説明

導電性、耐食性に優れる塗装金属板

【課題】導電性、耐食性に優れ、かつ安価に製造できる塗装金属板を提供する。
【解決手段】本発明は、金属板の少なくとも片面に、有機樹脂(A)と、25℃の水溶液における標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある金属粒子(B)とを含む塗膜(α)が水系塗装用組成物(β)の塗布により形成されており、前記塗膜(α)中の有機樹脂(A)と金属粒子(B)の25℃での体積比が90:10〜99.9:0.1であり、前記有機樹脂(A)が、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む樹脂(A1)、または更に該樹脂(A1)の誘導体(A2)を含むことを特徴とする、導電性、耐食性塗装金属板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機樹脂と特定の標準電極電位の範囲にある耐水劣化性の金属粒子とを含む水系塗布用組成物で表面の少なくとも一部が被覆塗装された、導電性、耐食性に優れ、かつ安価に製造できる塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、本発明の背景技術について説明する。
家電用、建材用、自動車用等に、成形加工後に塗装されていたポストコート金属板に代わって、着色した有機皮膜を被覆した塗装金属板(プレコート金属板)が使用されるようになってきた。塗装金属板は、多くの場合、金属自体(めっき金属板の場合はめっき皮膜)とその上層の化成処理、更にその上層のプライマー皮膜の複合効果によって、優れた耐食性と共に加工性、塗料密着性を有し、更に、多くの場合、最表面層に着色した有機皮膜が設けられているため、加工後塗装を省略でき、高い生産性と美麗な外観が得られる。
【0003】
塗装金属板をプレス成形した場合、金属板上に被覆されている皮膜層も成形されるため、皮膜の加工性も要求される。そのため、皮膜層は樹脂をベースとしたものが一般的であり、塗装金属板の被覆皮膜は、通常、絶縁性である。
【0004】
しかしながら、塗装金属板には、部品組み立て時の通電溶接性に対するニーズや、家電、OA機器筺体に用いた場合のアース性や電磁波シールド性等の高導電化ニーズが生まれている。このような皮膜への導電性付与という課題に対し、導電性粒子を含む皮膜を金属板に被覆することにより、導電性を付与する技術が提案されている。
【0005】
これらのうち、導電性の金属粒子を用いる技術としては、例えば、特許文献1には、アルミニウムまたはアルミニウム合金基材表面に、基材の耐食性や基材との密着性を強化するクロメート皮膜を介し、アルミニウムまたはアルミニウム合金粉末を含む樹脂皮膜を被覆することによって、優れた耐食性と導電性を両立する家電製品シャーシ部材用のプレコートアルミニウムまたはアルミニウム合金材の技術が提案されている。前記樹脂皮膜に使用するアルミニウムまたはアルミニウム合金粉末の量は、前記樹脂100重量部に対して10乃至50重量部であることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、亜鉛粉末を含む樹脂系導電性塗膜を有する合金化亜鉛めっき鋼板の技術が提案されており、亜鉛粉末が塗膜中に30〜90質量%含まれるのが好ましく、塗膜厚は2〜30μmが好ましいとされている。
【0007】
特許文献3には、2〜50質量%の金属粉、1〜50質量%の水、及び0.5〜30質量%の界面活性剤を必須成分とする膜厚5μm以下の樹脂皮膜で被覆することで金属板の導電性を高める技術が提案されている。金属粉としてはニッケル粉が好適で、塗装用塗料は水系が好ましいとされている。
【0008】
また、皮膜に導電性を付与する技術のうち、金属粒子以外の導電性粒子を用いることができる技術としては、例えば、特許文献4に、クロム化合物を主体とする防錆処理層の上に、3〜59体積%の導電性粉末を含む、0.5〜20μm厚の有機樹脂塗膜を持つ有機複合めっき鋼板の技術が開示されている。特許文献5には、3〜59体積%の導電性材料を含む樹脂系皮膜を持つ有機被覆めっき鋼板の技術が提案されており、導電性材料としては、種々の金属やそれらの合金、リン化鉄やフェロシリコン等の鉄化合物、等が例示されている。特許文献6には、任意の導電性金属酸化物を含む0.5〜3μm厚の塗膜を持つ導電性プレコート金属板の技術が開示されており、導電性金属酸化物として、粒径5.0μm以下、平均2μmの酸化亜鉛を樹脂100質量部に対し40〜50質量部含むのが望ましいとされている。特許文献7には、金属表面で硬化後、導電性で溶接可能な耐食性皮膜を形成できる金属表面塗装剤として、特定の有機バインダー10〜30質量%と導電性物質粉末30〜60質量%を含む水系塗装剤が提案されており、本塗装剤の調製に好適な導電性物質粉末の例として、亜鉛、アルミニウム、グラファイト、カーボンブラック、硫化モリブデン、リン化鉄が挙げられている。特許文献8には、亜鉛系めっき鋼板やアルミニウム系めっき鋼板表面に、めっきとの密着性を強化する第一層皮膜を介し、防錆添加剤と導電性顔料を含む樹脂系第二層皮膜を被覆することによって、優れた耐食性と溶接性を両立させる自動車用有機被覆鋼板の技術が提案されており、導電性顔料は皮膜中に5〜70体積%含まれ、膜厚は1〜30μmである。好適な導電性顔料として、金属、合金、導電性炭素、リン化鉄、炭化物、半導体酸化物が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-212764号公報
【特許文献2】特開昭55−17508号公報
【特許文献3】特開2004-17455号公報
【特許文献4】特開平9−276788号公報
【特許文献5】特開平11-138095号公報
【特許文献6】特開平7−313930号公報
【特許文献7】特表2003-513141号公報
【特許文献8】特開2005-288730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
プレコート金属板に用いられる塗装は、耐食性や耐久性等の性能を十分に発揮させるため、10μm以上の厚い塗装膜厚が一般的である。その上、大量の有機溶剤系塗料を使用するため、インシネレーターや臭気対策設備等の専用の塗装設備が必要であり、塗装専用ラインで製造されることが一般的である。すなわち、塗装の原板となる金属板の製造工程に加え更に塗装工程を通るため、塗装に要する材料費の他にも多くの費用がかかる。従って、得られるプレコート金属板は高価なものになる。現在、ユーザーニーズの多様化により、屋内家電部材や内装建材等、屋内での日常使用条件で耐久性や美観を維持できれば十分に目的を達する分野での塗装金属板のニーズが生じており、より低価格の製品が求められているが、従来の高価なプレコート金属板では、このような多様化したニーズに応えるのが困難である。
【0011】
そこで、従来のプレコート金属板よりも安価な塗装金属板を製造するためには、その塗膜を形成するための塗装用組成物が水系塗料であること、従来のプレコート金属板よりも薄膜で耐食性を担保すること、が特に重要である。水系塗料であることにより、専用の塗装設備での製造が不要になるため、余分な塗装工程費を削減することが可能になる。また、薄膜であることにより、塗装に要する材料費を削減できるだけでなく、水系塗料を厚膜で塗装した際に生じやすいワキと呼ばれる塗膜欠陥の発生を抑制することができ、生産性を高めることもできる。ここで、水系塗装用組成物、水系塗料とは、水が溶媒の主成分であり、かつ労働安全衛生法施行令(有機溶剤中毒予防規則第一章第一条)で定義される有機溶剤等(第1種有機溶剤、第2種有機溶剤、第3種有機溶剤、または、前記有機溶剤を5質量%を超えて含有するもの)には該当しない塗装用組成物、塗料を意味する。
【0012】
また、[背景技術]の項で述べたように、塗装金属板(プレコート金属板)には、部品組み立て時の通電溶接性に対するニーズや、家電、OA機器部材に用いた場合のアース性等の高導電化ニーズが生まれており、このような傾向は、屋内家電や内装建材向けの安価な塗装金属板にも当てはまる。ところが、このような課題の解決を目論み、特許文献1や特許文献4のような技術を用いた場合、所望の耐食性や導電性を発現させるために、クロメート皮膜やクロム化合物含有防錆処理層を下地としなければならず、6価クロムの有害性や環境負荷性を避ける現在のニーズにマッチしない。
【0013】
また、特許文献2のように導電性粒子として亜鉛粉末を用いた場合や、特許文献4において、導電性粒子としてFe-Si合金、Fe-Co合金、Fe-Mn合金等の鉄系合金を用いた場合、また、特許文献7において亜鉛、アルミニウム粉末を用いた場合、それらを塗膜中に含むめっき鋼板を屋内外の通常の湿潤環境下で使用すると、亜鉛粉末や合金の表面に錆層や厚い酸化絶縁層が生じ、粉末と樹脂との界面が剥離したり、塗膜の導電性が失われていく難点があった。
【0014】
特許文献3でもニッケル粉の使用が推奨されている。ニッケルは比較的耐水劣化性に優れるため、それらを塗膜中に含む金属板を屋内外の通常の湿潤環境下で使用しても、塗膜の導電性はある程度保持される。ただし、ニッケル資源は海外への依存度が高く、生産国の情勢変化や寡占化等により、今後、長期にわたり安定、安価に入手できなくなるリスクがある。また、ニッケルは、比重が8.85で導電粒子としては比較的重質のため、ロールコーターやカーテンコーター等で塗料を金属板に塗布して量産する際、塗料中のニッケル粒子が速く沈降し、塗膜中に入りにくく、所望の導電性が得られない場合が多かった。更に、特許文献3では水系塗料の使用が推奨されているが、ニッケル粒子を含む水系塗料を用いた場合、数週間程度の保管で粒子の表層が酸化して青緑色の酸化ニッケル(II)(NiO)が生成して水中に遊離し、塗料を汚染する難点があった。
【0015】
また、特許文献7では水系の塗装用塗料を用いるため、導電性粒子として亜鉛、アルミニウムを用いた場合、特許文献3の場合と同様に、水系塗料や皮膜中に共存する水により金属粉表面に錆層が生じ、導電性が劣化する欠点があった。
【0016】
このように、従来の技術では、クロメート下地を併用せずに十分な導電性と耐食性とを両立させた塗装金属板を得るのが容易でない(特許文献1、4)、導電性粒子としてニッケル粒子を用いると、ニッケルの高比重に起因する沈降し易さや、不安定な価格等のため工業的に適用しにくい(特許文献3)、塗装金属板の耐食性を保持し、かつ着色顔料で所望の色合いに着色できるよう導電性粒子の添加量を抑えた塗装金属板を得ることができない(特許文献4〜8)、また、水分により表面酸化膜が発生しやすい卑な金属の粒子を選んだ場合、水系塗料を用いると塗料中の金属粉表面に錆層が生じ、導電性が劣化する(特許文献3、7)、塗装後の鋼板の使用中に酸化絶縁層や錆層が生じ十分な導電性が得られない(特許文献2、4、7)、などの種々の課題があった。
【0017】
以上述べたように、屋内の比較的マイルドな環境での使用を前提とするクロメートフリー塗装金属板であっても、導電性、より具体的には、部品組み立て時の通電溶接性や家電、OA機器部材に用いた場合のアース性と、耐食性や意匠性との両立が求められており、このような塗装金属板を安価に提供するには、水系塗料を用い、かつ、水系塗料中や塗装金属板の使用中にて安定で、かつ良好な分散性が保たれた導電性粒子の少量添加で、所望の導電性、耐食性、着色顔料による着色性を兼ね備える必要があった。
【0018】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、水中や湿潤雰囲気中で経時後も導電性が劣化しない耐水劣化性の少量の金属顔料を含む、水系塗装用組成物の塗布により形成された皮膜で表面の少なくとも一部が被覆された、クロメートフリー導電性、耐食性塗装金属板に関する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記のような目的を達成するため鋭意研究を行った結果、水系塗料においても導電性が劣化しない優れた耐水劣化性を有し、かつ工業的に比較的安価に入手できる、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある金属粒子を有機樹脂に少量含む皮膜を、該金属粒子含む水系塗料の塗布により金属表面に形成すれば、導電性、耐食性、共存する着色顔料による着色性の全てに優れる導電性、耐食性塗装金属板が得られることを見出した。
【0020】
本発明は、以上の知見をもとに完成されたものであって、具体的には、以下の通りである。
【0021】
(1)金属板の少なくとも片面に、有機樹脂(A)と、25℃の水溶液における標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある金属粒子(B)とを含む塗膜(α)が水系塗装用組成物(β)の塗布により形成されており、前記塗膜(α)中の有機樹脂(A)と金属粒子(B)の25℃での体積比が90:10〜99.9:0.1であり、前記有機樹脂(A)が、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む樹脂(A1)、または更に該樹脂(A1)の誘導体(A2)を含むことを特徴とする、導電性、耐食性塗装金属板。
【0022】
(2)前記金属粒子(B)の25℃の水溶液における標準電極電位が−0.2〜+0.8Vの範囲にあることを特徴とする、前記(1)に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
(3)前記塗膜(α)の膜厚が2〜10μmであることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【0023】
(4)前記樹脂(A1)または該樹脂(A1)の誘導体(A2)が、更にエステル基、ウレタン基、ウレア基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含むことを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の導電性、耐食性塗装金属板。
(5)前記樹脂(A1)が構造中にウレア基を含むポリウレタン樹脂(A1u)であることを特徴とする、前記(4)に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
(6)前記樹脂(A1)が構造中にウレア基を含むポリウレタン樹脂(A1u)とカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を含み、構造中にスルホン酸基を含むポリエステル樹脂(A1e)の混合樹脂であることを特徴とする、前記(5)に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
(7)前記樹脂(A1)の誘導体(A2)が、下記一般式(I):
【化1】

(式中、「A1」の表記は樹脂(A1)を示し、「Z−」は炭素原子数1〜9、窒素原子数0〜2、酸素原子数0〜2の炭化水素鎖で、「A1〜Z」の表記は、「A1」と「Z」が両者の官能基を介して共有結合していることを示す。また、「−O−」はエーテル結合であり、「−OH」は水酸基であり、「−X」は炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基、加水分解性ハロゲノ基または加水分解性アセトキシ基であり、「−R」は炭素原子数1〜3のアルキル基であり、置換基の数を示すa、b、c、dはいずれも0〜3の整数で、かつa+b+c+d=3である。)
で表される樹脂(A2Si)であることを特徴とする、前記(1)〜(6)に記載のいずれか1つに記載の導電性、耐食性塗装金属板。
(8)前記有機樹脂(A)が硬化剤(C)で硬化された樹脂であることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の導電性、耐食性塗装金属板。
(9)前記硬化剤(C)がメラミン樹脂(C1)を含有することを特徴とする、前記(8)に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【0024】
(10)前記金属粒子(B)が、Mo、Sn、W、Bi、CuまたはAgの単体、または、これらから選ばれる2種以上の混合物、または、これらから選ばれる1種以上を含む合金であることを特徴とする、前記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【0025】
(11)前記合金が、Cu-Ni系合金、Cu-Ni-Zn系合金、Cu-Sn系合金、Cu-Sn-P系合金、Cu-Al系合金、Cu-Zn系合金、Cu-Au系合金の単体、または、これらから選ばれる2種以上のCu系合金の混合物であることを特徴とする、前記(10)に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
(12)有機樹脂(A)と、25℃の水溶液における標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある金属粒子(B)とを含み、前記有機樹脂(A)と金属粒子(B)の不揮発分体積比が90:10〜99.9:0.1であり、前記有機樹脂(A)が、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む樹脂(A1)を含むことを特徴とする水系塗装用組成物。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、塗膜に少量の導電性材料を添加するだけで、十分なアース性や溶接性を発現する塗膜導電性と優れた耐食性を有し、かつ、本発明の塗膜を得るための水系塗装用組成物に予め着色粒子を添加することで容易に所望の色合いに着色できる塗装金属板を提供することができる。本発明の塗膜を得るための塗装用組成物は全てクロメートフリー、水系のため、低環境負荷性で、かつ、有機溶剤系塗料を用いる場合には必要不可欠なインシネレーターや臭気対策設備、防爆化への設備投資等が不要である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
<金属板>
本発明の塗装金属板は、特定の導電性塗膜で表面の少なくとも一部が被覆された金属板で、用途に応じ、金属板の両面が塗膜で被覆されていても、片面のみが被覆されていてもよく、また、表面の一部が被覆されていても、全面が被覆されていてもよい。金属板の塗膜で被覆された部位の導電性、耐食性が優れるものである。
【0028】
本発明の塗装金属板に用いることができる金属板の構成金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、亜鉛、銅、ニッケル、そして鋼等が適用可能である。これらの金属の成分は特に限定せず、例えば、鋼を使用する場合には、普通鋼であっても、クロム等の添加元素含有鋼であってもよい。ただし、本発明の金属板を強しごき加工や深絞り加工用途に用いる場合は、いずれの金属の場合も、強しごき加工や深絞り加工に適するように、添加元素の種類と添加量、及び金属組織を適正に制御したものが好ましい。また、金属板として鋼板を使用する場合、その表面には被覆めっき層があってもよいが、その種類は特に限定されず、適用可能なめっき層としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケルのうちのいずれか1種からなるめっき、及び、これらの金属元素やさらに他の金属元素、非金属元素を含む合金めっき等が挙げられる。特に、亜鉛系めっき層としては、例えば、亜鉛からなるめっき、亜鉛と、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケル、鉄、クロム、チタン、マグネシウム、マンガンの少なくとも1種との合金めっき、又は、さらに他の金属元素、非金属元素を含む種々の亜鉛系合金めっき(例えば、亜鉛と、アルミニウム、マグネシウム、シリコンの4元合金めっき)が挙げられるが、亜鉛以外の合金成分を特に限定しない。さらには、これらのめっき層に少量の異種金属元素または不純物としてコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものが含まれる。
【0029】
アルミニウム系めっき層としては、アルミニウム、またはアルミニウムとシリコン、亜鉛、マグネシウムの少なくとも1種との合金めっき(例えば、アルミニウムとシリコンの合金めっき、アルミニウムと亜鉛の合金めっき、アルミニウム、シリコン、マグネシウムの3元合金めっき)等が挙げられる。
【0030】
更に、前記めっきと他の種類のめっき、例えば鉄めっき、鉄とリンの合金めっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等と組み合わせた複層めっきも適用可能である。
【0031】
めっき層の形成方法も特に限定せず、例えば、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、蒸着めっき、分散めっき等を用いることができる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよい。また、鋼板を使用する場合、めっき後の処理として、溶融めっき後の外観均一処理であるゼロスパングル処理、めっき層の改質処理である焼鈍処理、表面状態や材質調整のための調質圧延等があり得るが、本発明においては特にこれらを限定せず、いずれを適用することも可能である。
【0032】
<塗膜(α)>
本発明の金属板を被覆する塗膜(α)は、金属板の少なくとも片面に形成され、有機樹脂(A)と、25℃の水溶液における標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある金属粒子(B)とを含んでいる。
【0033】
前記塗膜は、水系塗装用組成物の塗布により工業的に製造できるものであれば、金属板表面への製膜方法、硬化方法を限定しない。金属板への製膜方法としては、例えば、ロールコート、グルーブロールコート、カーテンフローコート、ローラーカーテンコート、浸漬(ディップ)、エアナイフ絞り等の公知の塗装方法で金属板上に水系塗装用組成物を塗布し、その後、ウェット塗膜の水分を乾燥する方法が好ましい。これらの乾燥塗膜の硬化方法としては、塗膜中の有機樹脂の加熱焼付による重合、硬化が好ましいが、塗膜中の樹脂が紫外線で重合可能であれば、紫外線照射による重合、硬化、塗膜中の樹脂が電子線で重合可能であれば、電子線照射による重合、硬化によってもよい。
【0034】
前記塗膜(α)の金属板への密着性や耐食性等を更に改善する目的で、該塗膜と金属板表面の間にクロメートフリーの下地皮膜を設けてもよい。下地皮膜を設ける場合は、その層数、組成を限定しないが、金属板を加工する際の皮膜の加工追従性や耐食性を損なわないよう、金属板と上層皮膜への密着性に優れる必要がある。また、皮膜厚方向の十分な導電性を確保するため、下地皮膜厚を0.5μm以下とするのが好ましい。
【0035】
下地皮膜を設ける場合、工業的に適用できる製膜方法であれば、下地皮膜の製膜方法を限定しない。塗装用組成物の塗装、蒸着、フィルム貼付等の方法を例示できるが、製膜コスト(生産性)、及び、製膜時の安全性、低環境負荷性等の観点から、水系塗装用組成物の塗装、乾燥による方法が好ましい。水系塗装用組成物を用いる場合、下地層から最表面層まで1層ずつ塗り重ねと乾燥を繰返すこと(逐次塗装法)により複層皮膜を形成してもよいが、簡便にかつ効率的に塗膜を金属板表面に形成する方法として、金属板表面に接する最下層から最表層までの各層の皮膜を、含水(ウェット)状態で、順次または同時に複層被覆する工程(水系塗装用組成物のウェット・オン・ウェット塗装または多層同時塗装工程)、含水状態の各層皮膜の水分や揮発分を同時に乾燥させる乾燥工程、前記複層皮膜を硬化する成膜工程をこの順序で含む積層方法で成膜してもよい。ここで、ウェット・オン・ウェット塗装法とは、金属板上に塗液を塗布後、この塗液が乾燥する前の含溶媒(ウェット)状態のうちに、その上に他の塗液を塗布し、得られる積層塗液の溶媒を同時に乾燥、硬化させ、製膜する方法である。また、多層同時塗装法とは、多層スライド式カーテンコーダーやスロットダイコーター等により、複数層の塗液を積層状態で同時に金属板上に塗布後、積層塗液の溶媒を同時に乾燥、硬化させ製膜する方法である。
【0036】
本発明の金属板を被覆する塗膜(α)は、後述する有機樹脂(A)と耐水劣化性の金属粒子(B)を含むが、塗膜(α)中の有機樹脂(A)と金属粒子(B)の25℃での体積比が90.0:10.0〜99.9:0.1であり、95:5〜99.9:0.1であるのが好ましく、塗膜の着色自由度や耐食性確保の観点から97:3〜99.7:0.3であるのがより好ましい。更に、99:1〜99.9:0.1の範囲が、より高い着色自由度や耐食性確保の観点から好ましい。
【0037】
本発明の導電性、耐食性塗装金属板において、塗膜(α)中に耐水劣化性の金属粒子(B)を添加する量は、非常に少量である。これは、従来技術の導電性塗膜中の導電性材料の量と比較して、非常に少量である。例えば、特許文献4、5では導電性塗膜中の導電性粒子の量は塗膜の3〜59体積%とされている。特許文献7では、導電性で溶接可能な耐食性皮膜を形成できる金属表面塗装剤中に、導電性物質粉末30〜60質量%を含むことが記載されている。特許文献8では導電性の第二層皮膜中の導電性粒子の量は皮膜の5〜70体積%とされている。特許文献9では、導電性の表面処理層に導電材を、10〜90体積%含むことが記載されている。本発明の塗膜(α)が、金属粒子(B)が有機樹脂(A)に対して10.0%以下でも良好な導電性が得られている理由は、塗膜(α)中で、金属粒子(B)が、凝集することなく、十分に分散されており、所望の径の金属粒子が、塗膜の面方向(厚み方向をZ軸としたときに、X−Y軸方向)に均一に並んで、塗膜面全体にわたって、下にある金属板への電気導通路を形成するからであると考えられる。金属粒子が塗膜内で凝集していると、この電気導通路が形成されにくく、導通路を確保するためには、さらに多くの金属粒子を添加しなければならない。多量の金属粒子の添加は、結果として、塗膜外観が金属粒子の色(多くの場合、黒灰色、濃灰色、灰色、こげ茶色等)に支配され、着色顔料等の着色剤を加えても、所望の色合いや光沢を持つカラー塗膜を得ることができないという欠点を生じる。また、塗膜下の金属面が美しく透けて見えるクリア塗膜を得ることは、不可能であり、そのため、従来では、美麗なカラー塗膜あるいはクリア塗膜として塗装金属板の最表面層に用いることができなかった。本発明の導電性、耐食性塗装金属板では、このような問題は全く生じない。
【0038】
(A)と(B)との総量に対する(B)の体積比が10体積%を超えると、導電性は高まるが、添加量が多すぎて塗膜外観が金属粒子の色に支配され、着色顔料を加えても所望の色合いに着色できないため、10体積%以下である必要がある。また、10体積%を超えると、塗膜中に分散する金属粒子の量が多くなるため、却って通電点が増えて腐食電流が流れやすくなり、耐食性が不十分になるおそれがある。なお、塗膜の5〜10体積%の金属粒子添加でも耐食性がやや不十分となることがあり、また、塗膜外観がその粒子自体の色に支配され、着色顔料を加えても所望の色合いに着色しにくい(塗膜着色自由度にやや劣る)傾向もあるため、(B)の体積比は5体積%以下の添加が好ましい。更に、塗膜の3〜5体積%の金属粒子添加でも、粒子が濃色であれば塗膜外観がその粒子自体の色に支配されることがあり、着色顔料を加えても所望の色合いに着色しにくい傾向があるため、3体積%以下の添加がより好ましい。更に高い塗膜着色自由度や耐食性を確保するには、1体積%以下の少量添加が特に好ましい。
【0039】
一方、(A)と(B)との総量に対する(B)の体積比が0.1体積%未満の場合、塗膜中に分散する金属粒子の量が僅少で、塗膜に十分な導電性を付与できない。
【0040】
本発明の金属板を被覆する塗膜(α)の厚は、2〜10μm厚の範囲が好ましく、2.5〜6μm厚の範囲がより好ましい。2μm未満では、塗膜が薄すぎて、十分な耐食性が得られないだけでなく、着色顔料による着色性や隠蔽性が得られないことがある。また、10μmを超えると、使用する水系塗装用組成物の量が増えて製造コスト高になるばかりか、ワキ等の塗膜欠陥が発生することがあり、工業製品として必要な外観を安定して得ることが容易でない。
【0041】
前記塗膜(α)の厚は、塗膜の断面観察等により測定できる。その他に、金属板の単位面積に付着した塗膜の質量を、塗膜の比重、または塗装用組成物の乾燥後比重で除算して算出してもよい。塗膜の付着質量は、塗装前後の質量差を求める、塗装後の塗膜の剥離前後の質量差を求める、または、塗膜を蛍光X線分析して予め塗膜中の含有量が分かっている元素の存在量を測定する等、既存の手法から適切に選択して算出すればよい。塗膜の比重又は塗装用組成物の乾燥後比重は、単離した塗膜の容積と質量を測定する、適量の塗装用組成物を容器に取り乾燥させた後の容積と質量を測定する、または、塗膜構成成分の配合量と各成分の既知の比重から計算する等、既存の手法から適切に選択して算出すればよい。
【0042】
<有機樹脂(A)>
本発明の有機樹脂(A)は、塗膜(α)のバインダー成分であり、後述する樹脂(A1)、または更に樹脂(A1)の反応誘導体(A2)を包含したものからなる。
【0043】
本発明で塗膜(α)を形成するために用いる水系塗装用組成物(β)は、後述する樹脂(A1)を不揮発分の50〜100質量%含む。樹脂(A1)は、水系塗装用組成物(β)中で安定に存在している。このような水系塗装用組成物(β)を金属板に塗布、加熱乾燥すると、樹脂(A1)が反応せずそのまま乾燥するか、あるいは、樹脂(A1)の少なくとも一部が、前記水系塗装用組成物(β)中にシランカップリング剤、硬化剤、架橋剤等を含む場合は、それらと反応して樹脂(A1)の誘導体(A2)を形成する。従って、この場合、未反応の樹脂(A1)と樹脂(A1)の反応誘導体(A2)を包含したものが、塗膜(α)のバインダー成分である有機樹脂(A)となる。
【0044】
前記樹脂(A1)の種類としては特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、又はそれらの変性体等を挙げることができる。これらの1種または2種以上を混合して前記樹脂(A1)として用いてもよいし、少なくとも1種の有機樹脂を変性することによって得られる有機樹脂を1種または2種以上混合して前記樹脂(A1)として用いてもよい。このように、本発明にて樹脂(A1)の種類を特に限定しなくてよい理由は、塗膜(α)中の金属粒子(B)の存在量が少なく、金属板の使用環境にて塗膜中の金属粒子を介して流れる腐食電流も少ないため、塗膜を導電化しても塗膜のバインダー成分を特殊な耐食性樹脂とする必要がないからである。通常の使用環境下では塗膜(α)中に水分が存在するが、そのような場合でも高い導電能を保持する耐水劣化性の金属粒子を用いているため、塗膜中での存在量が少なくても、アース性や溶接性は確保できる。
【0045】
前記樹脂(A1)は、既に述べたように、水系塗装用組成物(β)中で安定に存在するものであれば、その種類に特に制限はないが、その構造中にカルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む樹脂である必要がある。詳細については後述するが、塗膜(α)中の前記有機樹脂(A)は、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む樹脂、または更に該樹脂の誘導体を含む。なお、本発明において塗膜(α)を得るための水系塗装用組成物(β)に用いられる樹脂は、水に完全溶解する水溶性樹脂、及び、エマルションやサスペンジョン等の形態で水中に均一に微分散している樹脂(水分散性樹脂)を含める。またここで、「(メタ)アクリル樹脂」とはアクリル樹脂とメタクリル樹脂を意味する。
【0046】
前記樹脂(A1)のうち、ポリエステル樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノール-A、ダイマージオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリオールと、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、アゼライン酸、コハク酸、無水コハク酸、乳酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、無水エンド酸等の多価カルボン酸とを脱水重縮合させ、アンモニアやアミン化合物等で中和し、水系化したもの等を挙げることができる。
【0047】
前記樹脂(A1)のうち、ポリウレタン樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させ、その後に更に鎖伸長剤によって鎖伸長して得られるもの等を挙げることができる。前記ポリオール化合物としては、1分子当たり2個以上の水酸基を含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ビスフェノールヒドロキシプロピルエーテル等のポリエーテルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリウレタンポリオール、又はそれらの混合物が挙げられる。前記ポリイソシアネート化合物としては、1分子当たり2個以上のイソシアネート基を含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香脂肪族ジイソシアネート、またはそれらの混合物が挙げられる。前記鎖伸長剤としては、分子内に1個以上の活性水素を含有する化合物であれば特に限定されず、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミンや、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミンや、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミンや、ヒドラジン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン類や、ヒドロキシエチルジエチレントリアミン、2−[(2−アミノエチル)アミノ]エタノール、3−アミノプロパンジオール等のアルカノールアミン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で、又は2種類以上の混合物で使用することができる。
【0048】
前記樹脂(A1)のうち、(メタ)アクリル樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシシラン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルを、(メタ)アクリル酸と共に水中で重合開始剤を用いてラジカル重合することにより得られるものを挙げることができる。前記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。ここで、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートとメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸とメタクリル酸を意味する。
【0049】
前記樹脂(A1)のうち、エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂をジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物と反応させ、有機酸又は無機酸で中和、水系化したものや、前記エポキシ樹脂の存在下で、高酸価アクリル樹脂をラジカル重合した後、アンモニアやアミン化合物等で中和し水系化したもの等を挙げることができる。
【0050】
前記樹脂(A1)のうち、フェノール樹脂としては、特に限定されず、例えば、フェノール、レゾルシン、クレゾール、ビスフェノールA、パラキシリレンジメチルエーテル等の芳香族化合物とホルムアルデヒドとを反応触媒の存在下で付加反応させたメチロール化フェノール樹脂等のフェノール樹脂を、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等のアミン化合物類と反応させ、有機酸又は無機酸で中和し水系化したもの等を挙げることができる。
【0051】
前記樹脂(A1)のうち、ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレンとメタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸類とを高温高圧下でラジカル重合したのち、アンモニアやアミン化合物、KOH、NaOH、LiOH等の塩基性金属化合物あるいは前記金属化合物を含有するアンモニアやアミン化合物等で中和し、水系化したもの等を挙げることができる。
【0052】
前記樹脂(A1)は、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。また、前記水系塗装用組成物(β)の主成分として、少なくとも1種の樹脂(A1)の存在下で、少なくとも1種のその他の樹脂(A1)を変性することによって得られる水系複合樹脂の1種又は2種以上を総括して樹脂(A1)として用いてもよい。
【0053】
更に、必要に応じ、前記樹脂(A1)を含む水系塗装用組成物(β)を調合する際、以下に詳細に述べるが、前記樹脂(A1)の硬化剤や架橋剤を添加しても良いし、樹脂構造中に架橋剤を導入してもよい。前記架橋剤としては特に限定されず、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート、エポキシ化合物、カルボジイミド基含有化合物等からなる群から選択される少なくとも1種の架橋剤が挙げられる。これらの架橋剤を配合することで、塗膜(α)の架橋密度や金属表面への密着性を高めることができ、耐食性や、加工時の塗膜追従性が向上する。これらの架橋剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記アミノ樹脂としては、特に限定されず、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、グリコールウリル樹脂等を挙げることができる。
【0055】
前記ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、ブロック化ポリイソシアネートは、前記ポリイソシアネート化合物のブロック化物である。
【0056】
前記エポキシ化合物は、3員環の環状エーテル基であるエポキシ基(オキシラン環)を複数有する化合物であれば特に限定されず、例えば、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ソルビタンポリグルシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、2,2−ビス−(4’−グリシジルオキシフェニル)プロパン、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらのエポキシ化合物の多くは、エポキシ基に1基の−CH2−が付加したグリシジル基を持つため、化合物名の中に「グリシジル」という語を含む。
【0057】
前記カルボジイミド基含有化合物としては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成した後、更にイソシアネート基との反応性を有する官能基を持つ親水系セグメントを付加した化合物等を挙げることができる。
【0058】
これらの架橋剤の量は、塗膜(α)を形成するための樹脂(A1)100質量部に対して1〜40質量部が好ましい。1質量部未満の場合、量が不十分で添加効果が得られない可能性があり、40質量部を超える量では過剰硬化で塗膜が脆くなり、耐食性や加工密着性が低下する可能性がある。
【0059】
既に述べたように、本発明では塗膜(α)中の金属粒子(B)の存在量が少ないため、金属板の使用環境にて、塗膜中の金属粒子を介して流れる腐食電流が少なく、塗膜の導電化に伴い、塗膜構成樹脂を特定の高耐食性樹脂とする必要が特にない。しかしながら、塗膜の耐食性を高めて本発明の塗装金属板の適用範囲を広げるため、前記有機樹脂(A)は、前記樹脂(A1)と、または更にその誘導体で下記一般式(I)に示す樹脂(A2Si)を合計で前記有機樹脂(A)の50〜100質量%含有するのが特に好ましい。
【0060】
【化2】

【0061】
(式中、「A1」の表記は樹脂(A1)を示し、「Z−」は炭素原子数1〜9、窒素原子数0〜2、酸素原子数0〜2の炭化水素鎖で、「A1〜Z」の表記は、「A1」と「Z」が両者の官能基を介して共有結合していることを示す。また、「−O−」はエーテル結合であり、「−OH」は水酸基であり、「−X」は炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基、加水分解性ハロゲノ基又は加水分解性アセトキシ基であり、「−R」は炭素原子数1〜3のアルキル基であり、置換基の数を示すa、b、c、dはいずれも0〜3の整数で、かつa+b+c+d=3である。)
【0062】
既に述べたように、本発明の塗膜(α)の形成に用いる水系塗装用組成物(β)は、樹脂(A1)を不揮発分の50〜100質量%含む。前記水系塗装用組成物(β)に含まれる樹脂(A1)以外の不揮発成分は、後に詳述するような、シランカップリング剤(s)、硬化剤(C)、架橋剤や、ポリフェノール化合物、リン酸及びヘキサフルオロ金属酸、リン酸塩化合物、金属酸化物微粒子等の種々の防錆剤等である。製膜後の塗膜(α)におけるこれらの化合物の含有量には、後述するように、前記樹脂(A1)と(A2Si)の合計質量に対し好ましい範囲があるため、これらの化合物を含む水系塗装用組成物(β)を調合する際、製膜後の塗膜(α)中でこれらが好ましい含有量範囲に収まるように配合量を調節する。
【0063】
本発明にて有機樹脂(A)に含まれる樹脂(A2Si)は、例えば、樹脂(A1)とシランカップリング剤(s)を含む水系塗装用組成物(β)を、本発明で用いる金属板に塗布、乾燥することにより得られる。一般に、シランカップリング剤は、水酸基などの官能基を持つ金属表面や、多くの官能性有機樹脂に化学結合できるため、金属表面、官能性有機樹脂、シランカップリング剤の共存下で、金属表面と官能性有機樹脂の架橋や、官能性有機樹脂どうしの分子間あるいは分子内架橋が可能である。本発明においては、前記樹脂(A1)とシランカップリング剤(s)を含む水系塗装用組成物(β)を金属板に塗布、乾燥することにより、前記樹脂(A1)の官能基の少なくとも一部と、金属表面の官能基の少なくとも一部がそれぞれシランカップリング剤(s)と反応し、樹脂(A2Si)が生成する。前記一般式(I)に示す樹脂(A2Si)の−O−(エーテル結合)または−OH(水酸基)の少なくとも一部は、金属表面と結合している。前記塗膜(α)と金属板表面の間に下地皮膜を設ける場合は、前記一般式(I)に示す樹脂(A2Si)の−O−(エーテル結合)または−OH(水酸基)の少なくとも一部が、下地皮膜面と結合している。前記エーテル結合と金属表面との結合、及び、前記エーテル結合と下地皮膜構成成分との結合は共有結合であり、前記水酸基と金属表面との結合、及び、前記水酸基と下地皮膜構成成分との結合は、多くの場合、水素結合または配位結合である。このような、皮膜構成樹脂と金属表面との化学結合、あるいは、上層皮膜構成樹脂と下地皮膜との化学結合により、両者の密着性が高まり、金属板の加工変形時に皮膜が優れた加工追従性を示すため、加工部の外観を損なわず、かつ、加工部の耐食性が向上する。
【0064】
前記シランカップリング剤(s)を含む水系塗装用組成物(β)の塗布、乾燥で得られる塗膜(α)と金属板表面の間に、更に下地皮膜を設ける場合、既に述べたように、下地層から最表層まで1層ずつ塗り重ねと乾燥を繰返す逐次塗装法により複層皮膜を形成してもよいが、簡便にかつ効率的に皮膜を金属板表面に形成する方法として、前記のウェット・オン・ウェット塗装法や多層同時塗装法を用いることもできる。これらの方法では、最下層から最表層までの積層状態を含水(ウェット)状態で金属板上に一旦形成するが、そのような含水状態では、最表層に含まれるシランカップリング剤(s)の移動度が高いため、シランカップリング剤(s)の少なくとも一部が、その直下の下地層に含まれる官能性化合物とも効率的に反応する。これらの化学結合(層間架橋の促進)により、最表層と下地層の密着性が逐次塗装法の場合より高まる傾向があり、金属板の加工変形時の皮膜追従性や、加工部の耐食性が逐次塗装法で製膜した場合より向上することがある。
【0065】
本発明にて、樹脂(A2Si)を形成するために用いるシランカップリング剤(s)は、一般式Y−Z−SiXm3-mで示される分子構造を持つシランカップリング剤から選ばれる1種又は2種以上である。前記分子構造中の各官能基のうち、主として金属表面や他のシランカップリング剤との反応点となる−X基は、炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基、または、加水分解性ハロゲノ基(フルオロ基(−F)、クロロ基(−Cl)、ブロモ基(−Br)など)、又は、加水分解性アセトキシ基(−O−CO−CH3)である。これらのうち、炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基が、アルコキシ基の炭素原子数を変えることにより加水分解性を調整しやすいため好ましく、メトキシ基(−OCH3)又はエトキシ基(−OCH2CH3)が特に好ましい。−X基が前記以外の官能基のシランカップリング剤は、−X基の加水分解性が低いか、または加水分解性が高すぎるため、本発明では望ましくない。
【0066】
前記分子構造中の−R基は、炭素原子数1〜3のアルキル基である。−R基がメチル基又はエチル基の場合、嵩高いn-プロピル基やイソプロピル基に比べ、水系塗装用組成物中で前記−X基への水分子の接近を妨げず、−X基が比較的容易に加水分解するため好ましく、中でもメチル基が特に好ましい。−R基が前記以外の官能基であるシランカップリング剤は、−X基の加水分解性が極端に低いか、または反応性が高すぎるため、本発明では望ましくない。
【0067】
前記分子構造にて、置換基の数を示すmは1〜3の整数である。加水分解性の−X基が多いほど金属表面との反応点が多いため、置換基の数を示すmは、2又は3が好ましい。
【0068】
前記シランカップリング剤(s)の分子構造中の−Z−は、炭素原子数1〜9、窒素原子数0〜2、酸素原子数0〜2の炭化水素鎖である。これらのうち、炭素原子数2〜5、窒素原子数0又は1、酸素原子数0又は1の炭化水素鎖が、シランカップリング剤の水分散性と反応性のバランスが良いため、好ましい。−Z−の炭素原子数が10以上、窒素原子数が3以上、または酸素原子数が3以上の場合、シランカップリング剤の水分散性と反応性のバランスが不良のため、本発明では望ましくない。
【0069】
シランカップリング剤(s)の前記分子構造Y−Z−SiXm3-mにて、樹脂(A1)や他の共存樹脂の官能基との反応点となる−Y基は、樹脂(A1)や他の共存樹脂と反応するものであれば特に制限がないが、反応性の高さから、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、はメチリデン基(H2C=)が好ましく、エポキシ基又はアミノ基が特に好ましい。
【0070】
本発明の被覆塗膜形成時に、前記分子構造Y−Z−SiXm3-mで示されるシランカップリング剤(s)分子の−SiXm基が金属表面等と、また、−Y基が樹脂(A1)等と反応すると、前記一般式(I)に示す樹脂(A2Si)となる。即ち、前記シランカップリング剤(s)分子末端の−Si−Xの少なくとも一部が加水分解して−Si−OH(シラノール基)を生成し、その少なくとも一部が金属表面や他のシランカップリング剤(s)分子の水酸基と脱水縮合し、エーテル結合を介した共有結合一Si−O−Me(Meは金属原子)や−Si−O−Si*−(Si*は他のシランカップリング剤分子由来のSi原子)を生成する。一方、前記シランカップリング剤(s)分子の他端にある−Y基が樹脂(A1)の官能基と反応し、A1〜Zの結合を生成し、その結果、下記一般式(I)に示す構造を持つ樹脂(A2Si)となる。これらの反応が終わり、樹脂(A2Si)が生成した後に(A2Si)中のSi原子に結合している−O−、−OH、−X、−R基数をそれぞれa、b、c、dとすると、a+b+c=m、また、前記シランカップリング剤(s)の−R基は前記反応に関与せず樹脂(A2Si)に残るため、−R基数d=3−m=3−(a+b+c)、a+b+c+d=3である。なお、一般式(I)の「A1〜Z」の表記は、A1とZが両者の官能基を介して共有結合していることを示す。
【0071】
前記シランカップリング剤(s)の具体例としては、前記一般式Y−Z−SiXm3-m(−X基は炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基、加水分解性ハロゲノ基、又は加水分解性アセトキシ基、−R基は炭素原子数1〜3のアルキル基、置換基の数を示すmは1〜3の整数、−Z−は炭素原子数1〜9、窒素原子数0〜2、酸素原子数0〜2の炭化水素鎖、−Y基は樹脂(A1)と反応する官能基)に示す分子構造を持つものとして、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニルー3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0072】
本発明にて、有機樹脂(A)を含む塗膜(α)を金属表面に形成する時、用いる水系塗装用組成物(β)は、樹脂(A1)100質量部に対し、シランカップリング剤(s)を1〜100質量部含有するのが好ましい。1質量部未満ではシランカップリング剤(s)の量が少なく、シランカップリング剤による架橋構造があまり発達しないため、十分に繊密な塗膜が得られず耐食性が不十分になる可能性や、金属表面等との加工密着性が不十分になる可能性がある。一方、100質量部を超えると、密着性向上効果が飽和し、高価なシランカップリング剤を必要以上に用いるため不経済なだけでなく、水系塗装用組成物の安定性を低下させることがある。
【0073】
本発明における有機樹脂(A)は、前記樹脂(A1)、または更に前記樹脂(A2Si)を合計で樹脂(A)の50〜100質量%含有するのが好ましく、樹脂(A1)と樹脂(A2Si)の合計で有機樹脂(A)の75〜100質量%含有するのがより好ましい。樹脂(A1)と樹脂(A2Si)の合計が有機樹脂(A)の50質量%未満の場合、塗膜の繊密性や金属表面との密着性が不足する可能性があり、所望の耐食性や塗膜密着性、加工時の塗膜追従性が得られない可能性がある。
【0074】
本発明にて、樹脂(A1)と樹脂(A2Si)を含む塗膜(α)は、前記樹脂(A1)と(A2Si)の合計100質量部に対し、前記樹脂(A2Si)中の−C−Si−O−結合を形成するSi原子を0.1〜30質量部含むのが好ましい。0.1質量部未満では、塗膜の繊密性、金属表面等との密着性、金属板を加工する時の塗膜加工追従性を左右する−C−Si−O−結合の量が少なく、十分な耐食性や密着性が得られない可能性がある。また、30質量部を超えると、金属表面等との密着性向上効果が飽和し、塗膜形成のために高価なシランカップリング剤を必要以上に用いるため、不経済であったり、水系塗装用組成物の安定性を低下させることがある。なお、前記−C−Si−O−結合を形成するSi原子の同定や定量は、金属板上の塗膜のFT−IRスペクトルや、29Si−NMR等の分析方法を利用して行うことができる。
【0075】
既に述べたように、前記樹脂(A1)は、本発明の塗膜(α)の形成に用いる水系塗装用組成物(β)の1成分としてその不揮発分の50〜100質量%含まれ、かつ、金属板への塗布により塗膜(α)形成後は、塗膜中の有機樹脂(A)は、前記樹脂(A1)、または更にその反応誘導体(A2)からなる。前記樹脂(A1)は、既に述べたように、水系塗装用組成物(β)中で安定に存在するものであれば、その種類や構造に特に制限はないが、その構造中にカルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む樹脂である。即ち、塗膜(α)中の前記有機樹脂(A)は、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む樹脂(A1)、または更に該樹脂の誘導体(A2)を含む。
【0076】
前記樹脂(A1)が、その構造中にカルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む樹脂である理由について、以下に述べる。
【0077】
水系塗装用組成物(β)には、製膜後の有機樹脂(A)の少なくとも一部を構成する樹脂(A1)が含まれている。塗装用組成物(β)の保管中や塗装直後の水の多い環境下で、炭化水素鎖を主体とする樹脂(A1)の低極性構造中に存在する、高極性で極めて高い親水性を示すカルボキシル基またはスルホン酸基部分が水中に伸び、周辺の水と水和し、その結果、樹脂(A1)は水系塗装用組成物(β)中で分散安定化し易い。また、これらのカルボキシル基またはスルホン酸基は、水系塗装用組成物中に共存する高極性の金属粒子(B)の表面に吸着し、金属粒子(B)同士の凝集を防ぎ、分散性を保つ効果がある。
【0078】
一般に、水系塗料は、有機溶剤系塗料と異なり、塗料の保管中や塗装直後は多量の水を含んでいて高極性だが、塗膜形成過程で水が蒸発すると、塗料中の雰囲気が高極性から低極性へ大きく変化する。本発明の場合、前記樹脂(A1)の構造中にカルボキシル基またはスルホン酸基があるため、塗膜形成過程で水が蒸発し極性が急激に低下すると、カルボキシル基またはスルホン酸基の少なくとも一部は水和水や金属表面から脱着してコイル状に縮む。その一方で、樹脂(A1)の低極性の樹脂鎖部分が伸び、立体障害層を形成し、金属粒子(B)同士の凝集を防ぐ役割を果たす。
【0079】
このように、炭化水素鎖を主体とする樹脂(A1)の低極性構造中に、高極性で極めて高い親水性を示すカルボキシル基またはスルホン酸基があれば、水系塗装用組成物の保管中や塗膜形成時の塗装用組成物(塗膜)中の極性変化に応じてその極性にマッチした基や鎖が伸び、金属粒子の分散性を保ち易くなる。
【0080】
樹脂(A1)、有機樹脂(A)がカルボキシル基やスルホン酸基を含むその他のメリットとしては、これらの官能基を含むことで、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)との密着性が向上し、塗膜(α)の耐食性、加工性(金属板加工時の加工部の塗膜密着性、耐亀裂性、耐色落ち性等)、耐傷付き性が向上することが挙げられる。
【0081】
前記カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂が、構造中にスルホン酸基を含むポリエステル樹脂の場合、樹脂の合成原料として用いるポリオール、多価カルボン酸、スルホン酸基含有化合物に制限はなく、ポリオールと多価カルボン酸としては、既に例示したものを使用できる。また、スルホン酸基含有化合物としては、例えば、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2、7−ジカルボン酸、5(4−スルホフェノキシ)イソフタル酸等のスルホン酸基を含有するジカルボン酸類、または2−スルホ−1,4−ブタンジオール、2,5−ジメチル−3−スルホ−2,5−ヘキシルジオール等のグリコール類等を使用できる。
【0082】
前記スルホン酸基は−SO3Hで表される官能基を指し、それがアルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたものであっても構わない(例えば、5−スルホナトリウムイソフタル酸、5−スルホナトリウムイソフタル酸ジメチル等)。中和する場合は、すでに中和されたスルホン酸基を樹脂中に組み込んでもよいし、スルホン酸基を樹脂中に組み込んだ後に中和してもよい。樹脂を水中に均一微細分散させるため、中和されていないスルホン酸基の基数に比べ、アルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたスルホン酸塩基の基数が多い方が好ましい。何故なら、アルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたスルホン酸塩基は、水中で容易に電離し水和するため、これらの基を構造中に多く含む樹脂は水中に均一微細分散しやすいからである。これらの中で、Li、Na、Kなどのアルカリ金属類で中和されたスルホン酸金属塩基が、水系塗装用組成物(β)の保管中や、塗装直後の水の多い環境下で金属粒子(B)の凝集を抑止したり、塗膜(α)と基材との密着性を高める上で特に好ましく、スルホン酸Na塩基が最も好ましい。
【0083】
前記スルホン酸基を含有するジカルボン酸またはグリコールの使用量は、全多価カルボン酸成分または全ポリオール成分に対し、0.1〜10モル%含有することが好ましい。0.1モル%未満であると、水系塗装用組成物(β)の保管中や、塗装直後の水の多い環境下にて、カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂を分散安定化するためのスルホン酸基部分が少なく、十分な樹脂分散性が得られない可能性がある。また、水系塗装用組成物中に共存する金属粒子(B)に吸着するスルホン酸基の量が少ないため、金属粒子どうしの凝集を防ぐ効果が不足する場合がある。また、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)に作用するスルホン酸基の量が少ないため、密着性や耐食性の向上効果が得られない場合がある。10モル%超であると、スルホン酸基により塗膜が保持する水分量が増え、耐食性が低下する場合がある。性能のバランスを考慮すると、0.5〜5モル%の範囲にあるのがより好ましい。
【0084】
前記カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂が、構造中にカルボキシル基を含むポリエステル樹脂の場合、ポリエステル樹脂に前記カルボキシル基を導入する場合の方法としては特に制限はないが、例えば、ポリエステル樹脂を重合した後に、常圧、窒素雰囲気下、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水コハク酸、無水1,8−ナフタル酸、無水1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸−3,4−無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸ニ無水物などから1種または2種以上を選択し、後付加する方法やポリエステルを高分子量化する前のオリゴマー状態のものにこれらの酸無水物を投入し、次いで減圧下の重縮合により高分子量化する方法等が挙げられる。
【0085】
前記カルボキシル基は−COOHで表される官能基を指し、それがアルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたものであっても構わない。中和する場合は、すでに中和されたカルボキシル基を樹脂中に組み込んでもよいし、カルボキシル基を樹脂中に組み込んだ後に中和してもよい。樹脂を水中に均一微細分散させるため、中和されていないカルボキシル酸基の基数に比べ、アルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたカルボン酸塩基の基数が多い方が好ましい。何故なら、アルカリ金属類、アンモニアを含むアミン類等で中和されたカルボン酸塩基は、水中で容易に電離し水和するため、これらの基を構造中に多く含む樹脂は水中に均一微細分散しやすいからである。
【0086】
前記カルボキシル基の導入量としては特に制限はないが、酸価で0.1〜50mgKOH/gの範囲にあることが好ましい。0.1mgKOH/g未満であると、水系塗装用組成物(β)の保管中や、塗装直後の水の多い環境下にて、カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂を分散安定化するためのカルボキシル基部分が少なく、十分な樹脂分散性が得られない可能性がある。また、水系塗装用組成物中に共存する金属粒子(B)に吸着するカルボキシル基の量が少ないため、金属粒子同士の凝集を防ぐ効果が不足する場合がある。また、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)に作用するカルボキシル基の量が少ないため、密着性や耐食性の向上効果が得られない場合がある。50mgKOH/g超であると、カルボキシル基により塗膜が保持する水分量が増え、耐食性が低下する場合がある。性能のバランスを考慮すると、0.5〜25mgKOH/gの範囲にあるのがより好ましい。
【0087】
また、前記有機樹脂(A)は、エステル基、ウレタン基、ウレア基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含むのが、塗膜(α)の加工性、耐傷付き性、耐食性のすべてを高める上で好ましい。このような塗膜(α)は、塗膜(α)中の前記カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂が、エステル基、ウレタン基、ウレア基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含むことで、または該樹脂が水系塗装用組成物(β)中に共存する硬化剤や架橋剤等と反応してエステル基、ウレタン基、ウレア基を有する誘導体となることで得ることができる。
【0088】
加工性、耐傷付き性、耐食性のすべてを高めるためには、伸びと強度の両方に優れ、且つ基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)との密着性に優れる樹脂設計が重要であるが、構造中に比較的高い凝集エネルギーを持つ官能基を導入することで、優れた加工性と耐傷付き性をもたらす伸びと強度、かつ、優れた耐食性をもたらす密着性や腐食因子遮蔽性(塗膜の緻密性)にも優れる樹脂設計ができる。中でも、加工性と耐食性を重視する場合は適度な凝集エネルギーを持つエステル基を構造中に含有する樹脂が好適であり、耐傷付き性と耐食性を重視する場合は高い凝集エネルギーを持つウレタン基やウレア基を構造中に含有する樹脂が好適である。加工性と耐傷付き性と耐食性をすべて高めるためには、エステル基とウレタン基の両方を含有する樹脂、もしくは、エステル基とウレタン基とウレア基とを含有する樹脂がより好適である。構造中にエステル基、ウレタン基、ウレア基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エステル基を含有するポリエステル樹脂、ウレタン基を含有するポリウレタン樹脂、ウレタン基とウレア基の両方を含有するポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらは1種または2種以上混合して用いてもよい。例えば、エステル基を含有するポリエステル樹脂とウレタン基とウレア基の両方を含有するポリウレタン樹脂を混合して使用してもよい。
【0089】
前記有機樹脂(A)が、エステル基、ウレタン基、ウレア基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む場合、構造中にエステル基、ウレタン基、ウレア基から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む樹脂の含有量は、前記カルボキシル基やスルホン酸基を含む樹脂の60〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましい。60質量%未満であると、加工性と耐傷付き性、耐食性を両立できない可能性がある。
【0090】
前記有機樹脂(A)は、硬化剤(C)で硬化された樹脂であることが好ましい。前記硬化剤(C)は、前記有機樹脂(A)を硬化させるものであれば特に制限はないが、前記樹脂(A1)の架橋剤として既に例示したものの中で、アミノ樹脂の1つであるメラミン樹脂やポリイソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の架橋剤を前記硬化剤(C)として用いるのがよい。
【0091】
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとを縮合して得られる生成物のメチロール基の一部またはすべてをメタノール、エタノール、ブタノールなどの低級アルコールでエーテル化した樹脂である。ポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、前記樹脂(A1)の架橋剤として既に例示したヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等を挙げることができる。また、そのブロック化物は、前記ポリイソシアネート化合物のブロック化物であるヘキサメチレンジイソシアネートのブロック化物、イソホロンジイソシアネートのブロック化物、キシリレンジイソシアネートのブロック化物、トリレンジイソシアネートのブロック化物等を挙げることができる。これらの硬化剤は1種で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0092】
前記硬化剤(C)の含有量は、前記有機樹脂(A)の5〜35質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、焼付硬化が不十分で、耐食性、耐傷付き性が低下する場合があり、35質量%超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性、加工性が低下する場合がある。
【0093】
塗膜(α)の耐傷付き性の観点から、前記硬化剤(C)にはメラミン樹脂(C1)を含有することが好ましい。メラミン樹脂(C1)の含有量は、前記硬化剤(C)の30〜100質量%であることが好ましい。30質量%未満であると、得られた塗膜(α)の耐傷付き性が低下する場合がある。
【0094】
<金属粒子(B)>
本発明の被覆塗膜に含まれる金属粒子(B)は、金属の25℃の水溶液における標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲になければならない。好ましくは、標準電極電位の範囲が−0.2〜+0.8Vであるのがよい。
【0095】
ここでいう金属とは、単一の金属元素からなる純金属、及び、複数の金属元素あるいは金属元素と非金属元素からなる合金のことである。金属の標準電極電位が−0.25Vより卑な(−0.25V未満の)場合、水系塗装用組成物に添加すると、粒子表面が水と反応して酸化する。酸化反応速度や酸化生成物は金属の種類や標準電極電位により異なるが、直ちに水と反応したり(標準電極電位が−2.3V以下のアルカリ金属、アルカリ土類金属)、数十秒〜数十日で粒子表面に酸化絶縁層や錆層が生じたりし(標準電極電位が−2.3Vを上回り−0.25V未満の範囲内にある多くの金属)、いずれの場合も表面層の導電性を失うため、塗膜中に分散させた場合に導電性粒子として機能しない。また、金属粒子の標準電極電位が+0.9Vより貴なものは、殆どが、貴金属Au(標準電極電位+1.52V)、Pd(同+0.92V)、Ir(同+1.16V)、Pt(同+1.19V)や希少金属、またはこれらを多く含む合金であり、非常に高価、または微粒子の入手が困難なため、本発明の目的には適さない。
【0096】
標準電極電位が−0.25V以上で−0.2V未満の範囲にある金属には、例えば、Ni(標準電極電位−0.25V)があるが、標準電極電位が上記範囲にある金属の粒子を含む水系塗料中では、数週間程度の保管で粒子表層が徐々に酸化して有色の金属酸化物が生成し、水中に遊離し塗料を汚染する場合があるため、本発明で用いる金属粒子としては、その金属の標準電極電位の下限が−0.2Vまでの方が好ましい。また、標準電極電位が+0.8Vを超え、+0.9Vまでの範囲にある金属には、例えば、Ag(標準電極電位+0.80V)に少量のAu、Pd、Pt等を加えた歯科治療用のAg-Au系やAg-Pd系の合金があるが、いずれもAg単体に比べかなり高価になるため、本発明で用いる金属粒子としては、その金属の標準電極電位の上限が+0.8Vまでの方が好ましい。
【0097】
多くの純金属の標準電極電位は、対象とする金属を電極としたガルバニ電池の起電力測定や電池反応の熱力学エネルギー変化等から算出でき、文献に掲載されているが、合金については、標準電極電位の実測(あるいは算出)例は少ない。標準電極電位の文献値が見当たらない純金属や合金について、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあるかどうか確認するには、対象とする金属を電極として半電池を組み、標準電極と組合せたガルバニ電池の電極電位をポテンシォスタットで測定し、下記一般式(II)(電極電位を記述したNernstの式と、電解液中のイオンの相互作用に関するDebye-Huckel理論から導出)を用いて標準電極電位を算出すればよい。
【0098】
【数1】

【0099】
(式中、Eは対象とする金属の電極電位、Eは前記金属の標準電極電位、Rは気体定数、Tは絶対温度、Fはファラデー定数、mは水溶液中の電解質の質量モル濃度)
【0100】
Eを種々の濃度(m<0.01mol/kg)で測定し、一般式(II)の左辺をm1/2に対してプロットすると、切片E、傾き2.34RT/Fの直線が得られ、Eを算出できる。
【0101】
以下、前記金属粒子(B)を構成する金属の例について述べるが、金属名に付記した標準電極電位は、過去の文献値、または、上記一般式(II)を用いて実測したものである。
【0102】
本発明にて用いることができる前記金属粒子(B)を構成する純金属の例としては、Ni(標準電極電位 −0.25V)、Mo(同−0.2V)、Sn(同−0.14V)、W(同−0.09V)、Ge(同+0.25V)、Bi(同+0.32V)、Cu(同+0.34V)、Ru(同+0.68V)、Os(同+0.69V)、Rh(同+0.76V)またはAg(同+0.80V)、または、これらから選ばれる2種以上が挙げられる。ただし、Niは、「発明が解決しようとする課題」の項で述べたように、Ni粒子を含む水系塗料中では、数週間程度の保管で粒子の表層が酸化して青緑色の酸化ニッケル(II)(NiO)が生成して水中に遊離し、塗料を汚染する難点があり、また、Geと、貴金属のRu、Os、Rhは非常に高価格のため、本発明においては、上記の群からこれらを除いたMo、Sn、W、Bi、CuまたはAg、または、これらから選ばれる2種以上を用いるのが好ましい。
【0103】
本発明の(B)として2種以上の金属の混合物を用いた場合、それらを含む水系塗装用組成物中や、そのような塗装用組成物を金属板に被覆して得られる塗膜中では、異種金属接触腐食による粒子の劣化は無視できる。何故なら、既に[発明を実施するための形態]<塗膜(α)>の項で述べたように、本発明の塗膜(α)中での金属粒子(B)の含有比率が10体積%以下と少なく、従って、本発明の塗膜(α)を製膜するための水系塗装用組成物に含まれる金属粒子比率も僅少のため、水系塗装用組成物(β)中や塗膜(α)中で、異種金属粒子どうしが接触して電池を形成する状態を保持する可能性が低いからである。
【0104】
本発明の(B)として用いることができる合金の組織には特に制限がなく、固溶体(複数の元素が原子レベルで完全に均一に溶け込んでいる合金)、金属間化合物(金属結晶格子の特定の位置に規則的に別元素が置換した構造を持ち、前記金属と別元素が原子レベルで一定割合で結合している合金)、共晶(異なる成分比の固溶体結晶が共存する合金)、異種金属焼結体(異種金属のミクロ凝集塊が界面で相互に融着した焼結体)等、どのような組織のものでもよい。ただし、共晶組織を持つ合金や異種金属焼結体の中で、凝固組成中に成分比の著しく異なる相がミクロ的に接合している場合には、そのような粒子を水系塗装用組成物に添加後、長く水中に保管していると相間で電池を形成し腐食しやすくなるため、熱処理等で相組織をある程度均一化してから用いる方が望ましい。
【0105】
固溶体合金としては、例えば、熱間工具材料等に実用されているNi-W合金(W20質量%の場合は標準電極電位 −0.20V)、貨幣や耐海水性部材等に用いられているCu-Ni合金(白銅;現行100円や50円白銅貨に用いられているものと同じ組成の合金はNi25質量%で、標準電極電位 −0.10V)、Cu-Sn-Zn合金(青銅;現行10円青銅貨に用いられているものと同じ組成の合金はSn1〜2質量%、Zn4〜3質量%で、標準電極電位 +0.28〜+0.30V)、Cu-Ni-Zn合金(洋白;現行500円洋白貨や食器類等に用いられているものと同じ組成の合金はNi10〜30質量%、Zn15〜20質量%で、標準電極電位 −0.25〜0V)等が挙げられる。
【0106】
金属間化合物としては、例えば、はんだ中のSnとプリント基板配線のCuとの相互拡散で生成するCu6Sn5やCu3Sn等(標準電極電位 +0.13〜+0.23V)が挙げられる。
【0107】
共晶合金としては、例えば、鉛フリーはんだとして用いられているSn-Ag-Cu合金(Ag3質量%、Cu0.5質量%のものは標準電極電位 −0.10V)、Sn-Cu合金(Cu0.5〜2質量%、標準電極電位 −0.12〜−0.14V)、Sn-Bi合金(Bi58質量%、標準電極電位 +0.25V)等が挙げられる。
【0108】
また、異種金属焼結体としては、電力開閉機器の接点等に広く用いられているCu-W合金(Cu10〜70質量%、標準電極電位 +0.04〜+0.21V)、Ag-W合金(Ag20〜70質量%、標準電極電位 +0.09〜+0.53V)、Ag-Ni合金(Ag60〜90質量%、標準電極電位 +0.17〜+0.70V)、Ag-グラファイト合金(Ag97〜99質量%、標準電極電位 +0.78V)等が挙げられる。
【0109】
本発明の(B)として用いることができる合金の標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあれば、その合金を構成する複数の異種金属の中で、一部の金属の標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲になくても差支えない。そのような例としては、前記のCu-Sn-Zn合金やCu-Ni-Zn合金、また、後で述べるCu-Au系合金等が挙げられる(Znの標準電極電位は−0.76V、Auの標準電極電位は+1.52V)。
【0110】
本発明の金属粒子(B)として使用できる、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある純金属、及び、複数の金属元素からなる合金の体積抵抗率(=電気抵抗率、比抵抗)は、公開文献を調査した限りでは、150×10-6Ωcmを超えるものは見当たらず、いずれも導電性に優れる。しかし、金属元素と非金属元素からなる合金には、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあっても体積抵抗率が150×10-6Ωcmを超えるものがあり、そのような合金は本発明では用いない方がよい。体積抵抗率が150×10-6Ωcmを超える合金は、樹脂塗膜に十分な導電性を付与するために多量添加が必要となり、塗膜外観が導電性粒子の色に支配され、着色顔料を加えても所望の色合いに着色できない。そのため、塗装金属板の最表面層として使えない場合が多い。例えば、炭素C(単体の体積抵抗率1400〜3300×10-6Ωcm)を5質量%以上含む合金は、体積抵抗率が150×10-6Ωcmを超えることがあり、そのような合金は、本発明では用いない方がよい。
【0111】
なお、金属の電気抵抗率は、金属の結晶格子に入り込んだ不純物元素の種類や量により増減するため、本発明での使用に際しては、例えば、三菱化学(株)製の抵抗率計ロレスタEP(MCP-T360型)とASPプローブを用いた4端子4探針法、定電流印加方式で、JIS K7194に準拠して25℃の電気抵抗率を実測し、金属電導を示す範囲にあることを確認してから使用すればよい。
【0112】
本発明の金属粒子(B)として用いることができる合金は、顔料粉末に転用できる微粉末が工業的に大量製造されているものか、あるいは容易に微粉化できるもので、かつ、高価でないものが好ましい。そのような見地から、本発明の(B)に用いる合金は、標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にあるCu系合金がより好ましい。中でも、Cu-Ni系合金(白銅;Ni 9.0〜33.0質量%、Fe 0〜2.3質量%、Mn 0〜2.5質量%、Zn 0〜1.0質量%、Cu残部)、Cu-Ni-Zn系合金(洋白;Cu 54.0〜75.0質量%、Ni 5.0質量%以上、Mn 0〜0.50質量%、Zn残部)、Cu-Sn系合金(青銅;Sn 2.0〜11.0質量%、Zn 0〜10.0質量%、Cu残部)、Cu-Sn-P系合金(リン青銅;Sn 3.5〜9.0質量%、P 0.03〜0.35質量%、Cu残部)、Cu-Al系合金(アルミニウム青銅;Cu 77.0〜92.5質量%、Al 6.0〜12.0質量%、Fe 1.5〜6.0質量%、Ni 0〜7.0質量%、Mn 0〜2.0質量%)、Cu-Zn系合金(真鍮;Cu 59.0〜71.5質量%、Zn残部)、Cu-Au系合金(赤銅;Au 3.0〜5.0質量%、Cu残部)から選ばれるいずれか1種で、かつ標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲となる組成の合金、または、これらから選ばれる2種以上の混合物が、耐水劣化性や耐食性に優れるため、特に好ましい。
【0113】
更に、例示した種々の合金から選ばれる2種以上の混合物も、本発明の(B)として用いることが可能な金属として例示できる。
【0114】
前記金属粒子(B)の粒子形状は、球状粒子、または、擬球状粒子(例えば楕円球体状、鶏卵状、ラグビーボール状等)や多面体粒子(例えばサッカーボール状、サイコロ状、各種宝石のブリリアントカット形状等)のような、球に近い形状が好ましい。細長い形状(例えば棒状、針状、繊維状等)や平面形状(例えばフレーク状、平板状、薄片状等)のものは、塗装過程で塗膜面に平行に配列したり、基材と塗膜の界面付近に沈積したりして、塗膜の厚方向を貫く有効な通電路を形成しにくいため、本発明の用途に適さない。
【0115】
前記金属粒子(B)の平均粒子径は特に限定しないが、本発明の水系塗装用組成物中にて、体積平均径が0.05〜8μmの粒子で存在するのが好ましく、体積平均径が0.2〜5μmの粒子で存在するのがより好ましい。これらの体積平均径を持つ分散粒子は、水系塗装用組成物の製造工程、保管・運搬時や、塗装用基材である金属板(金属面に下地処理がある場合は下地処理層)への塗装工程等にて、水系塗装用組成物中で安定に存在すれば、単一粒子であっても、複数の単一粒子が強く凝集した二次粒子であってもよい。水系塗装用組成物の基材への塗装工程にて、製膜に伴い前記(B)粒子が凝集し、塗膜中での体積平均径が大きくなっても差支えない。
【0116】
なお、ここで言う体積平均径とは、粒子の体積分布データから求めた体積基準の平均径のことである。これは、一般に知られているどのような粒子径分布測定方法を用いて求めても良いが、コールター法(細孔電気抵抗法)により測定される球体積相当径分布の平均値を用いるのが好ましい。何故なら、コールター法は、他の粒子径分布測定方法(レーザー回折散乱法で得た体積分布から算出する、画像解析法で得た円面積相当径分布を体積分布に換算する、遠心沈降法で得た質量分布から算出する、等)に比べ、測定機メーカーや機種による測定値の違いが殆どなく、正確で高精度な測定ができるからである。コールター法では、電解質水溶液中に被験粒子を懸濁させ、ガラス管の細孔に一 定の電流を流し、陰圧により粒子が細孔を通過するように設定する。粒子が細孔を 通過すると、粒子が排除した電解質水溶液の体積(=粒子の体積)によって、細孔の電気抵抗が増加する。一定電流を印加すれば、粒子通過時の抵抗変化が電圧パルス変化に反映されるため、この電圧パルス高を1個ずつ計測処理することにより、個々の粒子の体積を直接測定できる。粒子は不規則形状の場合が多いので、粒子と同一体積の球体を仮定し、その球体の径(=球体積相当径)に換算する。このようなコールター法による球体積相当径の測定方法は、よく知られており、例えば文献:ベックマン・コールター株式会社インターネット公式サイト上のウェブページ〔http://www.beckmancoulter.co.jp/product/product03/Multisizer3.html(精密粒度分布測定装置 Multisizer3〕に、詳細に記載されている。
【0117】
体積平均径が0.05μm未満の金属粒子は、それより大きな金属粒子より高価なだけでなく、比表面積が非常に大きいため、例えば、水系塗装用組成物中で湿潤分散剤を用いても、粒子表面を濡らし分散させるのが困難である。また、体積平均径が8μmを超える金属粒子は、それより小さな金属粒子より、水系塗装用組成物中で速く沈降しやすく(ストークスの式により明らかに示される)、従って、分散安定性を確保することが難しく、粒子が浮遊せず短時間で沈降し、凝集・固化する等の不具合を生じる場合がある。
【0118】
前記塗膜(α)中に分散されている前記金属粒子(B)の体積平均径をcμm、前記塗膜(α)の厚をbμmとした時、0.5≦c/b≦1.5の関係を満足することが好ましい。塗膜厚に対する粒径の比c/bが0.5以上となっている場合、塗膜厚方向の導電性は確保される。塗膜厚に対する粒径の比c/bが0.5未満の場合、導電性が十分に確保されない場合がある。塗膜厚に対する粒径の比c/bが1.5を超えると、耐食性、加工性が低下する場合がある。
【0119】
<防錆剤>
本発明の有機樹脂(A)は、防錆剤として、ポリフェノール化合物を含有することが好ましい。ポリフェノール化合物は、ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2基以上有する化合物又その縮合物であって、金属表面にキレート作用で配位結合でき、また、共存する水系樹脂の親水基と水素結合することができる。このようなポリフェノール化合物を配合することにより、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)と塗膜(α)との密着性や加工時の塗膜追従性を飛躍的に向上させ、ひいては加工部耐食性も向上させる。
【0120】
本発明にて用いるポリフェノール化合物は、被覆塗膜形成に用いる水系塗装用組成物に均一に溶解又は微細分散できるものであれば、特に制限はない。水溶性または水分散性でなくても、水系塗装用組成物(β)中に共存する樹脂(A1)の疎水鎖間に浸入し、均一に微細分散できるものであれば用いることができる。
【0121】
前記ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2基以上有する化合物としては、例えば、没食子酸、ピロガロール、カテコール等を挙げることができる。ベンゼン環に結合したフェノール性水酸基を2基以上有する化合物の縮合物としては特に限定されず、例えば、通常タンニン酸と呼ばれる植物界に広く分布するポリフェノール化合物等を挙げることができる。タンニン酸は、広く植物界に分布する多数のフェノール性水酸基を有する複雑な構造の芳香族化合物の総称である。前記タンニン酸は、加水分解性タンニン酸でも縮合型タンニン酸でもよい。前記タンニン酸としては特に限定されず、例えば、ハマメリタンニン、カキタンニン、チャタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランタンニン、ジビジビタンニン、アルガロビラタンニン、バロニアタンニン、カテキンタンニン等を挙げることができる。前記ポリフェノール化合物は1種で使用しても良く、2種以上を併用してもよい。
【0122】
前記ポリフェノール化合物は、有機樹脂(A)100質量部に対し、1〜100質量部含有することが好ましい。1質量部未満ではポリフェノール化合物の量が不十分であるため、十分な塗膜密着性が得られなかったり、その結果、加工部耐食性が不十分となる可能性がある。100質量部を超えると塗膜中のポリフェノール化合物の量が多すぎて、加工時の塗膜密着性、塗膜追従性や加工部耐食性が低下したり、水系塗装用組成物の安定性を低下させることがある。
【0123】
前記有機樹脂(A)は、防錆剤として、リン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される1種又は2種以上を含有することが好ましい。このリン酸とヘキサフルオロ金属酸は、それぞれ単独で用いてもよいし、併用してもよい。これらの酸は、金属表面をエッチングにより活性化し、前記シランカップリング剤(s)や前記ポリフェノール化合物の金属面への作用を促進させる。また、リン酸は、前記作用のほかに、金属表面にリン酸塩層を形成して不働態化する作用を持つため、耐食性を向上させる。また、ヘキサフルオロ金属酸は、前記作用のほかに、塗膜を形成する金属表面に、ヘキサフルオロ金属酸から供給される金属の酸化物を含む安定な薄膜を形成でき、その結果、耐食性を向上させる。本発明で用いることができるリン酸には特に制限はなく、例えば、オルトリン酸、ポリリン酸(オルトリン酸の重合度6までの直鎖状重合体の単体、またはこれらの2種以上の混合物)、メタリン酸(オルトリン酸の重合度3〜6までの環状重合体の単体、又はこれらの2種以上の混合物)を挙げることができる。前記リン酸は1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合度が2より大きなポリリン酸は、幾つかの重合度のポリリン酸の混合物として工業的に容易に得られるため、本発明では、このような混合物を用いるのがよい。
【0124】
本発明で用いることができるヘキサフルオロ金属酸にも特に制限はなく、例えば、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコン酸、ヘキサフルオロけい酸、へキサフルオロニオブ酸、ヘキサフルオロアンチモン酸やそれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。ヘキサフルオロ金属酸は、前記のように、金属表面に金属酸化物を含む安定な薄膜を形成するが、そのような効果をもたらすには、金属としてTi、Si、Zr、Nbの中からなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含むものが好ましい。前記へキサフルオロ金属酸は、1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0125】
リン酸及びヘキサフルオロ金属酸からなる群より選択される1種又は2種以上は、有機樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜100質量部含有することが好ましい。0.1質量部未満ではこれらの酸による作用が不十分であるため、耐食性が低下することがある。100質量部を超えると塗膜が脆くなり、塗膜凝集破壊により加工時の塗膜密着性や塗膜追従性が低下することがある。
【0126】
前記有機樹脂(A)は、防錆剤として、リン酸塩化合物を含有することが好ましい。このリン酸塩化合物を配合することにより、塗膜形成時に、金属表面に難溶性のリン酸塩薄膜を形成できる。即ち、リン酸塩のリン酸イオンにより金属が溶解すると、金属表面でpHが上昇し、その結果、リン酸塩の沈殿薄膜が形成され、耐食性が向上する。
【0127】
本発明で用いることができるリン酸塩化合物には、特に制限はなく、例えば、オルトリン酸、ポリリン酸(オルトリン酸の重合度6までの直鎖状重合体の単体、又はこれらの2種以上の混合物)、メタリン酸(オルトリン酸の重合度3〜6までの環状重合体の単体、又はこれらの2種以上の混合物)などの金属塩、フィチン酸、ホスホン酸(亜リン酸)、ホスフィン酸(次亜リン酸)などの有機金属塩が挙げられる。カチオン種としては特に制限はなく、例えば、Cu、Co、Fe、Mn、Sn、V、Mg、Ba、Al、Ca、Sr、Nb、Y、Ni及びZn等が挙げられるが、Mg、Mn、Al、Ca、Niを用いるのが好ましい。前記リン酸塩化合物は、1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0128】
前記リン酸塩化合物は、有機樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜100質量部含有することが好ましい。0.1質量部未満ではリン酸塩化合物の作用が不十分なため、耐食性が低下することがある。100質量部を超えると塗膜が脆くなり、塗膜凝集破壊により加工時の塗膜密着性や塗膜追従性が低下することがある。
【0129】
前記有機樹脂(A)は、防錆剤として、Si、Ti、Al、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素からなる金属酸化物微粒子を含有することが好ましい。この金属酸化物微粒子を配合することにより、耐食性をより高めることができる。
【0130】
本発明で用いることができる前記金属酸化物微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、ジルコニア微粒子等を挙げることができ、体積平均径が1〜300nm程度のものが好適である。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、シリカ微粒子は、塗膜の耐食性向上及び強靭化の両方が必要な場合に添加する。シリカ微粒子としては特に制限なく、塗膜が薄膜であることから、一次粒子径が3〜50nmのコロイダルシリカ、ヒユームドシリ力等のシリカ微粒子であることが好ましい。
【0131】
前記金属酸化物微粒子は、有機樹脂(A)100質量部に対し、1〜100質量部含有することが好ましい。1質量部未満では金属酸化物微粒子の量が不十分であるため、耐食性を高める効果が得られないことがある。100質量部を超えると塗膜が脆くなり、塗膜凝集破壊により加工時の塗膜密着性や塗膜追従性が低下することがある。
【0132】
前記の各種防錆剤は、水系塗装用組成物(β)に適量を予め溶解、あるいは分散安定化させ、塗膜(α)中の有機樹脂(A)に導入するのが好ましい。
【0133】
<着色顔料>
前記塗膜(α)には、着色顔料を更に含有することができる。着色顔料の種類としては特に限定されず、無機着色顔料としては、例えば、二酸化チタン粉、アルミナ粉、ベネチアンレッドやバーントシェンナ等の酸化鉄粉、酸化鉛粉、カーボンブラック、グラファイト粉、コールダスト、タルク粉、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、コバルトイエロー、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトグリーン等を例示できる。有機着色顔料としては、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、ペリレン、アンスラピリミジン、カルバゾールバイオレット、アントラピリジン、アゾオレンジ、フラバンスロンイエロー、イソインドリンイエロー、アゾイエロー、インダスロンブルー、ジブロムアンザスロンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、アントラキノンレッド等を例示できる。また、塗膜(α)に必要な色合いや光沢、風合い等の外観を与えることができるなら、例えば銅粉、錫粉、ニッケル粉、ブロンズ(Cu-Sn系合金)粉等の耐水劣化性の金属粒子を着色顔料として使用できるし、金属の標準電極電位が−0.25Vより卑で耐水性に劣るアルミニウム粉や亜鉛粉等も、着色顔料として用いることができる。また、アルミフレーク、マイカフレーク、板状酸化鉄、ガラスフレーク等の鱗片状光輝材、マイカ粉、金属コーティングマイカ粉、二酸化チタンコーティングマイカ粉、二酸化チタンコーティングガラス粉等の粉状光輝材も使用できる。
【0134】
<水系塗装用組成物(β)の調製>
本発明の塗膜(α)を形成するのに用いる水系塗装用組成物(β)の製造方法は特に限定されないが、例えば、水中に各々の塗膜(α)形成成分を添加し、ディスパーで攪拌し、溶解もしくは分散する方法が挙げられる。各々の塗膜(α)形成成分の溶解性、もしくは分散性を向上させるために、必要に応じて、公知の親水性溶剤等を添加してもよい。
【0135】
水系塗装用組成物(β)には、前記樹脂(A1)、前記金属粒子(B)が含まれるが、更には、必要に応じ、塗装用組成物の水性や塗工性を損なわない範囲で種々の水溶性または水分散性の添加剤を添加してもよい。例えば、前記の種々の防錆剤や、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤、湿潤分散剤等の界面活性剤、及び、増粘剤、粘度調整剤等などを添加してもよい。更に、樹脂や他の有機化合物など水系塗装用組成物の構成成分の安定化等のために、労働安全衛生法施行令(有機溶剤中毒予防規則第一章第一条)で定義される有機溶剤等(第1種有機溶剤、第2種有機溶剤、第3種有機溶剤、または、前記有機溶剤を5質量%を超えて含有するもの)に該当しないように、少量の有機溶剤を添加してもよい。
【0136】
本発明の塗膜(α)を形成するために用いる塗装用組成物(β)は、水系塗装用組成物であるため、有機溶剤系塗料に比較して表面張力が高く、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)や金属粒子(B)への濡れ性に劣り、基材に所定量の塗布を行う場合、均一な塗装性や粒子分散性が得られないことがある。そのような場合は、前記の湿潤分散剤や増粘剤を添加するのがよい。湿潤分散剤としては、表面張力を低下させる界面活性剤を用いることができるが、分子量が2000以上の高分子界面活性剤(高分子分散剤)を用いる方がよい。低分子界面活性剤は、湿気を含む樹脂塗膜中を比較的容易に移動できるため、界面活性剤の極性基に吸着した水や、その水を介して溶存酸素、溶存塩等の腐食因子を金属面に呼び込み易く、また、自らブリードアウトして、溶出し易いため、塗膜の防錆性を劣化させることが多い。一方、高分子界面活性剤は、金属や顔料の表面に多点吸着できるため一旦吸着すると離れにくく、低濃度でも濡れ性改善に有効である。その上、分子が嵩高いため樹脂塗膜中を移動しにくく、腐食因子を金属面に呼び込みにくい。前記<有機樹脂(A)>の項にて、有機樹脂(A)への添加を推奨しているアクリル樹脂の一部には、このような高分子界面活性剤の機能があり、水系塗装用組成物中で、金属粒子(B)や着色顔料等の沈降を抑止し、かつ均一に分散させる効果がある。
【0137】
増粘剤は、基材表面のはじき箇所に対して湿潤分散剤だけでは十分な表面被覆性が得られない場合、または、水系塗装用組成物の粘度が低すぎて必要な塗膜厚が確保されない場合の対策として添加することがある。分子量が数千〜数万のものが多く、顔料等の表面に多点吸着し、増粘剤自身は互いに会合して弱い網目構造を形成し、水系塗装用組成物の粘度を高める。
【0138】
水系塗装用組成物(β)が高比重の金属粒子や着色顔料等を含む場合、必要に応じ、塗装用組成物にチクソトロピックな性質(揺変性)を付与できる粘度調整剤を添加するのがよい。前記増粘剤の場合と同様に、水系塗装用組成物中で顔料等の表面に多点吸着し、網目構造を作る。このような粘度調整剤の分子量は数十万〜数百万で非常に高いため、水系塗装用組成物中で大きな降伏値を持つ強固な網目構造を作り、従って、塗装用組成物は低剪断速度では変形しにくく、高粘度である。一方、降伏値を上回る大きな剪断応力が塗装用組成物に加われば、網目構造が崩壊して粘度が急激に下がる。従って、粘度調整剤を添加すれば、水系塗装用組成物がほぼ静止状態を保つ保管時や運送時には、塗装用組成物の粘度を高めて重質粒子類の沈降を抑止し、一方、塗装工場で配管内を流動する時や、基材への塗装時等、高い剪断応力(高剪断速度)が加わる際には塗装用組成物の粘度を下げて流動し易くする。
【0139】
<塗膜(α)の形成>
本発明の前記塗膜(α)は、<塗膜(α)>の項で述べたように、ロールコート、グルーブロールコート、カーテンフローコート、ローラーカーテンコート、浸漬(ディップ)、エアナイフ絞り等の公知の塗装方法で金属板上に水系塗装用組成物(β)を塗布し、その後、ウェット塗膜の水分や溶剤分を乾燥する製膜方法が好ましい。これらのうち、水系や有機溶剤系の紫外線硬化型組成物や電子線硬化型組成物の場合は、前記の塗布方法で金属板に塗布後、水分または溶剤分を乾燥し、紫外線や電子線を照射して重合させるのが好ましい。
【0140】
水系塗装用組成物(β)が焼付硬化型組成物の場合の焼付乾燥方法について、具体的に述べる。焼付乾燥方法には特に制限はなく、あらかじめ金属板を加熱しておくか、塗布後に金属板を加熱するか、或いはこれらを組み合わせて乾燥を行ってもよい。加熱方法に特に制限はなく、熱風、誘導加熱、近赤外線、直火等を単独もしくは組み合わせて使用することができる。 焼付乾燥温度については、金属板表面到達温度で120℃〜250℃であることが好ましく、150℃〜230℃であることが更に好ましく、180℃〜220℃であることが最も好ましい。到達温度が120℃未満では、塗膜硬化が不十分で、耐食性が低下する場合があり、250℃超であると、焼付硬化が過剰になり、耐食性や加工性が低下する場合がある。焼付乾燥時間は1〜60秒であることが好ましく、3〜20秒であることが更に好ましい。1秒未満であると、焼付硬化が不十分で、耐食性が低下する場合があり、60秒を超えると、生産性が低下する場合がある。
【0141】
次に、水系塗装用組成物(β)が、紫外線硬化型組成物や電子線硬化型組成物の場合の製膜方法について具体的に述べる。これらの組成物を、前記の水系組成物の場合と同様な方法で塗布後、ウェット塗膜の水分を乾燥し、その後、紫外線または電子線を照射する。塗膜は、主に紫外線または電子線照射で生成するラジカルを起点に硬化製膜するため、乾燥温度は、焼付硬化型組成物の場合より低い乾燥温度でよい。乾燥工程にて、80〜120℃程度の比較的低い金属表面到達温度で水分の多くを揮発させてから紫外線または電子線照射するのが好ましい。
【0142】
塗膜中の紫外線硬化型樹脂を紫外線でラジカル重合し硬化する紫外線照射は、通常、大気雰囲気中、不活性ガス雰囲気中、大気と不活性ガスの混合雰囲気中等で行うが、本発明の紫外線硬化では、酸素濃度を10体積%以下に調整した大気と不活性ガスの混合雰囲気や、不活性ガス雰囲気中で紫外線照射するのが好ましい。酸素はラジカル重合の禁止剤となるため、紫外線照射時の雰囲気酸素濃度が低い場合、生成ラジカルへの酸素付加による失活や架橋反応阻害が少なく、本発明に用いる紫外線硬化型組成物が、ラジカル重合や架橋を経て十分に高分子化する。そのため、金属粒子や金属板への密着性が高まり、結果として、大気雰囲気中での紫外線硬化の場合より、塗膜の耐食性が向上する。ここで用いる不活性ガスとしては、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス、およびこれらの混合ガス等を例示できる。
【0143】
紫外光源としては、例えば、金属蒸気放電方式の高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等、希ガス放電方式のキセノンランプ等、マイクロ波を用いた無電極ランプ等を用いることにより、紫外線を照射できる。本発明の塗装金属板において、紫外線硬化型の塗膜を十分に硬化でき、所望の耐食性や導電性が得られるものであれば、どのようなランプを用いてもよい。また、一般に、塗膜が受光する紫外線のピーク照度や積算光量は塗膜の硬化性を左右するが、紫外線硬化型の塗膜を十分に硬化でき、所望の耐食性が得られるものであれば、紫外線の照射条件を特に限定しない。
【0144】
水系塗装用組成物(β)が、電子線硬化型組成物の場合、電子線硬化には、印刷、塗装、フィルムコーティング、包装、滅菌等の分野で用いられている通常の電子線照射装置を用いることができる。これらは、高真空中で熱フィラメントから発生した熱電子に高電圧をかけて加速し、得られた電子流を不活性ガス雰囲気中に取り出し、重合性物質に照射するものである。本発明の塗装金属板において、電子線硬化型の塗膜を十分に硬化でき、所望の耐食性や導電性が得られるものであれば、どのような装置を用いてもよい。また、一般に、塗膜が吸収する電子線の加速電圧は、電子線が塗膜を浸透する深さを左右し、吸収線量は重合速度(塗膜の硬化性)を左右するが、電子線硬化型の塗膜を十分に硬化でき、所望の耐食性が得られるものであれば、電子線の照射条件を特に限定しない。ただし、電子線によるラジカル重合の場合、微量の酸素が存在しても、生成ラジカルへの酸素付加による失活や架橋反応阻害が生じ、硬化が不十分になるため、酸素濃度が500ppm以下の不活性ガス雰囲気中で電子線照射するのが好ましい。ここで用いる不活性ガスとしては、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス、およびこれらの混合ガス等を例示できる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0146】
1.塗装用金属板
以下の亜鉛系めっき鋼板M1〜M4を準備し、水系脱脂剤(日本パーカライジング(株)製FC-4480)の水溶液に浸漬して表面を脱脂した後、水洗、乾燥して塗装用の金属板とした。
【0147】
M1:電気亜鉛めっき鋼板
(新日本製鐵(株)製ジンコート、板厚0.8mm、めっき厚約2.8μm)
M2:電気Zn-Ni合金めっき鋼板
(新日本製鐵(株)製ジンクライト、板厚0.8mm、めっき厚約2.8μm)
M3:溶融亜鉛めっき鋼板
(新日本製鐵(株)製シルバージンク、板厚0.8mm、めっき厚約7μm)
M4:溶融Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき鋼板
(新日本製鐵(株)製スーパーダイマ、板厚0.8mm、めっき厚約6μm)
【0148】
2.水系塗装用組成物
水系塗装用組成物の調製のため、まず、樹脂(A1)、金属粒子(B)、硬化剤(C)、シランカップリング剤(s)、防錆剤、着色顔料、粘度調整剤などを準備した。
【0149】
(1)樹脂(A1)
樹脂A11〜A13、A19を合成し、また、市販樹脂A16、A17を準備した。これらはいずれも本発明に用いる樹脂である。
【0150】
A11:カルボキシル基含有ポリエステル系ウレタン樹脂水分散液(製造例1で合成)
[製造例1]
攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計、サーモスタットを備えた10Lの反応容器に、2,2-ジメチロールブタン酸1628gとε-カプロラクトン3872gとを仕込み、触媒としての塩化第一錫27.5mgを添加して、反応容器内の温度を120℃に保持し、3時間反応させた。これにより、水酸基価225.5mgKOH/g、酸価114.6mgKOH/gの液状のカルボキシル基含有ポリエステルジオール(a11)を得た。
【0151】
次に、攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計、サーモスタットを備えた2Lの反応容器に、2,4-トリレンジイソシアネート149.9gとアセトン140.0gとを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、前記カルボキシル基含有ポリエステルジオール(a11)124.6g、数平均分子量1000のポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業(株)製PLACCEL210)273.1g及び1,4-ブタンジオール12.4gを加えた。反応容器内の温度を60℃に4時間保持してウレタン化反応を進行させ、NCO基末端ウレタンプレポリマーを調製した。このウレタンプレポリマー168.3gを攪拌しながら、トリエチルアミン6.1gを添加したイオン交換水230gを添加し、さらにヘキサメチレンジアミン1.67gを添加したイオン交換水230gを添加した。次いで、減圧下、60℃にて3時間かけてアセトンを溜去し、固形分濃度35%、酸価24.6mgKOH/g(固形分換算)のカルボキシル基含有ポリエステル系ウレタン樹脂水分散液(A11)を得た。
【0152】
A12:スルホン酸基含有ポリエステル系ウレタン樹脂水分散液(製造例2で合成)
[製造例2]
攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計、サーモスタットを備えた耐圧反応容器に、窒素気流下で攪拌しながら、アジピン酸1100gと3メチル-1,5-ペンタンジオール900gと、テトラブチルチタネート0.5gとを仕込み、反応容器内の温度を170℃に保持し、酸価が0.3mgKOH/g以下になるまで反応させた。次に、180℃、5kPa以下の減圧条件下で2時間反応を行い、水酸基価112mgKOH/g、酸価0.2mgKOH/gのポリエステルを得た。
【0153】
次に、上記反応容器と同じ装置の付いた別の反応容器に、このポリエステルポリオール500g、5-スルホナトリウムイソフタル酸ジメチル134gとテトラブチルチタネート2gを仕込み、上記と同じようにして、窒素気流下で攪拌しながら、反応容器内の温度を180℃に保持してエステル化反応を行い、最終的に分子量2117、水酸基価53mgKOH/g、酸価0.3mgKOH/gのスルホン酸基含有ポリエステル(a12)を得た。
【0154】
前記スルホン酸基含有ポリエステル(a12)280g、ポリブチレンアジペート200g、1,4-ブタンジオール35g、ヘキサメチレンジイソシアネート118g及びメチルエチルケトン400gを、攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計、サーモスタットを備えた反応容器に窒素気流下で仕込み、攪拌しながら液温を75℃に保持してウレタン化反応を行い、NCO含有率が1%のウレタンプレポリマーを得た。続いて、上記反応容器中の温度を40℃に下げて、十分攪拌しながらイオン交換水955gを均一に滴下し、転相乳化を行った。次に、内部温度を室温に下げて、アジピン酸ヒドラジド13gとイオン交換水110gとを混合したアジピン酸ヒドラジド水溶液を添加してアミン伸長を行った。若干の減圧下、60℃にて溶剤を溜去した後、イオン交換水を追加し、固形分濃度35%、酸価11mgKOH/g(固形分換算)のスルホン酸基含有ポリエステル系ウレタン樹脂水分散液(A12)を得た。
【0155】
A13:水酸基を導入したカルボキシル基含有ポリエステル樹脂水溶液(製造例3で合成)
[製造例3]
攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計、サーモスタットを備えた耐圧反応容器に、トリメチロールプロパン174g、ネオペンチルグリコール327g、アジピン酸352g、イソフタル酸109g及び1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物101gを仕込み、160℃から230℃まで3時間かけて昇温させた後、生成した縮合水を水分離器により留去させながら230℃で保持し、酸価が3mgKOH/g以下となるまで反応させた。この反応生成物に、無水トリメリット酸59gを添加し、170℃で30分間付加反応を行った後、50℃以下に冷却し、2-(ジメチルアミノ)エタノールを酸基に対して当量添加し中和してから、イオン交換水を徐々に添加することにより、固形分濃度45%、酸価35mgKOH/g、水酸基価128mgKOH/g、重量平均分子量13,000の水酸基を導入したカルボキシル基含有ポリエステル樹脂水溶液(A13)を得た。
【0156】
A19:スルホン酸基含有ポリエステル樹脂水分散液(製造例4で合成)
[製造例4]
攪拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計、サーモスタットを備えた耐圧反応容器に、窒素気流下で攪拌しながら、テレフタル酸199gとイソフタル酸232gとアジピン酸199g、5−スルホナトリウムイソフタル酸33g、エチレングリコール312gと2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール125gと1,5−ペンタンジオール187g、テトラブチルチタネート0.41gとを仕込み、反応容器内の温度を160℃から230℃まで4時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで、容器内を20分かけて徐々に5mmHgまで減圧し、更に0.3mmHg以下で、260℃にて40分間重縮合反応を行った。得られた共重合ポリエステル樹脂100gに、ブチルセロソルブ20g、メチルエチルケトン42gを添加した後、80℃で2時間攪拌溶解を行い、更に213gのイオン交換水を添加し、水分散を行った。その後、加熱しながら溶剤を留去し、固形分濃度30%のスルホン酸基含有ポリエステル樹脂水分散液(A19)を得た。
【0157】
A16:カルボキシル基、ウレア基含有ポリウレタン樹脂水分散液(三井化学ポリウレタン(株)製タケラックWS−5000)
A17:アクリル樹脂水分散液(DIC(株)製ボンコートR-3380-E)
【0158】
(2)A1以外の樹脂(比較例)
A15:ノニオン性ポリエーテル系ウレタン樹脂水分散液(DIC(株)製ボンディック1520)
A18:アミノ基含有エポキシ樹脂水溶液((株)ADEKA製アデカレジンEM-0718)
【0159】
(3)金属粒子(B)
市販の微粒子(試薬)をそのまま、あるいは粉砕して用いた。粒子の体積平均径は、ベックマン・コールター(株)製Multisizer3(コールター原理による精密粒度分布測定装置)を用いて測定した。
Ni:Ni微粒子((株)高純度化研究所製NIE02PB、体積平均径約3.3μm、標準電極電位 −0.25V)
W1:W微粒子((株)高純度化研究所製WWE08PB、体積平均径約1.2μm、標準電極電位 −0.09V)
W2:W微粒子((株)高純度化研究所製WWE06PB、体積平均径約3.3μm、標準電極電位 −0.09V)
Bi:Bi微粒子((株)高純度化研究所製BIE11PB、体積平均径約1.5μm、標準電極電位 +0.32V)
Ag:還元Ag微粒子((株)高純度化研究所製AGE08PB、体積平均径約1.2μm、標準電極電位 +0.799V)
CuNiZn:Cu55質量%、Ni18質量%、Zn27質量%のCu-Ni-Zn合金(洋白)の微粉末((株)高純度化研究所製Cu-Ni-Zn洋白ワイヤーを機械的に粉砕して得た体積平均径約3.3μmの微粒子で、標準電極電位 −0.06V)
CuSn:Cu80質量%、Sn20質量%のCu-Sn合金の微粉末((株)高純度化研究所製CUA02PB(目開き150μm以下の粉末)を機械的に粉砕して得た体積平均径約2.5μmの微粒子で、標準電極電位 +0.24V)
【0160】
(4)(B)以外の金属粒子(比較例)
市販の微粒子(試薬)を用いた。体積平均径は、前記(3)と同様にして測定した。
Al:Al微粒子((株)高純度化研究所製ALE11PB、体積平均径約3.5μm、標準電極電位 −1.66V)
Zn:Zn微粒子((株)高純度化研究所製ZNE01PB、体積平均径約7.9μm、標準電極電位 −0.76V)
【0161】
(5)硬化剤(C)
C1:メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ(株)製サイメル303)
C2:イソシアネート化合物(三井化学ポリウレタン(株)製タケネートWD−725)
【0162】
(6)シランカップリング剤
sl:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM-403)
s2:3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM-903)
s3:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM-803)
【0163】
(7)防錆剤
i1:ヘキサフルオロチタン酸(和光純薬工業(株)製、へキサフルオロチタン酸60%水溶液)
i2:リン酸水素マグネシウム(関東化学(株)製)
i3:シリカ微粒子(日産化学工業(株)製スノーテックスN、アンモニアで安定化された粒子径10〜20nmのシリカゾル)
【0164】
(8)着色顔料
p1:ZnOとCoOの固溶体((株)クサカベ製ピグメント品番068コバルトグリーンディープ、緑色顔料)
p2:亜硝酸第二コバルトカリウム((株)クサカベ製ピグメント品番117オーレオリン(コバルトイエロー)、黄色顔料)
p3:カーボンブラック(エボニックインダストリーズ社製 Special Black 6)
【0165】
(9)粘度調整剤
v1:架橋型ポリアクリル酸(東亜合成(株)製ジュンロンPW-111、未中和)
【0166】
前記の樹脂、金属粒子、添加剤、着色顔料と蒸留水とを用いて、水系塗装用組成物を調製した。
【0167】
樹脂(A1)、金属粒子、硬化剤(C)については、種々の配合比率を用いて水系塗装用組成物を調製した。
【0168】
本実施例にてシランカップリング剤s1、s2またはs3を用いる場合は、いずれの場合も、前記樹脂(A1)の不揮発分100質量部に対し5質量部となるように水系塗装用組成物に添加した。
【0169】
本実施例にて防錆剤i1またはi3を用いる場合は、いずれの場合も、水系塗装用組成物の不揮発分100質量部に対し10質量部となるように塗装用組成物に添加した。防錆剤i2を用いる場合は、水系塗装用組成物の不揮発分100質量部に対し5質量部となるように水系塗装用組成物に添加した。
【0170】
本実施例にて着色顔料p1またはp2を用いる場合は、水系塗装用組成物の不揮発分100質量部に対し20質量部となるように塗装用組成物に添加した。p3を用いる場合は、いずれの場合も、水系塗装用組成物の不揮発分100質量部に対し10質量部となるように水系塗装用組成物に添加した。
【0171】
水系塗装用組成物中に分散した金属粒子や着色顔料の沈降を抑止するため、本実施例のすべての水系塗装用組成物に、塗装用組成物にチクソトロピックな性質(揺変性)を付与できる粘度調整剤v1を添加した。水系塗装用組成物の水分と不揮発分とを含めた全体量の100質量部に対し、粘度調整剤v1を0.03〜0.1質量部添加した。v1の添加量は、それぞれの塗装用組成物に剪断応力(攪拌)を加えた場合に適度な粘度レベルに下がるように調整した。
【0172】
以下に示す表1〜表12に、各水系塗装用組成物に含まれる樹脂((A1)または(A1)以外の樹脂)、金属粒子((B)または(B)以外の金属粒子)、硬化剤(C)、シランカップリング剤(s)、防錆剤、着色顔料、粘度調整剤の有無や種類を示す。樹脂(A1)として、前記樹脂A16とA19の不揮発分質量比1:1の混合樹脂も用い、A16/A19混合物と記した(表12)。また、金属粒子については、樹脂不揮発分と金属粒子の総量に対する金属粒子の比率を体積%で示した。硬化剤(C)については、樹脂不揮発分と硬化剤(C)の総量に対する硬化剤(C)の比率を質量%で示した。
【0173】
ここで、「不揮発分」とは、塗料や組成物に溶媒として配合されている水や溶剤類を揮発させた後に残る成分のことを意味する。
【0174】
水系塗装用組成物の不揮発分濃度は、狙いの塗膜付着量や良好な塗装性を得るため、水の添加量を変えて適宜調整した。
【0175】
前記水系塗装用組成物を調製し各成分を均一に分散後、容器を密栓し、25℃で2日間静置した。その後、前記の塗装用金属板にロールコーターを用いて塗布し、これを熱風炉にて金属表面到達温度200℃で乾燥し、水冷、風乾した。また、下記の「3.性能評価(5)金属粒子配合による塗膜の色変化」での比較板とするため、前記水系塗装用組成物から金属粒子のみを抜いた水系塗装用組成物を別に調製し、前記と同様の製膜方法で、評価対象の塗装金属板と同様の塗膜厚となるように着色阻害性評価用の比較板を作成した。表1〜表12に、製膜後の塗膜厚(μm単位)を示した。なお、前記塗膜厚は、塗装後の塗膜の剥離前後の質量差を塗膜比重で除算して算出した。塗膜比重は、塗膜構成成分の配合量と各成分の既知比重から計算した。
【0176】
3.性能評価
前記の方法で作成した塗装金属板を用い、溶接性、表面接触抵抗、耐食性、金属粒子配合による塗膜の色変化について評価を行った。以下に、各試験と評価の方法を示す。
【0177】
(1)スポット溶接性
先端径5mm、R40のCF型Cr-Cu電極を用い、加圧力1.96kN、溶接電流8kA、通電時間12サイクル/50Hzにて連続打点性の溶接試験を行い、ナゲット径が3√t(tは板厚)を切る直前の打点数を求めた。以下の評価点を用いてスポット溶接性の優劣を評価した。
【0178】
4: 打点数が2000点以上
3: 1000点以上、2000点未満
2: 500点以上、1000点未満
1: 500点未満
溶接不可: ナゲットが生成せず1点も溶接できない
【0179】
(2)アース性
三菱化学(株)製の抵抗率計ロレスタEP(MCP-T360型)とESPプローブを用いた4端子4探針法、定電流印加方式で、塗装金属板上の異なる10点での接触抵抗を測定し、相加平均値をその塗装金属板の表面接触抵抗値とした。以下の評価点を用いてアース性の優劣を評価した。
【0180】
6: 表面接触抵抗が10-4Ω未満
5: 10-4Ω以上、10-3Ω未満
4: 10-3Ω以上、10-1Ω未満
3: 10-1Ω以上、103Ω未満
2: 103Ω以上、106Ω未満
1: 106Ω以上
【0181】
(3)平面部耐食性
前記金属板から50×100mmサイズの試験片を切り出し、板の端部をシール後、JIS-Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、120時間後の白錆発生面積率を測定した。以下の評価点を用いて平面部耐食性の優劣を評価した。
【0182】
6: 白錆発生なし
5: 白錆発生面積率3%未満
4: 白錆発生面積率3%以上5%未満
3: 白錆発生面積率5%以上10%未満
2: 白錆発生面積率10%以上20%未満
1: 白錆発生面積率20%以上
【0183】
(4)加工部耐食性
前記金属板から50×100mmサイズの試験片を切り出し、エリクセン試験機で塗装面の裏側から7mm高さの張出し加工を行い、板の端部をシール後、JIS-Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、120時間後の凸部の白錆発生面積率を測定した。以下の評価点を用いて加工部耐食性の優劣を評価した。
【0184】
6: 凸部に白錆発生なし
5: 白錆発生面積率5%未満
4: 白錆発生面積率5%以上10%未満
3: 白錆発生面積率10%以上20%未満
2: 白錆発生面積率20%以上30%未満
1: 白錆発生面積率30%以上
【0185】
(5)金属粒子配合による塗膜の色変化
前記塗装金属板と着色阻害性評価用の比較板(前記塗装金属板の塗膜から金属粒子のみを抜いたもの)のそれぞれから測定片を20枚切出し、スガ試験機(株)製分光測色計SC-T45を用い、それぞれの測定片についてL***表色系の明度L*、色度a*、b*を測定した。20枚の測定結果の相加平均値をその塗装金属板のL*、a*、b*値とした。前記塗装金属板と比較板のL*、a*、b*値から両板の色差ΔE*を算出し、以下の評価点を用いて、金属粒子の配合による塗膜の色変化を評価した。
【0186】
6: 色差ΔE*が0.3未満
5: 0.3以上、0.6未満
4: 0.6以上、1.0未満
3: 1.0以上、2.0未満
2: 2.0以上、4.0未満
1: 4.0以上
【0187】
表1〜表12に評価結果を併せて示す。
【0188】
【表1】

【0189】
【表2】

【0190】
【表3】

【0191】
【表4】

【0192】
【表5】

【0193】
【表6】

【0194】
【表7】

【0195】
【表8】

【0196】
【表9】

【0197】
【表10】

【0198】
【表11】

【0199】
【表12】

【0200】
本発明例の塗装金属板では、金属板、樹脂(A1)、金属粒子(B)の種類に関わらず、優れた導電性と耐食性を両立できる。更に、本発明例の塗装金属板では、塗膜が着色顔料を含まない場合(クリア塗膜)、着色顔料を含む場合(カラー塗膜)に関わらず、金属粒子(B)の色が塗膜色に悪影響を与えにくく、金属粒子が塗膜の外観設計を殆ど妨げないことがわかる。このような効果は、水系塗装用組成物中で経時後も優れた導電性を保持する特定の金属粒子(B)を、塗膜に少量だけ配合しているために生じる。
【0201】
カルボキシル基、スルホン酸基のグループをグループ1、エステル基、ウレタン基、ウレア基のグループをグループ2とすると、実施例で用いた樹脂(A1)の中で、樹脂A11(カルボキシル基含有ポリエステル系ウレタン樹脂)、A12(スルホン酸基含有ポリエステル系ウレタン樹脂)、A16(カルボキシル基、ウレア基含有ポリウレタン樹脂)、A19(スルホン酸基含有ポリエステル樹脂)は、グループ1から選ばれる官能基とグループ2から選ばれる官能基の両方を樹脂構造中に沢山含む。また、樹脂(A1)の中で、樹脂A13(水酸基を導入したカルボキシル基含有ポリエステル樹脂)は、グループ2から選ばれる官能基は十分に含むが、構造中に導入した水酸基の分だけカルボキシル基が減っており、従ってグループ1から選ばれる官能基は少ししか含まない。樹脂(A1)の中で、樹脂A17(アクリル樹脂)はグループ1から選ばれる官能基しか含まない。
【0202】
一方、樹脂A15(ノニオン性ポリエーテル系ウレタン樹脂)はグループ2から選ばれる官能基しか含まず、樹脂A18(アミノ基含有エポキシ樹脂)は、グループ1、グループ2のいずれの官能基も含まず、いずれも本発明の樹脂(A1)ではない。このような樹脂構造の特徴を反映して、グループ1とグループ2の両方の官能基を沢山含む樹脂A11、A12、A16、A19からなる塗膜の耐食性は、そうでない塗膜、例えば、グループ1とグループ2の両方共含まない樹脂A18からなる塗膜よりかなり優れる傾向にある。
【0203】
この理由は、<有機樹脂(A)>の項で述べたように、樹脂構造にカルボキシル基やスルホン酸基があれば、基材である金属板(下地処理がある場合は下地処理層)との密着性が向上して耐食性を高める効果があり、加えて、構造中に比較的高い凝集エネルギーを持つエステル基、ウレタン基、ウレア基があれば、密着性や腐食因子遮蔽性(塗膜の緻密性)が向上して耐食性を更に高める効果があるため、と考えられる。
【0204】
また、カルボキシル基またはスルホン酸基を樹脂構造中に沢山含むA11、A12、A16、A19、またはA16とA19の混合樹脂からなる塗膜は、これらの官能基を含まないA15やA18からなる塗膜より導電性が向上している。また、金属粒子(B)の色は、塗膜色に悪影響を与えにくく、塗膜の外観設計を妨げにくい。<有機樹脂(A)>の項で述べたように、カルボキシル基やスルホン酸基は、高極性の金属粒子(B)の表面に吸着し、金属粒子(B)どうしの凝集を防ぎ分散性を保つ効果がある。そのため、塗膜中に均一に分散した粒子(B)が良好な塗膜導電性(溶接性やアース性)をもたらし、同時に、塗膜表面に色むらや筋むら等が生じにくく、結果として目立った色変化が抑えられると考えられる。
【0205】
水系塗装用組成物に硬化剤(C)、シランカップリング剤、防錆剤を、それぞれ配合すると、そうでない場合に比べ、耐食性が向上する傾向がある。
【0206】
標準電極電位が−0.25Vを下回る卑な金属粒子を用いた場合、これらが水系塗装用組成物中で劣化するため、得られた塗装金属板の導電性が劣悪となる。
【0207】
樹脂(A1)と金属粒子(B)との体積比が必要な範囲を外れる場合、導電性と耐食性を両立できない。加えて、金属粒子(B)が多すぎる場合(樹脂(A1)と金属粒子(B)の総量に対する(B)の体積比が10体積%を超える場合)、所望の導電性は得られるが、金属粒子(B)の色が塗膜色に悪影響を与えやすくなる。塗膜厚が好ましい厚み範囲より薄い場合、耐食性が低い傾向があり、厚い場合は導電性が低下する傾向がある。
【産業上の利用可能性】
【0208】
以上述べてきたように、本発明によれば、有機溶剤系の導電性塗料に比べ、環境負荷が低く、かつインシネレーターや臭気対策設備、防爆設備等が不要で安価に塗装できる水系の導電性塗装用組成物を用いて、塗膜導電性(アース性、溶接性)と耐食性に優れる塗装金属板が得られる。また、この塗装金属板は、導電性確保に必要な金属粒子の塗膜への配合量が少ないため、着色顔料による塗膜着色性に優れ、金属粒子が塗膜の外観設計を妨げない。そのため、例えば、アース性や溶接性、耐食性が必要で外観設計も重要な屋内家電部材や内装建材等の用途として、従来のプレコート金属板より安価に素材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片面に、有機樹脂(A)と、25℃の水溶液における標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある金属粒子(B)とを含む塗膜(α)が水系塗装用組成物(β)の塗布により形成されており、前記塗膜(α)中の有機樹脂(A)と金属粒子(B)の25℃での体積比が90:10〜99.9:0.1であり、前記有機樹脂(A)が、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む樹脂(A1)、または更に該樹脂(A1)の誘導体(A2)を含むことを特徴とする、導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項2】
前記金属粒子(B)の25℃の水溶液における標準電極電位が−0.2〜+0.8Vの範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項3】
前記塗膜(α)の膜厚が2〜10μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項4】
前記樹脂(A1)または該樹脂(A1)の誘導体(A2)が、更にエステル基、ウレタン基、ウレア基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項5】
前記樹脂(A1)が構造中にウレア基を含むポリウレタン樹脂(A1u)であることを特徴とする、請求項4に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項6】
前記樹脂(A1)が構造中にウレア基を含むポリウレタン樹脂(A1u)と、カルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を含み、構造中にスルホン酸基を含むポリエステル樹脂(A1e)との混合樹脂であることを特徴とする、請求項5に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項7】
前記樹脂(A1)の誘導体(A2)が、下記一般式(I):
【化1】

(式中、「A1」の表記は樹脂(A1)を示し、「Z−」は炭素原子数1〜9、窒素原子数0〜2、酸素原子数0〜2の炭化水素鎖で、「A1〜Z」の表記は、「A1」と「Z」が両者の官能基を介して共有結合していることを示す。また、「−O−」はエーテル結合であり、「−OH」は水酸基であり、「−X」は炭素原子数1〜3の加水分解性アルコキシ基、加水分解性ハロゲノ基又は加水分解性アセトキシ基であり、「−R」は炭素原子数1〜3のアルキル基であり、置換基の数を示すa、b、c、dはいずれも0〜3の整数で、かつa+b+c+d=3である。)
で表される樹脂(A2Si)であることを特徴とする、請求項1〜6に記載のいずれか1項に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項8】
前記有機樹脂(A)が硬化剤(C)で硬化された樹脂であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項9】
前記硬化剤(C)がメラミン樹脂(C1)を含有することを特徴とする、請求項8に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項10】
前記金属粒子(B)が、Mo、Sn、W、Bi、CuまたはAgの単体、または、これらから選ばれる2種以上の混合物、または、これらから選ばれる1種以上を含む合金であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項11】
前記合金が、Cu-Ni系合金、Cu-Ni-Zn系合金、Cu-Sn系合金、Cu-Sn-P系合金、Cu-Al系合金、Cu-Zn系合金、Cu-Au系合金の単体、または、これらから選ばれる2種以上のCu系合金の混合物であることを特徴とする、請求項10に記載の導電性、耐食性塗装金属板。
【請求項12】
有機樹脂(A)と、25℃の水溶液における標準電極電位が−0.25〜+0.9Vの範囲にある金属粒子(B)とを含み、前記有機樹脂(A)と金属粒子(B)の不揮発分体積比が90:10〜99.9:0.1であり、前記有機樹脂(A)が、カルボキシル基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも1種の官能基を構造中に含む樹脂(A1)を含むことを特徴とする水系塗装用組成物。

【公開番号】特開2012−71596(P2012−71596A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191569(P2011−191569)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】