説明

導電体基板、導電体基板の製造方法、デバイス及び電子機器

【課題】低抵抗化を実現可能な導電体基板、導電体基板の製造方法、デバイス及び電子機器を提供すること。
【解決手段】基板と、前記基板上に設けられ、CaNb10からなるシード層と、前記シード層上に設けられ、Nbがドープされたアナターゼ型構造の二酸化チタンの結晶を含む導電層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体基板、導電体基板の製造方法、デバイス及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示パネルの大型化および小型携帯化へのニーズが高くなっている。これを実現するためには、表示素子の低消費電力化が必要となり、可視光線透過率が高く、かつ抵抗値が低い透明電極の適用が不可欠になる。特に、最近開発されつつある有機エレクトロルミネッセンス素子は、自発光タイプであり、小型携帯端末への適用においては有効であるが、電流駆動で消費電力が大きいという問題点がある。また、現在、市場に広まりつつあるプラズマディスプレイパネル(PDP)、および次世代のディスプレイとして開発されつつあるフィールドエミッションディスプレイ(FED)は、高消費電力な構造であるという問題点がある。これらの点から、透明導電性薄膜の低抵抗化への期待は大きい。
【0003】
透明導電性薄膜の代表例は、スズをドープした酸化インジウムからなるインジウム・ティン・オキサイド膜(以下、ITO膜という)である。ITO膜は透明性に優れ、高い導電性を有するものの、Inの地殻含有率が50ppbと少なく、資源の枯渇とともに原料のコストが上昇してしまうという欠点がある。このため、ITOに代わる透明導電材料として、耐薬品性および耐久性を兼ね備えた二酸化チタン(TiO)が注目されている(例えば下記特許文献1)。
【0004】
このような透明導電性薄膜は、実用化するためには低抵抗率であることが求められる。低抵抗率を実現させるためには、導電性薄膜がアナターゼ型構造を有する必要があると共に、酸素欠損を十分に含んでいること、結晶の配向が揃っていること、といった性質を有していることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−84824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の薄膜製造技術においては、結晶の配向を揃えることが困難であり、そのため低抵抗率を有する導電性薄膜を製造することが困難であった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、低抵抗化を実現可能な導電体基板、導電体基板の製造方法、デバイス及び電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る導電体基板は、基板と、前記基板上に設けられ、二酸化チタンの格子定数に近似する格子定数を有する材料を含むシード層と、前記シード層上に設けられ、Nbがドープされた二酸化チタンのアナターゼ型構造の結晶を含む導電層とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、二酸化チタンの格子定数に近似する格子定数を有する材料を含むシード層上に、Nbがドープされたアナターゼ型構造の二酸化チタンの結晶を含む導電層が設けられるため、二酸化チタンの結晶の配向が揃った導電層を得ることができる。これにより、低抵抗化を実現可能な導電体基板を得ることができる。
【0010】
上記の導電体基板は、前記シード層に用いられる前記材料は、CaNb10であることを特徴とする。
本発明によれば、シード層に用いられる材料が容易に合成が可能なCaNb10であることとしたので、シード層に要するコストを抑えることができる。なお、シード層に用いられる材料としては、CaNb10の他にも、例えばLaNb(八面体数2)、SrNb10、CaTa10(八面体数3)、NaCaNb14、NaSrNb14(八面体数4)、NaCaNb16、NaSrNb16(八面体数5)などをシード層の材料として用いても構わない。
【0011】
上記の導電体基板は、前記基板は、少なくとも可視光を透過可能な材料からなる基板であることを特徴とする。
本発明によれば、基板が少なくとも可視光を透過可能な材料からなる基板であり、CaNb10及びNbをドープした二酸化チタンも可視光を透過可能であるため、可視光が透過可能な導電性基板を得ることができる。
【0012】
上記の導電体基板は、前記基板は、ガラス基板であることを特徴とする。
本発明によれば、基板がガラス基板であり、CaNb10及びNbをドープした二酸化チタンも可視光を透過可能であるため、可視光が透過可能な導電性基板を得ることができる。
【0013】
上記の導電性基板は、前記導電層は、前記シード層に接する部分に設けられ、前記シード層を保護する保護層と、前記保護層上に設けられ、前記保護層よりも層厚の厚いメイン層とを有することを特徴とする。
本発明によれば、導電層が、シード層とメイン層との間にシード層を保護する保護層を有することとしたので、シード層が保護されることとなる。
【0014】
上記の導電性基板は、前記二酸化チタンの結晶の配向は、(001)方向であることを特徴とする。
本発明によれば、二酸化チタンの結晶の配向は、(001)方向であり、配向の揃った導電層を得ることができる。
【0015】
本発明に係る導電性基板の製造方法は、基板上に二酸化チタンの格子定数に近似する格子定数を有する材料を含むシード層を形成するシード層形成工程と、Nbがドープされたアナターゼ型構造の二酸化チタンを前記シード層上に結晶成長させて導電層を形成する導電層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、二酸化チタンの格子定数に近似する格子定数を有する材料を含むシード層上に、Nbがドープされたアナターゼ型構造の二酸化チタンの結晶を成長させて導電層を形成することとしたので、二酸化チタンの結晶の配向が揃った導電層を得ることができる。これにより、低抵抗化を実現可能な導電体基板を製造することができる。
【0017】
上記の導電性基板の製造方法は、前記シード層の前記材料として、CaNb10を用いることを特徴とする。
本発明によれば、シード層の材料として容易に合成がCaNb10を用いることとしたので、シード層に要するコストを抑えることができる。なお、シード層に用いられる材料としては、CaNb10の他にも、例えばLaNb(八面体数2)、SrNb10、CaTa10(八面体数3)、NaCaNb14、NaSrNb14(八面体数4)、NaCaNb16、NaSrNb16(八面体数5)などをシード層の材料として用いても構わない。
【0018】
上記の導電性基板の製造方法は、前記基板として、少なくとも可視光を透過可能な材料からなる基板を用いることを特徴とする。
本発明によれば、基板が少なくとも可視光を透過可能な材料からなる基板であり、CaNb10及びNbをドープした二酸化チタンも可視光を透過可能であるため、可視光が透過可能な導電性基板を製造することができる。
【0019】
上記の導電性基板の製造方法は、前記基板として、ガラス基板を用いることを特徴とする。
本発明によれば、基板がガラス基板であり、CaNb10及びNbをドープした二酸化チタンも可視光を透過可能であるため、可視光が透過可能な導電性基板を製造することができる。
【0020】
上記の導電性基板の製造方法は、前記導電層形成工程は、スパッタリング法を用いて前記導電層を形成することを特徴とする。
本発明によれば、導電層形成工程は、スパッタリング法を用いて導電層を形成することとしたので、効率的に導電層を形成することができる。
【0021】
上記の導電性基板の製造方法は、前記導電層形成工程は、前記シード層上に当該シード層を保護する保護層を形成する保護層形成工程と、前記保護層よりも層厚の厚いメイン層を前記保護層上に形成するメイン層形成工程とを有することを特徴とする。
本発明によれば、導電層形成工程は、シード層上に保護層を形成する保護層形成工程と、保護層よりも層厚の厚いメイン層を保護層上に形成するメイン層形成工程とを有することとしたので、メイン層形成時にシード層を保護することができる。
【0022】
上記の導電性基板の製造方法は、前記保護層形成工程では、前記メイン層形成工程よりもスパッタターゲットに印加する電力密度を小さくすることを特徴とする。
本発明によれば、保護層形成工程では、メイン層形成工程よりもスパッタターゲットに印加する電力密度を小さくすることとしたので、シード層に与えるダメージを抑えつつ保護層を形成することができる。
【0023】
上記の導電性基板の製造方法は、前記導電層形成工程では、前記基板の温度を200℃から600℃の範囲にすることを特徴とする。
本発明によれば、導電層形成工程では、基板の温度を200℃から600℃の範囲にすることとしたので、基板上に二酸化チタンの結晶を確実に成長させることができる。
【0024】
上記の導電性基板の製造方法は、前記導電層形成工程では、前記基板の温度を室温にすることを特徴とする。
本発明によれば、導電性形成工程では、基板の温度を室温にすることとしたので、基板上に容易に二酸化チタンの結晶を成長させることができる。
【0025】
上記の導電性基板の製造方法は、前記導電層形成工程の後、前記導電層をアニールするアニール工程を更に含むことを特徴とする。
本発明によれば、導電層形成工程の後、導電層をアニールするアニール工程を更に含むこととしたので、導電層に含まれる二酸化チタンの結晶の結晶性を向上することができる。
【0026】
上記の導電性基板の製造方法は、前記アニール工程では、アニール温度を300℃から600℃の範囲にすることを特徴とする。
本発明によれば、アニール工程ではアニール温度を300℃から600℃の範囲にすることとしたので、より確実に二酸化チタンの結晶の結晶性を向上することができる。
【0027】
本発明に係るデバイスは、上記の導電体基板を備えることを特徴とする。
本発明によれば、低抵抗の導電体基板を備えることとしたので、電気的特性に優れたデバイスを提供することができる。
【0028】
本発明に係る電子機器は、上記のデバイスを備えることを特徴とする。
本発明によれば、電気的特性に優れたデバイスを備えることとしたので、良質の電子機器を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、低抵抗化を実現可能な導電体基板、導電体基板の製造方法、デバイス及び電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る導電体基板を示す概略図。
【図2】本発明の実施例に係る結果をまとめた図。
【図3】本発明の実施例に係る結果を示す図。
【図4】本発明の実施例に係る結果を示す図。
【図5】本発明の実施例に係る結果を示す図。
【図6】本発明の実施例に係る結果を示す図。
【図7】本発明の実施例に係る結果を示す図。
【図8】本発明の実施例に係る結果を示す図。
【図9】本発明の実施例に係る結果を示す図。
【図10】シード層に用いられる材料の結晶構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は導電体基板1の構成を示す断面図である。
同図に示すように、導電体基板1は、基板11、シード層12及び導電層13を有している。
【0032】
基板11は、例えばガラスなどの非晶質材料からなる基板である。基板11としては、この他、例えば単結晶材料、多結晶材料、またはアモルファス材料でもよく、これらの結晶状態が混在する材料でもよい。具体例としては、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の単結晶または多結晶からなる基板、ペロブスカイト型結晶構造またはそれと類似構造を有する岩塩型結晶からなる単結晶基板または多結晶基板、水晶基板、ノンアルカリガラス(例えば旭硝子社製、製品名:AN100)等のガラス基板、プラスチック基板、表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板(熱酸化Si基板)等の半導体基板等が挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない範囲でドーパント、不純物などが含まれていてもよい。本発明における基板11の形状は特に限定されない。例えば板状の基板11であってもよく、フィルム状であってもよい。
【0033】
基板11の厚さは特に限定されない。基板11の透明性が要求される場合には例えば1mm以下が好ましい。板状の基板において機械的強度が求められ、透過率を多少犠牲にしてもよい場合であれば、1mmより厚くてもよい。基板11の厚さは、例えば0.2〜1mmが好ましい。
【0034】
基板11は、必要に応じて研磨したものを用いることができる。SrTiO基板等の結晶性を有する基板は、研磨して用いることが好ましい。例えば研磨材としてダイヤモンドスラリーを使用して機械研磨する。該機械研磨では、使用するダイヤモンドスラリーの粒径を徐々に微細化してゆき、最後に粒径約0.5μmのダイヤモンドスラリーで鏡面研磨することが好ましい。その後、更にコロイダルシリカを用いて研磨することにより、表面粗さの二乗平均粗さ(rms)が10Å(1nm)以下となるまで平坦化させてもよい。
【0035】
シード層12を形成する前に、基板11を前処理してもよい。該前処理は例えば以下の手順で行うことができる。まず基板をアセトン、エタノール等により洗浄する。次に、基板を高純度塩酸(例えば、ELグレード、濃度36質量%、関東化学社製)中に2分間浸す。次に、基板を純水中に移して塩酸等をすすぐ。次に、基板を新たな純水中に移し、ここで超音波洗浄を5分間行う。次に、基板を純水中から取り出し、窒素ガスを基板表面に吹き付けて水分を基板表面から除去する。これらの処理は例えば室温で行う。これらの処理により、基板表面から酸化物、有機物等が除去されると考えられる。上記の例では塩酸を使用したが、これに代えて王水、フッ酸等の酸を使用してもよい。また、酸による処理は室温下で行ってもよいし、加熱した酸を使用してもよい。
【0036】
シード層12は、基板11上に設けられており、例えばアナターゼ(001)面の原子配列に類似した2次元構造を持つ層であり、いわゆるナノシートが用いられる。シード層12は、水平方向(すなわち基板面方向)に広がりを有する二次元結晶であり、その面内には単結晶に匹敵する高い結晶性を有することが知られている。したがって、シード層12は、分子レベルの厚さを有する完全に平坦な単結晶とみなすことができる。
【0037】
シード層12は、当該CaNb10の2次元単結晶であり、結晶成長方向(配向)は(001)軸方向となっている。また、CaNb10の格子定数はa=0.386nmであり、二酸化チタンの格子定数(a=0.379nm)に近似する格子定数を有している。
【0038】
導電層13は、例えばNbがドープされた二酸化チタンのアナターゼ型構造の結晶を含んでいる。本実施形態では、導電層13は基板11上に直接形成されているのではなく、シード層12上に形成されている。本実施形態のように、アナターゼ(001)面の原子配列に類似した2次元構造を持つCaNb10の層がシード層12として形成されている場合、導電層13の結晶構造は(001)軸方向に成長した結晶構造となる。このため、導電性に優れた低抵抗の導電層13となる。
【0039】
導電層13は、シード層12に接する部分に設けられる保護層13Aと、当該保護層13A上に設けられ当該保護層13Aよりも層厚の厚いメイン層13Bとを有する。保護層13Aは、シード層12を保護する層であり、層厚が例えば15nm〜20nm程度に形成されている。メイン層13Bは、導電層13の導電部分であり、層厚が例えば180nm程度に形成されている。
【0040】
次に、上記のように構成された導電体基板1の製造方法を説明する。
導電体基板1は、基板11上にCaNb10からなるシード層12を形成するシード層形成工程と、Nbがドープされたアナターゼ型構造の二酸化チタンをシード層12上に結晶成長させて導電層13を形成する導電層形成工程とを経て製造される。
【0041】
シード層形成工程では、まず、CaNb10のナノシートを含むコロイド溶液を調製する。コロイド溶液はトラフ(水槽)に展開され、単層剥離されたナノシートの一部は、気液界面に浮遊する。次に、コロイド溶液に基板11を浸漬させ、基板11上にナノシートのシード層12を形成する。トラフに基板11を浸漬させた後、展開液表面を一定の表面圧まで圧縮して、ナノシート膜を気液界面に形成し、垂直引き上げ法で基板11をコロイド溶液から引上げる。この動作によって、基板上にナノシートのシード層12を転写形成する。
【0042】
次に、導電層形成工程を説明する。導電層形成工程では、例えばスパッタリング法等の物理気相蒸着(PVD)法を用いて導電層13を形成することが好ましい。また、PVD法として、例えばパルスレーザ堆積(Pulsed Laser Deposition:PLD)法によって形成しても構わない。また、例えばMOCVD法等の化学気相蒸着(CVD)法、ゾルゲル法、化学溶液法等の溶液からの合成プロセスによる成膜法を用いて導電層13を形成しても構わない。
【0043】
以下、スパッタリング法によりシード層12に導電層13を形成する方法について説明する。スパッタリング装置は公知のものを適宜使用できる。例えば反応性DCマグネトロンスパッタリング装置を使用できる。
【0044】
まず、スパッタリング装置の真空槽内に、ターゲットと、シード層12が形成された基板11とをセットする。基板11はシード層12が形成された面をターゲットの表面に対向するようにセットされる。ターゲット裏面側には磁石が配置されている。ターゲットとしては、例えばNbを6原子%含有するNb:TiO焼結体等の金属酸化物を用いることができる。またはTi−Nb合金等、所定量のドーパントを含むチタン合金をターゲットとして用いてもよい。ドーパントとしては、例えば複数種類の金属を併用してもよい。なお、ターゲットにおけるドーパントの含有率は、膜におけるドーパントの含有率とほぼ同等となる。
【0045】
次いで、真空チャンバ内をポンプで5×10−4Pa以下まで排気した後、スパッタリングガスとしてOガスおよび不活性ガスを導入し、所定のスパッタ圧力に調整する。スパッタ圧力は0.1〜5.0Pa程度が好ましい。不活性ガスとしては、Ar、He、Ne、Kr、Xeから選ばれる1種または2種以上を使用できる。スパッタリングガスにおけるO/(不活性ガス+O2)の割合(体積基準)が0.001〜30vol%となるように導入量を調整することが好ましい。
【0046】
続いて、スパッタ圧力を維持しつつ、ターゲット裏面の磁石により所定強度の磁場を発生させるとともに、ターゲットに30W程度の電圧を印加して、シード層12上にまず保護層13Aを形成する(保護層形成工程)。ターゲットに印加する電圧が30W程度であるため、シード層12にほとんどダメージを与えることなく保護層13Aが形成される。保護層形成工程での基板温度は、例えば200℃から600℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0047】
保護層13Aを形成した後、スパッタ圧力を維持しつつ、ターゲット裏面の磁石により所定強度の磁場を発生させるとともに、ターゲットに120W程度の電圧を印加して、シード層12上にメイン層13Bを形成する(メイン層形成工程)。ターゲットに印加する電圧が120Wと高いものの、シード層12上には既に保護層13Aが形成されているため、シード層12に対してダメージをほとんど与えることなく保護層13A上にメイン層13Bを形成することができる。メイン層形成工程での基板温度は、例えば200℃から600℃以下の範囲とすることが好ましい。このようにして、シード層12上には保護層13A及びメイン層13Bを有する導電層13が形成される。
【0048】
導電層13を形成した後、当該導電層13をアニールしても構わない(アニール工程)。アニール工程では、例えばアニール温度を300℃〜600℃程度の範囲にすることができる。導電層13をより低抵抗化するうえで、還元雰囲気中にHおよび/またはCOを存在させることが好ましく、プラズマ状態のH2を存在させることがより好ましい。より好ましくは、アニール雰囲気を一旦真空状態にした後、水素(H)を導入してアニールを行うことが好ましい。ここでの真空状態は、雰囲気圧力が例えば10〜10−8Paの範囲であることが好ましい。所定のアニール温度に保持する時間(アニール時間)は特に制限されない。アニール後に所望の特性が得られればよく、例えば1〜120分の範囲内で設定できる。その他の条件にもよるが、アニール時間は例えば1〜60分が好ましい。
【0049】
また、上記の導電層形成工程において、基板温度を室温としたままスパッタリングを行うようにし、アニール工程において導電層13を結晶化させるようにしても構わない。基板温度を室温にして導電層13を形成する場合、導電層形成後においては十分に導電層13が結晶化されていないため、アニール工程は必須の工程となる。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、二酸化チタンと格子定数の近似したCaNb10からなるシード層12上に、Nbがドープされたアナターゼ型構造の二酸化チタンの結晶を含む導電層13が設けられるため、二酸化チタンの結晶の配向が揃った導電層13を得ることができる。これにより、低抵抗化を実現可能な導電体基板1を得ることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、導電層13が、シード層12に接する部分に設けられシード層12を保護する保護層13Aと、当該保護層13A上に設けられ保護層13Aよりも層厚の厚いメイン層13Bとを有することとしたので、保護層13Aによってメイン層13Bの形成時にシード層12が保護することができる。
【0052】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【0053】
例えば、上記実施形態においては、導電層13が保護層13A及びメイン層13Bの2層構造を有する構成例を挙げて説明したが、これに限られることは無く、例えば図3に示すように、シード層12上に形成される導電層13としてメイン層13Bのみとする構成であっても構わない。このような導電層13は、例えば導電層形成工程において、上記実施形態で説明したスパッタリング法のうちメイン層形成工程のみを行うことによって得ることができる。スパッタ条件については、上記実施形態と同様の条件としても構わないし、一部あるいは全部を変更しても構わない。
【0054】
また、上記実施形態においては、導電層形成工程において、基板11の温度を200℃〜600℃の範囲で設定することとしたが、これに限られることは無く、例えば基板11の温度を室温として設定しても構わない。基板温度における「室温」とは、基板を非加熱で成膜する際に基板温度がとり得る温度範囲として、例えば25℃〜80℃程度である。金属酸化物層12の抵抗をより低くするうえで、成膜時の基板温度が例えば25〜50℃程度に保たれるよう、必要に応じて冷却することがより好ましい。
【0055】
本発明の導電体基板1は適用範囲が広く、銅酸化物系の高温超電導体薄膜をテープ基板上に形成するための中間層の作製や、非晶質基板上への発光ダイオード、半導体レーザなどの薄膜デバイス形成などに用いることができる。また、透明導電体薄膜を用いた非晶質基板上への透明回路としても用いることができる。
【0056】
例えばガラスやプラスチック基板上への薄膜を形成することにより、一層のコストダウンを見込むことができる。例えば銅酸化物系の高温超電導体線材などに用いる場合、低コスト化によって得られる利益は大きいといえる。コストダウンに加えて、ガラスやプラスチック基板上での高機能薄膜デバイスを形成することができる。例えば酸化亜鉛系の発光ダイオードなどを形成することができ、更にはフレキシブルデバイスを実現させることができる。
【0057】
上記のほかにも、例えばフラットパネルディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極へ適用が考えられる。また、反射防止膜に用いられる電磁波の遮蔽、静電気により埃がつかないようにするフィルム、帯電防止膜、熱線反射ガラス、紫外線反射ガラスへ適用も考えられる。SiO2からなる層とNbをドープしたTiO2層とからなる多層膜を作製すれば反射防止膜としても適用できる。
【0058】
用途の例として、色素増感太陽電池の電極;ディスプレイパネル、有機ELパネル、発光素子、発光ダイオード(LED)、白色LEDやレーザの透明電極;面発光レーザの透明電極;照明装置;通信装置;特定の波長範囲だけ光を通すというアプリケーションも考えられる。
【0059】
さらに具体的な用途として次のものを挙げることができる。液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)における透明導電膜;カラーフィルタ部における透明導電性膜;EL(EL:Electro Luminescence)ディスプレイにおける透明導電性膜;プラズマディスプレイ(PDP)における透明導電膜;PDP光学フィルタ;電磁波遮蔽のための透明導電膜;近赤外線遮蔽のための透明導電膜;表面反射防止のための透明導電膜;色再現性の向上のための透明導電膜;破損対策のための透明導電膜;光学フィルタ;タッチパネル;抵抗膜式タッチパネル;電磁誘導式タッチパネル;超音波式タッチパネル;光学式タッチパネル;静電容量式タッチパネル;携帯情報端末向け抵抗膜式タッチパネル;ディスプレイと一体化したタッチパネル(インナータッチパネル);太陽電池;アモルファスシリコン(a−Si)系太陽電池;微結晶Si薄膜太陽電池;CIGS太陽電池;色素増感太陽電池(DSC);電子部品の静電気対策用透明導電材料;帯電防止用透明導電材;調光材料;調光ミラー;発熱体(面ヒーター、電熱ガラス);電磁波遮蔽ガラス。
【0060】
また、上記実施形態においては、CaNb10からなるナノシートを用いる例を挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、アナターゼの配向を制御するための0.39nmに対応する正方格子を有する材料であれば、他の材料を用いても構わない。このようなナノシートとして、例えば図10に示すように、八面体の数が2〜6あるいは7まで変化させた一連のナノシートが挙げられる。
【0061】
このような材料として、具体的には、LaNb(八面体数2)、SrNb10、CaTa10(八面体数3)、NaCaNb14、NaSrNb14(八面体数4)、NaCaNb16、NaSrNb16(八面体数5)などが挙げられる。図示を省略するが、八面体数が6及び7の材料を用いることも可能である。これらの面内構造は0.39nmの正方格子で共通しているため、アナターゼの配向制御も可能となる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の実施例を説明する。
図2は、本発明に係る導電体基板1の実施例(実施例1〜実施例6)として、ガラス基板上にCaNb10からなるナノシート(シード層)を形成し、当該ナノシート上にNbがドープされた二酸化チタン(TNO)のアナターゼ型構造の結晶を成長させた例を示す図である。また、図2においては、実施例1〜実施例6の比較例として、それぞれガラス基板上に直接TNOの結晶を成長させた例(比較例1〜比較例6)を併せて示している。
【0063】
実施例1は、ナノシート上に導電層13として、保護層13A及びメイン層13Bを形成した例を示している。実施例1では、導電層13の形成条件として、基板温度が450℃であり、ターゲットがNbを6原子%含有するNb:TiO焼結体であり、ターゲット投入電力が30W(保護層13A形成時)及び120W(メイン層13B形成時)であり、スパッタ圧力が1Paであり、スパッタガスがO及びAr混合ガスであり、O/(不活性ガス+O2)の割合が0.35%であり、膜厚が20nm(保護層)及び180nm(メイン層)であり、導電層13形成後のアニールを行わないこととした。
【0064】
この結果、導電層13(メイン層13B)の結晶は(001)アナターゼ型となった。また、電気特性としては、抵抗率が7.6×10−4Ωcmであり、キャリア濃度が1.7×1021cm−3であり、移動度が4.7cm−1−1であった。図3は、実施例1によって形成されたメイン層13BのXRD2次元ディテクタ像である。図4は、θ−2θXRDパターンである。図3及び図4に示すように、強い配向を示す結晶が得られたことがわかる。
【0065】
実施例2は、導電層13形成後のアニールを行うこととし、それ以外の条件は実施例1と同一とした。アニールにおける雰囲気がHガス1atmの雰囲気であり、アニール温度が500℃であり、アニール時間が1時間であった。
この結果、導電層13(メイン層13B)の結晶は(001)アナターゼ型となった。また、電気特性としては、抵抗率が4.0×10−4Ωcmであり、キャリア濃度が1.7×1021cm−3であり、移動度が9.1cm−1−1であった。図5は、実施例1によって形成されたメイン層13BのXRD2次元ディテクタ像である。図6は、θ−2θXRDパターンである。図5及び図6に示すように、強い配向を示す結晶が得られたことがわかる。
【0066】
実施例3は、ナノシート上に導電層13として、メイン層13Bのみを形成し、それ以外の条件は実施例1と同一とした。導電層13の膜厚は、実施例1のメイン層13Bの膜厚と同一とした。
この結果、図7に示すように、導電層13の結晶は(001)アナターゼ型にルチル相を一部含んだものとなった。また、電気特性としては、抵抗率が2.8×10−3Ωcmであり、キャリア濃度が1.5×1021cm−3であり、移動度が1.5cm−1−1であった。
【0067】
実施例4は、導電層13形成後のアニールを行うこととし、それ以外の条件は実施例3と同一とした。アニール条件については、実施例2と同一とした。
この結果、導電層13の結晶は(001)アナターゼ型にルチル相を一部含んだものとなった。また、電気特性としては、抵抗率が8.0×10−4Ωcmであり、キャリア濃度が1.7×1021cm−3であり、移動度が4.6cm−1−1であった。
【0068】
実施例5は、基板温度を室温とし、O/(不活性ガス+O2)の割合を0.05%として、それ以外の条件を実施例2と同一条件とした。
この結果、導電層13(メイン層13B)は、アニール前が非晶質となり、アニール後は(001)アナターゼ型の結晶となった。また、電気特性(アニール後の値)としては、抵抗率が4.7×10−4Ωcmであり、キャリア濃度が1.8×1021cm−3であり、移動度が7.5cm−1−1であった。図8は、実施例1によって形成されたメイン層13BのXRD2次元ディテクタ像である。図9は、θ−2θXRDパターンである。図8及び図9に示すように、アニールすることによって強い配向を示す結晶が得られたことがわかる。
【0069】
実施例6は、基板温度を室温とし、O/(不活性ガス+O2)の割合を0.05%として、それ以外の条件を実施例4と同一条件とした。
この結果、導電層13は、アニール前が非晶質となり、アニール後は(001)アナターゼ型の結晶となった。また、電気特性(アニール後の値)としては、抵抗率が5.7×10−4Ωcmであり、キャリア濃度が1.7×1021cm−3であり、移動度が6.8cm−1−1であった。
【0070】
比較例1〜6においては、ガラス基板上に直接TNOの結晶を成長させたこと以外については、それぞれ実施例1〜6と同一条件とした。上記実施例1〜6の電気特性に対して、比較例1〜6の電気特性は、いずれも抵抗率が高く、キャリア濃度及び移動度が低い結果となった。比較例1及び比較例3については、抵抗率が高いため、キャリア濃度及び移動度の測定ができなかった。
【0071】
上記の結果により、CaNb10からなるナノシート上に、アナターゼ型構造のTNOの結晶を含む導電層13が設けられるため、TNOの結晶の配向が揃った導電層13を得ることが実証された。このように、本実施例において、低抵抗化を実現可能な導電体基板1を得ることができた。
【0072】
また、CaNb10以外のナノシートであって、上記実施形態に記載のLaNb(八面体数2)、SrNb10、CaTa10(八面体数3)、NaCaNb14、NaSrNb14(八面体数4)、NaCaNb16、NaSrNb16(八面体数5)などを用いた場合であっても、同様に良質の導電層13を得ることができ、低抵抗化を実現可能な導電体基板1を得ることができる。
【符号の説明】
【0073】
1…導電性基板 11…基板 12…シード層 13…導電層 13A…保護層 13B…メイン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、二酸化チタンの格子定数に近似する格子定数を有する材料を含むシード層と、
前記シード層上に設けられ、Nbがドープされた二酸化チタンのアナターゼ型構造の結晶を含む導電層と
を備えることを特徴とする導電体基板。
【請求項2】
前記シード層に用いられる前記材料は、CaNb10である
ことを特徴とする請求項1に記載の導電体基板。
【請求項3】
前記基板は、少なくとも可視光を透過可能な材料からなる基板である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性基板。
【請求項4】
前記基板は、ガラス基板である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項5】
前記導電層は、
前記シード層に接する部分に設けられ、前記シード層を保護する保護層と、
前記保護層上に設けられ、前記保護層よりも層厚の厚いメイン層と
を有する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項6】
前記二酸化チタンの結晶の配向は、(001)方向である
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の導電性基板。
【請求項7】
基板上に二酸化チタンの格子定数に近似する格子定数を有する材料を含むシード層を形成するシード層形成工程と、
Nbがドープされたアナターゼ型構造の二酸化チタンを前記シード層上に結晶成長させて導電層を形成する導電層形成工程と
を含むことを特徴とする導電体基板の製造方法。
【請求項8】
前記シード層の前記材料として、CaNb10を用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項9】
前記基板として、少なくとも可視光を透過可能な材料からなる基板を用いる
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項10】
前記基板として、ガラス基板を用いる
ことを特徴とする請求項7から請求項9のうちいずれか一項に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項11】
前記導電層形成工程は、スパッタリング法を用いて前記導電層を形成する
ことを特徴とする請求項7から請求項10のうちいずれか一項に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項12】
前記導電層形成工程は、
前記シード層上に当該シード層を保護する保護層を形成する保護層形成工程と、
前記保護層よりも層厚の厚いメイン層を前記保護層上に形成するメイン層形成工程と
を有する
ことを特徴とする請求項11に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項13】
前記保護層形成工程では、前記メイン層形成工程よりもスパッタターゲットに印加する電力密度を小さくする
ことを特徴とする請求項12に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項14】
前記導電層形成工程では、前記基板の温度を200℃から600℃の範囲にする
ことを特徴とする請求項7から請求項13のうちいずれか一項に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項15】
前記導電層形成工程では、前記基板の温度を室温にする
ことを特徴とする請求項7から請求項13のうちいずれか一項に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項16】
前記導電層形成工程の後、前記導電層をアニールするアニール工程を更に含む
ことを特徴とする請求項7から請求項15のうちいずれか一項に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項17】
前記アニール工程では、アニール温度を300℃から600℃の範囲にする
ことを特徴とする請求項16に記載の導電体基板の製造方法。
【請求項18】
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の導電体基板を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項19】
請求項18に記載のデバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−60447(P2011−60447A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205911(P2009−205911)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】