説明

導電性エポキシ樹脂組成物及び導電性エポキシ樹脂シート

【課題】本発明は、導電性に優れ、かつシート状に成形可能な柔軟性をあわせもつ導電性エポキシ樹脂組成物、及び、導電性エポキシ樹脂シートを提供する。
【解決手段】本発明は、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、硬化触媒、及び、炭素繊維を含有する導電性エポキシ樹脂組成物である。エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリアジン骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂のいずれか1つ以上を含む。エポキシ樹脂のエポキシ当量が200以下である。酸無水物硬化剤は分子内にエーテル結合をもち、かつ、(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)が0.1〜1.0である。硬化触媒はエポキシ樹脂を単独硬化可能なイミダゾール化合物、又は、次の式(1)のテトラアルキルホスホニウムカルボン酸塩のいずれかである。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い導電性と、柔軟性を備えた導電性エポキシ樹脂組成物、及び、導電性エポキシ樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、反応させると不融不溶の三次元架橋硬化物となり、高機械的強度、高耐熱性、高絶縁性、耐薬品性が高いなどの特長を備えた高性能、多機能樹脂として広汎な用途に利用されている。
【0003】
反面、エポキシ樹脂は一般的に硬く脆い性質をもつため、シート状に成形するのが困難であり、また成形できたとしてもハンドリング中のシートの割れや欠けが問題となる。
特許文献1には、エポキシ樹脂をシート状にした技術があり、エポキシ樹脂の脆性改善にはエラストマー成分の添加による柔軟性及び可撓性付与が一般的な手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−260845号公報
【0005】
しかしながら、これらエラストマー成分の添加による柔軟化は、エポキシ樹脂の耐熱性や耐薬品性を大きく減少させるという問題があった。また、樹脂シートに高い導電性を付与したい場合、一般に導電性フィラーと呼ばれる無機物質を数十質量部程度添加する必要があるが、この場合、樹脂シートの柔軟性は著しく低くなっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、導電性に優れ、かつシート状に成形可能な柔軟性をあわせもつ導電性エポキシ樹脂組成物、及び、導電性エポキシ樹脂シートである。
【0007】
本発明は、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、硬化触媒、及び、炭素繊維を含有する導電性エポキシ樹脂組成物であり、エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリアジン骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂のいずれか1つ以上を含み、エポキシ樹脂のエポキシ当量が200以下であり、酸無水物硬化剤は分子内にエーテル結合をもち、かつ、(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)が0.1〜1.0であり、硬化触媒は該エポキシ樹脂を単独硬化可能なイミダゾール化合物又は式1のテトラアルキルホスホニウムカルボン酸塩のいずれかであることを特徴とする導電性エポキシ樹脂組成物である。
【0008】
上述の炭素繊維の平均繊維長は、100μm以下が好ましく、(炭素繊維長)/(炭素繊維の直径)の値は50以上が好ましい。
【0009】
他の発明は、上述の導電性エポキシ樹脂組成物をシート状に形成した導電性エポキシ樹脂シートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる導電性エポキシ樹脂組成物は、上記構成により、高い導電性を有する。他の発明である導電性エポキシ樹脂シートは、高い導電性を有すると共に柔軟性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、硬化触媒、及び、炭素繊維を含有する導電性エポキシ樹脂組成物であり、エポキシ樹脂はエポキシ当量が200以下であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリアジン骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂のいずれか1つ以上を含み、酸無水物硬化剤は分子内にエーテル結合をもち、かつ、(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)が0.1〜1.0であり、硬化触媒は該エポキシ樹脂を単独硬化可能なイミダゾール化合物又は式1のテトラアルキルホスホニウムカルボン酸塩のいずれかである導電性エポキシ樹脂組成物である。
【0013】
本発明において、エポキシ樹脂はエポキシ当量が200以下で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリアジン骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂及びこれらの混合物が挙げられる。これらは分子骨格中にベンゼン環やトリアジン骨格を有するため、硬化体になったときに剛直な構造を持つことが出来、またエポキシ当量が200以下という比較的分子鎖の短いこれらのエポキシ樹脂を使用することで、架橋密度が高くなり、機械的強度、耐熱性、耐薬品性など諸物性を高くすることができた。
【0014】
本発明において、酸無水物硬化剤は分子内にエーテル結合をもつ化合物が挙げられる。エーテル結合を含むことによって、エポキシ樹脂組成物全体の分子骨格を柔軟にし、エポキシ樹脂組成物全体のガラス転移温度を下げ、これによりエポキシ樹脂組成物をシート状に成形可能な柔軟性を持たせることができた。
【0015】
分子内にエーテル結合を有する酸無水物としては、プロピレンオキシド、エチレンオキシドなどを繰り返し単位としてもつポリエーテル骨格の末端に酸無水物を反応させた化合物があげられ、好ましくはプロピレンオキシド骨格を有する酸無水物である。
【0016】
本発明において、分子内にエーテル結合をもつ酸無水物硬化剤の添加量は、(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)が0.1〜1.0となる範囲で選択でき、エポキシ樹脂組成物は構造内に柔軟なエーテル結合を有するため、シート形成可能な柔軟性を持つことができる。
当量は、官能基一個当たりの分子量なので、当量数は使用樹脂の重量を当量で除した値である。例えば、エポキシ樹脂100質量部、酸無水物硬化剤20質量部のとき、
エポキシ当量数は、100/185=0.541
酸無水物当量数は、20/330=0.061
となり、(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)は0.112である。
(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)の値が0.1に近いほど耐熱性や耐薬品性に優れ、(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)の値が1.0に近づくほど柔軟性に優れる。(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)の値が0.1以下となる硬化剤の添加量の場合、構造内に含まれるエーテル結合の数が少なすぎるため、エポキシ樹脂組成物は硬く、脆い性質となり、シート成形時に割れや欠けが発生する。(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)の値が1.0以上となる硬化剤の添加量の場合、反応しない硬化剤が残ってしまい、エポキシ樹脂組成物の性能に支障をきたす恐れがある。
【0017】
本発明において、硬化触媒は請求項1記載のエポキシ樹脂を単独硬化可能なイミダゾール化合物又は式1のテトラアルキルホスホニウムカルボン酸塩が挙げられる。これらの化合物はエポキシ樹脂と酸無水物硬化剤との反応を促進するだけでなく、エポキシ樹脂単独での硬化が可能なため、酸無水物硬化剤の添加量がエポキシ樹脂の当量に対し少ない場合でも、未硬化のエポキシ樹脂を残すことなく硬化体を作製することが出来る。
【0018】
イミダゾール化合物の例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられ、式1のテトラアルキルホスホニウムカルボン酸塩の例としては、テトラ−n−ブチルホスホニウムアセテート等が挙げられる。
【0019】
硬化触媒の添加量は、少ないとエポキシ樹脂硬化が十分に進まない、もしくは硬化が非常に遅いといった問題が発生し、多いと可使時間が短くなるといった問題が発生する。そのため、エポキシ樹脂と硬化剤を混合した配合部材100質量部に対する硬化促進剤の添加量の下限は0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1.0質量部以上であり、上限は好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0020】
本発明において、導電性を付与する材料として、平均繊維長が100μm以下であり、(炭素繊維長)/(炭素繊維の直径)の値が50以上の炭素繊維が挙げられる。炭素繊維長と炭素繊維の直径の比が大きい炭素繊維を添加することで、炭素繊維同士の接触がおおくなり、導電性をえるための分散が容易となるため、(炭素繊維長)/(炭素繊維の直径)の値は50以上が好ましく、より好ましくは100以上である。
【0021】
炭素繊維の添加量は好ましくはエポキシ樹脂と硬化剤を混合した配合部材100質量部にこのように添加量は好ましくは0.5質量部以上20質量部以下、より好ましくは3質量部以上10質量部以下であり、炭素繊維の添加量が少ないと体積抵抗率が大きくなる傾向にあって、場合によっては必要な導電性が得られなくなる。炭素繊維の添加量が多いと粘度の増加によって、シート状に形成することができなくなるという問題が起きる。
【0022】
また、上述の導電性エポキシ樹脂組成物をシート状に形成することにより、柔軟な導電性エポキシ樹脂シートを得ることができた。ここで、シートと説明しているが、厚さが数μmのフィルムも含まれる。
シート状への形成は、剥離フィルムに塗工する方法、押出成形、射出成形、ラミネート成形がある。
【0023】
上述のエポキシ樹脂組成物には、組成に影響を与えない範囲で、硬化促進剤、変色防止剤、界面活性剤を適宜配合することができる。
【0024】
本発明の実施例を、比較例を用いつつ表1を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0025】
【表1】

【0026】
〈導電性エポキシ樹脂組成物の作製〉
本実施例に係る導電性エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製ep828、エポキシ当量185)100質量部と、酸無水物硬化剤(新日本理化社製リカシッドHF−08(登録商標)、酸無水物当量330)を20質量部、硬化触媒としてのイミダゾール化合物(四国化成社製2E4MZ−CN)を5質量部、炭素繊維(昭和電工社製VGCF−S(登録商標))10質量部、及び、添加剤としてのレベリング剤(ビックケミー社製BYK300(登録商標))を1質量部で作製したものである。作製にあっては、炭素繊維以外の部材を予め混合した後、炭素繊維を25℃の環境下でプラネタリーミキサーを用いて混合し、25℃の三本ロールを通過させて作製した。
実施例1におけるエポキシ当量数は、100質量部/185エポキシ当量=0.541
酸無水物当量数は、20質量部/330酸無水物当量=0.061
であり、(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)は0.112である。
炭素繊維は、その平均繊維長を12.5μmとし、(炭素繊維長)/(炭素繊維の直径)の値を156.3としたものである。
【0027】
〈導電性エポキシ樹脂シートの作製〉
このエポキシ樹脂組成物を、厚さ0.05mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)製のフィルム上に、硬化後の厚さが0.10mmになるように塗工し、150℃180分加熱乾燥させ、これにより導電性エポキシ樹脂シートを作製した。
【0028】
〈導電性エポキシ樹脂シートの評価〉
以下に示す方法で(1)体積抵抗率(2)シートの折り曲げ性について評価した。
(1)体積抵抗率
シートの体積抵抗率は、JIS K 6911、5.13に準拠して測定した。1.0×10Ω・cm以下が好ましい。
(2)シートの折り曲げ性
幅10cm長さ20cmの帯状に切り出したシートを半径2cmの円柱に巻きつけ、シートの割れの有無を評価した。シートの割れが無いことが、折り曲げ性について合格として表1では○と記載し、シートの割れを目視で確認したとき×とした。
表1に示すように、実施例1は、体積抵抗率、シートの折り曲げ性の双方、良好であった。
【実施例2】
【0029】
実施例2は、実施例1のエポキシ樹脂を、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製ep807、エポキシ当量173)にした以外、実施例1と同様なものである。実施例2も、体積抵抗率、シートの折り曲げ性について、いずれも良好であった。
【実施例3】
【0030】
実施例3は、実施例1のエポキシ樹脂を、トリアジン骨格を有するエポキシ樹脂(日産化学社製TEPIC−PAS B26(登録商標)、エポキシ当量138)にした以外、実施例1と同様なものである。実施例3も、体積抵抗率、シートの折り曲げ性について、いずれも良好であった。
【実施例4】
【0031】
実施例4は、実施例1の酸無水物硬化剤の配合比を178質量部にした以外、実施例1のものである。実施例4も、体積抵抗率、シートの折り曲げ性について、いずれも良好であった。
【実施例5】
【0032】
実施例5は、実施例1の硬化触媒を、テトラアルキルホスホニウムカルボン酸塩(北興化学社製TBP−DA)3質量とした以外、実施例1と同様なものである。実施例5も、体積抵抗率、シートの折り曲げ性についていずれも良好であった。
【実施例6】
【0033】
実施例6は、実施例1の炭素繊維を昭和電工社製VGCF−X(登録商標)とし、その配合比を6質量部にした以外は実施例1と同様なものである。実施例6も、体積抵抗率、シートの折り曲げ性について、いずれも良好であった。
【0034】
(比較例1)
比較例1は、実施例1の硬化触媒をイミダゾール化合物(四国化成社製2E4MZ−CN)5質量部とした以外は実施例1と同様なものである。比較例1は、シートの折り曲げ性に欠け、屈曲試験時にシートの割れが発生した。
【0035】
(比較例2)
比較例2は、実施例1の硬化触媒を、リン化合物(北興化学工業社製TPP)3質量部にした以外、実施例1と同様なものである。比較例2はエポキシ樹脂の反応が進まず、シート成形できなかった。
【0036】
(比較例3)
比較例3は、実施例1の炭素繊維をカーボンブラック(電気化学工業社製デンカブラック(登録商標))33質量とした以外は実施例1と同様なものである。比較例3は、粘度が著しく高く、シート成形できなかった。
【0037】
(比較例4)
比較例4は、実施例1の炭素繊維を、帝人社製Raheama(登録商標)201とし、その配合比を40質量とした以外は実施例1と同様なものである。比較例4は体積抵抗率の値が大きく、導電性が不十分だった。
【実施例7】
【0038】
実施例7は、表1には記載しなかったが、実施例1の炭素繊維の平均繊維長を110μmとし、(炭素繊維長)/(炭素繊維の直径)の値を50としたものである。この構成にあっては、体積抵抗率、シートの折り曲げ性について、いずれも良好であったが、混練不足による炭素繊維の凝集体があった場合、シート形成時に表面に突起などの外観上の不良が見られる点が欠点であった。
【0039】
(比較例5)
比較例5は、表1には記載しなかったが、実施例1の酸無水物硬化剤の配合比を200質量部にして(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)を1.121にした以外、実施例1のものである。比較例5は、反応しない酸無水物硬化剤が残り、シートの折り曲げ性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、導電性に優れ、かつシート状に成形可能な柔軟性を有する導電性エポキシ樹脂組成物、及び、導電性エポキシ樹脂シートであり、電子回路基板の導電部材として適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤、硬化触媒、及び、炭素繊維を含有する導電性エポキシ樹脂組成物であり、エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリアジン骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂のいずれか1つ以上を含み、エポキシ樹脂のエポキシ当量が200以下であり、酸無水物硬化剤は分子内にエーテル結合をもち、かつ、(酸無水物当量数)/(エポキシ当量数)が0.1〜1.0であり、硬化触媒はエポキシ樹脂を単独硬化可能なイミダゾール化合物、又は、次の式(1)のテトラアルキルホスホニウムカルボン酸塩のいずれかである導電性エポキシ樹脂組成物。
【化1】



式(1)中、Rは炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す。
【請求項2】
請求項1の炭素繊維の平均繊維長が100μm以下であり、(炭素繊維長)/(炭素繊維の直径)の値が50以上である導電性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の導電性エポキシ樹脂組成物をシート状に形成した導電性エポキシ樹脂シート。

【公開番号】特開2012−1573(P2012−1573A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135435(P2010−135435)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】