説明

導電ペースト用銀粉及びその銀粉を用いた導電ペースト

【課題】電子回路部品の導電回路等の形成用導電ペーストにおいて、焼成時における導電ペーストの金属導体とセラミックとの膨張・収縮差に伴う金属導体の剥離や接着不良を防止でき、金属導体の酸化が十分に抑制できるなど高温焼成に対応可能な導電ペースト用処理銀粉および導電ペーストを提供する。
【解決手段】平均粒径が0.1〜10μmの銀粉の粒子表面に、0.01〜10重量%のSiを含有する0.1〜100nmの厚みのSiO2系ゲルコーティング膜を被着している導電ペースト用銀粉とする。製造法としては、銀粉、オルガノシラン化合物および水を水溶性の有機溶媒中で反応させてオルガノシラン化合物の加水分解生成物を生成させ、得られた懸濁液にアンモニア水等のゲル化剤を添加して銀粉の粒子表面にSiO2系ゲルコーティング膜を形成させ、次いで、固液分離してSiO2系ゲルコーティング膜を有する銀粒子を採取する方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子回路部品の金属導体材料などに使用する導電ペースト用の導電フィラーに関し、特に、多層セラミック回路基板向けに好適な導電ペースト用銀粉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子回路部品や積層電子部品における各種基板の導電回路や電極を形成する手段として導電ペーストが多く使用されている。
導電ペーストは、一般に樹脂系バインダーと溶媒とからなるビヒクル中に導電フィラーとして金属導体粉末を分散させた流体であって、セラミック基板やシート上に印刷、塗布された後、焼成によって前記のビヒクルが蒸発、分解され、残った導電フィラーが焼結体となって電気の良導体を形成して導電回路や電極を形成する。実際の使用にあたっては、セラミック基板の表面や内部の孔に、導電ペーストを塗布または充填した状態で基板とともに加熱処理が行われてビヒクルが蒸発、分解、燃焼して除去されると共に、導電フィラーとしての金属導体粉末が互いに焼結して通電可能な導電回路や電極が形成される。
【0003】
これまでのところ、このような導電フィラーすなわち金属導体粉末としては導電性や価格面で銀粉および銅粉が一般化している。
導電ペーストが印刷、塗布されるセラミック基板またはシートとしては、通常800〜1000℃で焼成される低温焼成セラミック(LTCC)が用いられるが、導電ペーストの印刷、塗布後に、このセラミック基板と導電ペーストの金属導体とを同時焼結させる必要がある。すなわち、金属導体としてもこのような比較的高温で焼成できることが要求されている。
【0004】
しかし、焼成時に、セラミックと金属導体とのミスマッチによる膨張・収縮率差が発生し、セラミックと金属導体間において剥離や接着不良が生じ易いという問題があり、このような問題に対しては例えば金属導体粉末にガラスフリットやセラミック粉末を添加して同時焼結性をコントロールするという手段も提案されている。
また、銅含有粒子を表面処理して有機金属化合物を被覆させることにより焼結性をコントロールする手段も提案されている。
【特許文献1】特開平05−054714号公報
【特許文献2】特開平03−054126号公報
【特許文献3】特開平11−177241号公報
【特許文献4】特開平02−014258号公報
【特許文献5】特開昭62−133002号公報
【特許文献6】特開2002−025847号公報
【特許文献7】特開2000−336273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導電ペーストを印刷、塗布した基板、あるいは導電ペーストによる内部電極を印刷、塗布した積層体等の焼成時に、前記のように、セラミックと金属導体における同時焼結性のコントロール不十分によって剥離、接着不良を生じ易いという問題が依然としてあった。
また、焼成時における膨張または収縮に伴い、このようなセラミックと金属導体間における剥離、接着不良を防止するため、前記のように、金属導体粉末にガラスフリットやセラミック粉末を添加すると、ガラスフリットやセラミック粉末の添加量が増えることで、導体の電気抵抗が増すという問題があった。
【0006】
さらに、導電ペースト中の樹脂系バインダーや溶媒による炭素質分解生成物が残留すると金属導体の焼結性を損なうので、酸素を導入した雰囲気中で焼成を行ってこの残留物を燃焼除去する必要があり、金属導体が銅の場合には銅が酸化されて電気抵抗値を増大させるという問題があった。
またさらには、前記のように表面処理を行って金属導体の表面に有機金属化合物を被覆して焼結性をコントロールする場合には、表面処理の不均一性のため収縮挙動にばらつきを生じ、基板の捩じれや撓みを生じるなど焼結性コントロールが不十分になるという問題があった。
そしてまた、高温度での焼成時に、金属導体の蒸発により欠陥を生じるという問題があった。
【0007】
上記の諸問題に鑑み、本発明の目的とするところは、電子回路部品の各種基板における導電回路ないし電極の形成のために使用する導電ペーストであって、該導電ペーストがセラミック基板上に印刷、塗布された後の焼成時において、導電ペーストによる金属導体とセラミックとの膨張、収縮差に伴う金属導体の剥離や接着不良を防止でき、焼成時の不活性ガス雰囲気に酸素を導入しても、金属導体の酸化が十分に抑制でき、焼成時の導体金属の蒸発が防止できるという高温焼成に対応可能な導体ペーストの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明者等は鋭意研究の結果、ゾル・ゲル法に着目して、ガラスやセラミックの主成分であるSiO2を主材としたSiO2系ゲルを銀粉の粒子に薄くかつ均一に被着させることにより上記の問題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、第1に、導電ペーストの導電フィラーに用いる銀粉において、0.01〜10重量%のSiを含有し、該Siの実質上全てがSiO2系ゲルコーティング膜として銀粒子表面に被着していることを特徴とする導電ペースト用銀粉;第2に、前記銀粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、前記SiO2系ゲルコーティング膜の厚みが0.1〜100nmである、第1に記載の導電ペースト用銀粉;第3に、前記SiO2系ゲルコーティング膜の厚みの変動幅が±30%以内である、第1または2に記載の導電ペースト用銀粉;第4に、前記銀粒子が球状、板状またはフレーク状の形状を有する、第1〜3のいずれかに記載の導電ペースト用銀粉;第5に、収縮開始温度が500℃以上である、第1〜4のいずれかに記載の導電ペースト用銀粉;第6に、前記SiO2系ゲルコーティング膜がSi以外の金属Mの酸化物を、M/Siの原子比で1.0以下の範囲で含有する、第1〜5のいずれかに記載の導電ペースト用銀粉;第7に、前記金属MがNa、K、B、Pb、Zn、Al、Zr、Bi、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba及びLiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である、第6に記載の導電ペースト用銀粉;第8に、第1〜5のいずれかに記載の銀粉100重量部に対し、ガラスフリットまたはセラミック粉末が10重量部以下の割合で配合されてなる導電ペースト用銀粉;第9に、樹脂系バインダーと溶媒とからなるビヒクルに、第1〜8のいずれかに記載の銀粉を分散させてなる導電ペースト;第10に、銀粉、オルガノシラン化合物および水を水溶性の有機溶媒中で反応させて該オルガノシラン化合物の加水分解生成物を生成させ、得られた懸濁液にゲル化剤を添加して該銀粉の粒子表面にSiO2系ゲルコーティング膜を形成させ、次いで、固液分離して該SiO2系ゲルコーティング膜を有する銀粉を採取することを特徴とする導電ペースト用銀粉の製造方法;第11に、前記ゲル化剤を添加して前記銀粉の粒子表面に前記SiO2系ゲルコーティング膜を形成させる際に、前記懸濁液を撹拌しかつ超音波を付与する、第10に記載の導電ペースト用銀粉の製造方法;第12に、前記ゲル化剤を添加して前記銀粉の粒子表面に前記SiO2系ゲルコーティング膜を形成させる際に、高剪断力を加える分散混合機で前記懸濁液を撹拌する、第10または11に記載の導電ペースト用銀粉の製造方法;第13に、前記ゲル化剤がアンモニア水である、第10〜12のいずれかに記載の導電ペースト用銀粉の製造方法;第14に、前記オルガノシラン化合物に加えてSi以外の金属Mのアルコキシドを配合する、第10〜13のいずれかに記載の導電ペースト用銀粉の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子回路部品の各種基板における導電回路ないし電極の形成のために使用する導電ペーストにおいて、該導電ペーストがセラミック基板上に印刷、塗布された後の焼成時において、導電ペーストの金属導体とセラミックとの膨張・収縮差に伴う金属導体の剥離や接着不良を防止でき、焼成時に不活性ガス中に酸素が導入された雰囲気中であっても、金属導体の酸化が十分に抑制できるという高温焼成に対応可能な導電ペースト用の処理銀粉および導電ペーストが得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、好ましくはオルガノシラン化合物に由来する加水分解生成物の極薄層を、銀粒子の表面にSi−O−H系のシロキサン結合で被着させた後、触媒すなわちゲル化剤によって縮合反応を行わせることにより、銀粒子の表面に均一に極薄のSiO2系ゲルコーティング膜を形成できる。より具体的には、銀粉を水溶性の有機溶媒中に添加し、所定の濃度のスラリーとし、窒素等の不活性ガス雰囲気中で撹拌しながら、オルガノシラン化合物を添加し、次いで水を添加し、引き続き、アンモニア水等のゲル化剤を添加し、撹拌したまま熟成処理することにより、極薄の均一なSiO2系ゲルコーティング膜を被着した銀粉を得ることができる。
【0012】
すなわち、平均粒径が0.1〜10μm、好ましくは0.1〜5μmの銀粉を用い、有機溶媒中においてその銀粉の粒子の表面でオルガノシラン化合物の加水分解、縮合のゾル・ゲル反応を行わせると、膜厚が0.1〜100nm、好ましくは1〜50nmの均一なSiO2系ゲルコーティング膜が形成できる。オルガノシラン化合物によるゾルの加水分解を行う水溶性の有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン等の20℃での水の溶解度が10重量%以上のものがよい。
オルガノシラン化合物としては、例えば、一般式R14-aSi(OR2aで表されるアルコキシシラン(R1は1価の炭化水素基、R2は炭素数1〜4の1価の炭化水素基、aは3〜4)が好適であり、代表的なものとして、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0013】
アルコキシシランの加水分解反応を有機溶媒中の銀粉表面で行わせるための操作としては、先ず銀粉を前記有機溶媒に入れて撹拌し懸濁させておき、その中にアルコキシシランを添加し、次いで純水を添加する。純水を添加した後でアルコキシシランを添加してもよい。この液に、加水分解・縮合反応を促進させるアルカリ触媒、好ましくはアンモニア水を添加する。その結果、銀粉の粒子表面にシロキサン結合によってアルコキシシランが付着し、そのアルコキシシランが銀粉の粒子表面で加水分解すると共に縮合反応によりゲル化し、そのSiO2系の均一な皮膜が銀粉の粒子表面に被着される。
【0014】
一般に、ソル・ゲル反応の触媒には、酸またはアルカリが用いられるが、銀粉の粒子表面にSiO2系ゲルコーティング膜を形成させる場合には、アンモニアが触媒として最も適している。塩酸、硫酸あるいは燐酸等の酸では高温焼成対応性のある安定した均一な薄膜SiO2系ゲルコーティング膜が得られない。また、アルカリであっても、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いたのでは、電子部品の材料としては好ましくないナトリウムやカリウムの不純物が銀粉に残留し、ひいては導電ペースト中に残存する。あるいはまた、ジエチルアミンやトリエチルアミン等のアミン系の触媒を用いると、添加用樹脂性チューブを腐食させる等、添加操作に支障を来す不都合がある。これに対し、アンモニアを用いた場合には、高温焼成対応性のある安定した均一な薄膜のSiO2系ゲルコーティング膜が得られると共に、処理過程での揮発分の除去が簡単で不純物の残留がなく、また、材料としても入手し易くかつ低コストである等のメリットがある。
【0015】
上記の縮合反応はアンモニア水を添加した後、所定温度で所定時間熟成することによって進行させるのが望ましく、例えば液温を20〜60℃に所定の時間保持するのがよい。SiO2系ゲルコーティング膜の膜厚は一般にアルコキシシランの量、液温、保持時間等に依存するので、これらを調整することによって、均一厚みのSiO2系ゲルコーティング膜の薄膜を銀粉の粒子表面に形成させることができる。このSiO2系ゲルコーティングされるべき銀粉の粒子形状は膜厚に影響することは殆どなく、球状、板状、フレーク状(箔片状)、角形状等のあらゆる形状の銀粒子に均一厚さのSiO2系ゲルコーティング膜、好ましくは、厚みの変動幅が±30%以内のSiO2系ゲルコーティング膜を形成することができる。
【0016】
また、アンモニア触媒の使用にあたっては、連続的に反応系に添加することによって、SiO2系ゲルコーティング膜付き銀粉の凝集を防止できる。さらに、反応中に凝集することを防止するために、高剪断力を加えることができる分散混合機で反応系(懸濁液)を撹拌することにより良好に分散させることができ、少なくとも原料銀粉(供試材)と同等程度まで分散させることができる。また、仮に凝集した場合にあっても、反応系に超音波を付与して撹拌することにより良好に分散して、少なくとも原料銀粉と同等程度までは分散させることができる。
【0017】
このようにして、銀粉表面に均一な膜厚のSiO2系ゲルコーティング膜が形成できるが、この皮膜の量については、Si量0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%であるのがよい。Si量が10重量%を超えると導電性が悪化し、0.01重量%未満では膜厚が薄くなりゲルコーティング膜被着効果が希薄となる。すなわち、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%のSiを含有した銀粉であって、そのSiの実質上すべてが、SiO2系ゲルコーティング膜として銀粒子表面に被着しているのがよい。ここで、「Siの実質上全て」とは、SiO2以外にも少量のSiが皮膜中に不可避的に残存してもよいという意味であり、例えば製造上の理由によりSiの一部がアルコキシシランの残留物として皮膜中に不可避的に残存したり、SiO2以外のSi酸化物として少量存在しても、その量が僅かであれば特に悪影響を与えることはない。
【0018】
使用するアルコキシシラン等のオルガノシラン化合物に加えて、Si以外の金属Mのアルコキシド、例えばNa、KまたはBのアルコキシドを反応系に適量共存させると、SiO2と共にNa2O、K2O、B23などが共存した合成ゲルコーティング皮膜を形成することができ、この場合にも銀粉の高温焼成対応性を向上させることができる。すなわち、これらの金属酸化物の量を調整することによって、銀粉の焼結特性、特に収縮率、収縮開始温度(収縮率が3%に達する温度をいう。)を制御することができる。このようなSi以外の金属Mの酸化物の含有量については、M/Siの原子比で1.0以下の範囲で含有するのがよく、これより多くなると、皮膜の均一性が失われたり高温焼成対応性が損なわれたりすることがある。金属Mとしては、前記のNa、K、Bのほか、さらにPb、Zn、Al、Zr、Bi、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba及びLiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属とすることができる。
【0019】
このようなゾル・ゲル法を利用した湿式法でSiO2系ゲルコーティング膜を銀粉の粒子表面に形成させた後は、固液分離でSiO2系ゲルコーティング膜付き銀粉を採取する。乾燥後にケーキ状に凝集していれば、これをサンプルミル等で解砕処理することによって、良好に分散したSiO2系ゲルコーティング膜付き銀粉を得ることができる。このSiO2系ゲルコーティング膜を被着している銀粉は特に熱処理等を施すことなくそのまま導電ペースト用の導電フィラーとして使用することができる。すなわち、SiO2系ゲルコーティング膜を有したままの銀粉を樹脂系バインダーと溶媒とからなるビヒクルと混練して分散させることによって導電ペーストとすることができる。
【0020】
本発明の対象となる導電ペーストは、回路基板用に適用する場合は、800〜1000℃で焼成されるセラミック基板と同時焼結できるように、その収縮開始温度を近似させ、焼結に伴う収縮挙動に大きなずれを生じないような高温焼成対応性を有し、焼成時に発生する剥離・接着不良を防止できるものである。導電ペーストにおける導電フィラー(すなわち本発明に係る銀粉)の焼結の収縮挙動としては、収縮開始温度が500℃以上であることが好ましく、また、800℃における収縮率は15%以下が好ましく、10%以下がさらに好ましい。このように制御することによって回路基板からの金属導体の剥離・接着不良を防止することができる。
【0021】
本発明に従って、SiO2系ゲルコーティング膜を被着させた銀粉は、SiO2系ゲルコーティング膜なしのものに比べると、高温焼成対応性が向上し、収縮開始温度が高く、高温での収縮率が低くなる。銀粉に対するオルガノシラン化合物の添加量を増加させることによりSiO2系ゲルコーティング膜の厚さを増加させることができ、これにより焼成時の収縮開始温度を高め、収縮率を低くすることができる。この事実は、後記する実施例に示すように、焼結性試験によって確認されている。銀粉においては耐酸化性が大きく、銅粉を使用する場合のように、導電ペーストの導電フィラーとして使用する際に、脱バインダー工程で酸化される懸念がないので極めて有利となる。また収縮開始温度は前記の金属Mを含有しないSiO2系ゲルコーティング膜の場合には高くなる。
【0022】
しかし、銀粉の焼結温度が高すぎるのも好ましいことではない。導電フィラーとしての銀粉の焼結温度が高すぎると銀粉が焼結する前にセラミックが先に焼結してしまうという問題を生じる。本発明によれば、この問題は、前記の金属M、例えばNa、KまたはB等の酸化物が共存したSiO2系ゲルコーティング膜とすることにより、あるいは、適量のガラスフリットまたはセラミック粉末をSiO2系ゲルコーティング膜付き銀粉に添加することによってコントロールできる。この後者の場合、SiO2、Na2O、B23、PbO等の金属酸化物成分を含有したガラスフリットまたはセラミック粉末を適量混在させると、焼結温度を低くすることができる。
【0023】
また、導電フィラーがセラミック基板の焼結温度とのずれを生じて、800℃未満の低温で収縮が開始する場合にあっても、焼成品における導体の剥離・接着不良を防止できるようになる。添加ガラスフリットは銀粉表面のSiO2系ゲルコーティング膜と反応して低融点のガラス質を生成し、粒子同士の焼結を促進するものと考えられる。
このガラスフリットの配合量についてはあまり多量になると導電フィラーによる導電性に悪影響を与えるようになるので、SiO2系ゲルコーティング膜が被着した銀粉100重量部に対して、ガラスフリットまたはセラミック粉末が10重量部以下、好ましくは、7重量部以下の範囲であって、SiO2系ゲルコーティング膜と反応するに必要な量とするのがよい。
【0024】
導電フィラーとしての銀粉は耐酸化性が大きく、その使用は導電性、安定性、加工性等の見地からも好ましい。本発明に従って、SiO2系ゲルコーティング膜をその表面に形成させるための銀粉(原料銀粉)としては、前記したようにその形状が制限されるものではなく、また、その製造方法が限定されるわけでもないが、焼成過程における形状保持機能が良好であることが好ましいことから、特に粒度の揃った球状の粒子が好ましく、湿式還元法によって製造されたものが好ましい(勿論、アトマイズ法による銀粉であってもよい)。例えば、銀地金を硝酸に溶解して得られる硝酸銀溶液にアンモニア水を添加してアミン錯体溶液を得て、必要に応じてアルカリ溶液でpH調整してからヒドラジンやホルマリン等の還元剤を添加することにより、銀粒子を析出させることができる。
【0025】
本発明によれば銀粉粒子が板状であってもフレーク状であっても、それら粒子の表面に0.1〜100nmの均一なSiO2系ゲルコーティング膜を被着することができる。SiO2系ゲルコーティング膜の膜厚については、銀粉の粒子形状ごとに、金属アルコキシドの添加量と膜厚との間に一定の相関が存在しており、金属アルコキシドの添加量の調整により、その膜厚を0.1〜100nm、好ましくは1〜50nmの範囲で精密に制御が可能である。
【0026】
例えば、被処理金属粉末(原料金属粉末)が銅粉の場合には、通常環境ではSiO2系ゲルコーティング膜を施すまでの間に、この被処理銅粉の表面が酸化するのを防止するために酸化防止用の有機コーティングを施す必要があるが、銀粉の場合においてはこの酸化性の問題を無視できるので有機コーティングの必要は全くない。
また、耐酸化性を付与するため、あるいは高温焼成対応性の向上のため、熱処理によってSiO2系ゲルコーティング膜をガラス化する必要も全くない。
さらには、銀粉による導電ペーストを使用した場合には空気中での焼成が可能であり、また、導電ペースト塗布基板の焼成時に、不活性ガス雰囲気中に酸素を導入して残存不純物を酸化除去する場合にあっても金属導体の酸化については全く問題がないものである。
【実施例】
【0027】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0028】
〔実施例1〕 市販の銀地金を硝酸に溶解して硝酸銀溶液を得て、この硝酸銀溶液にアンモニア水を添加しアミン錯体溶液を得た後、このアミン錯体溶液に還元剤としてヒドラジンを添加することにより、供試材の銀粉を得た。この銀粉は表1に示すように、SEM像(走査電子顕微鏡像)で平均粒径が1.4μmの球状のものであった。
この供試材の銀粉を40℃に維持した窒素雰囲気中でイソプロピルアルコールに添加して撹拌し、分散スラリーとした。さらに撹拌状態で液温40℃を維持しながら、このスラリーに〔Si(OC254〕/〔Ag〕のモル比が0.024となる量のテトラエトキシシランを添加し、ついで、〔H2O〕/〔Ag〕のモル比が6.35となる量の純水を添加し、引き続いて〔NH3〕/〔Ag〕のモル比が0.54となる量のアンモニア水を添加し、撹拌したまま40℃で60分間窒素雰囲気中で熟成させた。
【0029】
【表1】

【0030】
得られた懸濁液を固液分離し、採取した処理銀粉を乾燥炉にて真空中120℃で11時間乾燥した。得られた処理銀粉は平均粒径1.4μmの球状のものであった。これを高倍率のTEM像(透過電子顕微鏡像)で表面部を観察したところ、厚みが13nmの均一なSiO2系ゲルコーティング膜が形成された。また、得られた処理銀粉のSi含有量は0.66重量%であり、このSi含有量の実質上全てが上記のSiO2系ゲルコーティング膜であった。このTEM像を図1に示した。
【0031】
得られた処理銀粉について、焼結時の収縮挙動を次のように評価した。すなわち、測定用の処理銀粉を0.8g採取し、これを内径5mmの筒体に装填し、上部からポンチを押し込んで50kgで1分間加圧し、高さ約10mmの円柱状に成形した。この成形試料を昇温炉に装填し、大気雰囲気中、10℃/分の昇温速度で、室温から約900℃まで連続的に昇温していき、成形体の高さの変化(膨張・収縮の変化)を自動記録した。得られた結果を図2のグラフに実線で記入した。
なお、本発明の効果を確認すべくSiO2系ゲルコーティングを行わない供試材の(原料)銀粉についても同様に測定を行い、その結果を図2のグラフに2点鎖線で記入した。
【0032】
上記評価結果の図2のグラフにみられるように、コーティングなしの供試材の(原料)銀粉の収縮開始温度は396℃であり、収縮率は640℃以上で15%を超え、800℃では16.7%に達した。一方、実施例1で得られた本発明に係るSiO2系ゲルコーティング膜が被着した銀粉の収縮開始温度は894℃であり、収縮率は800℃で1.8%であった。また、電気抵抗測定装置(ダイアインスツルメント製ロレスタHP、MCP−T410)によって電気抵抗値を測定したところ、コーティングなしの供試材の(原料)銀粉、処理銀粉のいずれも、焼結体の電気抵抗値は2×10-2Ω未満(装置の電気抵抗値表示下限の目盛の2×10-2Ωに達せず。)であり、大気雰囲気での焼成に対して酸化等について影響されないことを示した。
【0033】
〔実施例2〕 実施例1のSiO2系ゲルコーティング処理において、テトラエトキシシランの添加量を〔Si(OC254〕/〔Ag〕のモル比を0.008となる量とした以外は、実施例1と同じ条件でSiO2系ゲルコーティング膜処理を施した銀粉懸濁液を作製した。
【0034】
得られた懸濁液を固液分離し、採取した処理銀粉を乾燥炉にて真空中120℃で11時間乾燥し、SiO2系ゲルコーティング膜を被着した銀粉を得た。得られた処理銀粉は平均粒径1.4μmの球状のものであった。これを高倍率のTEMで表面部を観察したところ、厚みが5nmの均一なSiO2系ゲルコーティング膜が形成されていた。この処理銀粉のSi含有量は0.24重量%であり、このSi含有量の実質上全てが上記のSiO2系ゲルコーティング膜であった。
得られた処理銀粉を実施例1と同様にして膨張率(収縮率)測定を行い、その結果を図2中に破線で記入した。
【0035】
図2のグラフを見ると、破線で示される実施例2のものは収縮開始温度は702℃であり、800℃における収縮率は6.7%であった。これは、SiO2系ゲルコーティング膜なしの供試材の(原料)銀粉より収縮開始温度は高く、実施例1よりは低温で収縮している。このことによりSiO2系ゲルコーティング量により収縮挙動のコントロールが可能であることがわかる。また、焼結体の電気抵抗値は2×10-2Ω未満であり、大気雰囲気での焼成に対して酸化等について影響されないことを示した。
【0036】
〔実施例3〕 実施例1と同じ条件でSiO2系ゲルコーティング処理して得られた処理銀粉について、処理銀粉100重量部に対して、SiO2−B23−PbO系のガラスフリット1重量部を配合した。この配合処理銀粉を実施例1と同様にして膨張率(収縮率)測定を行い、その結果を図2中に一点鎖線で記入した。
【0037】
図2のグラフを見ると、一点鎖線で示される実施例3のものは収縮開始温度は652℃であった。これは、二点鎖線で示されるコーティングなしの供試材(原料銀粉)より収縮開始温度は高いが、実施例1や実施例2の処理銀粉の場合よりは低い温度で収縮している。このことにより添加するガラスフリットにより収縮挙動のコントロールが可能であることがわかる。
さらに、焼結した成形体の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗値は2×10-2Ω未満であり、大気雰囲気での焼成に対して酸化等について影響されず、金属導体の酸化による電気抵抗値は認められなかった。
【0038】
〔実施例4〕 SiO2系ゲルコーティング反応中に凝集することを防止するために、高剪断力を加えることができる分散撹拌機で反応系の懸濁液を撹拌して良好に分散させ、少なくとも原料銀粉(供試材)と同等程度まで分散した以外は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。得られた処理銀粉は平均粒径1.4μmの球状のものであった。Si含有量は0.64重量%であり、このSi含有量の実質上全てが上記のSiO2系ゲルコーティング膜であった。
さらに、焼結した成形体の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗値は2×10-2Ω未満であり、大気雰囲気での焼成に対して酸化等について影響されず、金属導体の酸化による電気抵抗値は認められなかった。
【0039】
〔実施例5〕 テトラエトキシシランの単独添加に加えて、[H3BO3]/[Ag]のモル比が0.024となる硼酸をイソプロピルアルコールに溶解したボロンアルコキシドを添加した以外は、実施例1と同様に処理して、B含有SiO2系ゲルコーティング膜をもつ銀粉を得た。その結果を表1に示す。得られた処理銀粉は平均粒径1.4μmの球状のものであった。Si含有量は0.57重量%、B含有量は0.15重量%であり、このSi含有量の実質上全てが上記のSiO2系ゲルコーティング膜であった。
さらに、焼結した成形体の電気抵抗を測定したところ、電気抵抗値は2×10-2Ω未満であり、大気雰囲気での焼成に対して酸化等について影響されず、金属導体の酸化による電気抵抗値は認められなかった。
【0040】
〔比較例1〕 湿式還元法で得られた銅粉を用い、実施例1と同様の処理を行い、SiO2系ゲルコーティングした処理銅粉を得た。このSi含有量は0.64重量%であって、Siの実質上全てがSiO2系ゲルコーティング膜であった。この処理銅粉100重量部に対し、実施例3と同じく、SiO2−B23−PbO系のガラスフリットを1重量部を配合し、大気雰囲気中、10℃/分の昇温速度で、室温から900℃まで連続的に昇温して焼成処理を行った。焼結後の成形体は黒く変色しており、酸化された状態を示していた。この電気抵抗を測定したところ、2×106Ωと極めて高い電気抵抗値を示した。また、加熱にともなって酸化され、収縮せず膨張するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1によるSiO2系ゲルコーティング膜を形成した銀粉の透過電子顕微鏡像(TEM像)である。
【図2】実施例1〜3によるSiO2系ゲルコーティング膜付き銀粉およびSiO2系ゲルコーティング膜なしの銀粉(原料銀粉)の温度対膨張率(収縮率)曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電ペーストの導電フィラーに用いる銀粉において、0.01〜10重量%のSiを含有し、該Siの実質上全てがSiO2系ゲルコーティング膜として銀粒子表面に被着してなり、収縮開始温度が500℃以上であることを特徴とする導電ペースト用銀粉。
【請求項2】
前記銀粒子の平均粒径が0.1〜10μmであり、前記SiO2系ゲルコーティング膜の厚みが0.1〜100nmである、請求項1に記載の導電ペースト用銀粉。
【請求項3】
前記SiO2系ゲルコーティング膜の厚みの変動幅が±30%以内である、請求項1または2に記載の導電ペースト用銀粉。
【請求項4】
前記銀粒子が球状、板状またはフレーク状の形状を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の導電ペースト用銀粉。
【請求項5】
前記SiO2系ゲルコーティング膜がBの酸化物を、B/Siの原子比で1.0以下の範囲で含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の導電ペースト用銀粉。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の銀粉100重量部に対し、ガラスフリットまたはセラミック粉末が10重量部以下の割合で配合されてなる導電ペースト用銀粉。
【請求項7】
樹脂系バインダーと溶媒とからなるビヒクルに、請求項1〜6のいずれかに記載の銀粉を分散させてなる導電ペースト。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−262916(P2008−262916A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136475(P2008−136475)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【分割の表示】特願2002−233902(P2002−233902)の分割
【原出願日】平成14年8月9日(2002.8.9)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】