説明

導電ミシン糸及び織編物

【課題】実用使用状況において十分な導電性能を有しており、導電性複合糸とすることで、導電ミシン糸の糸表面への導電性繊維露出割合が安定しており、縫製後の製品中にしっかりと固定することができ、クリーンルーム用や医療用の作業用ユニフォーム等の衣料用途や、カーテンなどのインテリア用途及び資材用途に好適に用いられる導電ミシン糸を提供すること。
【解決手段】鞘部に導電性繊維と芯部に熱可塑性繊維となるように構成されたカバーリングからなる導電性複合糸を少なくとも1本以上用い、カバーリングとは逆方向に合撚を施してなる導電性ミシン糸であって、該導電性複合糸に用いる導電繊維の電気抵抗値が1×10〜1×10Ω/cm、強度が1.0cN以上である導電性ミシン糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電ミシン糸に関するものである。詳しくは、製品縫製用ミシン糸として用いることで、安定した電気抵抗を得ることができ、各種の衣料用途、インテリア用途及びフィルター用途、産業資材用途に用いることができる導電ミシン糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシン糸としては各種長繊維糸や紡績糸、長繊維糸と短繊維糸とを複合した長短複合糸の合撚糸が提供されており、各種衣料用途、インテリア用途及びフィルター用途、産業資材用途に用いられている。
【0003】
このようなミシン糸において、機能性を付与した付加価値の高いミシン糸が要求されてきており、高強力性能を有するもの、耐熱性を有するもの、難燃性を有するもの等の提案がなされ、これらのミシン糸は機械特性、耐薬品性、耐候性等の多くの長所を有しており、衣料のみならず産業資材用途にも広く用いられている。しかしこれらの繊維は摩擦等による静電気の発生が著しいため、空気中の粉塵を吸引して美観を低下させたり、人体への電撃を与えて不快感を与えたり、さらにはスパークによる電子機器への障害や、引火性物質への引火爆発等の問題を引き起こす場合があり、そのために導電性を付与するための多くの研究がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、精紡工程にて導電性繊維を芯又は鞘に16〜30重量%配した精紡交撚糸糸を用いることで、電気抵抗値が1×10〜1×1011Ω/cmである導電性複合繊維を得られ、縫製時に発生する静電気防止できることが記載されている。しかしながら、この方法では導電性繊維を縫製時の摩擦における静電気は抑制できても、縫製された後の製品を洗濯し測定した場合には電気抵抗面で不十分であった。
【0005】
特許文献2には、導電性繊維とポリエステル長繊維を引き揃えまたはエアー混繊した糸条を複数本用い下撚りした後に、下撚りとは逆の方向で上撚りを施すことで、寸法安定性に優れ、電気抵抗値1×10Ω/cm以下のミシン糸が得られると記載されている。しかしながら、該方法で得られたミシン糸では、寸法安定性は良好なもののミシン糸の長さ方向で導電性繊維の露出割合にバラツキがあるため、電気抵抗安定性に劣るものであった。
【0006】
さらに、特許文献3には、導電性繊維に芳香族ポリアミドポリマーを用いることで、耐湿熱性の向上ができると記載されている。この方法で得られたものは確かに耐湿熱性に優れたものは得られるが、ミシン糸の長さ方向で導電性繊維の露出割合にバラツキがあるため、電気抵抗安定性に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−310944号公報
【特許文献2】特開2000−110042号公報
【特許文献3】特開2005−307391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するもので、実用使用状況において十分な導電性能を有しており、導電性複合糸とすることで、導電ミシン糸の糸表面への導電性繊維露出割合が安定しており、縫製後の製品中にしっかりと固定することができ、クリーンルーム用や医療用の作業用ユニフォーム等の衣料用途や、カーテンなどのインテリア用途及び資材用途に好適に用いられる導電ミシン糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の1〜5を要旨とするものである。
1.鞘部に導電性繊維と芯部に熱可塑性繊維となるように構成されたカバーリングからなる導電性複合糸を少なくとも1本以上用い、カバーリングとは逆方向に合撚を施してなる導電性ミシン糸であって、該導電性複合糸に用いる導電繊維の電気抵抗値が1×10〜1×10Ω/cm、強度が1.0cN以上であることを特徴とする導電性ミシン糸。
2.導電性ミシン糸に用いる導電性繊維は、複数の単糸からなるマルチフィラメントであって、各単糸は、ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成される複合繊維であって、繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面において、非導電性成分中に導電性成分部分が存在し、かつ導電性成分は一部が繊維表面に露出している形状を呈している上記1記載の導電ミシン糸。
3.導電性繊維の導電性成分が、ブチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリブチレンテレフタレートとにイソフタル酸(A)、アジピン酸(B)のうち少なくとも一方が下記式範囲を満足する量共重合され、かつ導電性粒子が含有されている共重合ポリブチレンテレフタレートである上記2記載の導電ミシン糸。
(Aの共重合量)+(Bの共重合量)=5〜55モル%
ただし(Aの共重合量)≦45モル%
4.熱可塑性繊維の強度が3cN/dtex以上であることを特徴とする上記1〜3いずれかに記載の導電ミシン糸。
5.上記1〜4いずれかの導電ミシン糸を使用した織編物であって、JIS L1018 103法の洗濯20洗後の縫製方向の縫い目の表面漏洩抵抗値が1×10Ω以下である織編物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電ミシン糸は、十分な導電性能と安定性を有しており、芯部に十分な強度を有する熱可塑性繊維を含むものであるため、導電ミシン糸にした際の糸切れもなく、また導電性複合糸の鞘部に優れた電気性能を有する導電性繊維を構成しているために、導電性繊維が複合糸中もしくは導電ミシン糸で導電性繊維がしっかりと表面に露出固定されているので、洗濯後も安定した電気抵抗及び耐久性にも優れるものとなる。
【0011】
そして、本発明の導電ミシン糸は、クリーンルーム用や医療用の作業用ユニフォーム等の衣料用途や、カーテンなどのインテリア用途及び資材用途に縫製用ミシン糸として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における導電性複合糸を構成する導電性繊維を繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面形状を示す一実施態様である。
【図2】本発明における導電性複合糸を構成する導電性繊維を繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面形状を示す他の実施態様である。
【図3】本発明における導電性複合糸のシングルカバリング糸の一実施態様を示す模式図である。
【図4】本発明における導電性複合糸のダブルカバリング糸の一実施態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の導電ミシン糸に用いる導電性複合糸は、鞘部が導電性繊維、芯部が熱可塑性繊維からなるように構成されたカバーリングからなる糸条を合撚してなるものである。
【0015】
まず、導電性繊維について説明する。
【0016】
導電性繊維は、複数の単糸からなるマルチフィラメントであって、各単糸は、ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成される複合繊維である。そして各単糸は、繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面において、非導電性成分中に導電性成分部分が存在し、かつ導電性成分は一部が繊維表面に露出している形状を呈しているものである。
【0017】
導電性成分のポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等を用いることができ、これらを単独あるいはブレンドや共重合したものも用いることができる。
【0018】
中でもPBTを用いることが好ましい。PBTは非常に結晶性の高い樹脂であることから、導電性粒子の配列欠陥を少なくさせるものであり、導電性粒子の性能を効率よく得ることができる。さらには、PBTに特定の共重合成分を含有させることによって、導電性粒子の含有量を増加させることができ、導電性能の向上を図ることができる。
【0019】
このような共重合成分としては、イソフタル酸やアジピン酸が好ましく、どちらか一方、もしくは両者を共重合成分として、共重合させることが好ましい。これにより、導電性成分と導電性粒子との相溶性(表面濡れ性)を向上させ、導電性粒子の混入量を増加させることができ、優れた導電性能を有するものとすることができる。さらにはポリマーの柔軟性が向上し、紡糸延伸工程をスムーズに行うことができ、長さ方向に均一な導電性能を有するものとすることができる。
【0020】
これらの共重合成分の、PBT中の共重合量としては、イソフタル酸とアジピン酸を併用する場合は、全体の共重合量を5〜55モル%とし、中でも10〜50モル%とすることが好ましい。
【0021】
両者の共重合量が5モル%未満では、導電性粒子との相溶性(表面濡れ性)の向上が得られず、導電性粒子の混入量の増加やポリマーの柔軟性が向上することによる導電性粒子の配列の向上効果を奏することができない。一方、55モル%を超えると、ポリマー自体が完全に非結晶になるため、導電性粒子のポリマー中へ分散が困難となる。
【0022】
次に、イソフタル酸のみを共重合成分とする場合は、5〜55モル%とし、さらに好ましくは、10〜50モル%である。アジピン酸の共重合量がこの範囲以外である場合は、上記と同様に、導電性粒子の配列の向上効果が得られなかったり、導電性粒子のポリマー中への分散が困難となるため好ましくない。ただし、イソフタル酸の共重合量は、45モル%以下であることを要する。
【0023】
また、導電性成分に含有される導電性粒子としては、導電性カーボンブラックや金属粉末(銀、ニッケル、銅、鉄、錫あるいはこれらの合金等)、硫化銅、沃化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属化合物が挙げられる。また、酸化錫に酸化アンチモンを少量添加したり、酸化亜鉛に酸化アルミニウムを少量添加して導電性粒子としたものも挙げられる。
【0024】
さらには、酸化チタンの表面に酸化錫をコーティングし、酸化アンチモンを混合焼成し、導電性粒子としたものも用いることができる。中でも好ましいものは、導電性繊維の性能向上として汎用的に使用され、他の金属粒子と比較し、ポリマー流動性を阻害しにくい導電性カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)である。
【0025】
また、導電性粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径が1μm以下のものとすることが好ましい。1μmを超えると、導電性粒子のポリマー中への分散性が悪くなりやすく、導電性能や強伸度特性の低下した繊維となりやすい。
【0026】
導電性成分における導電性粒子の含有量については、導電性粒子の種類、導電性能、粒子径、粒子の連鎖形成能及び用いるポリマーの特質によって適宣選択すればよいが、導電性成分中の5〜50質量%とすることが好ましく、さらに好ましくは10〜40質量%である。含有量が5質量%未満では、導電性能が不十分になる場合があり、また、50質量%を超えると、導電性粒子のポリマー中への分散が難しくなるので好ましくない。
【0027】
非導電性成分のポリエステル系樹脂は、溶融紡糸可能なあらゆるポリエステルポリマーが適用可能であるが、中でも、PET、ポリエチレンオキシベンゾエート、PBT等を用いることができる。また、目的に応じてこれらのポリマーの共重合体や混合物としてもよい。なお、非導電性成分と導電性成分との剥離を防止するという点から、導電性成分との相溶性を考慮することが好ましい。
【0028】
また、導電性成分と非導電性成分のポリエステル系樹脂中には、効果を損なわない範囲であれば目的に応じて、ワックス類、ポリアルキレンオキシド類、各種界面活性剤、有機電解質等の分散剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、着色剤、顔料、流動性改善剤、その他の添加剤を加えることもできる。
【0029】
次に、本発明における導電性繊維の複合形態について図面を用いて説明する。
【0030】
本発明における導電性繊維は、繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面において、非導電性成分中に導電性成分部分が存在し、かつ導電性成分は一部が繊維表面に露出しているものである。
【0031】
つまり、一例としては、図1(a)〜(d)に示すように、略三角形状の導電性成分部分が非導電性成分中に存在しており、導電性成分の一部(略三角形状の一辺)が繊維表面に露出しているようなものが挙げられる。導電性成分部分の形状は特に限定されるものではなく、四角形や半円形状のものであってもよい。
【0032】
図1(a)は、導電性成分部分の数が1個であるもの、(b)は2個、(c)は3個、(d)は4個であるものの例である。導電性成分部分の数は2〜20個が好ましく、中でも3〜8個が好ましい。導電性成分部分の数が1個であると、繊維表面に露出している部分が湿熱処理後、着用等による負荷を受けた時にクラックが生じたり、破損、欠落すると、導電性能が不十分となり、当初の導電性能を維持できなくなる場合がある。一方、導電性成分部分が20個を超える場合は、繊維表面への露出部分が多くなりやすく、操業時のトラブルや湿熱処理後のクラックが生じやすくなる。このため、導電性成分部分の繊維表面への露出の割合は、円周の3/4以下、中でも1/2以下とすることが好ましく、より好ましくは1/3以下である。
【0033】
導電性繊維の電気抵抗については、1×10〜1×10Ω/cmが好ましく、より好ましくは、1×10〜1×10Ω/cmであり、最も好ましくは1×10〜1×10Ω/cmである。電気抵抗値が1×10未満であると、縫製用の導電ミシン糸としてユニフォーム等に使用した場合に、電気抵抗値が低くなりすぎて縫製用として用いた製品を着用し作業等を行った場合に、感電等を起こす原因になるため好ましくない。一方、10Ω/cmを超えてしまうと、充分な制電効果が得られないので好ましくない。
【0034】
本発明における導電性繊維の電気抵抗値は、AATCC76法に準じて以下のようにして測定するものである。導電性複合繊維(マルチフィラメントもしくは単糸のいずれでもよい)を長さ方向に15cm程度にカットして、10サンプルを採取する。このサンプルの両端の表面にケラチンクリームを塗布し、この表面部分を金属端子に接続し、試料測定長10cmにて、50Vの直流電流を印加して電流値を測定し、下記式で電気抵抗値を算出する。算出した10個のサンプルの電気抵抗値の相加平均値とする。
【0035】
電気抵抗値=E/(I×L)
E:電圧(V) I:測定電流(A) L:測定長(cm)
さらに、本発明における導電性繊維の形状として、導電性成分部分の繊維表面に露出している部分が2箇所以上あり、かつ導電性成分部分が繊維中心部付近を連通する形状を呈していることが好ましい。その一例としては、図2(a)〜(c)に示すようなものが挙げられる。図2(a)は、導電性成分部分が繊維の中心部付近を通って一直線状に配置されているものであり、繊維表面に露出している部分が2箇所のものである。(b)は、導電性成分部分が繊維の中心部付近を通って十字形状に配置されており、繊維表面に露出している部分が4箇所のものである。(c)は、導電性成分部分が繊維の中心部付近を通って三方に分かれた形状に配置されており、繊維表面に露出している部分が3箇所のものである。
【0036】
このように、導電性成分部分が繊維中心部付近を連通し、かつ繊維表面に2箇所以上露出していることにより、繊維表面に多数の導電性の接点が存在し、かつそれらの接点間が中心部を介して導通することにより電気の流れが多方向で可能となるので、導電性に優れた繊維とすることができる。このため、中でも導電性成分の繊維表面に露出している部分が3箇所以上とすることが好ましい。ただし、露出している部分の箇所が増えると、繊維表面への露出部分が多くなりやすく、操業時のトラブルや滅菌処理後のクラックが生じやすくなるため、3〜8箇所とすることが好ましい。また、導電性成分部分の繊維表面への露出の割合は、円周の3/4以下、中でも1/2以下とすることが好ましく、より好ましくは1/3以下である。
【0037】
また、非導電性成分と導電性成分の複合比率は、非導電性成分が60〜90質量%、導電性成分が40〜10質量%とすることが好ましく、より好ましくは非導電性成分が70〜85質量%、導電性成分が30〜15質量%である。導電性成分の複合比率が10質量%未満では、導電性性能が十分でない場合があり、一方、導電性成分の複合比率が40質量%を超えると、強伸度特性等の糸質性能が劣ったり、操業時のトラブルや繰り返し洗濯処理を行うとクラックが生じやすくなる。
【0038】
さらに、導電性繊維の強度は、ミシン糸を構成するにあたり導電性複合糸の鞘部に配されるため、ミシン糸にした際に強度が低いと糸切れの原因となり、十分な制電効果が得られなくなってしまうため、1.0cN/dtex以上が必要である。より好ましくは1.5cN/dtex以上であり、より好ましくは2.0cN/dtex以上である。
【0039】
次に、熱可塑性繊維について説明する。
熱可塑性繊維とは、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオキシエトキシベンゾエート、ポリエチレンナフタレート、シクロヘキサンジメチレンテレフタレート及び、これら等のポリエステルに付加的部分としてさらにイソフタル酸、スルホイソフタル酸成分、プロピレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールのようなジオール成分を共重合したポリエステル、ナイロン−6、ナイロン−6.6、芳香族ナイロン等のポリアミド、ポリプロピレン、アクリル、またはポリカポロラクトン、ポリブチレンサクシネートなどの化合物であって、土壌中や水中に長時間放置すると、微生物などの作用によって炭酸ガスと水に分解される脂肪族ポリエステル化合物等が挙げられる。
【0040】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲であれば、酸化防止剤、艶消し剤、着色剤、滑剤等の添加剤を含有してもよい。
【0041】
本発明に好適に用いられるものとしては、寸法安定性の面からポリエステルが好ましい。
【0042】
断面形状糸条とは、丸断面、三角断面、四角断面、五角断面、扁平断面、くさび型断面、あるいは、アルファベットを象ったC型断面、H型断面、I型断面、W型断面…等々が挙げられる。また糸条の形態としては、原糸、仮撚加工糸、他の糸条とのインタレース混繊糸等任意のものを採用できる。
【0043】
本発明における導電性複合糸は、熱接着性繊維と導電性繊維が熱可塑性繊維の周りに導電性繊維が巻き付いたカバリング複合糸であるが、このような導電性複合糸とすることで、導電性複合糸を合撚し得られた導電ミシン糸は、糸表面に導電性繊維が安定して露出したものが得られる。その結果、導電性繊維を紡績糸に混用させたものや、導電性繊維と他の非導電性繊維を下撚りした後に、複数本合わせて上撚りしたものと比較し、安定した電気抵抗値が得られる共に、織編物等の製品縫製に用いる場合優れた効果があり、さらに縫製製品を洗濯した後の、縫い目方向での表面漏洩抵抗においても、大きな性能低下がないものが得られる。
【0044】
導電ミシン糸の導電性繊維の露出割合については、10%以上が好ましく、さらに好ましくは20%以上であり、最も好ましくは30%以上である。
【0045】
縫製後の導電ミシン糸は生地表面に現れる面積は少ない、更に導電性繊維の露出割合が低くなると、導電ミシン糸は本来の性能を十分に発揮できなくなり、その結果表面漏洩抵抗値は不安定なものとなり、洗濯後で表面漏洩抵抗値は低いものとなる。
【0046】
熱可塑性繊維の周りに導電性繊維が巻き付いたカバリング複合糸としては、カバリング機を用いたシングルカバリング糸やダブルカバリング糸が挙げられる。
【0047】
図3はシングルカバリング糸の模式図であり、熱可塑性繊維1の周りに導電性繊維2が平行に巻き付いたものである。図4はダブルカバリング糸の模式図であり、熱可塑性繊維1の周りに導電性繊維2が2本交差するように巻き付いたものである。そして、カバリングでの撚糸回数は、200〜1000T/Mの範囲が好ましい。200T/M未満であると、カバリング糸とした際の導電性繊維の露出割合が低くなる場合があり好ましくない。一方、1000T/Mを超えると、導電性能は十分に発揮されるが、コストが高くなる。また、導電ミシン糸として用いる場合には、糸が硬くなり縫製時にミシンでの糸切れが発生し、生産性が劣るものとなる。
【0048】
本発明における導電性複合糸(混繊複合糸又はカバリング複合糸)は、熱接着性繊維の総繊度(M)と導電性繊維の総繊度(N)の比(M/N)が10/1〜1/10であることが好ましく、中でも5/1〜1/5であることが好ましく、さらには3/1〜1/2であることが好ましい。
【0049】
熱可塑性繊維の総繊度の比が10を超えると、導電性繊維が複合糸表面に露出する割合が少なくなり、その結果、十分な導電性能が得られなくなる。一方、熱接着性繊維の総繊度の比が1未満であると、導電ミシン糸を縫製に用いる際に、導電ミシン糸の強力が低くなりミシンでの糸切れが発生するためである。複合糸全体としての繊度が細くなり、織編物に用いた場合の強度や伸度等の物性が低下しやすくなる。
【0050】
また、導電性繊維の周りに熱可塑性繊維が巻き付いたカバリング複合糸であると、導電性繊維の生地表面への露出が少なくなり、その結果、得られる製品は十分な導電性能が得られなくなる。そこで、本発明においては、熱接着性繊維の周りに導電性繊維が巻き付いた導電性複合糸とする。
【0051】
そして、この導電性複合糸を少なくとも1本以上用い、カバーリングとは逆方向に合撚を施せば目的の導電性ミシン糸が得られる。
【0052】
なお、導電性複合糸に用いる熱可塑性繊維の強度については、3cN/dtex以上が望ましく、好ましくは4cN/dtex以上であり、最も好ましくは5.0cN/dtex以上である。熱可塑性繊維の強度が、3cN/dtex未満であると得られた導電ミシン糸の強度が低く、縫製時に糸切れが発生する原因となってしまう。
【0053】
上記のようにして得られた導電ミシン糸の縫製後の表面漏洩抵抗値については、実使用を考慮して、該導電ミシン糸を使用して縫製された織編物をJIS L1018 103法に基づく洗濯を20回した後の、縫製方向の縫い目の表面漏洩抵抗値が1×10Ω以下であることが好ましい。より好ましくは、1×10Ω以下であり、最も好ましくは1×10Ω以下である。
【0054】
洗濯後の縫い目方向の表面漏洩抵抗値が1×10Ωよりも大きくなると、十分な制電効果が得られなくなり、クリーンルームウェアー等のユニフォーム用途での実使用には不向きである。
【0055】
さらに、IEC規格(国際電気標準会議規定)の中では、IEC61340−5−1(静電気現象からの電子デバイスの保護規定)において、表面漏洩抵抗値は1×1012Ω以下であることが盛り込まれているが、近年の規格見直しでは11×10Ω以下が好ましいとの変更がされている。この点からもクリーンルームウェアー用途で用いるユニフォーム用途での縫製用ミシン糸も1×10Ω以下であることが好ましい。
【0056】
導電ミシン糸の強力については、使用用途によって異なるがユニフォーム用途等に使用する場合には、5N以上が好ましく、より好ましくは7N以上であり、最も好ましくは10N以上である。導電ミシン糸の強力が5N未満になると縫製の際に、導電ミシン糸の糸切れが発生し、縫い目方向の表面漏洩抵抗値の性能低下が起こる。さらに縫製時の糸切れによるコスト高になる。
【0057】
上記のようにして、得られた導電ミシン糸は優れた導電性能、制電性能を有し、更に安定した耐久性能を有したものを得ることができる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0059】
(実施例1)
PBTを75質量%、平均粒径0.2μmの導電性カーボンブラック25質量%を溶融混練し、常法によりチップ化して導電性成分のポリマーを得た。また、イソフタル酸8モル%が共重合された共重合PETを上記と同様に溶融混練し、常法によりチップ化して非導電性成分のポリマーを得た。次に、単糸の横断面形状が図1(c)となるように設計された紡糸口金を用いて、通常の複合紡糸装置より紡糸温度260℃、導電性成分の複合比率20質量%となるように紡糸し、冷却し、オイリングしながら3000m/分の速度で巻き取り、45dtex2fの未延伸糸を得た。そして、この未延伸糸を90℃の熱ローラを介して1.6倍に延伸し、さらに、190℃のヒートプレートで熱処理を行った後に巻き取り、図1(c)の断面形状を呈する28dtex2fの導電性繊維を得た。
【0060】
熱可塑性繊維としては、ユニチカファイバー(株)製 ポリエステル54dtex24f(強度4.2cN/dtex)を用い、熱可塑性繊維の周りに導電性繊維が巻き付いたカバリング複合糸となるように、片岡エンジニアリング社製のカバリング機(PS−D−230)を用い、撚糸回数600T/M、Z撚りで導電性複合糸(シングルカバリング)を得た。なお、熱可塑性繊維の総繊度(M)と導電性繊維の総繊度(N)との繊度比は、3/1であった。
【0061】
次いで、共立機械製ST−30リング撚糸機にて、得られた導電性複合糸を3本用い、撚糸回数600T/M、S撚りで導電ミシン糸を得た。
【0062】
得られた導電ミシン糸を用い、JUKI製1本針ミシンを用いて、合わせ縫いで該導電ミシン糸を使用し、平織物(仕上げ密度は、経糸78本/2.54cm、緯糸は72本/2.54cm)に縫製し、縫い目方向の表面漏洩抵抗値を測定した。さらに洗濯を20回した後の縫い目方向の表面漏洩抵抗値を測定した。
【0063】
(実施例2)
イソフタル酸20モル%、アジピン酸5モル%が共重合された共重合PBT70質量%、平均粒径0.2μmの導電性カーボンブラック30質量%とを溶融混練し、常法によりチップ化して導電性成分のポリマーを得た。また、イソフタル酸8モル%が共重合された共重合PETを用いて上記と同様に溶融混練し、常法によりチップ化して非導電性成分用のポリマーを得た。次に、単糸の横断面形状が図2(c)となるように設計された紡糸口金を用いて、通常の複合紡糸装置より紡糸温度260℃、導電性成分の複合比率20質量%で紡糸し、冷却、オイリングしながら3000m/分の速度で巻き取り、45dtex2fの未延伸糸を得た。そして、この未延伸糸を90℃の熱ローラを介して1.60倍に延伸し、さらに、190℃のヒートプレート状で熱処理を行って巻き取り、図2(c)記載の断面形状を有する28dtex2fの導電性繊維を得た。以降は、実施例1と同様にして目的の導電ミシン糸を得た。
【0064】
(比較例1)
実施例1のカバーリングに用いた芯部と鞘部の繊維糸条を入れ替えて、鞘部にポリエステルが構成されるようにして、カバーリング糸を得た。
【0065】
得られたカバーリング糸を用いて、以降は実施例1と同様に行い、導電ミシン糸を得た。
【0066】
(比較例2)
実施例1で用いた、導電性繊維とポリエステル繊維とを用い混繊糸を得るために、インターレース処理を行った。インタレース処理条件としては、インタレースノズルとして阿波スピンドル社製MK2を用い、インタレースゾーンのオーバーフィード率を導電性繊維糸条側を3%、ポリエステル繊維を1%とし、空気圧19.6Pa、糸速120m/分にて処理を行い、導電性混繊糸を得た。以降は、実施例1と同様に行い、導電ミシン糸を得た。
【0067】
以上の結果を表1、2にまとめた。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表1、2から明らかなように、実施例1及び実施例2は鞘部に電気抵抗値が1×10〜1×10Ω/cm、強度が1.0cN以上の導電性繊維を用いカバーリングを施すことにより、電気抵抗及び強度に優れた導電性複合糸を得ることができ、さらには導電複合糸をカバーリングとは逆方向に合撚し、得られた導電ミシン糸を使用し縫製することで、安定した表面漏洩抵抗値を有する導電ミシン糸を得ることができる。
【0071】
比較例1では、芯部に導電性繊維を用いたことで、得られた導電複合糸及び導電ミシン糸の電気抵抗値は劣るものとなった。
【0072】
また、比較例2では、導電糸と熱可塑性繊維をエアー混繊し導電性複合糸として用いたため、洗濯前の表面漏洩抵抗値は良好であったが、洗濯後の表面漏洩抵抗値は劣るものとなった。
【符号の説明】
【0073】
1 熱可塑性繊維
2 導電性繊維


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞘部に導電性繊維と芯部に熱可塑性繊維となるように構成されたカバーリングからなる導電性複合糸を少なくとも1本以上用い、カバーリングとは逆方向に合撚を施してなる導電性ミシン糸であって、該導電性複合糸に用いる導電繊維の電気抵抗値が1×10〜1×10Ω/cm、強度が1.0cN以上であることを特徴とする導電性ミシン糸。
【請求項2】
導電性ミシン糸に用いる導電性繊維は、複数の単糸からなるマルチフィラメントであって、各単糸は、ポリエステル系樹脂からなる非導電性成分と、導電性粒子を含有するポリエステル系樹脂からなる導電性成分とで構成される複合繊維であって、繊維の長手方向に対して垂直に切断した横断面において、非導電性成分中に導電性成分部分が存在し、かつ導電性成分は一部が繊維表面に露出している形状を呈している請求項1記載の導電ミシン糸。
【請求項3】
導電性繊維の導電性成分が、ブチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリブチレンテレフタレートとにイソフタル酸(A)、アジピン酸(B)のうち少なくとも一方が下記式範囲を満足する量共重合され、かつ導電性粒子が含有されている共重合ポリブチレンテレフタレートである請求項2記載の導電ミシン糸。
(Aの共重合量)+(Bの共重合量)=5〜55モル%
ただし(Aの共重合量)≦45モル%
【請求項4】
熱可塑性繊維の強度が3cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の導電ミシン糸。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかの導電ミシン糸を使用した織編物であって、JIS L1018 103法の洗濯20洗後の縫製方向の縫い目の表面漏洩抵抗値が1×10Ω以下である織編物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−236167(P2010−236167A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88511(P2009−88511)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】