説明

導電性と抗ピル性、及び蓄熱性を有するアクリル系合成繊維とその製造方法、並びにそれを用いた紡績糸

【課題】 繊維製品に優れた制電性、蓄熱性と抗ピル性能を付与することができる導電性アクリル系繊維を提供することを課題とする。
【解決手段】 導電率10−3S/cm以上の導電性微粒子を50体積%以上80体積%以下含有するアクリロニトリル系ポリマーからなる芯部と、アクリロニトリル系ポリマーからなる鞘部より構成されるアクリル系繊維であって、印加電圧1000V下での単繊維電気抵抗平値が1.3×105m・Ω以下であり、かつ、繊維の結節強度[DKS(cN/dtex)]と結節伸度[DKE(%)]の積の値が10以上35以下である導電性アクリル系繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品に優れた制電性能と抗ピル性能、及び蓄熱性能を付与することのできる導電性アクリル系繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系繊維は、柔軟なタッチ、保温性、形態安定性、耐光性、高染色性などに優れた特徴を有しており、ナイロン、ポリエステル繊維等の合成繊維と同様に、衣料製品、インテリア分野の繊維製品に多用されている。
しかし、アクリル系繊維を含む合成繊維は、一般的に電気絶縁性であるため、接触や摩擦により発生した静電気は、合成繊維から容易に漏洩しない。この静電気は、衣服のまとわりつき、汚れの付着、衣服着脱時の不快感等を発生するので、静電性能を有する繊維素材がかねてより要望されていた。
また、アクリル系繊維を使用した衣服、特にセーターやジャージ、インナーには、着用時にピリングが発生しやすいといった問題がありこの点についても改善が求められてきた。 静電性能を付与する方法としては、繊維表面に導電材料を後加工により付与する方法、繊維自身に導電材料を使用する方法、導電材料を繊維内部に練り込む方法など繊維自体に導電性能を付与させる種々の提案がなされている。特許文献1、特許文献2には、芯鞘複合紡糸を用い白色系の導電性微粒子を芯部に練り込んだ導電性芯鞘型複合繊維が開示されている。
いわゆる抗ピル性能を付与する方法としては、特許文献3などの様に繊維自体の物性を制御する方法などが数多く提案されている。
一方、近年、消費者の多機能化された繊維製品を要望する流れのなか、抗ピル性能と制電性能を併せもつ繊維製品の開発が望まれている。
上記特許文献1、特許文献2で開示されている導電性繊維の場合、製品に十分な導電性能を付与することは可能であるが、その反面、繊維製品の抗ピル性能を低下させてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開平8−337925号公報
【特許文献2】特開平9−324320号公報
【特許文献3】特開昭57−121610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、繊維製品に十分な制電性能と抗ピル性能、及び蓄熱性能を付与することが可能な導電性アクリル系繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、導電率10−3S/cm以上の導電性微粒子を50体積%以上80体積%以下含有するアクリロニトリル系ポリマーからなる芯部と、アクリロニトリル系ポリマーからなる鞘部とからなるアクリル系繊維であって、このアクリル系繊維中に前記導電性微粒子を5質量%以上15質量%以下含有し、印加電圧1000V下での単繊維電気抵抗平値が1.3×10M・Ω以下であり、かつ、繊維の結節強度[DKS(cN/dtex)]と結節伸度[DKE(%)]の積の値が10以上35以下である導電性アクリル系繊維を第1の要旨とする。
そして、アクリロニトリル系ポリマーを有機溶剤に溶解した鞘成分紡糸原液と、導電率10−3S/cm以上の導電性微粒子およびアクリロ二トリル系ポリマーを質量比で4以上20以下となるように調整した芯成分紡糸原液とを、アクリル系繊維中に前記導電性微粒子が5質量%以上15質量%以下含有するように芯鞘型紡糸口金を用いて湿式紡糸し、60℃以上の熱水中で、4.0倍以上5.5倍以下で延伸、さらに、10%以上25%未満で緩和熱処理して得られる、請求項1記載の導電性アクリル系繊維の製造方法を第2の要旨とする。
さらに上記の導電性アクリル系繊維を1質量%以上15質量%以下含有した紡績糸を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、特にセーター、ジャージ、インナーなど衣料用途において、優れた制電性能と抗ピル性能、及び蓄熱性能を兼備した繊維製品を提供する事を可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、芯成分と鞘成分を構成するアクリロニトリル系ポリマーは、通常のアクリル系繊維の製造に用いられるアクリロニトリル系ポリマーであればよく、特に限定しない。芯成分と鞘成分を構成するアクリロニトリル系ポリマーは、同一組成であっても異なる組成であってもよいが、そのモノマーの構成は、少なくとも50質量%のアクリロニトリルを含有していることが必要である。これによりアクリル系繊維本来の特性を発現することができる。アクリロニトリルと共重合するモノマーとしては、通常アクリル系繊維を構成するアクリロニトリル系ポリマーを構成するモノマーであれば特に限定しないが、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、さらにアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
また、アクリロニトリル系ポリマーにp−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸、及びこれらのアルカリ塩を共重合することは、染色性の改良のために好ましい。
【0007】
本発明の導電性アクリル系繊維の芯部は、導電率10−3S/cm以上の導電性微粒子を50体積%以上80体積%以下含有するアクリロニトリル系ポリマーからなる。含有量を50体積%以上とすることにより、後述の抗ピル性付与条件で製造した際においても、そのアクリル系繊維中に導電性微粒子の連続相が形成される。また、80体積%以下とすることにより安定した紡糸が可能で、十分な糸質が得られる。また、導電性アクリル繊維中に前記導電性微粒子が5質量%以上15質量%以下含有することが必要である。含有量が5質量%以上とすることにより、芯部に目標とする導電性能を得るのに十分な導電性微粒子の連続相が安定して形成される。一方、含有量が15質量%を超えると、抗ピル性付与の製造条件下では、繊維物性が低下するため、加工性不良となり、また、導電性アクリル系繊維の白度の点でも商品性が低下するため好ましくない。 導電率10−3S/cm以上の導電性微粒子は、白度の高い金属酸化物であることが好ましく、この様な導電性微粒子としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化錫または酸化亜鉛で表面を被覆した酸化チタンが挙げられる。
更に導電性を高める添加剤を併用する方法として、酸化錫、酸化インジウムに対して酸化アンチモンを、酸化亜鉛に対してアルミニウム、カリウム、イソジウム、ゲルマニウム、錫などの金属酸化物を併用する方法が挙げられる。
導電性微粒子の形態には、特に限定はないが、平均粒径が3μm以下であることが原液の濾過工程、紡糸工程の安定性から好ましい。
【0008】
本発明の導電性アクリル系繊維は、印加電圧1000V下での単繊維電気抵抗平値が1.3×10M・Ω以下が必要であり、1.0×10M・Ω以下であることがより好ましい。印加電圧1000V下での単繊維電気抵抗平値が1.3×10M・Ω以下とすることで、導電性アクリル系繊維を繊維製品に少量混合するだけで十分な制電性能を付与することができる。1.3×10M・Ωを越える場合であっても、繊維製品に制電性を付与することは可能であるが、その場合、繊維製品中の導電性アクリル系繊維の混合率を高める必要があり、繊維製品の色調や風合いに悪影響を与える場合があり好ましくない。
【0009】
更に、本発明の導電性アクリル系繊維は、その繊維の結節強度[DKS(cN/dtex)]と結節伸度[DKE(%)]の積の値が10以上35以下であることが必要であり、15以上30以下であることがより好ましい。この結節強度と結節伸度の積の値は、繊維製品の抗ピル性付与するための指標であり、35以下とすることにより、導電性アクリル系繊維を混紡した繊維製品に、目標とする抗ピル性能を付与する事ができる。10以上とすることによりアクリル系繊維が脆くなり過ぎるのを抑え、紡績工程での折損によるフライ発生や脱落が抑えられる。特にこの値が15以上30以下の場合には、紡績工程、特にトウコンバーターでの加工性に優れるため、より好ましい。一方、この値が10未満では、加工工程において、導電性アクリル繊維の脱落が顕著となり、製品の制電性能が低下する。
【0010】
本発明の導電性アクリル系繊維の単繊維繊度は、特に制限はないが、衣料用途に用いる場合には、0.5dtex以上4dtex以下が好ましく、1.0dtex以上3.3dtex以下であることがさらに好ましい。
単繊維繊度が0.5dtex以上とすることにより紡績工程でのネップ発生を抑えることができ、4dtex以下とすることにより繊維製品の風合いを損ねることもない。
【0011】
本発明の導電性アクリル系繊維は、例えば以下の製造方法で得ることができる。まず、鞘成分及び芯成分の紡糸原液を調整する。鞘成分の紡糸原液は、上記のアクリロニトリル系ポリマーを有機溶剤に溶解し調整する。一方、芯成分の紡糸原液は、上記の導電性微粒子と上記のアクリロニトリル系ポリマーを質量比で4以上20以下となるように混合して有機溶剤に溶解し調整する。上記質量比を4以上にすることにより、導電性アクリル系繊維を後述の抗ピル性付与条件で製造した際においても、そのアクリル系繊維中に導電性微粒子の連続相が安定して形成される。一方、20以下とすることにより紡糸を行うときに導電性微粒子の分散性を十分なものに保つとともに紡糸原液の曳糸性の低下を抑え、凝固糸引き取り時あるいは延伸時に芯部の破断の発生を抑制できる。この芯部の破断は、導電性アクリル系繊維の導電性を低下させる。
【0012】
上記の各紡糸原液を調整するための有機溶剤は、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機溶剤を好ましく用いることができるが、特に限定されるものではない。アクリル系繊維の紡糸で一般的に用いられるその他の溶剤も選択することができる。
【0013】
各紡糸原液の固形分濃度、温度は、特に制限はないが、固形分濃度が低過ぎると紡糸後の繊維中にボイドが発生しやすく、結果として繊維物性の低下と導電性能の低下を招く恐れがあるので、鞘成分の紡糸原液中の固形分濃度は5質量%以上であることが好ましく、また芯成分の紡糸原液中の固形分濃度は30質量%以上であることが、芯部の導電パス形成の為、好ましい。
【0014】
次に、準備した鞘成分、芯成分の紡糸原液を、芯鞘型紡糸口金を用いて、導電性アクリル系繊維中に含まれる導電性微粒子の含有量が5質量%以上15質量%以下となるように鞘部と芯部の比率を設定し、溶剤と水からなる凝固浴中に吐出して繊維化する。5質量%以上とすることにより、後述する抗ピル性付与に必要な延伸、緩和条件下においても、芯部に、目標とする導電性能を得るのに十分な導電性微粒子の連続相が形成される。一方、導電性微粒子の含有量が15質量%を超えると、抗ピル性付与の製造条件下では、繊維物性が低下するため、加工性不良となり、また、導電性アクリル系繊維の繊維白度の点でも商品性が低下するので、好ましくない。
【0015】
上記凝固浴の溶剤濃度、温度に特に制限はないが、溶剤濃度は20質量%以上60質量%以下、温度は30℃以上55℃以下であることが好ましい。
凝固浴の溶剤濃度を20質量%以上とすることで、紡糸安定性を一定のレベルに保つことができる。また60質量%を超えると、凝固速度が遅く、単繊維間の接着が発生しやすくなる為、好ましくない。
凝固浴の温度を30℃以上とすれば、安定した紡糸性が得られるが、55℃を超えると、アクリル系繊維が脆くなり、繊維物性の低下を招くので、好ましくない。
【0016】
凝固浴を出た糸条は、60℃以上の熱水中で、4.0倍以上5.5倍以下で延伸されるとともに洗浄脱溶媒され、引き続き、油剤付与、乾燥工程を施した後に緩和処理が施される。延伸倍率が4.0倍以上であれば、紡績等の加工に対して十分な繊維物性のアクリル系繊維が得られるが、一方、5.5倍を超えると、抗ピル性が低下するので好ましくない。
また、乾燥、緩和熱処理は、従来アクリル系繊維の製造に用いられる、熱ロールやネットプロセスによる乾燥とアニール、熱板緩和、スチーム緩和といった緩和方法を単独または組み合わせて行うことができる。緩和熱処理における収縮率は、抗ピル性と導電性能を両立させるためには10%以上25%未満とすることが必要である。収縮率が、10%未満であれば、導電性が不充分となり、25%以上であれば、抗ピル性が低下する。
【0017】
本発明の紡績糸は、本発明の導電性アクリル系繊維を1質量%以上15質量%以下と他の繊維85質量%以上99質量%以下から構成される。
導電性アクリル系繊維を1質量%以上とすれば、繊維製品に十分な制電性能を付与することができ、15質量%以下とすることで繊維製品の色調や風合いを損ねることはない。
混紡する他の繊維としては、通常のアクリル系繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨンなどの化学繊維、綿、ウール、シルク等の天然繊維が上げられ、特に制限はない。
また、本発明の紡績糸より得られる編地の摩擦耐電圧は、3000V以下である。これにより静電気を原因とする衣類のまとわりつき、汚れの付着、衣服着脱時の不快感等の従来の問題を解決することができる。
更に、本発明の紡績糸は、その抗ピル性能が3級以上、好ましくは3.5級以上の抗ピル性を有する。抗ピル性が3級以上であることにより、本発明の紡績糸を用いた繊維製品に、実用面で十分な抗ピル性能を付与することができる。尚、本発明での抗ピル性は JIS L1076 A法に従って測定された値である。
また本発明の紡績糸は、紡績糸中の導電性微粒子の含有量が0.5質量%以上となるように本発明の導電性アクリル系繊維を混紡することで、繊維製品に実用的な蓄熱性能を付与することが可能である。ここで言う繊維製品に実用的な蓄熱性能とは、下記の方法で測定した蓄熱量ΔTが3℃以上であることを指し、冬場の繊維製品の使用環境を想定すると、5℃以上であることがより好ましい。
『蓄熱量ΔTの測定方法』
(1) 導電性アクリル系繊維を含有する紡績糸Aからなる編地A(15×15cm)と、比較対照品として一般のアクリル系繊維からなる紡績糸Bからなる編地B(15×15cm)を作成する。
(2) 温度22℃、湿度65%環境下で、上記編地Aおよび編地Bに照射距離30cmとして300Wのアイランプの光を10分間照射し、各々の表面温度を測定する。
(3) 10分後の編地Aの表面温度をTa、編地Bの表面温度をTbとし、その差をΔT、即ち ΔT=Ta−Tbを、紡績糸Aの蓄熱量ΔTとした。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の導電性アクリル系繊維のより具体的な実施形態として、実施例を挙げて詳細に説明する。
なお、実施例において、単繊維電気抵抗値、摩擦帯電圧の測定、結節強度、結節伸度、抗ピル性など特性値は、以下の方法で測定を実施した。
【0019】
(単繊維の電気抵抗値の測定法)
得られた導電性アクリル系繊維を正確に1cm離して銀ペースト(藤倉化成株式会社製ドータイト)により金属端子に接着した。
この金属端子間に温度20℃、相対湿度40RH%の雰囲気において1000Vの直流電圧を印加し、金属端子間の抵抗値を測定した(東亜電波株式会社製SM−8210)。
【0020】
(編地の摩擦帯電圧測定法)
得られた導電性アクリル系繊維と市販のアクリル系繊維とを用いて紡績糸を形成し、その紡績糸で16ゲージの天竺編地を作製した。得られた天竺編地を用いてJIS−L−1094−1980に定められている摩擦帯電圧測定法に基づいて、温度20℃、相対湿度40RH%の雰囲気にて摩擦帯電圧の測定を行った。
【0021】
(編地の蓄熱性能評価)
各サンプルを混紡して得られる紡績糸で、16ゲージの天竺編地を作製しその編地を15×15cm角の測定試料とする。その試料を、先述の方法にて、蓄熱量ΔTを測定した。
(使用ランプ 岩崎電気株式会社製 リフレクターフラッド写真用散光形 PRF300W)
【0022】
(繊維の結節強度、結節伸度)
JIS L1015の方法に従って測定した。
【0023】
(抗ピル性)
16ゲージの天竺編地を、JIS L1076 A法に従って測定した。
【0024】
(トウカッティング性評価)
得られた導電性アクリル系繊維の100ktexトウをトウコンバーター機(SEYDEL社製SEYDEL682)を用い、トータル延伸倍率4.0倍、処理速度200m/minにて処理を行った。
【0025】
(鞘成分の紡糸原液の調整)
鞘成分の紡糸原液(a1)として、アクリロニトリル単位94質量%、アクリル酸メチル単位5.5質量%、メチルスルホン酸ナトリウム単位0.5質量%からなるアクリロニトリル系ポリマーを、固形分濃度が20質量%となるようにジメチルアセトアミドに溶解した有機溶剤溶液を作製した。
鞘成分の紡糸原液(a2)として、アクリロニトリル単位93質量%、酢酸ビニル単位7質量%からなるアクリロニトリル系ポリマーを、固形分濃度が20質量%となるようにジメチルアセトアミドに溶解した有機溶剤溶液を作製した。
【0026】
(芯成分の紡糸原液の調整)
アクリロニトリル単位93質量%、酢酸ビニル単位7質量%からなるアクリロニトリル系ポリマーと、導電性酸化チタン微粒子(石原産業株式会社製ET−500W:粒径0.2〜0.3μm、導電率0.4S/cm)と、ジメチルアセトアミドとを固形分濃度、導電性酸化チタン微粒子とアクリロニトリル系ポリマーとの質量比(A)/(B)がそれぞれ表1に示す値となるように混合することによって、2種類の紡糸原液(b1、b2)を得た。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例1〜7、比較例1〜6)
鞘成分の紡糸原液a1、a2と、芯成分の紡糸原液b1、b2とを、表2に示した組み合わせで以下の条件で紡糸し、導電性アクリル系繊維を得た。得られた導電性アクリル系繊維の評価結果を表3に示した。
鞘成分の紡糸原液と芯成分の紡糸原液とを、孔数が5000、孔径φが0.07mmの芯鞘型紡糸口金により、導電性アクリル系繊維中の導電性酸化チタン微粒子の含有量が表2に示す値となるようにそれぞれ芯部と鞘部の比率を設定して、表2に示す紡糸条件にて凝固、95℃の熱水中での延伸、脱溶剤、油剤付与、乾燥緻密化の各処理を施した後、熱収縮処理にて加圧水蒸気下、表2に示す温度で熱収縮させることにより、単繊維繊度4.0dtexの導電性アクリル繊維を製造した。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
(実施例8〜15、比較例7〜13)
また、実施例1、2、比較例2、4、5にて得られた繊維を76mmのカット綿とし、単繊維繊度3.3dtexの市販のアクリル系繊維(三菱レイヨン株式会社製 H615 カット長76mm)およびウール(64s)を、表4に示す質量比率で混綿してメートル番手48番単糸の紡績糸を作成し、得られた紡績糸を用いて16ゲージの天竺編地を作製した。その後、作製した各天竺編地に対して、上記で説明した摩擦帯電圧測定および抗ピル性を評価した。その結果を表4に示した
【0032】
【表4】

【0033】
表4に示したように、本発明の導電性アクリル系繊維は、繊維製品に優れた制電性、及び抗ピル性能を付与することができる。
(実施例16〜19、比較例14〜18)
また、実施例1、2、にて得られた繊維を76mmにカット綿とし、単繊維繊度3.3dtexの市販のアクリル系繊維(三菱レイヨン株式会社製 H615 カット長76mm)およびウール(64s)を、表4に示す質量比率で、混綿してメートル番手32番単糸の紡績糸を作成し、得られた紡績糸を用いて12ゲージの天竺編地を作製した。また、単繊維繊度3.3dtex市販のアクリル系繊維(三菱レイヨン株式会社製 V17 カット長76mm)100%からなるメートル番手32番単糸の紡績糸を用いて12ゲージの天竺編地を作製し、これを比較対照品として上記で説明した蓄熱性の評価を実施した。
【0034】
【表5】

【0035】
表5に示したように、導電性微粒子を0.5質量%以上含有するように本発明の導電性アクリル系繊維を混紡した繊維製品は、優れた蓄熱性を有することが確認できる。
【0036】
(実施例20〜21、比較例19〜20)
実施例1、2および比較例5、6で得られた繊維を100Ktexの繊維束(トウ)とし、トウコンバーター(SEYDEL社製:SEYDEL682)による処理を行い、カッティング性(カット時のフライ発生量、糸切れ、ネップ発生状況の目視判定)について評価した。その結果を表5に示す。
【表6】

【0037】
表6に示したように、本発明の導電性アクリル系繊維は比較品に比べ、トウコンバーターでのカッティング性に非常に優れた特性を示すことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電率10−3S/cm以上の導電性微粒子を50体積%以上80体積%以下含有するアクリロニトリル系ポリマーからなる芯部と、アクリロニトリル系ポリマーからなる鞘部より構成されるアクリル系繊維であって、このアクリル系繊維中に前記導電性微粒子を5質量%以上15質量%以下含有し、印加電圧1000V下での単繊維電気抵抗平値が1.3×10M・Ω以下であり、かつ、繊維の結節強度[DKS(cN/dtex)]と結節伸度[DKE(%)]の積の値が10以上35以下である導電性アクリル系繊維。
【請求項2】
アクリロニトリル系ポリマーを有機溶剤に溶解した鞘成分紡糸原液と、導電率10−3S/cm以上の導電性微粒子およびアクリロ二トリル系ポリマーを質量比で4以上20以下となるように調整した芯成分紡糸原液とを、アクリル系繊維中に前記導電性微粒子が5質量%以上15質量%以下含有するように芯鞘型紡糸口金を用いて湿式紡糸し、60℃以上の熱水中で、4.0倍以上5.5倍以下で延伸し、さらに、10%以上25%未満で緩和熱処理して得られる、請求項1記載の導電性アクリル系繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の導電性アクリル系繊維を1質量%以上15質量%以下含有した紡績糸。
【請求項4】
請求項1記載の導電性アクリル系繊維を、紡績糸中の導電性微粒子の含有量が0.5質量%以上となるように混紡した請求項3記載の紡績糸。

【公開番号】特開2007−9390(P2007−9390A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62620(P2006−62620)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】