説明

導電性インク及びその製造方法

【課題】有機溶媒を含む溶媒への可溶性又は分散性が良好で、加工性に優れ、高い導電性と透明性とを有する透明電極材料等として有用で、インクジェット印刷で用いることのできる導電性インクを提供する。
【解決手段】アルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよいジチエノピロール化合物とアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよいチオフェン化合物とのランダム共重合体、及び遷移金属塩等のドーパントが、溶媒中に分散又は溶解している導電性インク。該導電性インクに含まれる共重合体は、酸化剤及び界面活性剤の存在下、化学酸化重合法で製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒を含む溶媒への可溶性又は分散性が良好で、導電膜を形成した際に透明性及び導電性に優れる導電性インクとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス材料におけるフレキシブル化の必要性が高まっている。これに伴い、π共役系高分子の導電材料、発光材料、トランジスタ材料、光電変換材料、非光学系機能材料などへの応用が盛んに研究されている。
【0003】
π共役系高分子として、チオフェン、ピロール、アニリン、それらの誘導体を重合したものが数多く開示されている。その中でも、特にポリチオフェンは、導電性や加工性で有利であることから、コンデンサーや帯電防止剤として実用化されている。
【0004】
このようなポリチオフェンにドーパントを注入することで金属様の性質を発現することが知られている。しかし、ドープされたポリチオフェンは主鎖骨格が剛直化し溶媒への溶解性が著しく低下する。電子工学及び光学製品では極めて高い耐水性や平滑性が要求されるため、汎用有機溶媒系での検討が続けられているが、ポリチオフェンの多くが汎用有機溶媒系樹脂に対して十分に溶解、又は分散することができない。有機溶媒中におけるポリチオフェンの安定性が不十分であると、困難な加工条件を抱えるため、形成された製品の導電性や透明性が不十分なものとなる。
【0005】
例えば、実用化されているポリチオフェンの例として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体(PEDOT/PSS)が挙げられる。導電性が高い共役高分子の1つであり、一部で実用化されている他、太陽電池や発光デバイス等に有用である導電性薄膜の材料としての研究がなされている。しかし、PEDOT/PSSは水分散型が中心であり、水を使うことからエレクトロニクス分野においてデバイスの性能低下を引き起こしてしまうことなど、その使用工程において課題がある(非特許文献1)。
【0006】
一方で、ジチエノピロール共重合体は、良好な電荷移動性を示すことが記載されている(特許文献1、非特許文献2)。しかし、ドープされたジチエノピロール共重合体の導電性や透明性、分散性を追求しているものではない。
【0007】
また、ジチエノピロール共重合体は、スティルカップリング、鈴木カップリングなどの方法で位置規則的に合成することで、良好な電荷移動性が発現すことが知られている(特許文献1、非特許文献2)。重合体をこのような方法で作製した場合、ドーパントとの組成物を得るためには、さらにドープ工程が必要となり、工程が複雑化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公開公報 第2008−0262183号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Solar Energy Materials & Solar Cells、2006年、第90巻、3520−3530
【非特許文献2】Journal of American Chemical Society, 2008年、130巻、13167−13176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、複雑な操作を要することなく、効率的に汎用の有機溶媒中に安定に溶解/分散させることができ、かつ導電性と透明性に優れる高分子薄膜を製膜することのできる導電性インクとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、
1.下記化学式(1)
【0012】
【化1】

〔式(1)中、Rは同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はアルコキシ基であり、
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基であり、
は同一又は異なって、下記化学式(2)
−〔X−(CH−(X−(CH − ・・・(2)
(式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基であり、X及びXは同一又は異なって酸素原子若しくは硫黄原子であり、〔X−(CH〕は繰り返し単位毎にXとaとが同一又は異なっていてもよく、aは1〜20、bは0〜20、cは0又は1、dは0〜20の正数である)で示される側鎖基であり、
、R及びRのうち少なくとも1つは水素原子以外の置換基であり、
m、nはそれぞれ2〜10000であり、m:nの比率は3:97から97:3の範囲である〕
で表される繰り返し単位を含むジチエノピロール共重合体とドーパントが溶媒中に分散又は溶解している導電性インク;
2.溶媒が有機溶媒を含む上記1に記載の導電性インク;
3.下記化学式で表される化合物(3)
【0013】
【化2】

と下記化学式で表される化合物(4)
【0014】
【化3】


〔式(3)、(4)中、Rは同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はアルコキシ基であり、
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基であり、
は同一又は異なって、下記化学式(2)
−〔X−(CH−(X−(CH − ・・・(2)
(式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基であり、X及びXは同一又は異なって酸素原子若しくは硫黄原子であり、〔X−(CH〕は繰り返し単位毎にXとaとが同一又は異なっていてもよく、aは1〜20、bは0〜20、cは0又は1、dは0〜20の正数である)で示される側鎖基であり、
、R及びRのうち少なくとも1つは水素原子以外の置換基である〕
を混合し、酸化剤存在下で重合させることを特徴とする、上記1又は2に記載の導電性インクの製造方法;
4.化合物(3)と化合物(4)を酸化剤、及び界面活性剤存在下で重合させることを特徴とする上記3に記載の導電性インクの製造方法;
5.上記3又は4に記載の製造方法で得られた導電性インクを脱ドープする工程を含む、化学式(1)で表される繰り返し単位を含むジチエノピロール共重合体の製造方法;
6.上記1又は2に記載の導電性インクを用いて製造される有機エレクトロニクス部材;
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性インクは、汎用の有機溶媒中で安定に溶解及び/又は分散しているため、加工性と製膜性に優れている。更にこの導電性インクを用いて得られる高分子薄膜は導電性と透明性に優れており、透明導電膜、帯電防止膜などの有機エレクトロニクス部材に用いることができる。
【0016】
また、本発明の製造方法によれば複雑な操作を要することなく、導電性インクを安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の導電性インクは化学式(1)で表される繰り返し単位を有するジチエノピロール共重合体とドーパントを含有しているものである。
【0018】
化学式(1)及びその原料である化合物(3)における各Rはそれぞれ同一又は異なり、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はアルコキシ基である。
【0019】
置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基等が挙げられる。
【0020】
置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エチトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシルテトラデシルオキシ基、n−ペンタデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ヘプタデシルオキシ基、n−オクタデシルオキシ基、n−ノナデシルオキシ基、n−イコシル
オキシ基等が挙げられる。
【0021】
これらのかかる置換基としては、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキレンオキシ基が挙げられる。
【0022】
化学式(1)及びその原料である化合物(3)におけるRは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基である。
【0023】
が表すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロプロピル基等が挙げられる。Rが表すアルキル基は置換基を有してもよく、置換基としては、例えば、炭素数1〜20のアルコキシ基等が挙げられる。
【0024】
が表すアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エチトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシルテトラデシルオキシ基、n−ペンタデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ヘプタデシルオキシ基、n−オクタデシルオキシ基、n−ノナデシルオキシ基、n−イコシルオキシ基等が挙げられる。Rが表すアルコキシ基は置換基を有してもよく、置換基としては、例えば、炭素数1〜20のアルコキシ基等が挙げられる。
【0025】
が表すアリール基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環等から誘導されるアリール基が挙げられる。Rが表すアリール基は置換基を有してもよく、置換基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ等が挙げられる。
【0026】
が表すヘテロアリール基としては、例えば、チオフェン環、ピロール環、フラン環、セレノフェン環、シロール環、ゲルモール環、キノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環等から誘導されるヘテロアリール基が挙げられる。Rが表すヘテロアリール基は置換基を有してもよく、置換基としては、例えば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ等が挙げられる。
【0027】
化学式(1)及びその原料である化合物(4)中のRが表す化学式(2)において 、〔X−(CH〕の繰り返し単位は、Xがそれぞれ酸素原子のみ又は硫黄原子のみであってもよく、両原子が規則的又は不規則的に含有されているものであってもよい。また、X及びXはそれぞれ酸素原子のみ或いは硫黄原子のみであってもよい。
【0028】
化学式(2)において、Rが表す炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基としては、Rで例示したものと同じものが挙げられる。
【0029】
化学式(1)で表されるジチエノピロール共重合体において、2つのRは互いに異なっていても良い。また、R、R、Rのうち少なくとも1つは水素原子以外の置換基であり、好ましくは、RとRのうち少なくとも1つが水素原子以外の置換基である。さらに好ましくは、Rが炭素数6〜18のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキレン基から選ばれる何れかであるか、又はRが炭素数6〜18のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキレン基、フェニル基、アルキル置換フェニル基から選ばれる何れかである。RとRのうち少なくとも1つが水素原子以外の置換基を有することにより、本発明の導電性インクに含まれる化学式(1)で表されるジチエノピロール共重合体は高い溶解性を示し、汎用溶媒中で安定に溶解及び/又は分散することができる。
【0030】
上記Rとしては、例えば、オクチル基、ドデシル基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ基、2−(3−(2−メトキシエトキシ)プロポキシ)エトキシ基、3−(3−メトキシプロポキシ)プロポキシ基、オクチルオキシメチレン基、ドデシルオキシメチレン基、(2−メトキシエトキシ)メチレン基、(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)メチレン基等が挙げられる。
【0031】
上記Rとしては、例えば、ドデシル基、2−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)エチレン基、4−ドデシルフェニル基等が挙げられる。
【0032】
以下に化学式(1)で表されるジチエノピロール共重合体の具体例を(1)〜(45)として示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【0035】
化学式(1)で表されるジチエノピロール共重合体の数平均分子量(Mn)は500〜1,000,000の範囲が好ましく、1,000〜500,000の範囲がより好ましい。なお、本発明において平均分子量は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、標準ポリスチレンによる検量線から求めた値である。
【0036】
化学式(1)で表されるジチエノピロール共重合体は、ジチエノピロール化合物(3)とチオフェン化合物(4)とを共重合させて得られるランダム共重合体であり、それぞれの重合度m及びnは2〜10,000の範囲である。また、ジチエノピロール化合物(3)由来の構造単位とチオフェン化合物(4)由来の構造単位の組成比はm:n=3:97〜93:3の範囲であり、これ以外の範囲では、本発明の効果を奏さないため好ましくない。より好ましくは、m:n=30:70〜70:30の範囲である。
【0037】
本発明の導電性インクは、化学式(1)で表されるジチエノピロール共重合体にドーパントを作用させ、導電性を付与したものを、溶媒中に溶解及び/又は分散させることによって得ることができる。
【0038】
ドーパントは、化学式(1)で表されるジチエノピロール共重合体を酸化還元させることにより導電性を向上できるものであれば、特に制限はなく、公知の種々の電子供与性物質や電子吸引性物質を適宜選択し、用いることができるが、電子吸引物質を使用するのが好ましい。電子吸引性物質を使用した場合は、酸化され正の電荷を帯びた化学式(1)で示されるジチエノピロール共重合体に対するカウンターアニオンとして機能する。
【0039】
ドーパントとして使用される電子吸引物質は、具体例に、ハロゲンとしてCl、Br、I、ICl、IBr、及びIF、ルイス酸としてPF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr、及びSO、プロトン酸としてHF、HCl、HNO、HSO、HClO、FSOH、CISOH、CFSOH、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、その他各種有機酸、及びアミノ酸等、遷移金属化合物としてFeCl、Fe(SO、Fe(OCl、TiCl、ZrCl、HfCl、NbF、NbCl、TaCl、MoF、MoCl、UF、LnCl(Ln=La、Ce、Pr、Nd、Sm等のランタノイド)、電解質アニオンとしてCl、Br、I、ClO、AlCl、FeCl、SnCl5、PF、AsF、SbF、BF、NO、SO2−、p−トルエンスルホン酸アニオン、ナフタレンスルホン酸アニオン、カンファースルホン酸アニオン、ドデシルベンゼンスルホン酸アニオン、及びその他各種有機酸アニオン等、FSOOOSOF、AgClO、HIrCl、La(NO・6HO等が挙げられる。電子吸引物質はこれらに限定されるものではない。
【0040】
本発明に含有されるドーパントは、1種単独で用いられてもよく、又は2種以上を併用して用いられてもよい。このドーパントの添加方法は特に限定されず、重合反応系中に共存させることもできるし、重合後に所望のドーパントを適宜添加することもできる。
【0041】
本発明の導電性インクにおけるドーパントの含有量は、特に制限はなく、任意に選択することができるが、化学式(1)で示されるジチエノピロール共重合体100質量部に対し1〜1000質量部の範囲であると好ましい。その含有量は、導電性高分子組成物の調製工程において、イオン交換樹脂や種々ろ過法等によって、適宜調製することができる。
【0042】
本発明で重合体の分散媒体としての溶媒には、水、有機溶媒及び任意の割合からなる水と有機溶媒の混合溶媒を選択でき、中でも有機溶媒が好ましい。溶媒の量としては、導電性インクに対する化学式(1)で示されるジチエノピロール共重合体の質量で、0.05〜50質量%が好ましく、0.1〜20質量%がより好ましく、0.5〜10質量%が更に好ましい。
【0043】
本発明で用いることができる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジイソプロピル等のカルボニル基含有溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2‐ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒類等が挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、又2種以上を併用して用いてもよい。水と有機溶媒を混合してもよい。
【0044】
本発明の導電性インクには、化学式(1)で示されるジチエノピロール共重合体とドーパントと分散媒体との構成成分の他に、必要に応じて任意の添加剤を含有していてもよく、その添加する順序も任意に選択することができる。添加剤としては、公知の添加剤などの中から適宜選択することができ、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、劣化防止剤、分散剤、界面活性剤、重合禁止剤、表面改質剤、脱泡剤、可塑剤、抗菌剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明の導電性インクは、化学式(1)で表される繰り返し単位を含むジチエノピロール共重合体とドーパントを含有することを特徴とするものであり、化合物(3)、化合物(4)を溶媒中、酸化剤存在下で酸化重合することで得ることができる。以下、この工程を工程1と称し、説明する。
【0046】
【化6】

(式中、R、R、R、m、nは前記定義の通り。)
【0047】
工程1で使用する化合物(3)、化合物(4)の製法に特に制限はなく、例えば化合物(3)は3−ブロモチオフェンと各種アミンを反応させ環化させることで製造できる(非特許文献3参照)。市販品を使用することも可能である。
〔非特許文献3〕Tetraheadron(テトラヘドロン),61,687(2005)
【0048】
工程1で使用する酸化剤として、有機物又は、無機物からなる酸化剤のいずれであってもよく、例えば、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、過ヨウ素酸、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、スルホン酸鉄(III)、過ヨウ素酸鉄などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましく用いられるものとして、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、スルホン酸鉄(III)、カルボン酸鉄(III)等の第二鉄塩が挙げられる。酸化剤は、1種を単独で用いてもよく、又2種以上を併用して用いてもよい。
【0049】
スルホン酸鉄の第二鉄塩におけるスルホン酸としては、芳香族スルホン酸、脂肪族スルホン酸、脂環式スルホン酸等のいずれであってもよい。例えば、芳香族スルホン酸では、ベンゼンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、m−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、o−エチルベンゼンスルホン酸、m−エチルベンゼンスルホン酸、p−エチルベンゼンスルホン酸、p−ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられ、脂肪族スルホン酸では、ドデシルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
【0050】
カルボン酸鉄の第二鉄塩におけるカルボン酸としては、飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のいずれでもよく、また脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸、脂環式カルボン酸等のいずれであってもよい。
【0051】
酸化剤の使用量は、化合物(3)及び(4)に対して0.5モル〜20モルの範囲が好ましく、1〜10モルの範囲であることがより好ましい。
【0052】
また、工程1では、そのほかにプロトン酸を共存させておいてもよい。プロトン酸として使用できるものとしては、酸解離定数pka値が4.0以下であれば特定の制限なく使用できる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−ニトロ安息香酸、トリクロロ酢酸などの有機酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸等のポリマー酸を挙げることができる。この場合の使用量は、ジチエノピロール共重合体に対して少なくともよいし、過剰に加えても差し支えない。
【0053】
工程1では、重合に寄与した酸化剤及び、重合中に共存させたプロトン酸をそのままドーパントとして用いることができる。これにより、重合後のドープ工程を省略することができる。
【0054】
工程1の反応では、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤として使用できるものとしては、化学式(1)で表される繰り返し単位を含む共重合体とドーパントを含有する本発明の導電性インクの溶解性や分散性を阻害しないものであれば制限はなく、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれであってもよいが、本発明でより好ましい界面活性剤としては、イオン性界面活性剤が挙げられる。イオン性界面活性剤には、陰イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤があり、必要に応じて適宜選択される。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム、スルホコハク酸ジオクチル酸ナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、N−アシル−L‐グルタミン酸トリエタノールアミン、N−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。
【0055】
また、陽イオン性界面活性剤は、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0056】
さらに、これらのイオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤(非イオン性界面活性剤)を組み合わせて使用することも可能である。ノニオン性界面活性剤には、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトール)、親油性ポリグリセリン脂肪酸エステル系混合乳化剤、ベミュレン、ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸エチレングリコール、ラウリン酸ジエタノールアミド等が挙げられ、これらを適宜選択して使用することができる。
【0057】
工程1の反応は、溶媒の存在下で行うのが好ましい。溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない限りどのような溶媒でも構わないが、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジイソプロピル等のカルボニル基含有溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒類等が挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、又2種以上を併用して用いてもよい。水と有機溶媒を混合してもよい。
【0058】
溶媒の使用量は、化合物(3)、(4)に対して、1〜2000質量倍の範囲が好ましく、10〜1000質量倍の範囲がより好ましい。
【0059】
重合の反応温度は使用する溶媒、酸化剤、ドーパント、化合物(3)、(4)によっても異なるが、通常−20℃から用いる溶媒の還流温度の範囲内である。
【0060】
重合時間は、使用する溶媒、酸化剤、ドーパント、化合物(3)、(4)によっても異なるが、通常は、0.5時間〜100時間の範囲が好ましく、1時間〜72時間の範囲がより好ましい。重合反応は、攪拌しながら行うことが望ましい。
【0061】
重合反応中、及び、反応終了後、ドープされたジチエノピロール共重合体を分散させるため、乳化機を使用してもよい。使用する乳化機はどのような機種でもよい。乳化機の例としては、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、マイルダー、アトライター、(超)高圧ホモジナイザー及びコロイドミルなどを挙げることができる。
【0062】
反応液は、そのまま導電性インクとして使用することができる。また、反応終了後、反応液を水洗して過剰の酸化剤やドーパントを除去してもよいし、反応液を濃縮し濃度を調節することもできる。
【0063】
本発明の導電性インク中に含まれる分散物の平均粒子径は、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。導電性インク中に含まれる分散物の平均粒子径は、市販の粒度測定機を使用して測定することができる。粒度測定機の例としては、光子相関法、レーザー回折散乱法、動的光散乱法による測定機を用いることができる。また、導電性インクをフィルターろ過または、遠心分離機にかけることで、分散物の平均粒子径を制御することもできる。
【0064】
工程1のみによって本発明の導電性インクを製造することができるが、得られた導電性インク中のドープされたジチエノピロール共重合体を脱ドープし(以下、工程2と称す)、該脱ドープポリマーに再び所望のドーパントを加えて本発明の導電性インクとすることもできる(以下、工程3と称す)。
【0065】
工程2は、酸または塩基の存在下、導電性インク中のドープされたジチエノピロール共重合体を酸化或いは還元することにより行う。
【0066】
工程2で使用する酸または塩基としては、ドープされたジチエノピロール共重合体を酸化或いは還元できるものであればよく、特に制限されない。例えば、塩基を用いる場合には、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、フェニルヒドラジン等のヒドラジン類、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化金属等を使用することができる。
【0067】
工程2は、溶媒の存在下、または非存在下で実施することができる。工程1で得られた導電性インクにそのまま酸または塩基を投入することもできるし、別の溶媒に置換した後に反応を行うこともできる
【0068】
工程2の反応温度は、使用する溶媒や導電性インクの内容物によっても異なるが、通常‐20℃から用いる溶媒の還流温度の範囲である。
【0069】
工程2で脱ドープしたジチエノピロール共重合体は、必要に応じて常法により分離精製することができる。反応混合物を水洗した後、濃縮し、再沈等の精製をすることができる。このようにして得られた脱ドープしたジチエノピロール共重合体は、半導体特性を有するため、各種有機半導体材料として用いることができる。
【0070】
また、工程3により脱ドープしたジチエノピロール共重合体に再び所望のドーパントを加えて、再ドープすることもできる。
【0071】
このような再ドープに用いられるドーパントとしては、脱ドープしたジチエノピロール共重合体の導電性を向上できるものであれば、特に制限はなく、前述したドーパントのいずれもを使用することができる。工程3で使用するドーパントは、脱ドープする前の導電性インクに用いられたドーパントと同じであっても異なるものであってもよい。工程3を経ることにより、本発明の導電性インクのドーパントを任意に変えることができる。
【0072】
工程3を経て得られた再ドープされたジチエノピロール共重合体からなる導電性インクも本発明の技術的範囲に包含される。
【0073】
このようにして得られた本発明の導電性インクは、溶媒中でドープされたジチエノピロール共重合体が溶解及び/又は安定に分散するものであり、加工性が優れるとともに透明性と導電性が良好であるため、導電性材料として好適である。
【0074】
本発明の導電性インク及び脱ドープして得られたジチエノピロール共重合体は、有機エレクトロニクス部材の製造に有用である。有機エレクトロニクス部材としては、例えば、電極、固体電解コンデンサ、熱伝素子、圧電素子、アクチュエーター、センサー、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ、電波による固体識別(RFID)器、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)、電荷散逸(帯電防止)部材、有機半導体素子などが挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
本発明の導電性インクの調製を実施例1〜4に示す。
【0077】
<実施例1>
(N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール:ドデシルチオフェン共重合体を含む導電性インクの作成)
内容量100mlの三口フラスコに窒素雰囲気化、N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール695mgとドデシルチオフェン253mgをクロロホルム25gに溶解した。次いで、硫酸鉄(III)n水和物7.2g、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム3.6g、蒸留水15g、クロロホルム35gからなる懸濁液を滴下した。その後、60℃まで加熱し、24時間攪拌した。得られた分散液を蒸留水で洗浄したところ、N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール:ドデシルチオフェンランダム共重合体を含む導電性インク60g(固形分濃度1%)を取得した。
【0078】
<実施例2>
(N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール:ドデシルチオフェン共重合体を含む導電性インクの作成)
実施例1のクロロホルムの代わりにトルエンを用いた以外は同様の操作を行い、N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール:ドデシルチオフェンランダム共重合体を含む導電性インク60g(固形分濃度1%)を取得した。
【0079】
<実施例3>
(N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール:3−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン共重合体を含む導電性インクの作成)
内容量100mlの三口フラスコに窒素雰囲気化、N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール695mgと3−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン202mgをクロロホルム25gに溶解した。次いで、硫酸鉄(III)n水和物7.2g、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム3.6g、蒸留水15g、クロロホルム35gからなる懸濁液を滴下した。その後、60℃まで加熱し、24時間攪拌した。得られた分散液を蒸留水で洗浄したところ、N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール:3−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェンランダム共重合体を含む導電性インク60g(固形分濃度1%)を取得した。
【0080】
<実施例4>
(N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール:3−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェン共重合体を含む導電性インクの作成)
実施例3のクロロホルムの代わりにトルエンを用いた以外は同様の操作を行い、N−ドデシル−ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール:3−(2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ)チオフェンランダム共重合体を含む導電性インク60g(固形分濃度1%)を取得した。
【0081】
<比較例1>
内容量100mlの三口フラスコに窒素雰囲気化、3,4−エチレンジオキシチオフェン142mgをクロロホルム10gに溶解した。次いで、硫酸鉄(III)n水和物2.4g、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.2g、蒸留水6g、クロロホルム12gからなる懸濁液を滴下した。その後、60℃まで加熱し、24時間攪拌した。得られた反応液は、沈殿物が生じていた。蒸留水で洗浄したが、有機溶媒に均一に分散した液の取得はできなかった。
【0082】
<比較例2>
比較例1のクロロホルムの代わりにトルエンを用いた以外は同様の操作を行ったが、沈殿物が生じたため、有機溶媒に均一に分散した液の取得はできなかった。
【0083】
<比較例3>
内容量100mlの三口フラスコに窒素雰囲気化、ジチエノ〔3,2−b:2’,3’−d〕ピロール695mgとチオフェン168mgをクロロホルム25gに溶解した。次いで、硫酸鉄(III)n水和物7.2g、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム3.6g、蒸留水15g、クロロホルム35gからなる懸濁液を滴下した。その後、60℃まで加熱し、24時間攪拌した。得られた反応液は、沈殿物が生じていた。蒸留水で洗浄したが、有機溶媒に均一に分散した液の取得はできなかった。
【0084】
<比較例4>
比較例3のクロロホルムの代わりにトルエンを用いた以外は同様の操作を行ったが、沈殿物が生じたため、有機溶媒に均一に分散した液の取得はできなかった。
【0085】
<薄膜電極の作製>
実施例1〜4で作製した導電性インク及び比較例1〜4で作製した液を、ガラス板(2.5cm×2.5cm×0.1cm)に滴下しスピンコーターにて1000rpmで30秒製膜することで薄膜電極を作製した。実施例1〜4の導電性インクを用いた場合は、約50nmの薄膜からなる電極を作製することができた。一方、比較例1〜4の液を用いた場合は、薄膜作製は困難であり、有用な薄膜電極は得られなかった。
【0086】
<表面抵抗値の測定>
上記薄膜電極の表面抵抗値は4探針方式の測定器(三菱化学社製 MCP−T610)により測定した。その結果を表1に表す。
【0087】
<透過率の測定>
透過率は、UV−VIS−NIR(島津Solidspec−3700)にて測定した。その結果を表1に表す。
【0088】
<表面滑らかさ>
目視で薄膜電極表面の滑らかさを光沢の有無により観察した。その結果を表1に表す。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例1〜4より、効率的に汎用の有機溶媒中にジチエノピロール共重合体とドーパントとを安定に溶解/分散させることができ、均一な薄膜が作製可能な導電性インクを得ることができることがわかった。また、表1より、実施例1〜4で得られた導電性インクからなる薄膜電極は、表面抵抗値が小さく導電性に優れ、透明性及び表面平滑性に優れることがわかった。
【0091】
一方、本発明の請求項1で規定する、化学式(1)で表される繰り返し単位を含むジチエノピロール共重合体を含まない比較例1、2及び化学式(1)中のR、R、Rの全てが水素原子である比較例3、4においては、得られた液の分散性が悪く、また薄膜作製も困難であり、有用な薄膜電極は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の導電性インクは、有機溶媒中に安定に溶解/分散しており、この導電性インクにより形成された薄膜は、導電性と透明性に優れることから、電極、固体電解コンデンサ、熱伝素子、圧電素子、アクチュエーター、センサー、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜トランジスタ、電波による固体識別(RFID)器、電界効果トランジスタ(FET)、集積回路(IC)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)、電荷散逸(帯電防止)部材、有機半導体素子等の有機エレクトロニクス部材に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
【化1】

〔式(1)中、Rは同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はアルコキシ基であり;
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基であり;
は同一又は異なって、下記化学式(2)
−〔X−(CH−(X−(CH − ・・・(2)
(式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基であり、X及びXは同一又は異なって酸素原子若しくは硫黄原子であり、〔X−(CH〕は繰り返し単位毎にXとaとが同一又は異なっていてもよく、aは1〜20、bは0〜20、cは0又は1、dは0〜20の正数である)で示される側鎖基であり;
、R及びRのうち少なくとも1つは水素原子以外の置換基であり;
m、nはそれぞれ2〜10000であり、m:nの比率は3:97から97:3の範囲である〕
で表される繰り返し単位を含むジチエノピロール共重合体とドーパントが溶媒中に分散又は溶解している導電性インク。
【請求項2】
溶媒が有機溶媒を含む請求項1に記載の導電性インク。
【請求項3】
下記化学式で表される化合物(3)
【化2】

と下記化学式で表される化合物(4)
【化3】

〔式(3)、(4)中、Rは同一又は異なって、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はアルコキシ基であり;
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基であり;
は同一又は異なって、下記化学式(2)
−〔X−(CH−(X−(CH − ・・・(2)
(式(2)中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基であり、X及びXは同一又は異なって酸素原子若しくは硫黄原子であり、〔X−(CH〕は繰り返し単位毎にXとaとが同一又は異なっていてもよく、aは1〜20、bは0〜20、cは0又は1、dは0〜20の正数である)で示される側鎖基であり;
、R及びRのうち少なくとも1つは水素原子以外の置換基である〕
を混合し、酸化剤存在下で重合させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性インクの製造方法。
【請求項4】
化合物(3)と化合物(4)を酸化剤、及び界面活性剤存在下で重合させることを特徴とする請求項3に記載の導電性インクの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法で得られた導電性インクを脱ドープする工程を含む、化学式(1)で表される繰り返し単位を含むジチエノピロール共重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の導電性インクを用いて製造される有機エレクトロニクス部材。

【公開番号】特開2013−67684(P2013−67684A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205514(P2011−205514)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】