説明

導電性インキ、導電回路および回路素子

【課題】本発明は、ある一定の温度をかけることで抵抗率が著しく増大することを特徴とした導電性インキ、それを用いて通常の印刷方式で印刷し、その印刷物にある一定の温度をかけることで抵抗率が著しく増大すること特徴とした導電回路の提供。
【解決手段】本発明は、平均粒径3〜8μm比表面積が1.5〜4.0m/gおよび見掛密度が0.4〜1.1g/cmの銀粉、バインダー成分、1次粒子径が20〜100nmであり球状または立方体状である炭酸カルシウムを有することを特徴とする導電性インキの提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある一定の温度に加熱することで抵抗率が著しく増大する特性を有し、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、凸版印刷、凹版印刷等の通常の印刷方式による導電回路および回路素子を形成することが可能な導電性インキ、それを用いた導電回路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の分野で広く用いられるPTC(Positive Temperature Coefficient、正の温度係数)特性を有する回路素子は、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のポリマー等にカーボン等の導電性粉末等を混練させたものであり、或る特定の温度まで昇温すると抵抗率が著しく増大する特性を有していることで知られている。
【0003】
PTC特性を発現させる原理は導電性粒子を包含しているポリマーの熱膨張である。温度を掛けることでポリマーが膨張し、導電性粒子同士の接触を妨げることで抵抗率の増大が起こる。このとき用いられるポリマーは特開昭51‐76647に詳しく開示されている。他にもエチレン―酢酸ビニル共重合体(特開平10−183039)やエチレン―アクリル酸共重合体(特開2002−146251)などがある。
【0004】
これらの樹脂を用いたPTC特性を有する回路素子は、印刷により形成されることが知られており、過電圧保護素子として実用化されている。これらのPTC特性を有する回路素子はいずれも可逆的な性質を有しており、温度が低下すると抵抗率も再び低下する。
【0005】
ここで、熱をかけることで不可逆に抵抗率が変化する導電性インキで印刷された回路および回路素子は未だ考案されていない。
【特許文献1】特開昭51‐76647
【特許文献2】特開平10−183039
【特許文献3】特開2002−146251
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ある一定の温度をかけることで抵抗率が著しく増大することを特徴とし、再び冷却しても抵抗率が戻らない不可逆的な性質を持った導電性インキ、それを用いて通常の印刷方式で印刷し、その印刷物にある一定の温度をかけることで抵抗率が著しく増大すること特徴とし、再び冷却しても抵抗率が戻らない不可逆的な性質を持った導電回路を提供するものである。これにより、例えば、RFIDタグのアンテナ部分を本発明の導電性インキを用いて製造すれば、使用後に加熱することでアンテナ部の抵抗率を上昇させることで電波を受信してもアンテナに十分な電流が流れずICが起動しない。よってRFIDタグとしての機能を失うこととなり、セキュリティータグとして用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均粒径3〜8μm比表面積が1.5〜4.0m/gおよび見掛密度が0.4〜1.1g/cmの銀粉、バインダー成分、1次粒子径が20〜200nmであり球状または立方体状である炭酸カルシウムを有することを特徴とする。
【0008】
PTC特性を発現させるためには、銀、バインダーの他に炭酸カルシウムを重量部で5〜40%添加することが重要になる。炭酸カルシウムを含むことにより高温で加熱した場合に体積膨張が起こり、銀同士の接触が阻害されることでPTC特性が発現される。
【0009】
上記の特性を有するRFIDタグは、再利用を不能とすることで偽造防止に有効なセキュリティタグを容易に、しかも安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、実施の形態に基づいて更に詳しく説明するが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
まず、本発明における導電性インキについて説明する。
【0012】
本発明に係わる導電性インキに用いる銀粉は、1次粒子径が3〜8μm、比表面積が1.5〜4.0m/gおよび見掛密度が0.4〜1.1g/cmが好ましい。この特性を有する銀粉は、見掛密度が小さく、且つ比表面積が大きいので、銀粉の形状としては箔に近い薄く扁平であり、銀粉同士の重なりやすく、接触しやすいことから、導電性インキに含まれる銀粉量を減らしても、導電性を維持することができる導電性インキを得ることができる(特開2003−55701)。本発明は、炭酸カルシウムを添加するため、導電性インキの流動性を確保するためには銀粉の添加量を可能な限り控えることが好ましく、当該銀粉を使用することが本発明を実施するうえで最良の形態となる。
【0013】
本発明に係わる導電性インキに用いるバインダーは成分には特に制限はないが、以下に示すような樹脂を含有するバインダーを用いることが好ましい。
【0014】
例えばポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、スチレン−無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、ロジン、ロジンエステル、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリウレタン樹脂等から選ばれる1種または2種以上を、印刷方法の種類及び使用基材の種類や、導電回路の用途に応じて使用することができる。
【0015】
本発明に係わる導電性インキに用いる炭酸カルシウムについて説明する。
【0016】
本発明に用いる炭酸カルシウムとは、粒子径が20〜200μmであることを特徴とするものである。
【0017】
本発明における炭酸カルシウムの含有割合は、重量比で5〜40%、更に好ましくは10〜20%である。カルシウムの含有割合が5%以下ではPTC回路としての抵抗率の上昇効果が乏しく、40%以上では銀粉同士の接触が阻害され初期の導電性が得られない。
【0018】
本発明に係わる導電性インキは、印刷方法等の種類に応じて、芳香族系溶剤、脂肪続系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエステル系溶剤、アルコール系溶剤等を使用することができ、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0019】
最後に本発明に係わる導電性インキを用いて形成された導電回路について説明する。
【0020】
本発明の導電性インキを使用用途に応じて紙、プラスチック等の基材の片面または両面上に、フレキソ印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷等、従来公知の印刷方法を用いて印刷することで導電回路を形成することができる。
【0021】
紙基材としては、コート紙、非コート紙、その他、合成紙、ポリエチレンコート紙、含浸紙、耐水加工紙、絶縁加工紙、伸縮加工紙等の各種加工紙が使用できる。コート紙の場合は、平滑度の高いものほど好ましい。
【0022】
プラスチック基材としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール、ナイロン、ポリイミド、ポリカーボネート等の通常印刷基材として使用できるプラスチック基材が使用できる。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、本発明において、「部」は「重量部」を表し、「%」は、「重量%」を表す。
【0024】
[銀粉]
銀粉は、福田金属箔粉工業株式会社製の「ナノメルトAg-XF301」(1次粒子経=4.0〜8.0μm、比表面積=1.5〜2.0m/g、見掛密度=0.55〜0.75g/cm)を用いた。
【0025】
[樹脂(バインダー)]
樹脂は、日信化学工業株式会社製「ソルバインTA3」、および積水化学工業株式会社製「エスレックBL-S」を用いた。
【0026】
[炭酸カルシウム]
炭酸カルシウムは、白石工業株式会社製「ハクエンカO」(1次粒子径=30nm)および「ハクエンカTDD」(1次粒子径=80nm)を用いた。
【0027】
[実施例1〜4]
表1に示す配合組成で、混合物を均一になるように攪拌混合して導電性インキ1〜4を得た。
【0028】
[比較例1〜2]
表1に示す配合組成で、混合物を均一になるように攪拌混合して比較インキ1〜2を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例1〜4及び比較例1、2で得られた導電性インキについて、スクリーン印刷にてPET基材上に幅15mm、長さ30mmの角状の塗布物を得た。その後、100℃で10分間加熱乾燥させて、硬化塗膜を得た。
【0031】
これら硬化塗膜を用いて、以下の方法で硬化塗膜の抵抗率を測定した。
【0032】
(抵抗率の評価)
上記方法にで得られた硬化塗膜の中央部分に4端子法電気抵抗測定器の測定端子(各端子は5mm間隔)を当てて、その間における室温での表面抵抗率を測定した。この表面抵抗率と硬化塗膜の膜厚から体積抵抗率を算出した。算出方法は以下の式の通りである。
【0033】
RV = R × T
RV:体積抵抗率[Ω・cm]、R:表面抵抗率[Ω/□]、T:膜厚[cm]
【0034】
(加熱試験評価)
実施例1〜4及び、比較例1、2で得られた導電性インキを前述の印刷方法で得られた印刷物を、150℃および180℃に設定したボックスオーブン内に10分入れ、その後室温まで冷却し、表面抵抗率を測定した。測定方法は前述の4端子法を用いた。
【0035】
塗膜の膜厚を接触型膜厚計(Nikon社製DIGIMICRO MH-15M)で測定した。
【0036】
表1に示すように、炭酸カルシウムを有する導電性インキの硬化塗膜は、150℃および180℃加熱後抵抗率が著しく増加し、室温に冷却しても不可逆的に高い抵抗率を維持していることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性物質、バインダー成分およびフィラーからなる導電性インキにおいて、導電性物質が1次粒子径3〜8μm、比表面積1.5〜4.0m/gおよび見掛密度0.4〜1.1g/cmの銀粉であり、フィラーが1次粒子径20〜200nmの球状または立方体状である炭酸カルシウムであることを特徴とする導電性インキ。
【請求項2】
炭酸カルシウムが全固形分全体の5〜40重量%含有していることを特徴とする請求項1記載の導電性インキ。
【請求項3】
基材上に、請求項1または2記載の導電性インキを用いて導電回路を印刷してなることを特徴とするPTC導電回路。
【請求項4】
印刷方法が、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、凸版印刷および凹版印刷から選ばれる一種類以上である請求項3記載のPTC導電回路。



【公開番号】特開2010−47647(P2010−47647A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211224(P2008−211224)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】