説明

導出12誘導心電図の構築方法およびモニタリング装置

【課題】最小限の電極の装着をもって、多くの熟練を要することなく、標準12誘導心電図を構築する方法、および各種の心臓疾患に対する適正な診断および治療を行うためのモニタリング装置を提供する。
【解決手段】 四肢誘導の電極位置に対応して、それぞれ左右鎖骨の左右端下付近と、左右腋窩線上の左右最下肋骨の高さ付近に電極を装着し、これらからI、II誘導に相当する第1の心電図データセットを計測し、胸部誘導のV2、V4誘導の電極位置に電極を装着し、これらからV2、V4誘導からなる第2の心電図データセットを計測し、瞬時心起電力ベクトルを求めると共に、V1、V3、V5、V6誘導のリードベクトルを予め定め、V1、V3、V5、V6誘導からなる第3の心電図データセットを算出し、第1の心電図データセットから、 III、aVR、aVL、aVF誘導に相当する第4の心電図データセットを算出し、導出12誘導心電図を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の体表面に対し最小限の個数からなる電極を使用して、この電極を体表面の所定の部位に装着することにより、虚血性心疾患や急性心筋梗塞等の診断に有効な標準12誘導心電図と同等の導出12誘導心電図を構築することができる導出12誘導心電図の構築方法およびモニタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、病院等において、患者の心電図を検出測定ないし記録する場合、患者の胸部の6箇所および四肢の4箇所に対し、それぞれ合計10個の電極を装着している。そして、これら10個の電極から検出測定される心電位は、それぞれ心電図計等の計測手段により、標準12誘導の四肢6誘導波形(I、II、 III、aVR、aVL、aVF)を得ると共に、標準12誘導の胸部6誘導波形(V1、V2、V3、V4、V5、V6)を得ている。
【0003】
前述したように、従来の心電計等においては、10個の電極を使用することにより、各種の心臓疾患に対する診断および治療を適正に行うことができる標準12誘導波形からなる心電図を検出測定ないし記録することができるものである。このように多数の電極を使用して、患者の心臓疾患に対する診断および治療を行うことは、設備が完備された病院内等において患者を安静にしておく状態では可能である。しかし、在宅療養や救急医療を行う場合においては、患者の状態から見て多数の電極を使用しかつ各電極を生体の体表面上の適正な位置へそれぞれ装着する余裕がないばかりでなく、多数の誘導波形を多チャンネルの信号として伝送することも困難な状況であり、一般的に心電図の信号を伝送し得るのは1チャンネル(1つの誘導)程度であることから、せいぜい2〜4個の電極を使用して標準12誘導波形の内の幾つかの波形からなる心電図を検出測定することによって、心臓疾患に対する診断が行われている。
【0004】
また、従来において、少数の電極を使用して標準12誘導波形の心電図を検出ないし記録する手段として、例えば、生体の胸部体表面上の特殊な4部位(EASIの4電極)を使用して、それぞれ心電図を誘導し、これらの誘導された心電図信号を固定係数を用いて一旦ベクトル心電図へ換算し、さらに換算されたベクトル心電図から12誘導心電図へ変換を行うように構成したものも実施されている。すなわち、この種の心電図は、EASI誘導心電図として知られている。
【0005】
しかしながら、前述した従来のEASI誘導心電図の誘導方法においては、ある程度の12誘導心電図を近似することができるが、前記生体の胸部体表面上の特殊な4部位からの誘導は、臨床的には不慣れであることから、各電極のそれぞれ指定される部位へ適正に装着することが困難となり、心電図の検出精度に難点がある。また、前述したように、各電極から誘導された心電図信号から、12誘導心電図を得るための演算に際して、固定係数を使用して2回の変換(すなわちEASI誘導→ベクトル心電図、ベクトル心電図→12誘導心電図)を必要とするため、演算精度に問題を生じる場合があり、しかもいずれの誘導も12誘導としての実測値ではないため、信頼性に難点がある。
【0006】
一般に、12誘導心電図を得るための誘導波形とその測定部位および電位の関係は、表1に示す通りである。
【0007】
〔表1〕
I : vL−vR
II : vF−vR
III : vF−vL
aVR: vR−(vL+vF)/2
aVL: vL−(vR+vF)/2
aVF: vF−(vL+vR)/2
V1 : v1−(vR+vL+vF)/3
V2 : v2−(vR+vL+vF)/3
V3 : v3−(vR+vL+vF)/3
V4 : v4−(vR+vL+vF)/3
V5 : v5−(vR+vL+vF)/3
V6 : v6−(vR+vL+vF)/3
【0008】
しかるに、前述した従来のEASI誘導心電図の誘導方法においては、それぞれ電位を測定するためのEASI電極の装着位置が、前記表1に示す場合の各誘導波形の測定部位と異なる特殊な部位であるため、各電極の装着に際して所定部位への位置決め精度が測定結果に対して著しく影響を与えることとなり、作業に多くの熟練を要する等の不都合がある。また、設備が完備した病院内等で患者が安静における状態であっても、標準12誘導検査で使用する電極は数が多いので、患者への煩わしさや電極を貼る医療従事者の負担が大きいという問題があった。
【0009】
このような観点から、本出願人は、従来公知の標準12誘導心電図の誘導システムのサブセットを使用することにより、最小限の電極の装着と標準12誘導心電図の再構築とを、多くの熟練を要することなく、容易かつ高精度に行うことができると共に、各種の心臓疾患に対する適正な診断および治療を行うためのモニタリングを簡便かつ有効に達成することができる、標準12誘導心電図の構築方式および心電図検査装置を開発し、特許出願を行った(特許文献1参照)。
【0010】
すなわち、前記特許文献1には、最小限のチャンネル数からなる誘導システムのサブセットとして、標準12誘導心電図を得る場合の四肢誘導またはML誘導のI、II誘導と、胸部誘導の2つの誘導であるV1誘導および、V5誘導またはV6誘導とを使用し、III誘導とaV誘導(aVR誘導、aVL誘導、aVF誘導)が前記表1に示す各誘導の固有関係に基づいて演算により求められる。また、前記胸部誘導の残りの誘導であるV2誘導、V3誘導、V4誘導、V6誘導またはV5誘導は、電位マトリックス・誘導ベクトル・心臓ベクトルの関係から、演算により求めることができることが開示されている。
【0011】
ここで、I、II誘導波形を検出するための電極としては、四肢誘導であれば左右腕部(LA、RA)と左右下肢(LL、RL)、ML誘導であれば左右鎖骨下(LA、RA)と左右の前腸骨棘あるいは左右肋骨弓の下端部(LL、RL)の4箇所に設ける。この場合、RLを接地電極とする。また、胸部誘導の2誘導(V1、V6またはV5)の誘導波形を検出するための電極としては、第4肋間胸骨右縁位置(V1)と第5肋間左鎖骨中線上のレベルで左中腋窩線上の位置(V6)または第5肋間左鎖骨中線上のレベルで左前腋窩線上の位置(V5)の2個所に設ける。これにより、標準12誘導心電図の誘導システムのサブセットを検出測定し、その他の標準12誘導心電図の誘導については、それぞれ前記表1に示す各誘導の固有関係に基づいて演算により求めることができる。
【0012】
このようにして得られる標準12誘導心電図は、従来の標準12誘導心電図の誘導システムのサブセットを使用することから、各電極の装着に際してそれぞれ所定部位への位置決めを容易かつ確実に行うことが可能であり、作業に多くの熟練を要することなく、高精度の標準12誘導心電図を再構築することができ、各種の心臓疾患に対する診断および治療を適正に行うことができる。
【0013】
【特許文献1】特開2002−34943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述したように、救急現場等において傷病者が、胸の痛みや胸苦しさ等、狭心症や心筋梗塞を疑わせる症状を訴えたときには、救急救命士や循環器専門医が12誘導心電図における虚血性ST変化の有無を判断し、必要な場合には傷病者をCCU等の設備の整った循環器専門病院に速やかに搬送することが傷病者の救命率を高めることに繋がることは明らかである。
従って、前述したような従来公知の標準12誘導心電図の誘導をできるだけ簡略化し、狭心症や心筋虚血を判断できる精度を有し、最小限の電極を使用して、しかも電極をより装着し易くすることができる標準12誘導心電図と同等の12誘導心電図を構築することができることが要望される。
【0015】
しかるに、前記特許文献1に開示される標準12誘導心電図の構築方式においては、標準12誘導心電図の誘導システムのサブセットを使用し、瞬時心起電力ベクトル(ハートベクトル)を求め、未知の誘導の心電図電位を前記瞬時心起電力ベクトルから算出するものである。この構築方式によれば、四肢誘導電極を、両手首、両足首の代りに、運動負荷心電図で使用されるML誘導の位置に装着するものである。すなわち、これらの電極位置は、運動時に腕の動きの影響を受けないように腕の付け根よりも内側となっており、両手首と心臓を結ぶ電気的な導線から少しずれているので、このずれは未知の誘導の心電図を計算する際に、リードベクトルの誤差となり得る。
【0016】
また、前記特許文献1に開示される標準12誘導心電図の構築方式においては、胸部誘導を導出するための電極の組合せとして、V1とV5誘導あるいはV1とV6誘導を選択しているが、これらの誘導の電気的角度は180度に近いため、瞬時心起電力ベクトルと前記一方の誘導のリードベクトルとの電気的角度が小さいときは、前記他方の誘導のリードベクトルとの電気的角度が大きくなり、瞬時心起電力ベクトルを計算する際に誤差となる可能性がある。
【0017】
そこで、本発明者は種々検討を重ねた結果、標準12誘導心電図の四肢誘導の電極位置である左右手首と左右足首にそれぞれ相当する位置として、左右鎖骨の左右端下付近と左右腋窩線上の左右最下肋骨の高さ付近とに、それぞれ適宜設定することにより、電極の位置が両手首と心臓を結ぶ電気的な導線上となり、標準12誘導心電図の四肢誘導との誤差を小さくすることができることを突き止めた。また、標準12誘導心電図の胸部誘導の電極位置としてV2とV4誘導を選択することにより、前記四肢誘導から計測されるI、II誘導と併せて、瞬時心起電力ベクトルの方向と、未知のV1、V3、V5、V6誘導のリードベクトルとにより、得られる電気的角度の総和が全体として小さくなり、誤差を最小限に抑えることができることを突き止めた。
【0018】
すなわち、本発明によれば、標準12誘導心電図の四肢誘導の電極位置に相当する位置および胸部誘導に相当する位置を、前記のように設定することにより、例えば、計算により算出したV1、V3、V5、V6誘導の心電図と、同じ傷病者を標準12誘導心電図で計測したV1、V3、V5、V6誘導の心電図との間に、誤差が生じたとしても、標準12誘導心電図に相当するI、II、 III、aVR、aVL、aVF、V2、V4誘導の心電図に現れたST波形の上昇や降下等の変化と、計算で算出したV1、V3、V5、V6誘導の心電図とを併せて、総合的に判断することにより、狭心症や心筋虚血の疑いを容易に判定することが可能となる。
【0019】
従って、本発明の目的は、標準12誘導心電図の四肢誘導の電極位置を適正な位置に移動設定すると共に、胸部誘導に相当する電極位置としてV2とV4誘導の位置を選択することにより、最小限の電極の装着をもって、多くの熟練を要することなく、標準12誘導心電図に相当する心電図データセットを容易かつ高精度に得ることができ、各種の心臓疾患に対する適正な診断および治療を行うためのモニタリングを簡便かつ有効に達成することができる導出12誘導心電図の構築方法およびモニタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の導出12誘導心電図の構築方法は、
標準12誘導心電図の四肢誘導の電極位置に対応して、それぞれ左右鎖骨の左右端下付近と、左右腋窩線上の左右最下肋骨の高さ付近に電極を装着し、これら4つの電極から標準12誘導心電図のI、II誘導に相当する第1の心電図データセットを計測し、
標準12誘導心電図の胸部誘導のV2、V4誘導の電極位置に電極を装着し、これら2つの電極位置から標準12誘導心電図のV2、V4誘導からなる第2の心電図データセットを計測し、
前記計測された第1の心電図データセットと第2の心電図データセットおよび予め定めたI、II、V2、V4誘導のリードベクトルから瞬時心起電力ベクトルを求めると共に、前記瞬時心起電力ベクトルと標準12誘導心電図の胸部誘導の未知のV1、V3、V5、V6誘導の心電図を計算するための前記V1、V3、V5、V6誘導のリードベクトルを予め定め、
前記瞬時心起電力ベクトルと前記V1、V3、V5、V6誘導のリードベクトルとから、前記胸部誘導のV1、V3、V5、V6誘導からなる第3の心電図データセットを算出し、
前記第1の心電図データセットから、標準12誘導心電図の III、aVR、aVL、aVF誘導に相当する第4の心電図データセットを算出し、
前記第1の心電図データセット、第2の心電図データセット、第3の心電図データセットおよび第4の心電図データセットに基づいて、導出12誘導心電図を構築することを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項2に記載の導出12誘導心電図の構築方法は、前記第3の心電図データセットの計算に使用する瞬時心起電力ベクトルを求めるための、前記I、II、V2、V4誘導のリードベクトルを、予め別々のリードベクトルとして規定し、
前記リードベクトルのベクトル構成要素のうち、方向の成分は全部同じに定めると共に、大きさの成分を前記I、II、V2、V4誘導と計算する未知の前記V1、V3、V5、V6誘導との電気的角度によって最適化して定めることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項3に記載の導出12誘導心電図のモニタリング装置は、生体表面に対し、標準12誘導心電図の四肢誘導に相当する位置に装着する4つの電極および胸部誘導のV2、V4誘導の位置に装着する2つの電極と、
これら複数の電極によって心電図の電位を計測する電位検出器と、
前記電位検出器により計測された電位から標準12誘導心電図のI、II、 III、aVR、aVL、aVF、V2、V4誘導の心電図波形データを演算する演算増幅器と、
前記演算増幅器により得られた心電図波形データに基づいて標準12誘導心電図の未知のV1、V3、V5、V6誘導の心電図波形データを計算する心電図波形計算器と、
前記演算増幅器により得られたI、II、 III、aVR、aVL、aVF、V2、V4誘導の心電図波形データと前記心電図波形計算器により得られたV1、V3、V5、V6誘導の心電図波形データとを表示する導出12誘導心電図表示器と、
から構成してなる請求項1または2記載の導出12誘導心電図の構築方法を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1に記載の導出12誘導心電図の構築方法によれば、生体の正面に対して、垂直方向の誘導を意味するI、II誘導の電極位置が、標準12誘導心電図の四肢誘導に相当する左右鎖骨の左右端下付近と、左右腋窩線上の左右最下肋骨の高さ付近とにそれぞれ設定することにより、極めて特定し易い位置となるばかりでなく、各電極の位置が両手首と心臓を結ぶ電気的な導線上となり、標準12誘導心電図の四肢誘導との誤差を小さくすることが可能となる。
【0024】
また、水平方向の誘導を意味する胸部誘導の電極位置についても、V2、V4誘導を選択することによって、V2誘導の電極位置が第4肋間胸骨左端、V4誘導の電極位置が第5肋間と鎖骨中線との交点となり、胸部誘導の中でも最も特定し易い位置であると共に、心室細動を起生した傷病者に除細動を行うためのパッド電極を装着する位置を確保することができ、しかも前記四肢誘導から計測されるI、II誘導と併せて、瞬時心起電力ベクトルの方向と、未知のV1、V3、V5、V6誘導のリードベクトルとにより、得られる電気的角度の総和が全体として小さくなり、誤差を最小限に抑えることができる等の利点を有する。
【0025】
さらに、前記V2、V4誘導は、V3誘導と共に心臓の中心から体表面に伝わる電気的な感度が、胸部誘導の中では高く、I、II誘導と直角に近い角度をなすため、傷病者の体格や電極の装着位置の誤差を最小にしつつ瞬時心起電力ベクトルを算出するために、最適な組合せとなっている。
【0026】
本発明の請求項2に記載の導出12誘導心電図の構築方法によれば、前述したV2、V4誘導を選択することにより、瞬時心起電力ベクトルを求めるために使用する未知のV1、V3、V5、V6誘導のリードベクトルを、平均的な体格のモデルの心臓位置と電極位置から規定する場合において、それらのリードベクトルの大きさすなわち瞬時心起電力が生体を伝わり体表面に現れる際の感度を、未知の誘導のリードベクトルと、心電図データセットを計算する際に使用するI、II、V2、V4誘導のリードベクトルがなす電気的な角度の関係から、最適化して定義することができ、傷病者の体格や電極の装着位置、体位変換による心臓位置のずれ等による心電図合成の誤差を最小にすることができる。
【0027】
本発明の請求項3に記載の導出12誘導心電図の構築方法を使用するモニタリング装置によれば、最小限の電極の装着により、多くの熟練を要することなく、標準12誘導心電図セットに相当する心電図データを容易かつ高精度に得ることができ、各種の心臓疾患に対する適正な診断および治療を行うためのモニタリングを簡便かつ有効に達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明に係る導出12誘導心電図の構築方法およびモニタリング装置の実施例につき、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0029】
(A)本発明の基本原理
本発明に係る導出12誘導心電図を構築するため理論的根拠は次の通りである。臨床心電図では、誘導理論(Lead Theory)によって、前記表1に基づく電位を検出することにより、標準12誘導心電図を構築している。この理論によると、任意時刻の瞬時心起電力は、図5に示すように、固定位置の双極子(ダイポール)で表現することができ、任意の誘導個所における電位(V)は、次式で求めることができる。
【0030】
V=L・H … (1)
但し、Vは電位マトリックス、Hは瞬時心起電力ベクトル(ハートベクトル)、Lはリードベクトル(誘導ベクトル)をそれぞれ示す。
【0031】
しかるに、人の誘導ベクトルLは、既に1953年にフランク(Frank)により疑似人体モデルで測定され、現在のベクトル心電図の基礎として、その有効性は認められている。また、瞬時心起電力ベクトルHは、位置固定の空間ベクトルであるから、3つの独立パラメータしか持っていない。そこで、このような空間情報を持つ3つ以上の誘導から、瞬時心起電力ベクトルHのパラメータを解くことが可能である。一旦、瞬時心起電力ベクトルHが求められれば、残りの12誘導における電位も瞬時心起電力ベクトルHとリードベクトルLを使用することによって算出することができる。
【0032】
例えば、四肢誘導の2誘導(I、II)と、胸部誘導の2誘導(V2、V4)を測定して、瞬時心起電力ベクトルHを求め、胸部誘導の他の誘導(V1、V3、V5、V6)の電位を算出する方法は、次のよう設定することができる。
【0033】
V1=L1・H
V3=L3・H
V5=L5・H
V6=L6・H … (2)
【0034】
上記式(2) は一般式L・H=Vを示すものである。瞬時心起電力ベクトルHは、次式(3) により求めることができる。なお、Tはベクトルの転置である。
【0035】
H=(LTL)-1T V … (3)
【0036】
(B)導出12誘導心電図の構築方法
次に、前述した本発明の基本原理に基づき、導出12誘導心電図を構築する方法の実施例について説明する。図1は、本実施例における導出12誘導心電図のモニタリング装置により、心電図データセットとしての心電図波形データを得るために、生体表面に装着する電極のそれぞれ配置例を示すものである。本実施例においては、図示のR、L、F、N、C2、C4の位置に、それぞれ電極を配置する。
【0037】
この場合、図1において、R、L、F、Nは、標準12誘導心電図の四肢誘導に相当する誘導を得るものであって、標準12誘導心電図を得るための右手首、左手首、右足首、左足首に対する電極位置を、それぞれ右鎖骨右端下付近、左鎖骨左端下付近、右前腋窩線上で右最下肋骨の高さ付近、左前腋窩線上で左最下肋骨の高さ付近へ、それぞれ移動させて設定している。なお、前記Nは接地電極とする。
【0038】
これらの電極位置R、L、F、Nは、標準12誘導心電図の四肢誘導を得るための電極位置である手首や足首の位置を、手首および足首と心臓を結んだ電気的な線上で、電極を装着し易い胸部にそれぞれ移動させて設定しているため、標準12誘導心電図の四肢誘導により設定された電極により測定するI、II、 III、aVR、aVL、aVFと同等の心電図データセットとしての心電図波形データを得ることができる。
【0039】
また、図1において、C2、C4は、標準12誘導心電図の胸部誘導のV2、V4誘導の電極位置と同じ電極位置を示すものである。従って、この電極位置C2、C4に電極を装着することにより、標準12誘導心電図のV2、V4誘導に相当する心電図データセットとしての心電図波形データを測定することができる。
【0040】
このようにして、前記各電極位置R、L、F、N、C2、C4に装着される電極により、標準12誘導心電図と同等ないし相当する心電図波形データ(I、II、V2、V4)を使用して、前述した瞬時心起電力ベクトルHを求め、前記式(2) により、前記標準12誘導心電図の胸部誘導の他の誘導(V1、V3、V5、V6)に相当する電位を算出し、本発明の導出12誘導心電図を構築する。
【0041】
また、前記式(3) において、瞬時心起電力ベクトルHは、I、II、V2、V4誘導のリードベクトルと、I、II、V2、V4誘導の電極から計測される電位から求められ、次いで前記式(2) を使用して、未知の各誘導(V1、V3、V5、V6)の心電図波形を計算する。この時、傷病者の体格や電極の装着位置、体位変換による心臓位置のずれやリードベクトルの個人差等による心電図の合成による誤差を最小にするため、算出する未知の誘導(V1、V3、V5、V6)のリードベクトルと、I、II、V2、V4誘導のリードベクトルとによる、電気的な角度を考慮して、前記I、II、V2、V4誘導のリードベクトルの大きさを最適化(L1、L3、L5、L6)し、それぞれの未知の誘導に対応する瞬時心起電力ベクトルを求め、さらに瞬時心起電力ベクトルの平均から各該当の心電図波形を計算する。
【0042】
図2は、心筋梗塞の患者の安静時における標準12誘導心電図波形(I、II、 III、aVR、aVL、aVF、V1、V2、V3、V4、V5、V6)を測定した場合のそれぞれの心電図波形を示すものである。そして、この患者に対して、前述した本発明の実施例に基づいて、I、II、V2、V4誘導の電位を測定して、胸部誘導の他の誘導(V1、V3、V5、V6)の電位を演算式に基づいて算出したところ、図3に示すような結果が得られた。しかるに、図2に示す標準12誘導心電図の実測値と、図3に示す計算により合成した誘導(V1、V3、V5、V6)を含む導出12誘導心電図とを比較すると、共に心筋梗塞の疑いを確認することができることが判る。
【0043】
(C)導出12誘導心電図のモニタリング装置
図6は、前述した導出12誘導心電図の構築方法を使用するモニタリング装置のシステム構成を示すものである。すなわち、図6において、参照符号10は電位検出器を示し、図1に示す生体の体表面に配置した各電極(R、L、F、N、C2、C4)により、標準12誘導心電図の四肢誘導に相当する2誘導(I、II)と、胸部誘導の2誘導(V2、V4)の電位をそれぞれ測定するように構成される。また、参照符号11は演算増幅器を示し、前記電位検出器10により検出測定された電位に基づいて心電図波形データを演算増幅し、心電図波形計算器12へ入力すると共に、心電図波形計算器12から出力された合成心電図波形データと、前記演算増幅器11から出力された心電図波形データとを併せて、導出12誘導心電図とし、導出12誘導心電図表示器13により表示するように構成されている。
【0044】
従って、このように構成した導出12誘導心電図のモニタリング装置によれば、病院内等におけるICU、CCU等でのベッドサイドや、在宅療養時、救急治療時、運動時等の場合のように、標準12誘導心電図を測定し難い状態の時には、適正かつ有効な標準12誘導心電図に相当する導出12誘導心電図のモニタリングを達成することができる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は前述した実施例に限定されることなく、本発明の精神を逸脱しない範囲内において、多くの設計変更を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る導出12誘導心電図の構築方法における誘導電極の配置例を示す説明図である。
【図2】標準12誘導心電図の誘導電極の配置により測定された標準12誘導心電図を示す心電図波形図である。
【図3】本発明に係る導出12誘導心電図の構築方法により求められた心電図波形図である。
【図4】標準12誘導心電図における四肢誘導と胸部誘導との解剖学的な位置関係を示す説明図である。
【図5】心筋に発生した起電力を合成した瞬時心起電力ベクトルを示す説明図である。
【図6】本発明に係る導出12誘導心電図のモニタリング装置のシステム構成図である。
【符号の説明】
【0047】
10 電位検出器
11 演算増幅器
12 心電図波形計算器
13 導出12誘導心電図表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準12誘導心電図の四肢誘導の電極位置に対応して、それぞれ左右鎖骨の左右端下付近と、左右腋窩線上の左右最下肋骨の高さ付近に電極を装着し、これら4つの電極から標準12誘導心電図のI、II誘導に相当する第1の心電図データセットを計測し、
標準12誘導心電図の胸部誘導のV2、V4誘導の電極位置に電極を装着し、これら2つの電極位置から標準12誘導心電図のV2、V4誘導からなる第2の心電図データセットを計測し、
前記計測された第1の心電図データセットと第2の心電図データセットおよび予め定めたI、II、V2、V4誘導のリードベクトルから瞬時心起電力ベクトルを求めると共に、前記瞬時心起電力ベクトルと標準12誘導心電図の胸部誘導の未知のV1、V3、V5、V6誘導の心電図を計算するための前記V1、V3、V5、V6誘導のリードベクトルを予め定め、
前記瞬時心起電力ベクトルと前記V1、V3、V5、V6誘導のリードベクトルとから、前記胸部誘導のV1、V3、V5、V6誘導からなる第3の心電図データセットを算出し、
前記第1の心電図データセットから、標準12誘導心電図の III、aVR、aVL、aVF誘導に相当する第4の心電図データセットを算出し、
前記第1の心電図データセット、第2の心電図データセット、第3の心電図データセットおよび第4の心電図データセットに基づいて、導出12誘導心電図を構築することを特徴とする導出12誘導心電図の構築方法。
【請求項2】
前記第3の心電図データセットの計算に使用する瞬時心起電力ベクトルを求めるための、前記I、II、V2、V4誘導のリードベクトルを、予め別々のリードベクトルとして規定し、
前記リードベクトルのベクトル構成要素のうち、方向の成分は全部同じに定めると共に、大きさの成分を前記I、II、V2、V4誘導と計算する未知の前記V1、V3、V5、V6誘導との電気的角度によって最適化して定めることを特徴とする請求項1記載の導出12誘導心電図の構築方法。
【請求項3】
生体表面に対し、標準12誘導心電図の四肢誘導に相当する位置に装着する4つの電極および胸部誘導のV2、V4誘導の位置に装着する2つの電極と、
これら複数の電極によって心電図の電位を計測する電位検出器と、
前記電位検出器により計測された電位から標準12誘導心電図のI、II、 III、aVR、aVL、aVF、V2、V4誘導の心電図波形データを演算する演算増幅器と、
前記演算増幅器により得られた心電図波形データに基づいて標準12誘導心電図の未知のV1、V3、V5、V6誘導の心電図波形データを計算する心電図波形計算器と、
前記演算増幅器により得られたI、II、 III、aVR、aVL、aVF、V2、V4誘導の心電図波形データと前記心電図波形計算器により得られたV1、V3、V5、V6誘導の心電図波形データとを表示する導出12誘導心電図表示器と、
から構成してなる請求項1または2記載の導出12誘導心電図の構築方法を使用することを特徴とする導出12誘導心電図のモニタリング装置。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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