説明

射出成形装置

【課題】高アスペクト比のナノ構造を持つ金型に対して、ナノ構造物の深部まで樹脂の充填を可能にし、さらに、離型剤等を使用しないで、高生産性を維持しアスペクト比1以上の反射防止ナノ構造物の成型品を製造する。
【解決手段】固定側コア4と可動側コア5の表面を、成形されるべき樹脂の軟化温度より高い温度に加熱してから前記固定側コア4と可動側コア5を型締めし、型締め後に、固定側コア4と可動側コア5内に樹脂を充填し、充填後に、固定側コア4と可動側コア5を樹脂の軟化温度より低い温度まで冷却しながら充填された樹脂を保圧し、低い温度で樹脂成型品を冷却保持し、その後、固定側コア4と可動側コア5を型開きして、ナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品を射出成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスペクト比が、1以上であって10以下のナノメータサイズの構造物(以下、「ナノ構造物」という。)を備えた光学素子、光学部品等の成型品の射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスや樹脂等から成る光学素子において、表面反射による戻り光を減少させ、且つ透過光を増加させるために、表面処理が行われている。この表面処理の具体的な方法として、光学素子表面に微細、且つ緻密な凹凸形状を形成する方法が知られている。
【0003】
このように光学素子表面に周期的な凹凸形状を設けた場合、光は、光学素子表面を透過するときに回折し、透過光の直進成分が大幅に減少するが、光学素子表面に形成された凹凸形状のピッチが透過する光が波長よりも短い凹凸形状の短形としたときには、光は回折しないために、そのピッチや深さ等に対応する単一波長の光に対して有効な反射防止効果を得ることができる。
【0004】
さらに、凹凸形状を短形とするのではなく、山と谷、すなわち光学素子材料側と空気側の体積比が連続的に変化するような、いわゆる錐形状(錐形状のパターン)とすることにより、広い波長域を有する光に対しても反射防止効果を得ることができることが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
このような広波長域に対して反射防止する構造を実現するためには、波長以下の微細なパターンで、且つかつアスペクト比が1以上のナノ構造物が必要とされることが知られている。
【0006】
そのため、これら反射防止する構造を低コストで実現するためには、アスペクト比1以上のナノ構造物が表面に構成された金型を用いて、プレス成形、射出成形、キャスト成形等することにより低コストで実現することが期待されている。
【0007】
また、微細構造物が構成された光学素子、光学部品として、高密度化した光ディスク基板等がある。例えば、ブルーレイディスクでは、最短ピット幅は150nmであり、そのときのピット深さは、トラッキング制御の為に、(λ/4n〜λ/8n:λ=405,n=1.5)に設計され、67.5nm〜33.75nmであり、ナノ構造物のアスペクト比が0.45〜0.22程度の低アスペクト比のナノ構造物を金型に利用して、低コストに射出成形することを実現している(特許文献3、特許文献4参照)。
【0008】
光ディスク基板のような成型物を、アスペクト比が0.5以下の低アスペクト比ナノ構造を持つ金型を利用して、射出成形することは、特許文献5、6に記載されているように、樹脂温度の最適化、金型温度の最適化、エアーによる離型のタイミング等を制御することにより、実現可能である(特許文献5、特許文献6参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2001−272505号公報
【特許文献2】特開2006−243633号公報
【特許文献3】特開平8−281692号公報
【特許文献4】特開平11−314256号公報
【特許文献5】特開平8−197593号公報
【特許文献6】特開平11−45463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来例のように、アスペクト比が0.5以下の低アスペクト比ナノ構造を持つ金型を利用して、成型品を射出成形することは、従来も可能であった(特許文献5、6参照)。
【0011】
しかしながら、反射防止機能を持つ光学素子について、より低反射率特性でかつ高透過率特性の良好な光学特性を得るためには、アスペクト比が1以上のナノ構造金型を用いて、成形を行う必要がある。
【0012】
そのため、高アスペクト比構造の金型に、光ディスク成形法を用いた場合には、高アスペクト比のナノ構造金型の深部まで樹脂が十分充填されず、低アスペクト比ナノ構造を表面にもつ成型品になるため、良好な光学特性が得られない、という問題があった。
【0013】
また、仮に高アスペクト比の構造の転写が実現できたとしても、高アスペクト比の構造物に樹脂等が細部まで充填することから、離型ができなくなる問題も発生している。
【0014】
さらに、高アスペクト比の構造物に樹脂が細部まで充填されても、離型する技術として、金型表面に離型剤を塗布し離型を実現することなどが開発されているが、離型剤の耐用回数が少なく、生産性が維持できない等の問題がある。
【0015】
本発明は、上記問題を解決することを目的とし、高アスペクト比のナノ構造を持つ金型(固定側コアと可動側コア)に対して、ナノ構造物の深部まで樹脂の充填を可能にし、さらに、離型剤等を使用しないで、高生産性を維持しアスペクト比1以上の反射防止ナノ構造物の成型品を製造する射出成形装置を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決するために、ナノメータサイズの構造物が表面に形成された固定側コア及び固定側ベース金型を備えた固定側金型と、ナノメータサイズの構造物が表面に形成された可動側コア及び可動側ベース金型を備えた可動側金型と、前記固定側コアと可動側コアの表面を加熱する加熱手段と、前記固定側コアと可動側コアを冷却する冷却手段と、を備え、表面にナノメータサイズの構造物を有する成型品を成形する射出成形装置であって、前記加熱手段は、固定側コアと可動側コアの間に樹脂を充填する前に、該固定側コアと可動側コアの表面を、前記樹脂の軟化温度より高い温度に加熱するものであり、前記冷却手段は、該充填後に、前記固定側コアと可動側コアを前記樹脂の軟化温度より低い温度まで冷却するものであり、前記固定側金型と可動側金型は、部分的に、前記固定側金型と可動側金型を形成する金属より熱伝導率の低い材料が埋め込まれていることを特徴とするナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置を提供する。
【0017】
前記加熱手段は、固定側ベース金型と可動側ベース金型の表面に赤外線、電磁波又はレーザー光線を発生する加熱器が埋込みされてなり、型締めにより互いに対向する前記固定側金型と可動側金型が接近した時に、対向する前記固定側金型と可動側金型の間で、赤外線、電磁波又はレーザー光線を多重反射させて前記固定側コアと可動側コアコアの表面を均一に加熱する構成とすることが好ましい。
【0018】
前記冷却手段は、前記固定側コア及び可動側コアの背面に形成された冷却媒体流路を備えている構成とすることが好ましい。
【0019】
前記冷却手段は、前記固定側金型及び可動側金型の両方又はいずれか一方の表面に形成されており、前記固定側金型と可動側金型が互いに型締めされると冷却媒体を流す流路となるキャビティーを備えている構成とすることが好ましい。
【0020】
前記金属より熱伝導率の低い材料は、ガラス、石英、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、コーディエライト、窒化ケイ素又は炭化ケイ素である。
【0021】
前記固定側コアと可動側コアの表面に形成されたナノメータサイズの構造物の平均ピッチは、30nm〜1000nmであり、アスペクト比1以上である構成とすることが好ましい。
【0022】
前記樹脂の軟化温度より高い温度は、樹脂の分解温度より低い温度である構成とすることが好ましい。
【0023】
前記冷却手段で冷却する温度は、前記樹脂の軟化温度より67℃低い温度である構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る射出成形装置を使用して射出成形を行えば、次のような効果を奏する。
(1)この射出成形装置は、固定側コアと可動側コアの表面を、成形されるべき樹脂の軟化温度より高い温度に加熱し、充填後に固定側コアと可動側コアを樹脂の軟化温度より低い温度まで冷却する構成であるから、充填率と離型性が向上し、アスペクト比1以上のナノ構造を表面にもつ良好な光学特性を持つ成型品を成形することができる。
【0025】
(2)この射出成形装置では、固定側金型と可動側金型は、部分的に、固定側金型と可動側金型を形成する金属材料より熱伝導率の低い材料(低熱伝導率材料)で形成した構成であるから、固定側コアの表面側及び可動側コアの表面側については、その熱容量が小さくすることができ、熱エネルギーを与えた場合に、固定側コアの表面側及び可動側コアの表面を高速に昇温させ短時間の成形が可能となる。これにより、成形サイクルを短くすることができ、ナノ構造物を表面に備えた光学素子の成形の生産性を高めることができる。
【0026】
(3)固定側コアと可動側コアは、その成形表面にナノメータサイズの構造物を備えているから、低反射率でかつ、良好な光学特性を有する光学素子を成形可能である。
【0027】
(4)従って、大面積、曲面形状、かつマイクロメートルサイズの凹凸の表面であっても高精度な反射防止機能を付与するナノ構造物を高成形サイクル(1回の成形サイクルを短時間とできるから一定の時間でより多数回の成形サイクルを繰り返して行うことができる意味。)で成形でき、反射防止構造体を備えた光学素子、光学部品等の射出成形装置としてきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明に係る射出成形装置を実施するための最良の形態を実施例に基づき図面を参照して、以下説明する。
【0029】
図1、図2は、本発明に係る射出成形装置20を示す。この射出成形装置20は、互いに対向する対となった固定側金型21と可動側金型22とを備えている。固定側金型21と可動側金型22は、固定側コア4と可動側コア5を備えており、さらに、固定側コア4と可動側コア5を周りから囲うように、固定側ベース金型群23と可動側ベース金型群24を備えている。
【0030】
固定側コア4と可動側コア5は、図1(a)、(b)、図2(a)、(b)に示す例では2対設けているが、1対又は複数対設ける。互いに対向する固定側コア4の表面6及び可動側コア5の表面には、それぞれナノ構造物が形成されている。
【0031】
このナノ構造物は、アスペクト比は1以上である凹凸面の構成をしており、その固定側コア4と可動側コア5の間に充填された樹脂の表面を成形し、アスペクト比が1以上のナノ構造の凹凸表面を持つ光学素子など成型品を形成するものである。このようなナノ構造物の平均ピッチは、30nm〜1000nmである。
【0032】
固定側ベース金型群23は、1又は複数の固定側ベース金型2を備えており、固定側ベース金型2には樹脂導入路1が形成されている。可動側ベース金型群24は、1又は複数の可動側ベース金型2から構成される。
【0033】
可動側ベース金型3には、樹脂導入路1及び固定側コア4と可動側コア5の成形空間内に連通するキャビティー14が形成されている。キャビティー14は、可動側ベース金型3ではなく、固定側ベース金型2に設けてもよいし、或いは固定側ベース金型2及び可動側ベース金型3の両方に設けてもよい。
【0034】
キャビティー14は、固定側金型2と可動側金型3が互いに型締めされると冷却媒体を流す流路となる。なお、キャビティー14に連通するキャビティー内真空引き排出路12が、可動側ベース金型3に形成されている。このキャビティー14は、固定側ベース金型2に設ける構成としてもよい。
【0035】
可動側ベース金型3及び可動側コア5を貫通して摺動可能に、先端が固定側コア4の表面に対向するように、突き出しピン10、11が設けられている。突き出しピン10、11は、固定側金型21と可動側金型22の型開きを行う際に、固定側コア4に突き当てて使用するものである。
【0036】
固定側ベース金型群23と可動側ベース金型群24には、それぞれ加熱手段15A、15B、温度センサー及び冷却手段8、9が設けられている。加熱手段15A、15Bは、固定側コア4、可動側コア5の表面を加熱するものであり、温度センサーは固定側コア4、可動側コア5の表面の温度を計測するものであり、冷却手段8、9は、固定側コア4及び可動側コア5を冷却するものである。
【0037】
図1(a)、図2(a)に示すように、加熱手段15A、15Bは、固定側ベース金型2と可動側ベース金型3の内部に、ヒータ等の加熱器を埋設した構成としてもよい。
【0038】
或いは、図1(b)、図2(b)に示すように、加熱手段15A、15Bは、例えば、固定側ベース金型2と可動側ベース金型3の表面に、赤外線、電磁波、レーザー光線等の加熱器を埋込む構成としてもよい。
【0039】
加熱手段15A、15Bとして、赤外線、電磁波、レーザー光線等の加熱器を設けた構成では、固定側金型21と可動側金型22を対向して型締め動作する際に、対向する固定側金型21と可動側金型22が接近する。すると、固定側金型21及び可動側金型22の間で、赤外線、電磁波又はレーザー光線の多重反射が生じ、固定側コア4及び可動側コア5の表面6、7を均一に効率的に加熱するという効果が生じる(図4(b)参照)。
【0040】
なお、加熱手段15A、15Bには、例えば、赤外線を利用した加熱器の周囲に反射鏡13を設けると、さらに加熱効果が上昇する。この反射鏡13は、断面略V字型であり固定側ベース金型2と可動側ベース金型3の断面略V字型凹所内に当接するように埋め込まれた構成である。
【0041】
固定側金型21と可動側金型22は、部分的に、固定側金型21と可動側金型22を形成する金属材料より熱伝導率の低い材料(低熱伝導率材料)が埋め込まれている。具体的には、固定側ベース金型2、可動側ベース金型3、固定側コア4及び可動側コア5の全てについて、又はそのいずれかについて、部分的に、低熱伝導率材料が埋め込まれており、固定側コア4及び可動側コア5の熱容量を小さくして、また、固定側ベース金型2と固定側コア4の間、及び、可動側ベース金型3と可動側コア5の間に、低熱伝導率材料を埋め込むみ、熱伝導による固定側コア4及び可動側コア5からの熱の放散を防止する構成である。特に、固定側ベース金型2、可動側ベース金型3へ低熱伝導率材料を埋め込む構成としては、埋め込む低熱伝導率材料で固定側コア4及び可動側コア5を囲むこような配置とすることが好ましい。
【0042】
これにより、低熱伝導率材料が埋め込まれていない場合に較べて、固定側コア4及び可動側コア5の熱容量が小さくなり、さらに、固定側ベース金型2と固定側コア4の間、及び、可動側ベース金型3と可動側コア5の間に、低熱伝導率材料を埋め込むことにより、固定側コア4及び可動側コア5の外部への熱伝導(放散)が小さくなる。即ち、固定側コア4及び可動側コア5は、それらに埋め込まれた低熱伝導率材料により熱容量が小さくなり、また、固定側ベース金型2及び可動側ベース金型3は、それらに埋め込まれた低熱伝導率材料により熱容量が小さくなるとともに、固定側コア4及び可動側コア5からの熱伝導(放散)を抑制することが可能となる。
【0043】
そのため、表面にナノ構造が構成された固定側コア4及び可動側コア5は、それら自体に低熱伝導率材料が埋め込まれているから固定側コア4及び可動側コア5本来の材料部分の体積が小さくなるから熱容量が小さくなり、そして、固定側ベース金型2及び可動側ベース金型3は、それら自体に埋め込まれている低熱伝導率材料により同様に体積が小さくなり熱容量が小さくなるとともに、固定側ベース金型2と固定側コア4の間、及び、可動側ベース金型3と可動側コア5の間に、低熱伝導率材料を埋め込まれていることにより、固定側コア4及び可動側コア5から固定側ベース金型2及び可動側ベース金型3側への熱の伝導(放散)による損失を少なくするから、結局、固定側コア4及び可動側コア5は、同じ熱エネルギーを与えた場合に、高速に昇温することができ、短時間の成形が可能となる。
【0044】
ここでいう、低熱伝導率材料とは、固定側コア、可動側コア、固定側ベース金型及び可動側ベース金型を形成する金属材料より熱伝導率の低い材料であって、セラミック、ファインセラミックス材料、有機材料等が有効である。具体的には、ガラス、石英、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、コーディエライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが効果的である。
【0045】
冷却手段は、図1(a)、(b)及び図2(a)、(b)に示すように、固定側コア4及び可動側コア5の背面(固定側と可動側が互いに対向する表面と反対側の面)に、冷却媒体流路8、9が形成されており、この冷却媒体流路8、9に、外部に設けたポンプにより冷却媒体が循環して流されるようにした構成である。冷却媒体としては、水、アルコール、又は二酸化炭素、空気、窒素などの気体が有用である。
【0046】
冷却手段は、前記のとおり、固定側コア4及び可動側コア5の背面に形成された冷却媒体流路8、9に冷却媒体を流して冷却することにより、ナノ構造が形成された成型品の表面部分を急速に冷却することが実現できるために、短時間の成形サイクルが実現できる。冷却媒体としては、水、アルコール、又は二酸化炭素、空気、窒素のような気体などが有用である。
【0047】
前記のとおり、固定側金型21と可動側金型22は、部分的に、固定側金型21と可動側金型22を形成する金属材料より熱伝導率の低い材料(低熱伝導率材料)が埋め込まれている。具体的には、固定側金型21及び可動側金型22内に構成される固定側ベース金型2、可動側ベース金型3、固定側コア4及び可動側コア5の全てについて、又はそのいずれかについて、部分的に、又は低熱伝導率材料で固定側コア4及び可動側コア5を囲むこように、低熱伝導率材料が埋め込まれており、熱伝導による放散を防止する構成であり、特に、固定側コア4及び可動側コア5に低熱伝導率材料が埋め込まれている場合は、その熱容量が、低熱伝導率材料が埋め込まれていない場合に較べて小さくなる。
【0048】
特に、固定側コア4の表面6側及び可動側コア5の表面7側の熱容量が小さくなると、同じ熱エネルギーを吸収した場合に、固定側コア4の表面6側及び可動側コア5の表面7高速に冷却させ短時間の成形が可能となる。冷却手段についても加熱手段と同様に、同じ熱エネルギーを与えた場合に、高速に冷却させ短時間の成形が可能となる。
【0049】
冷却手段は、図2(a)、(b)及び図9(a)、(b)に示すように、固定側コア4及び可動側コア5の背面に形成された冷却媒体流路8、9を設ける構成に加えて、キャビティー14の周囲に向けて冷却媒体を流す構成をさらに付加した構成としてもよい。即ち、図9(a)、(b)に示すように、冷却媒体導入口16から冷却媒体通路25に冷却媒体を導入し、冷却媒体通路25を通して冷却媒体排出口17から排出する構成としてもよい。
【0050】
ここで、冷却媒体通路25はキャビティー14の周囲に配置されており、これにより、冷却媒体がキャビティー14の周り流されることとなる。また、キャビティー14と冷却媒体通路25の間には、10μm〜500μm程度の壁が構成されており、壁を通して充填された樹脂を冷却することにより、高速冷却が可能になる。
【0051】
(作用)
以上の本発明の射出成形装置を用い射出成形を行えば、短時間にアスペクト比1以上のナノ構造を表面に持つ光学素子等の成型品の成形が可能になる。以下、この射出成形装置の作用を、この射出成形装置を使用した図4及び図3に示す射出成形方法の一連の工程とコア表面の金型温度を示すフロー図を参照して説明する。
【0052】
チャージ工程(準備工程):
成形するに際して、まず最初に、対向する固定側金型21と可動側金型22の型締め前に、加熱手段によって、固定側コア4及び可動側コア5の表面の金型温度を、樹脂の軟化温度より高く且つ樹脂の分解温度より低い温度T1まで昇温する。
【0053】
そして、この温度T1において固定側コア4及び可動側コア5の設定された状態において、固定側金型21と可動側金型22の型締め(当然、固定側コア4及び可動側コア5の型締めされる。)を完了する。
【0054】
射出工程:
型締めを完了した後に、樹脂を樹脂導入路1からキャビティー14を通して充填を行う。ここで、従来は、固定側ベース金型2と可動側ベース金型3の温度は、樹脂の軟化温度より低い温度に設定されているために、樹脂の軟化温度より高い温度で固定側ベース金型2のキャビティー14内から固定側コア4及び可動側コア5に射出されても、樹脂は冷却され、樹脂の粘性は流動長及び流動速度に関係して増加し、その表面に固化層を形成しながら充填される。
【0055】
ここで、従来の手段で成形を行うと、樹脂表面の固化層が起因し、ナノ構造が表面に構成された固定側コア4及び可動側コア5にたいして充填不足となり、アスペクト比1以上になるとナノ構造の転写不良(ナノ構造の凹凸内に十分充填されずナノ構造の凹凸に精密に対応されない成型品が成形される。)が発生してしまう。
【0056】
そこで、本発明では、固定側コア4及び可動側コア5の表面温度を、樹脂の軟化温度より高く且つ樹脂の分解される温度より低い温度T1に設定し、かつ充填速度を30mm/s以下することにより、樹脂が軟化温度より低い温度に冷却されることが無くなり、固化層の形成を防ぐことができる。
【0057】
さらに、充填速度を30mm/s以下にすることにより、固定側コア4及び可動側コア5のナノ構造による滞在ガスの影響を抑えることが可能になる。具体的には、30mm/s以上の速度で充填される場合には、樹脂は、流速方向に大きな力を持つ。表面にナノ構造が構成されたコア表面に樹脂が流れる場合には、ナノ構造の細部にまで樹脂が充填されず、ナノ構造の最上部付近のみに樹脂が流れる。
【0058】
そのために、ナノ構造を持つ固定側コア4及び可動側コア5を用いて成形を行った場合には、ナノ構造の底辺部は充填された樹脂にキャップされ残留ガスが溜まる。従って、樹脂によりキャップされた残留ガスが影響し、ナノ構造への樹脂の充填率は低い。しかしながら、30mm/s以下の充填速度で充填した場合は、充填速度が遅くなるにつれ、流速方向の力は減少し、流速方向から発散する方向にも樹脂は流れる効果が働く。
【0059】
そのため、ナノ構造を持つ固定側コア4及び可動側コア5を用いて成形を行った場合には、ナノ構造の底辺部、最上部に均一に充填されるため、残留ガスは樹脂の充填とともにキャビティー14の外に排出される。そのことから、ナノ構造に残留するガスの影響が低減されることから、アスペクト比が1以上のナノ構造への充填が十分行うことできる。そのため、高アスペクト比を持つナノ構造を持つ成型品の充填が実現できるために、良好な光学特性を持つ成型品が実現できる。
【0060】
冷却工程:
樹脂充填後に、固定側コア4及び可動側コア5の型締め状態を維持し、樹脂への充填圧力を保持(保圧)しながら、樹脂の軟化温度より低い温度T2まで冷却し、さらに形成された樹脂成型品の冷却を行う。
【0061】
ここで、従来の成形プロセスでは、金型温度は一定であり、高アスペクト比構造のナノ構造になると、液状又は単分子層の離型膜を固定側コア4及び可動側コア5の表面に塗布しなければ、離型することができない。
【0062】
しかしながら、本発明に係る射出成形装置のおいては、固定側コア4及び可動側コア5の表面温度を成形中に加熱及び冷却可能とすることにより、ナノ構造が表面に形成された成型品の表面部分の樹脂の収縮を通常よりも大きくすることができるために、アスペクト比1以上のナノ構造の離型が容易に行える。
【0063】
型開き工程:
最後に、固定側コア4及び可動側コア5の冷却後に、突き出しピン10、11を、固定側コア4に突き当てて、固定側金型21と可動側金型22の型開きを行い、アスペクト比1以上のナノ構造物が構成された成型品の取り出しを行う。
【0064】
固定側金型21と可動側金型22は、部分的に、固定側金型21と可動側金型22を形成する金属材料より熱伝導率の低い材料(低熱伝導率材料)で形成されている。(例えば、埋め込まれている。)
【0065】
具体的には、固定側金型21及び可動側金型22内に構成される固定側ベース金型2、可動側ベース金型3、固定側コア4及び可動側コア5の全てについて、又はそのいずれかについて、部分的に、又は低熱伝導率材料で固定側コア4及び可動側コア5を囲むように、低熱伝導率材料が埋め込まれており、熱伝導による放散を防止する構成であり、固定側コア4及び可動側コア5に低熱伝導率材料が埋め込まれている場合は、その全体の熱容量が、低熱伝導率材料が埋め込まれていない場合に較べて小さくなる。
【0066】
特に、固定側コア4の表面6側及び可動側コア5の表面7側の熱容量が小さくなると、同じ熱エネルギーを与えた場合に、固定側コア4の表面6側及び可動側コア5の表面7高速に昇温し、また高速に冷却させ短時間の成形が可能となる。
【実施例】
【0067】
本発明に係る射出成形装置について、さらにその具体的な構成の詳細、実施例により説明する。
【0068】
本発明に係る射出成形装置による射出成形を効果的行うためには、加熱手段は重要である。本発明では、加熱手段15A、15Bとして、図1(b)、図2(b)に示すように、赤外線ランプ本体を対向する固定側ベース金型2と可動側ベース金型3のそれぞれの表面に埋込みする構成とした。
【0069】
このような構成とすることで、型締め動作時に、互いに対向する固定側金型21と可動側金型22が接近することにより、固定側金型21と可動側金型22間の、多重反射が生じ、固定側コア4と可動側コア5の表面を室温から樹脂の軟化温度より高い温度である120℃まで昇温が可能となる。
【0070】
このような金型間の、固定側金型21と可動側金型22間の多重反射による昇温においては、10秒で、コアの表面を室温から樹脂の軟化温度より高い温度である120℃まで昇温が行えることが確認できた(図7の表の加熱形式のうち上から4番目の欄参照)。そのため、このような加熱手段を採用すると、高スループットのサイクル成形を行う上で効果的であることが確認できた。
【0071】
加熱手段15A、15Bの別の実施態様として変形例1を説明する。この変形例1は、図図1(a)、図2(a)に示すように、固定側ベース金型2と可動側ベース金型3の内部に加熱器を設ける構成とし、加熱器としては、ヒータ(電熱棒ヒータ)を埋込んでなる構成がある。このような加熱手段によって、コア表面の金型温度を、室温から樹脂の軟化温度より高い温度である120℃まで昇温を行った。
【0072】
この加熱手段によると、上記のように120℃までの到達時間は5分であり、ナノ構造が表面に構成された固定側コア4と可動側コア5全体を昇温し、全体的に均一なコア表面の金型温度分布になるまでの到達時間は6分であった(図7の表の加熱形式のうち上から1番目の欄参照)。
【0073】
さらに加熱手段15A、15Bの別の実施態様として、変形例2を説明する。この変形例2は、図1(a)、図2(a)に示すように、固定側ベース金型2と可動側ベース金型3内部に加熱器を設ける構成とし、加熱器としては、赤外線ランプを埋込んでなる構成がある。この加熱手段によって、この加熱手段によって、コア表面の金型温度を、室温から樹脂の軟化温度より高い温度である120℃まで昇温を行った。
【0074】
この加熱手段によると、ヒータを利用した加熱手段に比べて急激な昇温が可能であり、全体的に均一なコア表面の金型温度分布になるまでの到達時間は1分30秒程度であった(図7の表の加熱形式のうち上から2番目の欄参照)。
【0075】
さらに加熱手段15A、15Bの別の実施態様として、変形例3を説明する。この変形例3は、図示はしないが、固定側金型21と可動側金型22の側方に赤外線ランプを配置し、固定側ベース金型2と可動側ベース金型3の側面から加熱する構成であり、この加熱手段により、固定側コア4と可動側コア5の表面を、室温から樹脂の軟化温度より高い温度である120℃まで昇温を行った。この加熱手段によると、全体的に均一なコア表面の金型温度分布になるまでの到達時間は1分30秒程度であった(図7の表の加熱形式のうち上から3番目の欄参照)。
【0076】
以上説明した4つの加熱手段、即ち、赤外線ランプ本体を対向する固定側ベース金型2と可動側ベース金型3のそれぞれの表面に埋込する構成と、変形例1〜3の加熱手段は、いずれも本発明における加熱手段として適用できる。なお、上記赤外線ランプ本体を対向する固定側ベース金型2と可動側ベース金型3のそれぞれの表面に埋込みする構成は、図7の表でも示されているとおり、昇温時間が特に短く、高スループットのサイクルを実現する手段として特に適している。
【0077】
冷却手段は、前記のとおり、固定側コア4及び可動側コア5の背面に形成された冷却媒体流路8、9に冷却媒体を流して冷却することにより、ナノ構造が形成された成型品の表面部分を急速に冷却することができ、短時間の成形サイクルが実現できることを確認した。
【0078】
冷却媒体としては、水、アルコール、二酸化炭素、空気、窒素などの気体などについて検討し、いずれの場合においても有用であることを確認した。
【0079】
また、冷却手段として、本発明のように固定側コア4及び可動側コア5の背面に冷却媒体流路8、9を形成する構成を採用すると、固定側ベース金型2と可動側ベース金型3の内部に冷却の為の流路を形成するような構成を採用する場合に比べて、固定側コア4及び可動側コア5の表面部分をおよそ5倍高速で冷却できることが分かった。
【0080】
さらに、前記のとおり、固定側金型21と可動側金型22は、部分的に、固定側金型21と可動側金型22を形成する金属材料より熱伝導率の低い材料(低熱伝導率材料)が埋め込まれている。具体的には、固定側金型21及び可動側金型22内に構成される固定側ベース金型2、可動側ベース金型3、固定側コア4及び可動側コア5の全てについて、又はそのいずれかについて、部分的に、又は低熱伝導率材料で固定側コア4及び可動側コア5を囲むように、低熱伝導率材料が埋め込まれており、熱伝導による放散を防止する構成であり、固定側コア4及び可動側コア5に低熱伝導率材料が埋め込まれている場合は、その全体の熱容量が、低熱伝導率材料が埋め込まれていない場合に較べて小さくなる。
【0081】
特に、固定側コア4の表面6側及び可動側コア5の表面7側の熱容量が小さくなると、同じ熱エネルギーを吸収した場合に、固定側コア4の表面6側及び可動側コア5の表面7高速に冷却させ短時間の成形が可能となる。冷却手段についても加熱手段と同様に、同じ熱エネルギーを与えた場合に、高速に冷却させ短時間の成形が可能となる。
【0082】
(作用)
本発明に係る射出成形装置の上記実施例の作用を説明する。ここでは、アスペクト比が1以上のナノ構造を表面にもつ光学素子の成型品を作成する射出成形装置とし、この射出成形装置による成形方法を通して説明する。
【0083】
この実施例の射出成形装置1では、固定側コア4と可動側コア5のアスペクト比は1.5のナノ構造物であり、そのナノ構造物のピッチは約100nm、深さは約200nmである。
【0084】
表1は、本発明に係る射出成形装置1を使用する際の代表的な成形条件を示す。射出成形に用いた樹脂は、三菱レイヨン製の商品であるアクリペットのグレードVH(以下、「アクリペットVH」という)を用いる。成形条件を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
成形工程における、加熱及び冷却される固定側コア4と可動側コア5の表面の金型温度(「コア表面の金型温度」という。)の加熱及び冷却は、図3のフロー図に示すように行う。本発明に係る射出成形装置を使用した射出成形方法では、図3に示すように、樹脂の充填前にコア表面を設定温度T1まで昇温し、その後、ベース金型の型締めを行う。
【0087】
そして、型締めが完了した後に、樹脂の充填を行う。その後、型締め状態を維持して、充填した樹脂を保圧(充填している樹脂に対する圧力を保持する意味)し、固定側コア4と可動側コア5を、樹脂の軟化温度より低い所定の温度T2まで冷却するとともに
、この温度を維持し、形成された樹脂成型品の冷却を行う。このような樹脂成型品の冷却後に、型開きを行い、成型品の取り出しを行う。
【0088】
具体的には、アクリペットVHの軟化温度は、およそ107℃であることから、固定側ベース金型2及び可動側ベース金型3の温度を通常の成形条件である95℃に設定する。
【0089】
そして、図3のフロー図で示すように、樹脂の充填前の固定側コア4及び可動側コア5の表面温度を樹脂の軟化温度107℃以上に昇温してから樹脂の充填を行う。次に、樹脂の充填後に、固定側コア4及び可動側コア5の表面温度を樹脂の軟化温度107℃より低い所定の温度まで冷却する。
【0090】
最後に、型開きを行い成型品の取り出しを行う。
【0091】
本発明者は、以上説明した実施例を実証的に実施することにより、固定側コア4及び可動側コア5の温度条件の転写特性(充填率の状態を言う。)への影響などについて、以下のとおり検討した。
【0092】
図5は、固定側コア4及び可動側コア5の表面温度(図5中の「コア表面の金型温度」)と充填率(「転写率」とも言う。)のグラフを示す。なお、ここで充填率とは、ナノ構造における凹凸の空間内への樹脂が充填される率を言う。
【0093】
図5によると、射出される樹脂温度が250℃の場合においては、コア表面の金型温度の上昇により、充填率が改善され、より良好になっていることが分かる。さらに、樹脂の軟化温度より高い温度にコア表面の金型温度を設定した時には、急激に充填率が改善される。
【0094】
即ち、樹脂の軟化温度より高い温度にコア表面の金型温度を設定することにより、樹脂の固化層の発生を防げることから、樹脂温度、成形圧力(充填してからさらに樹脂にかける圧力)等をあげることなく保圧することで、充填率を飛躍的に向上できることが確認できた。最適な転写温度範囲について検討した結果、樹脂の軟化温度から+30℃付近までが充填率が上昇し、良好な転写特性を示した。
【0095】
なお、成形材料として、樹脂をアクリルから、ポリカーボネイト、アートン、ゼオネックスに変更した場合において検討した。このとき、ポリカーボネイトは、三菱エンジニアリングプラスチック社製のユーピロン、グレードH−3000R(いずれも商品名)、アートンはJSR株式会社の(商品名)、ゼオネックスは日本ゼオン社製のゼオネックス、グレード330R(いずれも商品名)、について検討を行い、アクリルの場合と同様の効果があることを確認した。
【0096】
次に、固定側コア4及び可動側コア5の型締め状態を維持し、樹脂への充填圧力を保持(保圧)しながら、コア表面の金型温度を樹脂の軟化温度より高く且つ樹脂の分解温度より低い温度に設定し、樹脂の充填を行った後に、樹脂の軟化温度より低い所定温度までに冷却を行った時と、コア表面の金型温度を樹脂の軟化温度以下(通常の成形条件)に設定し、樹脂の充填を行った後に冷却を行った時との成型品の外観検査結果を、図6に示す。
【0097】
図6は、アクリペットVH(軟化温度は、およそ107℃)を用いた時の結果である。図6から、樹脂の充填前のコア表面の金型温度が樹脂の軟化温度より低い温度の場合においては、40℃以上(この場合、「樹脂の軟化温度−67℃」)であると、ナノ構造部分の樹脂の収縮が小さく離型ができない結果であったが、40℃より低い温度になると離型ができることが確認された。結局、冷却温度は、樹脂の軟化温度より67℃低い温度であることが好ましいことが確認できた。
【0098】
しかしながら、大面積になると離型不足から一部欠陥等の発生があった。一方、樹脂の充填前にコア表面の金型温度を樹脂の軟化温度より高い温度に設定し、樹脂の充填後にコア表面の冷却を行った場合には、ナノ構造部分の樹脂の収縮が大きくなり、良好な離型特性が得られることが確認できた。
【0099】
このことからも、発明に係る射出成形装置を使用すれば、樹脂の軟化温度より高い温度にコア表面の金型温度を設定し、樹脂の充填を行い、その後に、樹脂の軟化温度より低い温度まで冷却を行い、型開きして成型品の取り出しを行うことで、アスペクト比1以上の高アスペクト比ナノ構造の成型品が得られることが確認できた。
【0100】
また、本発明に係る射出成形装置を使用すれば、さらに高いナノ構造の成形を行った結果、アスペクト比10までの成形において、良好な成形特性が得られることを確認した。
【0101】
以上説明した本発明に係る射出成形装置により、高アスペクト比のナノ構造を持つ、良好な光学特性が得られる成型品を成形することができる。図8は、従来の射出成形装置と本発明の射出成形装置でそれぞれ得られたナノ構造を持つ光学素子である反射防止構造体の光学特性を図8に示す。
【0102】
ナノ構造による反射防止効果は高いアスペクト比の構造体になるほど、反射率の低減効果があることが一般的に知られている。図8に示すように、本発明に係る射出成形装置によれば、ナノ構造への充填率及び離型性が向上され、高アスペクト比構造の成型品が作製できることから、従来の成形法にくらべ良好な反射防止効果が得られることができた。
【0103】
以上、本発明に係る射出成形装置を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る射出成形装置を利用すれば、大面積かつ曲面形状の表面であっても、高精度な反射防止構造体等の光学素子を形成できるので、反射防止効果が要求されるレンズ、プリズム、ミラー、レンズ鏡筒などの光学素子、光学部品等に広く適用可能である。
【0105】
従って、本発明に係る射出成形装置は、これらの光学素子が用いられる光再生記録装置の光ピックアップ光学系、デジタルスチルカメラなどの撮影光学系、プロジェクタの投影系及び照明系、光走査光学系、ディスプレー、パネル、IUフィルター、LED等の製造分野に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明に係る射出成形装置の構成を示す図であり、(a)は金型内部に加熱手段を設け、コアの背面に冷却手段(冷却媒体流路)を設けた構成を示し、(b)は金型表面に加熱手段を設け、コアの背面に冷却手段(冷却媒体流路)を設けた構成を示す。
【図2】本発明に係る射出成形装置の別の構成例を示す図であり、(a)は金型内部に加熱手段を設け、キャビティーの周囲にも冷却手段(冷却媒体通路)を設けた構成を示し、(b)は金型表面に加熱手段を設け、キャビティーの周囲にも冷却手段(冷却媒体通路)を設けた構成を示す。
【図3】本発明に係る射出成形装置による射出成形の一連の工程を示すとともに、コア表面の金型温度を示すフロー図である。
【図4】本発明に係る射出成形装置による射出成形の一連の工程を説明する図である。
【図5】本発明に係る射出成形装置を使用した射出成形によるコア表面の金型温度と成型品の充填率を示す図である。
【図6】本発明に係る射出成形装置により得られた成型品の外観検査結果を示す表である。
【図7】本発明に係る射出成形装置を使用した射出成形における昇温時間を示す表である。
【図8】本発明に係る射出成形装置により得られた光学素子のナノ構造物の反射防止効果を示す図である。。
【図9】図2(b)に示すキャビティーの周囲にも冷却手段(冷却媒体通路)の構成を説明するための射出成形装置の断面図であり、(a)は垂直断面を、(b)は水平断面をそれぞれ示す図である。
【符号の説明】
【0107】
1 樹脂導入路
2 固定側ベース金型
3 可動側ベース金型
4 固定側コア
5 可動側コア
6 固定側コア表面(ナノ構造物)
7 可動側コア表面(ナノ構造物)
8、9 冷却媒体流路
10、11 突き出しピン
12 キャビティー内真空引き排出路
13 反射鏡
14 キャビティー
15A 加熱手段(ベース内部に設置時)
15B 加熱手段(ベース表面に設置時)
16 冷却媒体導入口
17 冷却媒体排出口
20 射出成形装置
21 固定側金型(固定側コアと固定側ベース金型群から成るもの)
22 可動側金型(可動側コアと可動側ベース金型群から成るもの)
23 固定側ベース金型群(複数の固定側ベース金型から成るもの)
24 可動側ベース金型群(複数の可動側ベース金型から成るもの)
25 冷却媒体通路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノメータサイズの構造物が表面に形成された固定側コア及び固定側ベース金型を備えた固定側金型と、ナノメータサイズの構造物が表面に形成された可動側コア及び可動側ベース金型を備えた可動側金型と、前記固定側コアと可動側コアの表面を加熱する加熱手段と、前記固定側コアと可動側コアを冷却する冷却手段と、を備え、表面にナノメータサイズの構造物を有する成型品を成形する射出成形装置であって、
前記加熱手段は、固定側コアと可動側コアの間に樹脂を充填する前に、該固定側コアと可動側コアの表面を、前記樹脂の軟化温度より高い温度に加熱するものであり、
前記冷却手段は、該充填後に、前記固定側コアと可動側コアを前記樹脂の軟化温度より低い温度まで冷却するものであり、
前記固定側金型と可動側金型は、部分的に、前記固定側金型と可動側金型を形成する金属より熱伝導率の低い材料が埋め込まれていることを特徴とするナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、固定側ベース金型と可動側ベース金型の表面に赤外線、電磁波又はレーザー光線を発生する加熱器が埋込みされてなり、型締めにより互いに対向する前記固定側金型と可動側金型が接近した時に、対向する前記固定側金型と可動側金型の間で、赤外線、電磁波又はレーザー光線を多重反射させて前記固定側コアと可動側コアコアの表面を均一に加熱する構成であることを特徴とする請求項1記載のナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置。
【請求項3】
前記冷却手段は、前記固定側コア及び可動側コアの背面に形成された冷却媒体流路を備えていることを特徴とする請求項1記載のナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置。
【請求項4】
前記冷却手段は、前記固定側金型及び可動側金型の両方又はいずれか一方の表面に形成されており、前記固定側金型と可動側金型が互いに型締めされると冷却媒体を流す流路となるキャビティーを備えていることを特徴とする請求項1記載のナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置。
【請求項5】
前記金属より熱伝導率の低い材料は、ガラス、石英、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、コーディエライト、窒化ケイ素又は炭化ケイ素であることを特徴とする請求項1記載のナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置。
【請求項6】
前記固定側コアと可動側コアの表面に形成されたナノメータサイズの構造物の平均ピッチは、30nm〜1000nmであり、アスペクト比1以上であることを特徴とする請求項1記載のナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置。
【請求項7】
前記樹脂の軟化温度より高い温度は、樹脂の分解温度より低い温度であることを特徴とする請求項1記載のナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置。
【請求項8】
前記冷却手段で冷却する温度は、前記樹脂の軟化温度より67℃低い温度であることを特徴とする請求項1記載のナノメータサイズの構造物を表面に有する成型品の射出成形装置。

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−190277(P2009−190277A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33665(P2008−33665)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【出願人】(591262621)東海精密工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】