説明

導光体用スチレン系樹脂組成物及び導光体

【課題】均一に面発光が可能な高輝度導光体が得られるスチレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂を主成分とし、アントラキノン系化合物などの青色染料が、樹脂成分全質量に対して75〜140ppbの範囲で添加されたスチレン系樹脂組成物を成形加工して、導光体とする。この導光体では、例えば、一の端部に光源を配置し、任意の2点について色度を測定したとき、光源からの距離がaのときの色度yと、光源からの距離がbのときの色度yとの差(Δy=y−y。ただし、a>b。)を0〜0.004にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導光体用スチレン系樹脂組成物及びこの組成物により形成された導光体に関する。より詳しくは、導光体用スチレン系樹脂組成物における光学特性改善技術に関する。
【背景技術】
【0002】
導光体は、例えば端面から入射した光を内部で拡散して表面から出射するものであり、面発光が可能であることから、表示装置のバックライトや照明器具などに用いられている。このような導光体を形成する材料としては、可視光透過率が高いことから、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂が用いられている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0003】
また、近年、表示装置の薄型化及び大型化に伴い、導光体にも耐熱性や成形性の向上が求められている。そこで、従来、ポリカーボネート樹脂を用いることにより、耐熱性向上を図った導光体が提案されている(例えば、特許文献3,4参照。)。また、導光体材料として、アクリル系樹脂よりも耐熱性及び耐湿性に優れ、かつアクリル系樹脂やポリカーボネート樹脂に比べて安価なスチレン系樹脂を使用することも提案されている(例えば、特許文献5,6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−265530号公報
【特許文献2】特開2006−298966号公報
【特許文献3】特開2008−045141号公報
【特許文献4】特開2010−037380号公報
【特許文献5】特開2007−106991号公報
【特許文献6】特開2007−204535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来の導光体用樹脂材料には、以下に示す問題点がある。即ち、アクリル系樹脂を使用した導光体には、耐熱性が低く、また吸湿性が高いといった問題点がある。これらの問題点は、ポリカーボネート樹脂やスチレン系樹脂を使用することにより、ある程度は改善することができるが、例えばポリカーボネート樹脂を使用した場合、耐熱性は向上できるが、高温で成形加工する必要があり、更に吸湿性の点でも問題があり、寸法安定性が劣る。また、特許文献5,6に記載の技術は、アクリロニトリル−スチレン樹脂を使用するため、樹脂が黄色に着色しやすいといった問題点や、有機架橋微粒子などの高価な材料の添加を必要とするという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、均一に面発光が可能な高輝度導光体が得られるスチレン系樹脂組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る導光体用スチレン系樹脂組成物は、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂を主成分とし、樹脂成分全質量に対して青色染料を75〜140ppb含有する。
このスチレン系樹脂組成物では、青色染料としてアントラキノン系化合物が添加されていてもよい。
また、輝度を、青色染料を添加していない状態の90〜95%にすることができ、更に、色度のばらつきを0.004以下とすることができる。
【0008】
本発明に係る導光体は、前述したスチレン系樹脂組成物により形成したものである。
この導光体では、一の端部に光源を配置し、任意の2点について色度を測定したとき、光源からの距離がaのときの色度yと、光源からの距離がbのときの色度yとの差(Δy=y−y。ただし、a>b。)を0〜0.004とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、輝度の低下を最低限に抑えつつ、発光面のむらを低減しているため、均一に面発光が可能な高輝度導光体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例において、評価に用いた面状光源の構成を模式的に示す側面図である。
【図2】輝度及び色度の測定位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るスチレン系樹脂組成物について説明する。本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、導光体用材料であり、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂を主成分とし、樹脂成分全質量に対して青色染料を75〜140ppb含有する。
【0013】
[メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の主成分であるメチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂は、スチレンとメチルメタクリレートとの共重合体であり、透明性、耐吸湿性及び耐熱性に優れ、光学用途に好適な樹脂材料である。メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂における各単量体の割合は、特に限定されるものではないが、吸水性及び成形性の観点から、スチレン含有量が10〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜60質量%である。
【0014】
[その他の樹脂成分]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物には、樹脂成分として、前述したメチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂に加えて、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂、スチレン−メチルメタクリレート−無水マレイン酸共重合樹脂、スチレン−メチルメタクリレート−N−フェニルマレイミド共重合樹脂、スチレン−無水マレイン酸−N−フェニルマレイミド共重合樹脂などが配合されていてもよい。
【0015】
[青色染料:75〜140ppb]
各種樹脂組成物には、成形体としたときの色味の調整、特に黄色味を抑制するためにブルーイング剤が配合されることがあるが、本実施形態のスチレン系組成物では、色度のばらつきを抑制するために、青色染料を添加している。
【0016】
ただし、青色染料の添加量が、樹脂成分全質量に対して75ppb未満であると、色度のばらつきを十分に抑制することができない。一方、樹脂成分全質量に対して140ppbを超えて青色染料を添加すると、青味が増して輝度が低下し、導光体としたときの光学特性が不十分となる。よって、本実施形態のスチレン系樹脂組成物では、青色染料を、樹脂成分全質量に対して75〜140ppbの範囲で添加する。
【0017】
ここで、本実施形態のスチレン系樹脂組成物に添加される青色染料は、特に限定されるものではないが、例えばアントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、トリアリールメタン系化合物などを使用することができる。なお、これらの染料は、これらは単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。また、前述した青色染料の中でも、特に、分散性や入手しやすさなどの観点から、アントラキノン系化合物が好適である。
【0018】
[その他の成分]
なお、本実施形態のスチレン系樹脂組成物には、前述した各成分以外に、前述した効果を損なわない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、可塑剤、帯電電防止剤、鉱油及び難燃剤などの各種添加剤が添加されていてもよい。
【0019】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物では、青色染料を特定量添加しているため、輝度を低下させることなく、色度のばらつきを抑制することができる。これにより、輝度が青色染料を添加していない状態の90〜95%で、色度のばらつきが0.004以下の導光体用スチレン系樹脂組成物を実現することができる。
【0020】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る導光体について説明する。本実施形態の導光体は、前述した第1の実施形態のスチレン系樹脂組成物を成形して得たものである。その成形方法は、特に限定されるものではなく、射出成形、押出成形、圧縮成形及び真空成形などの各種成形方法を適用することができるが、形状安定性などの観点から、射出成形が好適である。
【0021】
本実施形態の導光体は、青色染料を特定量含有するスチレン系樹脂組成物により形成されているため、従来品と同程度の輝度を維持しつつ、発光面における色度差(Δy)を小さくすることができる。具体的には、一の端部に光源を配置し、任意の2点について色度を測定したとき、光源からの距離がaのときの色度yと、光源からの距離がbのときの色度yとの差(Δy=y−y。ただし、a>b。)を0〜0.004の範囲にすることができる。また、青色染料の添加による輝度の低下は、10%以下に抑えることができる。
【0022】
これにより、耐熱性及び耐吸湿性に優れ、均一に面発光が可能な高輝度導光体を実現することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、青色染料の含有量を変えて複数のスチレン系樹脂組成物を作製し、導光体としたときの光学特性(輝度・色度)を評価した。
【0024】
具体的には、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂(スチレン53質量%、メタクリル酸メチル47質量%、分子量16万)に、アントラキノン系青色染料(三菱化学株式会社製 Diaresin Blue−J)を所定量添加したものを、押出機(株式会社池貝製 F40)により220℃で押し出し、実施例1〜3及び比較例1〜4のスチレン系樹脂組成物のペレットを作製した。
【0025】
引き続き、実施例、比較例及び従来例の各樹脂組成物ペレットを、射出成形機(株式会社日本製鋼所製 J140AD−180H)にて230℃で成形し、縦127mm、横127mm、厚さ4mmの各板成形体を得た。次に、各成形体を、縦115mm、横85mm、厚さ4mmになるよう切削した後、端面に研磨加工を施した。更に、得られた切削体の一方の面に、評価の際に入射光源が設置される面から離れるに従い面積が大きくなるように、円形状のドットパターンを印刷し、導光体とした。
【0026】
また、比較のため、青色染料を添加していないメチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂(電気化学工業株式会社製 TX−800LF)を使用して、同様の方法で従来例の導光体を作製した。
【0027】
実施例、比較例及び従来例の各導光体の評価は、以下に示す方法で行った。図1は評価に用いた面状光源の構成を模式的に示す側面図である。図2は輝度及び色度の測定位置を示す図である。先ず、図1に示すように、前述した方法で作製した各導光体1に対して、ドットパターンの小さい側に光源2として、白色LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)を配置した。また、各導光体1のドットパターンを印刷した面側と光源2が配置されていない端面側に、反射シート3,4を配置すると共に、ドットパターンが印刷されていない面側に拡散シート5を配置して、評価用面状光源とした。
【0028】
そして、光源2である白色LEDを全て点灯させ、輝度計(トプコン株式会社製 BM−7)により、面状光源の面内計3点の法線方向における輝度及び色度を測定した。その際、輝度計と面状光源との距離は1m、輝度計の視野角は1°とした。また、測定点は、図2に示すように、幅方向中央で、かつ光源2からの距離が29mm、58mm、86mmの位置とした。
【0029】
「色度差(Δy)」は、光源2からの距離が86mmの点の色度y86mmと、距離が29mmの点の色度y29mmの差(y86mm−y29mm)として求めた。また、「輝度比(%)」は、図2に示す3点で測定した輝度値の平均値を平均輝度をし、(実施例及び比較例の導光体の平均輝度)/(青色染料を添加していない従来例の導光体での平均輝度)×100により算出した。これらの結果を下記表1にまとめて示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表1に示すように、本発明の範囲内で青色染料を添加した実施例1〜3の導光体は、色度差Δyが小さく、輝度比も高かった。これに対して、青色染料の添加量が本発明の範囲よりも少ない比較例1,2の導光体は、色度差Δyが大きかった。また、青色染料の添加量が本発明の範囲を超えていた比較例3,4の導光体は、青色に着色され、輝度比が大きく低下した。
【0032】
以上の結果から、本発明のスチレン系樹脂組成物を使用することにより、均一に面発光が可能な高輝度導光体が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0033】
1 導光体
2 光源
3、4 反射シート
5 拡散シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂を主成分とし、
樹脂成分全質量に対して青色染料を75〜140ppb含有する導光体用スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
青色染料としてアントラキノン系化合物が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の導光体用スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
輝度が、青色染料を添加していない状態の90〜95%である請求項1又は2に記載の導光体用スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
色度のばらつきが0.004以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導光体用スチレン系樹脂組成物
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を成形して得た導光体。
【請求項6】
一の端部に光源を配置し、任意の2点について色度を測定したとき、光源からの距離がaのときの色度yと、光源からの距離がbのときの色度yとの差(Δy=y−y。ただし、a>b。)が0〜0.004であることを特徴とする請求項5に記載の導光体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−82800(P2013−82800A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223219(P2011−223219)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】