説明

導電性コーティング用組成物、膜形成用組成物及び構造体

【課題】外観が良好で高い導電性を有する塗膜を形成することが可能な、ナノ物質を含む導電性コーティング用組成物、基材の表面に外観が良好で高い導電性を有する塗膜を形成することが可能な、導電性コーティング用組成物及びバインダー樹脂を含有する膜形成用組成物並びに外観が良好で高い導電性を有する塗膜が基材の少なくとも一面に積層された構造体を提供する。
【解決手段】ナノ物質、水溶性キシラン、HLB値が13以上のノニオン系界面活性剤及び水を含有する導電性コーティング用組成物、導電性コーティング用組成物及びバインダー樹脂を含有する膜形成用組成物並びに膜形成用組成物から得られる塗膜が基材の少なくとも一面に積層された構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性コーティング用組成物、膜形成用組成物及び構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業分野において、ナノメートルサイズの大きさのナノ物質を取り扱うナノテクノロジーが注目されている。ナノ物質を他の複数の材料とナノメートルサイズのレベルで複合化させて、従来発現されなかった、優れた機能を持った材料を得るための種々の開発が行われている。
ナノ物質の中でも、特にナノ炭素材料や金属微粒子は、物性及び機能の点でバルクの物質とは大きく異なる特性を有する。
そのため、樹脂等の改質を目指した、ナノ炭素材料や金属微粒子と樹脂等との複合化に関する研究開発も盛んに実施されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ナノ物質自体の特性を損なうことなく、各種溶媒又は重合性単量体に分散化あるいは可溶化することが可能な、ナノ物質(a)、特定の(メタ)アクリル系重合体(b)及び溶剤(c)を含有するナノ物質含有組成物が提案されている。また、このナノ物質含有組成物を基材の少なくとも一つの面上に塗工し、常温で放置、加熱処理及び/または光照射を行って塗膜または硬化膜を形成して、高い透明性を有し、耐水性、耐候性及び硬度に優れている塗膜または硬化膜を有する複合体が提案されている。
また、特許文献2では、導電性及び透明性に優れたコーティング被膜を形成するために、水系溶媒中に水溶性キシラン、樹脂及びカーボンナノチューブを含む導電性コーティング用水性組成物が提案されている。
しかしながら、特許文献1及び2のいずれも、得られる被膜の導電性は充分なレベルではなく、更に高い導電性を有する材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−225,632号公報
【特許文献2】特開2007−217,684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外観が良好で高い導電性を有する塗膜を形成することが可能な、ナノ物質を含む導電性コーティング用組成物、基材の表面に外観が良好で高い導電性を有する塗膜を形成することが可能な、導電性コーティング用組成物及びバインダー樹脂を含有する膜形成用組成物並びに外観が良好で高い導電性を有する塗膜が基材の少なくとも一面に積層された構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、ナノ物質、水溶性キシラン、HLB値が13以上のノニオン系界面活性剤及び水を含有する導電性コーティング用組成物を第1の発明とする。
また、本発明の要旨とするところは、上記の導電性コーティング用組成物及びバインダー樹脂を含有する膜形成用組成物を第2の発明とする。
更に、本発明の要旨とするところは、上記の膜形成用組成物から得られる塗膜が基材の少なくとも一面に積層された構造体を第3の発明とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高価な導電性顔料を用いずに外観が良好で高い導電性を示す塗膜を提供することが可能であり、種々の用途における構造体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ナノ物質
本発明で用いられるナノ物質はナノサイズの大きさを有する。
ナノ物質の具体例としては、ナノ炭素材料;金属微粒子、金属酸化物微粒子等の無機微粒子;高分子ラテックス;及び高分子ナノスフェアが挙げられる。これらの中で、ナノ炭素材料及び無機微粒子が好ましい。
【0009】
ナノ炭素材料としては、例えば、フラーレン、金属内包フラーレン、玉葱状フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、ピーポッド及びカーボンナノ粒子が挙げられる。これらの中で、実用的な点から、カーボンナノチューブが好ましい。
【0010】
カーボンナノチューブとしては、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒又はこの円筒が複数個入れ子構造になった、外径がnmオーダーの極めて微小な物質が挙げられる。
カーボンナノチューブの形態としては、単層カーボンナノチューブ、何層かが同心円状に重なった多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブがコイル状になったコイル状カーボンナノチューブ及び底の空いたコップを積み重ねたような形状であるカップスタック型カーボンナノチューブが挙げられる。
これらの中で、導電性や機械的強度を十分に発現できる点から、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブが好ましい。
【0011】
本発明で用いられるカーボンナノチューブとしては、洗浄法、遠心分離法、ろ過法、酸化法、クロマトグラフ法等の各種精製法によって高純度化されているものを使用することが好ましい。
また、カーボンナノチューブは、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置等を用いて粉砕されていてもよく、化学的又は物理的処理によって短く切断されていてもよい。
【0012】
カーボンナノチューブの市販品としては、例えば、米国ユニダイム社製のHiPco単層カーボンナノチューブ及び二層カーボンナノチューブ;韓国イルジンナノテク社製のSWNT及びMWNT;韓国CNT社製のC−100及びC−200;中国シンセンナノテクポート社製のカーボンナノチューブ;及びベルギーナノシル社製のNC7100が挙げられる。
【0013】
カーボンナノチューブの製造方法としては、例えば、二酸化炭素の接触水素還元法、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)、気相成長法及び一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法が挙げられる。
【0014】
金属微粒子としては、例えば、Au、Ag、Pd、Pt、Cu、Ni、Co、Fe、Mn、Ru、Rh、Os及びIrの各粒子が挙げられる。
【0015】
金属酸化物微粒子としては、例えば、Ag、Ti、Al、Zr、Si、Ge、B、Li、Na、Fe、Ga、Mg、P、Sb、Sn、Ta、V、Cu、Be、Sc、Cr、Mn、Co、Zn、As、Y、W、Ce及びInの酸化物の微粒子並びに2種以上の金属酸化物を含有する複合金属酸化物微粒子が挙げられる。これらの中で、複合金属酸化物微粒子が好ましい。
【0016】
複合金属酸化物微粒子としては、例えば、TiO−SiO、TiO−ZrO−SiO、TiO−SnO−ZrO−SiO、TiO−CeO−SiO、TiO−Fe−SiO、TiO−SnO−WO−ZrO−SiO、TiO−WO−ZrO−SiO、TiO−V−SiO、Sb−SiO、TiO−SnO−SiO、TiO−Fe−SiO、TiO−V−SiO、SnO−SiO、ZrO−SiO、SeO−SiO及びIn−Snが挙げられる。
【0017】
金属酸化物微粒子は1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
金属酸化物微粒子の一次粒子の質量平均粒子径としては1〜300nmが好ましく、1〜150nmがより好ましい。
本発明においては、無機微粒子としては金属酸化物微粒子が好ましい。
【0018】
導電性コーティング用組成物中のナノ物質の含有量としては、導電性コーティング用組成物中のナノ物質の溶解又は分散性の点で、0.1〜12質量%が好ましい。
また、膜形成用組成物中のナノ物質の含有量としては、膜形成用組成物中のナノ物質の溶解又は分散性の点で、0.1〜10質量%が好ましい。
【0019】
金属酸化物微粒子の製造方法としては、例えば、ゾル−ゲル法が挙げられる。また、金属酸化物微粒子は粉体又は分散媒に分散されたコロイド状態の市販品として入手することができる。
【0020】
水溶性キシラン
本発明で用いられる水溶性キシランとしては、例えば、特開2007−217,684号公報に記載された化合物が挙げられる。
【0021】
導電性コーティング用組成物中の水溶性キシランの含有量としては、導電性コーティング用組成物中に適正な量のナノ物質を含有させる点で、0.1〜6質量%が好ましい。
また、膜形成用組成物中の水溶性キシランの含有量としては、膜形成用組成物中に適正な量のナノ物質を含有させる点で、0.1〜5質量%が好ましい。
【0022】
ノニオン系界面活性剤
本発明で用いられるノニオン系界面活性剤はHLB値が13以上、好ましくは13〜16のものである。HLB値が13以上のノニオン系界面活性剤を使用することにより、後述する膜形成用組成物から得られる塗膜に優れた導電性を付与することができる。
ここで、HLB値とは、親水親油バランス値(界面活性剤の親水性と疎水性とのバランスを示す公知の指標)のことである。
【0023】
導電性コーティング用組成物中のノニオン系界面活性剤の含有量としては1〜12質量%が好ましい。
また、膜形成用組成物中のノニオン系界面活性剤の含有量としては、膜形成用組成物から得られる塗膜の導電性及び塗膜強度の点で、1〜10質量%が好ましい。
【0024】
溶媒
本発明で用いられる膜形成用組成物は、水を含むもの(以下、「溶媒」という。)であり、水はバインダー樹脂を溶解又は分散させるためのものである。
【0025】
本発明においては、溶媒は、必要に応じてアルコールを更に含有することができる。
アルコールとしては水に溶解するアルコールが挙げられる。
アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチルブチノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等のモノアルコール及びエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メトキシエタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、グリセリルモノアセテート等の多価アルコール誘導体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
上記溶媒において、水とアルコールの含有比率はバインダー樹脂が溶解又は分散される割合であれば特に限定されない。
【0026】
本発明においては、溶媒は、必要に応じて他の溶剤を更に含有することができる。
他の溶剤としては、水、又は、水及びアルコールに溶解し、これらと共にバインダー樹脂が溶解又は分散されるものが挙げられる。
他の溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノメチルアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、トルエン及びキシレンが挙げられる。他の溶剤は1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0027】
導電性コーティング用組成物中の溶媒の含有量としては20〜99.8質量%が好ましい。
また、膜形成用組成物中の溶媒の含有量としては、膜形成用組成物から得られる塗膜の導電性及び塗膜強度の点で、20〜98.8質量%が好ましい。
【0028】
本発明においては、溶媒は、必要に応じて、ナノ物質、バインダー樹脂、水溶性キシラン又はノニオン系界面活性剤を水溶液又は水性分散液の状態として使用するための分散媒等として用いることができる。
【0029】
導電性コーティング用組成物
本発明の導電性コーティング用組成物はナノ物質、水溶性キシラン、ノニオン系界面活性剤及び溶媒を含む。
本発明の導電性コーティング用組成物は水を含有した水性分散液の状態のものである。
【0030】
導電性コーティング用組成物の調製方法としては、例えば、ナノ物質、水溶性キシラン、ノニオン系界面活性剤及び溶媒を一括で混合する方法が挙げられる。
導電性コーティング用組成物を調製するための装置としては、例えば、超音波発振機、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサー及び超音波照射とホモジナイザーとを併用した超音波ホモジナイザーが挙げられる。これらの中で、超音波ホモジナイザーが好ましい。
【0031】
超音波照射処理する際、超音波照射の定格出力としては、例えば、超音波発振機の単位底面積当たり0.1〜500ワット/cmが挙げられる。また、超音波照射の発振周波数としては10〜200kHzが好ましく、20〜100kHzがより好ましい。超音波照射時間としては1分〜48時間が好ましく、5分〜48時間がより好ましい。超音波照射の際のナノ物質が分散された液の温度は、分散性向上の点で、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。超音波照射処理の後、必要に応じて更にボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置を用いて分散又は溶解を徹底してもよい。
【0032】
バインダー樹脂
本発明において、バインダー樹脂は導電性コーティング用組成物を使用して得られる導電性の塗膜を基材の表面に形成させるためのものである。
【0033】
本発明で用いられるバインダー樹脂としては溶媒に溶解又は分散可能な樹脂が挙げられる。
バインダー樹脂は天然樹脂であっても合成樹脂であってもよい。
バインダー樹脂としては、膜形成用組成物中のナノ物質の溶解性又は分散性の観点から、水溶性樹脂が好ましい。
【0034】
バインダー樹脂の具体例としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。これらの中で、水溶性の点で、PVPが好ましい。
バインダー樹脂は1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
バインダー樹脂は水系溶媒に溶解又は分散した市販品を使用することができる。
【0035】
膜形成用組成物中のバインダー樹脂の含有量としては、膜形成用組成物から得られる塗膜の導電性及び塗膜強度の点で、1〜15質量%が好ましい。
【0036】
膜形成用組成物
本発明の膜形成用組成物は導電性コーティング用組成物及びバインダー樹脂を含有し、基材の少なくとも一面に塗布した後に塗膜とすることができる。
【0037】
膜形成用組成物の調製方法としては、例えば、ナノ物質、バインダー樹脂、水溶性キシラン、ノニオン系界面活性剤及び溶媒を一括で混合する方法並びに水溶性キシランの水溶液にナノ物質を分散させて得られる分散液とバインダー樹脂及びノニオン系界面活性剤が溶解又は分散されている溶媒とを混合する方法が挙げられる。
【0038】
水溶性キシランの水溶液にナノ物質を分散させて得られる分散液の調製方法としては、例えば、溶媒の一部に水溶性キシランを溶解させた後にナノ物質が添加された液を撹拌又は分散処理する方法が挙げられる。
溶媒の一部に水溶性キシランを溶解させた後にナノ物質が添加された液を撹拌又は分散処理するための装置としては、例えば、超音波発振機、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサー及び超音波照射とホモジナイザーとを併用した超音波ホモジナイザーが挙げられる。これらの中で、超音波ホモジナイザーが好ましい。
【0039】
超音波照射処理する際、超音波照射の定格出力としては、例えば、超音波発振機の単位底面積当たり0.1〜500ワット/cmが挙げられる。また、超音波照射の発振周波数としては10〜200kHzが好ましく、20〜100kHzがより好ましい。超音波照射時間としては1分〜48時間が好ましく、5分〜48時間がより好ましい。超音波照射の際のナノ物質が分散された液の温度は、分散性向上の点で、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。超音波照射処理の後、必要に応じて更にボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置を用いて分散又は溶解を徹底してもよい。
【0040】
基材
本発明においては、膜形成用組成物から得られる塗膜を基材の少なくとも一面に積層して構造体とすることができる。
基材としては、例えば、合成樹脂のフィルム、シート、発泡体、多孔質膜等の各種合成樹脂成形体;木材、紙材、セラミックス板、繊維布巾、不織布、炭素繊維シート、ガラス板、ステンレス板等の合成樹脂以外のシート状物;及び各種積層基材が挙げられる。
【0041】
構造体
本発明の構造体は基材の少なくとも一面に膜形成用組成物から得られた塗膜が積層されたものである。
基材の表面への膜形成用組成物から得られる塗膜の積層方法としては、例えば、基材の表面に膜形成用組成物を塗工した後に室温で放置又は加熱処理して塗膜を形成する方法が挙げられる。
基材への膜形成用組成物の塗工方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布装置を用いた塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーを用いたスプレーコーティング法、ディップ等の浸漬法及び刷毛塗り法が挙げられる。
【0042】
基材への膜形成用組成物の塗布厚としては、ナノ物質の特性を十分発揮させる点で、膜形成用組成物から得られる塗膜厚として0.01〜50μmとなる厚みが好ましく、0.05〜20μmとなる厚みがより好ましい。
本発明においては、ナノ物質としてカーボンナノチューブを用いる場合、上記の膜形成用組成物から得られる塗膜厚で十分な透明性を維持し、高い導電性を有する傾向にある。
【0043】
基材の表面に塗工された膜形成用組成物は常温での放置又は加熱により乾燥されて塗膜が得られる。
本発明においては、膜形成用組成物から得られる塗膜中に残留する溶媒の量の低減化による導電性の向上及び形成される塗膜の製膜安定性の点で加熱での膜形成用組成物の乾燥が好ましい。
【0044】
膜形成用組成物の乾燥のための加熱温度としては基材が変化しない温度であればよく、20〜300℃が好ましく、40〜250℃がより好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。尚、以下の「部」は「質量部」を示す。また、膜形成用組成物の分散状態及び基材の表面に形成された膜形成用組成物から得られた塗膜について以下の方法により評価した。
【0046】
(1)膜形成用組成物の分散状態
膜形成用組成物を目視で観察し、膜形成用組成物の分散状態を下記基準で評価した。
○:目視上均一。
×:目視上不均一。
(2)塗膜状態
基材の表面に形成された膜形成用組成物から得られた塗膜の状態を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:塗膜は均一でムラがない。
×:塗膜が不均一でムラがある。
【0047】
(2)表面抵抗率
基材の表面に形成された膜形成用組成物から得られた塗膜の表面抵抗値を25℃及び50%RHの条件下で測定し、表面抵抗率を求めた。測定に際しては、表面抵抗値が10Ω以上の場合は二重リング法(三菱化学(株)製ハイレスタ―UP(商品名)による測定法)を用い、表面抵抗値が10Ω以下の場合は四探針法(三菱化学(株)製ロレスタ―GP(商品名)による測定法(各電極間距離:5mm))を用いた。
【0048】
[調整例1]カーボンナノチューブ分散液(1)の作製
容器中に、木材パルプより製造された市販粉末セルロース(日本製紙ケミカル(株)製、商品名:KCフロック)800gを投入し、更にイオン交換水20Lを加え、室温で30分間撹拌した。
容器中の液をろ紙、0.45μmのフィルター及び0.2μmのフィルターで順次ろ過して水溶性キシラン溶液を得た。この溶液を乾燥して水溶性キシラン粉末を回収した。水溶性キシラン粉末の質量平均分子量は6,100であり、数平均分子量は7,500であった。
サンプル瓶にイオン交換水98部及び上記で得た水溶性キシラン粉末2部を添加し、90℃のウォーターバスでサンプル瓶を加熱して水溶性キシラン水溶液とした。
この水溶性キシラン水溶液に多層カーボンナノチューブ(ナノシル社製、商品名:NC7000)1部を添加して多層カーボンナノチューブ混合液を得た。次いで、サンプル瓶を氷水で冷却しながら、この多層カーボンナノチューブ混合液を超音波ホモジナイザー(SONIC社製、商品名:vibra cell)処理して、カーボンナノチューブ分散液(1)を得た。
【0049】
[調整例2]バインダー樹脂溶液(あ)の作製
イオン交換水45部及びメタノール45部を含有する溶媒にバインダー樹脂としてPVP(五協産業(株)製、商品名:K−15)10部を添加し、攪拌してバインダー樹脂溶液(あ)を得た。
【0050】
[実施例1]
イオン交換水90部にエマルゲン4085(花王(株)製ノニオン系界面活性剤、商品名、HLB値18.9)10部を溶解させてエマルゲン4085水溶液を得た。
次いで、カーボンナノチューブ分散液(1)49部、バインダー樹脂溶液(あ)49部及びエマルゲン4085水溶液2部を混ぜて、膜形成用組成物(A)を得た。
膜形成用組成物(A)をガラス板(厚さ:1mm、幅:5cm、長さ:5cm)の一面に滴下し、バーコーター法にて、膜形成用組成物(A)から得られる塗膜厚が0.1μmとなるように塗布し、80℃で2分間乾燥させて膜形成用組成物(A)から得られる塗膜が基材表面に積層された構造体を得た。膜形成用組成物(A)から得られる塗膜の評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
[実施例2]
イオン交換水90部にエマルゲン320P(花王(株)製ノニオン系界面活性剤、商品名、HLB値13.9)10部を溶解させてエマルゲン320P水溶液を得た。
エマルゲン4085水溶液の代わりにエマルゲン320P水溶液を使用する以外は実施例1と同様にして膜形成用組成物(B)から得られる塗膜が基材表面に積層された構造体を得た。膜形成用組成物(B)から得られる塗膜の評価結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
イオン交換水90部にエマルゲン103(花王(株)製ノニオン系界面活性剤、商品名、HLB値8.1)10部を溶解させてエマルゲン103水溶液を得た。
エマルゲン4085水溶液の代わりにエマルゲン103水溶液を使用する以外は実施例1と同様にして膜形成用組成物(C)から得られる塗膜が基材表面に積層された構造体を得た。膜形成用組成物(C)から得られる塗膜の評価結果を表1に示す。
【0054】
[比較例2]
カーボンナノチューブ分散液(1)50部及びバインダー樹脂溶液(あ)50部を混ぜて、膜形成用組成物(D)を得た。
膜形成用組成物(A)の代わりに膜形成用組成物(D)を使用する以外は実施例1と同様にして膜形成用組成物(D)から得られる塗膜が基材表面に積層された構造体を得た。膜形成用組成物(D)から得られる塗膜の評価結果を表1に示す。
【0055】
表1から明らかなように、HLB値が13以上、好ましくは13〜16のノニオン系界面活性剤を用いた導電性コーティング用組成物を使用して得られた塗膜は均一なものであり、導電性も優れていることがわかる。これに対して、HLB値が13未満のノニオン系界面活性剤を用いた導電性コーティング用組成物を使用して得られた塗膜又は界面活性剤を使用しない導電性コーティング用組成物を使用して得られた塗膜は塗膜状態又は導電性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ物質、水溶性キシラン、HLB値が13以上のノニオン系界面活性剤及び水を含有する導電性コーティング用組成物。
【請求項2】
請求項1の導電性コーティング用組成物及びバインダー樹脂を含有する膜形成用組成物。
【請求項3】
請求項2の膜形成用組成物から得られる塗膜が基材の少なくとも一面に積層された構造体。

【公開番号】特開2011−241256(P2011−241256A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112312(P2010−112312)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】