説明

射出成形長靴

【課題】軽量化が実現できる耐油長靴であり、併せて、太陽光線中の赤外線波長域を反射し、熱可塑性高分子が吸収するのを抑制し、さらに、長靴同士の粘着防止機能をもつ長靴を提供する。

【解決手段】
熱可塑性高分子組成物100質量部に対して、粒子大きさ16〜65μm、真密度0.13〜0.60g/cm3であり、ソーダ石灰ケイ酸ガラス(SiO2、Na2O、CaO、B2O3)から成るガラス微小中空粉体20〜45質量部を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴及びこれを用いた耐赤外線用の長靴、粘着防止用の長靴。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量な靴本体を実現し、併せて、耐赤外線用、粘着防止用の射出成形長靴を提供する
【背景技術】
【0002】
元来ポリ塩化ビニルは比重が1.4であり、ポリ塩化ビニルに適した可塑剤・安定剤・充填剤などの配合剤を含有させても1.2程度とポリ塩化ビニル配合物は重い傾向にある。そのため長時間作業の疲労軽減可能な耐油機能をもつ長靴の要望があるが、まだ十分な特性の長靴はできていない(特許文献1参照)。
軽量化する技術としては高分子量ポリプロピレンを有する熱可塑性エラストマーを使用する長靴が知られているが、耐油性・コストに問題がある。発泡剤を含有した長靴も知られているが、裏布との接着・寸法安定性・本体部と底部の接着の問題がある(特許文献2参照)。
【0003】
長靴はその性質上、水が漏れないよう密封構造となっているため、夏場の屋外作業用途においては、太陽光線中の赤外線波長領域がゴム及び樹脂などの長靴の主たる構成材料が吸収して長靴内の温度が上昇しても逃げ道が無く、炎天下においては外気温+20℃にもなるとの報告もある。
そのため着用者は着用部に多量の汗をかき雑菌が繁殖して不衛生となるばかりでなく、不快感から集中力が落ちて作業効率が低下し、労働災害の引き金ににもなりかねない現状がある。また最近では炎天下における作業において太陽光による低温火傷が発生している。
【0004】
射出成形長靴金型は長靴表面の艶出しのため鏡面加工をほどこすことが一般的で、耐油長靴として使用するポリ塩化ビニルは柔軟性・ゴム弾性を付与する目的で多量の可塑剤を含有させる。そのため長靴本体表面部に粘り気が生じ、長靴本体部同士が粘着する問題がある。
粘着防止をする技術としては金型をブラスト加工し表面を粗く仕上げる、または密着面のみ金型をブラスト加工することがある。
ただし専用金型となってしまうため、新たに金型を製作もしくは修正加工しなければならない為、他品種への影響、金型費用が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−30374号公報
【特許文献2】特開2002−317096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は軽量な靴本体を有し、遮熱性・非粘着性をあわせもつ射出成形長靴を提供する。
本発明はポリ塩化ビニル等熱可塑性高分子材料にガラス微小中空粉体を配合することで軽量化が実現できる耐油長靴であり、併せて、太陽光線中の赤外線波長域を反射し、熱可塑性高分子が吸収するのを抑制し、さらに、長靴同士の粘着防止機能をもつ長靴を提供する。

【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、本発明は熱可塑性高分子組成物が、特定の物性を有するガラス微小中空粉体の特定量を含有し、射出成形に適した成型特性を持つ熱可塑性高分子組成物とし、これを射出成形してなることを特徴とする長靴である。
すなわち、本発明は、熱可塑性高分子組成物100質量部に対して、粒子大きさ16〜65μm、真密度0.13〜0.60g/cm3であり、ソーダ石灰ケイ酸ガラス(SiO2、Na2O、CaO、B2O3)から成るガラス微小中空粉体20〜45質量部を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴である。
また、本発明の長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴は、熱可塑性高分子がポリ塩化ビニルであり、重合度480〜3000であり、ポリ塩化ビニル100質量部に対して、可塑剤80〜160質量部を添加することが好ましい。
さらに、本発明の長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴は、可塑剤が、フタル酸エステル系の可塑剤とポリエステル系の可塑剤であり、フタル酸エステル系の可塑剤100質量部に対して、ポリエステル系の可塑剤が25〜65質量部であり、可塑剤のほかに、安定剤、抗菌剤、顔料を含むことができる。
【0008】
また、本発明は、ガラス微小中空粉体を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部の比重が1.00以下で、かつ硬度JIS K6253 タイプA デュロメータ 硬度 40〜75となる軽量射出成形長靴である。
さらに本発明は、ガラス微小中空粉体を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴であって、太陽光に含まれる赤外線波長領域を反射し、内部温度上昇を抑制する機能をもつ耐赤外線用射出成形長靴である。
また、本発明は、ガラス微小中空粉体を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴であって、長靴本体部同士の粘着を防止する粘着防止用射出成形長靴である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の射出成形長靴は、耐油性があるばかりか、軽量であり、耐赤外線用の長靴、粘着防止用の長靴としても機能するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ポリ塩化ビニルとガラス微小中空粉体の添加量と比重
【図2】サーモグラフ(従来例と本発明品)
【図3】赤外線照射と長靴表面温度
【発明を実施するための形態】
【0011】
本件発明で用いるガラス微小中空粉体とは、組成はソーダ石灰ケイ酸ガラス(SiO2、Na2O、CaO、B2O3)であり、粒子大きさ16〜65μm(塩の粒子の1/4程度の大きさ)であり、真密度0.13〜0.60g/cm3の形状は真球である。
このようなガラス微小中空粉体は、住友スリーエム株式会社がグラスバブルズという商品名で市販している。
靴の軽量化を考えれば比重が小さいグレードが好ましいが、耐圧強度が小さい傾向にある。
比重0.38以下のグレードは耐圧強度が弱く、射出成形における射出圧でバルーン(膜)が破壊するため含有量を増やしても比重1.0以下が得られない。
比重0.6グレードは耐圧強度が高いが、比重1.0以下の配合物にするには計算値で50部以上の含有が必要のため配合における作業性(飛散性、練上がり時間)、成形性(溶融粘度上昇にともなう内部発熱及びシリンダ温度上昇にともなう焼け)が著しく低下してしまい、コストも上がってしまう。
比重0.42、0.46のグレードを比較すると0.42のほうが耐圧強度が高くかつ比重が小さい。
含有量は添加量が多すぎるとガラス微小中空粉体同士がスクリュー回転圧及び射出圧によりぶつかり合いバルーンが破壊するため25部〜40部が好ましい。
主な製品を表1に示す。K25、K37、S42XHSをポリ塩化ビニル組成物へ20部添加し比重を測定したところ、K25は、計算比重0.9、実測比重1.02、K37は、計算比重0.99、実測比重1.03、S42XHSは、計算比重1.043、実測比重1.04、であった。
K25、K37の耐圧強度ではロール練時の負荷による潰れが発生し計算比重が得られないが、S42XHSは計算比重に近い実測比重のため、負荷に耐えうるグレードといえる。

【0012】
【表1】

【0013】
本発明で用いることができる熱可塑性ポリマーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、EVA、ポリオレフィンなどが挙げられるが、成形性、長靴機能として問題なければこれらに限定されるものではない。取り扱いやすさや経済的観点から、ポリ塩化ビニルが好ましい。
また、可塑剤としてはジブチルフタレート(DBP)、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート(n-DOP)ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジイソノニルフタレート(DINP)等フタル酸誘導体、ジ-2-エチルヘキシルテトラヒドロフタレート等のテトラヒドロフタル酸誘導体、ジブチルアジペート(DBA)、ジメチルアジペート(DMA)、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)等のアジピン酸誘導体、その他ポリエステル系可塑剤、エポキシ誘導体、パラフィン誘導体などが挙げられる。
また、長靴としての柔軟性、履き心地を良くするために可塑剤で調整し硬度はJIS−A−40〜75が適切である。
安定剤としてはステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の金属石けん、ブチル錫ラウレート系、ブチル錫マレート系、ジブチル錫ラウレートマレート系、ブチル錫メルカプト系、オクチル錫系、メチル錫メルカプト系等の有機錫化合物、カルシウム-亜鉛系(Ca-Zn)複合安定剤、バリウム-亜鉛系(Ba-Zn)複合安定剤などが挙げられる。
抗菌剤としては窒素系、窒素硫黄系、窒素硫黄ハロゲン系、環状炭化水素系等の有機系抗菌剤、銀-銅-ゼオライト(Ag-Cu-Zeolite)、銀-亜鉛-ゼオライト(Ag-Zn-Zeolite)等の無機系抗菌剤、有機無機複合系抗菌剤などが挙げられる。
顔料は好みに応じて、市販のものを1種、または2種以上混合して使うことができる。
本発明者はポリ塩化ビニル組成物に上記のガラス微小中空粉体を添加し、種々実験を行った。
フタル酸エステル系可塑剤を加えた平均重合度1100の標準的なポリ塩化ビニル100質量部に対して、ガラス微小中空粉体(製品名:S42XHS)を40質量部まで添加し、比重を測定した結果を図1に示す。
【実施例1】
【0014】
(射出成形軽量長靴の製造)
本発明の長靴においては、アッパーとは、長靴の胴部や甲部を含む部分をいう。また、ミッドソールとは接地部分であるアウトソールの上部に接するソール部分をいう。本発明では、長靴の各部分を作成し、それぞれ各部分を組み合わせて長靴を作成することを前提とし、各部分についてそれぞれの部分に適合するポリ塩化ビニル組成物を作成し射出成形を行って長靴の各部分を作成する。
アッパーとミッドソールの代表的な配合例を表2に示す。表中の数字は質量部である。
ここでポリ塩化ビニルは、重合度1100のものを用いた。可塑剤は、フタル酸エステル系の可塑剤90質量部に対して、ポリエステル系の可塑剤55質量部を用いた。ガラス微小中空粉体として、S42XHSを用いた。
安定剤はスズ系安定剤、フェノール系安定剤、リン系安定剤を組み合わせて用いた。顔料は白色顔料(酸化チタン)、抗菌剤は無機有機混合タイプを用いた。
【0015】
【表2】

【0016】
表2のポリ塩化ビニル組成物を用いて射出成形により、アッパーとミッドソールを作成した。

実施例1で作成したアッパーとミッドソールを用いて長靴を作成し、その質量を測定した結果を表3に示す。
本発明品1とは、アッパーがガラス微小中空粉体を30部、ミッドソールがガラス微小中空粉体を30部含んだ配合品。
本発明品2とは、アッパーがガラス微小中空粉体を30部、ミッドソールがガラス微小中空粉体を40部含んだ配合品。
現行品とは、ガラス微小中空粉体を含まないPVC耐油衛星長自社配合品。

表3からみて、軽量率は、11%〜14%であり、軽量化できたことが分かる。
【0017】
【表3】

【実施例2】
【0018】
(耐赤外線用射出成形長靴の製造)
ポリ塩化ビニル100質量部、可塑剤140質量部、安定剤3質量部、顔料1質量部、抗菌剤0.17質量部、ガラス微小中空粉体30質量部からなる組成物を用意した。
ここでポリ塩化ビニルは、重合度1100のものを用いた。可塑剤は、フタル酸エステル系の可塑剤90質量部に対して、ポリエステル系の可塑剤50質量部を用いた。ガラス微小中空粉体として、S42XHSを用いた。
安定剤はスズ系安定剤、フェノール系安定剤、リン系安定剤を組み合わせて用いた。顔料は白色顔料を用いた。抗菌剤は無機有機混合タイプを用いた。
このポリ塩化ビニル組成物を用いて射出成形により、アッパーを作成した。
作成したアッパーを用いて長靴を作成し、図2に示すように赤外線を照射して、アッパーの温度の上昇度を測定した。
ここで左1は、従来品は、ポリ塩化ビニル組成物(ガラス微小中空粉体を添加してないもの)で、射出成形により作成したアッパーを用いた長靴であり、右2は、実施例2による射出成形により作成したアッパーを用いた長靴である。
サーモグラフィーは右2よりも左1が常に温度が高いことを証明している。
図3に示した通り、結果として約5℃の差があることが判明した。
【実施例3】
【0019】
(粘着防止用射出成形長靴の製造)

ポリ塩化ビニル100質量部、可塑剤150質量部、安定剤3質量部、顔料1質量部、抗菌剤0.17質量部、ガラス微小中空粉体30質量部からなる組成物を用意した。
ここでポリ塩化ビニルは、重合度1100のものを用いた。可塑剤は、フタル酸エステル系の可塑剤95質量部に対して、ポリエステル系の可塑剤55質量部を用いた。ガラス微小中空粉体として、S42XHSを用いた。
安定剤はスズ系安定剤、フェノール系安定剤、リン系安定剤を組み合わせて用いた。顔料は白色顔料を用いた。抗菌剤は無機有機混合タイプを用いた。
本発明品は、このポリ塩化ビニル組成物を用いて射出成形により、アッパーを作成した。

従来品は、ポリ塩化ビニル組成物(ガラス微小中空粉体を添加してないもの)で、射出成形により作成したアッパーを用いた長靴である。
射出成形により作成したアッパーの胴部表面と従来例の現行品をJIS-B-0601による測定で4点測定したところ、
本発明品が0.87μm,1.11μm,1.19μm,0.95μm,
現行品が、0.14μm,0.16μm,0.25μm,0.15μm,
であった。
一方、金型をブラスト加工し表面を粗くしあげた製品の4点測定の数値は、1.10μm,1.21μm,1.23μm,0.82μm,であり、本件発明品が粘着防止用長靴として有効に機能することが判明した。

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の射出成形長靴は、耐油性があるばかりか、軽量であり、耐赤外線用の長靴、粘着防止用の長靴としても機能するものであって、長靴の用途を拡大し、靴産業を発展させるのに大いに役立つものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性高分子組成物100質量部に対して、粒子大きさ16〜65μm、真密度0.13〜0.60g/cm3であり、ソーダ石灰ケイ酸ガラス(SiO2、Na2O、CaO、B2O3)から成るガラス微小中空粉体20〜45質量部を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴。
【請求項2】
熱可塑性高分子がポリ塩化ビニルであり、重合度 480〜3000であり、ポリ塩化ビニル100質量部に対して、可塑剤80〜160質量部を添加した請求項1に記載した長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴。
【請求項3】
可塑剤が、フタル酸エステル系の可塑剤とポリエステル系の可塑剤であり、フタル酸エステル系の可塑剤100質量部に対して、ポリエステル系の可塑剤が25〜65質量部であり、可塑剤のほかに、安定剤、抗菌剤、顔料を含んでなる請求項1又は請求項2に記載した長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガラス微小中空粉体を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部の比重が1.00以下で、かつ硬度JIS K6253 タイプA デュロメータ硬度 40〜75となる軽量射出成形長靴。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガラス微小中空粉体を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴であって、太陽光に含まれる赤外線波長領域を反射し、内部温度上昇を抑制する機能をもつ耐赤外線用射出成形長靴。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガラス微小中空粉体を含有する樹脂組成物を射出成形することにより得られる長靴本体部及び/又は長靴底部で構成される射出成形長靴であって、長靴本体部同士の粘着を防止する粘着防止用射出成形長靴。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−104021(P2013−104021A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249934(P2011−249934)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【特許番号】特許第5041615号(P5041615)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000167853)弘進ゴム株式会社 (12)
【Fターム(参考)】