説明

導電性の高いカーボンブラック及びそれを含有する高導電性組成物

【課題】 ゴム、プラスチック、電池用ペースト又は無機酸化物導電性等に配合することにより、これらに高い導電性を付与する効果が著しいカーボンブラック及びこれら低導電性物に該カーボンブラックを配合した高導電性組成物の提供。
【解決手段】 窒素吸着比表面積(NSA)が170〜350m/g、CTAB吸着比表面積が140〜200m/g、温度ステップ法により求めたカーボンブラックの水素ガス発生量の合計(ΣHc)が2400ppm以下、1100℃±50℃で発生する水素ガス量Hc(1100)と1600℃±50℃で発生する水素ガス量Hc(1600)との比 Hc(1100)/Hc(1600)が0.5以下であることを特徴とするカーボンブラック及び該カーボンブラックを含有させた導電性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム、プラスチック、電池用ペースト又は無機酸化物導電性等に配合する導電性の高い新規なカーボンブラック及びそれを配合した高導電性組成物に関する。更に詳しくは、従来の導電性のカーボンブラックに観られるような高いストラクチャーを有せずに、より高い導電性を付与する効果のあるカーボンブラック及びそれを含有する高導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックはゴム等の製品に対して極めて優れた補強性能のある充填剤として知られており、製品の用途に応じて選択されゴム用充填剤として使用されている。また、カーボンブラック自体が準導電物質であることを利用してプラスチック、ゴム無機金属酸化物などに配合することにより、、塗料、接着剤、電池材料等の組成物に導電性を付与、あるいは絶縁性と導電性の中間的な電気抵抗を付与する充填剤としても用いられる。
【0003】
一般的にカーボンブラックを配合してなる組成物の導電性は、充填するカーボンブラックの粒子の大きさや結晶構造、ストラクチャー、凝集体分布により変化すると考えられている。すなわち粒子径が小さく、結晶構造が発達し、ストラクチャーが大きく、表面官能基が少ないカーボンブラックほど導電性は高いとされている。
【0004】
たとえばケッチェンブラックは非常に高い比表面積と発達した結晶構造及びストラクチャーを有し、アセチレンブラックは発達したストラクチャーを有し表面官能基が少ないことから、配合物に高い導電性を付与するカーボンブラックであることが知られている。これらのカーボンブラックは凝集しやすく分散が困難である問題がある。
【0005】
一般に発達した結晶構造や、表面官能基の少ないカーボンブラックはゴムやプラスチックよりなるマトリックス成分との親和性が低くなるために、マトリックス成分に配合した場合、機械的特性が低下するという問題点がある。また、充分な導電性を得るために配合するカーボンブラックにより粘度が著しく高くなったり、従来の導電性カーボンブラックは同じ配合組成物内であっても測定箇所により抵抗値がばらついてしまう、すなわち抵抗値が不均一であるという問題もあった。
【0006】
特許文献1では導電性の均一性を上げるためにアグリゲートサイズ分布指数(S=0.83942×log(D50/Dst))を限定した高いストラクチャーのカーボンブラックが提案されている。しかし、この発明は抵抗率のバラツキを低減するものであり、比較しているアセチレンブラックやバルカンXC−72よりも高い導電性を有しているものでは無い。
【0007】
特許文献2,特許文献3などでは導電性を付与するカーボンブラックの分散性を改善するため、酸化処理や不活性雰囲気下で加熱処理することが提案されているが、カーボンブラック製造以外の特殊な処理設備を要し、かつ処理時間や費用の増大が問題となる。
【0008】
【特許文献1】特開平09−048932号公報
【特許文献2】特開平09−040881号公報
【特許文献3】特開平11−172146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ゴム、プラスチック、電池用ペースト又は無機酸化物導電性等に配合することにより、これらに高い導電性を付与する効果が著しいカーボンブラック及びこれら低導電性物に該カーボンブラックを配合した高導電性組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 窒素吸着比表面積(NSA)が170〜350m/g、CTAB吸着比表面積が140〜200m/g、温度ステップ法により求めたカーボンブラックの水素ガス発生量の合計(ΣHc)が2400ppm以下、1100℃±50℃で発生する水素ガス量Hc(1100)と1600℃±50℃で発生する水素ガス量Hc(1600)との比 Hc(1100)/Hc(1600)が0.5以下であることを特徴とするカーボンブラック、
[2] 165Mpaで4回の圧縮処理を行った後のジブチルフタレート吸収量(24M4DBP)が120cm/100g以下である上記[1]に記載のカーボンブラック、及び
【0011】
[3] プラスチック、ゴム、塗料、接着剤または電池材料に上記[1]又は[2]に記載のカーボンブラックを含有させた導電性組成物、を開発することにより上記の課題を解決した。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、より高い導電性を付与する効果のあるカーボンブラック及びそれを含有する高導電性組成物を提供することが可能となる。本発明のカーボンブラックは、従来の導電性カーボンブラックに観られる、高い導電性を得るための配合量を増大に起因する機械的物性の損失を低減する。また、本発明のカーボンブラックは特殊な処理を施していないので、より安価な導電性カーボンブラックの供給が可能となる。すなわち、高い導電性を要求する自動車部品、OA機器部品、電気・電子機器部品や建設資材などのゴム製品及びプラスチック製品、導電性を要する塗料や接着剤さらには電池用材料などを提供する事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
カーボンブラックのNSAはその値が大きいほど導電性が良好となる傾向がある。本発明の対象とするカーボンブラックはNSAが170〜350m/gであることが必要であり、170m/g未満であると導電性が低くなるため、充分な導電性能を得るためには多量のカーボンブラックを配合しなければならず、その結果機械的性能の低下が著しく好ましくない。一方350m/gを越えると組成物にしたときのCBの分散性及び加工性が著しく低下するために好ましくない。より好ましくは180〜300m/gである。
【0014】
同様に、細孔施工部分を含まない有効比表面積を示すCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)吸着比表面積は、140〜200m/gである。CTAB吸着比表面積が140m/g未満であると充分な導電性能を得るためには多量のカーボンブラックを配合しなければならず、機械的性能の低下が著しく好ましくない。一方200m/gを越えると、組成物にしたときの分散性及び加工性が著しく低下するために好ましくない。より好ましくは145〜190m/gである。
【0015】
また、本発明におけるカーボンブラックの温度ステップ法により求めた水素含有量の合計(Hc)は2400ppm以下であり、この値は小さいほど導電性が良好となる傾向を有している。2400ppmを超えると充分な導電性能を得るためには多量のカーボンブラックを配合しなければならず、機械的性能の低下が著しく好ましくない。好ましくは2300ppm以下である。
【0016】
さらに、本発明におけるカーボンブラックの温度ステップ法により求めた1100℃付近で発生するHc(1100)と1600℃付近で発生するHc(1600)との比 Hc(1100)/Hc(1600) は 0.5以下となる必要がある。この値が0.5を超えると導電性能が損なわれ、充分な導電性能を得るためには多量のカーボンブラックを配合しなければならない。より好ましくは0.4以下である。
【0017】
本発明のカーボンブラックの圧縮処理を行った後のジブチルフタレート吸収量は120cm/100g以下であることが必要である。カーボンブラックのストラクチャーは混練時に一部が切断されるが24M4DBPは混練により影響を受けないので配合した組成物中に残存するストラクチャーとされている。しかし24M4DBPがこの値より大きいと組成物の粘度が著しく上昇し加工性が著しく悪くなる。より好ましくは115以下である。
【実施例】
【0018】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を説明する。
[測定法]
本発明において適用されるカーボンブラックの物理化学的特性の測定法を次に示す。
〔1〕窒素吸着比表面積(NSA)
JIS K6217―2:2001 のA法による。単位重量あたりの比表面積m/gで示す。
【0019】
〔2〕CTAB吸着比表面積(CTAB)
JIS K6217―3:2001 のA法による。単位重量あたりの比表面積m/gで示す。
【0020】
〔3〕水素含有量(Hc)
高感度水素分析装置(堀場製作所EMGA−621,TCD検出器使用)を用い、カーボンブラックを2500℃まで段階的に加熱したときに発生する水素量を測定する。カーボンブラック1gあたりに換算した数値ppmで示す。尚、本発明における水素含有量はカーボンブラックに吸着した水に由来するものではなく、カーボンブラックに共有結合している水素原子に由来するものである。
具体的な測定は、吸着成分を除去する為に、あらかじめ真空乾燥機にて125℃で4時間脱気乾燥を行ったカーボンブラック20〜30mgを黒鉛ルツボ内に入れ熱分解させる。発生するガスをキャリアガス(不活性アルゴンガス)一定流量(400ml/分)で流通しながら、高温酸化剤、常温酸化剤、脱CO剤、脱HO剤に通し、カラムにて分離後に水素ガスを検出器(熱伝導度法)で計測する。
温度条件は10℃/secにて昇温し、600℃にて70sec、1100℃にて100sec、1600℃にて80sec及び1900℃にて70sec保持した後に、2500℃まで昇温する温度ステップ法を用い、各ステップの昇温開始から保持時間終了までに発生する水素量を定量した。測定した温度プロファイルを図1に示す。
【0021】
〔4〕圧縮処理を行った後のジブチルフタレート吸収量(24M4DBP)
JIS K6217―4:2001 による。100gあたりの吸収量cm/100gで示す。
【0022】
[実施例1〜6]
通常のオイルファーネス法カーボンブラック製造装置を用い、表1に示す本発明のカーボンブラックを製造した。物理化学特性を同表に示す。
【表1】

【0023】
[比較例1〜6]
表2に比較用カーボンブラック(比較例1〜4)を示す。また導電性カーボンブラックとして市販されている電気化学工業(株)製のアセチレンブラック(比較例5)及びCABOT社製のバルカンXC−72(比較例6)も示す。
【表2】

【0024】
[ゴム特性評価試験]
表1及び2に示すカーボンブラックを表3に示す配合条件にてコンパウンドし、各種物性を評価した。
【表3】

【0025】
全ての材料をバンバリーミキサー及びロールにて混練した後に、所定の形状にして150℃の温度で20分間加硫処理してゴム配合物を得た。尚、ゴム物性の測定法及び測定条件は下記に従った。
a.ムーニー粘度:JIS K6300−1(2001)に準拠し、ML(1+4)125℃を測定した。
b.硬さ:JIS K6253(1997)に準拠し、タイプAデュロメータにて測定した。
c.引張試験:JIS K6251(1993)に準拠し、歪み量300%の引張応力(M300)を測定した。
d.体積固有抵抗率:ASTM D−991 82に準拠し測定した。
【0026】
ゴム物性の測定結果を表4及び5に示す。
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
表4、5の実施例と比較例の結果を観て明らかな様に、本発明の特性用件を満足するカーボンブラックのゴム組成物は体積固有抵抗が低く、すなわち導電性の高いゴム組成物を提供することがわかる。導電性カーボンブラックとして市販されているアセチレンブラックやバルカンXC−72よりも体積固有抵抗は低い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により開発されたカーボンブラックは、特殊な処理を施していないので、安価であり、凝集性が少ないので配合も容易であり、少ない配合量においても高い導電性を有する高導電性組成物を得ることができるため、配合量の増大に起因する機械的物性の損失を低減できる。このため高い導電性を要求する自動車部品、OA機器部品、電気・電子機器部品や建設資材などのゴム製品及びプラスチック製品、導電性を要する塗料や接着剤さらには電池用材料などへの応用が強く期待される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】温度ステップ法により、温度プロファイルと水素発生量の関係。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積(NSA)が170〜350m/g、CTAB吸着比表面積が140〜200m/g、温度ステップ法により求めたカーボンブラックの水素ガス発生量の合計(ΣHc)が2400ppm以下、1100℃±50℃で発生する水素ガス量Hc(1100)と1600℃±50℃で発生する水素ガス量Hc(1600)との比 Hc(1100)/Hc(1600)が0.5以下であることを特徴とするカーボンブラック。
【請求項2】
165Mpaで4回の圧縮処理を行った後のジブチルフタレート吸収量(24M4DBP)が120cm/100g以下である請求項1に記載のカーボンブラック。
【請求項3】
プラスチック、ゴム、塗料、接着剤または電池材料に請求項1又は2に記載のカーボンブラックを含有させた導電性組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−137830(P2006−137830A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327869(P2004−327869)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(390016115)昭和キャボット株式会社 (1)
【復代理人】
【識別番号】100094178
【弁理士】
【氏名又は名称】寺田 實
【Fターム(参考)】