説明

導電性インク組成物及びこれを用いた電極の形成方法

【課題】基板上に線状積層体を形成した後に加熱して電極を形成することにより、加熱工程が1回で済み、また基板上にライン状に形成された各線状積層体の位置合わせが不要になり、電極を形成するための工程を大幅に簡略化する。
【解決手段】導電性インク組成物は、導電性粒子と、樹脂組成物及び溶剤を含む有機系ビヒクルとを含有する。上記溶剤に室温で揮発する低温揮発性溶剤が総量100質量%に対して5〜30質量%含まれる。また導電性インク組成物の粘度は0.5〜15Pa・sの範囲内である。更に上記低温揮発性溶剤はグリコールエーテル系溶剤であり、樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物及びフェノール樹脂組成物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の単一組成物又は混合組成物であり、導電性粒子はAg粒子であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池などの電極を形成するために用いられる導電性インク組成物と、この導電性インク組成物を用いて凹版オフセット印刷法により電極を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電極の形成方法として、凹版オフセット印刷法により基板上に電極線を形成する方法であって、粘度が170ポアズ以上330ポアズ以下(17Pa・s以上33Pa・s以下)でありかつチキソトロピ・インデックス(TI値)が4.2以上7.7以下である導電性ペーストを、凹版の凹部に充填し、この凹部内の導電性ペーストをシリコーンゴム製のブランケットに受理させた後、このブランケットから基板へ導電性ペーストを転写して印刷し、更に導電性ペーストの基板への転写直後に、この導電性ペーストを加熱する電極線の形成方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この電極線の形成方法では、上記印刷工程と加熱工程とを1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返して、導電性ペーストが重ね印刷される。また上記電極線の幅は30以上100μm以下に形成され、電極線の厚さは30μm以上100μm以下に形成される。このように構成された電極線の形成方法では、凹版オフセット印刷法を採用し、電極線のパターンに従って形成された凹版の凹部にのみインクを埋め込んで転写するため、ペーストの無駄が殆ど発生せず、製造コストを削減することができる。また線幅が細く厚さも大きくしかもエッジがシャープな電極線を基板上に形成できるため、断線や高抵抗化などの不具合を防止できるようになっている。
【特許文献1】特開2007−44974号公報(請求項1、請求項6、段落[0013]、段落[0025]、段落[0044]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の特許文献1に示された電極線の形成方法では、導電性ペーストを基板上に1回転写して印刷する毎に加熱しなければならず、工数が増大する不具合があった。また上記従来の特許文献1に示された電極線の形成方法では、印刷工程から加熱工程に移行するときに基板を印刷機から加熱装置に移動させる必要がある場合、基板上に転写した導電性ペースト上に新たに導電性ペーストを積層するときの位置合せが難しくなる問題点もあった。更に上記従来の特許文献1に示された電極線の形成方法では、電極線の幅が30μm以上100μm以下であり、電極線の厚さは30μm以上100μm以下であると記載されているけれども、実施例では電極線の幅が65〜67μmであり、電極線の厚みが34〜35μmであり、電極線の幅に対する電極線の厚みで表されるアスペクト比が約0.5と小さいものしか記載されておらず、このようにアスペクト比が小さいと、断線や高抵抗化などを発生させずに、電極線を細線化できない問題点もあった。
【0004】
本発明の第1の目的は、基板上に線状積層体を形成した後に加熱して電極を形成することにより、加熱工程が1回で済み、また基板上にライン状に形成された各線状積層体の位置合わせが不要になり、電極を形成するための工程を大幅に簡略化できる、導電性インク組成物及びこれを用いた電極の形成方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、電極の幅に対する電極の厚さで表されるアスペクト比を大きくすることにより、断線や高抵抗化などを発生させずに、電極を細線化することができる、導電性インク組成物及びこれを用いた電極の形成方法を提供することにある。本発明の第3の目的は、優れた接着性と導電性を備えるとともに、電気信頼性の良好な電極を形成できる、導電性インク組成物及びこれを用いた電極の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、導電性粒子と、樹脂組成物及び溶剤を含む有機系ビヒクルとを含有する導電性インク組成物の改良である。その特徴ある構成は、溶剤に室温で揮発する低温揮発性溶剤が総量100質量%に対して5〜30質量%含まれ、粘度が0.5〜15Pa・sの範囲内であるところにある。上記低温揮発性溶剤はグリコールエーテル系溶剤であることが好ましい。また樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物及びフェノール樹脂組成物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の単一組成物又は混合組成物であることが好ましい。更に導電性粒子はAg粒子であることが好ましい。
【0006】
請求項5に係る発明は、導電性粒子と、樹脂組成物及び溶剤を含む有機系ビヒクルとを含有する導電性インクを用いて、凹版オフセット印刷法により基板上に電極を形成する方法の改良である。その特徴ある構成は、総量100質量%に対して5〜30質量%の室温で揮発する低温揮発性溶剤を含みかつ粘度が0.5〜15Pa・sの範囲内である導電性インクを凹状のパターンを有する印刷版に充填する充填工程と、この充填物をシリコーンシートを有する印刷用ブランケットに転写する第1転写工程と、この転写された充填物を基板上に転写する第2転写工程と、上記充填工程と第1転写工程と第2転写工程とを複数回繰り返して基板上に線状積層体を形成する積層工程と、基板上の線状積層体を加熱し焼成して電極を形成する加熱工程とを含むところにある。上記加熱工程における加熱温度は100〜280℃の範囲内であることが好ましい。また加熱工程後に形成された電極の幅が15〜100μmの範囲内であり、電極の厚さが10〜100μmの範囲内であり、かつ電極の幅に対する電極の厚さで表されるアスペクト比が0.7〜1.2の範囲内であることが好ましい。更に上記低温揮発性溶剤はグリコールエーテル系溶剤であることが好ましく、樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物及びフェノール樹脂組成物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の単一組成物又は混合組成物であることが好ましく、導電性粒子はAg粒子であることが好ましい。
【0007】
請求項11に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に記載の導電性インク組成物を用いて集電極が形成された太陽電池セルである。請求項12に係る発明は、請求項5ないし10いずれか1項に記載の方法で形成された電極を集電極として用いた太陽電池セルである。請求項13に係る発明は、集電極が透明導電層上に形成された請求項11又は12記載の太陽電池セルである。
【0008】
請求項14に係る発明は、請求項11ないし13いずれか1項に記載の太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールである。請求項15に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に記載の導電性インク組成物を用いてリード線が形成された太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1及び5に係る発明では、低温揮発性溶剤を総量100質量%に対して5〜30質量%と比較的多く含み、導電性インク組成物の粘度が0.5〜15Pa・sと比較的低いので、凹版オフセット印刷の凹状パターンに導電性インク組成物を充填するときに、導電性インク組成物が高い流動性を保つとともに、凹状パターンに充填された導電性インク組成物が印刷用ブランケットに微細線状に転写されたときに、印刷用ブランケット表面で微細線状の導電性インク組成物から低温揮発性溶剤が揮発して失われる。このため、導電性インク組成物が凹版に充填し易くなるとともに、導電性インク組成物が高粘度かつ高粘着質となり、印刷用ブランケットや基板上に転写し易くなる。また従来のように導電性インク組成物を基板に印刷する毎に加熱する必要がないので、加熱工程が1回で済むとともに、基板上にライン状に形成された各線状積層体の位置合わせが不要になり、電極を形成するための工程を大幅に簡略化できる。このように、本発明の導電性インク組成物は優れた接着性と導電性を備えるので、この導電性インク組成物を用いて電気信頼性の良好な電極を形成できる。また本発明の導電性インク組成物を用いると、電極の幅に対する電極の厚さで表されるアスペクト比を0.7〜1.2と大きくすることができるので、断線や高抵抗化などを発生させずに、電極を細線化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。導電性インク組成物は、導電性粒子と、樹脂組成物及び溶剤を含む有機系ビヒクルとを含有する。樹脂組成物としては、従来よりも更に細線化され、接着面積が狭くなった集電極において高い密着性を発現させる必要があるという理由から、エポキシ樹脂組成物を用いることが好ましいが、アクリル樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物、フェノール樹脂組成物を用いてもよく、或いは、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物及びフェノール樹脂組成物からなる群より選ばれた2種以上の混合組成物を用いてもよい。また溶剤としては、15〜35℃の範囲内の室温で揮発する低温揮発性溶剤とを含む。低温揮発性溶剤はグリコールエーテル系溶剤であることが好ましい。グリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル類、エチレングリコールモノベンジルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル類、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノフェニルエーテル類、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ブチレングリコールモノアルキルエーテル類が挙げられる。
【0011】
エチレングリコールモノアルキルエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、エチレングリコールモノフェニルエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられる。エチレングリコールモノベンジルエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノベンジルエーテルが挙げられ、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類の具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルが挙げられる。
【0012】
ジエチレングリコールモノベンジルエーテル類の具体例としては、ジエチレングリコールモノベンジルエーテルが挙げられ、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル類の具体例としては、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。プロピレングリコールモノアルキルエーテル類の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが挙げられ、プロピレングリコールモノフェニルエーテル類の具体例としては、プロピレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられる。
【0013】
ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類の具体例としては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられ、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル類の具体例としては、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。ブチレングリコールモノアルキルエーテル類の具体例としては、メトキシブタノール、メトキシメチルブタノール、3−メトキシブタノールが挙げられる。低温揮発性溶剤は上記グリコールエーテル系溶剤から選ばれたいずれか1種の溶剤であってもよく、また2種又は3種以上を混合した混合溶剤であってもよい。
【0014】
一方、導電性粒子は球状導電性粒子と平均フレーク径が0.1μm以上3μm未満であるフレーク状導電性粒子とを含有する。ここで、導電性粒子がフレーク状であるか球状であるかは、導電性粒子の厚みに対する直径(直径/厚み)で求められるアスペクト比を後述する走査型電子顕微鏡で観察した像をもって、アスペクト比が2以上であるものをフレーク状であると識別し、フレーク状導電性粒子の平均フレーク径とは、フレーク導電性粒子の直径(長径)の平均をいう。上記平均フレーク径が0.1μm以上3μm未満の範囲内にあるとき、アスペクト比は2〜20の範囲内にあることが良好であり、厚さは0.005〜1.5μmの範囲内にあることが好ましく、0.005〜0.5μmの範囲内にあることが特に好ましい。フレーク状導電性粒子の平均フレーク径が0.1μm未満であると、比表面積が大きくなってインク組成物の粘度が高くなり過ぎたり、またフレーク状導電性粒子を入れることにより高い導電性を得るという効果が得られ難くなり、3μm以上になると、形成される電極の低抵抗化が困難であったり、またインク組成物のチキソトロピック製が高くなり凹版への充填性が低下するなどの印刷不良を起こし易くなる。このうち、フレーク状導電性粒子のフレーク径は0.15〜2.0μmであることが好ましい。また球状導電性粒子の平均粒径は、0.05〜3μmであることが好ましい。球状導電性粒子の平均粒径が0.05μm未満になると、加工コストが極めて高価となり、3μmを越えると、粒径の大きな粒子が多く含まれることにより、インク組成物の粘度が低くなるため、印刷後の細線ライン形状(線状積層体形状)が崩れ、滲みが発せしたり、導電性粒子が密に詰まらずに低抵抗化が困難となる。このうち、球状導電性粒子の平均粒径は、0.1〜2.0μmであることが特に好ましい。ここで、球状導電性粒子の平均粒径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製 LA−950)にて測定し、粒子径基準を個数として演算した50%平均粒子径(D50)をいう。このレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置による個数基準平均粒径の値は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S−4300SE及びS−900)により観察した画像において、任意の50個の粒子について粒径を実測したときのその平均粒径とほぼ一致する。また、フレーク状導電性粒子の平均フレーク径を球状導電性粒子の平均粒径よりも大きくすると、フレーク状導電性粒子の隙間を球状導電性粒子が埋めることにより、導電性粒子同士が密に集まり、高い導電性を確保するという効果を発揮させることできるので好ましい。しかし、逆の場合、即ち球状導電性粒子の平均粒径をフレーク状導電性粒子の平均フレーク径よりも大きくすると、低抵抗化が困難となるため好ましくない。
【0015】
導電性粒子は上記フレーク状導電性粒子を上記球状導電性粒子より質量割合でより多く又は同じ質量割合で含有する。即ち導電性粒子は上記フレーク状導電性粒子を50質量%以上含有する。フレーク状導電性粒子が50質量%未満であると、導電性が低下する。このうち、導電性粒子はフレーク状導電性粒子を50〜95質量%含有するのが好ましく、65〜95質量%含有するのが更に好ましい。即ち球状導電性粒子を50〜5質量%含有するのが好ましく、35〜5質量%含有するのが更に好ましい。導電性粒子としては、比抵抗が小さく酸化され難いという理由から、Ag粒子を使用するのが好ましいが、Ag以外には、Au、Cu、Ni又はAlを単独で使用してもよいし、或いはAgを含めたこれら2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
導電性粒子は導電性インク組成物100質量%に対して50〜90質量%、好ましくは60〜85質量%含まれ、樹脂組成物は導電性インク組成物100質量%に対して0.5〜50質量%、好ましくは1.0〜40質量%含まれ、低温揮発性溶剤は導電性インク組成物100質量%に対して5〜30質量%、好ましくは7〜25質量%含まれる。また上記導電性インク組成物の粘度は、0.5〜15Pa・s、好ましくは1〜10Pa・sの範囲内である。更に低温揮発性溶剤のSP値は9〜15あることが好ましい。この溶剤のSP値とは、溶解度パラメータであり、物性の極性を示す指標となる値であり、次の式(1)に示されるδにより定義される量をいう。溶解度パラメータ(SP値)の値が近い物質同士は互いに溶け易い性質を有する。
【0017】
δ=[(ΔHV−RT)/V]1/2=(ΔEV/V)1/2 ……(1)
なお、上記式(1)において、ΔHVは蒸発潜熱であり、Rはガス定数であり、Tは絶対温度であり、Vはモル容積であり、ΔEVは蒸発エネルギである。
【0018】
ここで、導電性粒子を50〜90質量%の範囲に限定したのは、50質量%未満では電極の導電性が低下してしまい、90質量%を越えるとインク組成物が印刷に適した流動性を得られないからである。樹脂組成物を0.5〜50質量%の範囲に限定したのは、0.5質量%未満である場合や50質量%を越えた場合、インク組成物に印刷に適した流動性及び粘着性を付与できないからである。低温揮発性溶剤を5〜30質量%の範囲に限定したのは、5質量%未満では印刷工程時にインク組成物に適度な粘着性物質への変化を与えられず、30質量%を越えると印刷工程中にインク組成物が乾燥し、印刷ラインの欠けなどの不良を起こし易いからである。導電性インク組成物の粘度を0.5〜15Pa・sの範囲に限定したのは、0.5Pa・s未満では低粘度のために保形性が悪く、線状積層体の形成が困難となり、15Pa・sを越えるとインク組成物が高粘度であるため本発明の印刷法では細線化されたライン(線状積層体)を形成し難いからである。低温揮発性溶剤のSP値を9〜15の範囲に限定したのは、9未満では導電性インク組成物が印刷工程中に転写媒体となるブランケットロールに吸収されてこのロールが膨潤し、基板に印刷した際に導電性インク組成物の形状が変形してしまい、15を越えるとインク組成物に吸湿性が発現するだけでなく、印刷対象の基板がインク組成物をはじいて、所望の形状が得られ難くなるからである。なお、上記導電性インク組成物には、必要に応じて硬化剤(具体的には、イミダゾール類、第3級アミン類又はフッ化ホウ素を含むルイス酸、或いはその化合物)や分散剤等の添加剤を加えることができる。
【0019】
本発明の導電性インク組成物は、電極又は電気配線、特に、太陽電池モジュールにおける太陽電池セルの集電極、又はリード線の形成に好適に用いることができる。図1に示すように、ハイブリッド型の太陽電池セル10は、n型単結晶シリコン基板11と、この基板11の受光面側に形成された非結晶質のアモルファスシリコン層12と、このアモルファスシリコン層12上に形成されたITOからなる透明電極13と、この透明電極13上に形成された集電極14,15とを備える。基板11の裏面、即ち基板11の受光面とは反対側の面には、アモルファスシリコン層16及び透明電極17が形成される。集電極14,15が形成される表面は、光閉じ込め効果を得るために、凹凸形状を有するテクスチャ構造になっているのが一般的である。また集電極14,15は、図2に示すように、2本のバスバー部14と、このバスバー部14と直交する複数本のフィンガー部15とを有する。集電極14,15は、上記n型単結晶シリコン基板11及アモルファスシリコン層12に、できるだけ多くの光を吸収させ、抵抗損失なく電力を取り出すことが要求されることから、電極幅をより細線化し、抵抗をより小さくすることが要求される。
【0020】
表面にアモルファスシリコン層12及び透明電極13が形成されかつ裏面にアモルファスシリコン層16及び透明電極17が形成された基板11の表面に、上記導電性インク組成物を用いて凹版オフセット印刷法により印刷し焼成して集電極15を形成する方法を説明する。先ず図3(a)に示すように、所定の凹状パターン20aを有する平面凹版20を印刷版として用意し、この平面凹版20表面に導電性インク組成物21を所定量供給する。この平面凹版20表面にスキージ22をあててスライドさせることにより、導電性インク組成物21を凹状パターン20aに埋め込む(充填工程)。このとき低温揮発性溶剤を総量100質量%に対して5〜30質量%と比較的多く含み、導電性インク組成物21の粘度が0.5〜15Pa・sと比較的低いので、凹状パターン20aに導電性インク組成物11を充填するときに、導電性インク組成物21が高い流動性を保つので、導電性インク組成物21を凹状パターン20aに充填し易くなる。
【0021】
次いで図3(b)に示すように、表面にシリコーンゴムシート23aが取付けられたブランケットロール23を印刷用ブランケットとして用意し、導電性インク組成物21が凹状パターン20aに埋め込まれた平面凹版20上にブランケットロール23を圧接し、この状態でブランケットロール23を回転させて平面凹版20上を転動させることにより、平面凹版20の凹状パターン20aに埋め込まれた導電性インク組成物21の一部をブランケットロール23のシリコーンゴムシート23a表面に転写する(第1転写工程)。凹状パターン20aに充填された導電性インク組成物21がブランケットロール23に微細線状に転写されたときに、ブランケットロール23表面で微細線状の導電性インク組成物21から低温揮発性溶剤が揮発して失われるため、導電性インク組成物21が高粘度かつ高粘着質となり、導電性インク組成物21を基板11上に転写し易くなる。
【0022】
次に図3(c)に示すように、導電性インク組成物21を転写したブランケットロール23を基板11(被転写体)に圧接し、この状態でブランケットロール23を回転させ、基板11上を転動させることにより、基板11表面に導電性インク組成物21が所定のパターンで転写されて(第2転写工程)、所定の印刷パターンの塗膜となる(図3(d))。このときブランケットロール23に微細線状に転写された導電性インク組成物21が基板11に微細線状に転写されたときに、基板11表面で微細線状の導電性インク組成物21から低温揮発性溶剤が更に揮発して失われるため、導電性インク組成物21が更に高粘度かつ高粘着質となり、線状積層体24の形状を保ちアスペクト比の高いライン形状のままダレが発生せずに残る。
【0023】
上記充填工程と第1転写工程と第2転写工程とを複数回繰り返して、具体的には2〜10回、好ましくは2〜5回繰り返して、基板11上に線状積層体24を形成する(図3(e))。このとき基板11を凹状オフセット印刷機に固定したまま線状積層体24を形成するので、基板11上に形成された線状積層体24の位置がずれることがない。ここで、充填工程と第1転写工程と第2転写工程との繰り返し回数を2〜10回の範囲に限定したのは、2回未満では線状積層体のアスペクト比(幅に対する厚さの比)が大きくならず、10回を越えると特に不具合はないけれども線状積層体の形状が山形になり易くなるからである。更にこの所定の印刷パターンの線状積層体24が形成された基板11を空気中で100〜280℃、好ましくは130〜220℃に、1〜30分間、好ましくは5〜30分間保持することにより、基板11上の線状積層体24を乾燥・焼成して集電極15を形成する。この結果、従来のように導電性インク組成物を基板に印刷する毎に加熱する必要がないので、加熱工程が1回で済むとともに、基板11上にライン状に形成された各線状積層体24の位置合わせが不要になり、集電極15を形成するための工程を大幅に簡略化できる。
【0024】
このように本発明の導電性インク組成物21は優れた接着性と導電性を備えるので、この導電性インク組成物21を用いて電気信頼性の良好な電極を形成できる。また本発明の導電性インク組成物21を用いると、集電極15の幅に対する集電極15の厚さで表されるアスペクト比を0.7〜1.2、好ましくは0.8〜1.1と大きくすることができるので、断線や高抵抗化などを発生させずに、電極を細線化することができる。なお、ブランケットロール表面には、シリコーンゴムシートの代わりにシリコーン樹脂シートを取付けてもよい。また、上記基板11の焼成温度を100〜280℃の範囲に限定したのは、100℃未満ではインク組成物中の溶剤成分の一部が揮発できずに残存するため、導電性粒子が密に集まらず低抵抗化を妨げてしまい、280℃を越えると必要以上にエネルギを消費してエネルギ効率が低下すると同時に、ハイブリッド型の太陽電池セルではこの太陽電池セルの性能に支障をきたすからである。更に基板11の焼成時間を1〜30分の範囲に限定したのは、1分未満では時間が短すぎて線状積層体24中の溶剤成分の一部が揮発できずに残存すると同時に、樹脂が硬化不十分となるため導電性粒子が密に集まらず、低抵抗化を妨げてしまい、30分を越えると必要以上に時間を浪費して生産効率が低下するからである。
【0025】
一方、上記平面凹版20の凹状パターン20aのライン幅Wを10〜1000μmとし、深さDを5〜50μmとし、ピッチPを10〜1000μmとし、ブランケットロール23のシリコーンゴムシート23aの厚さを0.1〜3mmとし、更に上記導電性インク組成物21を凹版オフセット印刷法により2〜1000枚の基板11に連続印刷して乾燥・焼成したとき、各基板11について、基板11の所定位置における3〜12箇所のライン幅Wをそれぞれ測定したときの測定値の平均値が0.95W〜1.05W、好ましくは0.98W〜1.02Wの範囲内であり、かつ測定値の標準偏差値が10以下、好ましくは5以下となることが好適である。焼成後の集電極15の印刷パターンの形状変動が上記範囲内であれば、凹版オフセット印刷法による長時間連続印刷での使用に適し、印刷の再現性に優れた導電性インク組成物21ということができる。ここで連続印刷とは、0.5〜1枚/分の速度で印刷した場合を指す。
【0026】
本発明の導電性インク組成物を用いた集電極を有する太陽電池セル及びこの太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールは、集電極の細線化により、より多くの光を受光面に照射させ、n型単結晶シリコン基板及アモルファスシリコン層に吸収させることができる。また集電極のアスペクト比を大きくすることにより、集電極の幅が小さくても厚さが大きくなるので、集電極の断面積を大きくすることができる。この結果、集電極が断線するのを防止できるとともに、集電極の高抵抗化を防止できる。更に、図4に示すように、太陽電池モジュール30は、リード線32により太陽電池セル10同士を相互に電気的に接続されることで形成される。このリード線32は、太陽電池モジュール30の特性を高めるために、より低抵抗のものを用いることが要求されることから、通常、銅箔が使用され、この銅箔は半田などにより被覆される。本発明の導電性インク組成物は、リード線における銅箔の代替として利用でき、印刷法による形成が可能であることから簡便な方法で低抵抗のリード線の形成が可能になる。なお、上記実施の形態では、導電性インク組成物をハイブリッド型太陽電池の集電極やリード線を形成するために用いたが、導電性インク組成物を単結晶シリコン型太陽電池、多結晶シリコン型太陽電池、アモルファスシリコン型太陽電池等の集電極やリード線を形成するために用いてもよい。
【実施例】
【0027】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
導電性粒子として、平均フレーク径0.5μmのフレーク状導電性粒子75質量%と、平均粒径0.2μmの球状導電性粒子25質量%とを混合したAg粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物としてエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製:液状エポキシ樹脂827)を用意し、有機系ビヒクルを構成する低温揮発性溶剤としてエチレングリコールモノブチルエーテルを用意した。なお、上記低温揮発性溶剤であるエチレングリコールモノブチルエーテルのSP値は9.1であった。上記Ag粒子87質量%と、エポキシ樹脂5質量%と、エチレングリコールモノブチルエーテル8質量%とを混合し、この混合物に外割で硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.5質量%を加えて、3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は6.1Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は8.1×10-6Ω・cmであった。
<実施例2>
実施例1と同一の導電性粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物としてアクリル共重合樹脂(日本合成社製:紫光3310B)を用意し、有機系ビヒクルを構成する低温揮発性溶剤としてエチレングリコールモノエチルエーテルを用意した。なお、上記低温揮発性溶剤であるエチレングリコールモノエチルエーテルのSP値は9.5であった。上記Ag粒子85質量%と、アクリル共重合樹脂5質量%と、エチレングリコールモノエチルエーテル10質量%とを3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は7.0Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は15×10-6Ω・cmであった。
【0028】
<実施例3>
実施例1と同一の導電性粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物として実施例1と同一のエポキシ樹脂を用意し、有機系ビヒクルを構成する低温揮発性溶剤としてエチレングリコールモノベンジルエーテルを用意した。なお、上記低温揮発性溶剤であるエチレングリコールモノベンジルエーテルのSP値は10.1であった。上記Ag粒子87質量%と、エポキシ樹脂3質量%と、エチレングリコールモノベンジルエーテル10質量%とを混合し、この混合物に外割で硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.5質量%を加えて、3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は4.3Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は9.8×10-6Ω・cmであった。
<実施例4>
実施例1と同一の導電性粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物としてエポキシアクリレート樹脂(新中村化学工業社製:NKオリゴEA−1020)を用意し、有機系ビヒクルを構成する低温揮発性溶剤としてエチレングリコールモノメチルエーテルを用意した。なお、上記低温揮発性溶剤であるエチレングリコールモノメチルエーテルのSP値は9.6であった。上記Ag粒子83質量%と、エポキシアクリレート5質量%と、エチレングリコールモノメチルエーテル12質量%とを3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は3.3Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は12×10-6Ω・cmであった。
【0029】
<比較例1>
実施例1と同一の導電性粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物として実施例1と同一のエポキシ樹脂を用意し、有機系ビヒクルを構成する溶剤としてエチレングリコールモノブチルエーテルを用意した。なお、上記溶剤であるエチレングリコールモノブチルエーテルのSP値は9.1であった。上記Ag粒子94質量%と、エポキシ樹脂3質量%と、エチレングリコールモノブチルエーテル3質量%とを混合し、この混合物に外割で硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.5質量%を加えて、3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は45Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は8.0×10-6Ω・cmであった。
<比較例2>
Ag粒子55質量%と、エポキシ樹脂10質量%と、エチレングリコールモノブチルエーテル35質量%とを混合し、この混合物に外割で硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.5質量%を加えて、3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製したこと以外は、比較例1と同様にして基板上に電極を形成した。なお、上記導電性インク組成物の粘度は0.2Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は23×10-6Ω・cmであった。
【0030】
<比較例3>
実施例1と同一の導電性粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物として実施例1と同一のエポキシ樹脂を用意し、有機系ビヒクルを構成する低温揮発性溶剤として酢酸ブチルカルビトールを用意した。なお、上記低温揮発性溶剤である酢酸ブチルカルビトールのSP値は8.3であった。上記Ag粒子87質量%と、エポキシ樹脂5質量%と、酢酸ブチルカルビトール8質量%とを混合し、この混合物に外割で硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.5質量%を加えて、3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は4.9Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は7.9×10-6Ω・cmであった。
<比較例4>
実施例1と同一の導電性粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物として実施例2と同一のアクリル共重合樹脂を用意し、有機系ビヒクルを構成する低温揮発性溶剤としてα−テルピネオールを用意した。なお、上記低温揮発性溶剤であるα−テルピネオールのSP値は8.8であった。上記Ag粒子85質量%と、アクリル共重合樹脂5質量%と、α−テルピネオール10質量%とを3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は7.7Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は9.8×10-6Ω・cmであった。
【0031】
<比較例5>
実施例1と同一の導電性粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物として実施例1と同一のエポキシ樹脂を用意し、有機系ビヒクルを構成する溶剤として室温で揮発し難いテトラエチレングリコールを用意した。なお、上記溶剤であるテトラエチレングリコールのSP値は10.2であった。上記Ag粒子87質量%と、エポキシ樹脂5質量%と、テトラエチレングリコール8質量%とを混合し、この混合物に外割で硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.5質量%を加えて、3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は14.2Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は21×10-6Ω・cmであった。
<比較例6>
実施例1と同一の導電性粒子を用意した。また有機系ビヒクルを構成する樹脂組成物として実施例2と同一のアクリル共重合樹脂を用意し、有機系ビヒクルを構成する溶剤として室温で揮発し難い2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを用意した。なお、上記溶剤である2−エチル−1,3−ヘキサンジオールのSP値は9.5であった。上記Ag粒子85質量%と、アクリル共重合樹脂5質量%と、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール10質量%とを3本ロールミルにて混練し、ペースト化することにより導電性インク組成物を調製した。この導電性インク組成物の粘度は11.8Pa・sであり、導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は40×10-6Ω・cmであった。
【0032】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜4及び比較例1〜6で得られた導電性インク組成物では、粘度が異なり、またこれらの導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗も異なる。その上で導電性インク組成物を用いて凹版オフセット印刷を実施した際における、オフセット印刷性、最小線幅、密着性、重ね塗りの可否、アスペクト比を評価項目として挙げた。オフセット印刷性は次のように評価した。導電性インク組成物をオフセット印刷機(日本電子精機社製)でシコリン基板上に1回印刷した際の転写性等をオフセット印刷性として評価した。オフセット印刷性の具体的な評価は、導電性インク組成物がブランケットロールから基板上に転写される際に、ライン形状に乱れが無く、100%転写され、ブランケットロールに残留インクが無い状態を『良好』の評価とし、ライン形状に一部、にじみや乱れが確認されるけれども、ブランケットロール上には残留インク組成物が無く100%転写できた状態を『可』の評価とし、大きな形状乱れや印刷ムラ、欠損箇所などが確認されたり、ブランケットロール上に転写できない導電性インク組成物が残留した場合を『不可』の評価とした。
【0033】
最小線幅は次のように評価した。即ち、オフセット印刷が可能な線幅を50、70、100及び150μmの4種類の線幅で表した。また密着性は次のように評価した。シリコン基板上に形成した導電性インク組成物について、200℃にて30分間程度の加熱工程の後、JIS−K5600に準拠した碁盤の目テープテストを実施した際に、テープ側に導電性インク組成物が転写されず、基板上に導電性インク組成物が100%密着している場合を『良好』の評価とし、テープ及び基板の両方に導電性インク組成物が内部崩壊を起こして付着していた場合を『可』の評価とし、テープ側に多くの導電性インク組成物が付着し、剥離後の界面に基板表面が観察された場合を『不可』の評価とした。更に重ね塗りの可否は次のように評価した。1回目のオフセット印刷後に続けて重ね塗りが実施できるか否かを調べた。導電性インク組成物の乾燥性が不十分であり、1回目に印刷した導電性インク組成物を押し潰してしまい線幅の太り現象がみられたり、ブランケットロール上に導電性インク組成物が残るというパイリングにより重ね塗り自体が不可能な状況が起こった場合を『不可』と評価し、これらの現象が全く起こらなかった場合を『良好』と評価し、多少の線幅の太り現象がみられたけれども、ライン(線状積層体)間のスペースが埋まっておらずショート(短絡)するレベルになく、ブランケットロール上に導電性インク組成物が全く残らず、重ね塗りが良好に実施できた場合を『可』と評価した。
【0034】
なお、上記導電性インク組成物を印刷塗布し焼成して得られた電極の比抵抗は次のようにして求めた。先ず抵抗測定用としてガラス基板上に最終製品のライン形状とは異なる縦及び横がそれぞれ10mmである正方形状のベタ膜を、導電性インク組成物を用いて印刷塗布した。次にこのベタ膜を印刷塗布した基板を熱風循環乾燥炉に投入し、200℃の温度で30分間焼成して電極を形成した。更に表面固有抵抗表面抵抗計(三菱化学社製のローレスタ)を用いた四端子四探針方式により上記電極の表面抵抗を測定し、この表面抵抗の測定値と膜厚の測定値(キーエンス社製のレーザ顕微鏡VK−9600を用いて膜厚を測定した。)から比抵抗を算出した。
【0035】
実施例1〜4及び比較例1〜6の導電性インク組成物の各原料の種類及び配合比と、溶剤のSP値と、導電性インク組成物の粘度及び比抵抗とを表1に示した。また実施例1〜4及び比較例1〜6の導電性インク組成物を用いて凹版オフセット印刷を実施した際における、オフセット印刷性、最小線幅、密着性、重ね塗りの可否、アスペクト比を表2に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

表2から明らかなように、低温揮発性溶剤の含有量が3質量%と少ない比較例1ではオフセット印刷が行えず、低温揮発性溶剤の含有量が35質量%と多い比較例2では重ね印刷が行えず、ラインに欠損が発生したのに対し、低温揮発性溶剤の含有量が8〜12質量%と適量な実施例1〜4ではオフセット印刷性が良好であり、ライン形状も良好であった。なお、比較例2では、導電性インク組成物の粘度が0.2Pa・sと低いため、導電性インク組成物の基板への印刷面にムラが生じてしまい、比抵抗のばらつきが大きく、電気信頼性が低かった。また低温揮発性溶剤であるけれどもSP値が8.3又は8.8と低い比較例3及び4では1回印刷を行うことはできたけれども、導電性インク組成物が膨潤してライン形状安定性が悪く、印刷回数を重ねると印刷不具合の一つであるパイリングが発生し、ブランケットロール上に導電性インク組成物が残留したのに対し、低温揮発性溶剤でありかつSP値が9.1〜10.1と高い実施例1〜4では溶剤が膨潤することなくライン形状安定性が良好であり、印刷回数を重ねてもパイリングが発生せず、ブランケットロール上に導電性インク組成物が残留することもなかった。更に室温で揮発性の低い溶剤を用いた比較例3及び4では導電性インク組成物の膨潤は発生しなかったけれども、溶剤が揮発せず、導電性インク組成物の印刷時における粘度変化が得られず、ブランケットロール上に残留するパイリング不良が生じて重ね印刷を行うことができなかったのに対し、室温での揮発性が高い低温揮発性溶剤を用いた実施例1〜4では導電性インク組成物の膨潤が発生せず、導電性インク組成物の印刷時における粘度変化が得られるとともに、ブランケットロール上に残留するパイリング不良が生じず、重ね印刷を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明実施形態の導電性インク組成物を用いて形成された集電極を含む図2のA−A線断面図である。
【図2】その太陽電池セルの平面図である。
【図3】その太陽電池セルの集電極(フィンガー部)を凹版オフセット印刷法により形成する工程図である。
【図4】その太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールの斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
10 太陽電池セル
11 基板
14,15 集電極
20 平面凹版(印刷版)
20a 凹状パターン
21 導電性インク組成物
23 ブランケットロール(印刷用ブランケット)
23aシリコーンゴムシート(シリコーンシート)
24 線状積層体
30 太陽電池モジュール
32 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子と、樹脂組成物及び溶剤を含む有機系ビヒクルとを含有する導電性インク組成物において、
前記溶剤に室温で揮発する低温揮発性溶剤が総量100質量%に対して5〜30質量%含まれ、
粘度が0.5〜15Pa・sの範囲内である
ことを特徴とする導電性インク組成物。
【請求項2】
低温揮発性溶剤がグリコールエーテル系溶剤である請求項1記載の導電性インク組成物。
【請求項3】
樹脂組成物が、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物及びフェノール樹脂組成物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の単一組成物又は混合組成物である請求項1又は2記載の導電性インク組成物。
【請求項4】
導電性粒子がAg粒子である請求項1ないし3いずれか1項に記載の導電性インク組成物。
【請求項5】
導電性粒子と、樹脂組成物及び溶剤を含む有機系ビヒクルとを含有する導電性インクを用いて、凹版オフセット印刷法により基板上に電極を形成する方法において、
総量100質量%に対して5〜30質量%の室温で揮発する低温揮発性溶剤を含みかつ粘度が0.5〜15Pa・sの範囲内である導電性インクを凹状のパターンを有する印刷版に充填する充填工程と、
前記充填物をシリコーンシートを有する印刷用ブランケットに転写する第1転写工程と、
前記転写された充填物を基板上に転写する第2転写工程と、
前記充填工程と第1転写工程と第2転写工程とを複数回繰り返して前記基板上に線状積層体を形成する積層工程と、
前記基板上の線状積層体を加熱し焼成して電極を形成する加熱工程と
を含むことを特徴とする導電性インク組成物を用いた電極の形成方法。
【請求項6】
加熱工程における加熱温度が100〜280℃の範囲内である請求項5記載の導電性インク組成物を用いた電極の形成方法。
【請求項7】
加熱工程後に形成された電極の幅が15〜100μmの範囲内であり、電極の厚さが10〜100μmの範囲内であり、かつ前記電極の幅に対する前記電極の厚さで表されるアスペクト比が0.7〜1.2の範囲内である請求項5又は6記載の導電性インク組成物を用いた電極の形成方法。
【請求項8】
低温揮発性溶剤がグリコールエーテル系溶剤である請求項5ないし7いずれか1項に記載の導電性インク組成物を用いた電極の形成方法。
【請求項9】
樹脂組成物が、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物、ウレタン樹脂組成物及びフェノール樹脂組成物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の単一組成物又は混合組成物である請求項5ないし8いずれか1項に記載の導電性インク組成物を用いた電極の形成方法。
【請求項10】
導電性粒子がAg粒子である請求項5ないし9いずれか1項に記載の導電性インク組成物を用いた電極の形成方法。
【請求項11】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の導電性インク組成物を用いて集電極が形成された太陽電池セル。
【請求項12】
請求項5ないし10いずれか1項に記載の方法で形成された電極を集電極として用いた太陽電池セル。
【請求項13】
集電極が透明導電層上に形成された請求項11又は12記載の太陽電池セル。
【請求項14】
請求項11ないし13いずれか1項に記載の太陽電池セルを備えた太陽電池モジュール。
【請求項15】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の導電性インク組成物を用いてリード線が形成された太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−90211(P2010−90211A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259383(P2008−259383)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】