説明

導体パターン形成用インク、導体パターンおよび配線基板

【課題】マイグレーション現象の発生を抑制し、導通不良の発生を防止する可能な導体パターン形成用インク、信頼性に優れた導体パターンおよび配線基板を提供すること。
【解決手段】本発明の導体パターン形成用インクは、液滴吐出法により、基材上に導体パターンを形成するための導体パターン形成用インクであって、金属粒子と、炭素粉末と、前記金属粒子および前記炭素粉末が分散する水系分散媒と、を含むことを特徴とする。前記炭素粉末の含有量は、0.1wt%以上7wt%以下であることが好ましい。また、前記炭素粉末を構成する炭素粒子の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体パターン形成用インク、導体パターンおよび配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品が実装される回路基板(配線基板)として、セラミックスで構成された基板(セラミックス基板)上に、金属材料で構成された配線が形成されたセラミックス回路基板が、広く用いられている。このようなセラミックス回路基板では、基板(セラミックス基板)自体が、多機能性材料で構成されているため、多層化による内装部品の形成、寸法の安定性等の点で有利である。
【0003】
そして、このようなセラミックス回路基板は、セラミックス粒子とバインダーとを含む材料で構成されたセラミックス成形体上に、形成すべき配線(導体パターン)に対応するパターンで、金属粒子を含む組成物を付与し、その後、当該組成物が付与されたセラミックス成形体に対し、脱脂、焼結処理を施すことにより製造されている。
セラミックス成形体上へのパターン形成の方法としては、スクリーン印刷法が広く用いられている。その一方で、近年、配線の微細化(例えば、線幅:60μm以下の配線)、狭ピッチ化による回路基板の高密度化が求められているが、スクリーン印刷法では、配線の微細化、狭ピッチ化に不利であり、上記のような要求に応えるのが困難である。
【0004】
そこで、近年、セラミックス成形体上へのパターン形成の方法として、液体吐出ヘッドから金属粒子を含む液体材料(導体パターン形成用インク)を液滴状に吐出する液滴吐出法、いわゆるインクジェット法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、従来の方法と比較して、微細な導体パターンを形成することが可能であり、回路密度の向上に有利である。
【0005】
近年の回路の高密度化の傾向に伴い、導体パターンが狭ピッチ化した結果、セラミックス回路基板であっても、上述したマイグレーション現象によって、導通不良(短絡)が生じてしまうといった問題があった。一般に、セラミックス材料で構成されたセラミックス基板は、耐マイグレーション性に優れているが、より厳しい環境での使用が要求されるため、特に銀のような配線材料を使用する場合は、マイグレーション現象の発生を十分に防止することができなかった。
また、インクジェットを用いて基板にパターンを形成した場合、基板を焼結する際に、金属粒子を含む液体材料が低温で融着して収縮するため、セラミックス成形体に亀裂(クラック)が入るといった問題があった。そのため、得られる回路基板(配線基板)の信頼性が低下してしまうといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−84387号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、マイグレーション現象の発生を抑制し、クラック、断線、短絡等の発生が防止された信頼性の高い配線基板を提供すること、前記配線基板を効率よく製造することのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の導体パターン形成用インクは、液滴吐出法により、基材上に導体パターンを形成するための導体パターン形成用インクであって、
金属粒子と、炭素粉末と、前記金属粒子および前記炭素粉末が分散する水系分散媒と、を含むことを特徴とする。
これにより、マイグレーション現象の発生を抑制し、クラック、短絡等の発生を防止することが可能な導体パターン形成用インクを提供することができる。
【0009】
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記炭素粉末の含有量は、0.1wt%以上7wt%以下であることが好ましい。
これにより、導体パターンを構成する金属が基材内に移動するのをより効率よく防止することができ、マイグレーション現象およびクラック、短絡等の発生をより効果的に抑制することができる。
【0010】
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記炭素粉末を構成する炭素粒子の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であることが好ましい。
これにより、マイグレーション現象およびクラック、短絡等の発生をより効果的に防止することができるとともに、導体パターンは、より良好な導通性を示すものとなる。
本発明の導体パターン形成用インクでは、糖アルコールまたは多糖類をさらに含むことが好ましい。
これにより、炭素粉末を導体パターン形成用インク中により均一に分散させることができ、最終的に得られる導体パターン中に炭素をより均一に存在させることができる。その結果、マイグレーション現象およびクラック、短絡等の発生をより効果的に防止することができる。
【0011】
本発明の導体パターン形成用インクでは、前記糖アルコールまたは多糖類の含有量は、3wt%以上20wt%以下であることが好ましい。
これにより、炭素粉末を導体パターン形成用インク中により効率よく均一に分散させることができ、最終的に得られる導体パターン中に炭素をより均一に存在させることができる。その結果、マイグレーション現象およびクラック、短絡等の発生をより効果的に防止することができる。
【0012】
本発明の導体パターン形成用インクでは、導体パターン形成用インクは、前記金属粒子と前記金属粒子の表面に付着した分散剤とで構成された金属コロイド粒子が前記水系分散媒に分散したコロイド液であることが好ましい。
これにより、マイグレーション現象およびクラック、短絡等の発生をより効果的に防止することができる。
【0013】
本発明の導体パターンでは、本発明の導体パターン形成用インクによって形成されたことを特徴とする。
これにより、信頼性の高い導体パターンを提供することができる。
本発明の配線基板は、本発明の導体パターンが備えられてなることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の一例を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法の、概略の工程を示す説明図である。
【図3】図1の配線基板(セラミックス回路基板)の、製造工程説明図である。
【図4】インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
【図5】インクジェットヘッドの概略構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《導体パターン形成用インク》
本発明の導体パターン形成用インクは、基材上に導体パターンを形成するのに用いるインクであり、特に、液滴吐出法によって導体パターンを形成するのに用いるインクである。
【0016】
導体パターンが形成される基材は、いかなるものであってもよいが、本実施形態では、基材としてセラミックス基板を用いることとする。また、本実施形態では、セラミックスとバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体(セラミックスグリーンシート)に導体パターン形成用インクを付与するものとして説明する。なお、セラミックス成形体およびセラミックス成形体に付与されたインクは、後述するように焼結処理され、それぞれセラミックス基板および導体パターンとなる。
【0017】
以下、導体パターン形成用インクの好適な実施形態について説明する。なお、本実施形態では、金属粒子を水系分散媒に分散してなる分散液として、銀粒子が分散した分散液を用いた場合について代表的に説明する。
導体パターン形成用インク(以下、単にインクともいう)は、水系分散媒と、銀粒子(金属粒子)と、炭素粉末とを含むものである。
【0018】
以下、導体パターン形成用インクの各構成成分について詳細に説明する。
<水系分散媒>
まず、水系分散媒について説明する。
本明細書において、「水系分散媒」とは、水および/または水との相溶性に優れる液体(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の液体)で構成されたもののことを指す。このように、水系分散媒は、水および/または水との相溶性に優れる液体で構成されたものであるが、主として水で構成されたものであるのが好ましく、特に、水の含有率が70wt%以上のものであるのが好ましく、90wt%以上のものであるのがより好ましい。
【0019】
水系分散媒の具体例としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ピリジン、ピラジン、ピロール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、導体パターン形成用インク中における水系分散媒の含有量は、25wt%以上60wt%以下であることが好ましく、30wt%以上50wt%以下であることがより好ましい。これにより、インクの粘度を好適なものとしつつ、分散媒の揮発による粘度の変化を少ないものとすることができる。
【0020】
<銀粒子>
次に、銀粒子(金属粒子)について説明する。
銀粒子は、形成される導体パターンの主成分であり、導体パターンに導電性を付与する成分である。
また、銀粒子は、インク中において分散している。
【0021】
銀粒子の平均粒径は、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、10nm以上30nm以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性をより高いものとすることができるとともに、微細な導体パターンを容易に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
【0022】
また、インク中において、銀粒子の平均粒子間距離は、1.7nm以上380nm以下であるのが好ましく、1.75nm以上300nm以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの粘度をより適度なものとすることができ、吐出安定性に特に優れたものとなる。
また、インク中に含まれる銀粒子(分散剤が表面に吸着していない銀粒子(金属粒子))の含有量は、0.5wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上45wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの高い吐出安定性を保持しつつ、導体パターンの断線をより効果的に防止することができ、より信頼性の高い導体パターンを提供することができる。
【0023】
また、銀粒子(金属粒子)は、その表面に分散剤が付着した銀コロイド粒子(金属コロイド粒子)として、水系分散媒中に分散していることが好ましい。これにより、銀粒子の水系分散媒への分散性が特に優れたものとなり、インクの吐出安定性が特に優れたものとなる。また、導体パターン形成用インク中に銀コロイド粒子が均一に分散しているため、導体パターン形成用インクによって形成される導体パターン中に銀が均一に存在することとなり、導体パターンを構成する金属が基板内を移動するというマイグレーション現象の発生をより効果的に防止することができる。
【0024】
分散剤は、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むことが好ましい。これらの分散剤は、銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とOH基の数が3個未満であったり、COOH基の数がOH基の数よりも少ないと、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
このような分散剤は、例えば、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
また、分散剤は、COOH基とSH基とを合わせて2個以上有するメルカプト酸またはその塩を含んでいてもよい。これらの分散剤は、メルカプト基が銀微粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によってコロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きを有する。このように、銀コロイド粒子が安定してインク中に存在することにより、より容易に微細な導体パターンを形成することができる。また、インクによって形成されたパターン(前駆体)において銀粒子が均一に分布し、クラック、断線等が発生しにくいものとなる。これに対して、分散剤中のCOOH基とSH基の数が2個未満すなわち片方のみであると、銀コロイド粒子の分散性が十分に得られない場合がある。
【0026】
このような分散剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
インク中における銀コロイド粒子の含有量は、1wt%以上60wt%以下であるのが好ましく、10wt%以上50wt%以下であるのがより好ましい。銀コロイド粒子の含有量が前記下限値未満であると、銀の含有量が少なく、導体パターンを形成した際、比較的厚い膜を形成する場合に、複数回重ね塗りする必要が生じる。一方、銀コロイド粒子の含有量が前記上限値を超えると、銀の含有量が多くなり、分散性が低下し、これを防ぐためには攪拌の頻度が高くなる。
【0028】
また、銀コロイド粒子の熱重量分析における500℃までの加熱減量は、1wt%以上25wt%以下が好ましい。コロイド粒子(固形分)を500℃まで加熱すると、表面に付着した分散剤、後述する還元剤(残留還元剤)等が酸化分解され、大部分のものはガス化されて消失する。残留還元剤の量は、僅かであると考えられるので、500℃までの加熱による減量は、銀コロイド粒子中の分散剤の量にほぼ相当すると考えられる。加熱減量が1wt%未満であると、銀粒子に対する分散剤の量が少なく、銀粒子の充分な分散性が低下する。一方、25wt%を超えると、銀粒子に対する残留分散剤の量が多くなり、導体パターンの比抵抗が高くなる。但し、比抵抗は、導体パターンの形成後に加熱焼結して有機分を分解消失させることである程度改善することができる。そのため、より高温で焼結されるセラミックス基板等に有効である。
なお、銀コロイド粒子の形成については、後に詳述する。
【0029】
<炭素粉末>
本発明の導体パターン形成用インクは、炭素粉末を含んでいる点に特徴を有している。
ところで、一般に配線基板に形成された導体パターンにおいて、導体パターンを構成する金属が基板内を移動するというマイグレーション現象が知られている。
近年の回路の高密度化の傾向に伴い、導体パターンが狭ピッチ化した結果、セラミックス回路基板であっても、上述したマイグレーション現象によって、導通不良(短絡)が生じてしまうといった問題があった。一般に、セラミックス材料で構成されたセラミックス基板は、耐マイグレーション性に優れているが、より厳しい環境での使用が要求されるため、特に銀のような配線材料を使用する場合は、マイグレーション現象の発生を十分に防止することができなかった。
【0030】
また、インクジェットを用いて基板にパターンを形成した場合、基板を焼結する際に、金属粒子を含む液体材料が低温で融着して収縮するため、セラミックス成形体に亀裂(クラック)が入るといった問題があった。そのため、得られる回路基板(配線基板)の信頼性が低下してしまうといった問題があった。
これに対して、本願発明は、炭素粉末を含む導体パターン形成用インクを用いることにより、炭化物が導体パターンを構成する金属がイオン化するのを防止し、金属が配線基板内を移動するマイグレーション現象を抑制することができる。その結果、信頼性に優れた導体パターンを得ることができる。
【0031】
また、導体パターン中に炭素粉末を最終的な導体パターン中に炭化物として残存させることにより、金属粒子を含む液体材料が低温で融着して収縮することがなく、セラミックス成形体が焼結する際も収縮することがないため、セラミックス成形体に亀裂が入るのを抑制することができる。
導体パターン形成用インク中における炭素粉末の含有量は、0.1wt%以上7wt%以下であるのが好ましく、1wt%以上5wt%以下であるのがより好ましい。これにより、配線抵抗を上げすぎることなく、マイグレーション現象の発生をより効率よく防止することができるとともに、導体パターンは、より良好な導通性を示すものとなる。
また、炭素粉末を構成する炭素粒子の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下であるのが好ましく、0.03μm以上0.1μm以下であるのがより好ましい。これにより、配線抵抗を上げすぎることなく、マイグレーション現象の発生をより効果的に防止することができるとともに、導体パターンは、より良好な導通性を示すものとなる。
【0032】
<その他の成分>
上記成分の他、本発明の導体パターン形成用インクは、有機バインダーを含んでいてもよい。有機バインダーは、導体パターン形成用インクによって形成されたパターンにおいて、銀粒子や炭素粉末の凝集を防止するものである。すなわち、形成されたパターンにおいて、有機バインダーは、銀粒子同士や炭素粉末同士の間に存在することで銀粒子同士・炭素粉末同士が凝集して、パターンの一部に亀裂(クラック)が生じることを防止できる。また、焼結時においては、有機バインダーは、分解されて除去されることができ、パターン中の銀粒子同士は、結合して導体パターンを形成する。
【0033】
このように有機バインダーを含むことにより、形成される導体パターンに亀裂が生じるのを防止することが可能であるが、一般に、このような有機バインダーは、インク中において、凝集しやすい。しかしながら、インク中に、前述したポリエチレングリコール脂肪酸エステルが含まれることにより、有機バインダーの水系分散剤中への分散安定性を向上させることができ、有機バインダーの不本意な凝集を防止することができる。
【0034】
有機バインダーとしては、特には限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール#200(重量平均分子量200)、ポリエチレングリコール#300(重量平均分子量300)、ポリエチレングリコール#400(平均分子量400)、ポリエチレングリコール#600(重量平均分子量600)、ポリエチレングリコール#1000(重量平均分子量1000)、ポリエチレングリコール#1500(重量平均分子量1500)、ポリエチレングリコール#1540(重量平均分子量1540)、ポリエチレングリコール#2000(重量平均分子量2000)等のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール#200(重量平均分子量:200)、ポリビニルアルコール#300(重量平均分子量:300)、ポリビニルアルコール#400(平均分子量:400)、ポリビニルアルコール#600(重量平均分子量:600)、ポリビニルアルコール#1000(重量平均分子量:1000)、ポリビニルアルコール#1500(重量平均分子量:1500)、ポリビニルアルコール#1540(重量平均分子量:1540)、ポリビニルアルコール#2000(重量平均分子量:2000)等のポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリグリセリンエステル等のポリグリセリン骨格を有するポリグリセリン化合物が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ポリグリセリンエステルとしては、例えば、ポリグリセリンのモノステアレート、トリステアレート、テトラステアレート、モノオレエート、ペンタオレエート、モノラウレート、モノカプリレート、ポリシノレート、セスキステアレート、デカオレエート、セスキオレエート等が挙げられる。
【0035】
この中でも、有機バインダーとして、ポリグリセリン化合物を用いた場合、以下のような効果が得られる。
ポリグリセリン化合物は、導体パターン形成用インクによって形成されたパターン(後に詳述する導体パターンの前駆体)を乾燥(脱分散媒)した際に、パターンにクラックが発生するのを特に好適に防止することができる。これは、以下のように考えられる。導体パターン形成用インク中にポリグリセリン化合物が含まれることにより、銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を適度なものとすることができる。さらに、ポリグリセリン化合物は比較的沸点が高いため、水系分散媒の除去時においては除去されず、銀粒子の周囲に付着する。以上により、水系分散媒除去時において、ポリグリセリン化合物が銀粒子を包み込んだ状態が長く続き、水系分散媒の揮発による急激な体積収縮が避けられるとともに銀の粒成長(凝集)が妨げられる結果、パターン中のクラックの発生が抑制されると考えられる。
【0036】
また、ポリグリセリン化合物は、導体パターンを形成する際の焼結時において、断線が発生するのをより確実に防止することができる。これは、以下のように考えられる。ポリグリセリン化合物は、比較的沸点あるいは分解温度が高い。このため、導体パターン形成用インクから導体パターンを形成する過程において、水系分散媒が蒸発した後、比較的高い温度まで、ポリグリセリン化合物を、蒸発或いは熱(酸化)分解せずに、パターン中に存在させることができる。したがって、ポリグリセリン化合物が蒸発或いは熱(酸化)分解するまでは、銀粒子の周囲にポリグリセリン化合物が存在し、銀粒子同士の接近と凝集とを抑制することができ、ポリグリセリン化合物が分解した後には、より均一に銀粒子同士を接合させることができる。さらに、焼結時においてパターン中の銀粒子(金属粒子)の間に高分子鎖(ポリグリセリン化合物)が存在することとなり、ポリグリセリン化合物が銀粒子同士の距離を保つことができる。また、このポリグリセリン化合物は、適度な流動性を有している。このため、ポリグリセリン化合物を含むことにより、導体パターンの前駆体は、セラミックス成形体の温度変化による膨張・収縮への追従性が優れたものとなる。
以上より、形成された導体パターンに断線が生じることをより確実に防止することができると考えられる。
【0037】
また、このようなポリグリセリン化合物を含むことにより、インクの粘度をより適度なものとすることができ、インクジェットヘッドからの吐出安定性をより効果的に向上させることができる。また、成膜性も向上させることができる。
ポリグリセリン化合物としては、上述した中でも、ポリグリセリンを用いるのが好ましい。ポリグリセリンは、セラミックス成形体の温度変化による膨張・収縮への追従性が特に優れるとともに、セラミックス成形体の焼結後には、導体パターン中からより確実に除去することができる成分である。その結果、導体パターンの電気的特性をより高いものとすることができる。さらに、ポリグリセリンは、水系分散媒への溶解度も高いので、好適に用いることができる。
【0038】
有機バインダーは、その重量平均分子量が300以上3000以下であるのが好ましく、400以上1000以下であるのがより好ましく、400以上600以下であるのがさらに好ましい。これにより、導体パターン形成用インクによって形成されたパターンを乾燥した際に、クラックの発生をより確実に防止することができる。また、後述するようにインク中に糖アルコールを含む場合、有機バインダーと糖アルコールとの親和性が十分に高いものとなり、焼結時において、インクによって形成されたパターンは、より長期にわたって流動性を維持することができ、セラミック成形体の温度変化による収縮、膨張への追従性が特に優れたものとなる。これに対し、有機バインダーの重量平均分子量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、水系分散媒を除去する際に有機バインダーが分解しやすい傾向があり、クラックの発生を防止する効果が小さくなる。また、有機バインダーの重量平均分子量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、排除体積効果等によりインク中への溶解性、分散性が低下する場合がある。
【0039】
また、インク中に有機バインダーの含有量は、1wt%以上30wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上20wt%以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性を特に優れたものとしつつ、クラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。これに対して、有機バインダーの含有量が前記下限値未満であると、有機バインダーの組成によっては、クラックの発生を防止する効果が小さくなる場合がある。また、有機バインダーの含有量が前記上限値を超えると、有機バインダーの組成によっては、インクの粘度を十分に低いものとすることが困難な場合がある。
【0040】
また、導体パターン形成用インクには、上記成分の他、糖アルコールまたは多糖類が含まれていてもよい。
糖アルコール、多糖類は、導体パターン形成用インクの水系分散媒の揮発を防止することに寄与することのできる成分である。導体パターン形成用インク中に、糖アルコールまたは多糖類を含む場合、インクジェット装置の吐出部付近において水系分散媒が揮発することをより確実に防止でき、インクの粘度の上昇、乾燥が抑えられる。この結果、上述したポリエチレングリコール脂肪酸エステルを含むことによる効果との相乗効果により、インクの液滴の吐出安定性がさらに優れたものとなる。
【0041】
また、導体パターン形成用インク中に、糖アルコールまたは多糖類を含むことにより、炭素粉末を導体パターン形成用インク中により均一に分散させることができ、最終的に得られる導体パターン中に炭素をより均一に存在させることができる。その結果、マイグレーション現象の発生をより効果的に防止することができる。
また、糖アルコール、多糖類は、分子量あたりの酸素数が多いため、雰囲気が糖アルコール、多糖類の分解温度に達すると、容易に分解して除去される。このため、導体パターンを形成する際には、導体パターンの温度を糖アルコール、多糖類の分解温度よりも高くすることで、導体パターン内から糖アルコール、多糖類を確実に除去(酸化分解)することができる。
【0042】
糖アルコールとしては、例えば、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、スレイトール、グリトール、タリトール、ガラクチトール、アリトール、アルトリトール、ドルシトール、イディトール、グリセリン(グリセロール)、イノシトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、ツラニトール等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
多糖類としては、例えば、セルロース、グアーガム、デンプン(アミロース、アミロペクチン)、プルラン、デキストリン、フルクタン、グルコマンナン、アガロース、アガロペクチン、カラギーナン、キチン、キトサン、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、マルトデキストリン、またはこれらの誘導体(例えば、カルボニル基が還元された多糖類等)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
多糖類は、常温(25℃)で固体であるのが好ましい。これにより、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
また、多糖類の重量平均分子量は、1,000以上5,000以下であるのが好ましく、1,200以上4,500以下であるであるのがより好ましく、1,500以上4,000以下であるのがさらに好ましい。
【0045】
導体パターン形成用インクは、上記の中でも、常温(25℃)で固体のマルトデキストリンを含むのが好ましい。これにより、液滴の吐出安定性、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
また、導体パターン形成用インクは、多糖類として、カルボニル基が還元された多糖類を含むのが好ましい。これにより、液滴の吐出安定性、形成される導体パターンの信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0046】
多糖類は、炭素数も多く、環状構造を有し、脱水反応により炭化しやすい化合物であるため、導体パターン前駆体10の体積収縮をより効果的に抑制するうえで、ポリグリセリンとともに効果がある。また、上記酸素濃度条件下における500℃以上に昇温する加熱処理では、より確実にその炭化物を燃焼除去することができる。その結果、最終的に形成される配線(導体パターン)にクラック、断線、短絡等が発生するのをより確実に防止するうえで、好適である。その結果、マイグレーション現象の発生をより効果的に防止することができる。
【0047】
上述したような糖アルコールまたは多糖類の、導体パターン形成用インク中における含有量は、3wt%以上20wt%以下であるのが好ましく、5wt%以上15wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクの水系分散媒の揮発をより確実に抑制することができ、導体パターン形成用インクは、より長期にわたって液滴の吐出安定性が特に優れたものとなる。また、炭素粉末を導体パターン形成用インク中により効率よく均一に分散させることができ、最終的に得られる導体パターン中に炭素をより均一に存在させることができる。その結果、マイグレーション現象およびクラックの発生をより効果的に防止することができる。
【0048】
また、導体パターン形成用インクには、上記成分の他、アセチレングリコール系化合物が含まれていてもよい。アセチレングリコール系化合物は、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整する機能を有するものである。また、アセチレングリコール系化合物は、少ない添加量で、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整することができる。このように、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲に調整することにより、より微細な導体パターンを形成することができる。また、吐出した液滴内に気泡が混入した場合であっても、速やかに気泡を除去することができる。その結果、形成される導体パターンでのクラック、断線の発生をより効果的に防止することができる。
【0049】
上記化合物は、具体的には、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角が40°以上80°以下(より好ましくは50°以上80°以下)に調整する機能を有するものである。接触角が小さすぎると、微細な線幅の導体パターンを形成するのが困難となる場合がある。一方、接触角が大きすぎると、吐出条件等によっては、均一な線幅の導体パターンを形成するのが困難となる場合がある。また、着弾した液滴とセラミックス成形体との接触面積が小さくなりすぎてしまい、着弾した液滴が着弾位置からずれてしまう場合がある。
【0050】
アセチレングリコール系化合物としては、例えば、サーフィノール104シリーズ(104E、104H、104PG−50、104PA等)、サーフィノール400シリーズ(420、465、485等)、オルフィンシリーズ(EXP4036、EXP4001、E1010等)(「サーフィノール」および「オルフィン」は、日信化学工業株式会社の商品名)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
また、インク中には、HLB値が異なる2種以上のアセチレングリコール系化合物を含んでいるのが好ましい。導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
特に、インク中に含まれる2種以上のアセチレングリコール系化合物のうち、最もHLB値が高いアセチレングリコール系化合物のHLB値と、最もHLB値が低いアセチレングリコール系化合物のHLB値との差が、4以上12以下であるのが好ましく、5以上10以下であるのがより好ましい。これにより、より少ないアセチレングリコール系化合物の添加量で、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角を所定の範囲により容易に調整することができる。
【0052】
インク中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の高いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、8以上16以下であるのが好ましく、9以上14以下であるのがより好ましい。
また、インク中に2種以上のアセチレングリコール系化合物を含むものを用いる場合、最もHLB値の低いアセチレングリコール系化合物のHLB値は、2以上7以下であるのが好ましく、3以上5以下であるのがより好ましい。
【0053】
インク中に含まれるアセチレングリコール系化合物の含有量は、0.001wt%以上1wt%以下であるのが好ましく、0.01wt%以上0.5wt%以下であるのがより好ましい。これにより、導体パターン形成用インクとセラミックス成形体との接触角をより効果的に所定の範囲に調整することができる。
また、導体パターン形成用インクには、上記成分の他、1,3−プロパンジオールが含まれていてもよい。これにより、インクジェットヘッドの吐出部付近における水系分散媒の揮発をより効果的に抑制することができるとともに、インクの粘度をより適度なものとすることができ、吐出安定性がさらに向上する。
【0054】
インク中に1,3−プロパンジオールを含む場合、その含有量は、0.5wt%以上20wt%以下であるのが好ましく、2wt%以上10wt%以下であるのがより好ましい。これにより、インクの吐出安定性をより効果的に向上させることができる。
なお、導体パターン形成用インクの構成成分は、上記成分に限定されず、上記以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、導体パターン形成用インクは、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールを含んでいてもよい。
【0055】
《導体パターン形成用インクの製造方法》
次に、上述したような導体パターン形成用インクの製造方法の一例について説明する。
本実施形態では導体パターン形成用インクは、銀コロイド粒子が水系分散媒中に分散したコロイド液であるとして説明する。
本実施形態のインクを製造する際には、まず、上記分散剤と、還元剤とを溶解した水溶液を調製する。
【0056】
分散剤の配合量としては、出発物質である硝酸銀のような銀塩中の銀と分散剤とのモル比が1:1以上1:100以下程度となるように配合することが好ましい。銀塩に対する分散剤のモル比が大きくなると、銀粒子の粒径が小さくなって導体パターン形成後の粒子同士の接触点が増えるため、体積抵抗値の低い被膜を得ることができる。
還元剤は、出発物質である硝酸銀(AgNO3−)のような銀塩中のAgイオンを還元して銀粒子を生成するという働きを有する。
【0057】
還元剤としては、特に限定されず、例えば、ヒドラジン、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン系;水酸化ホウ素ナトリウム、水素ガス、ヨウ化水素等の水素化合物系;一酸化炭素、亜硫酸次亜リン酸等の酸化物系、Fe(II)化合物、Sn(II)化合物等の低原子価金属塩系、D−グルコースのような糖類、ホルムアルデヒド等の有機化合物系、あるいは上記の分散剤として挙げたヒドロキシ酸であるクエン酸、りんご酸や、ヒドロキシ酸塩であるクエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウムやタンニン酸等が挙げられる。中でも、タンニン酸や、ヒドロキシ酸は還元剤として機能すると同時に分散剤としての効果を発揮するため好適に用いることができる。あるいは、金属表面で安定した結合を形成する分散剤として上記に挙げたメルカプト酸であるメルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸やメルカプト酸塩であるメルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸カリウム等を好適に用いることができる。これらの分散剤や還元剤は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの化合物を使用する際には、光や熱を加えて還元反応を促進させてもよい。
【0058】
また、還元剤の配合量としては、上記出発物質である銀塩を完全に還元できる量が必要であるが、過剰な還元剤は不純物として銀コロイド液中に残存してしまい、成膜後の導電性を悪化させる等の原因となるため、必要最小限の量が好ましい。具体的な配合量としては、上記銀塩と還元剤とのモル比が1:1以上1:3以下程度である。
本実施形態において、分散剤と還元剤とを溶解して水溶液を調製した後、この水溶液のpHを6以上12以下に調整することが好ましい。
【0059】
これは、以下のような理由による。例えば、分散剤であるクエン酸三ナトリウムと還元剤である硫酸第一鉄とを混合した場合、全体の濃度にもよるがpHは大体4以上5以下程度と、上記したpH6を下回る。このとき存在する水素イオンは、下記反応式(1)で表される反応の平衡を右辺に移動させ、COOHの量が多くなる。したがって、その後、銀塩溶液を滴下して得られる銀粒子表面の電気的反発力が減少し、銀粒子(コロイド粒子)の分散性が低下してしまう。
−COO+H → −COOH…(1)
【0060】
そこで、分散剤と還元剤とを溶解して水溶液を調製した後、この水溶液にアルカリ性の化合物を添加し、水素イオン濃度を低下させる。
添加するアルカリ性の化合物としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水や、上述したアルカノールアミン等を用いることができる。これらの中でも、アルカノールアミンを用いた場合、pHを容易に調整できるとともに、形成される銀コロイド粒子の分散安定性をより向上させることができる。
【0061】
なお、アルカリ性の化合物の添加量が多すぎて、pHが12を超えると、鉄イオンのような残存している還元剤のイオンの水酸化物の沈殿が起こりやすくなる。
次に、本実施形態のインクの製造工程では、調製した分散剤と還元剤とが溶解した水溶液に銀塩を含む水溶液を滴下する。
銀塩としては、特に限定されず、例えば、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、硫酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀、クロム酸銀、硝酸銀、二クロム酸銀等を用いることができる。これらの中では、水への溶解度が大きい硝酸銀が好ましい。
【0062】
また、銀塩の量は、目的とするコロイド粒子の含有量、および、還元剤により還元される割合を考慮して定められるが、例えば、硝酸銀の場合、水溶液100重量部に対して15重量部以上70重量部以下程度とするのが好ましい。
銀塩水溶液は、上記銀塩を純水に溶かすことにより調製し、調製した銀塩の水溶液を徐々に前述した分散剤と還元剤とが溶解した水溶液中に滴下する。
【0063】
この工程において、銀塩は還元剤により銀粒子に還元され、さらに、該銀粒子の表面に分散剤が吸着して銀コロイド粒子が形成される。これにより、銀コロイド粒子が水溶液中にコロイド状に分散した水溶液が得られる。
得られた溶液中には、コロイド粒子のほかに、還元剤の残留物や分散剤が存在しており、液全体のイオン濃度が高くなっている。このような状態の液は、凝析が起こり、沈殿しやすい。そこで、このような水溶液中の余分なイオンを取り除いてイオン濃度を低下させるために、洗浄を行うことが望ましい。
【0064】
洗浄の方法としては、例えば、得られたコロイド粒子を含む水溶液を一定期間静置し、生じた上澄み液を取り除いた上で、純水を加えて再度攪拌し、さらに一定期間静置して生じた上澄み液を取り除く工程を幾度が繰り返す方法、上記静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過等でイオンを取り除く方法等を挙げることができる。
あるいは、次のような方法で洗浄を行ってもよい。溶液を製造した後に溶液のpHを5以下の酸性の領域に調整し、上記反応式(1)の反応の平衡を右辺に移動させることで銀粒子表面の電気的反発力を減少させ、積極的に金属コロイド粒子を凝集させた状態で洗浄を行い、塩類や溶媒を除去することができる。メルカプト酸のような低分子量の硫黄化合物を分散剤として粒子表面に有する金属コロイド粒子であれば金属表面で安定した結合を形成するため、凝集した金属コロイド粒子は、溶液のpHを6以上のアルカリ性の領域に再調整することにより、容易に再分散し、分散安定性に優れた金属コロイド液を得ることができる。
【0065】
本実施形態のインクの製造過程では、上記工程の後、必要により銀コロイド粒子が分散した水溶液に水酸化アルカリ金属水溶液を添加し、最終的なpHを6〜11に調整することが好ましい。
これは、還元後に洗浄を行ったため、電解質イオンであるナトリウム濃度が減少している場合があり、このような状態の溶液では、下記反応式(2)で表される反応の平衡が右辺へ移動する。このままでは、銀コロイドの電気的反発力が減少して銀粒子の分散性が低下するため、適当量の水酸化アルカリを添加することにより、反応式(2)の平衡を左辺に移動させ、銀コロイドを安定化させるのである。
−COONa+HO → −COOH+Na+OH…(2)
【0066】
このときに使用する上記水酸化アルカリ金属としては、例えば、最初にpHを調整する際に用いた化合物と同様の化合物を挙げることができる。
pHが6未満では、反応式(2)の平衡が右辺に移動するため、コロイド粒子が不安定化し、一方、pHが11を超えると、鉄イオンのような残存しているイオンの水酸化塩の沈殿が起こりやすくなるため好ましくない。ただし、予め鉄イオン等を取り除いておけば、pHが11を超えても大きな問題はない。
【0067】
なお、ナトリウムイオン等の陽イオンは水酸化物の形で加えるのが好ましい。これは、水の自己プロトリシスを利用できるため最も効果的にナトリウムイオン等の陽イオンを水溶液中に加えることができるからである。
また、pHを6〜11に調整する上記工程において、水酸化アルカリ金属水溶液の代わりに、アルカノールアミンを用いてもよい。
以上のようにして得られた銀コロイド粒子が分散した水溶液に、前述したような炭素粉末等の他の成分を添加することにより、導体パターン形成用インク(本発明の導体パターン形成用インク)を得る。
なお、炭素粉末等の他の成分の添加時期は、特に限定されず、銀コロイド粒子の形成後ならいつでもよい。
【0068】
《導体パターンおよび配線基板》
次に、導体パターンおよび配線基板について詳細に説明する。
図1は、本発明の配線基板の一例を示す縦断面図である。
図1に示すように、配線基板(セラミックス回路基板)30は、セラミックス基板31が多数(例えば10枚から20枚程度)積層されてなる積層基板32と、この積層基板32の最外層、すなわち一方の側の表面に形成された、微細配線等からなる導体パターン(回路)21とを有して形成されたものである。
【0069】
積層基板32は、積層されたセラミックス基板31、31間に、導体パターン(回路)20を備えている。
導体パターン20は、上述したような導体パターン形成用インク1により形成されたパターン(導体パターン前駆体、以下、単に前駆体ともいう。)10を加熱する(焼結する)ことにより形成される薄膜状の導体パターンであって、金属粒子が相互に結合されてなり、少なくとも導体パターン表面において金属粒子同士が隙間なく結合している。
【0070】
また、導体パターン20は、上述したような導体パターン形成用インク1により形成されたものであるため、導体パターン20中には、炭素が含まれている。これにより、導体パターン20を構成する金属が積層基板32内を移動するという、いわゆる、マイグレーション現象の発生が防止される。
導体パターン20の比抵抗は、20μΩcm未満であることが好ましく、15μΩcm以下であることがより好ましい。このときの比抵抗は、インクの付与後、160℃で加熱、乾燥した後の比抵抗をいう。上記比抵抗が20μΩcm以上になると、導電性が要求される用途、すなわち回路基板上に形成する電極等に用いることが困難となる。
【0071】
なお、上記のような導体パターン20は、携帯電話やPDA等の移動通話機器の高周波モジュール、インターポーザー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、加速度センサー、弾性表面波素子、アンテナや櫛歯電極等の異形電極、その他各種計測装置等の電子部品等に適用することができる。
なお、導体パターン20は、導体パターン前駆体10を焼結処理として160℃以上で20分以上の条件で加熱することにより得られる。なお、この導体パターン前駆体10の焼結は、後述するようにセラミックス成形体15の脱脂、焼結とともに行うことができる。
【0072】
なお、導体パターン20Aも、導体パターン20と同様に、本発明の導体パターン形成用インクにより形成されたものとなっている。
セラミックス基板31は、シート状をなしており、導体パターン20を支持する。
また、セラミックス基板31には、導体パターン20に接続するコンタクト(ビア)33が形成されている。このような構成によって導体パターン20は、上下に配置された導体パターン20、20間が、コンタクト33によって導通したものとなっている。
【0073】
なお、セラミックス基板31は、後述するように、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン等のセラミックス粉末と、バインダーとを含む材料をシート状にし、その後、加熱処理(焼結処理)することにより得られる基板である。
以上のような配線基板30は、上述したような本発明の導体パターン形成用インクを用いて製造されているため、信頼性の高いものとなっている。
また、上述したような配線基板30は、各種の電子機器に用いられる電子部品となるものであり、各種配線や電極等からなる回路パターン、積層セラミックスコンデンサ、積層インダクター、LCフィルタ、複合高周波部品等を基板に形成してなるものである。
【0074】
《配線基板の製造方法》
次に、本発明の配線基板の製造方法の好適な実施形態について説明する。
図2は、本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法の概略の工程を示す説明図、図3は、本発明の配線基板(セラミックス回路基板)の製造方法の工程説明図である。
【0075】
本実施形態の配線基板の製造方法は、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体15を複数用意する工程(セラミックス成形体用意工程)と、セラミックス成形体15のうち少なくとも1つの表面上に、金属粒子と金属粒子が分散する分散媒とを含む導体パターン形成用インク1を液滴吐出法により吐出して、導体パターン前駆体10を形成する工程(導体パターン前駆体形成工程)と、複数のセラミックス成形体15を積層して積層体17を得る工程(積層工程)と、積層体17を加熱して、導体パターン20およびセラミックス基板31を有する配線基板30を得る工程(焼成工程)とを有している。
【0076】
以下、各工程について詳細に説明する。
[セラミックス成形体用意工程(セラミックス成形体形成工程)]
本工程では、セラミックス材料とバインダーとを含む材料で構成されたシート状のセラミックス成形体(セラミックスグリーンシート)15を複数用意する。
セラミックス成形体15は、後述するように焼結処理されることにより、セラミックス基板31となるものである。
【0077】
セラミックス成形体15は、例えば、以下のようにして形成する。
まず、図2に示すように、原料粉体として、平均粒径が1μm以上2μm以下のアルミナ(Al)や酸化チタン(TiO)等からなるセラミックス粉末(セラミックス材料)と、平均粒径が1μm以上2μm以下のホウ珪酸ガラス等からなるガラス粉末とを用意し、これらを適宜な混合比、例えば1:1の重量比で混合する。
【0078】
このように、セラミックス成形体15の材料として、ガラス材料を含むことにより、以下のような効果が得られる。ガラス材料は、焼結時において溶融し、導体パターン20を形成されるセラミックス基板31に固定、密着させる機能を有している。このため、形成される導体パターン20および配線基板30はより信頼性の高いものとなる。
次に、得られた混合粉末に適宜なバインダー(結合剤)や可塑剤、有機溶剤(分散剤)等を加え、混合・撹拌することにより、スラリーを得る。ここで、バインダーとしては、ポリビニルブチラールが好適に用いられるが、これは水に不溶であり、かつ、いわゆる油系の有機溶媒に溶解しあるいは膨潤し易いものである。
【0079】
次に、得られたスラリーを、ドクターブレード、リバースコーター等を用いてPETフィルム上にシート状に形成し、製品の製造条件に応じて数μm以上数百μm以下の厚さのシートに成形し、その後、ロールに巻き取る。
続いて、製品の用途に合わせて切断し、さらに所定寸法のシートに裁断する。本実施形態では、例えば1辺の長さを200mmとする正方形状に裁断する。
【0080】
次に、必要に応じて所定の位置に、COレーザー、YAGレーザー、機械式パンチ等によって孔開けを行うことでスルーホール(貫通孔)を形成する。
そして、このスルーホールに、金属粒子が分散した厚膜導電ペーストを充填することにより、コンタクト6となるべき部位(コンタクト前駆体16)を形成する。厚膜導電ペーストとしては、前述したような導体パターン形成用インクを用いることができる。なお、厚膜導電ペーストの充填は、本工程で行うものであってもよいし、後述する導体パターン前駆体形成工程で行うものであってもよく、また、導体パターン前駆体形成工程の後に行うものであってもよい。
以上により、複数のセラミックス成形体15を準備する。
【0081】
[導体パターン前駆体形成工程]
次に、上記のようにして得られたセラミックス成形体15の一方の側の表面に、導体パターン20となる導体パターン前駆体10を、コンタクト前駆体16に連続した状態に形成する。すなわち、図3(a)に示すようにセラミックス成形体15上に、導体パターン形成用インク(以下単にインクともいう)1を液滴吐出(インクジェット)法により付与し、導体パターン前駆体10を形成する。
【0082】
本実施形態において、導体パターン形成用インクの吐出は、後述するようなインクジェット装置(液滴吐出装置)100を用いることにより行うことができる。インク1(本発明の導体パターン形成用インク)は吐出安定性に優れているため、インク1を、セラミックス成形体15(基材S)上の所望する場所に所望の量、精度良く吐出し、配することができる。
【0083】
なお、形成した導体パターン前駆体10について、さらに乾燥処理を施してもよい。乾燥処理は、上記の液滴吐出時におけるセラミックス成形体15の加熱温度と同様の条件で行うことができる。
また、液滴吐出方法によりインク1を付与してから、セラミックス成形体15を加熱して水等の水系分散媒を蒸発させ、当該加熱後の導体パターン前駆体10の上に再度インク1を付与する、といった工程を繰り返し行うことで、厚膜の導体パターン前駆体10を形成してもよい。このような場合、セラミックス成形体15に一旦付与されたインク1の粘度が上昇することから、インク1がセラミックス成形体15上に過度に濡れ広がることを防止し、導体パターン前駆体10の厚さ、線幅等をより精度よく目的のものとすることができる。
このようにして導体パターン前駆体10を形成したら、同様の工程により、導体パターン前駆体10を形成したセラミックス成形体15を必要枚数、例えば10枚から20枚程度作製する。
【0084】
[積層工程]
次いで、これらセラミックス成形体15からPETフィルムを剥がし、図3(b)に示すようにこれらを積層することにより、積層体17を得る。
この際に、積層するセラミックス成形体15については、上下に重ねられるセラミックス成形体15間で、それぞれの導体パターン前駆体10が必要に応じてコンタクト前駆体16を介して接続するように配置する。
その後、積層したセラミックスグリーンシート15をポリエチレンパックで包装、封入した後、静水圧プレス機にてセラミックス成形体15を構成するバインダーのガラス転移点以上に加熱しつつ、各セラミックス成形体15同士を圧着する。これにより、積層体17を得る。
【0085】
[加熱工程]
次に、このようにして積層体17を形成したら、ポリエチレンパックから開封した後、例えば、ベルト炉などによって加熱処理する。これにより、各セラミックス成形体15は焼結されることで、図1に示すようにセラミックス基板31となり、また、導体パターン前駆体10は、これを構成する銀コロイド粒子が焼結して配線パターンや電極パターンからなる導体パターン(回路)20となる。そして、このように積層体17が加熱処理されることで、この積層体17は図1に示した積層基板32となる。
【0086】
ここで、積層体17の加熱温度としては、セラミックス成形体15中に含まれるガラス材料の軟化点以上とするのが好ましく、具体的には、600℃以上900℃以下とするのが好ましい。また、加熱条件としては、適宜な速度で温度を上昇させ、かつ下降させるようにし、さらに、最大加熱温度、すなわち前記の600℃以上900℃以下の温度では、その温度に応じて適宜な時間保持するようにする。
【0087】
このようにガラスの軟化点以上の温度、すなわち前記温度範囲にまで加熱温度を上げることにより、得られるセラミックス基板31のガラス成分を軟化させることができる。したがって、その後常温にまで冷却し、ガラス成分を硬化させることにより、積層基板32を構成する各セラミックス基板31と導体パターン20との間がより強固に固着するようになる。
また、このような温度範囲で加熱することにより、得られるセラミックス基板31は、900°以下の温度で焼結されて形成された、低温焼結セラミックス(LTCC)となる。
【0088】
ここで、セラミックス成形体15上に配されたインク1中の金属は、加熱処理によって互いに融着し、連続することによって導電性を示すようになる。
このような加熱処理によって導体パターン20は、セラミックス基板31中のコンタクト33に直接接続させられ、導通させられて形成されたものとなる。ここで、この導体パターン20が単にセラミックス基板31上に載っているだけでは、セラミックス基板31に対する機械的な接続強度が確保されず、したがって衝撃等によって破損してしまうおそれがある。しかしながら、本実施形態では、前述したようにセラミックス成形体15中のガラスを一旦軟化させ、その後硬化させることにより、導体パターン20をセラミックス基板31に対し強固に固着させている。したがって、形成された導体パターン20は、機械的にも高い強度を有するものとなる。
【0089】
なお、このような加熱処理により、導体パターン20Aについても前記導体パターン20と同時に形成することができ、これによってセラミックス回路基板(配線基板)30を得ることができる。
以上のようなセラミックス回路基板30の製造方法では、本発明の導体パターン形成用インクを使用しているため、得られる導体パターン20は、信頼性の高いものとなる。また、製造されるセラミックス回路基板30も、信頼性の高いものとなる。
【0090】
《液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置》
次に、上述した配線基板の製造方法に用いる液滴吐出装置(インクジェット装置)について図面を参照しつつ説明する。
図4は、液滴吐出装置(インクジェット装置)の概略構成を示す斜視図、図5は、液滴吐出ヘッドの概略構成を説明するための模式図である。図4において、X方向はベース130の左右方向であり、Y方向は前後方向であり、Z方向は上下方向である。
【0091】
液滴吐出装置(インクジェット装置)100は、基材S(セラミックス成形体15)上に導体パターン形成用インク1を吐出し、導体パターンを形成するための装置である。
液滴吐出装置100は、図4に示す液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド。以下、単にヘッドと呼ぶ)110と、ベース130と、テーブル140と、制御装置190と、テーブル位置決め手段170と、ヘッド位置決め手段180とを有している。
【0092】
ベース130は、テーブル140、テーブル位置決め手段170、およびヘッド位置決め手段180等の液滴吐出装置100の各構成部材を支持する台である。
テーブル140は、テーブル位置決め手段170を介してベース130に設置されている。また、テーブル140は、基材S(本実施形態ではセラミックス成形体15)を載置するものである。
【0093】
また、テーブル140の裏面には、ラバーヒータ(図示せず)が配設されている。テーブル140上に載置されたセラミックス成形体15は、その上面全体がラバーヒータにて所定の温度に加熱されるようになっている。
セラミックス成形体15に着弾したインク(導体パターン形成用インク)1は、その表面側から水系分散媒の少なくとも一部が蒸発する。このとき、セラミックス成形体15は加熱されているので、水系分散媒の蒸発が促進される。そして、セラミックス成形体15に着弾したインク1は、乾燥とともにその表面の外縁から増粘し、つまり、中央部に比べて外周部における固形分(粒子)濃度が速く飽和濃度に達することから表面の外縁から増粘していく。外縁の増粘したインク1は、セラミックス成形体15の面方向に沿う自身の濡れ広がりを停止するため、着弾径しいては線幅の制御が容易になる。
【0094】
セラミックス成形体15の加熱温度としては、例えば、40℃以上100℃以下で行うのが好ましく、50℃以上70℃以下で行うのがより好ましい。このような条件とすることにより、水系分散媒が蒸発した際に、クラックが発生するのをより効果的に防止することができる。
テーブル位置決め手段170は、第1移動手段171と、モータ172とを有している。テーブル位置決め手段170は、ベース130におけるテーブル140の位置を決定し、これにより、ベース130におけるセラミックスグリーンシート15の位置を決定する。
【0095】
第1移動手段171は、Y方向と略平行に設けられた2本のレールと、当該レール上を移動する支持台とを有している。第1移動手段171の支持台は、モータ172を介してテーブル140を支持している。そして、支持台がレール上を移動することにより、基材Sを載置するテーブル140は、Y方向に移動および位置決めされる。
モータ172は、テーブル140を支持しており、θz方向にテーブル140を揺動および位置決めする。
【0096】
ヘッド位置決め手段180は、第2移動手段181と、リニアモータ182と、モータ183、184、185とを有している。ヘッド位置決め手段180は、ヘッド110の位置を決定する。
第2移動手段181は、ベース130から立設する2本の支持柱と、当該支持柱同士の間に当該支持柱に支持されて設けられ、2本のレールを有するレール台と、レールに沿って移動可能でヘッド110を支持する支持部材(図示せず)とを有している。そして、支持部材がレールに沿って移動することにより、ヘッド110は、X方向に移動および位置決めされる。
【0097】
リニアモータ182は、支持部材付近に設けられており、ヘッド110のZ方向の移動および位置決めをすることができる。
モータ183、184、185は、ヘッド110を、それぞれα,β,γ方向に揺動および位置決めする。
以上のようなテーブル位置決め手段170およびヘッド位置決め手段180とにより、インクジェット装置100は、ヘッド110のインク吐出面115Pと、テーブル140上の基材Sとの相対的な位置および姿勢を、正確にコントロールできるようになっている。
【0098】
図5に示すように、ヘッド110は、インクジェット方式(液滴吐出方式)によってインク1をノズル(突出部)118から吐出するものである。本実施形態では、ヘッド110は、圧電体素子としてのピエゾ素子113を用いてインクを吐出させるピエゾ方式を用いている。ピエゾ方式は、インク1に熱を加えないため、材料の組成に影響を与えないなどの利点を有する。
【0099】
ヘッド110は、ヘッド本体111と、振動板112と、ピエゾ素子113とを有している。
ヘッド本体111は、本体114と、その下端面にノズルプレート115とを有している。そして、本体114を板状のノズルプレート115と振動板112とが挟み込むことにより、空間としてのリザーバ116およびリザーバ116から分岐した複数のインク室117が形成されている。
【0100】
リザーバ116には、図示せぬインクタンクよりインク1が供給される。リザーバ116は、各インク室117にインク1を供給するための流路を形成している。
また、ノズルプレート115は、本体114の下端面に装着されており、インク吐出面115Pを構成している。このノズルプレート115には、インク1を吐出する複数のノズル118が、各インク室117に対応して開口されている。そして、各インク室117から対応するノズル118に向かって、インク流路が形成されている。
【0101】
振動板112は、ヘッド本体111の上端面に装着されており、各インク室117の壁面を構成している。振動板112は、ピエゾ素子113の振動に応じて振動可能となっている。
ピエゾ素子113は、その振動板112のヘッド本体111と反対側に、各インク室117に対応して設けられている。ピエゾ素子113は、水晶等の圧電材料を一対の電極(不図示)で挟持したものである。その一対の電極は、駆動回路191に接続されている。
【0102】
そして、駆動回路191からピエゾ素子113に電気信号を入力すると、ピエゾ素子113が膨張変形または収縮変形する。ピエゾ素子113が収縮変形すると、インク室117の圧力が低下して、リザーバ116からインク室117にインク1が流入する。また、ピエゾ素子113が膨張変形すると、インク室117の圧力が増加して、ノズル118からインク1が吐出される。なお、印加電圧を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形量を制御することができる。また、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子113の変形速度を制御することができる。すなわち、ピエゾ素子113への印加電圧を制御することにより、インク1の吐出条件を制御し得るようになっている。
【0103】
制御装置190は、インクジェット装置100の各部位を制御する。例えば、駆動回路191で生成する印加電圧の波形を調節してインク1の吐出条件を制御したり、ヘッド位置決め手段180およびテーブル位置決め手段170を制御することにより基材Sへのインク1の吐出位置を制御する。
以上のようなインクジェット装置100を用いることにより、インク1を、セラミックス成形体15(基材S)上の所望する場所に所望の量、精度良く吐出し、配することができる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
例えば、前述した実施形態では、金属粒子を溶媒に分散してなる分散液として、コロイド液を用いる場合について説明したが、コロイド液でなくてもよい。
また、前述した実施形態では、導体パターン形成用インクは、銀粒子が分散したものとして説明したが、銀以外のものであってもよい。金属粒子に含まれる金属としては、例えば、銀、銅、パラジウム、白金、金、または、これらの合金等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。金属粒子が合金である場合、前記金属が主とするもので、多の金属を含む合金であってもよい。また、上記金属同士が任意の割合で混ざった合金であってもよい。また、混合粒子(例えば、銀粒子と銅粒子とパラジウム粒子とが任意の比率で存在するもの)が液中に分散したものであってもよい。これら金属は、抵抗率が小さく、かつ、加熱処理によって酸化されない安定なものであるから、これらの金属を用いることにより、低抵抗で安定な導体パターンを形成することが可能になる。
【0105】
例えば、前述した実施形態では、セラミックス成形体に導体パターン形成用インクを付与し、焼結することにより、セラミックス基板と導体パターンを形成するものとして説明したが、セラミックス成形体以外にインクを付与して導体パターンを形成するものであってもよい。導体パターンの形成に用いられる基板としては、基板としては特に限定されず、例えば、セラミックス焼結体、アルミナ焼結体、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ガラスエポキシ樹脂、ガラス等からなる基板等が挙げられる。また、セラミックス基板に直接導体パターン形成用インクを付与するものであってもよい。
【実施例】
【0106】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
[1]導体パターン形成用インクの調製
各実施例および各比較例における導体パターン形成用インクは、以下のようにして製造した。
【0107】
(実施例1)
10N−NaOH水溶液を3mL添加してアルカリ性にした水50mLに、クエン酸3ナトリウム2水和物17g、タンニン酸0.36gを溶解した。得られた溶液に対して3.87mol/L硝酸銀水溶液3mLを添加し、2時間攪拌を行い銀コロイド液を得た。得られた銀コロイド液に対し、導電率が30μS/cm以下になるまで透析することで脱塩を行った。透析後、3000rpm、10分の条件で遠心分離を行うことで、粗大金属コロイド粒子を除去した。
【0108】
この銀コロイド液に、炭素粉末(三菱化学社製、商品名「MA100」、平均粒径:0.024μm)、表1に示す糖アルコールと、ポリグリセリンと、アセチレングリコール系化合物としてのサーフィノール104PG−50(日信化学工業社製)およびオルフィンEXP4036(日信化学工業社製)とを添加し、さらに濃度調整用のイオン交換水を添加して調整し、導体パターン形成用インクとした。
【0109】
(実施例2〜9)
導体パターン形成用インクの調製に用いる材料の種類・使用量を表1に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして導体パターン形成用インクを調製した。
(比較例)
炭素粉末を添加しなかった以外は、前記実施例1と同様にして導体パターン形成用インクを製造した。
表1に各実施例および各比較例の導体パターン形成用インクの組成を示す。なお、表中、キシリトールをXY、ソルビトールをSB、マルトデキストリン(Mw:2000)をMD、還元マルトデキストリン(Mw:2500)をRMDと示した。
【0110】
【表1】

【0111】
[2]セラミックスグリーンシートの作製
まず、以下のようにしてセラミックスグリーンシート(セラミックス成形体)を用意した。
平均粒径が1〜2μm程度のアルミナ(Al)や酸化チタン(TiO)等からなるセラミックス粉末と、平均粒径が1〜2μm程度のSiO2−Al23−CaO−BaO−MgOガラス粉末とを1:1の重量比で混合し、バインダー(結合剤)としてポリビニルブチラール、可塑剤としてジブチルフタレートを加え、混合・撹拌することにより得たスラリーを、ドクターブレードでPETフィルム上にシート状に形成したものをセラミックスグリーンシートとし、厚さ80μm、1辺の長さを200mmとする正方形状に裁断したものを使用した。
【0112】
[3]セラミックス回路基板の作製および評価
各実施例および比較例で得られた導体パターン形成用インクを、それぞれ図4、5に示すようなインクジェット装置に投入した。
まず、上記導体パターン形成用インクを搭載した上記インクジェット装置を用いて描画を行い、インクが安定して吐出されることを確認した。
【0113】
次に、上記セラミックスグリーンシートを60℃に昇温保持した。各吐出ノズルからそれぞれ1滴当り15ngの液滴を順次吐出し、厚さが13μm、幅100μmの20本の櫛歯状を有する櫛型導体パターンを描画した。そして、この櫛型導体パターンが形成されたセラミックスグリーンシートを乾燥炉に入れ、60℃で30分間加熱して乾燥した。上記のようにして、ラインが形成されたセラミックスグリーンシートを第1のセラミックスグリーンシートとした。
【0114】
次に、第1のセラミックスグリーンシートに描画した櫛型導体パターンと対称となる櫛型導体パターンを、積層時に透過で考えた場合に、第1のセラミックスグリーンシート上に形成された櫛型導体パターンの導体幅が70μm、導体間隔が30μm、櫛型導体パターンの重ね代の長さが50mm、先端とショートバーの間隙が10mmとなるように配置して形成した。そして、この櫛型導体パターンが形成されたセラミックスグリーンシートを乾燥炉に入れ、60℃で30分間加熱して乾燥した。上記のようにして、ラインが形成されたセラミックスグリーンシートを第2のセラミックスグリーンシートとした。
【0115】
次に、別のセラミックスグリーンシートに上記の対となる各シートの櫛型導体パターンの両ショートバー位置上に機械式パンチ等によって孔開けを行うことで、各櫛型導体パターンにつき5箇所ずつ計10箇所に直径100μmのスルーホールを形成し、得られた各実施例および比較例の導体パターン形成用インクを充填することでコンタクト(ビア)を形成した。さらに、このコンタクト(ビア)上にショートバーと重なるように各櫛型導体パターンに対して10mm角のパターンを、得られた各実施例および比較例の導体パターン形成用インクを用いて上記液滴吐出装置を用いて端子部を形成した。この端子部が形成されたセラミックスグリーンシートを第3のセラミックスグリーンシートとした。
【0116】
次に、第1のセラミックスグリーンシート上に、第3のセラミックスグリーンシートに形成したコンタクト(ビア)と同位置かつ櫛型導体パターンの形成されていない位置のみに、機械式パンチ等によって孔開けを行うことで、計5箇所に直径100μmのスルーホールを形成し、得られた各実施例および比較例の導体パターン形成用インクを充填することでコンタクト(ビア)を形成した。
【0117】
次に、第3のセラミックスグリーンシートの下に第1のセラミックスグリーンシートを積層し、次に、第2のセラミックスグリーンシートを積層し、第2のセラミックスグリーンシートの下に無加工のセラミックスグリーンシートを補強層として3枚積層し、生の積層体を得た。
次に、生の積層体を、95℃の温度において、250kg/cmの圧力で30分間プレスした。
【0118】
その後、大気中において、平均昇温速度1.0℃/分(変化前の平均昇温速度)で約5時間かけて300℃まで昇温し、その後、平均昇温速度10.0℃/分(変化後の平均昇温速度)で約30分間かけて脱脂完了温度600℃まで昇温した。その後、4時間保持した後、5.0℃/分で最高温度(最大加熱温度)890℃まで昇温した。さらに、最高温度890℃で30分間保持した後、冷却して、セラミックス回路基板(配線基板)を得た。このようなセラミックス回路基板を10ブロック製造した。
【0119】
[4] マイグレーション評価
上記[3]で得られたセラミックス回路基板上の端子部表面上にニッケルめっき層を形成し、さらに金めっき層を形成させた。このようなニッケル/金めっき膜を実施例および比較例で製造した10個それぞれに形成した。次に、各セラミックス回路基板内の2層目(第1のセラミックスグリーンシート層)と3層目(第2のセラミックスグリーンシート層)に形成された櫛型導体パターンの両端子間にDC50Vの電圧が印加されるように、ニッケル/金めっき膜が形成された1層目(第2のセラミックスグリーンシート層)の端子部に電圧を印加した状態で、各試料を温度90℃、湿度85%の条件下で1000時間放置し、1000時間後の各試料の絶縁抵抗を測定した。本実験例では、絶縁抵抗が10Ω未満の試料を不良とし、それぞれ不良となった試料の数を求めた。
【0120】
[5]クラック発生率の評価
上記[3]で得られたセラミックス回路基板について、導体パターンと垂直方向に基板中央部にて破断し、断面をSEMで観察を行った。1本の導体パターンの破断面に対し、幅あるいは厚みが5μm以上の空隙をクラックと判断し、クラック発生率を評価した。なお、クラック発生率とは、第1のグリーンシート層上の櫛型導体パターン20本中で発生したクラック数を総数で除して得られる数値を示す。
A:10ブロック全てにおいてクラック発生率が0%であった。
B:10ブロック中クラック発生率が0%または、10%未満であった。(実用可。)
C:10ブロック全てにおいてクラック発生率が10%以上であった。(実用不可。)
これらの結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2に示すように、本発明の導体パターン形成用インクでは、吐出安定性に優れるものであった。また、本発明の導体パターン形成用インクを用いて形成された導体パターンおよび配線基板は、マイグレーション現象の発生が防止され、優れた導通率を示し、信頼性の高いものであった。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。
また、インク中における銀コロイド粒子の含有量を20wt%、30wt%に変更したところ、上記と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0123】
1…導体パターン形成用インク(インク) 10…導体パターン前駆体(前駆体) 15…セラミックス成形体(セラミックスグリーンシート) 16…コンタクト前駆体 17…積層体 2…多価アルコール含有インク 20、20A…導体パターン(回路) 21…パッド 22…配線 30…セラミックス回路基板(配線基板) 31…セラミックス基板 32…積層基板 33…コンタクト 100…インクジェット装置(液滴吐出装置) 110…インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド、ヘッド) 111…ヘッド本体 112…振動板 113…ピエゾ素子 114…本体 115…ノズルプレート 115P…インク吐出面 116…リザーバ 117…インク室 118…ノズル(突出部) 130…ベース 140…テーブル 170…テーブル位置決め手段 171…第1移動手段 172…モータ 180…ヘッド位置決め手段 181…第2移動手段 182…リニアモータ 183、184、185…モータ 190…制御装置 191…駆動回路 S…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出法により、基材上に導体パターンを形成するための導体パターン形成用インクであって、
金属粒子と、炭素粉末と、前記金属粒子および前記炭素粉末が分散する水系分散媒と、を含むことを特徴とする導体パターン形成用インク。
【請求項2】
前記炭素粉末の含有量は、0.1wt%以上7wt%以下である請求項1に記載の導体パターン形成用インク。
【請求項3】
前記炭素粉末を構成する炭素粒子の平均粒径は、0.01μm以上0.2μm以下である請求項1または2に記載の導体パターン形成用インク。
【請求項4】
糖アルコールまたは多糖類をさらに含む請求項1ないし3のいずれかに記載の導体パターン形成用インク。
【請求項5】
前記糖アルコールまたは多糖類の含有量は、3wt%以上20wt%以下である請求項3に記載の導体パターン形成用インク。
【請求項6】
導体パターン形成用インクは、前記金属粒子と前記金属粒子の表面に付着した分散剤とで構成された金属コロイド粒子が前記水系分散媒に分散したコロイド液である請求項1ないし5のいずれかに記載の導体パターン形成用インク。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の導体パターン形成用インクによって形成されたことを特徴とする導体パターン。
【請求項8】
請求項7に記載の導体パターンが備えられてなることを特徴とする配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−149119(P2012−149119A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6872(P2011−6872)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】