説明

導通検査装置および導通検査方法

【課題】多重配線パターンに断線が発生していることを確実かつ安価に検出することが可能な導通検査装置および導通検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】第1の端子と第2の端子を有し、かつ第1および第2の端子を電気的に接続する複数の配線を有する多重配線パターンの導通検査を行う導通検査装置100であって、第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値を測定するインダクタンス測定部110と、インダクタンス値と所定の導通判定用閾値とを比較し、その結果、インダクタンス値が導通判定用閾値よりも大きければ多重配線パターンに断線が発生していると判定し、そうでなければ断線が発生していないと判定する導通判定部120と、導通判定用閾値を記憶する記憶部130と、導通判定部120による判定結果を表示する表示部140と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導通検査装置および導通検査方法、より詳しくは、プリント配線板に設けられた多重配線パターンの導通検査装置および導通検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板に設けられた配線パターンの導通検査の方式には、主として、ピンコンタクト方式および非接触方式があることが知られている(特許文献1)。
【0003】
ピンコンタクト方式では、検査対象となるプリント配線板の配線パターンの両端にプローブピンを直接接触させ、一方のプローブピンに電流を流す。そして、他方のプローブピンで検出された電圧値から、配線パターンの直流抵抗値を求めることにより、配線パターンの導通検査を行う(特許文献1の段落[0002],[0003]参照)。
【0004】
一方、非接触方式では、検査対象となるプリント配線板の配線パターンの一端にプローブピンを直接接触させて交流成分を含む検査信号を印加し、他端において非接触の容量結合を介して当該検査信号を検出することで、配線パターンの導通検査を行う(特許文献1の段落[0004]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3311698号
【特許文献2】特開2002−148290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記いずれの検査方法を用いても、多重配線パターンの導通検査を行うことは困難である。多重配線パターンとは、第1の端子と第2の端子を有し、第1および第2の端子を電気的に接続する配線を複数有する配線パターンをいう。多重配線パターンは、例えば、回路のインピーダンスを低下させる用途や、大電流を複数の配線に分散させて1本の配線に流れる電流を低下させる用途などに用いられる。
【0007】
図7は、多重配線パターンの構成例を示している。図7(a)は、多重配線パターンが設けられた両面プリント配線板51の上面図であり、図7(b)は、図7(a)のA−A’線に沿う断面図である。絶縁基板52の表面および裏面にはそれぞれ、導体パターン53Aおよび導体パターン53Bが形成されている。なお、図7(a)に示すように、導体パターン53Bは導体パターン53Aよりも太く形成されている。
【0008】
導体パターン53Aは、配線54と、配線54の両端に端子55および端子56とを有する。同様に、導体パターン53Bは、配線57と、配線57の両端に端子58および端子59とを有する。そして、図7(b)に示すように、端子55および端子58は貫通ビア60により電気的に接続され、同様に、端子56および端子59は貫通ビア61により電気的に接続されている。このように、両面プリント配線板51には、2つの配線を有する多重配線パターンが設けられている。
【0009】
即ち、第1の端子としての端子55と、第2の端子としての端子56とを有するとともに、第1の端子および第2の端子を電気的に接続する第1の配線および第2の配線を有する。第1の配線は配線54であり、第2の配線は、導体パターン53B、貫通ビア60および貫通ビア61から構成される。
【0010】
第2の配線の抵抗は、導体パターン53Bが導体パターン53Aよりも細く形成されているのに加えて貫通ビア60および61による抵抗が存在するため、第1の配線の抵抗よりも大きい。このため、ピンコンタクト方式により導通検査を行った場合、配線を構成する各要素の寸法ばらつきによっては、第2の配線よりも抵抗値の低い第1の配線が断線していることを検出できないおそれがある。
【0011】
非接触方式により導通検査を行った場合には、第1の配線および第2の配線のうちいずれか一方が断線したとき、断線していない配線から検査信号が検出される。このため、非接触方式では、第1の配線および第2の配線のいずれか一方が断線していることを検出することは原理的に不可能である。
【0012】
このように、ピンコンタクト方式および非接触方式では、多重配線パターンを構成する複数の配線のうち一部の配線が断線していることを確実に検出することができない。
【0013】
なお、多重配線パターンの断線を検出する方法としては、TDR(タイム・ドメイン・リフレクトメリ)オシロスコープを用いる方法が挙げられる(特許文献2参照)。TDRオシロスコープを用いれば、原理的には、多重配線パターンの一部が断線していることも検出できる。しかし、TDRオシロスコープ装置は高価であることから、検査費用が増大するという問題がある。
【0014】
本発明は、上述の認識に基づいてなされたものであり、多重配線パターンに断線が発生していることを確実かつ安価に検出することが可能な導通検査装置および導通検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、第1の端子と第2の端子を有し、かつ前記第1および第2の端子を電気的に接続する複数の配線を有する多重配線パターンの導通検査を行う導通検査装置であって、前記第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値を測定するインダクタンス測定部と、前記インダクタンス値と導通判定用閾値とを比較し、前記インダクタンス値が前記導通判定用閾値よりも大きければ前記多重配線パターンに断線が発生していると判定し、そうでなければ断線が発生していないと判定する導通判定部と、を備えることを特徴とする導通検査装置が提供される。
【0016】
本発明の別態様によれば、第1の端子と第2の端子を有し、かつ前記第1および第2の端子を電気的に接続する複数の配線を有する多重配線パターンの導通検査を行う導通検査方法であって、前記第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値を測定し、前記インダクタンス値と導通判定用閾値とを比較し、前記インダクタンス値が前記導通判定用閾値よりも大きければ前記多重配線パターンに断線が発生していると判定し、そうでなければ断線が発生していないと判定することを特徴とする導通検査方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多重配線パターンに断線が発生していることを確実かつ安価に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る導通検査装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【図2】四端子対法によるインダクタンス測定部の構成を示す図である。
【図3】配線の寸法ばらつきを考慮した場合における、多重配線パターンのインダクタンス値の範囲を示すグラフである。
【図4】多重配線パターンのインダクタンス値の測定結果を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る導通検査装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【図6】第2の実施形態に係る導通検査方法を示すフローチャートである。
【図7】(a)は両面プリント配線板に設けられた多重配線パターンの構成例を示す上面図であり、(b)は(a)のA−A’線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において同等の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、同一符号の構成要素の詳しい説明は繰り返さない。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る導通検査装置100の概略的な構成を示すブロック図である。導通検査装置100は、インダクタンス測定部110と、導通判定部120と、記憶部130と、表示部140とを備える。
【0021】
インダクタンス測定部110は、多重配線パターンの第1の端子と第2の端子間のインダクタンス値を測定する。測定方法としては2端子法や4端子法が挙げられるが、測定電流により生じる磁束の影響を軽減可能な4端子対法が好ましい。4端子対法によるインダクタンス値の測定については、後で図2を用いて説明する。
【0022】
導通判定部120は、インダクタンス測定部110により測定されたインダクタンス値と、所定の判定閾値(導通判定用閾値)とを比較する。その結果、インダクタンス値が導通判定用閾値よりも大きければ、導通判定部120は、多重配線パターンに断線が発生していると判定し、そうでなければ断線は発生していないと判定する。
【0023】
この導通判定用閾値は、多重配線パターンに断線が発生しているときの第1の端子と第2の端子間のインダクタンス値(断線インダクタンス値)よりも小さく、かつ、断線が発生していないときの第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値(非断線インダクタンス値)よりも大きい値が用いられる。なお、好ましくは、断線インダクタンス値は、多重配線パターンの寸法ばらつきによって断線時のインダクタンス値がとり得る範囲の下限値であり、非断線インダクタンス値は、多重配線パターンの寸法ばらつきによって非断線時のインダクタンス値がとり得る範囲の上限値である。
【0024】
記憶部130は、例えばハードディスク(HDD)、又はフラッシュメモリなどの不揮発性のメモリであり、上記の導通判定用閾値などを記憶する。導通判定部120は、記憶部130から導通判定用閾値を読み出し、インダクタンス測定部110により測定されたインダクタンス値(又は、後述の抵抗測定部150により測定された抵抗値)と導通判定用閾値を比較する。
【0025】
表示部140は、例えば液晶ディスプレイまたはプリンタであり、導通判定部120による判定結果を表示する。
【0026】
次に、4端子対法を採った場合のインダクタンス測定部110の構成について説明する。図2は、インダクタンス測定部110を構成するインダクタンス・メータ16、ケルビンプローブ12,13および同軸ケーブル21〜24と、検査対象の両面プリント配線板1とを示している。
【0027】
まず、両面プリント配線板1の構成について説明する。絶縁基板2の表面および裏面にはそれぞれ、導体パターン3Aおよび導体パターン3Bが形成されている。導体パターン3Aは、配線4と、配線4の両端に端子5および端子6とを有する。同様に、導体パターン3Bは、配線7と、配線7の両端に端子8および端子9とを有する。
【0028】
図2に示すように、端子5および端子8は貫通ビア10により電気的に接続され、同様に、端子6および端子9は貫通ビア11により電気的に接続されている。このように、両面プリント配線板1には、第1の端子としての端子5と、第2の端子としての端子6とを有するとともに、第1の端子および第2の端子を電気的に接続する2本の配線(第1の配線および第2の配線)を有する。第1の配線は配線4であり、第2の配線は、導体パターン3B、貫通ビア10および貫通ビア11から構成される配線である。
【0029】
なお、本発明が検査対象とする多重配線パターンの配線数は2本に限らず、3本以上でもよい。また、多重配線パターンを構成する複数の配線は、図2のようにプリント配線板の垂直方向(厚さ方向)に分岐する場合に限らず、水平方向に分岐してもよいし、分岐方向は任意である。
【0030】
次に、インダクタンス測定部110を構成するインダクタンス・メータ16、ケルビンプローブ10,11および同軸ケーブル21〜24について説明する。
【0031】
インダクタンス・メータ16は、多重配線パターンの端子5に測定用の交流電流を流す交流信号源17と、端子6から流れ出た交流電流を測定する交流電流計18と、端子5および端子6間の電圧を測定する交流電圧計19とを有する。
【0032】
図2に示すように、インダクタンスを測定する際、ケルビンプローブ12を端子5に接触させ、ケルビンプローブ13を端子6に接触させる。
【0033】
ケルビンプローブ12はプローブピン12aおよび12bを有し、ケルビンプローブ13はプローブピン13aおよび13bを有する。
【0034】
また、インダクタンス・メータ16は、Hc、Hp、LcおよびLpの4つの端子を有する。Hc端子は、同軸ケーブル21およびケルビンプローブ12のプローブピン12aを介して端子5と電気的に接続される。Hp端子は、同軸ケーブル23およびケルビンプローブ12のプローブピン12bを介して端子5と電気的に接続される。Lc端子は、同軸ケーブル22およびケルビンプローブ13のプローブピン13bを介して端子6と電気的に接続される。Lp端子は、同軸ケーブル24およびケルビンプローブ13のプローブピン13aを介して端子6と電気的に接続される。
【0035】
図2に示すように、同軸ケーブル21〜24の外部導体21b〜24bは互いに導体25により電気的に接続されている。
【0036】
同軸ケーブル21は、交流信号源17の出力端子と電気的に接続された中心導体21a、および交流信号源17の入力端子と電気的に接続された外部導体21bを有する。同軸ケーブル22は、交流電流計18の入力端子と電気的に接続された中心導体22a、および交流電流計18の出力端子と電気的に接続された外部導体22bを有する。同軸ケーブル23は、交流電圧計19の一方の端子と電気的に接続された中心導体23aと、同軸ケーブル21の外部導体21bと電気的に接続された外部導体23bとを有する。同軸ケーブル24は、交流電圧計19の他方の端子と電気的に接続された中心導体24aと、同軸ケーブル22の外部導体22bおよび同軸ケーブル23の外部導体23bと電気的に接続された外部導体24bとを有する。
【0037】
プローブピン12aは、同軸ケーブル21の中心導体21aと電気的に接続されている。プローブピン12bは、同軸ケーブル23の中心導体23aと電気的に接続されている。プローブピン13aは、同軸ケーブル24の中心導体24aと電気的に接続されている。プローブピン13bは、同軸ケーブル22の中心導体22aと電気的に接続されている。
【0038】
Hc端子は、交流信号源17と接続され、プローブピン12aを介して端子5に交流信号を印加する。端子5に印加された交流信号は、多重配線パターンを通り、端子6からプローブピン13b、そしてLc端子を通り、交流電流計18に入力される。交流電流計18から出力されたリターン電流は、同軸ケーブル21〜24の外部導体(シールド部)21b〜24bを通り、交流信号源17に戻る。
【0039】
また交流電圧計19は、インダクタンス・メータ16のHp端子およびLp端子に接続されており、端子5および端子6間の電圧を測定する。
【0040】
上記の接続方法は4端子対法と呼ばれる。交流信号源17から出力された交流電流は同軸ケーブル21,22の中心導体21a,22aを流れる。一方、リターン電流は同軸ケーブル21〜24の外部導体21b〜24bを流れて交流信号源17に戻る。このように測定電流とリターン電流が逆方向に流れるため、これらの電流により発生する磁界が打ち消され、外部に磁界を発生しない。このため、同軸ケーブル21〜24上に自己インダクタンスおよび相互インダクタンスが発生せず、インダクタンス測定部110は微小なインダクタンスを測定することができる。よって、配線4および配線7のいずれか一方が断線しているときのインダクタンスと、配線4および配線7の両方とも非断線のときのインダクタンスとの間のわずかな差を測定できる。
【0041】
インダクタンス測定部110は、交流電圧計19により測定された交流電圧と、交流電流計18により測定された交流電流との比を計算することにより、端子5および端子6間のインダクタンス値を得る。
【0042】
上記のインダクタンス測定方法はI−V法とも呼ばれ、他の測定方法と比べて、安価な構成で実現でき、また、比較的低い周波数帯域(例えば1kHz〜10MHz)での測定を安定的に行うことができる。
【0043】
図2中の破線は、断線が発生していない場合の測定用の交流電流の経路を示している。もし第1の配線において断線が発生している場合、交流電流は第2の配線を通る。反対に、第2の配線において断線が発生している場合、交流電流は第1の配線を通る。
【0044】
第1の配線のインダクタンスをL1、第2の配線のインダクタンスをL2とする。そして、第1の配線と第2の配線の合成インダクタンスをL1_2とする。第1の配線および第2の配線がともに断線していない場合、合成インダクタンスL1_2は(L1×L2)/(L1+L2)となる。一方、第1の配線および第2の配線のいずれか一方に断線が発生している場合(即ち、片側断線の場合)、合成インダクタンスはL1またはL2となる。なお、第1の配線および第2の配線の両方に断線が発生している場合、インダクタンス値は0となる。
【0045】
プリント配線板に設けられた導体パターンのインダクタンスLは、近似的に式(1)を用いて算出することができる(http://www.zuken.co.jp/clubZ/z/analog/006/ana/ana_110120_1.html参照)。
【数1】

ここで、l:配線長(mm)、W:配線幅(mm)、T:配線厚(mm)である。
【0046】
式(1)を用いて、第1の配線のインダクタンス値(L1)および第2の配線のインダクタンス値(L2)を求める。ここでは、簡単のため、導体パターン3Aと導体パターン3Bの大きさ(長さ、幅、厚み)は同一とし、第2の配線については、貫通ビア10,11を無視し、導体パターン3Bのみを考慮する。
【0047】
配線長l=50mm、配線幅W=100μm、配線厚T=30μmとした場合、インダクタンスL1およびL2の値は、式(1)からそれぞれ71.5nHとなる。このインダクタンス値は、第1の配線および第2の配線のいずれか一方のみが断線した場合の値である。また、第1の配線および第2の配線のいずれも非断線の場合の合成インダクタンスL1_2は、35.7nHとなる。
【0048】
このように、多重配線パターンに片側断線が発生すると、相互インダクタンスが消滅し非断線の配線の自己インダクタンスのみとなることから、インダクタンス値が大きくなる。これを利用することで、第1の配線および第2の配線のうちいずれか一方が断線したことを検出することができる。なお、前述のように、第1の配線および第2の配線の両方に断線が発生している場合には、第1の端子と第2の端子間のインダクタンス値は0となる。よって、インダクタンス値の測定により、第1の配線および第2の配線が両方とも断線していることも検出できる。
【0049】
ところで、実際に製造された配線の配線幅Wおよび配線厚Tには、一定の寸法ばらつきがある。よって、多重配線パターンの導通検査をより確実に行うためには、配線の寸法ばらつきを考慮することが望ましい。配線幅Wのばらつきは、例えば±10%と見積もることができ、この場合に配線幅Wのとり得る値の範囲は、100±10μmである。また、配線厚のばらつきは、例えば±50%と見積もることができ、この場合に配線厚Tのとり得る値の範囲は、30μm±15μmである。なお、厚み方向の寸法ばらつきが幅方向に比べて相対的に大きい理由は、導体パターン3A,3Bを銅めっきにより形成することを想定したためである。
【0050】
式(1)を用いて、片側断線および非断線の場合のそれぞれについて、寸法ばらつきを考慮したインダクタンス値の範囲を算出した。図3は、その計算結果を示しており、非断線時における多重配線パターンのインダクタンス値は、34.9〜36.8nHであり、片側断線時における多重配線パターンのインダクタンス値は、69.7〜73.6nHである。
【0051】
このように、寸法ばらつきを考慮しても、片側断線時のインダクタンス値と非断線時のインダクタンス値との差分Δは、32.9nH(=69.7−36.8nH)以上確保されており、測定されたインダクタンス値から片側断線を検出することができる。
【0052】
次に、インダクタンスを繰り返し測定したときの測定値のばらつき(測定誤差)を考慮しても、多重配線パターンに片側断線が発生しているか否かの判定が可能であることを説明する。
【0053】
交流信号源17の出力する交流電流の周波数をパラメータとして、図2で説明した4端子対法により多重配線パターンのインダクタンス値を測定した。なお、測定した多重配線パターンの構成は、図3の計算に用いた多重配線パターンの構成とは異なる。測定に用いた周波数は、1kHz、10kHz、100kHz、1MHz、10MHzの5種類であり、各周波数についてインダクタンスを3回測定した。
【0054】
図4(a)は測定結果を示しており、図4(b)は測定結果を元に計算された、インダクタンスの平均値、最大値および最小値を示している。また、最大値および最小値については、平均値からのずれを変化率としてかっこ内に示している。図4(b)に示すように、上記測定で得られたインダクタンス値の変化率は、最大でも4%であった。
【0055】
図3に示す計算例において、片側断線時におけるインダクタンスの下限値と、非断線時におけるインダクタンスの上限値との平均値(53.3nH)を導通判定用閾値とする場合を考える。このとき、片側断線時におけるインダクタンスの下限値と導通判定用閾値との差分(Δ/2)、および非断線時におけるインダクタンスの上限値と導通判定用閾値との差分(Δ/2)は、いずれも約20%以上の変化率に相当する。よって、繰返し測定によるインダクタンス値の変化率(最大4%)は、インダクタンス値の差分Δに比べて十分低いと言える。よって、測定誤差を考慮しても、測定されたインダクタンス値から片側断線を検出することが可能である。
【0056】
上記のように、本実施形態によれば、測定周波数1kHz〜10MHzのうちインダクタンス値の変化率が最も大きくなる測定周波数1kHzにおいても、多重配線パターンの断線を検出することが可能である。インダクタンス・メータ16は測定周波数が高くなるほど高価になる傾向にあるので、比較的低い周波数で測定することにより多重配線パターンの導通検査の費用を下げることができる。
【0057】
次に、導通判定用閾値の決定方法について具体的に説明する。
【0058】
まず、寸法が既知の多重配線パターン(好ましくは設計寸法通りに作製された多重配線パターン)について、断線時のインダクタンス値および非断線時のインダクタンス値を測定する。なお、これらのインダクタンス値として、電磁界シミュレーションなどにより得られた計算値を用いてもよい。
【0059】
次に、前述のようにインダクタンス値に寸法ばらつきを加味して、断線時のインダクタンス値のとり得る範囲および非断線時のインダクタンス値のとり得る範囲をそれぞれ求める。そして、断線時のインダクタンスの下限値より小さく、かつ非断線時のインダクタンスの上限値より大きい値を導通判定用閾値とする。なお、寸法ばらつきを考慮せずに、断線時のインダクタンス値と非断線時のインダクタンス値の平均値を導通判定用閾値としてもよい。
【0060】
また、多重配線パターンを構成する配線が3本以上であっても、本発明を適用することが可能である。例えば、第1の端子と第2の端子を電気的に接続する配線の数がn本であり、各配線のインダクタンス値が同じ(L)であると仮定する。この場合、全ての配線が非断線のときの合成インダクタンスはL/nであり、1本の配線が断線しているときの合成インダクタンスはL/(n−1)である。よって、L/nより大きく、L/(n−1)より小さい値を導通判定用閾値とすればよい。好ましくは、これらの合成インダクタンスの平均値である{(2n−1)/2n(n−1)}Lを導通判定用閾値とする。
【0061】
以上説明したように、本実施形態では、1kHz〜10MHzの測定周波数で4端子対法を用いて多重配線パターンのインダクタンス値を測定し、測定されたインダクタンス値を所定の導通判定用閾値と比較する。これにより、配線の幅や厚みのばらつき及び測定誤差を考慮しても、多重配線パターンの断線を確実に検出することができる。
【0062】
また、配線長の変化に対する感度は、一般に、直流抵抗よりもインダクタンスの方が高い。このため、本実施形態によれば、ピンコンタクト方式に比べて高い精度で断線を検出することが可能である。
【0063】
さらに、上記のように比較的低い測定周波数を用いることで、インダクタンス測定部(インダクタンス・メータ)をTDRオシロスコープ等に比べて安価に作製できる。その結果、多重配線パターンの導通検査の費用を抑えることができる。
【0064】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る導通検査装置100Aについて、図5を用いて説明する。第2の実施形態と第1の実施形態との相違点の一つは、導通検査装置100Aが抵抗測定部150を備えることである。以下、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0065】
導通検査装置100Aは、インダクタンス測定部110、導通判定部120、記憶部130および表示部140に加えて、端子5と端子6間の抵抗値を測定する抵抗測定部150を備える。
【0066】
より詳しくは、抵抗測定部150は、多重配線パターンに直流電流(I)を流す直流電流源と、端子5および端子6間に発生する電圧(V)を測定する直流電圧計とを有し、電圧と電流の比(V/I)を計算することにより多重配線パターンの端子間の直流抵抗値を得る。
【0067】
導通判定部120は、抵抗測定部150により測定された抵抗値と、所定の判定閾値(オープン判定用閾値)とを比較する。このオープン判定用閾値は、数MΩ程度の十分大きい値に設定される。その結果、抵抗値がオープン判定用閾値よりも大きければ、多重配線パターンを構成する配線が全て断線していると判定する。この場合、前述のインダクタンス値を用いた導通検査は行わず、検査対象のプリント配線板は不良品と判定する。反対に、抵抗値がオープン判定用閾値よりも小さければ、第1の実施形態で説明したインダクタンス値による導通検査を行う。
【0068】
なお、導通判定部120は、断線の有無の判定に加えて、短絡の有無の判定を行ってもよい。即ち、抵抗測定部150により測定された抵抗値を所定の判定閾値(ショート判定用閾値)と比較する。このショート判定用閾値は、数Ω程度の十分小さい値に設定される。抵抗値がショート判定用閾値よりも小さければ、多重配線パターン(第1および第2の配線以外の部位など)に短絡が発生していると判定してもよい。
【0069】
図6のフローチャートを用いて、第2の実施形態に係る導通検査方法について説明する。
【0070】
(1)まず、抵抗測定部150は、前述のようにして多重配線パターンの端子5および端子6間の抵抗値を測定する(ステップS11)。
【0071】
(2)導通判定部120は、抵抗値とオープン判定用閾値との比較を行い、多重配線パターンを構成する配線が全て断線しているか否かを判定する(ステップS12)。もし配線が全て断線していると判定した場合には、検査対象のプリント配線板は不良品であると判定し(ステップS13)、そうでなければ、ステップS14に進む。
【0072】
(3)インダクタンス測定部110は、4端子対法などを用いて多重配線パターンの端子5および端子6間のインダクタンス値を測定する(ステップS14)。
【0073】
(4)導通判定部120は、インダクタンス値と導通判定用閾値との比較を行い、多重配線パターンに断線が発生しているか否かを判定する(ステップS15)。もし多重配線パターンに断線が発生してないと判定した場合には、検査対象のプリント配線板は正常品であると判定し(ステップS16)、そうでなければ、不良品であると判定する(ステップS13)。
【0074】
このように、第2の実施形態では、第1の実施形態で説明したインダクタンス値による導通検査を行う前に、抵抗値を測定し、多重配線パターンを構成する配線が全て断線しているか否かを判定する。これにより、比較的精度の高い閾値設定が必要なインダクタンス測定の回数を減らし、より効率的に多重配線パターンの導通検査を行うことができる。
【0075】
なお、実際の導通検査では複数の多重配線パターンについて検査を行うことから、抵抗値の測定とインダクタンス値の測定とを並行して行ってもよい。例えば、ある多重配線パターンについて抵抗値を測定した結果、正常であると判定されてインダクタンス値を測定する場合、このインダクタンス値の測定が終了する前に、他の多重配線パターンの抵抗値の測定を行ってもよい。
【0076】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1,51 両面プリント配線板
2,52 絶縁基板
3A,3B,53A,53B 導体パターン
4,7,54,57 配線
5,6,8,9,55,56,58,59 端子
10,11,60,61 貫通ビア
12、13 ケルビンプローブ
12a,12b,13a,13b プローブピン
16 インダクタンス・メータ
17 交流信号源
18 交流電流計
19 交流電圧計
21,22,23,24 同軸ケーブル
21a,22a,23a,24a 中心導体
21b,22b,23b,24b 外部導体(シールド部)
25 導体
100,100A 導通検査装置
110 インダクタンス測定部
120 導通判定部
130 記憶部
140 表示部
150 抵抗測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端子と第2の端子を有し、かつ前記第1および第2の端子を電気的に接続する複数の配線を有する多重配線パターンの導通検査を行う導通検査装置であって、
前記第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値を測定する、インダクタンス測定部と、
前記インダクタンス値と導通判定用閾値とを比較し、前記インダクタンス値が前記導通判定用閾値よりも大きければ前記多重配線パターンに断線が発生していると判定し、そうでなければ断線が発生していないと判定する、導通判定部と、
を備えることを特徴とする導通検査装置。
【請求項2】
前記導通判定用閾値は、
前記多重配線パターンに断線が発生しているときの前記第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値である断線インダクタンス値よりも小さく、かつ、前記多重配線パターンに断線が発生していないときの前記第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値である非断線インダクタンス値よりも大きい値であることを特徴とする請求項1に記載の導通検査装置。
【請求項3】
前記断線インダクタンス値は、前記多重配線パターンの寸法ばらつきによって断線時のインダクタンス値がとり得る範囲の下限値であり、前記非断線インダクタンス値は、前記多重配線パターンの寸法ばらつきによって非断線時のインダクタンス値がとり得る範囲の上限値であることを特徴とする請求項2に記載の導通検査装置。
【請求項4】
前記導通判定用閾値は、前記断線インダクタンス値と非断線インダクタンス値の平均値であることを特徴とする請求項2に記載の導通検査装置。
【請求項5】
前記インダクタンス測定部は、
前記多重配線パターンの前記第1の端子に測定用の交流電流を流す交流信号源と、
前記第2の端子から流れ出た前記交流電流を測定する交流電流計と、
前記第1の端子および前記第2の端子間の電圧を測定する交流電圧計と、
を有するインダクタンス・メータを備え、さらに、
前記交流信号源の出力端子と電気的に接続された中心導体、および前記交流信号源の入力端子と電気的に接続された外部導体を有する第1の同軸ケーブルと、
前記交流電流計の入力端子と電気的に接続された中心導体、および前記交流電流計の出力端子と電気的に接続された外部導体を有する第2の同軸ケーブルと、
前記交流電圧計の一方の端子と電気的に接続された中心導体と、前記第1の同軸ケーブルの外部導体と電気的に接続された外部導体とを有する第3の同軸ケーブルと、
前記交流電圧計の他方の端子と電気的に接続された中心導体と、前記第2の同軸ケーブルの外部導体および前記第3の同軸ケーブルの外部導体と電気的に接続された外部導体とを有する第4の同軸ケーブルと、
前記第1の同軸ケーブルの中心導体と電気的に接続され、前記第1の端子に接触可能な第1のプローブピンと、
前記第2の同軸ケーブルの中心導体と電気的に接続され、前記第2の端子に接触可能な第2のプローブピンと、
前記第3の同軸ケーブルの中心導体と電気的に接続され、前記第1の端子に接触可能な第3のプローブピンと、
前記第4の同軸ケーブルの中心導体と電気的に接続され、前記第2の端子に接触可能な第4のプローブピンと、
を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の導通検査装置。
【請求項6】
前記交流電流の周波数は、1kHz〜10MHzの範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の導通検査装置。
【請求項7】
前記第1の端子と前記第2の端子間の抵抗値を測定する、抵抗測定部をさらに備え、
前記導通判定部は、前記抵抗値とオープン判定用閾値とを比較し、前記抵抗値が前記オープン判定用閾値よりも大きければ、前記複数の配線が全て断線していると判定し、前記インダクタンス値を用いた導通検査を行わないことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の導通検査装置。
【請求項8】
前記導通判定部は、前記抵抗値とショート判定用閾値を比較して、前記抵抗値が前記ショート判定用閾値よりも小さければ、前記多重配線パターンに短絡が発生していると判定することを特徴とする請求項7に記載の導通検査装置。
【請求項9】
第1の端子と第2の端子を有し、かつ前記第1および第2の端子を電気的に接続する複数の配線を有する多重配線パターンの導通検査を行う導通検査方法であって、
前記第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値を測定し、
前記インダクタンス値と導通判定用閾値とを比較し、前記インダクタンス値が前記導通判定用閾値よりも大きければ前記多重配線パターンに断線が発生していると判定し、そうでなければ断線が発生していないと判定する、
ことを特徴とする導通検査方法。
【請求項10】
前記多重配線パターンに断線が発生しているときの前記第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値である断線インダクタンス値よりも小さく、かつ、前記多重配線パターンに断線が発生していないときの前記第1の端子と前記第2の端子間のインダクタンス値である非断線インダクタンス値よりも大きい値を、前記導通判定用閾値として用いることを特徴とする請求項9に記載の導通検査方法。
【請求項11】
前記断線インダクタンス値として、前記多重配線パターンの寸法ばらつきによって断線時のインダクタンス値がとり得る範囲の下限値を用い、前記非断線インダクタンス値として、前記多重配線パターンの寸法ばらつきによって非断線時のインダクタンス値がとり得る範囲の上限値を用いることを特徴とする請求項10に記載の導通検査方法。
【請求項12】
前記導通判定用閾値として、前記断線インダクタンス値と非断線インダクタンス値の平均値を用いることを特徴とする請求項10に記載の導通検査装置。
【請求項13】
前記インダクタンス値の測定は、4端子対法により行うことを特徴とする請求項9ないし12のいずれかに記載の導通検査方法。
【請求項14】
前記インダクタンス値の測定に用いる交流電流の周波数は、1kHz〜10MHzの範囲にあることを特徴とする請求項13に記載の導通検査方法。
【請求項15】
前記インダクタンス値を測定する前に、前記第1の端子と前記第2の端子間の抵抗値を測定し、前記抵抗値とオープン判定用閾値とを比較し、前記抵抗値が前記オープン判定用閾値よりも大きければ、前記複数の配線が全て断線していると判定し、前記インダクタンス値を用いた導通検査を行わないことを特徴とする請求項9ないし14のいずれかに記載の導通検査方法。
【請求項16】
前記抵抗値とショート判定用閾値を比較して、前記抵抗値が前記ショート判定用閾値よりも小さければ、前記多重配線パターンに短絡が発生していると判定することを特徴とする請求項15に記載の導通検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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