説明

射出発泡成形用金型および該金型を使用した射出発泡成形体の製造方法

【課題】特に複雑形状や大型の射出発泡成形体において、高発泡倍率を有し、かつ表面平滑性に優れ、均一微細な発泡層を持つ射出発泡成形体を製造することのできる射出発泡成形用金型を提供する。
【解決手段】固定型と前進および後退可能な可動型とから構成され、前記固定型と前記可動型から形成される成形空間内に発泡樹脂原料を充填し、前記可動型を型開き方向に移動させて発泡成形するための射出発泡成形用金型において、前記射出発泡成形用金型に設置されるゲート直下の領域に厚肉形成部を設けることを特徴とする射出発泡成形用金型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出発泡成形用金型および該金型を使用した射出発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形分野において、軽量化、コストダウンなどを目的に金型内で発泡させる方法として固定型と任意の位置に前進および後退が可能な可動型とから構成される金型を使用し、発泡剤を含む熱可塑性樹脂を射出完了後に可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(Moving Cavity法)がある。この方法によれば表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が高倍率で均一気泡になりやすく、軽量性、外観に優れた射出発泡成形体が得られ易い。しかし、複雑形状や大型品の射出成形などで多点ゲートによる充填を行う際などに、ゲート間の距離や各ゲートでの射出のタイミングが上手くいかないことによってゲート間で樹脂が滞留し、充填完了時において部分的に樹脂温度が低温部となることによってその部位において内部発泡層にボイドができやすく、凹みが発生し、該部位において表面平滑性が悪くなるといった傾向があった。
【0003】
前記コアバック法による射出発泡成形体を製作する際に充填樹脂から出るガスが原因でできるシルバーストリークを抑制する方法として、金型内の空間を発泡が生じない圧力に加圧しておくカウンタプレッシャ法も従来から知られている(特許文献1)。
【0004】
コアバック法とカウンタプレッシャ法の組み合わせによりシルバーストリークは改善されるが、射出完了後に成形空間内のガスを十分排気できていない場合、射出完了直前の状態では成形空間内でカウンタプレッシャのガスが圧縮され、高い圧力を持った状態で残存する。これによって射出発泡成形体表面に残存ガスに起因する凹みが発生する場合があった。
【0005】
また、薄肉の射出成形分野においては射出充填の際の樹脂流動の不均一によって充填完了後の樹脂の冷却速度に差が生じてしまい、キャビティ内の樹脂の温度差が大きくなりソリやバリなどが生じていた。この問題を解決するために、ランナ・ゲートの形状の調整を行い、またキャビティ内に厚肉を設けて、樹脂流動を制御する方法が開示されている(特許文献2)。この方法によって、薄肉成形品においてソリなどの問題は解決するが、樹脂流動を制御するために、厚肉とする部位を充填が完了する射出発泡成形体端部まで延ばさなければならず、結果厚肉面積が大きくなってしまうため総重量が大きくなってしまうという問題があった。またランナ・ゲートの形状の調整も必要となるために工賃がかかるという問題があった。さらに、この方法によると厚肉部と薄肉部を流れた樹脂の合流部にウェルドラインが発生しており、射出発泡成形体の外観上好ましくない。
【0006】
特許文献3においても樹脂流動を制御するために、ゲート直下から各コーナーへ放射状に延びる厚肉部を設ける方法が示されている。この方法によれば、例えば、成形品形状が正方形ならば正方形状に広がるように樹脂充填が進んでいくというように、樹脂流動が成形品形状と同様な流動挙動となり、充填末端への到達時間を制御することが可能となる。これにより薄肉成形品において、バリ、ソリ、末端における未充填が解消され、樹脂が均一に充填されることによって射出圧が低減され射出成形機の負担を低減することができる。これについても、特許文献2と同様に成形品重量が肥大化する問題があり、大型品にすることが困難であった。また射出発泡成形においては、充填時間を極力短くすることで射出時の発泡を防止することが知られている。この方法では、キャビティ内に高速充填する場合において樹脂流動が制御できないという問題が懸念され、制御できない場合、樹脂冷却の進行度が異なってしまうことに因る部分的な発泡不良(ボイド)が生じてしまう。またゲートが射出発泡成形体中央1点しかないため、複雑形状のものにおいては適用が難しく、大型のものになると、厚肉面積も大きくなり、総重量も増大し射出発泡成形の観点では軽量化と品質のバランスがとれていなかった。さらに、形状も方形のものに限定されており、複雑形状のものには適用が難しいといった問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭51−27266号公報
【特許文献2】特開2002−36309号公報
【特許文献3】特開平7−178751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特に複雑形状や大型の射出発泡成形体において、高発泡倍率を有し、かつ表面平滑性に優れ、均一微細な発泡層を持つ射出発泡成形体を製造することのできる射出発泡成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、射出発泡成形体の製造において、射出発泡成形用金型に設置されるゲート直下の領域に厚肉形成部を設けることで成形空間内の樹脂の冷却速度の差を小さくしうることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
即ち、本発明は、次の構成からなる。
(1) 固定型と前進および後退可能な可動型とから構成され、前記固定型と前記可動型から形成される成形空間内に発泡樹脂原料を充填し、前記可動型を型開き方向に移動させて発泡成形するための射出発泡成形用金型において、前記射出発泡成形用金型に設置されるゲート直下の領域に厚肉形成部を設けることを特徴とする射出発泡成形用金型。
(2) 前記厚肉形成部の領域が、該射出発泡成形用金型の底面部形状の中心を中心として0.9倍に縮小した形状以内の領域であることを特徴とする(1)記載の射出発泡成形用金型。
(3) 射出発泡成形用金型に設置されるゲートが2以上であることを特徴とする(1)または(2)に射出発泡成形用金型。
(4) 前記射出発泡成形用金型に設置されるゲートが、1つの厚肉形成部の領域内に配置されることを特徴とする(1)〜(3)何れかに記載の射出発泡成形用金型。
(5) 前記厚肉形成部の形状が、幅3mm以上60mm以下の帯状であることを特徴とする(1)〜(4)何れかに記載の射出発泡成形用金型。
(6) 前記厚肉形成部の金型クリアランスと、厚肉形成部以外の底面部の金型クリアランスとの差が0.1mm以上5.0mm以下であることを特徴とする(1)〜(5)何れかに記載の射出発泡成形用金型。
(7) 前記射出発泡成形用金型に配置されるゲートの、各ゲート間距離が50mm以上300mm以下であることを特徴とする(1)〜(6)何れかに記載の射出発泡成形用金型。
(8) 前記射出発泡成形用金型が、予め成形空間内を加圧するための加圧ラインを有することを特徴とする、(1)〜(7)何れかに記載の射出発泡成形用金型。
(9) (1)〜(8)何れかに記載の金型を用いて、成形空間内に発泡樹脂原料を、ゲートを通じて充填し、充填完了した後に可動型を型開き方向に移動させて発泡成形することを特徴とする、射出発泡成形体の製造方法。
(10) (1)〜(8)何れかに記載の射出発泡成形用金型を用いて製造される射出発泡成形体であって、ゲート位置を含む領域に厚肉部を有することを特徴とする射出発泡成形体。
(11) 前記厚肉部の領域が、射出発泡成形体の底面部形状の中心を中心として0.9倍に縮小した形状以内の領域とすることを特徴とした(10)記載の射出発泡成形体。
(12) 前記厚肉部の厚みt2と、厚肉部以外の底面部の厚みt1との差が0.1mm以上5.0mm以下であることを特徴とする(10)または(11)に記載の射出発泡成形体。
(13) 前記厚肉部以外の底面部の発泡倍率が2倍以上10倍以下であることを特徴とする(10)〜(12)何れかに記載の射出発泡成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の射出発泡成形用金型は、複雑形状や大型の射出発泡成形体において、高発泡倍率を有し、かつ表面平滑性に優れ、均一微細な発泡層を持つ射出発泡成形体を得ることができる。また、射出発泡成形用金型を使用することによって容易に射出圧・型締め力の低減効果も得られ、射出成形機への負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】箱型形状の射出発泡成形体における投影させる底面形状の箇所を表した図である。
【図2】厚肉部を有した箱型形状の射出発泡成形体の一例を示した図である。
【図3】射出発泡成形体の底面部形状の一例である。
【図4】図3の底面部形状において、ゲートと厚肉部を配置の一例を示した図である。
【図5】図3の底面部形状において、ゲートと厚肉部を配置の他の一例を示した図である。
【図6】射出発泡成形体がデッキサイドパネルである場合の形状を模式化した図である。
【図7】図6のデッキサイドパネルの立体構造を平面化した図である。
【図8】図7のデッキサイドパネルにゲートと厚肉部を配置の一例を示した図である。
【図9】射出発泡成形体がドアトリムである場合の形状を模式化した図である。
【図10】図6のドアトリムにゲートと厚肉部を配置の一例を示した図である。
【図11】射出発泡成形体の底面部形状の一例である。
【図12】図11の底面形状において、ゲートと厚肉部を配置の一例を示した図である。
【図13】射出発泡成形体の底面部形状の一例である。
【図14】図13の底面形状において、ゲートと厚肉部を配置の一例を示した図である。
【図15】射出発泡成形体の底面部形状の一例である。
【図16】図15の底面形状において、ゲートと厚肉部を配置の一例を示した図である。
【図17】本発明において用いる金型構造の断面図の一例である。
【図18】実施例1で使用した箱型形状の射出発泡成形体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の射出発泡成形用金型は、固定型と前進および後退可能な可動型とから構成され、前記固定型と前記可動型から形成される成形空間内に発泡樹脂原料を充填し、前記可動型を型開き方向に移動させて発泡成形するための金型であり、前記射出発泡成形用金型に設置されるゲート直下の領域に厚肉形成部を設けることを特徴とする。
【0014】
本発明の射出発泡成形用金型を使用することによって、射出圧・型締め力の低減効果が得られ、射出成形機の負荷を低減することができる。また高発泡倍率を有し、かつ表面平滑性に優れた射出発泡成形体を得ることが出来る。
【0015】
上記のような効果が得られる理由は定かではないが、ゲート直下に厚肉形成部を設けることで、厚肉形成部が樹脂溜り部として機能し、一旦ゲート直下の樹脂溜り部に溶融樹脂が溜まりこみ、そこから均一温度の樹脂が一斉に成形空間内に充填されるため、充填完了時の成形空間内の樹脂の温度分布幅が縮小されると考えられる。その結果、セルが均一微細で表面平滑性が良好な射出発泡成形体を作製することができる。
【0016】
厚肉形成部の領域が該射出発泡成形用金型の底面部形状の中心を中心として0.9倍に縮小した形状以内の領域とすることが好ましい。0.8倍に縮小した形状以内の領域がより好ましい。さらには0.7倍に縮小した形状以内の領域が好ましい。下限は、0.001倍に縮小した形状以上に広い領域であることが好ましく、0.003倍に縮小した形状以上に広い領域であることがより好ましい。
0.9倍に縮小した形状より広くすると、軽量性が低下する。0.001倍に縮小した形状未満の領域にて厚肉形成部を設けると、厚肉形成部が小さすぎて樹脂溜り部としての機能を果たさない場合がある。
【0017】
また、厚肉形成部の領域が、該射出発泡成形用金型の底面部形状の中心を中心として0.9倍に縮小した形状以内の領域にゲートを含むように設けていれば、厚肉形成部の形状は、完全な縮小形状でなくともよく、それぞれの射出発泡成形体形状において適宜、適正な形状、例えば、方形、長円等の形状を意匠性も併せて選択することが出来る。
【0018】
本発明のゲート直下に厚肉形成部を設ける射出発泡成形用金型にあっては、設置されるゲートの数は特に限定はないが、ゲートの数が2以上である場合に、温度分布幅を小さくする効果をより発揮できるため好ましい。また、ゲートが2以上である場合、ゲート直下の厚肉形成部が、それぞれ繋がっていること、即ち、射出発泡成形用金型に設置されるゲートが、1つの厚肉形成部の領域内に配置されることが好ましい。
【0019】
厚肉形成部の形状については前記領域内に形成されれば、とくに限定はないが、厚肉形成部の幅が3mm以上60mm以下の帯状であることがより好ましい。さらには、3mm以上50mm以下であることがさらに好ましい。厚肉形成部が帯状であると、厚肉形成部を最小限の領域にすることが可能である。例えば、複数のゲートを有している場合、ゲートを辿るように帯状に厚肉形成部を設けることが出来る。また、帯状の始点と終点が閉じた、輪状であってもよい。
【0020】
とりわけ、2以上のゲートが略直線状に配置されているときには、帯状である厚肉形成部が略方形であることが好適である。厚肉形成部の形状の幅が3mmより狭く、ゲート径が3mmよりも大きい時などの場合において、ゲート直下における厚肉化形成部が非常に微小な領域となり、ゲート口にて圧力損失が増加してしまい、厚肉形成部を設けることによる型締め力・射出圧の低減効果が期待通りに得られない場合がある。また幅が60mmよりも広い場合においては、厚肉形成部とする範囲が広すぎることから、軽量性が低下する傾向がある。
【0021】
また、2以上ゲートが配置される場合の、各ゲート間距離が50mm以上300mm以下であることが好ましく、さらには100mm以上250mm以下であることが好ましい。各ゲート間距離が50mm未満であると、ゲート間距離が近すぎるために多点ゲートによる射出圧・型締め力の低下の効果が得られない場合がある。また300mmより大きいとゲート間に発泡樹脂原料の滞留部位が生じ、充填完了時に低温部分ができてしまい、凹みなどの外観不良が起きてしまうことがある。
【0022】
また、ゲートが2以上ある場合、各ゲートからの射出のタイミングは、他ゲートとの流動状況に合わせ、充填挙動を調整することが好ましい。射出のタイミングを調整することで、各ゲートから流動する発泡樹脂原料同士がぶつかり合うことで生じるゲート間での滞留を防止することができ、充填完了時の成形空間内の発泡樹脂原料の温度分布幅を縮小することが可能となると思われる。
【0023】
本発明の射出発泡成形用金型においては、厚肉形成部の金型クリアランスと、厚肉形成部以外の底面部の金型クリアランスとの差が0.1mm以上5.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.3mm以上3.0mm以下である。この金型クリアランスの差は、実質的に厚肉形成部の深さに相当するものであるが、0.1mm未満であると、樹脂溜り部としての効果が十分に果たせず、成形空間における射出発泡成形体厚肉方向の温度分布幅が縮小されず、発泡層にボイドができやすい傾向がある。また射出圧・型締め力の低減効果も小さい傾向がある。また5.0mmより大きいと、得られる射出発泡成形体が、射出発泡成形体の特徴である軽量性が得られがたい。
【0024】
本発明においては、熱可塑性樹脂と発泡剤を含んでなる溶融混合物を金型内に射出充填完了後、可動型を後退させて発泡させる、いわゆるコアバック法(MovingCavity法)を行うことが、表面に非発泡層が形成され、内部の発泡層が高発泡倍率で均一微細気泡になりやすく、軽量性、剛性に優れた射出発泡成形体を得やすいことから好ましい。
【0025】
また、本発明においては、該射出発泡金型への射出充填中において溶融樹脂のフローフロントでの発泡を抑止するために、予め成形空間内を加圧することが好ましく、そのために、該射出発泡成形用金型に加圧ラインを設けることを好適に選択する。
【0026】
具体的には、本発明においては、射出発泡成形用金型内に、発泡樹脂原料を充填する際、発泡樹脂原料のフローフロントで発泡が起きない圧力以上にガス体で予め加圧することが好ましい。前記圧力は、使用する発泡樹脂原料により異なるが、具体的には使用する熱可塑性樹脂の種類や発泡剤の量などにより異なるが、ガス供給装置の構造を簡略化するためにも、表面性改良効果が得られる範囲で出来る限り低く設定することが好ましい。具体的には0.1MPa以上5MPa以下の範囲内であることが好ましく、さらには0.2MPa以上3MPa以下であることが好ましい。0.1MPa未満では、十分なフローフロントでの発泡抑止効果が発揮されず、射出発泡成形体表面にシルバーストリークが形成され易い傾向があり、5MPaを越える圧力では、金型からのガス排気がスムーズに行われない場合があり、金型内に残存したガス溜まりによる凹みが射出発泡成形体表面に形成され易くなる傾向がある。
【0027】
このように成形空間内を加圧するために、射出発泡成形用金型が、予め成形空間内を加圧するための加圧ラインを有することが好ましい。加圧するガス体としては、加圧により発泡樹脂原料のフローフロントでの発泡を抑止できるものであれば良く特に制限はないが、安価で取り扱いが容易であるという点から、無機ガス、特に窒素、炭酸ガスが好ましい。
【0028】
以上のような本発明の金型を用いて作製される本発明の射出発泡成形体は、ゲート位置を含む領域に厚肉部を有している。
【0029】
射出発泡成形体の厚肉部の厚みt2と、厚肉部以外の底面部の厚みt1との差は、0.1mm以上5.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.3mm以上3.0mm以下である。
【0030】
また、射出発泡成形体の厚肉部の領域は、射出発泡成形体の底面部形状の中心を中心として0.9倍に縮小した形状以内の領域であることが好ましい。厚肉部の領域が、底面部形状の中心を中心として0.9倍の形状以内の領域にゲートを含むように設けていれば、厚肉部の形状は、完全な縮小形状でなくともよく、それぞれの射出発泡成形体の底面部形状において適宜、適正な形状、例えば、方形、長円等の形状を外観も併せて選択することが出来る。
【0031】
例えば図1の箱型の射出発泡成形体であれば、一般的には、図で示すように斜線部の底面部の形状が基準となる。また前記厚肉部の形状は上記範囲の領域内であれば、完全な縮小形状とする必要は無く、例えば、図2のように選定することができる。ここから、図2の箱形状の射出発泡成形体を例にとって、具体的な態様について説明する。図2中のt1は厚肉部以外の底面部の厚みであり、t2は厚肉部の厚みである。厚肉部の厚みt2は、厚肉部以外の底面部の厚みt1よりも0.1mm以上5.0mm以下厚いことが好ましい。
【0032】
また図2中に示したように、ゲートは厚肉部内に配置されることが好ましい。また配置されるゲートの数は2以上であることが好ましい。また、ゲートは、厚肉部以内に配置され、各ゲート間の距離は50mm以上300mm以下の範囲であることが好ましい。さらには100mm以上250mm以下の範囲であることが好ましい。
【0033】
他の射出発泡成形体においては、それぞれの形状から適宜、適正な厚肉部の形状とすれば良い。例えば、図3のような単純な方形型の底面形状を持つ射出発泡成形体形状においては、図4のような厚肉部の形状でも良い。好ましくは、射出発泡成形体の底面形状を縮小した図5のような厚肉部の形状でも良い。また図4、5に示すように厚肉部の範囲内にゲートを配置することがよい。図6のようなデッキサイドパネルのように底面形状が立体的な形状については、樹脂の流動長を考え、図7のように立体構造を加味したような底面形状として扱い、発泡樹脂原料が滞留しないと想定されるような形状に選択すれば良く、例えば図8のように厚肉形状・ゲート位置を選択すれば良い。
【0034】
また、図9に示すような底面部に空間を有するドアトリム形状にても、本発明は適用することができる。このような底面に空間を持つようなドアトリム形状に適用する場合には射出発泡成形体の底面形状を図10のように分割して適用することが出来、それぞれの分割エリアについて厚肉部を設ければよい。この場合についても、図10中の各エリアに設置された厚肉部のように、第一にはそれぞれの分割エリアにおける底面形状の縮小した形とすることが好ましいが、厚肉部の形状は完全に底面形状の縮小形とする必要はなく、発泡樹脂原料が滞留しないと想定されるような形に適宜選択することができる。上記ドアトリム形状のように、底面形状内に空間を持つような形状については、底面形状を分割し、各分割エリアについて厚肉を設ければ良い。その他底面形状に空間を持つようなものについても、例えば図11で示しているような中心が空間となっており、底面形状がドーナツ形であるような射出発泡成形体についても図12のように、底面形状を分割し、それぞれに厚肉形状を持たせれば良い。図13に示すような空間を多数持つ方形型についても、図14のような厚肉形状とすれば良い。また、図15に示すようなコンテナなど底面にリブが多数付属しているような形状については、図16のようにリブ形状を除いた底面に対して、0.9倍以下に縮小した厚肉形状を持たせればよく、これについても厚肉形状は適宜選択できる。図16中では、厚肉部分とリブ部が重なっているが、このような箇所についてはリブと厚肉部どちらの高さに合わせても良く、樹脂流動性が良いと想定される形状を適宜選択すれば良い。以上のような射出発泡成形体の底面形状の厚肉部となるように、射出発泡成形用金型に厚肉形成部を設けることが好ましい。
【0035】
本発明の射出発泡成形体は、厚肉部以外の底面部の発泡倍率が2倍以上10倍以下であることが好ましい。
【0036】
以下、本発明の他の要件について説明する。
【0037】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、全芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンなどが挙げられ、これらの樹脂は、用途等に応じて1種類単独でも2種類以上を混合して使用してもよい。本発明においては、上記のような公知の熱可塑性樹脂が主成分であれば特に制限なく使用できるが、その効果が顕著に発揮できると言う観点からポリオレフィン系樹脂、特にはポリプロピレン系樹脂で有ることが好ましい。
【0038】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、成形性と発泡性を両立したものが好ましく、メルトフローレートが、好ましくは10g/10分以上50g/10分以下、更に好ましくは15g/10分以上40g/10分以下であり、メルトテンションが、好ましくは2cN以上、さらに好ましくは3cN以上で、かつ歪硬化性を示すことが好ましい。その具体的な態様としては、上記物性を有する改質ポリプロピレン系樹脂(A)単独使用や、それぞれ特定の物性を有する、線状ポリプロピレン系樹脂(B)と改質ポリプロピレン系樹脂(C)の混合物が好適に用いられる。
【0039】
ここで、メルトフローレートとは、ASTM D−1238に準拠し、230℃、2.16kg荷重下で測定したものを言い、メルトテンションとは、メルトテンション測定用アタッチメントを付けたキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用して、230℃でφ1mm、長さ10mmの孔を有するダイスから、ピストン降下速度10mm/分で降下させたストランドを1m/分で引き取り、安定後に40m/分2で引き取り速度を増加させたとき、破断したときのロードセル付きプーリーの引き取り荷重を言う。
【0040】
歪硬化性とは、溶融物の延伸歪みの増加に伴い粘度が上昇することとして定義され、通常は特開昭62−121704号公報に記載の方法、すなわち市販のレオメーターにより測定した伸長粘度と時間の関係をプロットすることで判定することができる。また、例えばメルトテンション測定時の溶融ストランドの破断挙動からも歪硬化性を判定できる。すなわち、引き取り速度を増加させたときに急激にメルトテンションが増加し、切断に至るときは歪硬化性を示す場合である。
【0041】
前記メルトフローレートが10g/10分以上50g/10分以下の範囲であると、射出発泡成形体を製造する際に、金型キャビティのクリアランスが1〜2mm程度の薄肉部分を有する成形においてもショートショットになりにくく、連続して安定した成形が行いやすい傾向がある。
【0042】
前記メルトテンションが2cN以上で、かつ歪硬化性を示す場合には、発泡倍率2倍以上の均一微細な気泡の射出発泡成形体が得られ、射出成形時の溶融樹脂流動先端部で破泡しやすくなることによっておこるシルバーストリークあるいはスワールマークが出難くなる傾向があるので表面外観に優れた射出発泡成形体が得られ易い傾向にあるので好ましい。
【0043】
前記改質ポリプロピレン系樹脂(A)としては、例えば、線状ポリプロピレン系樹脂に放射線を照射するか、または線状ポリプロピレン系樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合するなど得られる分岐構造あるいは高分子量成分を含有する改質ポリプロピレン系樹脂が好ましい。さらには、線状ポリプロピレン樹脂、ラジカル重合開始剤、共役ジエン化合物を溶融混合して得られる改質ポリプロピレン系樹脂が、高価な設備を必要とせず安価に製造できる点から好ましい。
【0044】
前記線状ポリプロピレン系樹脂は、線状の分子構造を有しているポリプロピレン系樹脂であり、通常の重合方法、例えば担体に担持させた遷移金属化合物と有機金属化合物から得られる触媒系(例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒、ポストメタロセン触媒等)の存在下の重合で得られる。具体的には、プロピレンの単独重合体、ブロック共重合体およびランダム共重合体であって、結晶性の重合体があげられる。プロピレンの共重合体としては、プロピレンを75重量%以上含有しているものが、ポリプロピレン系樹脂の特徴である結晶性、剛性、耐薬品性などが保持されている点で好ましい。
【0045】
プロピレンと共重合可能なα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2または4〜12のα−オレフィン、シクロペンテン、ノルボルネン、テトラシクロ[6,2,11,8,13,6]−4−ドデセンなどの環状オレフィン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどのジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのビニル単量体などが挙げられる。これらのうち、エチレン、1−ブテンが耐寒脆性向上、安価等という点で好ましい。
【0046】
前記共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンなどがあげられるが、これらを単独または組み合わせ使用してもよい。これらの中では、ブタジエン、イソプレンが安価で取り扱いやすく、反応が均一に進みやすい点からとくに好ましい。
【0047】
前記共役ジエン化合物の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下が好ましく、0.05重量部以上5重量部以下がさらに好ましい。0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また20重量部を越える添加量においては効果が飽和してしまい、経済的でない場合がある。
【0048】
前記共役ジエン化合物と共重合可能な単量体、たとえば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなどを併用してもよい。
【0049】
ラジカル重合開始剤としては、一般に過酸化物、アゾ化合物などが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂や前記共役ジエン化合物からの水素引き抜き能を有するものが好ましく、一般にケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどの有機過酸化物が挙げられる。これらのうち、とくに水素引き抜き能が高いものが好ましく、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどのパーオキシケタール、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンなどのジアルキルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレートなどのパーオキシエステルなどの1種または2種以上が挙げられる。
【0050】
ラジカル重合開始剤の添加量としては、線状ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下が好ましく、0.05重量部以上2重量部以下がさらに好ましい。0.01重量部未満では改質の効果が得られにくい場合があり、また10重量部を越える添加量では、改質の効果が飽和してしまい経済的でない場合がある。
【0051】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、ラジカル重合開始剤を反応させるための装置としては、ロール、コニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダー、単軸押出機、2軸押出機などの混練機、2軸表面更新機、2軸多円板装置などの横型撹拌機、ダブルヘリカルリボン撹拌機などの縦型撹拌機、などが挙げられる。これらのうち、混練機を使用することが好ましく、とくに押出機が生産性の点から好ましい。
【0052】
線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、ラジカル重合開始剤を混合、混練(撹拌)する順序、方法にはとくに制限はない。線状ポリプロピレン系樹脂、共役ジエン化合物、およびラジカル重合開始剤を混合したのち溶融混練(撹拌)してもよいし、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練(撹拌)したのち、共役ジエン化合物あるいはラジカル開始剤を同時にあるいは別々に、一括してあるいは分割して混合してもよい。混練(撹拌)機の温度は130〜300℃が、線状ポリプロピレン系樹脂が溶融し、かつ熱分解しないという点で好ましい。またその時間は一般に1〜60分が好ましい。このようにして得られる改質ポリプロピレン系樹脂の形状、大きさに制限はなく、ペレット状でもよい。
【0053】
また、本発明で用いることの出来るポリプロピレン系樹脂としては、それぞれ特定の物性を有する、線状ポリプロピレン系樹脂(B)と改質ポリプロピレン系樹脂(C)を混合して用いることも出来る。
【0054】
前記線状ポリプロピレン系樹脂(B)としては、メルトフローレートが好ましくは10g/10分以上100g/10分以下、さらに好ましくは15g/10分以上50g/10分以下であり、メルトテンションが好ましくは2cN以下、さらに好ましくは1cN以下である。メルトフローレートが10g/10分以上100g/10分以下の範囲であると、射出発泡成形体を製造する際に、金型キャビティのクリアランスが1〜2mm程度の薄肉部分を有する成形においても比較的低圧力で溶融樹脂を金型内に充填することが可能であり、連続して安定した成形が行える傾向にある。また、発泡時に気泡が破壊されにくいため、表面外観美麗な射出発泡成形体が得られる傾向にある。また、メルトテンションが2cN以下であれば、金型面への転写性が良好であり、表面外観美麗な射出発泡成形体が得られる傾向がある。
【0055】
前記改質ポリプロピレン系樹脂(C)としては、メルトフローレートが好ましくは0.1g/10分以上10g/10分未満、さらに好ましくは0.3g/10分以上8g/10分以下であり、メルトテンションが好ましくは5cN以上、さらに好ましくは8cN以上で、かつ歪硬化性を示すものである。メルトフローレートが0.1g/10分以上10g/10分未満であると、線状ポリプロピレン系樹脂(B)への分散性が良好であり、高発泡倍率であり気泡が均一の、表面性が良い本発明の射出発泡成形体が得られる傾向がある。また、金型面への転写性が良好で、美麗な表面外観が得られる傾向がある。また、メルトテンションが5cN以上の場合には2倍以上の均一微細な気泡の射出発泡成形体が得られる傾向がある。
【0056】
また、改質ポリプロピレン系樹脂(C)が歪硬化性を示すことの効果は、射出成形時の溶融樹脂のフローフロントでの破泡等に起因するシルバーストリークが出にくくなり表面外観が美麗になり易く、また発泡倍率2倍を越える高倍率の射出発泡成形体が得られ易くなることである。
【0057】
線状ポリプロピレン系樹脂(B)、改質ポリプロピレン系樹脂(C)の形状、大きさに制限はなく、ペレット状でもよい。
【0058】
線状ポリプロピレン系樹脂(B)と改質ポリプロピレン系樹脂(C)の合計100重量部中、線状ポリプロピレン系樹脂(B)は、好ましくは50重量部以上95重量部以下であり、さらに好ましくは60重量部以上90重量部以下である。改質ポリプロピレン系樹脂(C)は、好ましくは5重量部以上50重量部以下であり、さらに好ましくは10重量部以上40重量部以下である。上記配合量であると、均一微細な気泡を有する発泡倍率2倍以上の射出発泡成形体を安価に提供することが出来る傾向がある。
【0059】
線状ポリプロピレン系樹脂(B)と改質ポリプロピレン系樹脂(C)の混合方法は特に限定はなく、公知の方法で行うことが出来、例えば、ペレット状の樹脂をブレンダー、ミキサー等を用いてドライブレンドする、溶融混合する、溶剤に溶解して混合する等の方法が挙げられる。本発明においてはドライブレンドした上で射出発泡成形に供する方法が、熱履歴が少なくて済み、メルトテンションの低下が少なくなる為、好ましい。
【0060】
本発明で使用する発泡剤としては、化学発泡剤、物理発泡剤など射出発泡成形に通常使用できるものであればとくに制限はない。化学発泡剤は、前記熱可塑性樹脂組成物と予め混合してから射出成形機に供給され、シリンダ内で分解して炭酸ガス等の気体を発生するものである。化学発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタテトラミン等の有機系化学発泡剤があげられる。
【0061】
物理発泡剤は、成形機のシリンダ内の溶融樹脂にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能する物である。物理発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスがあげられる。これらは単独または2種以上混合して使用してよい。
【0062】
これらの発泡剤の中では、通常の射出成形機が安全に使用でき、均一微細な気泡が得られやすいものとして、化学発泡剤としては無機系化学発泡剤、物理発泡剤としては窒素、炭酸ガス、空気等の無機ガスが好ましい。
【0063】
さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、金属不活性剤、燐系加工安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、蛍光増白剤、金属石鹸、制酸吸着剤などの安定剤、架橋剤、連鎖移動剤、核剤、滑剤、可塑剤、充填材、強化材、顔料、染料、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を併用してもよい。
【0064】
本発明の射出発泡成形用金型を使用することで、複雑形状や大型の射出発泡成形体において、高発泡倍率を有しかつ、表面平滑性に優れ、均一微細な発泡層を持つ射出発泡成形体を得ることができる。また該射出発泡成形用金型を使用することによって容易に射出圧・型締め力の低減効果も得られ、射出成形機の負荷を低減することができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0066】
実施例および比較例において、各種の評価方法に用いられた試験法および判定基準は次の通りである。
【0067】
(1)メルトフローレート:ASTM1238に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定した。
【0068】
(2)メルトテンション:メルトテンション測定用アタッチメントを付けたキャピログラフ(東洋精機製作所製)を使用した。230℃でφ1mm、長さ10mmの孔を有するダイスから、ピストン降下速度10mm/分で降下させたストランドを1m/分で引き取り、安定後に40m/分2で引き取り速度を増加させたとき、破断したときのロードセル付きプーリーの引き取り荷重をメルトテンションとした。
【0069】
(3)歪硬化性:上記メルトテンション測定時、引き取り速度を増加させたときに急激に引き取り荷重が増加し、破断に至った場合を「歪硬化性を示す」、そうでない場合を「歪硬化性を示さない」とした。
【0070】
(4)内部セル:発泡層内部にボイドが見られるか、射出発泡成形体中央の断面を観察し、○、△、×の3段階で評価した。本評価では、φ1.5mm以上のボイドの個数を調べた。
内部にボイド無く、均一微細・・・・・・○
内部にボイド1個以上10個未満ある・・△
内部にボイド10個以上ある・・・・・・×
【0071】
(5)表面平滑性:射出発泡成形体の外観から評価した。
凹みが無い・・・・○
凹みが有る・・・・×
【0072】
(6)発泡倍率:発泡倍率は、発泡成形体から表面の非発泡層も含めた試片を切り出し、別途作製した厚肉3mmの非発泡成形体(参考例1)との比重の比から求めた。
【0073】
本実施例、比較例においては、ポリプロピレンホモポリマーとラジカル重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートの混合物を、ホッパーから45mmφ二軸押出機(L/D=40)に供給して溶融混練し、途中に設けた圧入部よりイソプレンモノマーを、定量ポンプを用いて供給し、ストランドを水冷、細断することにより得た、改質ポリプロピレン系樹脂(メルトフローレート30g/10分、メルトテンション3cN、歪硬化性を示す)を使用した。
【0074】
(実施例1)
図17に示すようなガス注入口10とその外側にシール構造としてOリング11を有し、ホットランナー/バルブゲート(3点)装備(ゲート間距離(F1,F2=120mm))し、図18に示すような、射出発泡成形体寸法が縦:B2=450mm、横:C2=550mm、深さ:G=100mmとなる箱形状金型(厚肉形成部以外の金型クリアランス4a:1.5mm、厚肉形成部の金型クリアランス4b:2.5mm、厚肉部形状:E=3mm×D=330mm)を使用した。本実施例にて使用した金型のゲート直下における厚肉形成部の形状は、射出発泡成形体の底面部形状における縦:B1=400mmの約0.008倍の3mmを縦寸法、横:C1=510mmの約0.65倍の330mmを横寸法とした四角形状とした。
【0075】
前記金型に射出する発泡樹脂原料は、改質ポリプロピレン系樹脂に、発泡剤として、無機系化学発泡剤マスターバッチ(分解ガス40ml/g)8重量部をドライブレンドした射出発泡成形用樹脂組成物を、シリンダ温度220℃に調整された電動射出成形機に供給し、溶融混練することで得られる。
【0076】
この様にして得られた発泡樹脂原料を、温度が50℃に設定され、圧力計9aにて確認されるキャビティ圧力P2を0.9MPaとなるようにあらかじめ加圧された1.5mmクリアランスの成形空間を有する金型内に1.2秒にて射出した。
【0077】
発泡樹脂原料の充填完了と同時にガスを排気し、可動型を速度40mm/秒にて0.8mm後退させ、成形空間内の樹脂を発泡させた。この状態で8秒間保持した後、さらに最終製品厚みに相当する位置まで速度5mm/秒にて可動型を後退させて再度発泡を行った。発泡完了後60秒間冷却してから射出発泡成形体を取り出した。
【0078】
このようにして得られた射出発泡成形体は厚肉部以外の底面部の厚みが4.5mmで、ゲート直下の厚肉部の厚みが5.5mmであった。また発泡倍率は3.0倍であった。
【0079】
【表1】

【0080】
その結果、凹み無く、表面平滑性の良い、かつ内部セルにボイドの無い均一微細な射出発泡成形体が得られた。また射出圧は70MPaであった。
【0081】
(実施例2)
厚肉形成部の金型クリアランスを3.0mmとした以外は、実施例1と同様な条件にて射出発泡成形を実施した。その結果、凹み無く、表面平滑性の良い、かつ内部セルにボイドの無い均一微細な射出発泡成形体が得られた。また射出圧は65MPaであった。
【0082】
(実施例3)
厚肉形状:E=20mmとした以外は、実施例1と同様な条件にて射出発泡成形を実施した。その結果、凹み無く、表面平滑性の良い、かつ内部セルにボイドの無い均一微細な射出発泡成形体が得られた。また射出圧は65MPaであった。
【0083】
(実施例4)
厚肉形成部の金型クリアランスを3.0mm、厚肉形状:E=20mmとした以外は、実施例1と同様な条件にて射出発泡成形を実施した。その結果、凹み無く、表面平滑性の良い、かつ内部セルにボイドの無い均一微細な射出発泡成形体が得られた。また射出圧は60MPaであった。
【0084】
(比較例1)
厚肉形成部を設けないこと以外は、実施例1と同条件にて射出発泡成形を実施した。その結果、表面平滑性が悪く、セル内部にも、10個以上のボイドが存在する射出発泡成形体が得られた。また射出圧は80MPaであった。
【0085】
(参考例1)
実施例1において発泡剤を使用せず、キャビティクリアランスt1:3.0mmの金型に射出充填し、射出充填完了後に型後退動作を行わずに60秒間冷却して非発泡成形体を取り出した。このようにして得られた成形体の厚みは3.0mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の射出発泡成形用金型、該金型を使用する製造方法で得られる射出発泡成形体は高発泡倍率を有し、かつ面張りなどの外観に優れていることから、ドアトリム、ラゲージボックスなどの自動車内装材をはじめ、食品包装用容器や家電、建材用途に広く使用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 射出装置
2 可動型
3 固定型
4a 厚肉形成部以外の金型クリアランス
4b 厚肉形成部の金型クリアランス
5 エジェクトピン
6 エジェクト盤
7 圧力確認用ガス流路
8 ベント
9a 圧力計(P2:MPa)
9b 圧力計(P1:MPa)
10 ガス注入口
11 O-リング
12 ガス供給路
13 ゲート
14 厚肉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と前進および後退可能な可動型とから構成され、前記固定型と前記可動型から形成される成形空間内に発泡樹脂原料を充填し、前記可動型を型開き方向に移動させて発泡成形するための射出発泡成形用金型において、前記射出発泡成形用金型に設置されるゲート直下の領域に厚肉形成部を設けることを特徴とする射出発泡成形用金型。
【請求項2】
前記厚肉形成部の領域が、該射出発泡成形用金型の底面部形状の中心を中心として0.9倍に縮小した形状以内の領域であることを特徴とする請求項1記載の射出発泡成形用金型。
【請求項3】
射出発泡成形用金型に設置されるゲートが2以上であることを特徴とする請求項1または2に射出発泡成形用金型。
【請求項4】
前記射出発泡成形用金型に設置されるゲートが、1つの厚肉形成部の領域内に配置されることを特徴とする請求項1〜3何れか一項に記載の射出発泡成形用金型。
【請求項5】
前記厚肉形成部の形状が、幅3mm以上60mm以下の帯状であることを特徴とする請求項1〜4何れか一項に記載の射出発泡成形用金型。
【請求項6】
前記厚肉形成部の金型クリアランスと、厚肉形成部以外の底面部の金型クリアランスとの差が0.1mm以上5.0mm以下であることを特徴とする請求項1〜5何れか一項に記載の射出発泡成形用金型。
【請求項7】
前記射出発泡成形用金型に配置されるゲートの、各ゲート間距離が50mm以上300mm以下であることを特徴とする請求項1〜6何れか一項に記載の射出発泡成形用金型。
【請求項8】
前記射出発泡成形用金型が、予め成形空間内を加圧するための加圧ラインを有することを特徴とする、請求項1〜7何れか一項に記載の射出発泡成形用金型。
【請求項9】
請求項1〜8何れか一項に記載の金型を用いて、成形空間内に発泡樹脂原料を、ゲートを通じて充填し、充填完了した後に可動型を型開き方向に移動させて発泡成形することを特徴とする、射出発泡成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8何れか一項に記載の射出発泡成形用金型を用いて製造される射出発泡成形体であって、ゲート位置を含む領域に厚肉部を有することを特徴とする射出発泡成形体。
【請求項11】
前記厚肉部の領域が、射出発泡成形体の底面部形状の中心を中心として0.9倍に縮小した形状以内の領域とすることを特徴とした請求項10記載の射出発泡成形体。
【請求項12】
前記厚肉部の厚みt2と、厚肉部以外の底面部の厚みt1との差が0.1mm以上5.0mm以下であることを特徴とする請求項10または11に記載の射出発泡成形体。
【請求項13】
前記厚肉部以外の底面部の発泡倍率が2倍以上10倍以下であることを特徴とする請求項10〜12何れか一項に記載の射出発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−173238(P2010−173238A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20079(P2009−20079)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】