説明

導電シート及びその製造方法

【課題】金属ナノファイバーを用いる導電シートにおいて、可視導電パターンでの金属マイグレーションをなくし導電部分(個別シート端子)の間隔を短くする。
【解決手段】基板26上に透明導電パターン11と可視導電パターン16を形成した導電シート10である。透明導電パターンは金属ナノファイバーを含む層である第一ナノファイバー層とこれに隣接した第一加熱絶縁層29からなり、可視導電パターン16は金属ナノファイバーを含む層である第二ナノファイバー層17とこれに隣接した第二加熱絶縁層27により下層パターンを形成し、下層パターンに積層して金属ペーストを含む層であるペースト層18からなる上層パターンを形成して構成され、第二加熱絶縁層は極小サイズに切断された金属ナノファイバーを含む層である導電シートである。可視導電パターン16は下層パターンの上に遮水層21を形成し、遮水層の上に上層パターンを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタッチパネルなどに使用する導電シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂やガラス等からなる基材の表面に導電性ナノファイバー、特に金属ナノファイバーを含む層が一定パターンで形成された導電シートが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図8(a)は従来の導電シートの平面図であり、図8(b)は導電シートの拡大断面図であり図8(a)中に矢印76で示す部分を図示している。導電シート110はその周縁部にシート端子部131aを有している。シート端子部131aは複数の個別シート端子132a、132b、132cを有する。
【0004】
シート端子部131aは従来の可視導電パターン116により実現されている。すなわち、従来の可視導電パターン116は、基材26の上に第二ナノファイバー層17によって下層パターンを形成し、下層パターンに積層してペースト層18からなる上層パターンを形成したものである。
【0005】
第二ナノファイバー層17は、例えば銀ナノファイバーを含む層である。ペースト層18は、例えば銀ペーストを含む層である。ペースト層18は、シート端子部131aを構成する第二ナノファイバー層を補助して導電率を上げる(電気抵抗を小さくする)ために付加されている。同時に、導電シート110の周縁部はタッチパネルに組み込まれると額ぶち状に隠ぺいされて視線が遮られる部分であり、「見える」可視導電パターンを形成してもデザイン、操作性等に影響がないからである。
【0006】
第二ナノファイバー層17の間には第二加熱絶縁層127がある。第二加熱絶縁層127はエネルギー線照射加工により金属ナノファイバーが極小サイズに切断され、電気導電性の機能が失われている部分である。
【0007】
シート端子部131aにフレキシブルプリント配線板が接続される。当該接続は異方導電性接着剤により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−140859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の導電シートはシート端子部において、導電部分である第二ナノファイバー層が短距離の第二加熱絶縁層を挟んで隣接している。第二加熱絶縁層は電気導電性の機能が失われたとはいえ、その部分には極小サイズに切断された金属ナノファイバーが存在する。このため長期間使用を継続すると、第二加熱絶縁層に含まれている極小サイズの金属ナノファイバーがイオン化し、シート端子部で金属マイグレーションが生じる。その結果、個別シート端子間の短絡につながる危惧がある。
【0010】
また、従来の導電シートはフレキシブルプリント配線板を接続するとシート端子部において、異方導電性接着剤と第二加熱絶縁層が直接接する。異方導電性接着剤と第二加熱絶縁層が直接接すると、第二加熱絶縁層に存在している極小化された金属ナノファイバーと異方導電性接着剤を介し、個別シート端子間に電気が導通し、個別シート端子間で絶縁の抵抗が低下する。その結果、個別シート端子間の短絡につながる危惧がある。
【0011】
さらにまた、シート端子部に複数ある個別シート端子間距離を長くしなければならず、フレキシブルプリント配線板等の小型化の障害になる。この理由は個別シート端子間距離を短くすると金属マイグレーションの危惧が高まるからである。別の理由は、第二ナノファイバー層からなるパターンの上に、ペーストパターンを印刷により形成するので、印刷時の位置ずれを考慮してパターンの間隔を大きく設計せざるを得ないからである。
【0012】
そこで本発明の課題は金属ナノファイバーを用いる導電シートにおいて、可視導電パターンでの金属マイグレーションをなくし、導電部分(個別シート端子)の間隔を短くすることを可能とすることにある。また、このような導電シートの製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる導電シートは、
基板上に透明導電パターンと可視導電パターンを形成した導電シートであって、前記透明導電パターンは金属ナノファイバーを含む層である第一ナノファイバー層と第一ナノファイバー層に隣接した第一加熱絶縁層からなり、前記可視導電パターンは金属ナノファイバーを含む第二ナノファイバー層と第二ナノファイバー層に隣接した第二加熱絶縁層により下層パターンを形成し、前記下層パターンに積層して金属ペーストを含むペースト層からなる上層パターンを形成して構成されていて、第二加熱絶縁層は極小サイズに切断された金属ナノファイバーを含む層である導電シートにおいて、
前記可視導電パターンは、前記下層パターンの上に、前記下層パターンを覆う遮水層を形成し、前記遮水層の上に前記上層パターンを形成した。
【0014】
本発明にかかる導電シートの好ましい実施態様にあって、前記金属ナノファイバーが銀ナノファイバーであり、前記金属ペーストが銀ペーストであってもよい。
【0015】
本発明にかかる導電シートの他の好ましい実施態様にあって、本発明にかかる導電シートにおいて、前記導電シートにおける引き回し導線部が前記可視導電パターンから構成されていてもよい。
【0016】
本発明にかかる配線付導電シートは、導電シートとフレキシブルプリント配線板からなる配線付導電シートにおいて、
本発明にかかる導電シートであって、前記導電シートにおけるシート端子部が前記可視導電パターンから構成されていて、前記シート端子部にフレキシブルプリント配線板の接続端子部を電気的に接続した。
【0017】
本発明にかかるタッチパネル入力装置は、本発明にかかる配線付導電シートをタッチパネル入力装置の電極に使用するものである。
【0018】
本発明にかかる導電シートの製造方法は、本発明にかかる導電シートの製造方法において、前記可視導電パターンは、以下の工程により製造される。
イ 基板上に金属ナノファイバーを含む層である第二ナノファイバー層を形成する工程
ロ イの工程で形成した第二ナノファイバー層の上に遮水層を形成する工程
ハ ロの工程で形成した遮水層の上に金属ペーストを含む層であるペースト層を形成する工程
ニ ハの工程で形成された第二ナノファイバー層、遮水層とペースト層が形成された基板に、前記ペースト層の上方からエネルギー線を照射して、第二ナノファイバー層中の金属ナノファイバーを切断し、ペースト層中の金属ペーストを焼き切って、前記下層パターンと前記上層パターンを形成する工程。
【0019】
以上説明した本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる発明特定事項は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる導電シートは、その他の発明特定事項と共に、第二ナノファイバー層と第二加熱絶縁層により下層パターンを形成し下層パターンを覆う遮水層を形成しているので、第二ナノファイバー層と第二加熱絶縁層への水分浸入を抑制でき、このため金属マイグレーションが生じることを抑制できる。よって導電シートは金属マイグレーションによる短絡の危惧が少なく、耐久性が向上する。また、本発明にかかる導電シートは可視導電パターン相互間の間隔を短くすることができ、導電シートとこれを組み込む装置の小型化に資する。
【0021】
本発明にかかる配線付導電シートは、本発明にかかる導電シートを発明特定事項としているので耐久性に優れ、また、シート端子部とフレキシブルプリント配線板の配線板端子部を小型化することができる。
【0022】
本発明にかかるタッチパネル入力装置は、本発明にかかる配線付導電シートを発明特定事項としているので耐久性に優れ、また、電気回路接続部分を小型化することができる。
【0023】
本発明にかかる導電シートを製造する方法は、その他の発明特定事項に加えて、第二ナノファイバー層、遮水層とペースト層を積層し、ペースト層と第二ナノファイバー層を同時に焼き切って可視導電パターンが形成されるから、遮水層が容易かつ効果的に形成される。よって、金属マイグレーションが生じず、可視導電パターン相互間の間隔が短い導電シートを製造することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明にかかるタッチパネル入力装置の分解図である。
【図2】図2は導電シートの説明図であり、(a)は平面図、(b)は拡大断面図であり(a)に矢印73で示す部分の断面を示し、(c)は他の部分の断面図であり(a)に矢印75で示す部分の断面を示している。
【図3】図3は導電シートの分解図である。
【図4】図4は導電シートの拡大断面図であり、ペースト層18と第二ナノファイバー層17の接触部分を示している。
【図5】図5は導電シートにかかる可視導電パターンの製造方法を示す説明図である。
【図6】図6は実験1にかかる導電シートモデル81の平面図である。
【図7】図7は実験2にかかる導電シートモデル98の平面図である。
【図8】図8は従来の導電シートの説明図であり、(a)は平面図、(b)は拡大断面図であり(a)に矢印76で示す部分の断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明にかかる導電シート、配線付導電シート、静電容量方式タッチパネル入力装置と導電シートの製造方法を説明する。本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするため、一部の構成要素を誇張して表すなど模式的に表しているものがある。このため、構成要素間の寸法や比率などは実物と異なっている場合がある。また、本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。さらに、符号である数字は部品や部分などを集合的に示す場合があり、個別の部品や部分などを示す場合に、当該数字のあとにアルファベットの添字を付けているものがある。
【0026】
図1はタッチパネル入力装置1の分解図である。タッチパネル入力装置1は表示板63の上に、第二検出導電シート10b、第一検出導電シート10aと保護フィルム61を順に重ねている。表示板63は液晶表示装置である。表示板63は液晶表示装置に限られず、その他の公知の表示装置が使用できる。
【0027】
第二検出導電シート10bは、透明導電パターン11bを有する。透明導電パターン11bは第二検出導電シート10bの長辺に平行な短冊状の3つの電極部を有している。3つの電極部からそれぞれ引き回し導線部33bが引き出され、シート端子部31bに導通している。シート端子部31bは可視導電パターン16bからなる。
【0028】
第一検出導電シート10aは透明導電パターン11aを有する。透明導電パターン11aは第一検出導電シート10aの短辺に平行な短冊状の3つの電極部を有している。3つの電極部からそれぞれ引き回し導線部33aが引き出され、シート端子部31aに導通している。シート端子部31aは可視導電パターン16aからなる。
【0029】
タッチパネルの電極と制御回路は、フレキシブルプリント配線板(以下、FPCと表記する)41a、41bを通じて接続される。FPC41a、41bの一方端部に在る配線板端子部42a、42bがそれぞれの導電シートに在るシート端子部31a、31bに接続される。FPC41a、41bとシート端子部31a、31bはそれぞれ、異方導電性接着剤によって接着される。保護フィルム61と第一検出導電シート10aはFPC接着部分に対応する位置に切り欠き部62を設けて、FPCとシート端子部接着の容易化を図っている。FPC41は長尺形状であるが、図1中には配線板端子部42の周辺部のみを図示している。
【0030】
タッチパネルの制御方式は公知の方式を使用することができる。例えば、制御方式は静電容量検出方式である。なお、制御回路は図示していない。
【0031】
図2は導電シート10の説明図である。図2(a)は導電シート10の平面図である。図2(b)は図2(a)中に矢印73で示す部分の拡大断面図であり、図2(c)は図2(a)中に矢印75で示す部分の断面図である。図3は導電シートの分解図である。
【0032】
導電シート10の周縁部にシート端子部31aが設けられている。導電シート10の中央部には透明電極パターン11によって透明電極111、112、113が設けられている。3個の透明電極111、112、113は導電シート10の短辺に平行な短冊形状である。
【0033】
透明電極111、112、113と個別シート端子32a、32b、32cは引き回し導線部33を通じて導通されている。シート端子部31aは可視導電パターン16によって形成されている。引き回し導線部33は透明電極パターンによって形成してもよく、可視導電パターンによって形成してもよい。
【0034】
図2(b)と図3を参照して可視導電パターンの構成を説明する。可視導電パターン16は3つの層からなる。1番目の層は基板26の上に形成された第二ナノファイバー層17と第二加熱絶縁層27である。第二ナノファイバー層17と第二加熱絶縁層27は同一平面で隣接している。第二ナノファイバー層17は一定平面形状の下層パターンを形成している。
【0035】
2番目の層は遮水層21であり、第二ナノファイバー層17と第二加熱絶縁層27の上に形成されている。遮水層21の上にペースト層18と空隙絶縁層28が形成されている。
【0036】
遮水層21は下層パターンを覆っている。3番目の層は遮水層21の上に形成されているペースト層18である。ペースト層18は下層パターンの平面形状に一致する平面形状である上層パターンを形成している。ペースト層18と同一平面で隣接している層は空隙絶縁層28である。実際には空隙絶縁層28は空隙である。図2(b)に3個のペースト層18が空隙である空隙絶縁層28に隔てられて存在する様子を図示している。
【0037】
本発明にかかる導電シートにおいて、ペースト層18は下層パターンの平面形状に一致する平面形状である上層パターンを形成している必要はない。本発明にかかる導電シートにあっては、ペースト層18は、第二ナノファイバー層に依存することなく第二ナノファイバー層から独立して、導線機能を担っている。このため、上層パターンは、下層パターンの平面形状と異なる平面形状に形成できる。
【0038】
従来の導電シートにあっては、上層パターンと下層パターンが相互に電気導通機能を補いつつ、協働して導線機能を担っていた。このため、上層パターンは、下層パターンの平面形状にできるかぎり一致させる必要があった。不一致にすれば、ペースト層18と第2金属ナノファイバー層17から構成される幅(領域)が広がる。その結果、シート端子部の幅も広がるので、基板上のシート端子部の占める範囲が大きくなるという問題が生じるためであった。
【0039】
本発明にかかる導電シートでは、下層パターンと上層パターンとの間に遮水層を設ける。当該遮水層の存在しない位置で第二ナノファイバー層とペースト層が接触し導通する部分を設ければ、導線機能はペースト層独自が担うことになる。その結果、上層パターンは下層パターンの平面形状に拘らず、独自のパターンにすることができる。
【0040】
図2(c)と図3を参照して透明導電パターンを説明する。透明導電パターン11は、基板26の上に形成される第一ナノファイバー層12と第一加熱絶縁層29から構成される。第一ナノファイバー層12は一定平面形状であり、上記の透明電極を形成している。第一ナノファイバー層12は同一平面で第一加熱絶縁層29と隣接している。可視導電パターン16と透明導電パターン11は同一平面にある。
【0041】
遮水層21は下層パターンへの水分の浸入を防止するものである。このため、遮水層21は下層パターンの全面を覆うことが理想である。換言すれば、下層パターンの輪郭線を超えて一定距離外側に遮水層の輪郭線が在ることが理想である。
【0042】
しかしながら遮水層21は水分移動の防止のみならず、電気導通をも妨げるものであるから、遮水層21が全面を覆うとペースト層18と第二ナノファイバー層17との電気導通も妨げられる。このため、ペースト層18と第二ナノファイバー層17の直接接触部分を一部設け、その他の部分は遮水層で覆うことが好ましい。
【0043】
図4は導電シートの拡大断面図であり、ペースト層18と第二ナノファイバー層17の直接接触部分を示している。図示した領域にあって、遮水層21の輪郭線は第二ナノファイバー層17の輪郭線よりも内側にあり、第二ナノファイバー層17の一部分が遮水層21に覆われることなく露出している。ペースト層18は遮水層21の輪郭線を超えて遮水層の外側に至り第二ナノファイバー17と直接接触している。
【0044】
金属マイグレーションは(1)水分の存在(2)電位差の2つの条件がそろうと生じる。本発明にかかる可視導電パターンは遮水層を有し、第二ナノファイバー層と第二加熱絶縁層に水分が浸入しないので、金属マイグレーションが生じない。
【0045】
可視導電パターンの製造方法を説明する。図5は導電シートにかかる可視導電パターンにおける引き回し導線部の製造方法を示す説明図である。
【0046】
まず、図5(a)に示すように、基板26上に金属ナノファイバーを含む層である第二ナノファイバー層17を形成する。次に、図5(b)に示すように、第二ナノファイバー層17の上に遮水層21を形成する。さらに、図5(c)に示すように、遮水層21上にペースト層18を形成する。
【0047】
続いて、第二ナノファイバー層17、遮水層21とペースト層18が形成された基板に、ペースト層の上方からレーザー照射器51を用いレーザー線を照射して、第二ナノファイバー層中の金属ナノファイバーを切断し、ペースト層を除去して、下層パターンと上層パターンを形成する。これによって、可視導電パターンが製造される。
【0048】
以上、可視導電パターンの製造方法を説明したが、当該製造方法により透明導電パターンと可視導電パターンを共に含む導電シートを製造することができる。以下に説明する。
【0049】
図5(a)に示す工程で、第二ナノファイバー層と同時に第一ナノファイバー層を形成する。第一ナノファイバー層と第二ナノファイバー層の材料、形成方法、厚さなどは同一であり、一回の操作で両者を形成できる。
【0050】
可視導電パターン部分に図5(b)、(c)に示す工程を施す。図5(d)に示す工程においてレーザー線照射により第二加熱絶縁層等を形成すると共に、レーザー線を透明導電パターン部分に照射して第一加熱絶縁層を形成する。以上の製造方法で、透明導電パターンと可視導電パターンを共に含む導電シートを製造できる。
【0051】
レーザー線の一例は、数十μmのスポット径のYAGレーザーである。YAGレーザーを使用する場合、用いるYAGレーザーの波長は1200nm〜350nm、より好ましくは1100nm〜400nmである。上記波長範囲であれば、遮水層や基板は焼ききられることなく存置され、また、発熱が少量に収まり導電シート全体が焼けることがない。
【0052】
レーザー線照射を行い、金属ナノファイバーに適度のエネルギー(熱)を加えることによって金属ナノファイバーの一部が切断され、同時にペースト層の一部が、焼き切られ除去される。レーザー線は、その他のエネルギー線に置換することができる。
【0053】
遮水層21は透明であることが好ましい。上記レーザー線加工を行う時に、遮水層21が透明であれば、遮水層がレーザーのエネルギーを透過するので、レーザー線加工を行っても遮水層が存置される。逆に遮水層が不透明であれば、遮水層がレーザーのエネルギーを吸収する。その結果、遮水層がYAGレーザーによって、焼ききられてしまう。
【0054】
遮水層の材質はアクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などである。透明性、遮水性の観点から、上記樹脂の中でウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂が好ましい。遮水層はグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等により形成すればよい。
【0055】
遮水層の厚み範囲は、通常1μm〜30μmであり、好ましくは5μm〜20μmである。遮水層の厚みを1μm以上とすることで、金属マイグレーションの発生を抑制できる。また、遮水層の厚みを30μm以下とすることで、導電シートの上に保護フィルム61を貼着するときに、遮水層21輪郭部付近において、遮水層とペースト層から構成される段差形状に保護フィルムが追従できる。その結果、保護フィルムとの間に空隙が発生し、見栄えが悪くなるのを防止できる。
【0056】
なお、遮水層の厚み範囲は、ペースト層の厚みの10倍未満、好ましくは、4倍未満であることが、さらに好ましい。遮水層の厚みがこの範囲にあれば、遮水層21輪郭部における第二ナノファイバー層17とペースト層18の接続部でクラックの発生を抑制することができる。
【0057】
第二ナノファイバー層17は、金属ナノファイバーと、アクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルなどのバインダー樹脂からなる。第二ナノファイバー層17は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等の汎用の各種印刷方法、ダイコーターによる塗布などの方法により設けることができる。
【0058】
金属ナノファイバーは、金、銀、白金、銅、パラジウムなどの金属イオンを担持した前駆体表面にプローブの先端部から印加電圧又は電流を作用させ連続的にひき出して作製したものである。これらの中で、導電性が大きく、比較的安価、かつ透視性から、銀ナノファイバーが好ましい。金属ナノファイバーの寸法は直径10nm〜100nm、長さ1μm〜200μmである。
【0059】
第二ナノファイバー層17の厚みは数十nmから数百nmの範囲で適宜設定可能である。この範囲の厚みにすれば、層としての強度が満たされ、また、層としての柔軟性があって加工が容易となるからである。
【0060】
第一ナノファイバー層の材質とその形成方法は、第二ナノファイバー層の材質やその形成方法と同一である。
【0061】
第二加熱絶縁層27は、金属ナノファイバーとバインダー樹脂からなる。バインダー樹脂は、アクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルなどを使用できる。
【0062】
第二加熱絶縁層27を構成する金属ナノファイバーの大きさは、第一、第二金属ナノファイバー層を構成する金属ナノファイバーの1/10〜1/1000の大きさである。そして、第二加熱絶縁層27を構成する金属ナノファイバーは、それぞれが独立して存在している。この存在様式に起因して、第二加熱絶縁層27の電気伝導度は小さくなっている。一方、第一ナノファイバー層と第二ナノファイバー層を構成する金属ナノファイバーは、それぞれが相互に絡み合っている。
【0063】
第二加熱絶縁層27の形成方法は、まず、第二ナノファイバー層と同一材料を、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等の汎用の各種印刷方法、またはダイコーターによる塗布などによって、基板上に塗布する。続いて、当該層をYAGレーザーなどのエネルギー線を用いて、当該層中の金属ナノファイバーを加熱処理して作成する。
【0064】
第二加熱絶縁層27の厚さは、第一ナノファイバー層、第二金属ナノファイバー層と同じである。
【0065】
ペースト層は金属粒子とバインダー樹脂からなる。バインダー樹脂はアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルなどを使用できる。金属粒子の中で銀が最も好ましい。導電性に優れ、コストが安いからである。ペースト層の厚みは、1μm〜30μmである。ペースト層は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等により形成する。
【0066】
基板26の材質は、アクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニルなどの樹脂フィルム、及びガラスが挙げられる。基板26の厚みは5〜800μmの範囲で適宜設定可能である。この厚さ範囲にすれば、必要な強度が得られ、また、適度な柔軟性を有して加工が容易になるからである。
【0067】
以上説明した遮水層を含む可視導電パターンはシート端子部のみならず、例えば、引き回し導線部の形成に使用できる。引き回し導線部に遮水層を含む可視導電パターンを使用すれば、金属マイグレーションの危惧なしに、導電シートの額縁部の面積を小さくすることができる。
【実施例】
【0068】
<実験1>
実験1にかかる導電シートモデル81である実施例1を以下のように作成した。
【0069】
基体シートとして、厚み50μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。当該基体シートの上に、銀ナノファイバー材料(Cambrios社製:ClearOhm)を用いて、基体シートの全面に金属ナノファイバー層を形成した。
【0070】
次に、ウレタン系ポリマー樹脂を用いて、金属ナノファイバー層の上に、厚さ15μmの遮水層を形成した。図6は導電シートモデル81の平面図である。電極形成領域82a、82bには、遮水層を形成していない。図示したように、電極形成領域82a、82bは、シートの両端近傍に対向するように2つ形成した。電極形成領域82a、82bの大きさは10mm×30mmであった。また、2つの電極形成領域間82a、82bの直線距離は80mmであった。
【0071】
続いて、電極形成領域82a、82bを覆うように、電極形成領域82a、82bに銀ペースト(東洋紡:DW−114L−1)を用いて電極を形成した。銀ペーストの厚さは5μmであった。
【0072】
さらに、YAGレーザーを用いて、金属ナノファイバー層を櫛形状にエッチングし、過熱絶縁線83を形成した。上記櫛形状を構成する1本の櫛歯(その長さを矢印84で示す)は5mmごとに形成され、その幅(その長さを矢印85で示す)は5mmであった。加熱絶縁線83の線幅は0.1mmであった。上記工程を経て、実施例1にかかる導電シートモデルを得た。基体シートの上に、銀ナノファイバー材料、エポキシ樹脂、銀ペーストを塗工する工程は、全てグラビア印刷機を用いることにより行った。また、用いたYAGレーザーの波長は、1064μmであった。
【0073】
<実施例2と実施例3及び比較例1と比較例2>
遮水層の厚み、遮水層を構成する樹脂を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で導電シートモデルを作成した。また比較例1は遮水層を形成していない。
【0074】
<実施例1〜3、比較例1〜2のマイグレーション抑制効果の評価>
実施例1、2、3及び比較例1、2は、以下の評価基準に基づいて評価した。導電シートの両電極を電源と接続し、20Vの電圧を両電極にかけて導電シートが短絡するまでの時間を測定した。なお、測定は室温60℃、湿度95%RHの下で行った。その結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
<実験2>
実験2にかかる導電シートモデル98である実施例4を以下のように作成した。
【0077】
基体シートとして、厚み50μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。当該基体シートの上に、銀ナノファイバー材料(Cambrios社製:ClearOhm)を用いて、基体シートの全面に金属ナノファイバー層を形成した。
【0078】
図7は導電シートモデル98の平面図である。ウレタン系ポリマー樹脂を用いて、金属ナノファイバー層の上に2個の遮水層86、87を形成した。遮水層86、87は、厚さ15μm、平面形状は長方形(20mm(矢印94)×50mm(矢印95))であり、間隔1mm(矢印96)に配置した。基体シートの周辺部と電極形成領域88、89、90には、遮水層は形成していない。
【0079】
電極形成領域88、89、90の平面形状は長方形(0.1mm×21mm)であり、遮水層87との重なり部分長さ(矢印97)は10mmであった。電極形成領域88、89、90を覆うように銀ペースト(東洋紡:DW−114L−1)を用いて電極を形成した。銀ペーストの厚さは5μmであった。
【0080】
<実施例5と比較例3、4、5>
遮水層の厚み、遮水層を構成する樹脂を変更したこと以外は、実施例4と同様の方法で導電シートモデルを作成した。
【0081】
<実施例4、5及び比較例3、4、5のクラック発生評価>
実施例4、5及び比較例3、4、5は、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0082】
各々の導電シートモデルについて、電極の抵抗値を測定した。抵抗値は、抵抗測定点91aと91b間、抵抗測定点92aと92b間、抵抗測定点93aと93b間を測定し、3つの抵抗測定値の算術平均を求め、この値を初期抵抗値とした。
【0083】
次に、導電シートモデルを直径が8mmの円筒に巻き付け、巻き解きの工程を10回繰り返した。この後、初期の抵抗測定と同様に、電極の抵抗値を測定した。抵抗値は、抵抗測定点91aと91b間、抵抗測定点92aと92b間、抵抗測定点93aと93b間を測定し、3つの抵抗測定値の算術平均を求め、この値を実験後抵抗値とした。
【0084】
そして、R/Rを下記の算式に基づいて算出した。
R/R=実験後抵抗値(R)/初期抵抗値(R
上記R/Rの値に基づき、電極に発生したクラックを以下の分類に従い評価した。結果を表2に示す。
○: 1≦ R/R < 1.1
△: 1.1≦ R/R < 1.2
×: 1.2≦ R/R
【0085】
【表2】

【0086】
クラックの発生位置は、遮水層輪郭部における電極(銀ペースト層)と銀ナノファイバー層との接触部であった。
【符号の説明】
【0087】
1 タッチパネル入力装置
10 導電シート
10a 第一検出導電シート
10b 第二検出導電シート
11 透明導電パターン
12 第一ナノファイバー層
16 可視導電パターン
17 第二ナノファイバー層
18 ペースト層
21 遮水層
26 基板
27 第二加熱絶縁層
28 空隙絶縁層
29 第一加熱絶縁層
31、31a、31b シート端子部
32a、32b、32c 個別シート端子
33、33a、33b 引き回し導線部
41a、41b フレキシブルプリント配線板
42 配線板端子部
51 レーザー照射器
61 保護フィルム
62 切り欠き部
63 表示板
81 導電シートモデル
82a、82b 電極形成領域
83 加熱絶縁線
86、87 遮水層
88、89、90 電極形成領域
98 導電シートモデル
110 従来の導電シート
116 従来の可視導電パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に透明導電パターンと可視導電パターンを形成した導電シートであって、前記透明導電パターンは金属ナノファイバーを含む層である第一ナノファイバー層と第一ナノファイバー層に隣接した第一加熱絶縁層からなり、前記可視導電パターンは金属ナノファイバーを含む第二ナノファイバー層と第二ナノファイバー層に隣接した第二加熱絶縁層により下層パターンを形成し、前記下層パターンに積層して金属ペーストを含むペースト層からなる上層パターンを形成して構成されていて、第二加熱絶縁層は極小サイズに切断された金属ナノファイバーを含む層である導電シートにおいて、
前記可視導電パターンは、前記下層パターンの上に、前記下層パターンを覆う遮水層を形成し、前記遮水層の上に前記上層パターンを形成した導電シート。
【請求項2】
請求項1に記載した導電シートにおいて、
前記金属ナノファイバーが銀ナノファイバーであり、
前記金属ペーストが銀ペーストであることを特徴とする請求項1に記載した導電シート。
【請求項3】
請求項1又は2いずれかに記載した導電シートにおいて、
導電シートにおける引き回し導線部が前記可視導電パターンから構成されている導電シート。
【請求項4】
導電シートとフレキシブルプリント配線板からなる配線付導電シートにおいて、
請求項1又は2いずれかに記載した導電シートであって、前記導電シートにおけるシート端子部が前記可視導電パターンから構成されていて、前記シート端子部にフレキシブルプリント配線板の接続端子部を電気的に接続した配線付導電シート。
【請求項5】
請求項4に記載した配線付導電シートをタッチパネル入力装置の電極に使用するタッチパネル入力装置。
【請求項6】
請求項1にかかる導電シートの製造方法において、
前記可視導電パターンは、以下の工程により製造される導電シートの製造方法。
イ 基板上に金属ナノファイバーを含む層である第二ナノファイバー層を形成する工程
ロ イの工程で形成した第二ナノファイバー層の上に遮水層を形成する工程
ハ ロの工程で形成した遮水層の上に金属ペーストを含む層であるペースト層を形成する工程
ニ ハの工程で形成された第二ナノファイバー層、遮水層とペースト層が形成された基板に、前記ペースト層の上方からエネルギー線を照射して、第二ナノファイバー層中の金属ナノファイバーを切断し、ペースト層中の金属ペーストを焼き切って、前記下層パターンと前記上層パターンを形成する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−97932(P2013−97932A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238121(P2011−238121)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】