固定側取付板22又は固定側型板23への排熱の観点から好ましい。
【0018】
熱電モジュール34は、pn接合部に温度差を与えると起電力を発生するゼーペック効果等を利用するものであり、スプルー32を通過する成形材料から放出される熱によって発電する。熱電モジュール34に用いられる熱電材料としては、特に限定されないが、ビスマステルル系材料、鉛テルル系材料、Ba−Ga−Sn系材料等が挙げられる。
【0019】
図4は、本実施形態の変形例に係るスプルーブシュ60の断面斜視図であり、熱電モジュール64が、スプルーブシュ60の本体部と一体に形成されていることを除き、図3に示すスプルーブシュ30と同様である。熱電モジュール64は、熱電モジュール34と同様の熱電材料によって構成されるが、半導体膜の形成技術等により、スプルーブシュ60の本体部の表面に形成されている。このように、スプルーブシュ30,60に備えられる熱電モジュール34,64は、図3に示すようにスプルーブシュ30の本体部31と別個に作製された後に本体部31に接合されても良く、図4に示すように本体部と一体であっても良い。
【0020】
図2は、図1に示す射出成形用金型20を含む射出成形機10の概念図である。図2の下方に示す射出成形機10の内部では、図2の上方に示すような金型20の排熱のリサイクルシステム52が構築されている。排熱のリサイクルシステム52は、スプルーブシュ30に備えられる熱電モジュール34、スイッチ40,42、二次電池46,48及び、可動側型板24に備えられる冷却モジュール50によって構成される。
【0021】
熱電モジュール34は、上述したようにスプルーブシュ30に備えられており、主としてスプルー32内の成型樹脂からの熱及びそれによって形成される温度勾配によって発電する。スプルー32付近は、金型20の中でも温度勾配の大きい場所の一つであるため、スプルーブシュ30に備えられた熱電モジュール34は、効果的に発電することが可能である。
【0022】
熱電モジュール34は、スイッチ40を介して二次電池46,48に電気的に接続されている。スイッチ40は、熱電モジュール34をいずれか一方の二次電池46,48に対して接続し、制御部からの制御信号を受けて接続を切り換えることが可能である。スイッチ40の作動は、射出成形機10内の制御部(不図示)によって制御され、放電中でない方の二次電池46,48(すなわちスイッチ42によって冷却モジュール50に電気的に接続されていない方の二次電池46,48)と、熱電モジュール34を電気的に接続する。
【0023】
二次電池46,48は、熱電モジュール34と電気的に接続され、熱電モジュールで発電された電力を蓄えることができる。また、二次電池46,48は、冷却モジュール50に対して電気的に接続されることにより、冷却モジュール50に電力を供給することができる。スイッチ42は、接続及び接続解除を切り換え可能であり、二次電池46,48のいずれか一方と冷却モジュール50とを、切り換えて電気的に接続することが可能である。また、スイッチ42は、二次電池46,48と冷却モジュール50との接続を解除した状態に保つことも可能である。スイッチ42の作動は、スイッチ40と同様に射出成形機10の制御部(不図示)によって制御される。なお、スイッチ40,42及び二次電池46,48は、金型20の内部に備えられていても良いが、金型20の外部に配置されていても良い。
【0024】
冷却モジュール50は、スイッチ42を介して二次電池46,48に電気的に接続されており、熱電モジュール34で発電され二次電池46,48に蓄えられた電力を用いて、金型20内の成形材料の冷却を行うことができる。冷却モジュール50は、固定側型板23又は可動側型板24(図1参照)に設けられることが好ましく、例えばスプルー32とランナー36との接続部分の近傍や、ダイレクトゲートを採用する場合はその近傍に設けられることが、さらに好ましい。冷却モジュール50を、スプルー32、ランナー36及びキャビティ38等の成形材料が充填される場所に近接して配置することにより、冷却モジュール50による冷却効果を高めることができる。また、スプルー32とランナー部36との接続部分や、ダイレクトゲート周辺は、溶融した成形材料が固化するまでに要する時間が、その他の部分より長くなる傾向にあるため、このような場所に冷却モジュール50を近接させて配置することは、特に効果的である。
【0025】
冷却モジュール50は、電力を利用して冷却を行うものであれば良く、例えばベルチェ素子を用いた冷却モジュール50等が挙げられる。
【0026】
図5は、図2に示す射出成形機10で行われる射出成形工程を表すフローチャートである。以下に、図2及び図5を用いて、射出成形工程で実施される排熱のリサイクルについて説明する。図5に示すステップS001では、一連の射出成形工程が開始される。ステップS001若しくはステップS001の前に、射出成形機10のホッパーから射出成形の成形材料を投入し、射出成形機10の加熱筒や金型20の温度を設定する。射出成形に用いられる成形材料としては、樹脂材料等が挙げられ、加熱筒の温度は、成形材料である樹脂等を溶融させる温度に設定される。
【0027】
図5に示すステップS002では、金型20内に溶融状態にある成形材料が充填される。ステップS002では、射出成形機10の加熱筒の先端にあるノズルから、図2に示すスプルーブシュ30のスプルー32を介して、ランナー36及びキャビティ38に、成形材料が流入する。
【0028】
ステップS002では、溶融した成形材料がスプルー32を通過するため、図2に示す熱電モジュール34に大きな電力が発生する。このとき、スイッチ40は熱電モジュール34と二次電池46とを電気的に接続しており、熱電モジュール34で発電された電力は、二次電池46に充電される。
【0029】
次に、ステップS003では、ノズルから金型20内への圧力を所定の値に保つ保圧工程が実施される。ステップS003でも、スプルー32の近傍に配置された熱電モジュール34には大きな温度勾配が発生し、熱電モジュール34に大きな電力が発生する。図2に示すスイッチ40は、ステップS002と同様に、熱電モジュール34と二次電池46とを電気的に接続しており、ステップS003においても、熱電モジュール34で発電された電力は、二次電池46に充電される。なお、ステップS002及びステップS003において、スイッチ42は、二次電池46,48と冷却モジュール50との接続を解除している。
【0030】
図5に示すステップS004では、ノズルから金型20内への成形材料の流入が止まり、キャビティ38、ランナー36及びスプルー32内の成形材料を冷却・固化させる。ステップS004において、図2に示すスイッチ40は、接続を切り換え、熱電モジュール34と二次電池48とを電気的に接続し、これと共に、スイッチ42は、二次電池46と冷却モジュール50とを電気的に接続する。なお、ステップS003からステップS004への切り換えタイミングは、一連の射出成形工程の前にトライ成形を実施するなどして事前に算出され、射出成形機10に入力されることが好ましい。
【0031】
上述したように、二次電池46には、充填工程(ステップS002)及び保圧工程(ステップS003)において熱電モジュール34によって発電された電力が充電されている。そのため、ステップS004において、冷却モジュール50には二次電池46から電力が供給され、冷却モジュール50は、その近傍の金型部材及び成形材料を冷却する。図1及び図2に示す例では、冷却モジュール50は、スプルー32とランナー36との接続部分の近傍に配置されており、スプルー32とランナー36との接続部分の成形材料を特に効果的に冷却し、この部分の固化が、他の部分より遅くなることを防止することができる。
【0032】
また、冷却工程(ステップS004)の前期には、スプルー32の成形材料からの放熱により、熱電モジュール34は発電を継続する。ステップS004において熱電モジュール34で発電された電力は、二次電池48に充電される。二次電池48に充電された電力は、二次電池46の電力を使い切った冷却工程の後期において、冷却モジュール50による金型部材及び成形材料の冷却に使用される。この場合、スイッチ42は、二次電池46に替えて、二次電池48と冷却モジュール50とを接続する。
【0033】
図5に示すステップS005では、冷却・固化した成形品を、金型20の内部から取り出す。
【0034】
図2に示す射出成形機10は、ステップS002〜ステップS005を繰り返すことにより、多量の成形品を製造することが可能である。ステップS002〜ステップS005を繰り返し、所定数の成形品を製造し終えた後、射出成形機10は、ステップS006へ進み、一連の射出成形工程を終了する。
【0035】
図2等に示すように、本実施形態に係る金型20は、熱電モジュール34が成形材料からの排熱を用いて発電し、これを冷却モジュール50に供給して成形材料の冷却に用いることにより、排熱のリサイクルシステム52を構築している。したがって、金型20は、冷却工程(図5のステップS004参照)等において成形材料を効率的に冷却することが可能であり、射出成形工程の1サイクルに要する時間を短縮することが可能である。また、金型20は、冷却モジュール50を金型20内の任意の場所に配置することが可能であり、例えば成形品における単位面積当たりの容積が大きい場所の近くに冷却モジュール50を配置することにより、特定の部分の固化が遅れてサイクルタイムが長くなることを効果的に防止することができる。
【0036】
また、冷却モジュール50は、二次電池46,48との電気的な配線を確保することにより、比較的容易に金型20内に配置することができるため、金型20は、冷却水を流す流路を形成するようなものに比べて、構造が単純で製造が容易である。また、金型20は、排熱を利用して冷却効果を高めているため、外部のエネルギーを利用した温度調整機構のみによる従来の金型に比べて、省エネルギーである。
【0037】
さらに、熱電モジュール34,64は、金型20内において大きな温度勾配が生じるスプルーブシュ30に設けられており、効果的な発電が可能である。また、熱電モジュール34,64は、スプルーブシュ30と固定側取付板22等との嵌合面35を避けて配置されており、スプルーブシュ30は熱電モジュール34,64が無い場合とほぼ同様の放熱を行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
10…射出成形機
20…金型
21…ロケートリング
22…固定側取付板
23…固定側型板
24…可動側型板
25a,25b…エジェクタプレート
26…受け板
27…スペーサブロック
28…可動側取付板
30,60…スプルーブシュ
31…本体部
32…スプルー
34,64…熱電モジュール
34a…高温側部
34b…低温側部
35…嵌合面
36…ランナー
38…キャビティ
40,42…スイッチ
46,48…二次電池
50…冷却モジュール
52…排熱のリサイクルシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料から放出される熱によって発電する熱電モジュールを備えるスプルーブシュと、
前記熱電モジュールで発電された電力を用いて冷却を行う冷却モジュールを備える金型部材と、を有する射出成形用金型。
【請求項2】
前記熱電モジュールは、当該熱電モジュールで発電された電力を蓄える二次電池に電気的に接続されており、
前記冷却モジュールは、接続及び接続解除を切り換え可能なスイッチを介して、前記二次電池に対して、電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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