説明

導波路及びその製造方法、ならびに電磁波分析装置

【課題】電磁波を効率的に利用出来る発振素子、電磁波検出素子、電磁波増幅素子などの導波路、その製造方法、ならびに該導波路を用いる電磁波分析装置を提供する。
【解決手段】導波路100は、電磁波に対する誘電率実部が負である第一の導体層103と第二の導体層104との間を電磁波が導波する導波路である。電磁波が出射または入射する導波路100の部分に、テーパー構造115を備え、光軸に垂直なテーパー構造の空間断面が、テーパー構造の最外部の開口面に近づくに従って、少なくとも光軸と直交する1つの方向に光軸を挟んで両側に広がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路及びその製造方法、ならびに電磁波分析装置に関する。特に、ミリ波帯からテラヘルツ波帯(30GHzから30THz)までの周波数領域の電磁波(以下、テラヘルツ波とも記す)に係る導波路、発振素子または検出素子として構成されている該導波路、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波の周波数領域には、生体材料・医薬品・電子材料などの多くの有機分子について、構造や状態に由来した吸収ピークが存在する。また、テラヘルツ波は、紙・セラミック・樹脂・布といった材料に対して高い透過性を有する。近年、この様なテラヘルツ波の特徴を活かしたイメージング技術やセンシング技術の研究開発が行われている。例えば、X線装置に代わる安全な透視検査装置や、製造工程におけるインラインの非破壊検査装置などへの応用が期待されている。
【0003】
電流注入型のテラヘルツ波光源として、半導体量子井戸構造における電子のサブバンド間遷移に基づいた電磁波利得を利用する構造が検討されている。非特許文献1には、低損失の導波路として知られるDouble−side Metal Waveguide(以下、DMWとも記す)を共振器として集積したテラヘルツ波帯の量子カスケードレーザ(Quantum Cascade Laser:QCL)が提案されている。本素子は、10μm程度の薄さの半導体薄膜からなる利得媒質の上下に金属を配置した共振器構造に、誘導放出されたテラヘルツ波を表面プラズモンモードで導波させることで、高い光閉じ込めと低損失伝搬により3THz近傍のレーザ発振を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−510703号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 83, 2124 (2003)
【非特許文献2】OPTICS LETTERS, VOL.32, ISSUE 19, PP.2840−2842(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DMWは、導波路と空間とのモードミスマッチに起因した端面反射の増加やビームパターンの発散が生じるため、応用の観点から、ビームの効率的な利用と取り回しが課題となっている。これについて、非特許文献2には、導波路の端にシリコンレンズを配置して取り出し効率や指向性を改善する方法が提案されているが、物理機械的に不安定であったり、追加の部材が必要となったりするなどの実用上の点が指摘される。そこで、特許文献1には、ホーンアンテナを集積した例が開示されている。しかしながら、構成上、物理機械的な安定性が充分とは言い難い上に、電磁波の指向が導波路の光軸からチルトされる可能性があり、周波数安定性や電磁波の取り回しの点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明の導波路は、電磁波に対する誘電率実部が負である第一の導体層と第二の導体層との間を前記電磁波が導波する導波路である。そして、電磁波が出射または入射する当該導波路の部分に、テーパー構造を備え、光軸に垂直な前記テーパー構造の空間断面が、該テーパー構造の最外部の開口面に近づくに従って、少なくとも前記光軸と直交する1つの方向に前記光軸を挟んで両側に広がる。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の電磁波分析装置は、電磁波を発振する発振素子と、物体を透過または該物体で反射した前記電磁波を検出する検出素子と、を備える電磁波分析装置である。そして、前記発振素子及び前記検出素子の少なくとも一方は、前記導波路を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電磁波が出射または入射する導波路の部分に、上記の如く空間断面が広がるテーパー構造が設けられるか、より具体的には、プラズモン導波路の端に、コア層の積層方向に上記の如く空間断面が広がるテーパー構造が設けられる。これにより、導波路から放射されたり導波路に導かれたりする電磁波の指向性が改善される。また、電磁波の指向パターンを光軸方向に向けることが出来るので、周波数安定性や電磁波の取り回しの点における改善が期待される。従って、本発明により、電磁波を効率的に利用出来る導波路等の実現が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の導波路の実施形態及び実施例1を説明する斜視図。
【図2】本発明の導波路の実施形態及び実施例1を説明する図。
【図3】本発明の導波路の変形例を説明する図。
【図4】本発明の導波路の実施例2を説明する斜視図。
【図5】本発明の導波路の実施例2を説明する図。
【図6】本発明の導波路の変形例を説明する斜視図。
【図7】本発明の電磁波分析装置を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴は、電磁波に対する誘電率実部が負である第一の導体層と第二の導体層との間を電磁波が導波する導波路の、電磁波が入出射する部分に、テーパー構造を備えることである。そして、光軸に略垂直なテーパー構造の空間断面が、テーパー構造の最外部の開口面に近づくにつれ、少なくとも光軸と略直交する1つの方向に光軸を挟んで両側に徐々に広がることである。より具体的には、後述する実施例の様に、導波路は、導波モードの電磁波に対する誘電率実部が負の負誘電率媒質の第一及び第二の導体層と、2つの導体層に接し且つそれらの間に配置された半導体部を含む積層構造のコア層と、で規定される。そして、テーパー構造を、電磁波が出射または入射する導波路の端に備え、テーパー構造の空間断面が、テーパー構造の最外部の開口面に近づくに従って、少なくとも積層構造のコア層の積層方向に該積層方向と垂直な積層面を挟んで両側に徐々に広がる。本発明による導波路は、単純な電磁波の導波路として用いることもできるが、後述の実施形態や実施例で説明する様に、コア層に電磁波利得や非線形性を持たせて、発振素子、電磁波検出素子、電磁波増幅素子などを構成することができる。
【0012】
以下、図を用いて、本発明による導波路、それを含む素子、その製造方法の実施形態及び実施例を説明する。
(実施形態)
導波路100の一実施形態について、図1から図3を用いて説明する。図1は、導波路100の外観を示す模式図である。図2(a)、(b)、(c)、(d)は、夫々、導波路100の上面、A−A’断面、B−B’断面、C−C’断面を示す模式図である。図3は、本実施形態の変形例を示す模式断面図である。
【0013】
本実施形態の導波路100は、電磁波利得を有するコア層である活性層101、第一の導体層103、第二の導体層104から構成され規定される導波路構造107を共振器とした発振素子である。導波路構造107は、第一の基板105上に集積されており、導波路構造107の上部には第二の基板106が、導波路構造107の側部にはスペーサ108が配置された構成となっている。導波路構造107は、第一の導体層103と第二の導体層104とをクラッドとして、この近接した二枚の導体板でコアとなる活性層101を挟んだDMWと呼ばれる光導波路である。第一の導体層103と第二の導体層104は、発振モードの電磁波に対する誘電率実部が負の負誘電率媒質で構成される。第一の導体層103と第二の導体層104の距離は、導波路100の発振モードの管内波長をλとすると、λg/2以下、好ましくはλg/10程度まで近接されている。この際、テラヘルツ波の周波数領域の電磁波は、導波路構造107内を回折限界が存在しないプラズモンモードで伝搬する。ここで、管内波長(λg)は、真空中の電磁波の波長をλ、導波路構造107の等価屈折率をnとすると、λ=λ/nで表される。また、管内波長がλgの発振モードを得るには、半導体レーザ技術で知られるように、電磁波の伝播方向である導波路構造107の長手方向の長さLをλg/2の整数倍となるように設定する。
【0014】
活性層101は、キャリアのサブバンド間遷移によりテラヘルツ波を発生する多重量子井戸構造の半導体部を含んでおり、テラヘルツ波の周波数領域における電磁波利得を有している。活性層101は、例えば、数十層の半導体多層膜からなる共鳴トンネル構造や、数百から数千層の半導体多層膜からなる量子カスケードレーザ構造が好適である。本実施形態では、活性層101として、共鳴トンネルダイオード(以下、RTDとも記す)を用いた場合で説明する。RTDは、微分負性抵抗領域においてフォトンアシストトンネル現象に基づくミリ波からテラヘルツ波の周波数領域の電磁波利得を有する。なお、活性層101は、多重量子井戸構造の半導体部と第一の導体層103及び第二の導体層104を接続するために高濃度にドーピングした半導体層を備えてもよい。上記積層構造を有する活性層101により、その積層方向及びこれと垂直な積層面が規定される。また、活性層101は、テラヘルツ波の周波数領域においてキャリアの非線形性を有する半導体であっても良く、この場合、導波路100は検出素子として動作する。
【0015】
活性層101と第一の導体層103及び第二の導体層104とは、機械的かつ電気的に互いに接している。導波路100は、第一の導体層103と第二の導体層104との間に外部電源からバイアスを印加することで、活性層101のRTDにバイアスを印加する構成となっている。ここで、第一の導体層103と第二の導体層104は、金属(Ag,Au,Cu,Al、AuIn合金など)、半金属(Bi,Sb,ITO,ErAsなど)、高濃度にドーピングされた半導体などを好適に用いることが出来る。また、第一の導体層103及び第二の導体層104から外部電源までの給電線には、第一の基板105及び第二の基板106に形成したスルーホールなどの貫通配線(不図示)が好適に用いられる。
【0016】
本実施形態の導波路100は、電磁波の出射する導波路構造107の端に、少なくとも活性層101の上記積層方向に上記積層面を挟んでその両側に向かって徐々に空間断面が広がるテーパー構造115を備えている。テーパー構造115は、図2(b)及び(c)に示す様に、第一の基板105に配置された第一の面109と、第二の基板106に配置された第二の面110とを少なくとも備えた構造である。第一の面109と第二の面110は、活性層101の積層方向(z軸)に対して鋭角(本実施形態であれば75°)をなしており、互いに向かい合っている。すなわち、コア層の積層方向に対して傾斜する第一の面109と第二の面110は、導波路構造107の光軸(y軸)に対して鋭角(本実施形態であれば15°)をなして互いに向かい合って配置されている。従って、導波路100は、テーパー構造115として、E面(ここでは図2(b)の面)扇型ホーンを有するホーンアンテナ115を導波路構造107の端に備えた構成となっている(以下、テーパー構造115はホーンアンテナ115として説明する)。この様に、本実施形態の導波路100は、導波管の切り口を徐々に広くして自由空間に整合させるホーンアンテナとして、電極間方向の両側に向かって広がるホーンアンテナを導波路の取り出し部に設けた構造を基板105、106に一体成型した構成を有する。このようなプラズモン導波路の取り出し部は、上記構成を検出素子、増幅素子、及び単なる導波路として用いる場合は、電磁波の取り入れ部となることもある。
【0017】
ここで、ホーンアンテナ115の内壁、特に第一の面109及び第二の面110は、金属、半金属、高濃度にドーピングされた半導体などの導電部材で構成されることが好ましい。例えば、導波路100は、第一の面109及び第二の面110として、基板105、106の一部を導電率の高いAuで被覆した構造を用いる。基板105、106自体に金属、半金属、高濃度にドーピングされた半導体などの導電部材を用いるような構成であってもよい。また、導波路100は、導波路構造107内を伝搬する高周波電磁界がホーンアンテナ115にカップリングされるような構成であることが好ましい。例えば、本実施形態の場合、第一の面109と第一の導体層103、及び、第二の面110と第二の導体層104はそれぞれ電気的かつ機械的に接続されている。従って、プラズモン導波路の平行平板電極である導体層103、104から、ホーンアンテナ115のAu被覆された傾斜面109、110が拡張された構成となっている。この様に、本実施形態は、第一の導体層と接し第一の面を備えた第一の基板105と、第二の導体層と接し第二の面を備えた第二の基板106と、を備え、第一の基板、第一の導体層、コア層、第二の導体層、第二の基板の順に積層された構成を有する。
【0018】
また、導波路100は、導波路構造107内にある電磁波利得を有する活性層101に安定してバイアスを印加可能な構成であることが好ましい。例えば、本実施形態の場合、スペーサ108は、導波路構造107の機械的な安定の維持とともに、DCカット部材として電極103、104間の短絡を防止している。また、ホーンアンテナ115のAu被覆された傾斜面109、110は、空間によりDCカットされており、電極103、104間の短絡を防止している。従って、導波路100は、RTDへの安定したバイアス印加と、アンテナ115と導波路構造107のカップリングが両立した構成となっている。
【0019】
なお、スペーサ108は必ずしも必須な要素ではなく、ホーンアンテナ115にDCカット部を備える構成であってもよい。また、導波路とアンテナのカップリングは、上述のDC結合のような構成である必要はない。例えば、図6に示す導波路600のように、導波路構造607とアンテナ615をAC結合するような構成であってもよい。導波路600は、マイクロストリップライン型の導波路構造607の片側の端面が、断面積の最小の底面開口を通して、テーパー構造を含むホーンアンテナ615の内部に挿入(又は内部から引出)されている。その位置を調整することで導波路構造607とアンテナ615のインピーダンス整合を行うことが出来る。この場合、アンテナを構成する部材と、コア層601を含む導波路を構成する二つ導体層604、605とを、必ずしも機械的に接続しなくてもよい。
【0020】
本実施形態の導波路は、最外部の開口面に近づくに従って、活性層の積層方向に該活性層の積層面を挟んで両側に徐々に広がる空間断面を持つ構造のホーンアンテナをプラズモン導波路の端に備えている。つまり、このホーンアンテナは、対向する傾斜面である第一の面109及び第二の面110を持つ。本構成は、導波路の端面から広い放射角で放射される電磁波の指向性を改善することが可能となる。また、ホーンを活性層の積層面を挟んで対称構造にすれば、電磁波の指向パターンの導波路の光軸方向におけるチルトの更なる低減が期待される。このため、電磁波の指向パターンを光軸方向に安定させることも可能となり,電磁波の取り回しが容易となる。また、アンテナ構造の形態やその物理機械的な不安定性に起因した電磁波のチルトや周波数特性の不安定性の低減が期待される。さらに、本実施形態の導波路は、マイクロマシニングなどの微細加工技術を用いて、プラズモン導波路とホーンアンテナを一体形成可能な構成となっている。つまり、二つ以上の基板を集積した3次元構造に組み合わせて実現できる。従って、物理機械的な安定性や加工精度の向上が見込まれる上に、レンズなどの光学部品の点数削減によるコストダウンの効果も期待される。こうして、本実施形態により、電磁波を効率的に利用出来る小型で堅牢な導波路及び、それを用いた発振素子や検出素子などの半導体素子が実現できる。
【0021】
本発明は上述の構成に必ずしも限定されるものではない。例えば、図3に示した本実施形態の変形例のように、所望される指向パターンや周波数特性に応じてテーパー構造の形状や対称性を適宜設計することができる。図3(a)の導波路200は、テーパー面209、210が曲面で形成されたホーンアンテナ215を備えている。ここでは、各部分を200番台の番号で示している。また、図3(b)の導波路300は、テーパー面309、310が多段になった多段フレア構造のホーンアンテナ315を備えてもよい。ここで、階段状の構造を電磁波の波長の1/10程度のサイズとすれば、一般的にその波長の電磁波に対して反射、散乱、屈折などの影響が無視できる構造とみなされるので、階段状の構造は略傾斜面とみなすことが出来る。ここでは、各部分を300番台の番号で示している。また、図3(c)の導波路400のように、テーパー面409、410がステップ構造のホーンアンテナ415を備えてもよい。ここでは、各部分を400番台の番号で示している。各変形例において、テーパー構造は必ずしも、活性層の積層面に関して対称構造である必要が無いのは言うまでもなく、所望されるビーム形状や指向性に応じて適宜構造を選択すればよい。また、テーパー構造を指数関数型やフェルミ分布関数型のテーパー形状とすれば、アンテナの放射パターンや指向性の改善が期待される。
【0022】
また、テーパー構造の空間断面の広がる方向は、活性層の積層方向のみに限定されるものではない。本実施形態の別に変形例としての導波路500を図4と図5に示した。この導波路500は、角錐ホーン型のホーンアンテナ515を備えている。ここでは、テーパー面509、510とテーパー面519、520が、活性層501の積層方向の両側と該積層方向の垂直方向(積層方向及び光軸と直交する方向)の両側に向かって広がる光軸に垂直な空間断面を画成する。このような構成は、導波路500の導波路構造507から放射される電磁波について、導波路構造507の横方向(活性層の積層方向及び光軸と直交する方向)の指向パターンを調整する際に好適に用いられる。また、図6に示した導波路600のように、放射状に広がる曲面を有する円錐ホーンをアンテナ615として備えた構成は、導波路構造607から放射される電磁波を円形導波管へカップリングする際に好適な構造となる。
【0023】
また、本発明の導波路は、必ずしも導波路構造とアンテナを同一基板に集積しなくてもよい。例えば、本実施形態の変形例である導波路600のように、導波路構造607を集積した基板605に、アンテナ615を形成した基板622を実装するような構成であってもよい。別の基板622を用いることで、アンテナの設計及び加工の自由度が向上し、アンテナ615で採用した円錐ホーンのように自由な曲面を有する構造であっても、比較的容易に用いることが出来る。なお、導波路600は、前述の通り、導波路構造607とアンテナ615がAC結合した構成となっている。つまり、ここでも、テーパー構造は、導波路と電気的に結合されている。
【0024】
また、本発明の導波路において、導波路の種類はDMWに限られるものではない。例えば、図6に示したマイクロストリップライン型の導波路600や、コプレナ線路、空洞導波管、パッチアンテナ共振器、スロットアンテナ共振器などの構造を含む導波路に本発明のテーパー構造を配置する構成であってもよい。
【0025】
また、本発明の導波路及び、それを用いた発振素子や検出素子などの半導体素子は、次のような工程で製造することができる。例えば、管内波長(λg)以下の距離に近接した第一の導体層と第二の導体層とからなるクラッドと、前記2つの導体層の間に配置された半導体層からなるコア層とから構成された導波路の製造方法は、次の(A)から(D)のステップを少なくとも含む。また、半導体層が電磁波利得や非線形性を持つ活性層を含めば、導波路を共振器として備えた発振素子や検出素子が製造される。
(A)第一の基板に該基板の板厚方向に傾斜した第一の面を形成するステップ。
(B)第二の基板に該基板の板厚方向に傾斜した第二の面を形成するステップ。
(C)第一の導体層と第一の基板を接合するステップ。
(D)前記半導体層の膜厚方向において第一の面と第二の面とが向かい合うように第二の導体層と第二の基板を接合するステップ。
【0026】
以下、より具体的な実施例を説明する。
(実施例1)
本発明の導波路の具体的な実施例1について、図1と図2を用いて説明する。ここで、本発明による導波路は、単純な電磁波の導波路として用いることもできるが、コア層に電磁波利得や非線形性を持たることで発振素子、電磁波検出素子、電磁波増幅素子などの半導体素子を構成することができる。従って、以下では、その一例として、本発明の導波路を発振素子に用いた例について説明する。本実施例では、サブバンド間遷移によりテラヘルツ波を発生する半導体多重量子井戸構造として、InP基板に格子整合するInGaAs/InAlAs系の共鳴トンネルダイオード(RTD)構造を用いた。RTD構造は、上から、n-InGaAs(50nm、Si、1×1018cm−3)、InGaAs(5nm)、AlAs(1.3nm)、InGaAs(7.6nm)、InAlAs(2.6nm)、InGaAs(5.6nm)、AlAs(1.3nm)、InGaAs(5nm)、n-InGaAs(50nm、Si、1×1018cm−3)の順に積層された半導体多層構造である。ここで、下線部のInGaAs層が量子井戸層、下線の無いInAlAs系の材料がポテンシャル障壁層となり、3重障壁共鳴トンネル構造を構成している。InPに格子整合していないAlAsは、臨界薄膜よりは薄く、エネルギーの高い障壁となっている。また、上下の高濃度キャリアでドーピングされたn−InGaAs層は、共鳴トンネル構造への電子の注入と抽出を行うエミッタ/コレクタ層である。エミッタ/コレクタ層とポテンシャル障壁層の間に配置されたInGaAs(5nm)は、ドーピング材料であるSiの拡散防止層である。
【0027】
活性層101は、RTD構造と、その上下に配置された高濃度にキャリアドープしたn−InGaAs(1×1019cm−3)から構成され、活性層101の厚さは約1μmである。このドーピング層により、RTD構造と第二の導体層104及び第一の導体層103とを比較的低抵抗で接続する。第一の導体層103と第二の導体層104は、Ti/Pd/Auの積層膜で構成される。第一の導体層103がTi/Pd/Au/Pd/Ti(各部の厚さ=20nm/20nm/400nm/20nm/20nm)、第二の導体層104がTi/Pd/Au/Pd/Ti(各部の厚さ=20nm/20nm/400nm/20nm/20nm)である。基板105は、高抵抗シリコン基板であり、第一の導体層103と機械的に接続されている。基板106は、高抵抗シリコン基板であり、第二の導体層104と機械的に接続されている。また、基板105と基板106は、導波路構造107の無い領域においては、スペーサ108を介して機械的に接続されている。スペーサ108は、テラヘルツ帯で低損失な絶縁材料(例えばBCBなどの樹脂やSiOなどの無機材料)が好適であり、本実施例ではBCB(ベンゾシクロブテン)を用いている。導波路100は、第二の導体層104と第一の導体層103に接続された貫通配線(不図示)を介して電源に接続され、駆動用のバイアス電圧が活性層101に供給される。
【0028】
導波路100において、基板105は第一の面109を、基板106は第二の面110を、それぞれ備えており、導波路構造107とホーンアンテナ115が一体成型されている。第一の面109は、y軸に対して15°の傾斜面であり、表面を導電部材Ti/Pd/Au(各部の厚さ=20nm/20nm/200nm)で被覆されている。また、第二の面110は、y軸に対して15°の傾斜面であり、表面を導電部材Ti/Pd/Au(各部の厚さ=20nm/20nm/200nm)で被覆されている。第一の面109と第一の導体層103、及び、第二の面110と第二の導体層104は電気的かつ機械的に接続されている。ホーンアンテナ115は、z軸方向の開口幅が5mm、x軸方向の開口幅が10mm、z軸方向の開き角が30°、最外部の開口面から導波路構造107端面までの長さが9.3mmの扇型ホーンとなっている。
【0029】
導波路構造107は、ファブリペロー型の共振器構造であり、電磁波の伝播方向において少なくとも二つの端面を備えている。この端面からの反射を利用して電磁波を定在化するので、伝播方向(導波路構造107の長手方向)の長さが発振波長を決める要素となる。本実施例では、導波路構造107の長さをλの20倍となる1mm、幅を0.05mmとした。従って、第一の導体層103及び第二の導体層104はそれぞれ1mm×0.05mmの矩形パターンとなっている。また、第一の導体層103と第二の導体層104との距離は、約1μmと近接されている。導波路構造107は、発振周波数を0.3THz、管内波長λを50μmとして設計されている(導波路の等価屈折率を約20とした)。電磁波は、導波路構造107内をプラズモンモードで伝搬し、導波路構造107の端面が開放端となり、端面からλ/4の位置が共振電界の節となる。導波路100は、微分負性抵抗領域におけるフォトンアシストトンネル現象に基づいて発生した0.3THzの電磁波を、導波路構造107の端に配置されたホーンアンテナ115から放射する。
【0030】
本実施例の導波路100は、以下のような製造方法で作製することができる。
(1)シリコンからなる第一の基板105を準備し、板厚方向と鋭角をなす第一の面109をフォトリソグラフィーとSiDeepRIE法で形成する。第一の基板105の上面と第一の面109の表面に金属層Ti/Pd/Au(各部の厚さ=20nm/20nm/200nm)を形成する。これは、上記ステップ(A)に対応する。
(2)シリコンからなる第二の基板106を準備し、板厚方向と鋭角をなす第二の面110をフォトリソグラフィーとSiDeepRIE法で形成する。第二の基板106の上面と第二の面110の表面に金属層Ti/Pd/Au(各部の厚さ=20nm/20nm/200nm)を形成する。フォトリソグラフィーとドライエッチング法により金属層を整形する。スピンコート法とドライエッチング法により金属層のパターンをBCBで埋め込み、平坦化して、第二の基板106の上面に金属層とBCBのパターンを形成する。これは、上記ステップ(B)に対応する。
(3)活性層101を含む半導体層をエピタキシャル成長したInP基板を準備する。半導体層の上面に金属層Ti/Pd/Au(各部の厚さ=20nm/20nm/200nm)を形成する。InP基板と第一の基板105の上面を対向させて、Auの熱圧着法で2枚の基板を接合する。ここで、圧着接合により形成したTi/Pd/Au/Pd/Ti(各部の厚さ=20nm/20nm/400nm/20nm/20nm)が第一の導体層103となる。これは、上記ステップ(C)に対応する。従って、第一の導体層103と第一の面109は一体化した金属膜で構成されている。研磨及び塩酸エッチングにより、接合で一体化した基板からInP基板を除去して、半導体層を第一の基板105に転写する。フォトリソグラフィーとドライエッチング法により、半導体層と第一の導体層103を整形する。真空蒸着法とリフトオフ法を用いて、半導体層の上にTi/Pd/Au(各部の厚さ=20nm/20nm/200nm)からなる第二の導体層104を形成して導波路構造107の構造を整形する。スピンコート法によりBCBで導波路構造107を埋め込み、ドライエッチング法で平坦化する。
(4)第二の基板106の上面と第一の基板105の上面を対向させて、Au−Auパターン及びBCB−BCBパターンを熱圧着することで2枚の基板を接合する。このとき、半導体層の膜厚方向において、第一の面109と第二の面110とが向かい合うようにアライメントする。この際、第二の基板106の金属層と第二の導体層104とを接続することで、第二の導体層104と第二の面110とは一体化した金属膜で構成される。これは、上記ステップ(D)に対応する。
【0031】
本発明は、上記構成に限定されるものでない。例えば、本実施例では、活性層101として、InP基板上に成長したInGaAs/InAlAs、InGaAs/AlAsからなる3重障壁共鳴トンネルダイオードについて説明してきた。しかし、これらの構造や材料系に限られることなく、他の構造や材料の組み合わせであっても本発明に係る発振素子などの導波路を提供することができる。例えば、2重障壁量子井戸構造を有する共鳴トンネルダイオード、4重以上の多重障壁量子井戸を有する共鳴トンネルダイオード、量子カスケードレーザで知られるカスケード接続された多重量子井戸構造、ショットキーバリアダイオード等の整流素子、ガンダイオードなどの負性抵抗素子を用いてもよい。これらは何れも、発振素子、検出素子、増幅素子として好適である。また材料系としては、GaAs基板上のGaAs/AlGaAs/、GaAs/AlAs、InGaAs/GaAs/AlAs、InP基板上のInGaAs/AlGaAsSb、InAs基板上のInAs/AlAsSb、InAs/AlSb、Si基板上のSiGe/SiGeの組み合わせ等であってもよい。これら構造と材料は、所望される周波数などに応じて適宜選定すればよい。また、基板の材料は用途に応じて選定すればよく、シリコン基板、ガリウムヒ素基板、インジウムヒ素基板、ガリウムリン基板などの半導体基板や、ガラス基板、セラミック基板、樹脂基板などを用いてもよい。
【0032】
また、スペーサには、SiO、ポリシリコン、SiN、AlN、TiOなどの無機材料や、BCB(ベンゾシクロブテン)、SU−8、ポリイミドなどの有機材料が好適に用いられる。更に、低導電性の真性半導体を再成長したものを用いてもよい。また、本発明の素子の製造方法は、上記方法に限定されるものではない。例えば、フェムト秒レーザや超音波などを用いた微細加工や、従来のNC機械加工を用いてもよい。
【0033】
(実施例2)
本発明の実施例2である導波路500について、図4と図5を用いて説明する。活性層501は、非特許文献1に開示された量子カスケードレーザ構造を用いており、活性層501は10μm程度の厚さの半導体多層膜から構成されている。第一の導体層503と第二の導体層504については、DMWの構成を用いている。また、基板505、基板506、スペーサ508などのその他構成材料については、実施例1と同じ構成を用いており、略同じ製造方法で作製している。導波路構造507では、導体層503、504は、約2.6mm×0.15mmの矩形パターンであり、約3THzの発振が得られる設計となっている。ここで、本構成の発振周波数3THzにおける導波路構造507の等価屈折率は約3で、管内波長λを約30μmとしている。
【0034】
本実施例の導波路500は、導波路構造507の端に角錐ホーン型のホーンアンテナ515が一体成型された構成となっている。ホーンアンテナ515は、活性層501の積層方向の両側に向かって広がる面509、510と、その垂直方向の両側に向かって広がる面519、520を備えたテーパー構造を備えている。面509、510は、y軸に対して10°の傾斜面であり、表面を導電部材Ti/Pd/Au(各部の厚さ=20nm/20nm/200nm)で被覆している。また、面519、520は、y軸に対して10°の傾斜面であり、表面の一部は導電部材Ti/Pd/Au(各部の厚さ=20nm/20nm/200nm)で被覆されている。面509と面519、520の一部は第一の導体層503と電気的に接続されており、面510と面519、520の一部は第二の導体層504と電気的に接続されている。面519、520のうち、導電部材で被覆されていない領域はDCカット部521となっている。ホーンアンテナ515は、z軸方向の開口幅が0.5mm、x軸方向の開口幅が1mm、z軸方向の開き角が約20°、x軸方向の開き角が約40°、最外部の開口面から導波路構造507の端までの長さが1.4mmの角錐ホーンとなっている。
【0035】
このような構成は、導波路500の導波路構造507から放射される電磁波について、導波路構造507の横方向(活性層の積層方向と垂直な方向)の指向パターンを調整する際に好適に用いられる。
【0036】
(実施例3)
本発明の実施例3である電磁波分析装置について、図7を用いて説明する。
【0037】
図7に示すように、本実施例の電磁波分析装置は、例えば実施例1で説明した導波路を備えた電磁波を発振する為の発振素子700a〜700dを並べて配置し、発振周波数f1〜fの電磁波を発生させる。また、それぞれの電磁波は放物面鏡740で平行ビームとして伝播し、検体となる対象物体720に照射され、透過光がレンズ730で集光され検出素子部710a〜710dで受信される。ここで、検出素子710a〜710dは実施例1で説明した導波路を備えた電磁波を検出する為の検出素子である。なお、本実施例では透過配置にしているが、反射配置で検査しても良い。
【0038】
例えば、記憶装置に、予め検出器710a〜710dで受信すべき強弱の組み合わせパターンを記憶させておく。また、検査物質720が周波数f1〜fのうち、いずれか1つまたは複数の特定な吸収スペクトルを有していたとする。このとき、検査物質720の吸収スペクトルと、記憶させておいたパターンと比較することにより、検査したい物質が対象物体72中に含まれているか否かを判別することができる。なお、本実施例では、本発明の導波路を発振素子および検出素子に用いたが、本発明の導波路を発振素子および検出素子の少なくとも一方に用いれば、電磁波を効率的に利用出来る電磁波分析装置を実現できる。
【0039】
以上、本発明の実施形態と実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態と実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
100・・導波路、101・・活性層(コア層)、103・・第一の導体層、104・・第二の導体層、107・・導波路構造、115・・テーパー構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波に対する誘電率実部が負である第一の導体層と第二の導体層との間を前記電磁波が導波する導波路であって、
電磁波が出射または入射する当該導波路の部分に、テーパー構造を備え、
光軸に垂直な前記テーパー構造の空間断面が、該テーパー構造の最外部の開口面に近づくに従って、少なくとも前記光軸と直交する1つの方向に前記光軸を挟んで両側に広がることを特徴とする導波路。
【請求項2】
導波モードの電磁波に対する誘電率実部が負の負誘電率媒質の第一の導体層と第二の導体層と、前記2つの導体層に接し且つ前記2つの導体層の間に配置された半導体部を含む積層構造のコア層と、を有し、
前記テーパー構造を、前記電磁波が出射または入射する、前記第一の導体層と前記第二の導体層と前記コア層とで規定される当該導波路の端に備え、
前記テーパー構造の空間断面が、該テーパー構造の最外部の開口面に近づくに従って、少なくとも前記積層構造のコア層の積層方向に該積層方向と垂直な積層面を挟んで両側に広がることを特徴とする請求項1に記載の導波路。
【請求項3】
前記コア層は電磁波利得を有し、前記第一及び第二の導体層は、発振モードの電磁波に対する誘電率実部が負であり、発振素子として構成されていることを特徴とする請求項2に記載の導波路。
【請求項4】
前記第一及び第二の導体層は、検出する電磁波に対する誘電率実部が負であり、検出素子として構成されていることを特徴とする請求項2に記載の導波路。
【請求項5】
前記テーパー構造は前記コア層の積層方向に対して傾斜する第一の面と第二の面を備え、前記第一及び第二の面は互いに向かい合って配置されることを特徴とする請求項2から4の何れか1項に記載の導波路。
【請求項6】
前記第一の導体層と前記第一の面とが電気的に接続され、且つ、前記第二の導体層と前記第二の面とが電気的に接続されることを特徴とする請求項5に記載の導波路。
【請求項7】
前記第一の導体層と接し、前記第一の面を備えた第一の基板と、
前記第二の導体層と接し、前記第二の面を備えた第二の基板と、を備え、
前記第一の基板、前記第一の導体層、前記コア層、前記第二の導体層、前記第二の基板の順に積層された構成であることを特徴とする請求項5または6に記載の導波路。
【請求項8】
前記コア層は、キャリアのサブバンド間遷移によりテラヘルツ波を発生する多重量子井戸構造を含み構成されることを特徴とする請求項2から7の何れか1項に記載の導波路。
【請求項9】
前記電磁波の波長をλ、当該導波路の等価屈折率をnとして、λ=λ/nと表すとき、前記第一の導体層と前記第二の導体層は導波モードないし発振モードの管内波長(λg)以下の距離に近接することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の導波路。
【請求項10】
前記テーパー構造は、当該導波路と電気的に結合されていることを特徴とする請求項1から9の何れか1項に記載の導波路。
【請求項11】
前記テーパー構造は、導波管の切り口を徐々に広くして自由空間に整合させるようにしたホーンアンテナであることを特徴とする請求項1から10の何れか1項に記載の導波路。
【請求項12】
電磁波を発振する発振素子と、物体を透過または該物体で反射した前記電磁波を検出する検出素子と、を備える電磁波分析装置であって、
前記発振素子及び前記検出素子の少なくとも一方は、請求項1から11の何れか1項に記載の導波路を有する、
ことを特徴とする電磁波分析装置。
【請求項13】
導波モードの電磁波に対する誘電率実部が負の負誘電率媒質の第一の導体層と第二の導体層とからなるクラッドと、前記2つの導体層の間に配置された半導体部を含む積層構造のコア層と、を有する導波路の製造方法であって、次の(A)から(D)のステップを少なくとも含むことを特徴とする製造方法、
(A)第一の基板に、該基板の板厚方向に傾斜した第一の面を形成するステップ、
(B)第二の基板に、該基板の板厚方向に傾斜した第二の面を形成するステップ、
(C)前記第一の導体層と前記第一の基板を接合するステップ、
(D)前記コア層の膜厚方向において前記第一の面と前記第二の面とが向かい合うように前記第二の導体層と前記第二の基板を接合するステップ。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法により製造される導波路を用いて発振素子を製造する発振素子の製造方法であって、
前記コア層を、電磁波利得を有する半導体層として形成し、
前記導波路を、発振素子の共振器として形成することを特徴とする発振素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−70361(P2013−70361A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−173724(P2012−173724)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】