説明

導水管、橋構造物及び導水管の製造方法

【課題】曲げた状態で設置することが可能であり、養生中の排水を制御することによってコンクリートの凝固成分の流出を抑制しつつ養生後はコンクリート構造物の劣化に伴う浸透水の排水が可能な導水管を提供する。
【解決手段】導水管20は、線材間に空隙が形成された構成の基管22と、微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成され、基管22を覆う通水制御シート24と、を備え、通水制御シート24を通してコンクリート構造物内から基管22内に浸透した水を外部に排出する。通水制御シート24は帯状体によって構成されるものである。通水制御シート24は、前記帯状体の幅方向両端部が互いに重ね合わされながら基管22の軸方向に沿った状態で基管22に巻き付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物に埋設されて使用されるフレキシブルな導水管、当該導水管が埋設された橋構造物及び導水管の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の内部に埋設されて使用され、コンクリートが硬化する際の余剰水及び浸透水(以下、両者を併せて浸透水と称する)の排水を行うための導水管として、側面に多数の孔が設けられた有孔の中空金属管が知られている。この中空金属管は柔軟性がなく、設置に手間取ること、及び側面に比較的大きな多数の孔が形成されているため、打設した硬化前のコンクリートが導水管内に進入し易く、目詰まりし易いこと(導水機能阻害)をその問題点として有している。なお、このような導水管は、浸透水等を効率的に排出することができるように、コンクリート構造物の内部において浸透水等が滞留しやすい場所、例えば、橋梁やビルの鋼床版(デッキプレート)上に置かれてコンクリートに埋設される。
【0003】
上記のような問題を解決するものとして、曲げ自在性を有する(すなわち、柔軟性を有する)とともに、目詰まり防止機能を有する導水管が知られている(下記特許文献1及び2参照)。例えば、特許文献1には、ステンレス鋼材製のスプリング管の周囲に繊維層カバーを設けた導水管が開示されている。また、特許文献2には、樹脂モノフィラメントと繊維が交互に組み合わさって編組されたメッシュ管による導水管が開示されている。そして、特許文献1及び2に開示された導水管は、柔軟性を有する点とカバー層による硬化前コンクリートの流入防止効果を有する点において、使用現場において評価を受けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3094202号公報
【特許文献2】特開2009−68146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、強度のあるコンクリート構造物を形成するには、適正な水分の下で養生されることが重要である。しかしながら、特許文献1及び2に開示された導水管では、コンクリート自体の流入を防止できるものの、排水能力に主眼がおかれており、早期の脱水(養生中の排水)により凝固成分が流出してしまうため、いわゆるジャンカ現象が生じるという問題が残されている。
【0006】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、曲げた状態で設置することが可能であり、養生中の排水を制御することによってコンクリートの凝固成分の流出を抑制しつつ養生後はコンクリート構造物の劣化に伴う浸透水の排水が可能な導水管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明は、コンクリート構造物に埋設されて使用される可撓性を有する導水管であって、線材間に空隙が形成された構成の基管と、微細な多穿孔を有する樹脂シート又は微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成され、前記基管を覆う通水制御シートと、を備え、前記通水制御シートを通して前記コンクリート構造物内から前記基管内に浸透した水を外部に排出する、導水管である。
【0008】
本発明による導水管では、通水制御シートが微細な多穿孔を有する樹脂シート又は微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成されているため、コンクリートの養生中において、凝固成分が基管内に浸透することを抑制することができる。このため、コンクリートが乾燥するまでに凝固成分が流出してしまうことを抑制することができ、コンクリート構造物にいわゆるジャンカ現象が生ずることを抑制することができる。したがって、養生中における排水を制御しつつ、養生後はコンクリート構造物の劣化に伴う浸透水の排水をすることにより、劣化の進行を遅らせることができる。また、この導水管は可撓性を有しているので、自在に曲げて設置することが可能である。また、制御シートとして、微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成されたものが使用される場合には、基管内が目詰まりしている場合でも、毛細管現象により繊維シートを伝って浸透水を外部に導くことが可能となる。したがって、基管内が目詰まりしてしまうという施工不良が発生した場合でも、養生後の排水機能を確保することができるようになる。なお、ここでいう「コンクリート」は、モルタルも含む総称した概念である。したがって、「コンクリート構造物」には、コンクリートで構成される構造物だけでなく、一部にモルタルが用いられている構造物も含まれる。
【0009】
前記導水管において、前記通水制御シートが帯状体によって構成されていてもよく、この場合には、前記通水制御シートは、前記帯状体の幅方向両端部が互いに重ね合わされるように前記基管に螺旋状に巻き付けられ、又は前記帯状体の幅方向両端部が互いに重ね合わされながら前記基管の軸方向に沿った状態で前記基管に巻き付けられているのが好ましい。
【0010】
この態様では、通水制御シートを基管に連続的に巻き付けていくことが可能となるため、導水管を製造しやすいものとなる。特に、帯状体の幅方向両端部が基管の軸方向に沿った状態で配設された構成の場合には、帯状体を基管に巻き付ける装置を簡素なものとすることができ、導水管をより製造しやすいものとなる。また、導水管として可撓性が損なわれることがなく、導水管にフレキシビリティを持たせることができる。また、螺旋状に巻き付けられた構成では、導水管が曲げられて使用される場合においても、帯状体同士の間に間隙ができるような口開きが起こり難くすることができる。
【0011】
前記通水制御シートは、水頭差20mmにおける通水量が0.03〜1.0リットル/h・cmであるのが好ましい。
【0012】
この態様では、ジャンカ現象が生じることを回避するために最適な通水制御シートとすることができる。すなわち、通水量が0.03リットル/h・cm未満であれば、養生後の排水機能が十分に発揮されないこととなり、また通水量が1.0リットル/h・cmを超えるものであれば、養生中における排水が抑制できるとは言えず、ジャンカ現象を回避し難くなってしまう。
【0013】
前記導水管において、編組された構成であり、前記通水制御シートに外側から密着した外層をさらに備えていてもよい。
【0014】
この態様では、外層によって通水制御シートを保護することができる。しかも編組された構成の外層によって通水制御シートを均一に押さえることができる。また、通水制御シートが帯状体を巻き付けた構成である場合には、導水管を曲げて使用した場合でも、帯状体間に間隙ができるような口開きを防止することができる。また、通水制御シートが帯状体を巻き付けた構成である場合には、接着剤を使って帯状体を固定する必要がなくなるため、導水管のフレキシビリティ(可撓性)を確保しやすくすることができる。
【0015】
前記基管は、線材間に空隙が形成されるように螺旋巻回されてなるスパイラル管、又は、線材間に空隙が形成されるように線材が編組されてなるメッシュ管によって構成されていてもよい。
【0016】
この態様では、導水管のフレキシビリティ(可撓性)を確保し易くすることができる。
【0017】
前記基管は、樹脂モノフィラメントのみが編組されてなるメッシュ管、又は樹脂モノフィラメントと繊維材とが交互に編組されてなるメッシュ管によって構成されていてもよい。
【0018】
この態様では、樹脂モノフィラメントによる管状メッシュがフレキシブルでコンクリートの打設荷重に耐えうる中空管構造を形成することができる。また燃焼可能な樹脂線材および繊維材のみで形成されるため、コンクリートの解体再生時においては、燃焼分解によって分別を容易に為すことができる。
【0019】
前記導水管は、コンクリートの打設時に埋設され、前記通水制御シートによって養生中の排水を制御し、液体に含まれる凝固成分の前記基管内への浸透を抑制する一方、養生後においてコンクリートの劣化に伴う浸透水を排水することによって劣化の進行を遅らせるのが好ましい。
【0020】
本発明は、前記導水管が、橋梁構造物内、橋脚構造物内又は橋梁構造物と橋脚構造物との接合部内に埋設されている橋構造物である。
【0021】
本発明は、線材間に空隙が形成された構成の基管に、微細な多穿孔を有する樹脂シート又は微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成された通水制御シートを被せる、前記導水管の製造方法である。
【0022】
前記通水制御シートが帯状体によって構成されものであり、編組された構成の外層を備えている場合には、前記製造方法では、前記帯状体及び前記外層を同時に前記基管に巻き付けながら、前記基管の外側に前記通水制御シートを配置させ、その上に前記外層を配置させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明による導水管によれば、曲げた状態で設置することが可能であり、しかも、養生中の排水を制御することによってコンクリートの凝固成分の流出を抑制しつつ養生後はコンクリート構造物の劣化に伴う浸透水の排水が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る導水管が適用された橋構造物を概略的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る導水管の構成を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係る導水管を製造するための装置を概略的に示す図である。
【図4】前記装置に設けられたリング体を斜め下から見たときの図である。
【図5】本発明のその他の実施形態に係る導水管に採用される基管の構成を説明するための図である。
【図6】試験体を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る導水管20は、橋構造物10に埋設されて使用されるものである。この橋構造物10は、橋脚構造物12と、この橋脚構造物12上に配設された橋梁構造物14とを有しており、導水管20は、その両端部が外部に露出する状態で橋脚構造物12と橋梁構造物14との接合部16(コンクリート構造物)に埋設されている。なお、導水管20は前記接合部16に埋設される形態に限られるものではなく、例えば橋脚構造物12を構成するコンクリート構造物に埋設されていてもよく、あるいは橋梁構造物14を構成するコンクリート構造物に埋設されていてもよい。
【0027】
図2に示すように、導水管20は、基管22と、基管22の外側に配置された通水制御シート24と、通水制御シート24の外側に配置された外層26とを備えている。
【0028】
基管22は、導水管20としての剛性を確保し、コンクリート構造物から管内に浸透してきた水を流通させ、この水を外部に導く。基管22は、線材間に空隙が形成されるように線材が編組されてなるメッシュ管、具体的には、樹脂モノフィラメント22aと繊維材(樹脂繊維又は天然繊維)22bとが交互に編組されてなるメッシュ管によって構成されている。
【0029】
基管22の内径は、5〜25mm程度であることが好ましく、さらに好ましくは内径8〜15mm程度で、もっとも好ましくは内径10mm程度である。
【0030】
樹脂モノフィラメント22aは、あらゆる樹脂を利用することが可能であるが、コンクリート再生時に燃焼分解が可能で、且つ、有害ガスを発生しないものであることが好ましい。この点からハロゲン原子を分子内に有さない樹脂からなるものが好ましく、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。また、再生材料の入手が容易な再生ポリプロピレン樹脂、再生ポリエステル樹脂であってもよい。
【0031】
樹脂モノフィラメント22aの線材径は0.5〜2.5mmが好ましく、より好ましくは0.8〜2.0mm、さらに好ましくは1.0〜1.5mmの範囲である。
【0032】
樹脂モノフィラメント22a同士により形成されるメッシュ空間としては0.5〜15mmが好ましく、また隣り合う樹脂モノフィラメント22aの間隔(すなわち隣り合う樹脂モノフィラメント22aにより形成されるメッシュ空間の樹脂モノフィラメント22aの長さ方向に直角な方向での幅)としては0.5〜10mmがコンクリート圧に耐える構造材として好ましい。
【0033】
なお、メッシュ空間とは、交差する樹脂モノフィラメント22aで構成される菱形の面積であり、空間の対角距離から菱形の面積公式により算出される面積である。そして、樹脂モノフィラメント22aで覆われた場合の個々の空隙とは、上記の空間面積から、同空間中に存在している樹脂モノフィラメント22aが占める面積を除去し、除去した面積を同空間に存在している樹脂モノフィラメント22aにより同空間が分割されている個数で割った面積である。樹脂モノフィラメント22aがインターレース等により繊維束からループとしてはみ出している場合には、ループ等は無視して面積を求める。なお、メッシュ空間や繊維材で覆われた個々の空隙は、中空間の拡大写真から容易に求められる。
【0034】
繊維材22bは、その有無を限定するものではないが、少量浸透水を排水する場合において、導水管20内での滞留と管外への再漏出を繊維の毛細管現象によって防止する効果があり、繊維材22bを有する構造であることが好ましい。さらには、インターレース加工して繊維交絡を付与した無撚糸であることが、編組圧力で均一に拡散することから好適である。
【0035】
繊維材22bの太さ(デシテックス)は、特に限定するものではないが、1〜200dtexのフィラメントが20〜20000本集束した、樹脂製のマルチフィラメントで、マルチフィラメント太さが4000〜20000dtexであるマルチフィラメント糸が、後述する通水制御シート24との密着した状態でコンクリート液の浸入を好適に防御できる点で好ましい。より好ましくは、5〜20dtexのフィラメントが30〜2400本集束したマルチフィラメントで、そのマルチフィラメント太さが6000〜12000dtexのマルチフィラメントである。そして、このようなマルチフィラメント糸により管状メッシュの表面空隙が覆われ、好ましくは個々の空隙が2mm以下、より好ましくは0.5mm以下の範囲である。
【0036】
なお、樹脂モノフィラメント22a同士の交点、または繊維材22b同士の交点、或いは樹脂モノフィラメント22aと繊維材22bとの交点は、接着剤により固定されていてもよく、或いは樹脂モノフィラメント22aまたは繊維材22bを構成する樹脂の溶融または軟化により融着固定されていてもよい。導水管20を曲げた場合に導水管20断面が扁平とならないためには、交点は接着固定または融着されておらず、交点において自由に動けるようになっている場合が好ましい。
【0037】
通水制御シート24は、幅50mm程度の帯状体を基管22に巻き付けたものである。この帯状体は一方向に長いものであり、その幅方向の両端部27,28が基管22の軸方向に沿うように配置されている。そして帯状体の幅方向両端部27,28が互いに重なり合うように基管22に巻かれている。この重なり代は、導水管20を曲げた状態で使用しても口開きにならないように、また、重なり代が多くなり過ぎないように、3〜7mm程度とするのが好ましい。言い換えると、全周のうち10〜20%程度が重なり代となるように設定するのが好ましい。
【0038】
通水制御シート24は、通水性基材に透水性を有する樹脂シートを固着させた構成のものである。通水性基材は、不織布、織布等の繊維シートによって構成されており、その厚みは、0.1〜2.0mm程度とするのが好ましい。この通水性基材に積層される樹脂シートは、微細な多穿孔が全面に形成されたシートであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA、ポリ塩化ビニル、ポリエステル等の樹脂フィルムで形成されている。微細な多穿孔としては、例えばパンチ孔、突き刺し孔等が該当する。したがって、メッシュ、不織布、織布等は樹脂シートに該当しない。樹脂シートの厚みは、10〜100μmが好ましく、微細孔は20〜500μm程度が好ましい。樹脂シートは、熱ラミネート法等の方法によって通水性基材に熱溶着されている。
【0039】
通水制御シート24は、水頭差20mmにおける通水量が0.03〜1.0リットル/h・cmであるのが好ましい。通水量がこの範囲にあれば、コンクリートの養生中において凝固成分が含まれた水の透過を抑制してジャンカ現象を回避し易くなる一方で、養生後においてコンクリート構造物に浸入してきた浸透水(凝固成分は含まれていない)を透過させることができる。
【0040】
外層26は、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、再生ポリプロピレン樹脂、再生ポリエステル樹脂等の繊維材26aを編組した構成である。この繊維材26aは、樹脂モノフィラメント及び繊維マルチフィラメントのどちらかに限定するものではなく、樹脂モノフィラメントであれば、線材径は0.2〜1.2mm程度、繊維マルチフィラメントであれば、1〜50dtexのフィラメントを集束させた500〜2000dtexの太さであることが好ましい。また、繊維材26a間に形成されるメッシュ空間は、1.5〜30mmであるのが好ましい。
【0041】
外層26は、通水制御シート24上に編組されているため、通水制御シート24の端部を接着しておかなくても、口開きすることなく、基管22上に巻き付けられた状態を維持することができる。通水制御シート24が接着剤で固定されていない構成であるため、導水管20としての可撓性が阻害されることもない。そして外層26は、通水制御シート24に密着しているため、外層26によって通水制御シート24を均一に押さえ付けることができる。
【0042】
ここで、本実施形態に係る導水管20の製造方法について説明する。
【0043】
まず、基管22を用意する。この基管22は、以下の2通りの方法で成形することができる。1つ目の方法では、樹脂モノフィラメント22aをマンドレルに対して編組して管状メッシュ構造を成型し、さらに、その表層へ繊維材22bを被覆編組し、加熱固定(形状セット)した後に、マンドレルを抜き取って成形する。もう1つの方法では、編組機(図示省略)に、樹脂モノフィラメント22aを巻き付けたボビンと繊維材22bを巻き付けたボビンを任意(好適には交互)に混合して設置し、マンドレルに対して編組し、加熱固定(形状セット)した後に、マンドレルを抜き取って成形する。
【0044】
続いて、基管22に通水制御シート24及び外層26を装着する。この装着は、図3に示すように、編組機31及び引き取り機33を用いて行う。編組機31は、脚部35aを有する基台35の上方にリング体37が固定された構造となっており、基台35は、中央に大きな開口が形成された円板状に形成されている。基台35上には多数(本実施形態では24)のボビン39がセットされている。このボビン39には、外層26を形成するための繊維材26aが巻き付けられている。編組機31の上方には、導水管20の向きを変えるための案内手段41が設けられており、この案内手段41によって略水平に向きを変えた導水管20は引き取り機33によって引っ張られて、その後、巻き取られる。引き取り機33は、所定の速度で導水管20を引っ張る。これにより、外層26を構成する繊維材26aの交合角度が所定範囲内に収まるようになっている。
【0045】
リング体37は、ボビン39よりも上方に配置されていて、図4に示すようにリング状のリング部37aと、このリング部37aに架設された架設部37bとを有している。リング部37aは基台35よりも小径であり、リング部37aの外周面はボビン39から引き出された繊維材26aを通過させる。架設部37bには、貫通孔37cが形成されていて、この貫通孔37cには、基管22及び帯状体43が導入される。貫通孔37cの下側には図略の案内部材が装着されており、帯状体43はこの案内部材に案内されて、帯状体43の長手方向が基管22の軸方向に合った状態で基管22に被せられる。このとき帯状体43の幅方向両端部27,28が互いに重なり合いながら基管22に被せられる。基管22及び帯状体43は上方に送られ、リング部37aの上方の位置で基管22及び帯状体43にボビン39から繰り出された繊維材26aが編組されることにより、基管22、通水制御シート24及び外層26の三層構造の導水管20が出来上がる。すなわち、帯状体43及び外層26を同時に基管22に巻き付けて、基管22の外側に通水制御シート24を配置させるとともに、その上に外層26を配置させるようにしている。この導水管20は引き取り機33で引っ張られて、巻き取られる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態では、通水制御シート24が微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成されているため、コンクリートの養生中において、凝固成分が基管22内に浸透することを抑制することができる。このため、コンクリートが乾燥するまでに凝固成分が流出してしまうことを抑制することができ、コンクリート構造物にいわゆるジャンカ現象が生ずることを抑制することができる。したがって、養生中における排水を制御しつつ、養生後はコンクリート構造物の劣化に伴う浸透水の排水をすることにより、劣化の進行を遅らせることができる。また、この導水管20は可撓性を有しているので、自在に曲げて設置することが可能である。また、通水制御シート24として、微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成されたものが使用されているため、基管22内が目詰まりしている場合でも、毛細管現象により繊維シートを伝って浸透水を外部に導くことが可能となる。したがって、基管22内が目詰まりしてしまうという施工不良が発生した場合でも、養生後の排水機能を確保することができる。なお、ここでいう「コンクリート」は、モルタルも含む総称した概念である。したがって、「コンクリート構造物」には、コンクリートで構成される構造物だけでなく、一部にモルタルが用いられている構造物も含まれる。
【0047】
また、本実施形態では、帯状体43の幅方向両端部27,28が互いに重ね合わされながら基管22の軸方向に沿った状態で基管22に巻き付けられているため、通水制御シート24を基管22に連続的に巻き付けていくことが可能となり、導水管20を製造しやすいものとなる。特に、帯状体43の幅方向両端部27,28が基管22の軸方向に沿った状態で配設されているため、帯状体43を基管22に巻き付ける装置を簡素なものとすることができ、導水管20をより製造しやすいものとなる。また、導水管20として可撓性が損なわれることがなく、導水管20にフレキシビリティを持たせることができる。
【0048】
また、本実施形態では、通水制御シート24に外側から密着した外層26を備えているため、外層26によって通水制御シート24を保護することができる。しかも外層26が編組された構成であるため、外層26によって通水制御シート24を均一に押さえることができる。また、通水制御シート24が帯状体43を巻き付けた構成であるため、導水管20を曲げて使用した場合でも、帯状体間に間隙ができるような口開きを防止することができる。また、接着剤を使って帯状体を固定する必要がなくなるため、導水管20のフレキシビリティ(可撓性)を確保しやすくすることができる。
【0049】
また、本実施形態では、基管22が、樹脂モノフィラメント(樹脂線材)22aと繊維材22bとが交互に編組されてなるメッシュ管によって構成されているため、樹脂モノフィラメント22aによる管状メッシュがフレキシブルでコンクリートの打設荷重に耐えうる中空管構造を形成することができる。また燃焼可能な樹脂モノフィラメント22aおよび繊維材22bのみで形成されるため、コンクリートの解体再生時においては、燃焼分解によって分別を容易に為すことができる。
【0050】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、基管22が樹脂モノフィラメント22aと繊維材22bとが交互に編組されてなるメッシュ管によって構成された構成としたが、これに限られるものではない。例えば基管22は、樹脂モノフィラメント22aのみが編組されてなるメッシュ管によって構成されていてもよい。また基管22は、図5に示すように、線材22c間に空隙が形成されるように螺旋巻回されてなるスパイラル管によって構成されていてもよい。
【0051】
前記実施形態では、外層26を備えた導水管20としたが、曲げた状態で使用されない等、可撓性が犠牲となってもよい場合には、外層26を設けずに、通水制御シート24の幅方向両端部27,28が互いに接着された構成としてもよい。
【0052】
通水制御シート24は、帯状体43の幅方向両端部27,28が互いに重ね合わされるように基管22に螺旋状に巻き付けられる構成としてもよい。また、通水制御シート24は、微細な多穿孔を有する樹脂シートのみによって構成されていてもよい。
【実施例】
【0053】
ここで、実施例及び比較例に係る導水管20について、排水量の多寡を測定する試験を行ったので、その結果について説明する。図6はこの試験で用いた試験体1を概略的に示している。
【0054】
試験体1は、横幅400mm×縦幅800mm×深さ80mmの型枠(図示省略)内にコンクリートを流し込んで成型されるものである。コンクリートを流し込む前の型枠内に、被験体である導水管20を配設した。導水管20の開放端部を、型枠の一方の側面から突出させ、導水管20の止水端部3については、型枠のもう一方の側面に当接させた。そして型枠内において、前記一方の側面から500mmの位置に、導水管20を跨ぐ様に横幅300mm×縦幅15mm×高さ80mmの抜き型枠(図示省略)を固定した。その後、加水し混練状態のコンクリート(又はモルタル)を深さ70mmまで打設し、25℃の環境下で48時間静置硬化させた。その後、型枠及び抜き型を取り外し、底部に外側から粘着防水シート4を貼り付けて試験体1とした。この試験体1は、横幅300mm×縦幅15mm×深さ70mmの亀裂5を有し、この亀裂5内で導水管20が露出した部分(露出部6)を有する、横幅400mm×縦幅800mm×高さ70mmのコンクリート構造物である。なお、この試験体1に用いたコンクリートは、25℃の環境下で48時間静置硬化したもの(養生後)である。
【0055】
(第1試験)
第1試験では、導水管20の排水能力を測定する為、試験体1を縦勾配7が2%となり、横勾配8が0%の状態となるように設置し、亀裂5内の水頭差を50mmに維持する様に給水を調節しながら、この状態で亀裂5露出部分15mmを通した5秒間での排水量を測定した。
【0056】
(第2試験)
コンクリートカッタ−で試験体1を縦に二等分し、導水管20周りにおけるジャンカの有無を確認した。なお、ジャンカとは、コンクリートの分離、突き固め不十分、型枠からのセメントペーストの漏出等によって、硬化後のコンクリート内に粗骨材が集まったできた空隙を有する部分のことである。
【0057】
次に、被験体である導水管20について説明する。
【0058】
(実施例)
導水管20の基管22を作成するにあたり、24錘の編組機31を用いた。この編組機31では、芯径1.2mm(断面円形)の再生ポリエステルモノフィラメント12錘と、単フィラメント太さが10d(デニール)のフィラメント900本から形成される9000dのインターレース加工した無撚の再生ポリエステルマルチフィラメント12錘とを交互に、かつモノフィラメントの中央部にマルチフィラメントが入るようにマルチフィラメント錘をモノフィラメント錘の中間部に配置し、外径10mmのフッ素樹脂製フレキシブルマンドレルに対して、交合角度90度で編組した。そして、160℃×20分乾燥機内で加熱して形状固定し、その後マンドレルを抜き取って、管状メッシュの空隙が繊維(インターレース処理により交絡されたマルチフィラメント糸)で覆われた、内径10mmのフレキシブルな基管22を得た。
【0059】
この基管22に対し、幅50mmに裁断した帯状体(不織布に有孔フィルムを貼り合わせた有孔シートであり、水頭差20mmの状態における通水量が約0.1リットル/h・cmであるもの)の不織布側を外側にして、連続的に海苔巻き状に巻き付けて通水制御シート24が巻き付けられた状態(図2と同様の状態)にすると同時に、1000dのインターレース加工した無撚の再生ポリエステルマルチフィラメント24錘を交合角度90度で最外面より編組することで通水制御シート24に密着させて外層26とし、通水制御機能を有する実施例の導水管20を得た。
【0060】
(比較例1)
比較例1の導水管では、実施例1と同様、24錘の編組機31を用いて作成した。すすなわち、芯径1.2mm(断面円形)の再生ポリエステルモノフィラメント12錘と、単フィラメント太さが10dのフィラメント900本から形成される9000dのインターレース加工した無撚の再生ポリエステルマルチフィラメント12錘とを交互に、かつモノフィラメントの中央部にマルチフィラメントが入るようにマルチフィラメント錘をモノフィラメント錘の中間部に配置し、外径10mmのフッ素樹脂製フレキシブルマンドレルに対して、交合角度90度で編組した。そして、160℃×20分乾燥機内で加熱して形状固定し、その後マンドレルを抜き取って、管状メッシュの空隙が繊維(インターレース処理により交絡されたマルチフィラメント糸)で覆われた、比較例1の導水管を得た。つまり、比較例1の導水管は、実施例と異なり、通水制御シート24及び外層26を有していない。
【0061】
(比較例2)
比較例2の導水管では、断面円形である線径1mmのステンレス製鋼線を螺旋巻回してできたスプリングを基管とした。このスプリングはピッチ2mm、内径10mm、外径12mmである。この基管を、60メッシュのポリエステル製ネットからなる内径13mmの筒状カバー材に挿入し、比較例2の導水管とした。
【0062】
以上の実施例及び比較例1、2を第1試験及び第2試験した結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、実施例の導水管20では、凝固成分の流出によるジャンカ現象を防ぐことができ、しかも養生後はコンクリート構造物の劣化に伴う浸透水を排水することができ、劣化の進行を遅らせることができる。また、この導水管20の一端部がコンクリート構造物から突出するように配設することにより、導水管20からの排水現象によって補修時期を示すこともできる。一方、比較例1及び2の何れにおいても、養生後の排水性能は高いが、ジャンカ現象が見られるため、養生中の凝固成分の流出が発生したと推測される。
【符号の説明】
【0065】
10 橋構造物
12 橋脚構造物
14 橋梁構造物
16 接合部
20 導水管
22 基管
22a 樹脂モノフィラメント
22b 繊維材
22c 線材
24 通水制御シート
26 外層
26a 繊維材
27 端部
28 端部
43 帯状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に埋設されて使用される可撓性を有する導水管であって、
線材間に空隙が形成された構成の基管と、
微細な多穿孔を有する樹脂シート又は微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成され、前記基管を覆う通水制御シートと、を備え、
前記通水制御シートを通して前記コンクリート構造物内から前記基管内に浸透した水を外部に排出する、導水管。
【請求項2】
前記通水制御シートが帯状体によって構成されるものであり、
前記通水制御シートは、前記帯状体の幅方向両端部が互いに重ね合わされるように前記基管に螺旋状に巻き付けられ、又は前記帯状体の幅方向両端部が互いに重ね合わされながら前記基管の軸方向に沿った状態で前記基管に巻き付けられている、請求項1に記載の導水管。
【請求項3】
前記通水制御シートは、水頭差20mmにおける通水量が0.03〜1.0リットル/h・cmである、請求項1又は2に記載の導水管。
【請求項4】
編組された構成であり、前記通水制御シートに外側から密着した外層をさらに備えている、請求項1から3の何れか1項に記載の導水管。
【請求項5】
前記基管は、線材間に空隙が形成されるように螺旋巻回されてなるスパイラル管、又は、線材間に空隙が形成されるように線材が編組されてなるメッシュ管によって構成されている、請求項1から4の何れか1項に記載の導水管。
【請求項6】
前記基管は、樹脂モノフィラメントのみが編組されてなるメッシュ管、又は樹脂モノフィラメントと繊維材とが交互に編組されてなるメッシュ管によって構成されている、請求項5に記載の導水管。
【請求項7】
コンクリートの打設時に埋設され、前記通水制御シートによって養生中の排水を制御し、液体に含まれる凝固成分の前記基管内への浸透を抑制する一方、養生後においてコンクリートの劣化に伴う浸透水を排水することによって劣化の進行を遅らせる、請求項1から6の何れか1項に記載の導水管。
【請求項8】
請求項1に記載の導水管が、橋梁構造物内、橋脚構造物内又は橋梁構造物と橋脚構造物との接合部内に埋設されている橋構造物。
【請求項9】
線材間に空隙が形成された構成の基管に、微細な多穿孔を有する樹脂シート又は微細な多穿孔を有する樹脂シートと繊維シートとの複合物によって構成された通水制御シートを被せる、請求項1に記載の導水管の製造方法。
【請求項10】
前記通水制御シートが帯状体によって構成されるものであり、
編組された構成の外層を備えており、
前記帯状体及び前記外層を同時に前記基管に巻き付けながら、前記基管の外側に前記通水制御シートを配置させ、その上に前記外層を配置させる、請求項9に記載の導水管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−44343(P2013−44343A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180480(P2011−180480)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000104906)クラレプラスチックス株式会社 (52)
【Fターム(参考)】