説明

導電ペースト及び太陽電池素子

【課題】焼成後に残留する炭素成分が少なく、かつ、オフセット印刷プロセスに好適に用いることができ、細線でアスペクト比の高い配線を形成することが可能な導電ペースト、及び、該導電ペーストを用いて製造される太陽電池素子を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル樹脂と、銀粉末と、有機溶剤とを含有する導電ペーストであって、前記(メタ)アクリル樹脂は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを40重量%以上含有し、前記銀粉末は、累積重量が50%となる粒子径が1μm以下であり、前記有機溶剤は、炭素/水酸基が1.5〜5であり、かつ、1分子中に2個水酸基を有する化合物を含有する導電ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成後に残留する炭素成分が少なく、かつ、オフセット印刷プロセスに好適に用いることができ、細線でアスペクト比の高い配線を形成することが可能な導電ペースト、及び、該導電ペーストを用いて製造される太陽電池素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池素子等の電極、配線等を形成する方法としては、例えば、半導体基板の表面又は裏面にそれぞれ必要な種々の層を積層した後、導電ペーストをこれらの層の上に印刷して乾燥させ、所定の温度で焼成する方法が広く用いられている。このような方法に用いられる導電ペーストは、バインダー樹脂となる樹脂成分を有機溶剤に溶解して得られるビヒクル組成物中に、導電性を有する金属粉末(導電粉末)を分散させることによって製造される。
【0003】
従来、導電ペーストに用いられるバインダー樹脂として、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂が用いられてきた。例えば、特許文献1には、比表面積が0.20〜0.60m/gである銀粒子、ガラスフリット、樹脂バインダー及びシンナーを含む太陽電池受光面電極用ペーストが開示されており、樹脂バインダーとしてエチルセルロースが用いられている。
しかしながら、セルロース系樹脂を用いた導電ペーストは、焼成工程でのセルロース系樹脂の熱分解性が不充分であることから、得られる配線に炭素成分が残留し、導電粉末の基板への接着強度が低下して、配線に剥離が生じやすいことが問題である。
【0004】
また、特許文献1に記載の導電ペーストを用いた配線の印刷には、スクリーン印刷が用いられている。スクリーン印刷に用いられる導電ペーストとしては、せん断速度が高い時に粘度が低く、せん断速度が低く静置状態に近い状態では非常に高粘度となる性質(チキソ性)を有するものが一般的に使用されている。
一方で、太陽電池素子の配線等の形成する方法として、オフセット印刷を用いることが行われている。オフセット印刷はスクリーン印刷と比べ、印刷像の細線化や位置精度が良く、同一地点に繰り返し印刷できることから、太陽電池素子に求められる細線で高アスペクトな配線を描くことができると考えられている。
しかしながら、チキソ性を有するスクリーン印刷用の導電ペーストをオフセット印刷に用いた場合、配線を彫った溝から導電ペーストが流出せず印刷できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−235082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、焼成後に残留する炭素成分が少なく、かつ、オフセット印刷プロセスに好適に用いることができ、細線でアスペクト比の高い配線を形成することが可能な導電ペースト、及び、該導電ペーストを用いて製造される太陽電池素子に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(メタ)アクリル樹脂と、銀粉末と、有機溶剤とを含有する導電ペーストであって、前記(メタ)アクリル樹脂は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを40重量%以上含有し、前記銀粉末は、累積重量が50%となる粒子径が1μm以下であり、前記有機溶剤は、炭素/水酸基が1.5〜5であり、かつ、1分子中に2個水酸基を有する化合物を含有する導電ペーストである。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の構造を有する(メタ)アクリル樹脂と、所定の粒子径を有する銀粉末と、有機溶剤とを含有する導電ペーストを用いることで、焼成後に残留する炭素成分を低減しつつ、比重の重い導電ペーストでもニュートニアンな粘度挙動を示すことから、オフセット印刷プロセスに好適に用いることができ、かつ、細線でアスペクト比の高い配線を形成することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
以下に本発明について説明する。
【0009】
本発明の導電ペーストは、(メタ)アクリル樹脂を含有する。
上記(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリレートモノマーに由来するセグメントからなる主鎖を有することにより、セルロース系樹脂に比べて熱分解性に優れ、焼成後に残留する炭素成分が少ない導電ペーストを製造することができる。
【0010】
上記(メタ)アクリル樹脂は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを40重量%以上含有する。上記イソブチルメタクリレートに由来するセグメントは、熱分解性に優れ、水酸基やカルボニル基といった極性官能基を導入した場合のように、焼結性の低下を招くことはない。
また、上記イソブチルメタアクリレートに由来するセグメントを有することで、高極性の有機溶剤にも相溶化させることができる。
【0011】
上記(メタ)アクリル樹脂中の上記イソブチルメタクリレートに由来するセグメントの含有量は40重量%以上である。上記イソブチルメタクリレートに由来するセグメントの含有量が40重量%未満であると、後述する有機溶剤との相溶性が悪くなり、導電ペーストとした際にレオロジーをニュートニアン化できなくなる。
好ましくは、50重量%以上である。
【0012】
上記(メタ)アクリル樹脂は、エステル置換基に水酸基又はカルボキシル基を有するアクリルモノマーに由来するセグメントを有していてもよい。
【0013】
上記エステル置換基に水酸基又はカルボキシル基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート、メタクリル酸等が挙げられる。
【0014】
上記(メタ)アクリル樹脂において、上記エステル置換基に水酸基又はカルボキシル基を有するアクリルモノマーに由来するセグメントの含有量は10重量%以下である。
上記エステル置換基に水酸基又はカルボキシル基を有するアクリルモノマーに由来するセグメントの含有量が10重量%を超えると、導電ペーストの焼結性が悪くなることがある。また、より好ましくは8重量%以下である。
【0015】
上記(メタ)アクリル樹脂は、ポリマーのω位に下記一般式(1)で表されるリン酸含有成分を含有していてもよい。ω位にこれら官能基を導入することによって、銀粉末を良好に分散させることができ、導電ペーストをニュートニアン化させやすくなる。
更に、上記(メタ)アクリル樹脂においては、下記一般式(1)で表されるリン酸含有成分が存在する部位がポリマーのω位であることから、リン酸含有成分を導入しても優れた熱分解性を維持することができ、上記(メタ)アクリル樹脂を用いて、焼成後に残留する炭素成分が少ない導電ペーストを製造することができる。
【0016】
【化1】

【0017】
一般式(1)中、Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、R及びRは、それぞれ、水素原子、炭素数1〜13の炭化水素基、炭素数1〜13の水酸基含有化合物基又は炭素数1〜13のエステル結合含有化合物基を表す。
なお、本明細書中、ポリマーのω位に存在する上記一般式(1)で表されるリン酸含有成分を、単に、ω位のリン酸含有成分ともいう。また、本明細書中、長鎖アルキルの最初の炭素原子部分をα位というのに対して、最後尾の炭素原子部分をω位という。即ち、ω位とは、樹脂を構成するポリマー主鎖における最末端部分を意味する。
【0018】
上記以外の他のモノマーについては(メタ)アクリレートモノマーであれば、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0019】
上記(メタ)アクリル樹脂のポリスチレン換算による重量平均分子量の好ましい下限は20000、上限は10万である。上記重量平均分子量が20000未満であると、上記(メタ)アクリル樹脂が軟らかくなりすぎて、銀粉末を支えることができず、オフセット印刷機で繰り返し印刷してもアスペクト比の高い配線を形成できなくなることがある。上記重量平均分子量が10万を超えると、上記(メタ)アクリル樹脂の糸曳性が強くなりすぎ、導電ペーストにした場合、糸引きや版離れの悪化等、印刷性に悪影響を与えることがある。
なお、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーよってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、SHOKO社製カラムLF−804等が挙げられる。
【0020】
上記(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、好ましい下限が10℃、好ましい上限が80℃である。上記ガラス転移温度が10℃未満であると、樹脂が軟らかすぎて、銀粉末を支えることができず、オフセット印刷で繰り返し塗ってもアスペクト比の高い配線を形成できないことがある。上記ガラス転移温度が80℃を超えると、樹脂が硬くなり、導電ペーストの印刷性に悪影響を与えることがある。
【0021】
上記(メタ)アクリル樹脂は、10℃/分の昇温速度で600℃まで加熱したときの残留炭素成分が、1重量%以下であることが好ましい。上記残留炭素成分が1重量%を超えると、上記(メタ)アクリル樹脂を用いて、焼成後に残留する炭素成分が少ない導電ペーストを製造することができないことがある。
なお、上記残留炭素成分は、焼成後にGC−MS(日本電子社製、Automass SUN)を用いることによって測定することができる。
【0022】
本発明の導電ペーストにおける上記(メタ)アクリル樹脂の含有量は、印刷可能な限り少量であることが好ましいが、好ましい下限が1重量%、好ましい上限が20重量%である。上記(メタ)アクリル樹脂の含有量が1重量%未満であると、得られる導電ペーストにおける銀粉末の分散性が低下することがある。上記(メタ)アクリル樹脂の含有量が20重量%を超えると、得られる導電ペーストを焼成した後に残留する炭素成分が増加して、導電ペーストを用いて形成される配線の性能に影響を与えることがある。
【0023】
上記(メタ)アクリル樹脂を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記イソブチルメタクリレートを含有する(メタ)アクリレートモノマー、及び、リン酸含有成分とチオール基とを有する化合物を含有するモノマー混合物を重合してポリマーを得る方法が挙げられる。
上記重合方法は特に限定されず、通常の(メタ)アクリレートモノマーの重合に用いられる方法を用いることができ、例えば、フリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、イニファーター重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等が挙げられる。
【0024】
上記モノマー混合物には、上記イソブチルメタクリレートを含有する(メタ)アクリレートモノマーに加えて、例えば、得られるポリマーのω位に上記一般式(1)で表されるリン酸含有成分を導入するために、リン酸含有成分とチオール基とを有する化合物が添加される。
上記リン酸含有成分とチオール基とを有する化合物は、連鎖移動剤として作用し、ポリマー末端にのみ導入され、ポリマー中やポリマーの側鎖に導入されることはない。そのため、得られるポリマーのω位にのみ上記一般式(1)で表されるリン酸含有成分が導入される。なお、ポリマー中に上記一般式(1)で表されるリン酸含有成分が導入されたことは、蛍光X線分析によりリン原子の有無を分析することによって確認することができる。
【0025】
上記リン酸含有成分とチオール基とを有する化合物は特に限定されず、例えば、下記一般式(2)で表されるチオリン酸エステル、下記一般式(3)又は(4)で表されるリン酸エステル等が挙げられる。
【0026】
【化2】

【0027】
上記一般式(2)中、Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、R及びRは、それぞれ、水素原子、炭素数1〜13の炭化水素基、炭素数1〜13の水酸基含有化合物基又は炭素数1〜13のエステル結合含有化合物基を表す。
【0028】
【化3】

【0029】
上記一般式(3)中、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、炭素数1〜13の炭化水素基、炭素数1〜13の水酸基含有化合物基又は炭素数1〜13のエステル結合含有化合物基を表す。
【0030】
【化4】

【0031】
上記一般式(4)中、R、R及びR10は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜13の炭化水素基、炭素数1〜13の水酸基含有化合物基又は炭素数1〜13のエステル結合含有化合物基を表す。
【0032】
上記一般式(2)で表されるチオリン酸エステルは特に限定されず、例えば、チオリン酸ビス(2−エチルヘキシル)、チオリン酸ジエチル、チオリン酸ジメチル、ジチオリン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジチオリン酸ジエチル、ジチオリン酸ジメチル等が挙げられる。
【0033】
上記一般式(3)で表されるリン酸エステルは特に限定されず、例えば、チオグリコール酸モノリン酸エステル、チオグリコール酸モノジメチルリン酸エステル、チオグリコール酸モノジエチルリン酸エステル、チオグリコール酸モノジエチルヘキシルリン酸エステル等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(4)で表されるリン酸エステルは特に限定されず、例えば、チオプロピオン酸モノリン酸エステル、チオプロピオン酸モノジメチルリン酸エステル、チオプロピオン酸モノジエチルリン酸エステル、チオプロピオン酸モノジエチルヘキシルリン酸エステル等が挙げられる。
これらのリン酸系成分とチオール基とを有する化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
上記モノマー混合物において、上記リン酸含有成分とチオール基とを有する化合物の含有量は特に限定されないが、上記(メタ)アクリレートモノマー100重量部に対する好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は30重量部である。上記リン酸含有成分とチオール基とを有する化合物の含有量が0.01重量部未満であると、得られる(メタ)アクリル樹脂は、銀粉末を良好に分散させることができないことがあり、アスペクト比の高い配線を形成できる導電ペーストを製造することができないことがある。上記リン酸含有成分とチオール基とを有する化合物の含有量が30重量部を超えると、得られる導電ペーストにこれら(メタ)アクリル樹脂を用いて、焼成後に残留する炭素成分が少ない導電ペーストを製造することができないことがある。
【0036】
本発明の導電ペーストは、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤は、炭素/水酸基が1.5〜5であり、かつ、1分子中に2個水酸基を有する化合物を含有する。このような有機溶剤は、銀粉末との濡れ性を向上させ、導電ペーストのレオロジーをニュートニアン化させることができる。
【0037】
上記炭素/水酸基が1.5〜5であり、かつ、1分子中に2個水酸基を有する化合物は特に限定されず、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、ジヒドロターピネオール等が挙げられる。
【0038】
上記有機溶剤は、沸点の好ましい下限が150℃、好ましい上限が350℃である。上記沸点が150℃未満であると、印刷の工程中に乾燥してしまい、不具合を起こすことがある。一方、350℃よりも高温であると、乾燥速度が遅くなるため乾燥工程中にペーストが流動し、印刷乾燥後のアスペクト比が低くなることがある。
【0039】
本発明の導電ペーストにおいて、上記有機溶剤の含有量は特に限定されず、導電ペースト全体に対する好ましい下限は5重量%、好ましい上限は90重量%である。上記有機溶剤の含有量が上記範囲を外れると、得られる導電ペーストは、印刷性が低下して、アスペクト比の高い配線を形成することができないことがある。
【0040】
本発明の導電ペーストは、銀粉末を含有する。
【0041】
上記銀粉末は、累積重量が50%となる粒子径が1μm以下である。
上記銀粉末の形状は導電ペーストのレオロジー特性に多大な影響を及ぼすが、オフセット印刷に用いる場合は、レオロジーはチキソ性を有さない、ニュートニアンに近い方が好ましい。そのためには、平均粒子径が小さく、表面積が大きい方が好ましいが、あまり粒子径が小さすぎると、焼結残渣が強く吸着してしまい、電極の抵抗値が大きくなる。これに対して、粒子径が大きくなると、銀粉末同士の摩擦がレオロジー特性に影響を及ぼすため、ニュートニアン化することが難しくなる。
これに対して、累積重量が50%となる粒子径が1μm以下とすることで、粒子径2μm程度の大きな粒子を入れてもニュートニアン化させることができる。
好ましくは、累積重量が50%となる粒子径が0.4〜0.8μmである。
なお、「累積重量が50%となる粒子径」とは、「d50」で表される粒子径である。
また、粒子径1μm以下の粒子を50〜70重量%含有することが好ましい。
更に、上記銀粉末は、平均粒子径が0.5〜1μmであることが好ましい。
【0042】
上記銀粉末を使用する場合、インゴットから粉末に加工する際に、粒子の再凝集を防ぐ為、銀表面を有機物質で修飾することが好ましい。
特に、親水性の有機物質で修飾することで、銀粉の再分散性を良くして、ニュートニアン化させやすくすることができる。
なお、親水性修飾、非水性修飾の判定は芳香族系や水酸基を有さないアセテート系の溶媒と銀粉末とをミキシングし、塗れ具合を観察することで容易に判定することができる。非水性修飾の銀粉末はこれらの溶媒を吸着するため、スラリー状に混ぜることができないが、親水性修飾の銀粉末は銀表面と溶媒の作用によってスラリー状に加工することが可能となる。
【0043】
本発明の導電ペーストにおける上記銀粉末の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は60重量%、好ましい上限は75重量%である。上記範囲内とすることで、導電ペーストのレオロジーをニュートニアン化させることができる。
上記銀粉末の含有量が60重量%未満であると、得られる導電ペーストは、銀粉末の膜密度が低く、膜抵抗が大きくなる。上記銀粉末の含有量が75重量%を超えると、ニュートニアン化が困難になることがある。
【0044】
本発明の導電ペーストには、ガラス粉末を含有することが好ましい。
上記ガラス粉末は特に限定されず、例えば、ホウケイ酸ガラス粉末等が挙げられる。
また、上記ガラス粉末として、軟化温度が300℃以上かつ焼成温度以下のホウケイ酸鉛ガラス粉末や低融点ガラス粒子を用いることもできる。上記焼成温度として、例えば、800℃が挙げられる。
また、例えば、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラス等のガラス粉末や、CaO−Al−SiO系、MgO−Al−SiO系、LiO−Al−SiO系等の各種ケイ素酸化物のガラス粉末等を用いることもできる。
更に、上記ガラス粉末として、PbO−B−SiO混合物、BaO−ZnO−B−SiO混合物、ZnO−Bi−B−SiO混合物、Bi−B−BaO−CuO混合物、Bi−ZnO−B−Al−SrO混合物、ZnO−Bi−B混合物、Bi−SiO混合物、P−NaO−CaO−BaO−Al−B混合物、P−SnO混合物、P−SnO−B混合物、P−SnO−SiO混合物、CuO−P−RO混合物、SiO−B−ZnO−NaO−LiO−NaF−V混合物、P−ZnO−SnO−RO−RO混合物、B−SiO−ZnO混合物、B−SiO−Al−ZrO混合物、SiO−B−ZnO−RO−RO混合物、SiO−B−Al−RO−RO混合物、SrO−ZnO−P混合物、SrO−ZnO−P混合物、BaO−ZnO−B−SiO混合物等のガラス粉末も用いることができる。なお、Rは、Zn、Ba、Ca、Mg、Sr、Sn、Ni、Fe及びMnからなる群より選択される元素である。
特に、PbO−B−SiO混合物のガラス粉末や、鉛を含有しないBaO−ZnO−B−SiO混合物又はZnO−Bi−B−SiO混合物等の無鉛ガラス粉末が好ましい。
【0045】
本発明の導電ペーストにおいて、上記ガラス粉末の含有量は特に限定されず、導電ペースト全体に対する好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は20重量%である。上記ガラス粉末の含有量が0.1重量%未満であると、例えば、得られる導電ペーストを用いて太陽電池素子の配線を形成する場合、反射防止層を侵食することができず、導電性が低下することがある。上記ガラス粉末の含有量が20重量%を超えると、得られる導電ペースト中の銀粉末の割合が少なくなることで、形成する配線等の導電性が低下することがある。
上記ガラス粉末の粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、20μm以下であることが好ましい。
【0046】
本発明の導電ペーストでは、増粘効果を付与するために、増粘効果を有する材料を用いることが好ましい。上記増粘効果を有する材料は特に限定されず、例えば、脂肪酸アミド、ひまし油等の増粘剤や、アクリル微粒子、エチルセルロース等の樹脂が挙げられる。
上記増粘効果を有する材料の含有量の好ましい上限は、導電ペースト全体に対して3重量%である。上記増粘効果を有する材料の含有量が3重量%を超えると、焼成後に残留する炭素成分が多くなり、導電性が悪化することがある。
また、本発明の導電ペーストは、1(1/s)と10(1/s)との比(TI値)が1〜1.2であることが好ましい。
【0047】
本発明の導電ペーストは、表面調整剤を含有してもよい。
上記表面調整剤の種類は特に限定されず、例えば、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−(ヒドロキシメチル)−2−エチル−1,3−プロパンジオール等の水酸基を持つ高極性有機化合物が挙げられる。
上記表面調整剤の含有量の好ましい上限は、導電ペースト全体に対して30重量%である。上記表面調整剤の含有量が30重量%を超えると、乾燥速度が遅くなるため乾燥工程中にペーストが流動し、印刷乾燥後のアスペクト比が低くなる場合がある。
【0048】
本発明の導電ペーストは、焼成後に残留する炭素成分が増加しない程度であれば、上記増粘効果を有する材料及び表面調整剤の他、界面活性剤等の分散剤、フタル酸エステル等の可塑剤等、従来導電ペーストの添加剤として知られている各種添加剤を含有してもよい。
【0049】
本発明の導電ペーストを作製する方法は特に限定されず、従来公知の攪拌方法が挙げられ、具体的には、例えば、上記(メタ)アクリル樹脂、有機溶剤、銀粉末及び必要に応じて添加されるガラス粉末等の他の成分を3本ロール、ビーズミル等で攪拌する方法等が挙げられる。
【0050】
本発明の導電ペーストの用途は特に限定されず、太陽電池素子、セラミック電子部品等の電極、導電層、導電配線等を形成するための導電ペーストとして用いることできる。なかでも、本発明の導電ペーストを用いればアスペクト比の高い配線を形成することができ、採光率が高く、エネルギー変換効率に優れた太陽電池素子が得られることから、太陽電池素子の表面、即ち受光面の導電層又は導電配線を形成するための導電ペーストとして用いることが好ましい。
本発明の導電ペーストを焼成してなる導電層又は導電配線を有する太陽電池素子もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、焼成後に残留する炭素成分が少なく、かつ、オフセット印刷プロセスに好適に用いることができ、細線でアスペクト比の高い配線を形成することが可能な導電ペースト、及び、該導電ペーストを用いて製造される太陽電池素子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0053】
(重合例1)
攪拌機、冷却器、温度計、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラプルフラスコに、イソブチルメタクリレート(IBMA)100重量部と、連鎖移動剤としてジチオリン酸ビス(2−エチルヘキシル)(SC有機化学社製、「Poslex DT−8」)3重量部と、有機溶剤として3−メチル−1,5−ペンタンジオール100重量部とを混合し、モノマー混合液を得た。
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら溶液温度が95℃に達するまで昇温した。温度が達した後、重合開始剤を用いた溶剤で希釈した溶液を加えた。また重合中に同様に重合開始剤を含む溶液を数回添加した。
重合開始から10時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。IBMAの重合体が得られた。得られた(メタ)アクリル樹脂について、GPCによる分析を行ったところ、ポリスチレン換算による重量平均分子量は約40000であった。なお、ポリスチレン換算重量平均分子量の測定には、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用いた。また、ガラス転移温度は50℃であった。ガラス転移温度の測定にはTA Instruments株式会社製、DSC2920 Modulated DSCを用いた。
【0054】
(重合例2)
モノマーとしてイソブチルメタクリレート(IBMA)50重量部と2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)50重量部を用いた以外は実施例1と同様にして重合体を得た。得られた重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は約50000であった。ガラス転移温度は20℃であった。
【0055】
(重合例3)
モノマーとしてイソブチルメタクリレート(IBMA)50重量部と2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)50重量部と、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタン(DDM)0.3重量部と、有機溶剤として3−メチル−1,3−ブタンジオール100重量部とを用いた以外は実施例1と同様にして重合体を得た。得られた重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は約80000であった。ガラス転移温度は20℃であった。
【0056】
(重合例4)
モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)を100重量部用いた以外は実施例1と同様にして重合体を得た。得られた重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は約50000、ガラス転移温度は104℃であった。
【0057】
(重合例5)
有機溶剤として酢酸エチルを用いた以外は実施例2と同様にして重合体を得た。得られた重合体のポリスチレン換算重量平均分子量は約10000、ガラス転移温度は50℃であった。
【0058】
(実施例1)
重合例1で得られた重合体と、有機溶剤とを表1の組成になるように混合してビヒクルを作製した。さらに、銀粉末(三井金属鉱業社製、SPQ03R、d50=0.6μm、d90=1.2μm)、低融点ガラス微粒子を表1の組成になるように配合し、遊星式混練機にて銀粉末を分散させペーストを作製した。
【0059】
(実施例2)
重合例2で得られた重合体と、有機溶剤とを表1の組成になるように混合してビヒクルを作製した。さらに、銀粉末(三井金属鉱業社製、SPQ03R)、低融点ガラス微粒子を表1の組成になるように配合し、遊星式混練機にて銀粉末を分散させペーストを作製した。
【0060】
(実施例3)
重合例3で得られた重合体と、有機溶剤とを表1の組成になるように混合してビヒクルを作製した。さらに、銀粉末(三井金属鉱業社製、SPQ03R)、低融点ガラス微粒子を表1の組成になるように配合し、遊星式混練機にて銀粉末を分散させペーストを作製した。
【0061】
(比較例1)
重合例4で得られた重合体と、有機溶剤とを表1の組成になるように混合してビヒクルを作製した。さらに、銀粉末(三井金属鉱業社製、SPQ03R)、低融点ガラス微粒子を表1の組成になるように配合し、遊星式混練機にて銀粉末を分散させペーストを作製した。
【0062】
(比較例2)
重合例2で得られた重合体と、有機溶剤とを表1の組成になるように混合してビヒクルを作製した。さらに、銀粉末(三井金属鉱業社製、SPN20J、d50=3.2μm、d90=5.3μm)、低融点ガラス微粒子を表1の組成になるように配合し、遊星式混練機にて銀粉末を分散させペーストを作製した。
【0063】
(比較例3)
重合例5で得られた重合体と、有機溶剤とを表1の組成になるように混合してビヒクルを作製した。さらに、銀粉末(三井金属鉱業社製、SPQ03R)、低融点ガラス微粒子を表1の組成になるように配合し、遊星式混練機にて銀粉末を分散させペーストを作製した。
【0064】
【表1】

【0065】
<評価>
実施例、比較例で得られたビヒクル及びペーストについて以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
(1)粘度評価
得られたペーストを、レオメーター(HAAKE社製 RheoStress 3000により測定した。1(1/s)および10(1/s)の比(TI値)を算出した。
【0067】
(2)印刷性評価
得られたペーストを幅100μm、長さ10cmの金属版に入れた。表面をシリコンゴムで巻いたローラーをゆっくりと版上を転がしペーストをゴム上に転写させた。転写させたペーストをガラス板上へ転写を行い、良好に転写できるものを「○」、部分的に転写できたものを「△」、全く転写できなかったものを「×」として評価を行った。
【0068】
(3)焼結性評価
得られたビヒクルを150℃で2時間乾燥させて得られた樹脂をTG−DTAで測定し、以下の基準で評価した。
○:600℃まで加熱したとき、残留炭素成分は1重量%以下であった
×:600℃まで加熱したとき、1重量%を超える炭素成分が残留した
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、焼成後に残留する炭素成分が少なく、かつ、オフセット印刷プロセスに好適に用いることができ、細線でアスペクト比の高い配線を形成することが可能な導電ペースト、及び、該導電ペーストを用いて製造される太陽電池素子を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル樹脂と、銀粉末と、有機溶剤とを含有する導電ペーストであって、
前記(メタ)アクリル樹脂は、イソブチルメタクリレートに由来するセグメントを40重量%以上含有し、
前記銀粉末は、累積重量が50%となる粒子径が1μm以下であり、
前記有機溶剤は、炭素/水酸基が1.5〜5であり、かつ、1分子中に2個水酸基を有する化合物を含有する
ことを特徴とする導電ペースト。
【請求項2】
銀粉末の含有量が60〜75重量%であることを特徴とする請求項1記載の導電ペースト。
【請求項3】
銀粉末は、表面が親水処理されていることを特徴とする請求項1又は2記載の導電ペースト。
【請求項4】
1(1/s)と10(1/s)との比が1〜1.2であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の導電ペースト。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の導電ペーストを用いてなることを特徴とする太陽電池素子。