説明

導電回路を有する合成樹脂製のばね

【課題】電子回路の集積化を容易にすると共に、触媒に含まれる貴金属の省資源化を図り、更に無電解めっきによる精密な導電性回路を形成する方法を提供する。
【解決手段】射出成形した第1のばね基体2を粗化して、ポリ乳酸等からなる被覆材3を部分的に被覆して第2のばね基体4を形成し、触媒5を付与する。疎水性の被覆材3の表面に付着した触媒5を水洗浄で除去する。次に被覆材3で被覆されていない無電解めっきを形成する部分4aに、浴組成が酸性または中性の無電解めっきを行なって導電性回路6を形成し、その後にアルカリ性溶液でこの被覆材3を加水分解して除去する。被覆材3は耐酸性であるため、酸性または中性の無電解めっき液で溶解せず、また無電解めっき後に被覆材3を除去するため、無電解めっきを形成する部分4aに付与した触媒5がアルカリ性溶液によって脱落するという問題が生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のばね基体の表面に導電回路を形成した、合成樹脂製のばねに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数枚の基板が所定の間隔をもって積層された、3次元的な導電性回路等において、各基板の電極等を相互に電気的に接続する手段として、ばね状の接続端子が用いられている(例えば特許文献1〜3参照。)。
【0003】
すなわち特許文献1には、合成樹脂製の支持体1に金属製の板状の端子ピン2を植設した構成が開示されている。端子ピン2の上端部は、支持体1の上面から突出しており、この端子ピンの下端部は、二股状になって、この支持体の下面から突出している。したがって支持体1を上下に積層すると、上側の支持体の下面から突出する端子ピン2の二股状の下端部に、下側の支持体の上面から突出する端子ピンの上端部が挿入係合し、両者が電気的に接続される。
【0004】
一方特許文献2には、半導体チップ1上に形成されたボンデングパッド1aと、基板3上に形成された電極3aとを、この電極の表面上に形成したばね状の突起状電極2によって、電気的に接続する構成が開示されている。突起状電極2は、ニッケル等の金属ばねの他、電極3aの表面に光硬化性樹脂を複数層積層して、ばね状の突起を形成し、この外表面に無電解めっきをして導電体にするもの、及び金属材料を混合した光硬化性樹脂を複数層積層し、ばね状の突起を形成するものが記載されている。
【0005】
また特許文献3には、合成樹脂製のローケーティングハウジング3の一側部に、リード状のばね機構3bを一体的に突設し、このばね機構を対向するハウジング4の側面に接触させて、両者を電気的に接続する構成が記載してある。合成樹脂製のローケーティングハウジング3は、表面にめっきを施して導電性を持たせたものであって、これにより電磁妨害対策を行なっている。
【0006】
ところで従来から、絶縁材からなる基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、この被覆材で被覆されていない部分に、めっき層を形成する成形回路部品の製造方法が各種存在するが、これらの製造方法において、この被覆材を簡単に溶出して除去できる製造方法が提案されている。例えば、基体の表面を粗化し、その粗化した表面を水溶性の高分子材料であるポリビニルアルコール系樹脂からなる被覆材で部分的に被覆し、触媒を付与した後に被覆材を水洗除去し、被覆材で被覆されていなかったために触媒が付着した基体の表面部分に、無電解めっきを行って導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法がある(例えば特許文献4及び5参照。)。
【0007】
また基体の表面を粗化し、その粗化した表面を加水分解性の高分子材料であるポリ乳酸等からなる被覆材で部分的に被覆し、触媒を付与した後に被覆材をアルカリ性溶液で加水分解して除去し、被覆材で被覆されていなかったために触媒が付着した部分に、無電解めっきを行って導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法がある(例えば特許文献6参照。)。
【特許文献1】特開平8−31492号公報(第図7等)
【特許文献2】特開平2005−11845号公報(第図5等)
【特許文献3】実開平2−129689号公報(第図1等)
【特許文献4】特開平11−145583号公報(1〜4頁)
【特許文献5】特開2000−80480号公報(1〜8頁)
【特許文献6】特開2002−344116号公報(1〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者は、上述した従来の導電性のばね部材について、さらに改良すべき次の点があることを見出した。すなわちこれらの導電性のばね部材は、いずれも全表面が導電性であるため、例えば集積度が高い導電性回路基板同士を、この導電性のばね部材を介して相互に接続する場合には、この導電性のばね部材と周辺部品とを電気的に隔離するために、この導電性のばね部材の側面等に、絶縁フィルム等の絶縁層を挟む必要がある。また集積度が高い導電性回路同士を、導電性のばね部材を介して相互に接続するためには、ばね部材のサイズを極めて微小にすることが必要となるところ、ばね部材の強度、製造性、及び導電性回路への接続等の点から、サイズの微小化にも限度がある。
【0009】
そこで本願発明者は、絶縁性のばね部材の表面上に、部分的にめっきを行なって、導電性回路を形成することによって、上述した問題を解決できることに想到した。すなわち絶縁性のばね部材の表面上、例えば表面または裏面のみに導電性回路を形成すれば、導電性回路を形成しない部分、すなわちばね部材の両側面は、絶縁性のままであるため、周辺部品と電気的に隔離するために、この導電性のばね部材の側面等に、絶縁フィルム等の絶縁層を挟む必要がなくなる。また絶縁性のばね部材の表面上に、複数列の導電性回路を形成すれば、ばね部材のサイズを微小にすることなく、集積度が高い導電性回路同士を、この複数列の導電性回路を形成したばね部材を介して、相互に接続することが可能となる。
【0010】
しかるに上述した新たな着想、すなわち絶縁性のばね部材の表面上に、部分的にめっきを行なって導電性回路を形成する手段を完成するためには、さらなる解決すべき課題があった。すなわち上記特許文献4あるいは5に記載の方法においては、被覆材として、水溶性のポリビニルアルコール系樹脂等の高分子材料を使用しているため、触媒付与の工程において、この被覆材の表面が膨潤して親水性となり、その結果、被覆材の表面に付着した触媒を、洗浄によって除去できない。このため、後工程において被覆材を溶解除去するときに、触媒も一緒に溶解液に混入し、溶解液の廃却と共に、混入した触媒も廃棄されてしまう。しかるに触媒には、パラジウムや金等の希少金属が用いられるため、これらの貴重な貴金属に対する省資源化を十分考慮する必要がある。
【0011】
また上記特許文献6に記載の方法においては、被覆材としてポリ乳酸や脂肪族ポリエステル等の加水分解性の高分子材料を使用し、触媒を付与した後に、加水分解を促進するためアルカリ性溶液を用いて被覆材を除去するが、この被覆材の除去工程において、被覆材で被覆されていない基体の表面部分、すなわち導電性回路を形成する部分に付与された触媒までもが、このアルカリ性溶液の洗浄効果によって脱落し、その結果、この導電性回路を形成する部分に、無電解めっきが十分析出しないという問題が考えられる。
【0012】
さらに上述した特許文献4〜6の手段では、いずれも被覆材を除去後に無電解めっきを行なっているため、いわゆる通常行なわれるバレルめっき(すなわち基体を容器内にバラバラな状態で投入し、容器をめっき浴槽内で回転させる。)では、無電解めっきの初期段階において、触媒付与面が互いに擦れ合って触媒が脱落し、このためめっき未着不良が生ずるという問題が考えられる。
【0013】
そこで本願発明の第1の目的は、電子回路の集積化を容易にする導電性回路を有する合成樹脂製のばねの製造方法を提供することにある。また第2の目的は、触媒に含まれる貴重な貴金属の省資源化と、導電性回路を形成する部分に無電解めっきを十分析出させることができる、導電性回路を有する合成樹脂製のばねの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明による導電回路を有する合成樹脂製のばねの特徴は、合成樹脂製のばね基体の表面を、耐酸性の被覆材によって部分的に被覆して、この被覆材によって被覆されていない部分に、無電解めっきによる導電性回路を形成すること、この被覆材として、触媒液によって膨潤することなく疎水性を維持する加水分解性の高分子樹脂を使用すること、この被覆材で被覆した後の無電解めっきを酸性または中性のいずれかの浴組成で行なうこと、被覆材の溶解除去を、導電性回路を形成する部分に無電解めっきを形成した後に行うこと、及び触媒付与後に、被覆材の表面に付着した触媒を洗い落とす水洗工程を設けて、この洗い落とした触媒の回収を容易にすることにある。
【0015】
すなわち本願発明による成形回路部品の製造方法は、絶縁性の合成樹脂を射出成形して、第1のばね基体を形成する第1の工程と、上記第1のばね基体の表面を粗化する第2の工程と、上記粗化した第1のばね基体の表面に、ポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体からなる被覆材を部分的に被覆して第2のばね基体を形成する第3の工程と、上記第2のばね基体の表面に触媒を付与する第4の工程と、上記第2のばね基体の被覆材の表面に残存する上記触媒を、水洗除去する第5の工程と、上記第2のばね基体の表面であって、上記被覆材で被覆されていない部分に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第1の無電解めっきをする第6の工程と、上記第2のばね基体の表面に被覆された被覆材を除去する第7の工程とを備えることにある。
【0016】
上記第1のばね基体を構成する合成樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、またはポリエーテルイミドとポリイミド(PI)との共重合体のいずれかの1であることが望ましい。
【0017】
上記第6の工程と第7の工程との間に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第1の電解めっき、または第2の無電解めっきのいずれかを積層する第8の工程を備えてもよい。
【0018】
あるいは上記第7の工程の後に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれかの1の第2の電解めっき、または第3の無電解めっきを積層する第9の工程を備えてもよい。
【0019】
また上記第7の工程の後に、上記第1の電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、若しくはアルカリ性のいずれかの1の第3の電解めっき、または第4の無電解めっきのいずれかを積層する第10の工程を備えてもよい。あるいは上記第7の工程の後に、上記第2の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、若しくはアルカリ性のいずれかの1の第4の電解めっき、または第5の無電解めっきのいずれかを積層する第11の工程を備えてもよい。
【0020】
なお上述した工程番号、電解めっき番号、及び無電解めっき番号は、いずれも各工程、各電解めっき、及び各無電解めっきに関して、それぞれ相互に区別するためのものであって、必ずしも本願発明による成形回路部品の製造工程の時系列的な順番を示すものではない。
【0021】
ここで「絶縁性の合成樹脂」としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、またはポリエーテルイミドとポリイミド(PI)との共重合体のいずれかの1であることが望ましい。また「第1のばね基体」としては、コイル状のつる巻きばね、及び板状のばね等が該当する。また第1のばね基体として単体のものの他、他の部品の一部分として一体的に形成されたものも含む。
【0022】
ここで「粗化する」とは、第1のばね基体の表面に小さな凹凸を形成し、無電解めっき層の密着性を向上し、親水性を付与するためのエッチングを意味する。例えば、NaOHやKOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液、アルコール性ナトリウム、アルコール性カリウム等のアルカリ金属アルコラートの水溶液、またはジメチルホルムアミド等の有機溶剤を使用して、これらの液を第1の基体の表面に塗布したり、これらの液中に第1の基体を浸漬したりすることを意味する。
【0023】
「ポリグリコール酸」とは、例えば、株式会社クレハ製の図12に示す構造式のものが該当する。「ポリ乳酸」とは、例えば、三井化学株式会社製のレイシア♯H-100J/Fが該当する。「脂肪族ポリエステル」とは、例えば、ポリヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、脂肪族多価塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル、ヒドロキシカルボン酸や脂肪族多価アルコールから選ばれた複数種のモノマー成分と、脂肪族多価塩基酸から選ばれる複数種のモノマー成分とからなるランダム共重合体やブロック共重合体などが該当する。
【0024】
このポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合量、共重合量は、混合体又は共重合体の全量に対して1〜10重量%程度がよい。アルカリ分解促進剤を、混合体全量に対して1〜100重量%程度、混合してもよい。また必要に応じてアルカリ分解促進剤、有機無機充填剤、着色剤などの、合成樹脂に使用できる汎用の添加剤を混合してもよい。「部分的に被覆する」とは、後工程において導電性回路を形成すべき部分を残して、選択的に被覆するということを意味している。「第2のばね基体」とは、第1のばね基体と、この第1のばね基体の表面に部分的に被覆した被覆材との両方からなる部材を意味する。
【0025】
「水洗除去」とは、疎水性を維持している被覆材の表面に付着している触媒を、水洗によって洗い流すことを意味する。この水洗に際しては、pH7以上の中性からアルカリ組成の洗浄水を使用し、例えば15〜70℃の洗浄水に、第2のばね基体を5〜120秒間浸して攪拌したり、100〜170℃の洗浄水の蒸気を、第2のばね基体に高圧で噴き付けたりすることが該当する。
【0026】
「浴組成」とは、無電解めっき液のpH(水素イオン濃度)を意味しており、「浴組成が酸性または中性」とは、無電解めっき液、または電解めっき液のpHが7以下であることを意味する。なお本願発明においては、無電解めっきの「浴組成」が、7〜7.5程度の弱アルカリ性であっても、酸性または中性の浴組成と同様に作用するが、無電解めっき液の劣化を早めるため注意が必要である。
【発明の効果】
【0027】
絶縁性の第1のばね基体の表面を被覆材で部分的に被覆し、第1の無電解めっきにより導電性回路を形成することによって、この導電性回路を形成しない部分、例えばばね部材の両側面を絶縁性のままにすることができるので、周辺部品と電気的に隔離するために、このばね部材の側面等に、絶縁フィルム等の絶縁層を挟む必要がなくなる。また絶縁性の第1のばね基体の表面上に、複数列の導電性回路を形成すれば、ばね部材のサイズのみを微小にすることなく、集積度が高い導電性回路同士を、このばね部材を介して相互に接続することが可能となる。
【0028】
被覆材として、加水分解によって容易に除去でき、かつ触媒液によって膨潤することなく疎水性を維持できる、ポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体を使用することによって、触媒付与の際に、触媒が被覆材に強固に密着することを防止できる。そして触媒付与後に水洗浄の工程を設けることによって、被覆材の疎水性の表面に付着した触媒を、容易かつ確実に除去できるので、この洗浄水に洗い出された触媒を容易に分離回収可能となり、高価な貴金属の省資源化が可能となる。
【0029】
また上記被覆材は耐酸性を有するので、無電解めっき若しくは電解めっきを、酸性または中性のいずれかの浴組成で行なうことによって、この被覆材の溶解等を防止して、導電性回路を精密に形成することができる。さらに被覆材の溶解除去を、導電性回路を形成する部分に、無電解めっきを形成した後に行うことによって、無電解めっき前に被覆材の溶解除去をする従来手法の問題点、すなわち被覆材の除去に用いるアルカリ性の溶解液によって、被覆材で被覆されていない第1のばね基体の表面に付与した触媒までもが脱落してしまうという問題を回避できるので、無電解めっきを十分に析出させることができる。
【0030】
また被覆材を除去した後は、被覆材の溶解等を考慮する必要がなくなるため、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれであっても、この被覆材の除去前に行った電解めっき、または無電解めっきに重ねて、さらに電解めっき、または無電解めっきを積層することができる。また無電解めっき、または電解めっきの上に、重ねて無電解めっき、または電解めっきを積層することによって、導電性回路の厚みや強度等を増大させることができる。また材質の異なるめっきを積層することによって、導電性回路の半田付け性の向上等、他の有用な特性を付与することができる。
【0031】
さらに被覆材の溶解除去を、無電解めっきを形成した後に行うことによって、無電解めっきの際には、導電性回路を形成する部分の周囲を、被覆材の壁で取囲まれた状態にすることができる。このためバレルめっきを行なう場合にも、被覆材の壁によって、触媒付与が付与された導電性回路を形成する部分が、相互に擦れ合うことを回避でき、めっきの未着不良が生じることが防止できる。
【0032】
第1のばね基体に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、またはポリエーテルイミドとポリイミド(PI)との共重合体のいずれかの1を使用することによって、ばね部材として優れた特性を発揮させることができる。すなわちこれらの合成樹脂は、いずれも疲労強度が高く、耐熱性や耐薬品性等にも優れているため、導電回路等に使用するばね部材に極めて適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本願発明の理解を容易にするため、まず最初に、図1〜図6を参照しつつ、本願発明による製造方法で製造する導電回路を有する合成樹脂製のばね(以下「本発明によるばね」という。)の構成、射出成形用の金型、及び使用態様について概説する。その後、図7〜図11を参照しつつ、本発明によるばねの製造方法を詳述する。さて図1は、本発明によるばねを、板状のばね1に構成したものを示している。板状のばね1は、略S字状に湾曲した2辺のリード11と、この2辺のリードを連結する一端部12とからなる第1ばね基体2において、この2辺のリードの上側面に、第1の無電解めっきによる導電性回路6を、それぞれ形成したものである。また第1の無電解めっきは、板状の第1ばね基体2の一端部12の上側面と裏面にも、回り込むように行なっており、相互に対向する電極等との電気的接続を可能にしている。なお2辺のリード11は、単一であっても、三辺以上であってもよい。またリード11は、略S字状に限らず、横向きのU字状や、板状部材をジグザグに形成したもの等であってもよい。
【0034】
図2は、本発明によるばねを、つる巻き状のばね101に構成したものを示している。つる巻き状のばね101は、素線断面が四角のつる巻き状の第1のばね基体102の外側面にのみ、第1の無電解ニッケルめっきによる導電性回路106を形成したものである。また第1のばね基体102の両端面も、第1の無電解めっきを行って、相互に対向する電極等との電気的接続を可能にしている。なお上記素線断面は、四角に限らず、円形であってもよく、円形のつる巻き状に限らず、楕円あるいは六角形等の他の多角形のつる巻き状であってもよい。
【0035】
つる巻き状のばね101を用いて、積層する電子回路等を連結する際には、このつる巻きの中心に、金属製のピン等からなるガイド部材を設けて、このつる巻き状のばねの倒れ等を防止することができる。すなわち、つる巻き状のばね101の内周は、第1の無電解ニッケルめっき層が形成されていないため、つる巻き状のばねと、金属製のガイド部材との間に、絶縁フィルム等の絶縁層を挟む必要がない。逆につる巻き状のばね101の内周と両端面とにのみ、第1の無電解ニッケルめっきを行えば、このつる巻き状のばねの外周を取囲むように設けた金属製のガイド部材との間に、絶縁フィルム等の絶縁層を挟む必要がない。したがって集積度が高い導電性回路同士を相互に連結することが容易になる。
【0036】
図3は、本発明によるばねを、板状のパネルの一部分として、リード状のばね201に形成した構成を示している。リード状のばね201は、板状のパネルの一端に一定の間隔を隔てて突設した、略S字状に湾曲したリード状の第1のばね基体202において、この第1のばねの片側面に、無電解ニッケルめっきによる導電性回路206を形成したものである。なお導電性回路206は、板状のパネルの表面にも延長して形成してあり、それぞれ電極等と電気的に接続してある。なおリード状のばね201は、二辺以上に限らず、単一であってもよく、略S字状に限らず、U字状や、略C字状等であってもよい。
【0037】
図4に、図1で説明した板状の第1のばね基体2を射出成形するための、金型の1例を示す。すなわちこの金型は、板状の第1のばね基体2の下側面に沿って上下に2分割した、上金型Aと下金型Bから構成され、この上金型には、この板状の第1のばね基体が埋設するような窪みCが開口している。そして上金型Aと下金型Bとを重ね合わせ、この上金型の窪みCと下金型とで構成されたキャビティ内に、熱可塑性樹脂を射出して形成する。
【0038】
図5に、図2で説明した、つる巻き状の第1のばね基体102を射出成形するための金型の1例を示す。すなわちこの金型は、つる巻き状の第1のばね基体102の内周径と同じ直径の開口孔を有し、かつ180度に2分割された外金型Dと、この開口孔に嵌合挿入する円柱状の中子Eとで構成される。外金型Dの内周面には、つる巻き状の第1のばね基体102の素線断面形状の溝Fを、それぞれ半周ずつ、つる巻き状に形成する。そしてこの2の外金型Dを重ね合わせた状態で、その中心の開口孔に、円柱状の中子Eを嵌合挿入する。つる巻き状の第1のばね基体102は、中子Eの外周面と、つる巻き状の溝Fとで構成されたキャビティ内に、熱可塑性樹脂を射出して形成する。
【0039】
図6に、図1で説明した板状のばね1の、使用態様の1例を示す。板状のばね1は、所定の間隔をもって相互に対向する基板G、Hの間に、圧縮されつつ挿入される。すなわち上方の基板Gの上表面には、導電回路G1が形成され、下表面には、接続端子G2が形成されている。導電回路G1と接続端子G2とは、導電性めっきを施したスルホールG3によって、電気的に接続されている。また下方の基板Hの上表面には、導電回路H1が形成されている。なお上方の基板G4の下表面には、電子部品Iが搭載されている。
【0040】
下方の基板Hに形成した導電回路H1の上面に、板状のばね1の一端部12が搭載され、両者は半田付けによって結合してある。一方、板状のばね1の2辺のリード11の先端部は、上方の基板Gの下表面に形成した接続端子D2に、それぞれ圧接している。このようにして、上方の基板Gの上表面に形成した導電回路G1と、下方の基板Hの上表面に形成した導電回路H1とは、板状のばね1を介して、相互に電気的に接続される。なお板状のばね1の両側面は、無電解めっきが形成されていないため、隣接する電子部品Iとの絶縁性が確保される。したがって板状のばね1と隣接する電子部品Iと間に、絶縁フィルム等を設ける必要はない。
【0041】
次に図7を参照しつつ、本発明によるばねの製造方法の工程を説明する。なお図7は、図1に記載した板状のばね1の断面A−Aを示したものである。さて最初に熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を射出成形して、板状の第1のばね基体2を製作する(A)。次に第2の工程として、第1のばね基体2の全表面をエッチングにより粗化する(B)。このエッチングは、通常用いられる方法で行なう。例えば無水クロム酸400g/lを硫酸20ml/lに溶解し、温度を75℃に保持して、第1のばね基体2を20分間浸漬する。次に温度50℃の塩酸50ml/lに、3〜5分浸漬して中和する。このエッチングによって図7(B)の部分的拡大図に示すように、全ての表面が凹凸の粗面2aとなる。
【0042】
次に第3の工程として、第1のばね基体2の粗面2aに、被覆材3を部分的に被覆して、第2のばね基体4を形成する(C)。被覆材3としては、ポリ乳酸の単体を使用するが、これに限らず、ポリグリコール酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体を使用してもよい。これらの樹脂は、アルカリ水溶液で加水分解する性質を有し、酸性水溶液に対して耐性を示す性質がある。被覆の方法としては、射出成形金型内に、表面を粗化した第1のばね基体2をセットして、この第1のばね基体の粗面2aのうち、所定の導電性回路が形成されるべき部分を金型等で覆い、その部分以外のキャビティ内にポリ乳酸樹脂を注入することにより、この第1のばね基体に被覆材3を一体的に形成する。なお被覆材3の厚さは、0.1〜1mmが望ましく、0.3〜0.5mmが、さらに望ましい。
【0043】
次に第4の工程として、第2のばね基体4の全表面に、パラジウム、金などによる触媒5を付与する(D)。触媒5の付与は公知の方法で行うが、例えば、錫、パラジウム系の混合触媒液に、第2のばね基体4を浸漬した後、塩酸、硫酸などの酸で活性化し、表面にパラジウムを析出させる。または、塩化第1錫等の比較的強い還元剤を表面に吸着させ、金などの貴金属イオンを含む触媒溶液に浸漬し、表面に金を析出させる。液の温度は15〜23℃で5分間浸漬すれば良い。
【0044】
第2のばね基体4の表面のうち、被覆材3で被覆されていない露出部分、すなわち所定の導電性回路が形成されるべき部分4aは、上記第2の工程のエッチングにより、粗面化されて親水性になっているため、触媒5が強固に付着する。一方被覆材3の表面は、上述したように、第2の工程のエッチングによっても、膨潤することなく疎水性を維持しているため、触媒5は、強固には付着しない。
【0045】
そこで第5の工程として、触媒5を付与した第2のばね基体4を水洗浄すると(E)、被覆材3の表面に残存するこの触媒は、全て脱落除去できる。一方所定の導電性回路が形成されるべき部分4aは、上述したように、触媒5が強固に付着しているため、水洗浄によっても、触媒が脱落することはない。なおこの水洗浄は、第2のばね基体4を、温度15〜25℃の水槽に浸して、5〜30秒間、ワークを遥動して行なう。
【0046】
次に第6の工程として、第2のばね基体4の表面であって、被覆材3で被覆されていない部分4aに、浴組成が酸性の第1の無電解めっきである無電解ニッケルめっきを行い、導電性回路6を形成する(F)。この無電解ニッケルめっきは、例えば、pH4.7、温度90℃の酸性浴に、35分間浸漬して行なう。なお第1の無電解めっきとして、上記無電解ニッケルめっきに替えて、浴組成を中性にして、無電解金めっきを行なってもよい。
【0047】
なお無電解ニッケルめっき、または無電解金めっきは、それぞれ酸性または中性の浴組成で行なうため、上述したように耐酸性を有する被覆材3は、めっき液に溶解することはなく、導電性回路6を精密に形成することができる。
【0048】
次に第7の工程として、第2のばね基体4の表面を被覆した被覆材3を除去する(H)。上述したように被覆材3のポリ乳酸等は、酸性水溶液に対して耐性を示すが、アルカリ水溶液では簡単に加水分解するので、第2のばね基体4を、濃度2〜15重量%、温度25〜70℃の苛性アルカリ(NaOH、KOHなど)水溶液中に、1〜120分程度浸漬して、被覆材3を除去する。したがって手作業によるマスク除去に比べ作業効率が著しく向上する。かかる場合、被覆材3で被覆されていない部分4aは、既に、第1の無電解めっきによる導電性回路6が形成されているので、この部分の触媒5が、この被覆材を加水分解するアルカリ性の溶液によって脱落するという従来の問題点とは、全く無縁となる。
【0049】
さて図8に示すように、上述した第6の工程(第1の無電解めっき)と、第7の工程(被覆材3の除去)との間に、この第1の無電解めっきによる導電性回路6の表面に、浴組成が酸性または中性の第1の電解めっき、または第2の無電解を行なって、二次めっき層8を形成する第8の工程を挿入することができる。例えば第1の電解めっきとして、電解銅めっきを行う場合、酸性の硫酸銅浴の浴組成は、CuSO・5HO(75g)/lHSO(190g)/lCl(60ppm)/添加剤(適量)とする。また陽極材料を含リン銅として、浴温度は25℃に設定し、陰極電流密度を2.5A/dm2とする。なお第2の無電解としては、無電解金めっきを行なう。
【0050】
このように第7の工程の前、すなわち被覆材3の除去前に、浴組成が酸性または中性の第1の電解めっき、または第2の無電解を行なう第8の工程を挿入しても、この被覆材3は、耐酸性を有するので、電解銅めっき液等に溶解することはなく、第1の無電解めっきによる導電性回路6の表面上に、正確に二次めっき層8を形成することができる。
【0051】
また図9に示すように、第7の工程によって被覆材3を除去した後に、上述した第1の無電解めっき(第6の工程)による導電性回路6の表面に、さらに第2の電解めっきや、第3の無電解めっきによる二次めっき層9を形成する第9の工程を加えることもできる。
【0052】
また図10に示すように、第7の工程によって被覆材3を除去した後に、上述した第1の電解めっき(第8の工程)の上に、第3の電解めっきや、第4の無電解めっきによる三次めっき層10を形成する第10の工程を加えることもできる。あるいは図11に示すように、第7の工程によって被覆材3を除去した後に、上述した第2の無電解めっき(第8の工程)の上に、第4の電解めっきや、第5の無電解めっきによる三次めっき層11を形成する第11の工程を加えることもできる。
【0053】
なお上述した第9〜11の工程のいずれの場合にも、アルカリ性溶液で加水分解する被覆材3は、既に除去されているため、めっきの浴組成は、酸性または中性のみならず、アルカリ性であってもよい。また被覆材3で覆われていなかった部分には、すでに第1の無電解めっき等が形成してあるため、従来のような、この部分に付与した触媒が、アルカリ性の溶液で脱落するという問題とは、全く無縁となっている。
【0054】
また第1のばね基体2等の材料であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等に、繊維状又は粒子状のフィラーを添加してもよい。繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリュウムウイスカー、ホウ酸アルミニュームウイスカー、炭酸カルシュームウイスカー等、また、粒子状フィラーとしては炭酸カルシューム、ワラストナイト等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
集積度の高い電子回路等の積層を可能にすると共に、触媒に含まれる貴重な貴金属の省資源化と、導電性回路を形成する部分に無電解めっきを十分析出させることができるため、電子機器等に関する産業に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】板状のばねの斜視図である。
【図2】つり巻き状のばねの斜視図である。
【図3】リード状のばねの斜視図である。
【図4】第1のばね基体を射出成形するための金型の概略断面図である。
【図5】他の第1のばね基体を射出成形するための金型の概略斜視図である。
【図6】板状のばねの使用態様の1例を示す断面図である。
【図7】板状のばねの製造工程図である。
【図8】他の板状のばねの製造工程図である。
【図9】他の板状のばねの製造工程図である。
【図10】他の板状のばねの製造工程図である。
【図11】他の板状のばねの製造工程図である。
【図12】ポリグリコール酸の化学構造式である。
【符号の説明】
【0057】
1、101、201 導電性回路を有する合成樹脂製のばね
2、102、202 第1のばね基体
3 被覆材
4 第2のばね基体
5 触媒
6、106、206 導電性回路(第1の無電解めっき)
8 二次めっき層(第1の電解めっき、第2の無電解めっき)
9 二次めっき層(第2の電解めっき、第3の無電解めっき)
10 三次めっき層(第3の電解めっき、第4の無電解めっき)
11 三次めっき層(第4の電解めっき、第5の無電解めっき)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の合成樹脂を射出成形して、第1のばね基体を形成する第1の工程と、
上記第1のばね基体の表面を粗化する第2の工程と、
上記粗化した第1のばね基体の表面に、ポリグリコール酸、若しくはポリ乳酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体からなる被覆材を、部分的に被覆して第2のばね基体を形成する第3の工程と、
上記第2のばね基体の表面に触媒を付与する第4の工程と、
上記第2のばね基体の被覆材の表面に残存する上記触媒を、水洗除去する第5の工程と、
上記第2のばね基体の表面であって、上記被覆材で被覆されていない部分に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第1の無電解めっきをする第6の工程と、
上記第2のばね基体の表面に被覆された被覆材を除去する第7の工程とを備える
ことを特徴とする導電性回路を有する合成樹脂製のばねの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記第1のばね基体を構成する合成樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、またはポリエーテルイミドとポリイミド(PI)との共重合体のいずれかの1である
ことを特徴とする導電回路を有する合成樹脂製のばねの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、上記第6の工程と第7の工程との間に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性または中性のいずれかの第1の電解めっき、または第2の無電解めっきのいずれかを積層する第8の工程を備える
ことを特徴とする導電回路を有する合成樹脂製のばねの製造方法。
【請求項4】
請求項1において、上記第7の工程の後に、上記第1の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、またはアルカリ性のいずれかの1の第2の電解めっき、または第3の無電解めっきのいずれかを積層する第9の工程を備える
ことを特徴とする導電回路を有する合成樹脂製のばねの製造方法。
【請求項5】
請求項3において、上記第7の工程の後に、上記第1の電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、若しくはアルカリ性のいずれかの1の第3の電解めっき、または第4の無電解めっきのいずれかを積層する第10の工程を備える
ことを特徴とする導電回路を有する合成樹脂製のばねの製造方法。
【請求項6】
請求項3において、上記第7の工程の後に、上記第2の無電解めっきの表面に、浴組成が酸性、中性、若しくはアルカリ性のいずれかの1の第4の電解めっき、または第5の無電解めっきのいずれかを積層する第11の工程を備える
ことを特徴とする導電回路を有する合成樹脂製のばねの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−179823(P2009−179823A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17701(P2008−17701)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000175504)三共化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】