説明

導電体ペーストおよびセラミック電子部品

【課題】セラミック電子部品の内部電極を形成するために用いられ、得られる内部電極層の薄層化が可能な導電体ペーストを提供すること。
【解決手段】導電体粒子と、セラミック粉末からなる共材と、有機ビヒクルと、を含有し、この導電体ペースト膜をSEM観察して得られるSEM像において、次の(A)および(B)を満足する導電体ペースト。(A)2.25μm×3μmの面積を有する被測定領域に存在する導電体粒子の存在個数に関し、複数の前記被測定領域内に存在する導電体粒子の存在個数の平均値xと、標準偏差σとから算出される導電体粒子の分布のC.V.値が20%以下である。(B)各導電体粒子の中心から、最も近い距離に存在する他の導電体粒子の中心までの距離である最近接粒子間距離D1に関し、前記導電体粒子の平均粒子径D2との関係が、D1≦D2である最近接粒子間距離の割合が50%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品の内部電極を形成するために用いる導電体ペーストと、この導電体ペーストを用いて製造される積層セラミック電子部品と、に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック電子部品としての積層セラミックコンデンサは、小型、大容量、高信頼性の電子部品として広く利用されており、1台の電子機器の中で使用される個数も多数にのぼる。
【0003】
このような積層セラミックコンデンサは、チタン酸バリウムなどに代表されるセラミック粉末およびバインダを主成分とするセラミックグリーンシートに、内部電極形成用の導電体ペーストを所定パターンで印刷して積層した後、同時焼成して一体焼結させ、最後に外部電極を形成して製造される。
【0004】
内部電極の導電材としては、一般にPdやPd合金が用いられているが、Pdは高価であるため、比較的安価なNiやNi合金等の卑金属が使用されるようになってきている。内部電極の導電材として卑金属を用いる場合、大気中で焼成を行なうと内部電極が酸化してしまうという問題があるため、誘電体層と内部電極との同時焼成を、還元性雰囲気中で行なう必要がある。しかしながら、還元性雰囲気中で焼成すると、誘電体層が還元されてしまい、比抵抗が低くなってしまうという問題がある。このため、非還元性の誘電体材料が開発されている。
【0005】
一方、NiやNi合金等の卑金属は、誘電体層を構成する誘電体粉末よりも低い温度で焼結してしまうという性質を有している。そのため、焼結温度の差異により、焼成時において熱収縮挙動差が生じてしまい、得られる焼結体中にクラックや層間剥離現象(デラミネーション)などの構造欠陥が発生してしまうという問題がある。そこで、このような問題を解決するために、内部電極を形成するための導電体ペーストに、共材として誘電体層と同種のセラミック粉末を添加し、誘電体層と内部電極層との間における熱収縮挙動差を抑制し、上記問題の解決を図っている。
【0006】
また、近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が急速に進んでいる。この小型化、大容量化に対応するために、積層セラミックコンデンサには、誘電体層を薄層化することに加えて、内部電極層についても薄層化することが求められている。
【0007】
内部電極層を薄層化するためには、導電体ペーストを薄層にて塗布あるいは印刷し、焼成前の電極ペースト膜を薄層で形成する必要がある。しかしながら、このように電極ペースト膜を薄層で形成しても、導電体ペースト中における、導電体粉末とセラミック粉末(共材)との分散性が十分でない等の理由により、次のような問題が発生していた。すなわち、焼成時に、Ni等の導導電体粒子同士が反応し、球状化してしまい、結果として焼成後の内部電極の厚みが厚くなってしまうという問題や、電極のライン性(電極被覆率)が悪化し、取得容量が低下するという問題が発生していた。そのため、積層セラミックコンデンサのさらなる小型化、大容量化の妨げとなっていた。
【0008】
なお、内部電極形成用の導電体ペーストではないが、たとえば特許文献1では、誘電体層を形成するための誘電体ペースト中における誘電体原料の分散性を、EPMAによる元素分析手法を用いて評価する方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−297059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、セラミック電子部品の内部電極を形成するために用いられ、導電体粒子と、セラミック粉末からなる共材と、が高度に分散しており、得られる内部電極層の薄層化が可能な導電体ペースト、およびこの導電体ペーストを用いて製造され、内部電極層の薄層化されたセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者等は、鋭意検討を行った結果、導電体粒子と、セラミック粉末からなる共材と、有機ビヒクルと、を含有する導電体ペーストにおいて、この導電体ペーストを成膜し、導電体ペースト膜とした場合における導電体粒子の分散度を、特定の2種類の観点から規定することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、導電体粒子と、セラミック粉末からなる共材と、有機ビヒクルと、を含有する導電体ペーストであって、
前記導電体ペーストを、基板上に印刷法により形成し、乾燥して、導電体ペースト膜とした場合に、前記導電体ペースト膜をSEM観察することにより得られるSEM像において、下記(A)および(B)を満足する導電体ペーストが提供される。
(A)SEM観察により得られる前記SEM像において、2.25μm×3μmの面積を有する被測定領域に存在する導電体粒子の存在個数に関し、複数の前記被測定領域内に存在する導電体粒子の存在個数の平均値xと、存在個数の標準偏差σとから、下記式(1)に基づいて算出される導電体粒子の分布のC.V.値が20%以下である。
C.V.値=(存在個数の標準偏差σ/存在個数の平均値x)×100 …(1)
(B)SEM観察により得られる前記SEM像において、前記導電体ペースト膜を構成する各導電体粒子の中心から、最も近い距離に存在する他の導電体粒子の中心までの距離で定義される、最近接粒子間距離に関し、前記最近接粒子間距離をD1、前記導電体粒子の平均粒子径をD2とした場合に、D1≦D2の関係を満足する最近接粒子間距離の割合が50%以下である。
【0013】
上記(A)は、導電体ペースト中における導電体粒子の全体的な分散度合い(マクロな分散度合い)を示す指標であり、一方、上記(B)は、各導電体粒子の1粒子単位の分散合い(ミクロな分散度合い)を示す指標である。そして、本発明においては、導電体ペーストを成膜し、導電体ペースト膜とした場合において、上記(A)および(B)を満足させることにより、導電体粒子が高度に分散した導電体ペーストを提供することができる。そして、その結果、導電体ペースト膜を薄層で形成した場合においても、導電体粒子の偏在に起因する電極被覆率の低下や、共材の分散不良に起因する焼成時における導電体粒子の球状化を有効に防止することができ、焼成後の内部電極層厚みの薄層化を実現することができる。
【0014】
上記(A)は、たとえば、次の方法により測定することができる。
すなわち、まず、導電体ペースト膜をSEM観察することにより、倍率:10,000倍、範囲:9μm×12μmのSEM像を得る。そして、得られたSEM像を、2.25μm×3μmの面積を有する被測定領域に16分割(=縦4分割×横4分割)する。そして、16分割した結果、得られた16個の各被測定領域に存在する導電体粒子の存在個数を計測し、得られた結果から存在個数の平均値xと、存在個数の標準偏差σと、を求める。そして、これら平均値xと、標準偏差σと、から上記式(1)より、導電体粒子の分布のC.V.値を求めることができる。なお、本発明においては、このような16分割した被測定領域についての測定を、10視野(すなわち、16×10個の被測定領域)について行い、10視野における測定結果の平均を算出し、C.V.値を求めることが好ましい。
【0015】
また、上記(B)は、たとえば、次の方法により測定することができる。
すなわち、まず、導電体ペースト膜をSEM観察することにより、倍率:30,000倍、範囲:3μm×4μmのSEM像を得る。そして、この3μm×4μmのSEM像の範囲内に存在する、ある一つの導電体粒子の中心から、最も近い距離に存在する他の導電体粒子の中心までの距離を測定し、これを最近接粒子間距離D1とする。次いで、この最近接粒子間距離D1と、導電体粒子の平均粒子径D2とを比較する。そして、最近接粒子間距離D1の測定、およびD1とD2との比較を、SEM像の範囲内(3μm×4μmの範囲内)に存在する、全ての導電体粒子について行い、D1≦D2の関係となっている最近接粒子間距離の割合を測定することにより、測定することができる。なお、本発明においては、D1≦D2の関係となっている最近接粒子間距離の割合の測定を、10視野について行い、10視野における測定結果の平均値を上記範囲とすることが好ましい。
【0016】
なお、導電体粒子の平均粒子径D2は、たとえば、上記(B)と同様な条件により、導電体粒子をSEM観察し、得られたSEM像中に存在する各導電体粒子の粒子径を測定し、得られた結果を平均することにより求めることができる。具体的には、SEM像中における各導電体粒子の投影面積より各導電体粒子の直径を求め、これを粒子径とし、得られた結果を平均することにより求めることができる。このようにして求められる前記導電体粒子の平均粒子径D2は、好ましくは0.05〜0.5μmである。また、前記導電体粒子は、NiまたはNi合金を主成分とするものであることが好ましい。
【0017】
また、本発明によれば、上記いずれかの導電体ペーストを用いて製造された内部電極層と、誘電体層と、を有するセラミック電子部品が提供される。
好ましくは、前記内部電極層の厚みが、0.7μm以下に薄層化されている。
【0018】
本発明に係るセラミック電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装チップ型電子部品(SMD)などが例示される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板上に成膜することにより、導電体ペースト膜とした場合に、この導電体ペースト膜をSEM観察することにより得られるSEM像において、上記(A)および(B)を満足する導電体ペーストが提供される。上記(A)は、導電体ペースト中における導電体粒子の全体的な分散度合い(マクロな分散度合い)を示す指標であり、一方、上記(B)は、各導電体粒子の1粒子単位での分散合い(ミクロな分散度合い)を示す指標である。
【0020】
本発明では、導電体ペースト中における導電体粒子の分散度合いを、全体的な分散度合い(上記(A))と、各導電体粒子の1粒子単位での分散合い(上記(B))との2つの指標に分けて評価し、これらを満足するものとしている。そのため、本発明の導電体ペーストは、導電体粒子と、セラミック粉末(共材)と、が高度に分散した構成を有することとなる。そして、その結果、導電体ペースト膜を薄層で形成した場合においても、導電体粒子の偏在に起因する電極被覆率の低下や、共材の分散不良に起因する焼成時における導電体粒子の球状化を有効に防止することができ、焼成後の内部電極層厚みの薄層化を実現することができる。
【0021】
特に、全体的な分散度合い(上記(A))を満足することにより、導電体ペーストを用いて形成される導電体ペースト膜中における導電体粒子の偏在化を防止することができ、そのため、導電体粒子が偏在することに起因する、焼成後の内部電極層の電極被覆率の低下を有効に防止することができる。さらに、各導電体粒子の1粒子単位での分散合い(上記(B))を満足することにより、セラミック粉末(共材)の分散不良に起因する焼成時における導電体粒子の球状化を防止することができ、焼成後の内部電極層の薄層化を実現することができる。
【0022】
一方、従来においては、導電体ペースト中における導電体粒子等の分散性は、導電体ペースト膜の乾燥密度を測定する方法や、導電体ペーストについて、EPMAにより元素分析する方法などにより行われていた。しかしながら、これらの方法では、導電体ペースト中における導電体粒子の分散状態を十分に把握することができなかった。そのため、導電体ペースト膜を薄層で形成すると、焼成時に、導導電体粒子同士が反応し、球状化してしまい、結果として焼成後の内部電極の厚みが厚くなってしまうという問題や、電極のライン性(電極被覆率)が悪化し、取得容量が低下するという問題が発生していた。
【0023】
これに対して、本発明では、上記(A)および(B)を満足させることにより、導電体粒子と、セラミック粉末(共材)と、が高度に分散した導電体ペーストを提供することができる。そして、このような本発明の導電体ペーストを用いることにより、セラミック電子部品の内部電極層の薄層化を実現することができ、小型、大容量化に対応可能なセラミック電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2は本発明の一実施形態に係る導電体ペースト膜の導電体粒子の分布のC.V.値の測定方法を説明するための図、
図3は本発明の一実施形態に係る導電体ペースト膜の最近接粒子間距離の測定方法を説明するための図である。
【0025】
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両側端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0026】
コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、通常、縦(0.6〜5.6mm、好ましくは0.6〜3.2mm)×横(0.3〜5.0mm、好ましくは0.3〜1.6mm)×厚み(0.1〜1.9mm、好ましくは0.3〜1.6mm)程度である。
【0027】
誘電体層2
誘電体層2は、誘電体磁器組成物で構成される。
誘電体層2を構成する誘電体磁器組成物は、誘電体酸化物を含む主成分と、添加成分と、を含有していること好ましい。
【0028】
主成分となる誘電体酸化物としては、組成式ABOで表され、組成式中のAサイトがSr、CaおよびBaから選ばれる少なくとも1つの元素で構成され、BサイトがTiおよびZrの少なくとも1つの元素で構成されているペロブスカイト型結晶構造を有する誘電体酸化物が好ましい。
【0029】
本実施形態では、主成分となる誘電体酸化物としては、特に、主としてAサイトをBaで、BサイトをTiで構成されたチタン酸バリウム(より好ましくは、組成式BaTiO2+m で表され、mが0.995≦m≦1.010であり、BaとTiとの比が0.995≦Ba/Ti≦1.010である)が好ましい。
【0030】
また、添加成分としては、Mg,Sr,Y,Gd,Tb,Dy,Ho,Yb,V,Mo,Zn,Cd,Sn,W,Mn,Cr,Si,Ca,Ba,AlおよびPの酸化物から選ばれる1種類以上を含む添加成分が例示される。このような添加成分を用いることにより、主成分の誘電特性を劣化させることなく低温焼成が可能となる。そして、誘電体層2を薄層化した場合の信頼性不良を低減することができ、長寿命化を図ることができる。ただし、本発明では、誘電体層2の組成は、上記に限定されない。
【0031】
図1に示す誘電体層2の積層数や厚み等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよいが、本実施形態では、誘電体層2の厚みは、1μm〜50μm程度であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下に薄層化されている。
【0032】
内部電極層3
内部電極層3は、後述する導電体ペーストを用いて形成される。
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、Ni、Cu、Ni合金またはCu合金が好ましく、特にNiまたはNi合金が好ましい。内部電極層3の主成分をNiやNi合金とした場合には、誘電体が還元されないように、低酸素分圧(還元雰囲気)で焼成することが好ましい。
本実施形態では、内部電極層3は、後述するような構成を有する導電体ペーストを用いて形成されるため、好ましくは0.7μm以下、より好ましくは0.65μm以下に薄層化されている。なお、内部電極層3の厚みの下限は特に限定されないが、通常、0.2μm程度である。
【0033】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、通常、CuやCu合金あるいはNiやNi合金等を用いる。また、AgやAg−Pd合金等も、もちろん使用可能であり、さらに、本実施形態では、安価なNi、Cuや、これらの合金を用いることができる。
外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定されればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0034】
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または塗布して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0035】
誘電体ペーストの準備
(1)まず、焼成後に図1に示す誘電体層2を構成することになるセラミックグリーンシートを製造するための誘電体ペーストを準備する。
誘電体ペーストは、セラミック粉末と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0036】
セラミック粉末としては、上記した誘電体酸化物からなる誘電体原料(主成分原料)や各添加成分の酸化物や複合酸化物の他、焼成により酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択して用いれば良く、これらは混合して用いても良い。セラミック粉末は、通常、平均粒子径が3.0μm以下、好ましくは0.1〜0.4μm程度の粉体として用いられる。なお、きわめて薄いセラミックグリーンシートを形成するためには、セラミックグリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
【0037】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0038】
導電体ペーストの準備
(2)次に、焼成後に図1に示す内部電極層3となる電極ペースト膜を製造するための導電体ペーストを準備する。
本実施形態では、内部電極層3を形成するための導電体ペーストとして、導電体粒子と、セラミック粉末からなる共材と、有機ビヒクルと、を含有する導電体ペーストを用いる。
【0039】
導電体粒子としては、特に限定されないが、Cu、Niおよびこれらの合金から選ばれる少なくとも1種で構成してあることが好ましく、より好ましくはNiまたはNi合金で構成される。
【0040】
NiまたはNi合金としては、Mn、Cr、CoおよびAlから選択される少なくとも1種の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P、Fe、Mgなどの各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。
【0041】
このような導電体粒子としては、その形状に特に制限はないが、球状のものを用いることが好ましい。また、導電体粒子の平均粒子径D2は、好ましくは0.05〜0.5μm、より好ましくは0.1〜0.4μmである。焼成後の内部電極層3の薄層化を実現するため、その平均粒子径D2は上記範囲であることが好ましい。
【0042】
本実施形態では、導電体粒子の平均粒子径D2は、たとえば、導電体ペーストを成膜し、導電体ペースト膜とし、この導電体ペースト膜をSEM観察することにより、得られたSEM像中に存在する各導電体粒子の粒子径を測定し、測定結果を平均することにより求めることができる。なお、本実施形態では、SEM像中における各導電体粒子の投影面積より各導電体粒子の直径を求め、これを粒子径とすることができる。また、平均粒子径D2を求める際に使用するSEM像としては、特に限定されないが、たとえば、倍率:30,000倍、範囲:4μm×3μmのSEM像を用いることができる。
【0043】
共材は、セラミック粉末からなるものであれば何でも良く、特に限定されないが、上記誘電体ペーストに含まれるセラミック粉末と同様のものを用いることが好ましい。共材は、焼成過程において導電体粒子の焼結を抑制する作用を奏する。共材は、導電体ペースト中に、導電体粒子100重量部に対して、好ましくは3〜40重量部、より好ましくは5〜30重量部で含まれる。共材の含有量が少なすぎると、導電体粒子の焼結抑制効果が低下し、誘電体層と内部電極層との収縮挙動差が大きくなってしまい、構造欠陥が発生し易くなるとともに、内部電極層の電極被覆率が低下し、取得容量が低下してしまう。一方で、共材量が多すぎても、内部電極層の電極被覆率が悪化しやすくなり、取得容量が低下してしまう。
【0044】
また、共材の粒子径についても、特に限定はないが、その平均粒子径は、好ましくは0.002〜0.2μm、より好ましくは0.005〜0.1μmである。共材の平均粒子径が小さすぎても、あるいは大きすぎても、導電体ペースト中における導電体粒子と共材との分散度が悪化してしまい、電極ペースト膜の薄層化、さらには内部電極層3の薄層化が困難となってしまう。
【0045】
有機ビヒクルとしては、上記した誘電体ペーストと同様のものを使用すれば良い。
【0046】
導電体ペーストは、上記した各成分をボールミルや3本ロールミルなどで混合し、スラリー化することにより形成することができる。
【0047】
そして、本実施形態に係る導電体ペーストは、上記各成分を含有するとともに、基板上に印刷法により形成し、乾燥して、導電体ペースト膜とした場合に、形成された導電体ペースト膜をSEM観察することにより得られるSEM像において、下記の(A)および(B)を満足するものである。
【0048】
すなわち、
(A)SEM観察により得られるSEM像において、2.25μm×3μmの面積を有する被測定領域に存在する導電体粒子の存在個数に関し、複数の被測定領域内に存在する導電体粒子の存在個数の平均値xと、存在個数の標準偏差σとから、下記式(1)に基づいて算出される導電体粒子の分布のC.V.値が20%以下である。
C.V.値=(存在個数の標準偏差σ/存在個数の平均値x)×100 …(1)
(B)SEM観察により得られるSEM像において、導電体ペースト膜を構成する各導電体粒子の中心から、最も近い距離に存在する他の導電体粒子の中心までの距離で定義される、最近接粒子間距離に関し、前記最近接粒子間距離をD1、前記導電体粒子の平均粒子径をD2とした場合に、D1≦D2の関係を満足する最近接粒子間距離の割合が50%以下である。
【0049】
上記(A)は、導電体ペーストを用いて形成される導電体ペースト膜中における導電体粒子の全体的な分散度合い(マクロな分散度合い)を示す指標であり、一方、上記(B)は、各導電体粒子の1粒子単位での分散合い(ミクロな分散度合い)を示す指標である。そして、本実施形態においては、導電体ペーストを成膜し、導電体ペースト膜とした場合において、上記(A)および(B)を満足させることにより、ペースト中における導電体粒子と、共材と、を高度に分散させることができる。そのため、このような構成を有する導電体ペーストを用いることにより、焼成前の電極ペースト膜の厚みを薄層で形成しても、導電体粒子の偏在に起因する電極被覆率の低下や、共材の分散不良に起因する焼成時における導電体粒子の球状化を有効に防止することができ、その結果、焼成後の内部電極層厚みの薄層化を実現することができる。
【0050】
上記(A)は、次の方法により測定することができる。
すなわち、まず、導電体ペーストを用いて形成された導電体ペースト膜をSEM観察し、図2に示すような、倍率:10,000倍、範囲:9μm×12μmのSEM像を得る。そして、図2に示すように、得られたSEM像を、2.25μm×3μmの面積を有する被測定領域に16分割(=縦4分割×横4分割)する。なお、図2は、導電体ペースト膜をSEM観察することにより得られるSEM像を表した概略図であり、図2中においては、SEM像を16分割することにより得られた各被測定領域、および各被測定領域中に存在する導電体粒子を模式的に示した。
【0051】
そして、SEM像を16分割した結果、得られた16個の各被測定領域(図2中に示す2.25μm×3μmの領域)に存在する導電体粒子の存在個数を計測する。そして、図2に示すような16分割した被測定領域についての測定を、10視野(すなわち、16×10個の被測定領域)について行い、10視野における測定結果より、導電体粒子の存在個数の平均値xと、標準偏差σを求め、上記式(1)より導電体粒子の分布のC.V.値を算出する。
【0052】
このようにして測定される導電体粒子の分布のC.V.値は、2.25μm×3μmという特定の面積範囲を有する複数の被測定領域間における、導電体粒子の存在個数のバラツキを表す。このC.V.値が小さいほど、導電体粒子の存在個数のバラツキは小さくなる。すなわち、C.V.値が小さいほど、導電体ペースト中に、導電体粒子が均一に分散されていることとなる。本実施形態では、このようにして測定される導電体粒子の分布のC.V.値は、20%以下であり、好ましくは15%以下である。このC.V.値が大きすぎると、導電体ペーストを用いて形成される導電体ペースト膜中において導電体粒子が偏在していることとなってしまい、焼結後の内部電極層の電極被覆率が低下してしまう。
【0053】
また、上記(B)は、たとえば、次の方法により測定することができる。
すなわち、まず、導電体ペーストを用いて形成された導電体ペースト膜をSEM観察し、図3に示すような、倍率:30,000倍、範囲:3μm×4μmのSEM像を得る。図3は、導電体ペースト膜をSEM観察することにより得られるSEM像を表した概略図であり、図3中においては、3μm×4μmの面積中に存在する導電体粒子を、符号30a〜30gでそれぞれ示した。
【0054】
そして、得られたSEM像より、3μm×4μmの面積中に存在する全ての導電体粒子30a〜30gについて、最近接粒子間距離D1を次の方法に従い測定する。なお、最近接粒子間距離D1とは、ある導電体粒子の中心から、最も近い距離に存在する他の導電体粒子の中心までの距離である。
【0055】
具体的には、たとえば、図3における導電体粒子30aに関し、この導電体粒子30aから最も近い位置に存在する導電体粒子は、導電体粒子30bとなり、そのため、導電体粒子30aの最近接粒子間距離D1は、導電体粒子30a、30bの各粒子の中心間の距離であるD1a−bとなる。
【0056】
同様に、導電体粒子30bについても、この導電体粒子30bから最も近い位置に存在する導電体粒子は、導電体粒子30aとなる。そのため、導電体粒子30bの最近接粒子間距離D1も、導電体粒子30a、30bの各粒子の中心間の距離であるD1a−bとなる。
【0057】
また、導電体粒子30e、30f、30gについては、導電体粒子30e、30fは、互いに最も近い位置に存在するため、これら導電体粒子30e、30fの最近接粒子間距離D1は、双方ともD1e−fとなる。そして、その一方で、導電体粒子30gに関しては、最も近い位置に存在する導電体粒子は、導電体粒子30fとなるため、導電体粒子30gの最近接粒子間距離D1は、D1f−gとなる。すなわち、導電体粒子30f、30gについては、最近接粒子間距離D1は、導電体粒子30fについてはD1e−fとなる一方で、導電体粒子30gについてはD1f−gとなる。
【0058】
なお、図3に示す3μm×4μmの面積中に存在する全ての導電体粒子30a〜30gに基づく最近接粒子間距離D1は、次のようになる。
導電体粒子30a:D1a−b
導電体粒子30b:D1a−b
導電体粒子30c:D1c−d
導電体粒子30d:D1c−d
導電体粒子30e:D1e−f
導電体粒子30f:D1e−f
導電体粒子30g:D1f−g
【0059】
そして、上記各導電体粒子30a〜30gにおける、最近接粒子間距離D1(すなわち、D1a−b、D1c−d、D1e−f、D1f−gの合計数4の最近接粒子間距離)と、導電体粒子の平均粒子径D2とを比較し、D1≦D2の関係となっている最近接粒子間距離の割合を求める。たとえば、図3中において、D1≦D2の条件を満たす最近接粒子間距離をD1a−bのみとした場合、すなわち、D1c−d、D1e−f、D1f−gはD1≦D2とならないとした場合には、D1≦D2の関係である最近接粒子間距離の割合は、(1/4)×100=25%となる。
なお、各最近接粒子間距離D1a−b、D1c−d、D1e−f、D1f−gは、得られたSEM像について、画像処理により、各導電体粒子の中心を座標化し、導電体粒子の中心の座標に基づいて、算出することができる。
【0060】
このようにして求められるD1≦D2の関係となっている最近接粒子間距離の割合は、各導電体粒子の1粒子単位での分散合いを表す。すなわち、最近接粒子間距離が、D1≦D2の関係となると、極めて近い距離に導電体粒子同士が隣合って存在することとなる。そのため、このような関係となる最近接粒子間距離を有する導電体粒子間には共材が介在し難くなり、共材の添加効果である導電体粒子の焼結抑制効果が不十分となってしまう。そして、その結果、焼成時に、導電体粒子同士が反応し、球状化し易くなり、焼結後の内部電極のライン性(電極被覆率)が悪化してしまう。そのため、このようなD1≦D2の関係となっている最近接粒子間距離の割合は低いほど好ましい。本実施形態では、D1≦D2の関係である最近接粒子間距離の割合は、50%以下であり、好ましくは47%以下である。
なお、本実施形態では、図3に示す3μm×4μmの面積についての最近接粒子間距離の割合の測定を、10視野について行い、10視野における結果を平均したものを上記範囲とすることが好ましい。
【0061】
また、上記(A)および(B)を評価する際における、導電体ペースト膜を形成するために用いる基板としては、PETフィルムなどが挙げられる。また、乾燥温度については、70〜150℃程度とし、形成する導電体ペースト膜の厚みは、5〜40μm程度とする。
なお、SEM像においては、導電体ペースト膜のうち、表面付近に存在する導電体粒子が観測されることとなるため、上記(A)および(B)は、導電体ペースト膜のうち、その表面付近に存在する導電体粒子についての評価となる。
【0062】
また、上記(A)および(B)を満足する導電体ペーストを得る方法としては、特に限定されず、たとえば、用いる導電体粒子と、共材との粒子径の比を調整する方法や、ボールミルや3本ロールミルを使用して、導電体ペーストを構成する各成分を調製する際における混練条件や混練時間を調整する方法などが挙げられる。これらの方法は適宜組み合わせても良い。ただし、混練条件や混練時間を調整する方法を採用する場合には、混練時間を長くし過ぎると、導電体粒子がつぶれてしまい、所望の特性が得られなくなる場合がある。
【0063】
セラミックグリーンシートの形成
(3)次に、上記にて作製した誘電体ペーストを用いて、ドクターブレード法などにより、キャリアシート上に、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは0.5〜5μm程度の厚みで、セラミックグリーンシートを形成する。セラミックグリーンシートは、焼成後に図1に示す誘電体層2となる。
【0064】
電極ペースト膜の形成
(4)次に、上記にて作製した導電体ペーストを用いて、キャリアシート上に形成されたセラミックグリーンシートの表面に、焼成後に図1に示す内部電極層3となる所定パターンの電極ペースト膜(内部電極パターン)を形成する。
【0065】
本実施形態では、上記のよう構成を有する導電体ペーストを用いるため、電極ペースト膜の厚さは、好ましくは2.5μm以下と薄層化することができる。そして、電極ペースト膜の厚さを薄層化できることにより、焼成後の内部電極層3の厚みを薄層化することができる。
【0066】
電極ペースト膜の形成方法は、層を均一に形成できる方法であれば特に限定されないが、本実施形態では、スクリーン印刷法が用いられる。
【0067】
グリーンチップの作製、焼成など
(5)次に、以上のような、所定パターンの電極ペースト膜が表面に形成されたセラミックグリーンシートを複数積層して、グリーンチップを作製する。
そして、焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ処理条件としては、昇温速度:5〜300℃/時間、保持温度:200〜700℃、特に300〜650℃、保持時間:0.5〜20時間、雰囲気:大気中または加湿したNとHとの混合ガスとすることが好ましい。
【0068】
次いで、脱バインダ処理を行ったグリーンチップについて、焼成および熱処理(アニール)を施す。
焼成は、昇温速度:50〜500℃/時間、保持温度:1050〜1350℃、保持時間:0.5〜8時間、冷却速度:50〜500℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNとHとの混合ガス等の条件とすることが好ましい。ただし、焼成時の雰囲気中の酸素分圧は、10−2Pa以下、特に10−2〜10−9Paとすることが好ましい。
【0069】
還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサ素子本体には熱処理(アニール)を施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0070】
このような焼成を行った後の熱処理は、保持温度または最高温度を、好ましくは900℃以上、さらに好ましくは1000〜1100℃として行うことが好ましい。熱処理の際の酸素分圧は、焼成時の還元雰囲気よりも高い酸素分圧であり、好ましくは10−3Pa〜1Paである。
【0071】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または塗布して焼成し、外部電極4を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0073】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、本発明の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0075】
実施例1
誘電体ペーストの作製
BaTiOを主成分とする誘電体粉末と、有機バインダと、溶剤と、をボールミルで混練し、スラリー化して誘電体ペーストを得た。
【0076】
導電体ペーストの作製
出発原料として、平均粒子径D2が0.14μmであるNi粉末と、平均粒子径が0.023μmであるBaTiOを主成分とする共材と、有機バインダとしてのエチルセルロースと、溶剤としてのターピネオールと、を準備した。
そして、Ni粉末:40重量部、共材として、平均粒子径が0.05μmの共材(誘電体粉末):10重量部、エチルセルロース樹脂:2重量部、ターピネオール:48重量部を、それぞれ準備した。なお、共材としての誘電体粉末は、誘電体ペースト中に含有させた誘電体粉末と同様の組成を有するものを使用した。
【0077】
導電体ペーストの評価
そして、このようにして作製した導電体ペーストを、PETフィルム上に、印刷し、導電体ペースト膜とした。本実施例では、導電体ペースト膜を形成する際の乾燥温度を100℃とし、乾燥後の厚みが15μmとなるように形成した。そして、得られた導電体ペースト膜について、SEM観察によるNi粒子の分布のC.V.値(上述した実施形態における(A)に相当)、D1≦D2である最近接粒子間距離の割合(上述した実施形態における(B)に相当)をそれぞれ測定した。なお、これらは、上述した実施形態における方法で測定した。結果を表1に示す。
【0078】
さらに、本実施例では、EPMAによるNi粒子のC.V.値、および導電体ペースト膜の乾燥密度についても、それぞれ測定した。なお、EPMAによるNi粒子のC.V.値は、EPMAによるNi元素の元素マッピングより、Ni元素の分布の平均値および標準偏差を求め、これらの結果に基づきC.V.値を算出した。また、導電体ペースト膜の乾燥密度は、導電体ペースト膜の厚みおよび乾燥重量を測定し、これらの結果に基づいて算出した。結果を表1に示す。
【0079】
積層セラミックチップコンデンサ試料の作製
次いで、上記にて作製した誘電体ペーストと、導電体ペーストを用い、以下のようにして、図1に示す積層セラミックチップコンデンサ1を製造した。
【0080】
まず、PETフィルム上に誘電体ペーストをドクターブレード法により、所定厚みで塗布し、乾燥することで、乾燥後の厚みが3μmのセラミックグリーンシートを形成した。
【0081】
次に、得られたセラミックグリーンシートの上に、導電体ペーストをスクリーン印刷法により、所定パターンで形成し、所定パターンの電極ペースト膜を有するセラミックグリーンシートを得た。なお、本実施例では、グリーンシート上の導電体ペーストの付着量が0.88mg/cmとなるように導電体ペーストを印刷した。
【0082】
そして、電極ペースト膜を有するセラミックグリーンシートを複数枚積層し、次いで、得られた積層体の積層方向上面および下面に、保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)を積層、圧着して、グリーンチップを得た。
【0083】
次に、得られた積層体を所定サイズに切断した後、脱バインダ処理、焼成及びアニールを下記の条件にて行い、焼結体を得た。
脱バインダは、保持温度:600℃、保持時間:2時間、雰囲気ガス:加湿したNとHの混合ガス、酸素分圧:10−19Pa、で行った。焼成は、保持温度:1250℃、保持時間:2時間、雰囲気ガス:加湿したNとHの混合ガス、酸素分圧:10−7Pa、で行った。アニール(再酸化)は、保持温度:1000℃、保持時間:2時間、雰囲気ガス:加湿したNガス、酸素分圧:10−1Pa、で行った。なお、脱バインダ、焼成およびアニール時の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
次いで、チップ形状の焼結体の端面をバレル研磨した後、外部電極用ペーストを端面に塗布し、加湿したN+H雰囲気中において、800℃にて10分間焼成して外部電極を形成し、図1に示す構成の積層セラミックコンデンササンプルを得た。
【0084】
コンデンサ試料のサイズは、縦2.0mm×横1.25mm×高さ0.65mmであった。
【0085】
コンデンサ試料の評価
得られたコンデンサ試料について、焼成後の内部電極層厚み、および電極被覆率を、以下の方法により、それぞれ測定した。
焼成後の内部電極層厚みは、まず、得られたコンデンサ試料を内部電極に垂直な面で切断し、その切断面を研磨し、その研磨面の複数箇所を金属顕微鏡で観察した。次に、金属顕微鏡で観察した画像についてデジタル処理を行うことにより焼結後の内部電極層の厚みを求めた。
また、電極被覆率は、上記と同様にして得られた研磨面について、内部電極層に電極途切れ部が全く無いとして仮定した場合に、内部電極層が誘電体層を被覆する理想面積を100%とし、内部電極層が誘電体層を実際に被覆している面積の比率を計算することにより求めた。なお、被覆率は、視野180μm×135μmについて測定したSEM写真20枚を使用して求めた。
結果を表1に示す。
【0086】
実施例2〜4、比較例1,2
導電体ペーストを調製するためのNi粒子および共材として、表1に示す平均粒子径を有するNi粒子および共材を使用した以外は、実施例1と同様にして、導電体ペーストおよび積層セラミックコンデンサ試料を作製した。そして、得られた導電体ペーストおよび積層セラミックコンデンサ試料について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1に示すように、SEM観察によるNi粒子の分布のC.V.値、およびD1≦D2であるNi粒子の割合が本発明所定の範囲内にある導電体ペーストを使用した実施例1〜4においては、いずれも電極被覆率を高く保ちながら、焼成後の内部電極層厚みを0.70μm以下と薄層化することができた。
【0089】
一方、SEM観察によるNi粒子の分布のC.V.値、およびD1≦D2であるNi粒子の割合がいずれも本発明の範囲外にある導電体ペーストを使用した比較例1においては、電極被覆率が悪化するとともに、内部電極層厚みも0.92μmと厚くなる結果となった。
また、D1≦D2であるNi粒子の割合が本発明の範囲外にある導電体ペーストを使用した比較例2においては、EPMAによるC.V.値も、電極ペースト膜の乾燥密度も実施例1と同程度であったにも拘わらず、電極被覆率が悪化するとともに、内部電極層厚みも0.78μmと厚くなる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態に係る導電体ペースト膜の導電体粒子の分布のC.V.値の測定方法を説明するための図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態に係る導電体ペースト膜の最近接粒子間距離の測定方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0091】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
30a〜30g… 導電体粒子
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体粒子と、セラミック粉末からなる共材と、有機ビヒクルと、を含有する導電体ペーストであって、
前記導電体ペーストを、基板上に印刷法により形成し、乾燥して、導電体ペースト膜とした場合に、前記導電体ペースト膜をSEM観察することにより得られるSEM像において、下記(A)および(B)を満足する導電体ペースト。
(A)SEM観察により得られる前記SEM像において、2.25μm×3μmの面積を有する被測定領域に存在する導電体粒子の存在個数に関し、複数の前記被測定領域内に存在する導電体粒子の存在個数の平均値xと、存在個数の標準偏差σとから、下記式(1)に基づいて算出される導電体粒子の分布のC.V.値が20%以下である。
C.V.値=(存在個数の標準偏差σ/存在個数の平均値x)×100 …(1)
(B)SEM観察により得られる前記SEM像において、前記導電体ペースト膜を構成する各導電体粒子の中心から、最も近い距離に存在する他の導電体粒子の中心までの距離で定義される、最近接粒子間距離に関し、前記最近接粒子間距離をD1、前記導電体粒子の平均粒子径をD2とした場合に、D1≦D2の関係を満足する最近接粒子間距離の割合が50%以下である。
【請求項2】
前記導電体粒子の平均粒子径D2が0.05〜0.5μmである請求項1に記載の導電体ペースト。
【請求項3】
前記導電体粒子がNiまたはNi合金を主成分とする請求項1または2に記載の導電体ペースト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の導電体ペーストを用いて製造された内部電極層と、誘電体層と、を有するセラミック電子部品。
【請求項5】
前記内部電極層の厚みが、0.7μm以下である請求項4に記載のセラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−227103(P2007−227103A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45794(P2006−45794)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】