説明

導電性アラミド紙及びその製造方法

【課題】回転機のコロナ抑制材料や、さらに電気電子機器の帯電防止部品およびこれらの加工組み立て時の副資材として良好に使用できる電界緩和機能、帯電防止機能を持つ導電性アラミド紙を提供すること。
【解決手段】アラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーからなる導電性アラミド紙であって、密度が0.45〜1.10g/cm3、引張強度が2.5kN/m以上、及び表面抵抗率が1.0×101〜5.0×102Ω/□である導電性アラミド紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機(発電機、電動機)、変圧器分野および電気・電子機器の帯電防止材料、特に、回転機のコロナ発生防止材料、電気電子機器の帯電防止部品等として有用な導電性アラミド紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型回転機において、導体であるコイル部分と絶縁体であるスロット絶縁材の間には、数kV〜10数kV程度の大きな電圧が殆ど常時付加される。この部位に部分放電が生じると、電離分子による絶縁損傷が進行し、回転機の寿命を著しく損なう結果となる。特に近年の機器の小型化に伴い、絶縁層の厚みを小さくすることにより、電界強度が大きくなるため、このような部分放電の可能性は高くなる傾向にある。同時に、大容量化に伴う発生(出力)電圧、電流の上昇も同様に前記の問題を生じさせる要因と考えられる。したがって、回転機、特に大型回転機において、コロナ発生を抑制できる絶縁システムの信頼性を確保するために、コイルと絶縁材間に生じる電界を緩和できる材料は極めて重要である。
従来、高電圧が印加される回転機の電界緩和方法としては、絶縁層最表面に導電性塗料を塗布・含浸する方法が広く使用されているが、この方法では、機器の製造工程での作業性が必ずしも良好でなく、溶剤揮発による作業環境への影響が無視できないこと、作業に長時間を要すること、加えて導電性(抵抗値)の再現性の点で問題がある。
【0003】
この問題を解決する方法として、導電性薄葉材料(例えば、紙、フィルム、テープなど)を巻回または挿入する方法が挙げられる。特に高電圧が付加される大型回転機などの電気・電子機器においては、機器の温度上昇も大きくなるため、耐熱性の高い材料が求められる。
一方、電気絶縁物や薄葉構造材料として高耐熱性のアラミド紙が、前述の回転機(発電機、電動機)、変圧器分野および電気・電子機器の電気絶縁材料として広く用いられており、このアラミド紙にある程度の導電性を付与して電界緩和材料として用いることもこれまでに検討されてきた。
特許文献1及び特許文献2には、アラミドファイブリッドと、炭素繊維または金属繊維を使用した紙が開示されている。しかしながらいずれも上記のような電界緩和材料を目的としていないため、導電性、機械的強度の点で満足するものではない。
また、特許文献3には、アラミド短繊維、アラミドファイブリッドと、炭素繊維などの導電性フィラーから構成され、低密度かつ高強度の導電性アラミド紙が開示されている。しかしながら、該特許記載の方法では、湿式抄造によりシート化した後に高密度化を行わないため、樹脂の含浸性は高いものの、低厚み化が困難、すなわち省スペース化に障害となり、又、表面が平滑化されていないため、例えば電気装置あるいは導体へ据え付ける際に毛羽立ちを起こしやすいなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51−47103号公報
【特許文献2】特開昭57−115702号公報
【特許文献3】特表2008−542557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、回転機のコロナ抑制材料や、さらに電気電子機器の帯電防止部品およびこれらの加工組み立て時の副資材として良好に使用できる電界緩和機能、帯電防止機能を持つ導電性アラミド紙を提供することを目的とする。
本発明は、又、良好な帯電防止機能、改善された機械的特性及び改良された毛羽立ち性を有する導電性アラミド紙を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記導電性アラミド紙の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、アラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーを適宜組み合わせて、密度が0.45〜1.10g/cm3、引張強度が2.5kN/m以上、及び表面抵抗率が1.0×101〜5.0×102Ω/□である導電性アラミド紙とすると、該導電性アラミド紙は、電界緩和に十分な効果を示し、良好な帯電防止機能と改善された機械的特性を有することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本願の第1の発明は、アラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーからなる導電性アラミド紙であって、密度が0.45〜1.10g/cm3、引張強度が2kN/m以上、及び表面抵抗率が1.0×101〜5.0×102Ω/□であることを特徴とする導電性アラミド紙を提供するものである。
本願の第2の発明は、上記第1の発明に従う導電性アラミド紙において、厚みが20〜100μmである導電性アラミド紙を提供するものである。
本願の第3の発明は、上記第1または第2の発明に従う導電性アラミド紙において、アラミド短繊維、アラミドファイブリッドを構成するアラミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドである導電性アラミド紙を提供するものである。
本願の第4の発明は、上記第1〜第3のいずれかの発明に従う導電性アラミド紙において、導電性フィラーが炭素繊維である導電性アラミド紙を提供するものである。
本願の第5の発明は、上記第1〜第4のいずれかの発明に従う導電性アラミド紙において、アラミド短繊維とアラミドファイブリッド、及び導電性フィラーを水中で混合し、湿式抄造法でシート化した後、得られるシートを一対の金属製ロール間にて330℃以上の温度で加熱加圧加工することを特徴とする導電性アラミド紙の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
[アラミド]
本発明においてアラミドとは、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このようなアラミドとしては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、コポリパラフェニレン・3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミドなどが挙げられる。これらのアラミドは、例えば、芳香族酸二塩化物および芳香族ジアミンとの縮合反応による溶液重合法、二段階界面重合法等により工業的に製造されている。本発明において用いられるアラミドの形態は、特に限定されないが、アラミドファイブリッド、アラミド短繊維、フィブリル化したアラミドなどの形態が好ましい。
【0008】
[アラミド短繊維]
本発明で用いるアラミド短繊維としては、アラミドを原料とする繊維を所定の長さに切断したものがあげられ、そのような繊維としては、例えば、帝人テクノプロダクツ(株)の「テイジンコーネックス(登録商標)」、「テクノーラ(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」、「ケブラー(登録商標)」、テイジンアラミド社の「トワロン(登録商標)」等の商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
アラミド短繊維は、好ましくは、0.05dtex以上25dtex未満の範囲内の繊度を有することができる。繊度が0.05dtex未満の繊維は、湿式法での製造(後述)において凝集を招きやすいために好ましくなく、また、繊度が25dtex以上の繊維は、繊維直径が大きくなり過ぎるため、例えば、真円形状で密度を1.4g/cm3とすると、直径45ミクロン以上である場合、アスペクト比の低下、力学的補強効果の低減、導電性アラミド紙の均一性不良などの不都合が生じる可能性がある。導電性アラミド紙の均一性不良が生じた場合、紙の導電性にバラツキが生じ、それにより求められる電界緩和機能や帯電防止機能が十分に発現できない可能性があるため好ましくない。
アラミド短繊維の長さは、1mm以上25mm未満の範囲から選ぶことができる。短繊維の長さが1mmよりも小さいと、導電性アラミド紙の力学特性が低下し、他方、25mm以上のものは、後述する湿式法での導電性アラミド紙の製造に際して「からみ」「結束」などが発生しやすく欠陥の原因となりやすいため好ましくない。
【0009】
[アラミドファイブリッド]
本発明で用いるアラミドファイブリッドとは、アラミドからなるフィルム状微小粒子で、アラミドパルプと称することもある。製造方法は、例えば特公昭35−11851号、特公昭37−5732号公報等に記載の方法が例示される。ファイブリッドは、通常の木材(セルロース)パルプと同じように抄紙性を有するため、水中分散した後、抄紙機にてシート状に成形することができる。この場合、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、ディスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。この操作において、ファイブリッドの形態変化は、JIS P8121に規定の濾水度(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後の前記有機化合物のファイブリッドの濾水度は、10〜300cm3(カナディアンスタンダードフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。この範囲より大きな濾水度のファイブリッドでは、それから成形される前記不織布状シートの強度が低下する可能性がある。他方、10cm3よりも小さな濾水度を得ようとすると、投入する機械動力の利用効率が小さくなり、また、単位時間当たりの処理量が少なくなることが多く、さらに、ファイブリッドの微細化が進行しすぎるため、いわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。したがって、10cm3よりも小さな濾水度を得ようとしても、格段の利点が認められない。
【0010】
[導電性フィラー]
本発明で用いる導電性フィラーとしては、約10-1Ω・cm以下の体積抵抗を持つ導体から、約10-1〜108Ω・cmの体積抵抗を持つ半導体まで、広範囲にわたる導電性を有する繊維状または微粒子(粉末またはフレーク)状物があげられる。このような導電性フィラーとしては、例えば金属繊維、炭素繊維、カーボンブラックなどの均質な導電性を有する材料、あるいは金属めっき繊維、金属粉末混合繊維、カーボンブラック混合繊維など、導電材料と非導電材料とが混合されて全体として導電性を示す材料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この中で、本発明においては炭素繊維を使用することが好ましい。
本発明で用いる炭素繊維は、繊維状有機物を不活性雰囲気にて高温焼成して炭化したものが好ましい。一般に炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を焼成したものと、ピッチを紡糸した後に焼成したものに大別されるが、これ以外にもレーヨンやフェノールなどの樹脂を紡糸後、焼成して製造するものもあり、これらも本発明において使用することができる。焼成に先立ち酸素等を使用して酸化架橋処理を行い、焼成時の融断を防止することも可能である。
本発明で用いる炭素繊維の繊度は、0.5〜10dtexの範囲が好ましい。また、繊維長は1mm〜20mmの範囲から選ばれる。
導電性フィラーの選択においては、導電性が高く、かつ、後述の湿式抄造法において良好な分散を示す材料を使用することがより好ましい。また、炭素繊維を選択する場合には、更に高強度、かつ脆化しにくいものを選択することが好ましい。そのような材料を選択することにより、本発明の特徴である、高強度、電界緩和材料や帯電防止材料に適した導電性、及び熱圧加工により特定の範囲に緻密化された導電性アラミド紙を得ることが可能となる。
【0011】
[導電性アラミド紙]
本発明の導電性アラミド紙は、前述のアラミド短繊維、アラミドファイブリッド、及び導電性フィラーで構成されることを特徴とする。
本発明の導電性アラミド紙の全重量中に占めるアラミド短繊維の含量は、5〜60重量%、好ましくは10〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%であるが、これに限定されるものではない。一般に、アラミド短繊維の含量が5重量%未満の場合は導電性アラミド紙の機械的強度が低下しやすく、60重量%を超える場合はアラミドファイブリッドの含量が低下し、やはり機械的強度が低下しやすい。
本発明の導電性アラミド紙の全重量中に占めるアラミドファイブリッドの含量は、30〜80重量%、好ましくは35〜70重量%、より好ましくは40〜65重量%であるが、これに限定されるものではない。一般に、アラミドファイブリッドの含量が30重量%未満の場合は導電性アラミド紙の機械的強度が低下しやすく、80重量%を超える場合は、湿式法での製造(後述)において濾水性が低下し、導電性アラミド紙の均一性不良などを生じやすい。
また、本発明の導電性アラミド紙に占める導電性フィラーの含量については、本発明の特徴である表面抵抗率が1.0×101〜5.0×102Ω/□の範囲にある紙を得るために、1〜30重量%とすることが好ましく、より好ましくは2〜20重量%、更に好ましくは3〜10重量%である。導電性フィラーの含量が1重量%未満の場合には、上記範囲の表面抵抗値を得ることが難しく、また一般に、30重量%を超える場合は、導電性アラミド紙の機械的強度が低下しやすく、かつ、複雑な方法を用いずに均質な紙を製造することが困難となる。
【0012】
本発明の導電性アラミド紙の密度は、JIS C 2300−2で規定された(坪量/厚さ)より算出される値であり、0.45〜1.10g/cm3の範囲内の値をとることを特徴とする。密度が0.45g/cm3未満の場合は、機械的強度を高めるために坪量を大きくする必要があり、それにより厚みが増大するため好ましくなく、また1.10g/cm3を超えると紙中の空隙が少なくなるため、例えば樹脂を含浸して使用する用途などに適さない上、製造が困難となるため好ましくない。本発明の導電性アラミド紙の密度は、好ましくは0.50〜1.00g/cm3である。
本発明の導電性アラミド紙の引張強度は2.5kN/m以上であることを特徴とし、好ましくは3.0kN/m以上である。引張強度が2.5kN/m未満の場合には、例えば本発明の紙を用いて作製されたテープを、自動テープ巻取機を用いてコイル導体などに巻回していく際、破れや裂けなどが起こる可能性がある。本発明の導電性アラミド紙の引張強度は、より好ましくは3.5〜10.0kN/mである。
本発明の導電性アラミド紙は、表面抵抗率が1.0×101〜5.0×102Ω/□からなることを特徴とし、好ましくは5.0×101〜5.0×102Ω/□、より好ましくは5.0×101〜4.0×102Ω/□である。表面抵抗率が1.0×101Ω未満の場合には、この表面抵抗率を得るために導電性フィラーの含量を多くする必要があり、それにより十分な機械的強度を得ることが困難となる上、求められる電界緩和機能の発現が困難となるため好ましくなく、5.0×102Ω/□を超える場合は、やはり求められる電界緩和機能や帯電防止機能を安定して得ることが困難となるため好ましくない。
また、導電性アラミド紙の厚みについても特に制限はないが、一般に、20μm〜100μmの範囲内の厚さを有していることが好ましく、より好ましくは30〜80μmである。20μmよりも厚みが小さい場合、機械的特性が低下し、製造工程での搬送等の取り扱い性に問題を生じやすく、他方、100μmを超える場合、例えば、電気装置あるいは導体へ据え付ける際に、省スペース化の障害となりやすい。尚、導電性アラミド紙の坪量は、10〜110g/m2であるのが好ましい。
【0013】
[導電性アラミド紙の製造]
以上に述べた如き性能を持つ本発明の導電性アラミド紙は、一般に、前述したアラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーを混合した後シート化する方法により製造することができる。具体的には、例えば、上記のアラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーを乾式でブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、アラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーを液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などを適用することができるが、これらの中でも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
湿式抄造法では、少なくともアラミド短繊維、アラミドファイブリッド、及び導電性フィラーの単一または混合物の水性スラリーを抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水および乾燥操作を行うことによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙き紙きとしては、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機及びこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などを利用することができる。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なる水性スラリーをシート成形し合一することにより、複数の紙層からなる複合シートを得ることも可能である。湿式抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤を使用することは差し支えなく、また導電性フィラーが粒子状物である場合には、アクリル系樹脂、定着剤、高分子凝集剤などを添加してもかまわないが、本発明の目的を阻害することがないよう、その使用には注意を払う必要がある。
【0014】
また、本発明の導電性アラミド紙には、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記成分以外に、その他の繊維状成分、例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、セルロース系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの有機繊維、ガラス繊維、ロックウール、ボロン繊維などの無機繊維を添加することもできる。尚、上記添加剤や他の繊維状成分を用いる場合には、導電性アラミド紙全重量の20重量%以下とするのが好ましい。
このようにして得られる導電性アラミド紙は、例えば、一対の平板間または金属製ロール間にて高温高圧で熱圧加工することにより、機械的強度を向上させることができる。熱圧加工の条件は、例えば、金属製ロール使用の場合、温度100〜400℃、線圧50〜1000kg/cmの範囲内を例示することができるが、本発明の導電性アラミド紙の特徴である高い引張強度と表面平滑性を得るために、ロール温度は330℃以上とすることが好ましく、より好ましくは330℃〜380℃である。又、線圧は50〜500kg/cmであるのが好ましい。該温度はメタ型アラミドのガラス転移温度より高く、またメタ型アラミドの結晶化温度に近いことから、該温度で熱圧加工することにより機械的強度が向上するだけでなく、導電性アラミド紙を構成する材料同士を強固に密着させることで、例えば、導電性フィラーが炭素繊維の場合にはその飛散を防ぐことができ、導電性アラミド紙の加工又は使用する現場において、繊維との直接接触や繊維の飛散による皮膚等への付着、及びそれによる痒みや痛み等の皮膚刺激を抑制し、作業環境の劣悪化を防ぐことができる。
【0015】
上記の熱圧加工は複数回行ってもよく、また用途によっては過度に省スペース化を必要とせず、100μmを超える厚みを必要とする場合も出てくる可能性もあるため、その場合には、上述の方法により得たシート状物を複数枚重ね合わせて熱圧加工を行ってもよい。
本発明の導電性アラミド紙は、(1)適度な導電性を有していること、(2)耐熱性、難燃性を備えていること、(3)自動テープ巻取り機などに十分適用可能な高い引張強度を有していること、(4)低皮膚刺激性であること、などの優れた特性を有しており、特に高電圧の大型回転機などのコロナ発生防止材料、電気電子機器の帯電防止部品等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は、単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
[測定方法]
(1)シートの目付、厚み、密度
JIS C 2300−2に準じて実施した。
(2)引張強度
ASTM D−828に準じて実施した。
(3)表面抵抗率
ASTM D−257に準じて実施した。
(4)毛羽立ち性
JIS L 0849記載の学振型摩擦試験機を用い、摩擦子表面に布テープ(ニチバン(株)製「102N」)を貼り付け、摩擦子の荷重を200gとし、試験片中央部10cmの間を毎分30回往復の速度で一方向にのみ10回摩擦し、摩擦後のシートの状態を目視により以下の要領で判定した。
○:毛羽立ちなし
△:わずかに毛羽立ちあり
×:毛羽立ちあり
【0017】
[原料調製]
特公昭52−15621号公報に記載のステーターとローターの組合せで構成される湿式沈殿機を用いる方法によって、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。これを叩解機で処理して長さ加重平均繊維長を0.9mmに調製した(濾水度200cm3)。一方デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標)、単糸繊度2.2dtex)を長さ6mmに切断し抄紙用原料とした。
【0018】
[実施例1〜4]
上記のとおり調製したメタアラミドファイブリッド、メタアラミド短繊維、及び炭素繊維(東邦テナックス株式会社製、繊維長3mm、単繊維径7μm、繊度0.67dtex、体積抵抗率1.6×10-3Ω・cm)をそれぞれ水中に分散してスラリーを作製した。このスラリーを、メタアラミドファイブリッド、メタアラミド短繊維、及び炭素繊維が、表1に示す配合比率となるように混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm2)で処理してシート状物を作製した。次いで、得られたシートを1対の金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧150kg/cmで熱圧加工し、導電性アラミド紙を得た。このようにして得られた導電性アラミド紙の主要特性値を表1に示す。
[実施例5]
実施例1と同様の方法にて得られたシート状物を、1対の金属製カレンダーロールにより温度350℃、線圧150kg/cmで熱圧加工し、導電性アラミド紙を得た。このようにして得られた導電性アラミド紙の主要特性値を表1に示す。
【0019】
[比較例1]
上記のとおり調製したメタアラミドファイブリッド、メタアラミド短繊維、及び炭素繊維(東レ株式会社製「トレカ(登録商標)」チョップドファイバー(繊維長6mm、単繊維径7μm))をそれぞれ水中に分散してスラリーを作製した。このスラリーを用いて、特開平11−20083号記載の参考例2と同様にタッピー式手抄き機(断面積325cm2)で処理してシート状物を作製した。次いで、得られたシートを1対の金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧150kg/cmで熱圧加工し、導電性アラミド紙を得た。このようにして得られた導電性アラミド紙の主要特性値を表2に示す。
[比較例2]
実施例1と同様の方法にて得られたシート状物を、320℃に加熱された金属ロールに7秒間接触させ、導電性アラミド紙を得た。このようにして得られた導電性アラミド紙の主要特性値を表2に示す。
[比較例3]
実施例1と同様の方法にて得られたシート状物を、1対の金属製カレンダーロールにより温度250℃、線圧150kg/cmで熱圧加工し、導電性アラミド紙を得た。このようにして得られた導電性アラミド紙の主要特性値を表2に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表1に示されるように、本発明品である実施例1〜5は、いずれも、導電性アラミド紙の密度、強度、表面抵抗率、毛羽立ち性について優れた特性を示した。これに対して、表2に示されるように、比較例1〜3の導電性アラミド紙の表面抵抗率はいずれも高い値を示し、目的とする高電圧が印加される回転機の電界緩和材料としては不十分であることがわかる。また比較例2〜3については、毛羽立ち性についても劣ることから、例えば、自動テープ巻取機を用いてコイル導体などに巻回していく際に紙の表面から原料が脱離し、それにより絶縁破壊を引き起こす可能性が示唆された。したがって、高電圧の大型回転機などのコロナ発生防止材料、電気電子機器の帯電防止部品等として有用な、適度な導電性を持ち、耐熱性、難燃性や機械的強度に優れた導電性アラミド紙を得るためには、上記実施例で例示した導電性アラミド紙を用いることが有効であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーからなる導電性アラミド紙であって、密度が0.45〜1.10g/cm3、引張強度が2.5kN/m以上、及び表面抵抗率が1.0×101〜5.0×102Ω/□であることを特徴とする導電性アラミド紙。
【請求項2】
厚みが20〜100μmである請求項1記載の導電性アラミド紙。
【請求項3】
アラミド短繊維及びアラミドファイブリッドを構成するアラミドがポリメタフェニレンイソフタルアミドである請求項1記載の導電性アラミド紙。
【請求項4】
導電性フィラーが炭素繊維である請求項1記載の導電性アラミド紙。
【請求項5】
アラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーを水中で混合し、湿式抄造法でシート化した後、得られるシートを一対の金属製ロール間にて330℃以上の温度で熱圧加工することにより得られる請求項1記載の導電性アラミド紙。
【請求項6】
アラミド短繊維、アラミドファイブリッド及び導電性フィラーを水中で混合し、湿式抄造法でシート化した後、得られるシートを一対の金属製ロール間にて330℃以上の温度で熱圧加工することを特徴とする請求項1記載の導電性アラミド紙の製造方法。

【公開番号】特開2012−219395(P2012−219395A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85065(P2011−85065)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】