説明

射出発泡成型用金型

【課題】射出発泡成型において、アバタと言われる円形状および楕円形状の凹みが発生することが大きな問題となっている。特に、カウンタープレッシャー製法やヒートアンドクール製法を併用した成型方法では、シルバーやスワルマークを解消することは出来るが、アバタが発生し易く、外観不良の解消することが出来ない現状がある。
【解決手段】射出発泡成型用のキャビティーおよびコア表面の全面または一部に、動摩擦係数(μk)がJIS K 7125準拠する測定方法で、熱可塑性樹脂に対する動摩擦係数(μk)が0.25以下となる薄膜を形成させることで、外観不良のアバタを無くし、美麗な射出発泡成型体を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出発泡成型用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
射出発泡成型分野において、軽量化、コストダウンなどを目的に金型内で発泡させる方法として、固定型と任意の位置に前進及び後進が可能な可動型から構成される金型を使用し、発泡剤を含む熱可塑性樹脂を溶融させ、射出完了後に可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)がある。この方法を用いれば、表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が高倍率で均一気泡になりやすく、軽量化、とくに外観に優れた射出発泡成型体が得られやすいことが広く知られている。
【0003】
しかし、現在の射出発泡成型においては、発泡剤由来のシルバー、スワルマーク、アバタなどの外観不良が発生しているが、この中でもシルバーやスワルマークについては、金型意匠面にシボ加工を施し、外観不良を目立ち難くする方法や、予め溶融した発泡樹脂原料のフローフロントで破泡が起きない圧力に加圧された金型内に、溶融した発泡樹脂原料を射出するカウンタープレッシャー製法や、予め金型表面が使用する樹脂の荷重撓み温度(JIS K 7191−2に準拠)以上の温度に調整された金型内に溶融した発泡樹脂原料を射出するヒートアンドクール製法等によって改善されている。特許文献1では、金型キャビティー内を、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂などの耐熱性の高い樹脂で厚膜層を設け、断熱性を高めることで射出発泡成型におけるスワルマークの発生を防止する技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、いずれの製法もアバタと言われる(ユズ肌とも言われる)円形状または楕円形状の凹みが発生することが大きな問題となっている。ここで、アバタの発生するメカニズムとしては、溶融した発泡樹脂原料を金型内に射出した際に、金型表面とフローフロントが接触し、ガス溜まりのある溶融した発泡樹脂原料が密着し、冷却固化されてガス成分が抜けることで、そのまま円形状若しくは楕円形状の凹みとして残るもので、その大きさは凡そ直径0.5〜10mmである。特に、カウンタープレッシャー製法においては、ガスそのものを金型内に注入する為、金型と溶融した発泡樹脂原料の間にアバタが発生し易い傾向にある。
【0005】
同様に、ヒートアンドクール製法においては、金型表面を加熱した状態で溶融した発泡樹脂原料の射出を行なうため、スキン層が薄い状態若しくは柔らかい状態でコアバックされるため、金型と溶融した発泡樹脂原料の間に生じたガス溜まりにスキン層が押され、アバタが発生しやすい傾向にあった。
【0006】
更に、特許文献2では、カウンタープレッシャー製法におけるアバタ改善の為に、溶融した発泡樹脂原料を射出した後、金型内の余剰ガスを強制的排出するバキューム装置を設け、アバタを解消する技術が開示されている。確かに、この方法であれば、カウンタープレッシャー製法におけるアバタの改善が可能ではあるが、特殊な装置が必要であるばかりか、ガスを強制的排除するための条件設定が難しいという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−321246号公報
【特許文献2】特開2010−167667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シルバーやスワルマークの改善とは違い、また金型に特殊な装置を付加させることなく、射出発泡成型時におけるアバタを無くした美麗な成型体を得ることができる金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の現状に鑑み、フローフロントが破泡した後に、溶融した発泡樹脂原料が金型表面を密着することなく充填されることから、金型とスキン層の間にガス溜まりが残り易く、アバタとして成型品に多発するようになると推測し、金型を簡単な方法で金型改良することで、射出発泡成型特有のアバタの発生を大幅に低減し、美麗な成型体を得ることが可能となった。
【0010】
本発明は、以下の通りである。
【0011】
1).金型のキャビティーおよびコア表面の全面または一部に、動摩擦係数(μk)がJIS K 7125に準ずる測定方法で、熱可塑性樹脂に対しての動摩擦係数(μk)が0.25以下である薄膜が形成された射出発泡成型用金型。
【0012】
2).動摩擦係数(μk)低減の為に、当該金型のキャビティーおよびコア表面の全面または一部に、フッ素系樹脂で薄膜を形成した、1)記載の射出発泡成型用金型。
【0013】
3).動摩擦係数(μk)低減の為に、当該金型のキャビティーおよびコア表面の全面または一部に、シリコーン系樹脂で薄膜を形成した、1)記載の射出発泡成型用金型。
【0014】
4).熱可塑性樹脂と発泡剤からなる発泡樹脂原料を、射出成型機へ供給し溶融混練し、次いで溶融した発泡樹脂原料を金型内に射出した後に、可動側を後退させて発泡成型を行なう射出発泡成型において、1)〜3)記載のいずれかの金型を用いることを特徴とする射出発泡成型方法。
【0015】
5).予め発泡樹脂原料のフローフロントで発泡が起きない圧力に加圧された金型内に、溶融した発泡樹脂原料を射出する製法において、1)〜3)記載のいずれかの金型で行なう射出発泡成型方法。
【0016】
6).予め金型表面が使用する樹脂の荷重撓み温度(JIS K 7191−2に準拠)以上の温度に調整された金型内に溶融した発泡樹脂原料を射出する製法において、1)〜3)記載のいずれかの金型で行なう射出発泡成型方法。
【0017】
7).熱可塑性樹脂が熱可塑性エラストマー系樹脂であることを特徴とする、4)〜6)記載の射出発泡成型方法。
【0018】
8).熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする、4)〜6)記載の射出発泡成型方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金型は、射出発泡成型における外観不良、特にアバタの発生を解消できる金型である。この金型にて射出発泡成型して得られる成型体は、無塗装で自動車内装部材、建材、住宅資材などに好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は上記参考文献と違い、金型のキャビティーおよびコア表面の全面または一部に、動摩擦係数(μk)がJIS K 7125に準拠する測定方法で、熱可塑性樹脂に対しての動摩擦係数(μk)が0.25以下である薄膜が形成された射出発泡成型用金型であり、金型と溶融した発泡樹脂原料の動摩擦係数低減、つまりは溶融した発泡樹脂原料と金型との滑性を向上させることによって、外観不良を改善できるものである。本発明では、射出発泡成型時のアバタ発生時の現状を考察した結果、推測の域は越えないものの、射出された溶融した発泡樹脂原料と金型表面との滑性を向上させることで、金型表面にガス溜まりを発生させること無く、金型末端まで溶融した発泡樹脂原料が充填されるという考えに辿り着いた。
【0021】
本発明における、金型の材質として特に指定は無く、通常の射出成型、射出発泡成型に利用される材料であれば問題ない。また、金型の表面状態についても特に指定は無く、鏡面、シボ加工供に、アバタを解消できるものである。
【0022】
本発明における、フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(FPA)、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・4フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)等が挙げられ、耐熱性の点からポリテトラフルオロエチレン(PEFE)が、フッ素系樹脂としては好ましい。
【0023】
本発明における、シリコーン系樹脂としては、シリコーンレジン(エポキシ基およびメトキシ基付加型)、ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノシルセスキオキサン硬化物、ジメチルポリシロキサン等が挙げられ、動摩擦係数低減効果の高い点からポリオルガノシロキサンが、シリコーン系樹脂としては好ましい。また、本発明における薄膜の形成とは、射出発泡成型用金型の固定側、可動側及びその一部に、上記フッ素系樹脂または上記シリコーン系樹脂が5〜200μmの厚みで形成されていることを指す。
【0024】
薄膜の形成については、射出成型金型、射出発泡成型金型、ロール成型のローラーなどで実施される、一般的な形成方法でよく、表面粗さについても、動摩擦係数(μk)が0.25以下であれば、特に問題は無い。また、薄膜の形成においては、市販されているフッ素系樹脂およびシリコーン系樹脂を基材とした粘着テープでも良い。薄膜の膜厚については、5〜200μmが好ましく、更に好ましくは5〜150μmで、最も好ましくは10〜100μmである。5μm未満の膜厚では、射出発泡成型時の圧力によって、当該薄膜が剥がれやすく、200μmよりも厚く形成すると、金型に断熱層を形成するため、成型品の冷却時間が長くなり、効率的に成型品を冷やすことが出来なくなり好ましくない。前述、特許文献1における金型表面に耐熱樹脂の厚膜を形成した金型で射出発泡成型を行なうと、断熱効果によってスキン層が冷え難く、ヒートアンドクール製法と類似の現象が起こり、アバタを発生させる可能性が非常に高くなり好ましくない。
【0025】
フッ素樹脂系およびまたはシリコーン樹脂系によって薄膜を形成した金型の動摩擦係数(μk)は0.25以下であり、更に好ましくは0.2以下、最も好ましくは0.15以下である。動摩擦係数(μk)が0.25以上では、薄膜形成の無いシボ加工を施した金型の動摩擦係数が0.25より大きく0.3以下の範囲にあり、この状態ではアバタの解消が出来ない。
【0026】
本発明における金型による射出発泡成型では、アバタの発生し易いカウンタープレッシャー製法、ヒートアンドクール製法を組み合わせても、アバタを解消することが出来る。
【0027】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては熱可塑性エラストマーやポリプロピレン系樹脂が好ましい。前記、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO、TPV)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、塩ビ系熱可塑性エラストマー(TPVC)、ウレタン系エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)などが挙げられ、コスト面、触感から、特に、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO、TPV)が好ましい。前記、ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンを含有するポリオレフィン系樹脂であれば好適に使用でき、より好ましくは改質ポリプロピレン系樹脂とのブレンド物が良い。
【0028】
ポリプレピレン系樹脂の中でも、メルトフローレートが好ましくは10g/10分以上100g/10分以下、より好ましくは15g/10分以上50g/10分以下であり、メルトテンションが好ましくは2cN以下、より好ましくは1cN以下である線状ポリプロピレン樹脂が良い。
【0029】
線状ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが10g/10分未満では、射出発泡成型体を製造する際に、金型キャビティーのクリアランスが1〜2mm程度の薄肉部分を有する射出発泡成型においてはショートショットになる場合があり、連続して安定した射出発泡成型が困難となる場合がある。メルトフローレートが100g/10分を越える場合には、発泡時に気泡が破壊されやすく、高発泡倍率が得られない場合や、射出発泡成型体の剛性も低下する場合がある。一方、メルトテンションが2cNを越える場合には金型面への転写性が悪くなる傾向にあり、外観美麗な射出発泡成型体を得にくい。
【0030】
メルトフローレートとは、ASTM D−1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重下で測定したものを言い、メルトテンションとは、メルトテンション測定用アタッチメントを付けたキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、230℃でφ1mm、長さ10mmの孔を有するダイスから、ピストン降下速度10mm/分で降下させたストランドを1m/分で引き取り、安定後に40m/分で引き取り速度を増加させたとき、破断したときのロードセル付きプーリーの引き取り荷重を言う。
【0031】
ここでいう線状ポリプロピレン系樹脂とは、線状の分子構造を有しているポリプロピレン系樹脂であり、通常の重合方法、例えば担体に担持させた遷移金属化合物と有機金属化合物から得られる触媒系(例えばチーグラー・ナッタ触媒)の存在下の重合で得られる。具体的には、プロピレンの単独重合体、ブロック共重合体およびランダム共重合体であって、結晶性の重合体があげられる。プロピレンの共重合体としては、プロピレンを75重量%以上含有しているものが、ポリプロピレン系樹脂の特徴である結晶性、剛性、耐薬品性などが保持されている点で好ましい。共重合可能なα−オレフィンは、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などが挙げられる。これらのうち、エチレン、1−ブテンが耐寒脆性向上、安価等という点で好ましい。
【0032】
線状ポリプロピレン系樹脂と改質ポリプロピレン系樹脂の混合方法は特に限定はなく、公知の方法で行うことが出来、例えば、ペレット状の樹脂をブレンダー、ミキサー等を用いてドライブレンドする、溶融混合する、溶剤に熔解して混合する等の方法が挙げられる。本発明においてはドライブレンドした上で射出発泡成型に供する方法が、熱履歴が少なくて済み、メルトテンションの低下が少なくなる為、好ましい。
【0033】
これら熱可塑性樹脂は単独で用いても良いが、メルトフローレートが好ましくは0.1g/10分以上100g/10分未満、より好ましくは1.0g/10分以上80g/10分以下であり、歪硬化性を示す改質ポリプロピレン系樹脂とのブレンド物であることが好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂と改質ポリプロピレン系樹脂の配合比としては、熱可塑性樹脂:改質ポリプロピレン系樹脂=50〜97重量%:3〜50重量%が好ましく、更には55〜95重量%:5〜45重量%、最も好ましくは60〜95重量%:5〜40重量%の配合比であることが良い。改質ポリプロピレン系樹脂の配合比率が前記範囲内であると、射出発泡成形に供するに好適な流動性と、気泡の破泡を防ぐためのメルトテンションを有する組成物となり、軽量で高発泡倍率の転写性が良好であり、ソフト感に優れた射出発泡成形体が得られる。
【0035】
改質ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレートが0.1g/10分未満では、線状ポリプロピレン系樹脂への分散性が悪くなる場合があり、発泡倍率や気泡が不均一となり、表面性が悪くなる場合がある。メルトフローレートが100g/10分以上では、射出発泡成型体表面での改質ポリプロピレン系樹脂の濃度が高くなりすぎて、美麗な表面外観を得にくい傾向がある。一方、メルトテンションは、改質ポリプロピレンのメルトフローレートによって異なり、
(イ)メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満の場合、メルトテンションは5cN以上、好ましくは7cN以上。
(ロ)メルトフローレートが10g/10分以上30g/10分未満の場合、メルトテン
ションは2cN以上、好ましくは3cN以上。
(ハ)メルトフローレートが30g/10分以上50g/10分未満の場合、メルトテン
ションは1cN以上、好ましくは1.5cN以上。
(二)メルトフローレートが50g/10分以上100g/10分以下の場合、メルトテ
ンション0.3cN以上、好ましくは0.6cN以上。
というように、各々の数値未満の場合には発泡倍率2倍以上の射出発泡成型体が得られにくく、均一微細な気泡を形成し難い。
【0036】
ここでいう歪硬化性は、溶融物の延伸歪みの増加に伴い粘度が上昇することとして定義され、通常は特開昭62−121704号公報に記載の方法、すなわち市販のレオメーターにより測定した伸長粘度と時間の関係をプロットすることで判定することができる。また、例えばメルトテンション測定時の溶融ストランドの破断挙動からも歪硬化性を判定できる。すなわち、引き取り速度を増加させたときに急激にメルトテンションが増加する場合は歪硬化性を示す場合である。改質ポリプロピレン系樹脂が歪硬化性を示すものでない場合は、メルトテンションが高くても発泡倍率が2倍を越える高発泡倍率の射出発泡成型体が得られにくい。
【0037】
このような改質ポリプロピレン系樹脂としては、例えば線状ポリプロピレン系樹脂に放射線を照射するか、または線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合するなどの方法により得られる分岐構造あるいは高分子量成分を含有する改質ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。これらの中で、本発明においては、線状ポリプロピレン樹脂、ラジカル重合開始剤および共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂が、高価な放射線照射設備を必要としない点から安価に製造できる点から好ましい。この改質ポリプロピレン系樹脂の製造に用いられる原料ポリプロピレン系樹脂としては、前記線状ポリプロピレン系樹脂と同じものが例示できる。
【0038】
前記共役ジエン化合物としては例えばブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンなどがあげられるが、これらを単独または組み合わせ使用してもよい。これらの中では、ブタジエン、イソプレンが安価で取り扱いやすく、反応が均一に進みやすい点からとくに好ましい。
【0039】
前記共役ジエン化合物の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下が好ましく、0.05重量部以上5重量部以下がさらに好ましい。0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また20重量部を越える添加量においては効果が飽和してしまい、経済的でない場合がある。
【0040】
前記共役ジエン化合物と共重合可能な単量体、たとえば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなどを併用してもよい。
【0041】
ラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物、アゾ化合物などが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂や前記共役ジエン化合物からの水素引き抜き能を有するものが好ましく、一般にケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどの有機過酸化物が挙げられる。これらのうち、とくに水素引き抜き能が高いものが好ましく、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの1種または2種以上が挙げられる。
【0042】
ラジカル重合開始剤の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下が好ましく、0.05重量部以上2重量部以下がさらに好ましい。0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また10重量部を越える添加量では、改質の効果が飽和してしまい経済的でない場合がある。
【0043】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を反応させるための装置としては、ロール、コニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機などの混練機、2軸表面更新機、2軸多円板装置などの横型撹拌機、ダブルヘリカルリボン撹拌機などの縦型撹拌機、などが挙げられる。これらのうち、混練機を使用することが好ましく、とくに押出機が生産性の点から好ましい。
【0044】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を混合、混練(撹拌)する順序、方法にはとくに制限はない。線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を混合したのち溶融混練(撹拌)してもよいし、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練(撹拌)したのち、共役ジエン化合物あるいはラジカル開始剤を同時にあるいは別々に、一括してあるいは分割して混合してもよい。混練(撹拌)機の温度は130〜300℃が、線状ポリプロピレン系樹脂が溶融し、かつ熱分解しない
という点で好ましい。またその時間は一般に1〜60分が好ましい。このようにして、改質ポリプロピレン系樹脂を製造することができる。ポリプロピレン系樹脂の形状、大きさに制限はなく、ペレット状でもよい。
【0045】
本発明で使用できる発泡剤は、化学発泡剤、物理発泡剤など射出発泡成型に通常使用できるものであればとくに制限はない。化学発泡剤は、前記樹脂組成物と予め混合してから射出成型機に供給され、シリンダー内で分解して炭酸ガス等の気体を発生するものである。化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタテトラミン等の有機系化学発泡剤があげられる。物理発泡剤は、成型機のシリンダー内の溶融樹脂にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能する物である。物理発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスがあげられる。これらは単独または2種以上混合して使用してよい。
【0046】
これらの発泡剤の中では、通常の射出成型機が使用でき、均一微細な気泡が得られやすい無機系化学発泡剤が好ましい。これらの無機系化学発泡剤には、発泡成型体の気泡を安定的に均一微細にするために必要に応じて、例えばクエン酸のような有機酸等の発泡助剤やタルクのような無機微粒子等の造核剤を添加してもよい。通常、上記無機系化学発泡剤は取扱性、貯蔵安定性、熱可塑性樹脂への分散性の点から、10〜50重量%濃度のポリオレフィン系樹脂のマスターバッチとして使用されるのが好ましい。
【0047】
上記無機系化学発泡剤の添加量は種類、マスターバッチ中の濃度および所望の発泡倍率によって異なるが、熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上30重量部以下、更に好ましくは0.5重量部以上20重量部以下の範囲で使用される。この範囲で使用することにより、経済的に発泡倍率が2倍以上、且つ均一微細気泡の射出発泡成型体が得られやすい。
【0048】
さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、架橋剤、連鎖移動剤、核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を併用してもよい。必要に応じて用いられるこれらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用されるのはもちろんであるが、熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上10重量部以下使用される。
【実施例】
【0049】
[動摩擦係数の測定]
本発明における動摩擦係数は、新東精機社製・HEIDON 14D−Rを使用し、JIS K 7125に準じて測定を実施し、相手材をプライムポリマー社製 TPO M142Eを使用した平板成型体から切り出して使用した。 JIS K 7125における動摩擦係数(μk)の測定条件は以下の通りである。
測定速度:100mm/min
測定荷重:200g
相手材サイズ:63mm×63mm
測定時の室温条件:23℃×50±5%RH
【0050】
[発泡倍率について]
後述の金型における底面厚みを2mmとし、射出発泡成型を行なった後に、底面中央部を超音波カッターで切り出し、デジタル厚み計にて測定し、発泡倍率を計算した。
【0051】
[アバタの評価方法について]
後述のアルミプレート上のみをアバタ改善評価の対象とした。判定については下記の通り。
アバタが全く確認できない状態(アバタの数0個):○
局部的にアバタが発生している(アバタの数1〜3個):△
プレート全面にアバタが発生している(アバタの数4個以上):×
以下に具体的な実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
幅50mm×長さ150mm×厚み0.5mmの寸法で、端部に30°のテーパーを付けたアルミプレートにポリテトラフルオロエチレンで薄膜(膜厚約30μ)を形成させた。このプレートの動摩擦係数(μk)は、0.12であった。このプレートを、金型(テスト箱型)のキャビティー側に両面テープで貼り付けた。
【0053】
ベース樹脂は、プライムポリマー社製 プライムTPO M142Eと、改質ポリプロピレン系樹脂(改質PP)を使用した。改質ポリプロピレン系樹脂は、線状ポリプロピレン系樹脂としてメルトフローレート45g/10分のポリプロピレンホモポリマー100重量部と、ラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート0.4重量部の混合物を、45mmφ二軸押出機(L/D=40)のホッパーから70kg/時で供給し、途中に設けた導入部よりイソプレンモノマーを、定量ポンプを用いて0.35重量部供給し、ストランドを水冷、細断することにより得た改質ポリプロピレン系樹脂の物性は、メルトフローレート60g/10分、メルトテンション1.1cN、歪硬化性を示した。発泡剤は、永和化成工業社製 ポリスレンEE275F(発泡剤濃度27%)を、着色剤(CMB)は、大日精化社製 PP-M 77255ブラックを使用し、表1に示す部数でドライブレンドし、射出発泡成型機ホッパーに投入した。
【0054】
金型は、テスト箱型でホットランナー内臓式であり、成型体中央にバルブゲートを有する。 成型体寸法: 200mm×200mm、ゲートピン→キャビティー側・平面ピン使用、初期厚1.5mm調整した。金型温度は、キャビティー側を35℃、コア側を30℃と設定した。
【0055】
射出成型機は、型締力350tで、コアバック機能およびシャットオフノズルを有する電動の射出成形機(宇部興産機械(株)製)で、シリンダ温度200℃、背圧15MPaで溶融混練した後、35℃に設定された固定型と30℃に設定された前進および後退が可能な可動型とから構成される、テスト箱型でホットランナー内蔵式であり、成型体中央にバルブゲート(φ2)を有し、底面部の初期厚みt=2.0mmにて、射出速度100mm/秒で射出充填した。射出充填完了後に、底面部が所望の厚み(発泡倍率)となるように可動型を後退(コアバック)させて、キャビティー内の樹脂を発泡させた。発泡完了後100秒間冷却してから射出発泡成形体を取り出した。
【0056】
(実施例2)
幅50mm×長さ150mm×厚み0.5mmの寸法で、端部に30°のテーパーを付けたアルミプレートに、ポリオルガノシロキサン(GE東芝シリコーン社製 TSF451−1000)をハケで塗布し、280℃に保った熱風乾燥機で5時間焼成し、除冷した後に余剰分をガーゼで拭き取り、薄膜(膜厚約10μ)を形成させた。このプレートの動摩擦係数(μk)は、0.05であった。このプレートを、金型(テスト箱型)のキャビティー側に両面テープで貼り付けた以外は、実施例1と同様にして射出発泡成型体を得た。
【0057】
(実施例3)
アルミプレートの薄膜形成部に日東電工社製ニトフロンテープ(テープ厚み50μ)を貼りつけた。動摩擦係数(μk)は、0.07であった。このプレートを、金型(テスト箱型)のキャビティー側に両面テープで貼り付けた以外は、実施例1と同様にして射出発泡成型体を得た。
【0058】
(実施例4)
ベース樹脂処方をプライムポリマー社製 プライムポリプロ J708UGとした以外は実施例1と同様にして射出発泡成型体を得た。
【0059】
(実施例5)
溶融した発泡樹脂原料を予め1MPaに加圧した金型内に射出し、射出完了と同時に、金型内の圧力を開放する以外は実施例1と同様にして、射出発泡成型体を得た。
【0060】
(実施例6)
予め、固定側を120℃に設定し、可動側を110℃に設定したキャビティー内に、ベース樹脂処方をプライムポリマー社製 プライムポリプロ J708UG(荷重撓み温度:110℃)の溶融した発泡樹脂原料を射出し、射出15秒後に固定側、可動側供に30℃の冷水ラインに切替た以外は、実施例1と同様にして射出発泡成型体を得た。
【0061】
(比較例1)
幅50mm×長さ150mm×厚み0.5mmの寸法で、端部に30°のテーパーを付けたアルミプレートを、金型(テスト箱型)のキャビティー側に両面テープで貼り付けた以外は実施例1と同様にして射出発泡成型体を得た。このプレートの動摩擦係数(μk)は、0.42であった。
【0062】
(比較例2)
幅50mm×長さ150mm×厚み0.5mmの寸法で、端部に30°のテーパーを付けたアルミプレートにシボ加工(皮シボ)を施し、金型(テスト箱型)のキャビティー側に両面テープで貼り付けた以外は実施例1と同様にして射出発泡成型体を得た。このプレートの動摩擦係数(μk)は、0.28であった。
【0063】
(比較例3)
溶融した発泡樹脂原料を予め1MPaに加圧した金型内に射出し、射出完了と同時に、金型内の圧力を開放する以外は比較例1と同様にして、射出発泡成型体を得た。
【0064】
(比較例4)
予め、固定側を120℃に設定し、可動側を110℃に設定したキャビティー内に、ベース樹脂処方をプライムポリマー社製 プライムポリプロ J708UG(荷重撓み温度:110℃)の溶融した発泡樹脂原料を射出し、射出15秒後に固定側、可動側供に30℃の冷水ラインに切替た以外は、比較例1と同様にして射出発泡成型体を得た。
【0065】
(比較例5)
幅50mm×長さ150mm×厚み0.5mmの寸法で、端部に30°のテーパーを付けたアルミプレートにクロムメッキを施し、金型(テスト箱型)のキャビティー側に両面テープで貼り付けた以外は比較例1と同様にして射出発泡成型体を得た。このプレートの動摩擦係数(μk)は、0.43であった。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティーおよびコア表面の全面または一部に、動摩擦係数(μk)がJIS K 7125に準ずる測定方法で、熱可塑性樹脂に対しての動摩擦係数(μk)が0.25以下である薄膜が形成された射出発泡成型用金型。
【請求項2】
動摩擦係数(μk)低減の為に、当該金型のキャビティーおよびコア表面の全面または一部に、フッ素系樹脂で薄膜を形成した、請求項1記載の射出発泡成型用金型。
【請求項3】
動摩擦係数(μk)低減の為に、当該金型のキャビティーおよびコア表面の全面または一部に、シリコーン系樹脂で薄膜を形成した、請求項1記載の射出発泡成型用金型。
【請求項4】
熱可塑性樹脂と発泡剤からなる発泡樹脂原料を、射出成型機へ供給し溶融混練し、次いで溶融した発泡樹脂原料を金型内に射出した後に、可動側を後退させて発泡成型を行なう射出発泡成型において、請求項1〜3記載のいずれかの金型を用いることを特徴とする射出発泡成型方法。
【請求項5】
予め発泡樹脂原料のフローフロントで発泡が起きない圧力に加圧された金型内に、溶融した発泡樹脂原料を射出する製法において、請求項1〜3記載のいずれかの金型で行なう射出発泡成型方法。
【請求項6】
予め金型表面が使用する樹脂の荷重撓み温度(JIS K 7191−2に準拠)以上の温度に調整された金型内に溶融した発泡樹脂原料を射出する製法において、請求項1〜3記載のいずれかの金型で行なう射出発泡成型方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が熱可塑性エラストマー系樹脂であることを特徴とする、請求項4〜6記載の射出発泡成型方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする、請求項4〜6記載の射出発泡成型方法。

【公開番号】特開2013−95043(P2013−95043A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239389(P2011−239389)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】