説明

導電性ゴム部材及びその製造方法

【課題】 多層構造などの複雑な構造を採ることなく、導電性ゴム部材の内部から表層にかけての電気抵抗を高度に制御して電気抵抗が高度に安定し且つ感光体などへの汚染も防止した導電性ゴム部材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 脂肪族ポリエーテル、ポリエステルおよびポリカーボネートから選択される少なくとも一種を主体とする弾性マトリックスに導電性微粉末を添加することにより得られる導電性弾性マトリックスからなる導電性ゴム部材の表層領域を、少なくともイオン導電付与剤および熱硬化性化合物を溶剤に溶解させた表面処理液を含浸させて熱硬化させてなる表面処理層とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックなどの導電性微粉末により導電性が付与され、特に電子写真式複写機及びプリンタ、またはトナージェット式複写機及びプリンタ等の画像形成装置に使用される導電性ゴム部材及びその製造方法に関し、特に、現像ロール、帯電ロールなどに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム弾性を有した上で導電性を制御した導電性ゴム部材は電子写真プロセスにおいては重要なデバイスであり、バイアス印加部材として用いられている。ゴムを構成する分子自身はプロセスが必要とする抵抗率(104〜109Ωcm)を固有抵抗値として有することは稀であり、エピクロルヒドリンなどごく限られたものが実用化されているに過ぎない。多くの場合、必要とされる弾性率、機械的強度、温湿度特性を維持するため、シリコーンゴムやEPDM、ポリウレタンなどの化学的に安定な基材にカーボンブラックなどの導電性微粒子を添加し導電性を付与したのち、抵抗を調整するためのコーティング層を形成したものが用いられている。特に感光体およびトナーと接触して使用される帯電ロール、現像ロールなどのバイアス印加部材には感光体およびトナーの機能成分(電荷輸送剤、荷電調整剤など)の移行による特性変化(汚染)に対する対策としてポリアミドやアクリル樹脂、フッ素樹脂などの表面保護層を設けて多層構造とした場合が多い。また、この場合、表面保護層が絶縁性ではデバイスとして必要とする導電性を発現することは困難であり、導電性を付与した保護層を設けたものが多数提案されている(例えば、特許文献1〜3等参照)。
【0003】
しかしながら、これらの保護層はゴム弾性体とは本質的に異なるため、過度の変形から復元する為の歪回復性が劣るという欠点がある。特に、トナー薄層を形成する必要がある現像ロールには現像ブレードを強く押し当てて使用するケースが多く、歪回復性の優劣は画像ムラなどの不具合に影響する事が知られている。したがって、表面保護層としてポリアミドやアクリル樹脂、フッ素樹脂などゴム弾性に乏しい樹脂系コーティングを用いた場合は、電気的な問題が解決できたとしても、機械的な変形から瞬時に回復する特性に欠けるという問題を解決することは困難である。
【0004】
一方、本出願人は、導電性微粉末により導電性が付与された導電性ゴム弾性体の表層領域に熱硬化性化合物を含有する表面処理液を含浸させて表面処理液に含有される溶剤による導電性ゴム弾性値の膨潤と熱硬化性化合物の硬化物による導電性微粉末の連鎖を分断して抵抗が高まった表面処理層を設けた導電性ゴム部材について特許を出願している(特許文献4及び5等参照)。
【0005】
しかしながら、かかる技術では、導電性ゴム部材の表層領域に設けられた、導電性微粉末の連鎖が分断された表面処理層における電気抵抗の安定において劣る部分があり、例えば、ロールとしてプリンタや複写機に実装した場合には、初期の段階では均一な電気抵抗値が得られるものの、使用条件によっては、通紙を重ねると共に電気抵抗がばらついてしまうという問題点がある。
【0006】
【特許文献1】特開平9−171299号公報(請求の範囲等)
【特許文献2】特開平11−352770号公報(請求の範囲等)
【特許文献3】特開2001−227531号公報(請求の範囲等)
【特許文献4】特開2005−4196号公報(請求の範囲等)
【特許文献5】特許第3429158号公報(請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑み、多層構造などの複雑な構造を採ることなく、導電性ゴム部材の内部から表層にかけての電気抵抗を高度に制御して電気抵抗が高度に安定し且つ感光体などへの汚染も防止した導電性ゴム部材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、脂肪族ポリエーテル、ポリエステルおよびポリカーボネートから選択される少なくとも一種を主体とする弾性マトリックスに導電性微粉末を添加することにより得られる導電性弾性マトリックスからなる導電性ゴム部材の表層領域を、少なくともイオン導電付与剤および熱硬化性化合物を溶剤に溶解させた表面処理液を含浸させて熱硬化させてなる表面処理層としたことを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記イオン導電付与剤が、無機塩類、金属錯体、およびイオン性液体からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、熱硬化性化合物が、イソシアネート化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記溶剤が、エーテル基、エステル基およびカーボネート基の少なくとも一種を含むものであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記弾性マトリックスがポリウレタンからなることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0013】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記導電性ゴム部材の前記表面処理液が含浸して熱硬化された領域では前記導電性微粉末による導電性が低減される一方、前記イオン導電付与剤による導電性の付与により電気抵抗が安定化されていることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0014】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様の導電性ゴム部材が、ロール形状であることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0015】
本発明の第8の態様は、脂肪族ポリエーテル、ポリエステルおよびポリカーボネートから選択される少なくとも一種を主体とする弾性マトリックスに導電性微粉末を添加して成形して導電性弾性マトリックスからなる導電性ゴム部材とし、この導電性ゴム部材の表層領域に、少なくともイオン導電付与剤および熱硬化性化合物を溶剤に溶解させた表面処理液を含浸させ、その後熱硬化させて表面処理層としたことを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0016】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記イオン導電付与剤が、無機塩類、金属錯体、およびイオン性液体からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0017】
本発明の第10の態様は、第8又は9の態様において、前記熱硬化性化合物が、イソシアネート化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0018】
本発明の第11の態様は、第8〜10の何れかの態様において、前記溶剤が、エーテル基、エステル基およびカーボネート基の少なくとも一種を含むものであることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0019】
本発明の第12の態様は、第8〜11の何れかの態様において、前記弾性マトリックスがポリウレタンからなることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0020】
本発明の第13の態様は、第8〜12の何れかの態様において、前記導電性ゴム部材への前記表面処理液の含浸量および当該表面処理液中の前記イオン導電付与剤の含有量を調整することにより、当該表面処理液が含浸して熱硬化された領域での前記導電性微粉末による導電性の低減の程度および前記イオン導電付与剤による導電性付与の程度を調整することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0021】
本発明の第14の態様は、第8〜13の何れかの態様において、前記導電性ゴム部材が、ロール形状であることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法にある。
【0022】
本発明の導電性ゴム部材を構成する弾性マトリックスは、脂肪族ポリエーテル、ポリエステルおよびポリカーボネートから選択される少なくとも一種を主体とするものである。具体的には、これら脂肪族ポリエーテル、ポリエステルおよびポリカーボネートから選択される少なくとも一種を含むポリオールを主体とし、これをウレタン結合やポリアミド結合あるいはエステル結合などにより結合して弾性体としたものであり、各種ポリウレタンの他、ポリエーテルアミドやポリエーテルエステルなどの熱可塑性エラストマを挙げることができ、好適には、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタンなどを挙げることができる。
【0023】
なお、ポリウレタンを用いる場合、ポリオールと反応させるイソシアネートとしては、例えば、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの3官能イソシアネート単体、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート変性ポリイソシアネート(3量体:3官能、5量体:4官能)やポリメリックMDIなどの混合物を用いることができる。また、これらの3官能以上のポリイソシアネートと、一般的な2官能イソシアネート化合物との混合物としても良い。2官能イソシアネート化合物の例として、2,4−トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)、及びこれらのイソシアネートを両末端に有するプレポリマー等の変性体や多量体などを挙げることができる。
【0024】
このような弾性マトリックスに添加される導電性微粉末としては、各種カーボンブラックが好ましいが、この外に、亜鉛,ニッケル等の金属微粉末や、酸化亜鉛,酸化錫,酸化チタン等の金属酸化物の微粉末が挙げられる。ここで、導電性微粉末は、必要以上に入れる必要はなく、所望の抵抗値が得られる最低量に近い量を用いるのが好ましい。必要以上に添加した場合、以下に示すように表面処理層を形成した後、所望の中抵抗、例えば、104〜107Ω程度の中抵抗が得られ難いからである。例えば、カーボンブラックの場合には、10重量%以下、好ましくは7重量%以下程度用いるのがよい。
【0025】
本発明の導電性ゴム部材は、上述した弾性マトリックスに導電性微粉末を添加して成形した導電性ゴム部材の表層領域を、少なくともイオン導電付与剤および熱硬化性化合物を溶剤に溶解させた表面処理液を含浸させて熱硬化させてなる表面処理層としたものである。なお、表面処理液を導電性ゴム部材の表層領域に含浸させるとは、導電性ゴム部材を表面処理液に所定時間浸漬するか、表面処理液を導電性ゴム部材に塗布するか又はスプレー塗布するなどの方法により表面処理液を表層領域に浸透させることをいう。
【0026】
ここで、熱硬化性化合物は、導電性ゴム部材の表面領域に溶剤と共に含浸させて、膨潤したマトリックス内に溶剤と共に存在させその後溶剤を除去した場合に、当該マトリックス内の導電性微粉末の連鎖構造が膨潤前の状態に戻るのを阻止し得るものであり、好ましくは、上記導電性微粉末に対して親和性を有する化合物を用いるのが好ましく、例えば、イソシアネート化合物やエポキシ樹脂化合物などを挙げることができる。
【0027】
なお、イソシアネート化合物としては、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)および前記記載の多量体および変性体などを挙げることができる。
【0028】
一方、表面処理液中に含有されるイオン導電付与剤は、有機塩類、無機塩類、金属錯体、およびイオン性液体などから選択され、上述した弾性マトリックス中でイオン導電性を付与するものである。イオン導電付与剤は上述の溶剤に溶解していなければならない。
【0029】
ここで、有機塩類としてはアルキルアンモニウム塩、無機塩類としては、アルカリ金属塩などを挙げることができ、好適には過塩素酸リチウム、過塩素酸アンモニウムなどを挙げることができる。また、金属錯体としては、ハロゲン化第二鉄−エチレングリコールなどを挙げることができ、具体的には、特許第3655364号公報に記載されたものを挙げることができる。一方、イオン性液体は、室温で液体である溶融塩であり、常温溶融塩とも呼ばれるものであり、特に、融点が70℃以下、好ましくは30℃以下のものをいう。具体的には、特開2003−202722号公報に記載されたものを挙げることができる。
【0030】
表面処理液に用いられる溶剤は、弾性マトリックスを膨潤する作用を有すると共に前記イオン導電付与剤を溶解し、且つ熱硬化性化合物と反応性を有しないものであれば特に限定されない。好適には、極性を有する溶剤が好ましく、具体的には、エーテル基、エステル基およびカーボネート基の少なくとも一種を含むものであり、好適には、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。
【0031】
表面処理液は、上述した成分を含有するものであればよいが、特性を妨げない範囲でフッ素系ポリマー及びシリコーン系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーと、カーボンブラックの少なくとも一方を添加するようにしてもよい。
【0032】
ここで、フッ素系ポリマー及びシリコーン系ポリマーは、所定の溶剤に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものである。フッ素系ポリマーは、例えば、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有する溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。また、シリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、これら実施例の説明は例示であり、本発明の構成は以下の説明に限定されない。
【0034】
(実施例1)
<ロールの製造> 3官能ポリエーテル系ポリオールであるGP−3000(三洋化成社製)100重量部に、トーカブラック#5500(東海カーボン社製)を4重量部およびVULCAN XC(キャボット社製)3重量部を添加し、粒度が20μm以下となる程度まで分散させ、80℃に温調した後、減圧下にて6時間、脱泡、脱水操作を行ってA液を得た。一方、プレポリマーアジプレンL100(ユニロイヤル社製)25重量部に、コロネートC−HX(日本ポリウレタン社製)11重量部を添加・混合し、80℃に温調してB液を得た。このA液とB液とを混合し、あらかじめシャフト(φ:8mm、l:270mm)が中央に配置されると共に内壁面に密着するようにポリプロピレン製押し出しチューブ(外径23mm、厚さ0.2mm)が挿入してあり、110℃に予熱されたφ23mmの鉄製パイプ金型に注入し、110℃にて120分間加熱し、両端部を除くシャフト表面に導電性ポリウレタン層が形成されたロールを得た。この導電性ロールの表面を1.5mm研磨し、外径を20mmに調整した。
【0035】
<表面処理液の調製> 酢酸エチル100重量部、過塩素酸リチウム0.1重量部、イソシアネート化合物(MDI)20重量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0036】
<ロールの表面処理> 表面処理液を23℃に保ったまま、前記ロールを30秒間浸漬後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを実施例1の導電性ロールとした。
【0037】
(実施例2)
過塩素酸リチウムを0.5重量部加えて表面処理液を作製した以外は、実施例1と同様に製造して実施例2の導電性ロールとした。
【0038】
(比較例1)
過塩素酸リチウムを加えないで表面処理液を作製した以外は、実施例1と同様に製造して比較例1の導電性ロールとした。
【0039】
(比較例2)
過塩素酸リチウムの代わりにアセチレンブラック(電気化学社製)を3重量部加えて表面処理液を作製した以外は、実施例1と同様に製造して比較例2の導電性ロールとした。
【0040】
(比較例3)
トーカブラック#5500とVULCAN XCの代わりに導電剤として過塩素酸リチウムを0.1重量部加えて導電性ポリウレタン層を形成した以外は、実施例1と同様に製造して比較例3の導電性ロールとした。
【0041】
(試験例1)ロールの電気抵抗測定(バラツキ、耐久性)
ロール1本内における軸方向および周方向のばらつきを評価するため、図1に示すように、導電性ロールの弾性層12の表面に電極の幅を2mmとしたステンレス電極51を密着し、芯金11との間のロールを回転させながらその位置における抵抗値を測定した。これを長手方向の6箇所で測定した。この結果を表1に示す。
【0042】
また、各実施例及び各比較例の導電性ロールを現像ロールとして市販のプリンタに実装し、1K通紙後、再度、ロールの電気抵抗を測定した。この結果を表2に示す。
【0043】
表1および表2には、各測定位置における抵抗値の最大値(Rmax)、最小値(Rmin)および最大値と最小値の比(Rmax/Rmin)を示す。この結果をみると、各実施例と比較例3においては、いずれも電気抵抗のばらつきは少なく、1K通紙後においても、変化はほとんど見られなかったが、イオン導電付与剤を処理液に添加しなかった比較例1、2においては、1K通紙したことによって、電気抵抗のばらつきが大きくなっており、実施例1、2で表面処理液に含有させたイオン導電付与剤の顕著な効果が見られた。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
(試験例2)画像評価
実施例1、2及び比較例3の導電性ロールを現像ロールとして市販のプリンタに実装し、LL環境(10℃、30%RH)、NN環境(25℃、50%RH)、及びHH環境(35℃、85%RH)の下で印刷を行い、その印刷物の画像評価を行った。この結果を下記表3に示す。
【0047】
下記表3に示すように、実施例1、2の導電性ロールは環境依存性が小さいので、これを現像ロールとして用いて印刷した印刷物の画像は、それぞれの環境下で良好な評価が得られた。
【0048】
これに対し、比較例3の導電性ロールは、環境依存性が大きいので、NN環境下でこの現像ロールを用いて印刷した印刷物の画像は良好な評価が得られたが、LL環境下では、印字が不足し、やや不良の評価が得られ、HH環境下ではカブリが発生して不良の評価が得られた。
【0049】
【表3】

【0050】
(実施例3)
<ロールの製造> 3官能ポリエーテル系ポリオールであるMN−3050(三井武田ケミカル社製)100重量部に、トーカブラック#5500(東海カーボン社製)を4重量部およびVULCAN XC(キャボット社製)3重量部を添加し、粒度が20μm以下となる程度まで分散させ、80℃に温調した後、減圧下にて6時間、脱泡、脱水操作を行ってA液を得た。一方、プレポリマーアジプレンL100(ユニロイヤル社製)25重量部に、コロネートC−HX(日本ポリウレタン社製)11重量部を添加・混合し、80℃に温調してB液を得た。このA液とB液とを混合し、あらかじめシャフト(φ:8mm、l:270mm)が中央に配置されると共に内壁面に密着するようにポリプロピレン製押し出しチューブ(外径23mm、厚さ0.2mm)が挿入してあり、110℃に予熱されたφ23mmの鉄製パイプ金型に注入し、110℃にて120分間加熱し、両端部を除くシャフト表面に導電性ポリウレタン層が形成されたロールを得た。この導電性ロールの表面を1.5mm研磨し、外径を20mmに調整した。
【0051】
<表面処理液の調製> 酢酸エチル100重量部、過塩素酸アンモニウム0.3重量部、イソシアネート化合物(MDI)15重量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0052】
<ロールの表面処理> 表面処理液を23℃に保ったまま、前記ロールを30秒間浸漬後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを実施例3の導電性ロールとした。
【0053】
(実施例4)
過塩素酸アンモニウムを1.0重量部加えて表面処理液を作製した以外は、実施例3と同様に製造して実施例4の導電性ロールとした。
【0054】
(実施例5)
過塩素酸アンモニウムを3.0重量部加えて表面処理液を作製した以外は、実施例3と同様に製造して実施例5の導電性ロールとした。
【0055】
(比較例4)
過塩素酸アンモニウムを除いて表面処理液を作製した以外は、実施例3と同様に製造して比較例4の導電性ロールとした。
【0056】
(比較例5)
実施例3の未処理状態のロールの表面に、メトキシメチル化ナイロン(メトキシ化率25%)をメタノール溶媒に溶解して得た溶液を塗布し、加熱、硬化することによって10μmのコーティングによる表面層を形成したものを比較例5の導電性ロールとした。
【0057】
(試験例3)ロールの電圧依存性
実施例3〜5及び比較例4の導電性ロールについて、印加電圧を1V、3V、10V、30V、100V、300Vと変化させた際の電気抵抗値を測定した。電気抵抗値の測定は、導電性ロールをSUS304板からなる電極部材の上に置いて芯金に500g荷重をかけた状態で、各電圧を30秒間印加した後、芯金と電極部材との間の抵抗値を、ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A(株式会社アドバンテスト製)を用いて測定した。この結果を表4及び図2に示す。
【0058】
表4に示すように、表面処理液にイオン導電付与剤を添加しなかった比較例4の導電性ロールは、印加電圧の上昇に伴い、電気抵抗値が低下しており、カーボン導電特有の電圧依存性が見られた。一方、イオン導電付与剤を添加した表面処理層を有する実施例3〜5は、いずれも電圧依存性が大幅に低減しており、イオン導電性付与剤の顕著な効果が見られた。また、実施例3〜5の結果から、表面処理液に添加したイオン導電性付与剤の量により所望の抵抗値を得ることができることが明らかとなった。これは、カーボン導電のマトリックスが同一でも、表面処理層中のイオン導電性付与剤の量を変化させることにより、抵抗値の電圧依存性が大幅に低減され且つ所望の抵抗値を有する導電性ロールを非常に簡便に作製できることを示している。
【0059】
【表4】

【0060】
(試験例4)画像評価
実施例3、5及び比較例5の導電性ロールを現像ロールとして市販のプリンタに実装し、LL環境(10℃、30%RH)、NN環境(25℃、50%RH)、及びHH環境(35℃、85%RH)の下で、1週間感光体に当接させた後の画像評価を行った。この結果を表5に示す。
【0061】
表5に示すように、実施例3、5の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した印刷物の画像は、いずれの環境下でも良好な評価が得られた。
【0062】
これに対し、比較例5の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した印刷物の画像は、HH、NN環境下では良好な評価が得られたが、LL環境下では、ロールピッチでスジ状の不具合が発生して不良の評価が得られた。不具合が発生したロールの表面を確認したところ、感光体に当接していた箇所に、圧接痕が見られた。
【0063】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】試験例1の測定方法を説明する図である。
【図2】試験例3の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエーテル、ポリエステルおよびポリカーボネートから選択される少なくとも一種を主体とする弾性マトリックスに導電性微粉末を添加することにより得られる導電性弾性マトリックスからなる導電性ゴム部材の表層領域を、少なくともイオン導電付与剤および熱硬化性化合物を溶剤に溶解させた表面処理液を含浸させて熱硬化させてなる表面処理層としたことを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項2】
請求項1において、前記イオン導電付与剤が、無機塩類、金属錯体、およびイオン性液体からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記熱硬化性化合物が、イソシアネート化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記溶剤が、エーテル基、エステル基およびカーボネート基の少なくとも一種を含むものであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記弾性マトリックスがポリウレタンからなることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、前記導電性ゴム部材の前記表面処理液が含浸して熱硬化された領域では前記導電性微粉末による導電性が低減される一方、前記イオン導電付与剤による導電性の付与により電気抵抗が安定化されていることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの導電性ゴム部材が、ロール形状であることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項8】
脂肪族ポリエーテル、ポリエステルおよびポリカーボネートから選択される少なくとも一種を主体とする弾性マトリックスに導電性微粉末を添加して成形して導電性弾性マトリックスからなる導電性ゴム部材とし、この導電性ゴム部材の表層領域に、少なくともイオン導電付与剤および熱硬化性化合物を溶剤に溶解させた表面処理液を含浸させ、その後熱硬化させて表面処理層としたことを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記イオン導電付与剤が、無機塩類、金属錯体、およびイオン性液体からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、前記熱硬化性化合物が、イソシアネート化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10の何れかにおいて、前記溶剤が、エーテル基、エステル基およびカーボネート基の少なくとも一種を含むものであることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11の何れかにおいて、前記弾性マトリックスがポリウレタンからなることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12の何れかにおいて、前記導電性ゴム部材への前記表面処理液の含浸量および当該表面処理液中の前記イオン導電付与剤の含有量を調整することにより、当該表面処理液が含浸して熱硬化された領域での前記導電性微粉末による導電性の低減の程度および前記イオン導電付与剤による導電性付与の程度を調整することを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13の何れかにおいて、前記導電性ゴム部材が、ロール形状であることを特徴とする導電性ゴム部材の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−31703(P2007−31703A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170534(P2006−170534)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000242426)北辰工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】