説明

導電体およびその製造方法

【課題】高導電性の導電体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を有し、導電面側のXPSスペクトルの405eVの強度I405と400eVの強度I400の強度比I405/I400が0.4〜1.0であることを特徴とする導電体、および、基材の少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を形成した後、硝酸で処理することにより、導電面側のXPSスペクトルの405eVの強度I405と400eVの強度I400の強度比I405/I400が0.4〜1.0の範囲にある導電体を製造することを特徴とする導電体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体、およびその製造方法に関し、とくに、高導電性の導電体およびその簡便な製造方法に関する。本発明の導電性フィルムは、主に表面の平滑性が要求されるタッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の電極として用いられる。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ、中でも特に2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブは、自体が優れた真性の導電性を有し、導電性材料として使用されることが期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブを用いた導電体は公知である。カーボンナノチューブは合成時に金属性を有するものと半導体性を有するものとの混合物として得られる。高い導電性を得るには、金属性と半導体性の混合物として得られるカーボンナノチューブを分離する必要があるが、分離技術には技術的困難が多く現状では実現していない。より簡便には、半導体性カーボンナノチューブを金属性カーボンナノチューブに変化させることができれば、容易に導電性材料として利用することできる。そこで、カーボンナノチューブを化学的あるいは電気化学的にドーピングすることによって導電性を高める、ドーピング技術が注目されている。
【0004】
カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを溶媒に分散化あるいは可溶化することができ、長期保存においてもカーボンナノチューブが分離、凝集せず、導電性、成膜性、成形性に優れ、簡便な方法で基材へ塗布、被覆可能で、しかもその塗膜が耐水性、耐候性及び硬度に優れているカーボンナノチューブ含有組成物、これからなる塗膜を有する複合体、及びそれらの製造方法が報告されている(例えば特許文献1参照)。アーク放電で製造した単層カーボンナノチューブをシート化した試料を用いて、硝酸で処理を行い、導電率がドープ前試料の1.8倍に向上したこと、SOClで処理を行い、導電率がドープ前試料の2.2倍に向上したこと、硝酸処理後SOClで処理を行い、導電率がドープ前試料の2.6倍に向上したこと、またその処理方法は、各溶液中に試料を30分間浸漬することが報告されている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−336341号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adv. Funct. Mater. 2008, 18, 2548
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、酸によるドーピングの記載はあるものの、実施例がなく具体的な数値が示されていない。特許文献2には、硝酸処理によるドーピングの記載と効果が示されているが、2層カーボンナノチューブに関する記載が全くない。
【0008】
本発明は、上記問題、状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、高導電性の導電体、またその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する過程において、カーボンナノチューブ、とくに2層カーボンナノチューブを一定割合以上有する導電体を濃硝酸に浸漬することで、カーボンナノチューブの導電性が向上し、さらにその効果をXPSスペクトルにより定量的に評価する手法を見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち本発明に係る導電体は、少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を有し、導電面側のXPSスペクトルの405eVの強度I405と400eVの強度I400の強度比I405/I400が0.4〜1.0であることを特徴とするものからなる。また、本発明に係る導電体の製造方法は、基材の少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を形成した後、硝酸で(とくに、濃硝酸で)処理することにより、導電面側のXPSスペクトルの405eVの強度I405と400eVの強度I400の強度比I405/I400が0.4〜1.0の範囲にある導電体を製造することを特徴とする方法からなる。なお、「XPS」とはX線光電子分光の略称であり、光電子分光の1種である。
【0011】
また、上記カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むことが好ましい。
【0012】
また、上記導電体におけるカーボンナノチューブ量(例えば、塗布量)が、1〜40mg/mであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、濃硝酸に浸漬処理を施すことにより、処理前と比較して10〜50%導電性を向上させることができ、導電性に優れた導電体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1〜3と比較例1について、XPS測定結果のI405/I400とドーピング処理後の表面抵抗値減少率の相関関係を示したグラフである。
【図2】実施例1のXPS測定結果を示したグラフである。
【図3】実施例2のXPS測定結果を示したグラフである。
【図4】実施例3のXPS測定結果を示したグラフである。
【図5】比較例1のXPS測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに、詳細に説明する。
本発明に係る導電体の製造方法では、少なくとも片面にカーボンナノチューブを含む導電体を、硝酸に(とくに、濃硝酸に)10分〜100時間浸漬する。このような工程を経て導電体の製造を行うことにより、処理前と比較して20〜50%導電性に優れた導電体を得ることができる。導電体の導電性を向上させる効果は、かかる製造方法を採用することにより、導電性を下げる要因である半導体性質を有するカーボンナノチューブを、硝酸によるドーピングにより金属性質を有するカーボンナノチューブへ変化させることにより達成可能となったものと考えられる。
【0016】
[カーボンナノチューブ]
本発明において用いられるカーボンナノチューブは、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有するものであれば特に限定されず、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ、多層に巻いた多層カーボンナノチューブいずれも適用できる。中でもカーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むことが好ましい。2層カーボンナノチューブはグラファイトの1枚面を2層に巻いたカーボンナノチューブであり、これを50%以上含むとは、カーボンナノチューブ100本中50本以上であることをいう。カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含むと、カーボンナノチューブの導電性ならびに塗布用分散液中でのカーボンナノチューブの分散性が極めて高くなることから好ましい。さらに好ましくは100本中75本以上が2層カーボンナノチューブ、最も好ましくは100本中80本以上が2層カーボンナノチューブである。また、2層カーボンナノチューブは酸処理などによって表面が官能基化されても導電性などの本来の機能が損なわれない点からも好ましい。
【0017】
カーボンナノチューブは、例えば以下のように製造される。マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させ、該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと前記触媒を500〜1200℃で接触させ、カーボンナノチューブを製造した後、カーボンナノチューブを酸化処理することにより得られる。すなわち、上記カーボンナノチューブの合成法により、単層〜5層のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブを得ることができる。カーボンナノチューブは、製造した後酸化処理を施すことにより、単層〜5層の割合を、特に2層〜5層の割合を増加させることができる。酸化処理は、例えば、硝酸処理する方法により行われる。硝酸処理法は本発明のカーボンナノチューブが得られる限り、特に限定されないが、通常、140℃のオイルバス中で行われる。硝酸処理時間は特に限定されないが、5時間〜50時間の範囲であることが望ましい。
【0018】
[導電体の作成方法]
本発明において、導電体はカーボンナノチューブを含むものであれば特に限定されない。導電体の作成方法として、例えば、基材上へのカーボンナノチューブ分散液の塗布法、基板上へのカーボンナノチューブ直接成長法、基材上へのカーボンナノチューブ膜の転写法などが挙げられる。その中でも、分散剤と分散媒を用いて簡便に分散液を得られることから、基材上へのカーボンナノチューブ分散液の塗布法が好ましい。
【0019】
[分散剤]
本発明において用いる分散剤は、本発明における分散性が得られる限り、カーボンナノチューブの分散能さえあれば、低分子、高分子、またイオン性分散剤、非イオン性分散剤など種類を問わないが、分散性、分散安定性から高分子であることが好ましい。その中で、多糖類または芳香族の構造を骨格中に有するポリマーまたは低分子のアニオン性界面活性剤は、特に分散性に優れるため好ましい。以下、多糖類の構造を骨格中に有するポリマーを多糖類ポリマー、芳香族の構造を骨格中に有するポリマーを芳香族性ポリマー、低分子のアニオン性界面活性剤をアニオン性界面活性剤と記す。かかる分散剤がカーボンナノチューブを分散媒中に均一に孤立に分散させる理由については、次のように考えている。カーボンナノチューブは、強固な束や互いに絡まり合い強固な凝集体を形成するため、溶媒中に孤立に分散させることが非常に困難である。カーボンナノチューブを溶媒中で孤立分散させるためには、カーボンナノチューブのグラファイトとπ電子相互作用し束や凝集を解すこと、もしくはカーボンナノチューブとの疎水性相互作用により束や凝集を解すことが必要である。本発明においては、上記より孤立したカーボンナノチューブ分散液を得られるという観点から、多糖類ポリマーや芳香族性ポリマーが有効に作用しているものと推測される。
【0020】
本発明において用いられる分散剤に好適な多糖類ポリマーとしては、例えばカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロースおよびその誘導体、キシランおよびその誘導体が挙げられる。中でも、分散性の観点から、カルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体が好ましく、さらには、イオン性である、カルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体の塩の使用が、好ましい。分散剤として上記のカルボキシメチルセルロースもしくはその誘導体の塩を用いる場合、塩を構成するカチオン性の物質としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムイオン、あるいはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、エチルアミン、ブチルアミン、ヤシ油アミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン等の有機アミンのオニウムイオン、または、これらのポリエチレンオキシド付加物を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明において用いられる分散剤に好適な芳香族性ポリマーとしては、例えば芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ビニル樹脂、スチレン系樹脂、芳香族ポリイミド樹脂、ポリアニリン等の導電性ポリマー、ポリスチレンスルホン酸、ポリ−α−メチルスチレンスルホン酸等のポリスチレンスルホン酸の誘導体が挙げられる。中でも、分散性の観点から、ポリスチレンスルホン酸もしくはその誘導体の使用が好ましく、さらには、イオン性である、ポリスチレンスルホン酸もしくはその誘導体の塩の使用が、好ましい。
【0022】
本発明において用いられる分散剤に好適なアニオン性界面活性剤としては、例えばオクチルベンゼンスルホン酸塩、ノニルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、モノイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸塩、ジブチルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。中でも、分散性の観点から、コール酸ナトリウム、またはドデシルベンゼンスルホン酸塩の使用が好ましい。
【0023】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤が挙げられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0024】
上記の分散剤のうち、例えば溶媒として水を用いた場合、特に親水基であるカルボン酸基、スルホン酸基、水酸基が含まれたポリマーによる、カーボンナノチューブ分散が好ましい。特に、多糖類であるカルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0025】
カーボンナノチューブを分散媒中に均一に孤立に分散させる理由については、次のように考えられる。カーボンナノチューブは、強固なバンドルを形成し、互いに絡まり合い強固な凝集体を形成するため、分散媒中に孤立に分散させることが非常に困難である。カーボンナノチューブを分散媒中で孤立分散させるためには、カーボンナノチューブのグラファイトとπ電子相互作用しバンドルや凝集を解すこと、もしくはカーボンナノチューブとの疎水性相互作用によりバンドルや凝集を解すことが必要である。本発明においては、上記より孤立したカーボンナノチューブの分散液を得られるという観点から、多糖類ポリマーが有効に作用しているものと推測される。
【0026】
本発明において、カルボキシメチルセルロースの誘導体の塩を用いる場合、塩を構成するカチオン性の物質としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属のカチオン、アンモニウムイオン、あるいはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、エチルアミン、ブチルアミン、ヤシ油アミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン等の有機アミンのオニウムイオン、または、これらのポリエチレンオキシド付加物を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
[分散剤の分子量]
分散剤の分子量は100以上が好ましい。100以上であれば、カーボンナノチューブと相互作用できカーボンナノチューブの分散がより良好となる。分子量はカーボンナノチューブの長さにもよるが、大きいほどカーボンナノチューブと相互作用し分散性が向上する。例えば、ポリマーの場合であれば、ポリマー鎖が長くなるとポリマーがカーボンナノチューブにからみつき非常に安定に分散することができる。しかし、分子量が大きすぎると逆に分散性が低下するので、好ましくは1000万以下であり、さらに好ましくは、100万以下である。最も好ましくは1万〜50万である。
【0028】
[分散媒]
本発明において用いられる分散媒は、上記分散剤を溶解できる水系、また非水系の分散媒を用いることができる。廃液の処理や環境や防災上の観点から、水が好ましい。
【0029】
非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
【0030】
[塗布用分散液]
本発明において用いる塗布用分散液の調製方法は、特に限定されない。調製時の分散手段としては、カーボンナノチューブと分散剤を分散媒中で塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター(登録商標)、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合することが挙げられる。中でも、超音波装置を用いて分散する方法が、得られる塗布用分散液中のカーボンナノチューブの分散性が良好であることから好ましい。
【0031】
[基材]
本発明においては、以上のようにして得た塗布用分散液を基材上に塗布した後、乾燥させて未処理導電層を形成する。本発明に用いられる基材の素材としては、樹脂、ガラスなどを挙げることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどを用いることができる。ガラスとしては、通常のソーダガラスを用いることができる。また、これらの複数の基材を組み合わせて用いることもできる。例えば、樹脂とガラスを組み合わせた基材、2種以上の樹脂を積層した基材などの複合基材であってもよい。樹脂フィルムにハードコートを設けたようなものであってもよい。基材の種類は上記に限定されることはなく、用途に応じて耐久性やコスト等から最適なものを選ぶことができる。
【0032】
[塗布用分散液の基材への塗布]
本発明に係る導電体の製造方法における未処理導電層の形成工程では、上記方法により得た塗布用分散液を基材に塗布し、その後分散媒を乾燥させてカーボンナノチューブを基材上に固定して未処理導電層を形成する。
【0033】
本発明において、塗布用分散液を基材上に塗布する方法は特に限定されない。既知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スロットダイコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。また塗布は、複数回に分けて行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、ロールコーティングである。
【0034】
[塗布厚みの調整]
塗布用分散液を基材上に塗布する際の塗布厚み(ウェット厚み)は、塗布用分散液の濃度にも依存するため、所望の表面抵抗値が得るのに必要なカーボンナノチューブの塗布量を考慮して適宜調整すればよい。本発明におけるカーボンナノチューブの塗布量は、導電性を必要とする種々の用途を達成するために、適宜調整可能である。例えば、カーボンナノチューブの塗布量が1mg/m〜40mg/mであれば表面抵抗値は10〜10Ω/□とすることができ、好ましい。さらに、塗布量を40mg/m以下とすれば表面抵抗値を10Ω/□以下とすることができる。塗布量を30mg/m以下とすれば表面抵抗値を10Ω/□以下とすることができる。さらに、塗布量が20mg/m以下であれば、10Ω/□以下、塗布量が10mg/m以下であれば10Ω/□以下とすることできる。
【0035】
[濡れ剤]
塗布用分散液を基材上に塗布する際、塗布ムラを抑制するため、塗布用分散液中に濡れ剤を添加してもよい。本発明の製造方法では塗布用分散液の分散媒に水を選択することにより、非親水性の表面を有する基材上に塗布する場合には界面活性剤やアルコール等の濡れ剤を塗布用分散液に添加することで、基材上で前記塗布用分散液がはじかれることなく塗布用分散液を塗布することができる。濡れ剤としては、アルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが好ましい。メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために塗布後の基材乾燥時に容易に除去可能である。場合によってはアルコールと水の混合液を用いても良い。
【0036】
[ドーピング処理液]
本発明において、ドーピング処理液には硝酸が用いられる。硝酸の濃度には特に限定されないが、ドーピング効果の点より濃硝酸が好ましい。
【0037】
[ドーピング方法]
本発明において、硝酸ドーピング方法は、特に限定されない。例えば、浸漬法や気相法があげられるが、安全上の観点より、浸漬法が好ましい。
【0038】
本発明において、ドーピングの時間は、10分から100時間であることが好ましい。10分以下では十分なドーピング効果が得られず、100時間以上では生産性の観点から好ましくない。
【0039】
本発明において、ドーピングの温度は、特に限定されない。処理温度を40〜60℃にすることで、ドーピング処理時間を短縮することができる。
【0040】
[ドーピング処理後の導電体]
ドーピング処理後の導電体は、余剰な硝酸を除去するために十分に水で洗浄することが好ましい。洗浄方法としては、流水法、浸漬法が挙げられるが、生産性の観点より流水法が好ましい。
【0041】
ドーピング処理後の導電性向上は、表面抵抗値の減少分より求めることができる。
【0042】
[XPSスペクトル]
前述したように、XPSとはX線光電子分光の略称であり、光電子分光の1種である。サンプル表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、サンプルの構成元素とその電子状態を分析することができる。物質にX線を照射すると、原子軌道の電子が励起され、光電子として外にたたき出される。この光電子はE=hν―E(Eは電子の結合エネルギー)にしたがったエネルギー値をもつため、X線のエネルギーが一定であれば、Eを求めることができる。一般に電子の結合エネルギーは各元素と酸化状態に固有の軌道エネルギーとなるから、この値から元素の種類と酸化状態がわかる。
【0043】
本発明においては、ドーピング処理液である硝酸に含まれる窒素原子の電子状態がわかる窒素原子1s軌道の結合エネルギー395〜410eV付近のスペクトルを詳細に分析することで、カーボンナノチューブへのドーピング状態を定量的に分析することができる。詳細には、405eVはHNO、NO由来のピーク(以後、I405)であり、一方400eVは本発明で用いた基材に含まれるC=N由来のピーク(以後、I400)である。これらのピーク強度の増減を相対的に比較することで、カーボンナノチューブ周囲に存在する硝酸量を比較することができる。
【0044】
[導電性]
本発明に係る導電体の導電性について、表面抵抗値が1×10〜1×10Ω/□であることが好ましい。より好ましくは、表面抵抗値が1×10〜1×10Ω/□であることが好ましい。かかる表面抵抗値の範囲は、カーボンナノチューブの塗布量により調整することができる。表面抵抗値がこの範囲内にあることで、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどの導電膜付き基材として好ましく用いることができる。すなわち、1×10Ω/□以上であれば、上記の基材として消費電力を少なくすることができ、1×10Ω/□以下であれば、タッチパネルの上記の座標読み取り時における誤差の影響が小さくすることができる。
【0045】
[本発明の導電体の用途]
本発明に係る導電体は、例えば、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、電子ペーパーなどのディスプレイ関連の電極として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。本実施例で用いた測定法を以下に示す。なお、特にn数を示していないものは、n数1で測定を行っている。
【0047】
(1)表面抵抗値
5cm×10cmにサンプリングした導電体の導電面の中央部を4端子法により室温下で以下に示すプローブを導電層側に密着させて、ドーピング処理前後の抵抗値を測定した。用いた測定器はダイアインスツルメンツ(株)製の抵抗率計MCP−T360型、4探針プローブはダイアインスツルメンツ(株)製MCP−TPO3Pを用いた。
【0048】
(2)XPS測定
導電体を専用のホルダーにカーボンテープを用いて貼り付け、高真空中でXPS測定を行った。用いた装置は(PHI 5800 ESCA System)であり、X線源としてAlKα線(1486.6eV)を用い、各サンプル20分の積算時間で測定を行った。測定後、I405、I400、またその比I405/I400を算出した。
【0049】
[触媒調製例]
約24.6gのクエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業社製)をイオン交換水6.2kgに溶解した。この溶液に、酸化マグネシウム(岩谷社製MJ−30)を約1000g加え、撹拌機で60分間激しく撹拌処理した後に、懸濁液を10Lのオートクレーブ容器中に導入した。この時、洗い込み液としてイオン交換水0.5kgを使用した。密閉した状態で160℃に加熱し6時間保持した。その後オートクレーブ容器を放冷し、容器からスラリー状の白濁物質を取り出し、過剰の水分を吸引濾過により濾別し、濾取物中に少量含まれる水分は120℃の乾燥機中で加熱乾燥した。得られた固形分を固形分/イオン交換水比が1/1となるようにイオン交換水を加え、混練り機で10分混ぜた後、押し出し機にて内径0.8mmの孔から押し出した。押し出し後、乾燥しながら粉砕し、20〜32メッシュ(0.5〜0.85mm)の篩にて整粒した。左記の顆粒状の触媒体を電気炉中に導入し、大気下600℃で3時間加熱した。また、濾液をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により分析したところ鉄は検出されなかった。このことから、添加したクエン酸鉄(III)アンモニウムは全量酸化マグネシウムに担持されたことが確認できた。さらに触媒体のEDX分析結果から、触媒体に含まれる鉄含有量は0.38wt%であった。
【0050】
[カーボンナノチューブ含有組成物製造工程1]
触媒調整例で調製した固体触媒体132gをとり、鉛直方向に設置した反応器の中央部の石英焼結板上に導入した。反応管内温度が約860℃になるまで、触媒体層を加熱しながら、反応器底部から反応器上部方向へ向けてマスフローコントローラーを用いて窒素ガスを16.5L/minで供給し、触媒体層を通過するように流通させた。その後、窒素ガスを供給しながら、さらにマスフローコントローラーを用いてメタンガスを0.78L/minで60分間導入して触媒体層を通過するように通気し、反応させた。この際の固体触媒体の重量をメタンの流量で割った接触時間(W/F)は、169min・g/L、メタンを含むガスの線速が6.55cm/secであった。メタンガスの導入を止め、窒素ガスを16.5L/min通気させながら、石英反応管を室温まで冷却した。
【0051】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒体とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ含有組成物を取り出した。
【0052】
[カーボンナノチューブ含有組成物製造工程2]
カーボンナノチューブ含有組成物製造例1で得られた触媒体とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ含有組成物を、4.8Nの塩酸水溶液中で1時間撹拌することで触媒金属である鉄とその担体である酸化マグネシウムを溶解した。得られた黒色懸濁液は濾過した後、濾取物は再度4.8Nの塩酸水溶液に投入、脱酸化マグネシウム処理をし、濾取した。この操作を3回繰り返した。その後、イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ含有組成物を保存した。
【0053】
得られたウェット状態のカーボンナノチューブ含有組成物の乾燥重量分に対して、約300倍の重量の濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)を添加した。その後、約140℃のオイルバスで25時間攪拌しながら加熱還流した。加熱還流後、カーボンナノチューブ含有組成物を含む硝酸溶液をイオン交換水で3倍に希釈して吸引ろ過した。イオン交換水で濾取物の懸濁液が中性となるまで水洗後、水を含んだウェット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。
【0054】
[塗布用分散液の調製]
20mLの容器に得られた含水ウェット状態のカーボンナノチューブ組成物を乾燥時換算で15mg、1wt%カルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマ社製90kDa,50〜200cps)水溶液4.5gを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。硝酸を用いてpHを4.0に合わせ超音波ホモジナイザー出力20W、7.5分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。分散中液温が10℃以下となるようにした。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。この上清液にイオン交換水とエタノールを添加し、カーボンナノチューブが0.08wt%、エタノールが4wt%となるように濃度を調整し、塗布用分散液を得た。
【0055】
[カーボンナノチューブ分散液塗布]
上記塗布用分散液を、基材としてPETフィルム(東レ(株)製ルミラー(登録商標)U46)を用い、該PETフィルム上にワイヤーバー#5を用いて塗布して、125℃乾燥機内で1分間乾燥させカーボンナノチューブ組成物を固定化した。その後、余剰な分散剤を除去するため流水にて水洗、乾燥した。以下の各実施例では、本処方で作成したものをカーボンナノチューブ塗布フィルム(塗布量6.0mg/m)として用いた。
【0056】
(実施例1)
上記カーボンナノチューブ塗布フィルムを、常温の濃硝酸(和光純薬、60〜61%)30g中に48時間浸積した後、流水にて水洗、乾燥した。その後、表面抵抗値、XPS測定を行った。
【0057】
(実施例2)
上記カーボンナノチューブ塗布フィルムを、常温の濃硝酸(和光純薬、60〜61%)30g中に72時間浸積した後、流水にて水洗、乾燥した。その後、表面抵抗値、XPS測定を行った。
【0058】
(実施例3)
上記カーボンナノチューブ塗布フィルムを、常温の濃硝酸(和光純薬、60〜61%)30g中に96時間浸積した後、流水にて水洗、乾燥した。その後、表面抵抗値、XPS測定を行った。
【0059】
(比較例1)
上記カーボンナノチューブ塗布フィルムの表面抵抗値、XPS測定を行った。
【0060】
以上、本発明の実施例について述べてきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変更を行うことができる。
【0061】
上述の実施例、比較例について、ドーピング前(R)とドーピング後(R)の表面抵抗値とドーピング処理後の表面抵抗値の減少率((1−R/R)×100)、またXPS測定の結果(I405、I400、またその比I405/I400)を表1にまとめた。
【0062】
【表1】

【0063】
なお、実施例1〜3、比較例1において、カーボンナノチューブの塗布量が6.0mg/mと同じであるのにもかかわらず抵抗値に変化が生じているのは、ワイヤーバーによるハンドコートによる実験誤差の影響である。
【0064】
図1は、実施例1〜3、比較例1における、I405/I400を横軸、ドーピング処理後の表面抵抗値の減少率を縦軸にとったグラフである。
【0065】
図2は、実施例1における窒素原子1s軌道の結合エネルギー395〜410eV付近のXPSスペクトルのデータである。
【0066】
図3は、実施例2における窒素原子1s軌道の結合エネルギー395〜410eV付近のXPSスペクトルのデータである。
【0067】
図4は、実施例3における窒素原子1s軌道の結合エネルギー395〜410eV付近のXPSスペクトルのデータである。
【0068】
図5は、比較例1における窒素原子1s軌道の結合エネルギー395〜410eV付近のXPSスペクトルのデータである。
【0069】
とくに表1から明らかなように、実施例1〜3では、ドーピング前表面抵抗値に対しドーピング後表面抵抗値が大幅に低下し、高導電性の導電体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る導電体は、各種の導電性材料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を有し、導電面側のXPSスペクトルの405eVの強度I405と400eVの強度I400の強度比I405/I400が0.4〜1.0であることを特徴とする導電体。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが2層カーボンナノチューブを50%以上含んでいる、請求項1に記載の導電体。
【請求項3】
導電体におけるカーボンナノチューブ量が、1〜40mg/mである、請求項1または2に記載の導電体。
【請求項4】
基材の少なくとも片面にカーボンナノチューブからなる導電層を形成した後、硝酸で処理することにより、導電面側のXPSスペクトルの405eVの強度I405と400eVの強度I400の強度比I405/I400が0.4〜1.0の範囲にある導電体を製造することを特徴とする導電体の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブとして2層カーボンナノチューブを50%以上含んでいるものを用いる、請求項4に記載の導電体の製造方法。
【請求項6】
導電体におけるカーボンナノチューブ量を、1〜40mg/mにする、請求項4または5に記載の導電体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−214300(P2012−214300A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78811(P2011−78811)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】