導電性ゴム部材
【課題】画像形成を安定して行うことができ、白抜け等の問題が生じ難い、実質的にも電気的にも単層の導電性ゴム部材を提供する。
【解決手段】ゴム基材に導電性付与剤を配合して導電性を付与した導電性弾性層と、当該導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層とを具備する導電性ゴム部材であって、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるものである。
【解決手段】ゴム基材に導電性付与剤を配合して導電性を付与した導電性弾性層と、当該導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層とを具備する導電性ゴム部材であって、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式複写機及びプリンター、またはトナージェット式複写機及びプリンター等の画像形成装置の感光体等に一様な帯電を付与するために用いられる導電性ロールやブレード等に特に好適な導電性ゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式複写機及びプリンターなどの画像形成装置の導電性ロールには、感光体への非汚染性、導電性等が要求される。そこで、従来、ポリウレタン、シリコーンゴム製のものが用いられてきたが、感光体等への汚染性、帯電性等の理由から、表面処理層を設けたものが提案されている。このような導電性ロールは、カーボンブラック等により導電性を付与するが、印加電圧の大小により電気抵抗値が大きく変化するという問題があった。また、電気抵抗値にバラツキが生じ、所定の電気抵抗値に設定できないという問題があった。
【0003】
そこで、本出願人は、カーボンブラックにより導電性を付与した弾性層に表面処理層を設けた現像ロールにおいて、電気抵抗値のバラツキを抑えて所定の電気抵抗値を得ることができ、安定して使用できる現像ロールを提案している(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1のロールは電気抵抗値のバラツキを抑えることができるが、ロールを画像形成装置に組み込んで実際に使用した際の特性が判断できないという問題が生じていた。すなわち、電気抵抗値のバラツキが同等であっても、画像評価をした際に差が生じることがあった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−202750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑み、画像形成を安定して行うことができ、白抜け等の問題が生じ難い導電性ゴム部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、ゴム基材に導電性付与剤を配合して導電性を付与した導電性弾性層と、当該導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層とを具備する導電性ゴム部材であって、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるものであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記コールコールプロットは、印加電圧が0.1〜1.0V、周波数が0.1×100〜1.0×106Hz、抵抗成分Zr(Ω)及び容量性リアクタンス成分Zc(Ω)がそれぞれ1.0×104〜1.0×109の範囲のコールコールプロットであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム基材がポリウレタンからなることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記導電性付与剤が導電性カーボンブラックからなることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記表面処理液が、さらにカーボンブラックと、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーとの少なくとも一方を含有したものであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、画像形成を安定して行うことができ、白抜け等の問題が生じ難い導電性ゴム部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、導電性ゴム部材において、画像特性などの特性が良好であるかどうかは、従来のように電気抵抗値では判断できないが、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスと位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線の形状により、導電性ゴム部材の電気的特性を判断して予測できることを知見し、本発明を完成させた。
【0014】
ここで、コールコールプロットとは、被測定物の各周波数におけるインピーダンスを複素平面にプロットするものであり、本発明では導電性ゴム部材に所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と、容量性リアクタンス成分Zc(Ω)により表されるものを指す。
【0015】
本発明の導電性ゴム部材は、ゴム基材に導電性付与剤を配合して導電性を付与した導電性弾性層と、当該導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層とを具備するものであって、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるものである。すなわち、本発明の導電性ゴム部材は、導電性弾性層と表面処理層とを具備し且つ電気的特性が1つの等価回路で表すことができるものである。ここで、等価回路とは、被測定物(導電性ゴム部材)の電気的特性を電気的回路に置き換えたものである。本発明の導電性ゴム部材は電気的特性が1つの等価回路で表すことができるが、このことは、電気的特性が単一であるということ、すなわち電気的に単層であるということを示している。本発明の導電性ゴム部材は、このようにコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状という特性により、画像形成装置に実装した場合の特性が安定していることが予め判断できるものである。
【0016】
なお、ここでいう略単一の円弧状とは、抵抗成分Zr(Ω)の増加に伴って、容量性リアクタンス成分Zc(Ω)が、連続的に増加した後は連続的に減少していく状態、すなわち、極値が1つの円弧状となる状態を指す。
【0017】
導電性ゴム部材は、上述した条件を満たすことで、画像形成を安定して行うことができ、白抜け等の問題が生じ難い導電性ゴム部材となる。また、電気的特性が単純であるため、例えば、画像形成装置に組み込んだ際に、システム側の制御回路等を簡素にすることができる。
【0018】
なお、導電性ゴム部材のコールコールプロットで描かれる曲線が複数の半円が合成されたような円弧状である場合は、電気的特性は複数の等価回路からなるものであり、電気的特性は複雑なものとなり、画像形成を安定して行うことが困難となることも知見している。
【0019】
ここで、コールコールプロットは、印加電圧が0.1〜1.0V、周波数が0.1×100〜1.0×106Hz、抵抗成分Zr(Ω)及び容量性リアクタンス成分Zc(Ω)がそれぞれ1.0×104〜1.0×109の範囲で測定したものであればよい。導電性ゴム部材は、画像形成装置の感光体等に一様な帯電を付与する導電性ロールやブレード等として中抵抗領域で用いられるものであるため、中抵抗領域において安定した特性を得られるものであれば、実機に搭載した際にも好適に使用できるものとなるからである。
【0020】
ここで、本発明の導電性ゴム部材は、導電性弾性層の表層部に一体的に表面処理層を形成し、電気的に単層としたものである。この導電性ゴム部材は、導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層を具備するものであり、表面処理層が形成された表層領域の導電性付与剤による導電パスが表面から内方に亘って徐々に切断されて電気抵抗値が徐々に小さくなるように傾斜した傾斜抵抗層が形成されている。
【0021】
このような電気的に単層の導電性ゴム部材は、表面処理層を形成する際の条件の選定が理想的なものであれば、表面処理層の形成と同時に導電性ゴム部材のコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるようにすることができる。例えば、表面処理液の濃度、表面処理時間、表面処理温度等の表面処理条件を適宜選定することにより得られる。
【0022】
また、表面処理層を形成した導電性ゴム部材のコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となっていない場合であっても、後処理によりコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状の導電性ゴム部材とすることができる。すなわち、表面処理層を有する導電性弾性層が、コーティング層を具備する場合とは異なり物理的には単層状態であるが、電気的には二層となっている場合、後処理を施して電気的に単層とすることもできる。
【0023】
ここで、後処理とは、表面処理層を有する導電性弾性層に外部刺激を与えて一旦表層領域の導電パスを切断し、元に戻すことで導電パスを再構築することにより、表層領域の導電パス形成のばらつきをなくす処理である。
【0024】
表層領域の導電パスを再構築する方法としては、導電性弾性層の再加熱、圧力の付加、電圧の付加、又は表面への溶媒の塗布等が挙げられる。
【0025】
表面処理層を有する導電性弾性層を成形後に再加熱した場合、導電性弾性層は熱により膨張し、一旦導電パスは切断される。そして、導電性弾性層を冷ますことで導電性弾性層は収縮し、表層領域の導電パスが再構築される。なお、このように表層領域の導電パスを再構築することにより、表層領域の導電パスがばらつくことなく、表面から内方に亘って除々に切断されて電気抵抗値が除々に小さくなるように傾斜し、電気的に単層となる。また、表面処理層を有する導電性弾性層の表面に溶媒を塗布する場合も同様に、導電性弾性層は膨張して一旦導電パスは切断され、導電性弾性層が収縮することで導電パスが再構築される。表面処理層を有する導電性弾性層に圧力を付加した場合には、導電性弾性層は変形して一旦導電パスが切断され、導電性弾性層が元に戻ることで導電パスが再構築される。表面処理層を有する導電性弾性層に電圧を付加した場合には、導電性弾性層中、局所的に導電パスを形成している部分が短絡されることで、導電パスが再構築される。勿論、導電性弾性層の再加熱、圧力の付加、電圧の付加、又は表面への溶媒の塗布等の処理は、コールコールプロットで描かれる曲線が略単一になるように後処理の条件を選定する必要がある。
【0026】
なお、電圧を付加して表層領域の導電パスを再構築する場合は、例えば、導電性弾性層を金属電極に圧接した状態で電圧をかける方法などにより行う。また、このときの電圧は、形成されている導電パスの状態にもよるが、100〜2000Vとするのが好ましい。溶媒を塗布して表層領域の導電パスを再構築する場合は、溶媒の種類は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸イソブチル、メチルエチルケトン、アセトン、これらの混合物等が挙げられ、また、適宜これらに水等を加えてもよく、導電パスを再構築してコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるような条件で処理するのが好ましい。
【0027】
ただし、表面処理層を形成する際の表面処理条件によっては、後処理を行ってもコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状とはならない場合がある。このため、表面処理層を形成する際には、少なくとも後処理によりコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状とすることができるような条件を選定する必要がある。すなわち、表層領域の導電パスの切断状態が十分に形成され、略均一になるように条件を選定する。例えば、表面処理液を調整する際には十分に攪拌してムラをなくし、表面処理層を形成する際にはイソシアネート化合物が導電性弾性層に十分に含浸するように、表面処理液の濃度、表面処理時間、及び表面処理温度を調整する。
【0028】
なお、表面処理液の撹拌が不十分であると表面処理ムラが発生しやすく、表面処理時間が短すぎると表面処理後の導電性ゴム部材の両端部で表面処理液の含浸量に大きな差がでてしまう。また、表面処理液の濃度や表面処理温度が不適切な場合も、表面処理液の含浸にムラが発生しやすい。このような場合は、後処理を行っても、コールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状とはならない虞がある。
【0029】
本発明にかかるゴム基材は、使用用途に応じて選定すればよく、特に限定されるものではないが、現像ロールの場合には感光体汚染やゴム特性を考慮してポリウレタン、特に、エーテル系ポリウレタンとするのがよい。
【0030】
ゴム基材として好適なエーテル系ポリウレタンは、エーテル系ポリオールを主体とするポリオールとポリイソシアネートとを反応することにより得られる、いわゆる注型タイプのポリウレタンである。これは永久圧縮ひずみを小さくするためである。なお、エーテル系ポリウレタンでもミラブルタイプとすると圧縮永久ひずみを十分に小さくすることができない。一方、エステル系ポリウレタンを用いた場合には、加水分解特性が悪く、長期に亘って安定して使用できない。
【0031】
ポリエーテル系ポリオールと反応させるポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)、及びこれらのイソシアネートを両末端に有するプレポリマー等の変性体や多量体などを挙げることができる。
【0032】
本発明にかかる導電性弾性層は、ゴム基材に導電性付与剤を配合することで導電性を付与したものである。導電性付与剤は、電子導電性を付与するものであれば特に限定されないが、好ましくは導電性カーボンブラックを主体とする少なくとも一種のカーボンブラックなどであり、勿論、複数種のカーボンブラックを混合して用いてもよく、この場合には、導電性カーボンブラックを主体とするのが一般的である。本発明にかかるカーボンブラックは、種類は特に限定されないが、例えば、ケッチェンブラック(ライオン社製)、トーカブラック#5500(東海カーボン社製)などが挙げられる。なお、イオン導電性を付与するイオン導電性付与剤は、導電パスの再構築の観点から基本的には添加しないほうが好ましい。
【0033】
なお、カーボンブラックの添加量は、狙いの電気抵抗値によって異なるが、例えば、エーテル系ポリウレタンに添加する場合には、エーテル系ポリオール100重量部に対して8重量部以下とするのが好ましい。これより多く添加すると、成形が困難になるからである。
【0034】
ここで、ゴム基材には導電性付与剤を均一に分散させるようにする。すなわち、後に行う表面処理層の形成や後処理において導電パスを適切に切断することができるように、導電性付与剤が局所的な凝集のない均一な分散状態となるようにする。
【0035】
なお、導電性弾性層は、コールコールプロットで描かれる曲線の円弧が単一となるものであれば1層構造でも2層構造でもよい。また、導電性弾性層は、芯金上に直接設けられていてもよいし、他の弾性層を介して設けられていてもよい。
【0036】
本発明にかかる表面処理液に含まれるイソシアネート成分としては、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)などのイソシアネート化合物、および前記記載の多量体および変性体などを挙げることができる。さらに、ポリオールとイソシアネートからなるプレポリマーを挙げることができる。
【0037】
また、表面処理液には、さらにカーボンブラックと、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーとの少なくとも一方を含有させてもよい。
【0038】
ここで、ポリエーテル系ポリマーは、有機溶剤に可溶であるのが好ましく、また、活性水素を有して、イソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものが好ましい。好適には、水酸基を有するのが好ましく、ポリオール又はグリコールを挙げることができる。また、ポリエーテル系ポリマーは、アリル基を有しているのが好ましい。さらに、ポリエーテル系ポリマーは、数平均分子量が300〜1000であることが好ましい。これは表面処理層に弾性を付与するために好ましいからである。また、このポリエーテルは両末端を備えたものより片末端のみのものの方が望ましい。
【0039】
このようなポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル、ポリアルキレングリコールジメチルエーテル、アリル化ポリエーテル、ポリアルキレングリコールジオール、ポリアルキレングリコールトリオール等を挙げることができる。
【0040】
このように表面処理液にポリエーテル系ポリマーを添加することで、表面処理層の柔軟性や強度が向上し、その結果、所望の導電性ゴム部材の表面が磨耗したり、当接する感光体表面等を傷つけたりする虞がなくなる。
【0041】
本発明の表面処理液に用いられるアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、所定の溶剤に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものである。アクリルフッ素系ポリマーは、例えば、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有する溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。また、アクリルシリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。
【0042】
また、表面処理液には、導電性付与材としてさらにアセチレンブラック等のカーボンブラックを添加してもよい。
【0043】
表面処理液に用いられるカーボンブラックは、イソシアネート成分に対して0〜40重量%であるのが好ましい。多すぎると脱落、物性低下等の問題が生じ好ましくないからである。
【0044】
また、表面処理液中のアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、イソシアネート成分に対し、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーの総量を10〜70重量%となるようにするのが好ましい。10重量%より少ないとカーボンブラック等を表面処理層中に保持する効果が小さくなる。一方、ポリマー量が多すぎると、帯電ロールの電気抵抗値が上昇し放電特性が低下するという問題や、相対的にイソシアネート成分が少なくなって有効な表面処理層が形成できないという問題がある。
【0045】
さらに、表面処理液は、イソシアネート成分、および必要に応じて含有されるこれらポリエーテル系ポリマー、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーを溶解する有機溶剤を含有する。有機溶剤としては特に限定されないが、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン等の有機溶剤を用いればよい。
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
<ロールの製造>
3官能ポリエーテル系ポリオールであるGP−3000(三洋化成社製)100重量部に、トーカブラック#5500(東海カーボン社製)を4重量部、及びVULCAN XC(キャボット社製)3重量部を添加し、粒度が20μm以下となる程度まで分散させ、80℃に温調した後、減圧下にて6時間、脱泡、脱水操作を行ってA液を得た。一方、プレポリマーアジプレンL100(ユニロイヤル社製)25重量部に、コロネートC−HX(日本ポリウレタン社製)11重量部を添加・混合し、80℃に温調してB液を得た。このA液とB液とを混合し、あらかじめシャフト(φ:8mm、l:270mm)が中央に配置されている120℃に予熱されたφ23mmの鉄製パイプ金型に注入し、120℃にて120分間加熱し、両端部を除くシャフト表面に導電性ポリウレタン層が形成されたロールを得た。このロールの表面を1.5mm研磨し、外径を20mmに調整し、ロール(処理前)を得た。
【0048】
<表面処理液の調製>
酢酸イソブチル100重量部に、イソシアネート化合物(MDI)20重量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0049】
<ロールの表面処理>
23℃に保った表面処理液に、製造したロールを30秒間浸漬後、80℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成した。
【0050】
<後処理>
イソプロピルアルコールと水を1:1で混合した溶液を23℃に保ったまま、表面処理層を形成したロールを30秒間浸漬し、250mm/minの速度で引き上げ、その後120℃に保持されたオーブンで1時間加熱したものを実施例1の導電性ロールとした。
【0051】
(実施例2)
表面処理液の調製において、さらにアセチレンブラック(電気化学社製)3重量部を添加した以外は、実施例1と同様にして実施例2の導電性ロールとした。
【0052】
(実施例3)
<ロールの製造>
3官能ポリエーテル系ポリオールであるMN−3050(三井武田ケミカル製)100重量部に、デンカブラック(電気化学工業社製)を5重量部、及び旭#60(旭カーボン)5重量部を添加し、粒度が20μm以下となる程度まで分散させ、80℃に温調した後、減圧下にて6時間、脱泡、脱水操作を行ってC液を得た。一方、プレポリマーアジプレンL100(ユニロイヤル社製)25重量部に、コロネートC−HX(日本ポリウレタン社製)11重量部を添加・混合し、80℃に温調してD液を得た。このC液とD液とを混合し、あらかじめシャフト(φ:8mm、l:270mm)が中央に配置されている120℃に予熱されたφ23mmの鉄製パイプ金型に注入し、120℃にて120分間加熱し、両端部を除くシャフト表面に導電性ポリウレタン層が形成されたロールを得た。このロールの表面を1.5mm研磨し、外径を20mmに調整し、ロール(処理前)を得た。
【0053】
<表面処理液の調製>
メチルエチルケトン100重量部に、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製)2重量部をボールミルで3時間分散混合した後、イソシアネート化合物(MDI)20重量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0054】
<ロールの表面処理>
23℃に保った表面処理液に、製造したロールを30秒間浸漬後、250mm/minの速度で引き上げ、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成した。
【0055】
<後処理>
表面処理層を形成したロールの表面を、イソプロピルアルコールを浸み込ませたスポンジで払拭したものを実施例3の導電性ロールとした。
【0056】
(実施例4)
実施例3の表面処理層を形成したロールを、後処理として、両端に500gの荷重をかけてアルミニウム製の金属ロールに圧接した状態で回転させながら直流電圧500Vを10分間印加したものを実施例4の導電性ロールとした。
【0057】
(実施例5)
<表面処理液の調製>
メチルエチルケトン100重量部に、アセチレンブラック(電気化学社製)3重量部、及びアクリルフッ素ポリマー(モディパーF600;日本油脂社製)1重量部をボールミルで3時間分散混合した後、イソシアネート化合物(MDI)10重量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0058】
<ロールの表面処理>
実施例3の処理前のロールを、上述した表面処理液にNL環境下(25℃、30%RH)で30秒間浸漬後、500mm/minの速度で引き上げ、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを実施例5の導電性ロールとした。
【0059】
(比較例1)
後処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の導電性ロールとした。
【0060】
(比較例2)
後処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして比較例2の導電性ロールとした。
【0061】
(比較例3)
後処理を行わなかった以外は、実施例3と同様にして比較例3の導電性ロールとした。
【0062】
(比較例4)
実施例3の表面処理前のロールを、実施例3の表面処理液にLL環境下(10℃×30%RH)で5秒間浸漬後、100mm/minの速度で引き上げ、150℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを比較例4の導電性ロールとした。
【0063】
(比較例5)
比較例4の導電性ロールを、23℃に保ったメチルエチルケトンに30秒間浸漬した後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱したものを比較例5の導電性ロールとした。
【0064】
(比較例6)
エピクロルヒドリンゴム(エピクロマーCG−102;ダイソー社製)100重量部、液状アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)7.5重量部、VULCAN XC(キャボット社製)25重量部、亜鉛華3重量部、ステアリン酸2重量部、加硫剤1.5重量部をロールミキサーで混練り後、これをパイプ金型でインジェクション成型することにより、厚さ0.5mm、内径20.0mmのゴムスリーブ部材を形成した。
【0065】
実施例1の処理前のロールに上述したゴムスリーブ部材を被覆し、比較例6の導電性ロールとした。
【0066】
(試験例1)<インピーダンス測定>
各実施例及び比較例の導電性ロールのインピーダンス特性をインピーダンスアナライザー(BHA社製;インピーダンスアナライザーIM6e)を用いて測定した。測定は、N/N環境(25℃、50%RH)下、金属板にロールを当接した状態で、ロールの両端に500gの荷重を付加し、印加電圧を0.1V、0.2V、0.5V、1.0Vとして測定し、交流周波数0.1Hz〜1MHzにおけるインピーダンスZ(Ω)及び位相差θから抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)をコールコールプロットし、描かれる曲線の形状から等価回路を考察した。各実施例及び比較例の導電性ロールのコールコールプロットを図1〜11に示す。
【0067】
(試験結果のまとめ)
比較例1の導電性ロールは、コールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状ではなく、図6に示すように抵抗成分Zr(Ω)の増加に伴い、容量性リアクタンス成分Zc(Ω)は一旦減少したが、低周波領域において再び増加傾向が見られた。比較例1の導電性ロールは、実質的に単一の層を形成したものであるが、ゴム基材の状態または表面処理条件が不十分であったためにゴム基材と表面処理層で異なる回路が形成されていると考えられる。比較例2及び3の導電性ロールも同様に、コールコールプロットで描かれる曲線が図7及び8に示すように略単一の円弧状ではなく、等価回路が2つ存在していると考えられる。
【0068】
理想的な表面処理層が形成できなかった比較例1〜3の導電性ロールに後処理を行って得た実施例1〜4の導電性ロールは、コールコールプロットで描かれる曲線が図1〜4に示すように略単一の円弧状であり、電気的特性を1つの等価回路で表すことができるものであった。すなわち、電気的に単層であった。実施例1、2の導電性ロールは溶剤による膨潤と加熱によって、実施例3の導電性ロールは溶剤による膨潤によって、実施例4の導電性ロールは機械的な圧力と電圧の付与によって、導電パスが一旦切断された後、導電パスが再構築されたためであると考えられる。
【0069】
また、実施例5の導電性ロールは、後処理を行っていないが、コールコールプロットで描かれる曲線が図5に示すように略単一の円弧状であり、電気的特性を1つの等価回路で表すことができるものであった。これにより、理想的な表面処理層が形成された場合には、等価回路が一つとなることがわかった。
【0070】
一方、比較例4の導電性ロールは、コールコールプロットで描かれる曲線が図9に示すように複数の円弧からなるものであった。これにより、表面処理条件が不適切な場合は、コールコールプロットで描かれる曲線が複数の円弧からなり、より複雑な回路が形成されることがわかる。
【0071】
比較例4の導電性ロールにメチルエチルケトンを含浸させて導電パスの再構築を行った比較例5の導電性ロールは、図11に示すように略単一の円弧状ではなかった。これにより、表面処理条件が不適切であると、溶剤や加熱等による導電パスの再構築を行っても、等価回路は一つとならないことがわかった。
【0072】
なお、ロールの表面処理の代わりにゴムスリーブ部材を被覆した比較例6の導電性ロールは、コールコールプロットで描かれる曲線が、図11に示すように略単一の円弧状ではなく、2つの円弧からなるものであった。比較例6の導電性ロールは、物理的に二層で且つ電気的にも二層である。このように電気的に二層であるものはコールコールプロットで描かれる曲線が2つの円弧からなることが明らかとなった。
【0073】
以上の結果より、表面処理条件を選定し、ゴム基材の導電パスを一旦切断して導電パスが再構築された場合、導電性ロールは電気的に単層となるということが確認された。また、表面処理層を形成する際の条件が理想的なものである場合は、導電性ロールは電気的に単層となるということが確認された。
【0074】
(試験例2):画像評価
実施例3〜5及び比較例3〜5の導電性ロールを現像ロールとして、市販のレーザープリンター(MICROLINE9600PS 株式会社沖データ製)に実装し、NN環境(25℃、50%RH)で印刷を行い、その印刷物の画像評価を行った。また、LL環境(10℃、30%RH)、HH環境(35℃、85%RH)ので、初期の印刷物と1万枚通紙を行った後の印刷物の画像評価を行った。この結果を下記表1に示す。なお、画像が良好であった場合は○、画像がやや不良であった場合は△、画像が不良であった場合は×とした。「画像が不良」とは濃度ムラや劣化などが見られる状態を指す。
【0075】
【表1】
【0076】
(試験結果のまとめ)
コールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状であった実施例3〜5の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した印刷物の画像は、いずれの環境下においても良好な評価が得られた。また、長期間に亘って使用しても、良好な評価が得られた。
【0077】
これに対し、比較例3の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した初期の印刷物の画像は、NN、HH環境下では良好な評価が得られたが、LL環境下では、濃度ムラや白抜けがわずかに見られ、画像がやや不良であった。また、1万枚通紙後の印刷物の画像は、LL環境下では、濃度ムラや白抜けが見られ、画像が不良であり、HH環境下では、カブリの発生がわずかに見られ、画像がやや不良であった。また、コールコールプロットで描かれる曲線が複数の円弧状からなるものであった比較例4の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した印刷物の画像は、いずれの環境下においても濃度ムラや白抜け、またはカブリが見られ、画像が不良であった。比較例5の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した初期の印刷物の画像は、いずれの環境下でも濃度ムラや白抜け、またはカブリがわずかに見られ、やや不良であった。また、1万枚通紙後の印刷物の画像は、いずれの環境下でも濃度ムラや白抜け、カブリが見られ、不良であった。
【0078】
以上の結果より、コールコールプロットで描かれる曲線が略単一で円弧状である導電性ロールは、電気的に単層であるため、いずれの環境の装置に組み込んで使用しても白抜け等のない良好な画像が得られるものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1のコールコールプロットを示す図である。
【図2】実施例2のコールコールプロットを示す図である。
【図3】実施例3のコールコールプロットを示す図である。
【図4】実施例4のコールコールプロットを示す図である。
【図5】実施例5のコールコールプロットを示す図である。
【図6】比較例1のコールコールプロットを示す図である。
【図7】比較例2のコールコールプロットを示す図である。
【図8】比較例3のコールコールプロットを示す図である。
【図9】比較例4のコールコールプロットを示す図である。
【図10】比較例5のコールコールプロットを示す図である。
【図11】比較例6のコールコールプロットを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式複写機及びプリンター、またはトナージェット式複写機及びプリンター等の画像形成装置の感光体等に一様な帯電を付与するために用いられる導電性ロールやブレード等に特に好適な導電性ゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式複写機及びプリンターなどの画像形成装置の導電性ロールには、感光体への非汚染性、導電性等が要求される。そこで、従来、ポリウレタン、シリコーンゴム製のものが用いられてきたが、感光体等への汚染性、帯電性等の理由から、表面処理層を設けたものが提案されている。このような導電性ロールは、カーボンブラック等により導電性を付与するが、印加電圧の大小により電気抵抗値が大きく変化するという問題があった。また、電気抵抗値にバラツキが生じ、所定の電気抵抗値に設定できないという問題があった。
【0003】
そこで、本出願人は、カーボンブラックにより導電性を付与した弾性層に表面処理層を設けた現像ロールにおいて、電気抵抗値のバラツキを抑えて所定の電気抵抗値を得ることができ、安定して使用できる現像ロールを提案している(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1のロールは電気抵抗値のバラツキを抑えることができるが、ロールを画像形成装置に組み込んで実際に使用した際の特性が判断できないという問題が生じていた。すなわち、電気抵抗値のバラツキが同等であっても、画像評価をした際に差が生じることがあった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−202750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑み、画像形成を安定して行うことができ、白抜け等の問題が生じ難い導電性ゴム部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、ゴム基材に導電性付与剤を配合して導電性を付与した導電性弾性層と、当該導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層とを具備する導電性ゴム部材であって、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるものであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記コールコールプロットは、印加電圧が0.1〜1.0V、周波数が0.1×100〜1.0×106Hz、抵抗成分Zr(Ω)及び容量性リアクタンス成分Zc(Ω)がそれぞれ1.0×104〜1.0×109の範囲のコールコールプロットであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム基材がポリウレタンからなることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記導電性付与剤が導電性カーボンブラックからなることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の導電性ゴム部材において、前記表面処理液が、さらにカーボンブラックと、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーとの少なくとも一方を含有したものであることを特徴とする導電性ゴム部材にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、画像形成を安定して行うことができ、白抜け等の問題が生じ難い導電性ゴム部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、導電性ゴム部材において、画像特性などの特性が良好であるかどうかは、従来のように電気抵抗値では判断できないが、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスと位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線の形状により、導電性ゴム部材の電気的特性を判断して予測できることを知見し、本発明を完成させた。
【0014】
ここで、コールコールプロットとは、被測定物の各周波数におけるインピーダンスを複素平面にプロットするものであり、本発明では導電性ゴム部材に所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と、容量性リアクタンス成分Zc(Ω)により表されるものを指す。
【0015】
本発明の導電性ゴム部材は、ゴム基材に導電性付与剤を配合して導電性を付与した導電性弾性層と、当該導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層とを具備するものであって、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるものである。すなわち、本発明の導電性ゴム部材は、導電性弾性層と表面処理層とを具備し且つ電気的特性が1つの等価回路で表すことができるものである。ここで、等価回路とは、被測定物(導電性ゴム部材)の電気的特性を電気的回路に置き換えたものである。本発明の導電性ゴム部材は電気的特性が1つの等価回路で表すことができるが、このことは、電気的特性が単一であるということ、すなわち電気的に単層であるということを示している。本発明の導電性ゴム部材は、このようにコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状という特性により、画像形成装置に実装した場合の特性が安定していることが予め判断できるものである。
【0016】
なお、ここでいう略単一の円弧状とは、抵抗成分Zr(Ω)の増加に伴って、容量性リアクタンス成分Zc(Ω)が、連続的に増加した後は連続的に減少していく状態、すなわち、極値が1つの円弧状となる状態を指す。
【0017】
導電性ゴム部材は、上述した条件を満たすことで、画像形成を安定して行うことができ、白抜け等の問題が生じ難い導電性ゴム部材となる。また、電気的特性が単純であるため、例えば、画像形成装置に組み込んだ際に、システム側の制御回路等を簡素にすることができる。
【0018】
なお、導電性ゴム部材のコールコールプロットで描かれる曲線が複数の半円が合成されたような円弧状である場合は、電気的特性は複数の等価回路からなるものであり、電気的特性は複雑なものとなり、画像形成を安定して行うことが困難となることも知見している。
【0019】
ここで、コールコールプロットは、印加電圧が0.1〜1.0V、周波数が0.1×100〜1.0×106Hz、抵抗成分Zr(Ω)及び容量性リアクタンス成分Zc(Ω)がそれぞれ1.0×104〜1.0×109の範囲で測定したものであればよい。導電性ゴム部材は、画像形成装置の感光体等に一様な帯電を付与する導電性ロールやブレード等として中抵抗領域で用いられるものであるため、中抵抗領域において安定した特性を得られるものであれば、実機に搭載した際にも好適に使用できるものとなるからである。
【0020】
ここで、本発明の導電性ゴム部材は、導電性弾性層の表層部に一体的に表面処理層を形成し、電気的に単層としたものである。この導電性ゴム部材は、導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層を具備するものであり、表面処理層が形成された表層領域の導電性付与剤による導電パスが表面から内方に亘って徐々に切断されて電気抵抗値が徐々に小さくなるように傾斜した傾斜抵抗層が形成されている。
【0021】
このような電気的に単層の導電性ゴム部材は、表面処理層を形成する際の条件の選定が理想的なものであれば、表面処理層の形成と同時に導電性ゴム部材のコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるようにすることができる。例えば、表面処理液の濃度、表面処理時間、表面処理温度等の表面処理条件を適宜選定することにより得られる。
【0022】
また、表面処理層を形成した導電性ゴム部材のコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となっていない場合であっても、後処理によりコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状の導電性ゴム部材とすることができる。すなわち、表面処理層を有する導電性弾性層が、コーティング層を具備する場合とは異なり物理的には単層状態であるが、電気的には二層となっている場合、後処理を施して電気的に単層とすることもできる。
【0023】
ここで、後処理とは、表面処理層を有する導電性弾性層に外部刺激を与えて一旦表層領域の導電パスを切断し、元に戻すことで導電パスを再構築することにより、表層領域の導電パス形成のばらつきをなくす処理である。
【0024】
表層領域の導電パスを再構築する方法としては、導電性弾性層の再加熱、圧力の付加、電圧の付加、又は表面への溶媒の塗布等が挙げられる。
【0025】
表面処理層を有する導電性弾性層を成形後に再加熱した場合、導電性弾性層は熱により膨張し、一旦導電パスは切断される。そして、導電性弾性層を冷ますことで導電性弾性層は収縮し、表層領域の導電パスが再構築される。なお、このように表層領域の導電パスを再構築することにより、表層領域の導電パスがばらつくことなく、表面から内方に亘って除々に切断されて電気抵抗値が除々に小さくなるように傾斜し、電気的に単層となる。また、表面処理層を有する導電性弾性層の表面に溶媒を塗布する場合も同様に、導電性弾性層は膨張して一旦導電パスは切断され、導電性弾性層が収縮することで導電パスが再構築される。表面処理層を有する導電性弾性層に圧力を付加した場合には、導電性弾性層は変形して一旦導電パスが切断され、導電性弾性層が元に戻ることで導電パスが再構築される。表面処理層を有する導電性弾性層に電圧を付加した場合には、導電性弾性層中、局所的に導電パスを形成している部分が短絡されることで、導電パスが再構築される。勿論、導電性弾性層の再加熱、圧力の付加、電圧の付加、又は表面への溶媒の塗布等の処理は、コールコールプロットで描かれる曲線が略単一になるように後処理の条件を選定する必要がある。
【0026】
なお、電圧を付加して表層領域の導電パスを再構築する場合は、例えば、導電性弾性層を金属電極に圧接した状態で電圧をかける方法などにより行う。また、このときの電圧は、形成されている導電パスの状態にもよるが、100〜2000Vとするのが好ましい。溶媒を塗布して表層領域の導電パスを再構築する場合は、溶媒の種類は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸イソブチル、メチルエチルケトン、アセトン、これらの混合物等が挙げられ、また、適宜これらに水等を加えてもよく、導電パスを再構築してコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるような条件で処理するのが好ましい。
【0027】
ただし、表面処理層を形成する際の表面処理条件によっては、後処理を行ってもコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状とはならない場合がある。このため、表面処理層を形成する際には、少なくとも後処理によりコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状とすることができるような条件を選定する必要がある。すなわち、表層領域の導電パスの切断状態が十分に形成され、略均一になるように条件を選定する。例えば、表面処理液を調整する際には十分に攪拌してムラをなくし、表面処理層を形成する際にはイソシアネート化合物が導電性弾性層に十分に含浸するように、表面処理液の濃度、表面処理時間、及び表面処理温度を調整する。
【0028】
なお、表面処理液の撹拌が不十分であると表面処理ムラが発生しやすく、表面処理時間が短すぎると表面処理後の導電性ゴム部材の両端部で表面処理液の含浸量に大きな差がでてしまう。また、表面処理液の濃度や表面処理温度が不適切な場合も、表面処理液の含浸にムラが発生しやすい。このような場合は、後処理を行っても、コールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状とはならない虞がある。
【0029】
本発明にかかるゴム基材は、使用用途に応じて選定すればよく、特に限定されるものではないが、現像ロールの場合には感光体汚染やゴム特性を考慮してポリウレタン、特に、エーテル系ポリウレタンとするのがよい。
【0030】
ゴム基材として好適なエーテル系ポリウレタンは、エーテル系ポリオールを主体とするポリオールとポリイソシアネートとを反応することにより得られる、いわゆる注型タイプのポリウレタンである。これは永久圧縮ひずみを小さくするためである。なお、エーテル系ポリウレタンでもミラブルタイプとすると圧縮永久ひずみを十分に小さくすることができない。一方、エステル系ポリウレタンを用いた場合には、加水分解特性が悪く、長期に亘って安定して使用できない。
【0031】
ポリエーテル系ポリオールと反応させるポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)、及びこれらのイソシアネートを両末端に有するプレポリマー等の変性体や多量体などを挙げることができる。
【0032】
本発明にかかる導電性弾性層は、ゴム基材に導電性付与剤を配合することで導電性を付与したものである。導電性付与剤は、電子導電性を付与するものであれば特に限定されないが、好ましくは導電性カーボンブラックを主体とする少なくとも一種のカーボンブラックなどであり、勿論、複数種のカーボンブラックを混合して用いてもよく、この場合には、導電性カーボンブラックを主体とするのが一般的である。本発明にかかるカーボンブラックは、種類は特に限定されないが、例えば、ケッチェンブラック(ライオン社製)、トーカブラック#5500(東海カーボン社製)などが挙げられる。なお、イオン導電性を付与するイオン導電性付与剤は、導電パスの再構築の観点から基本的には添加しないほうが好ましい。
【0033】
なお、カーボンブラックの添加量は、狙いの電気抵抗値によって異なるが、例えば、エーテル系ポリウレタンに添加する場合には、エーテル系ポリオール100重量部に対して8重量部以下とするのが好ましい。これより多く添加すると、成形が困難になるからである。
【0034】
ここで、ゴム基材には導電性付与剤を均一に分散させるようにする。すなわち、後に行う表面処理層の形成や後処理において導電パスを適切に切断することができるように、導電性付与剤が局所的な凝集のない均一な分散状態となるようにする。
【0035】
なお、導電性弾性層は、コールコールプロットで描かれる曲線の円弧が単一となるものであれば1層構造でも2層構造でもよい。また、導電性弾性層は、芯金上に直接設けられていてもよいし、他の弾性層を介して設けられていてもよい。
【0036】
本発明にかかる表面処理液に含まれるイソシアネート成分としては、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)などのイソシアネート化合物、および前記記載の多量体および変性体などを挙げることができる。さらに、ポリオールとイソシアネートからなるプレポリマーを挙げることができる。
【0037】
また、表面処理液には、さらにカーボンブラックと、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーとの少なくとも一方を含有させてもよい。
【0038】
ここで、ポリエーテル系ポリマーは、有機溶剤に可溶であるのが好ましく、また、活性水素を有して、イソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものが好ましい。好適には、水酸基を有するのが好ましく、ポリオール又はグリコールを挙げることができる。また、ポリエーテル系ポリマーは、アリル基を有しているのが好ましい。さらに、ポリエーテル系ポリマーは、数平均分子量が300〜1000であることが好ましい。これは表面処理層に弾性を付与するために好ましいからである。また、このポリエーテルは両末端を備えたものより片末端のみのものの方が望ましい。
【0039】
このようなポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル、ポリアルキレングリコールジメチルエーテル、アリル化ポリエーテル、ポリアルキレングリコールジオール、ポリアルキレングリコールトリオール等を挙げることができる。
【0040】
このように表面処理液にポリエーテル系ポリマーを添加することで、表面処理層の柔軟性や強度が向上し、その結果、所望の導電性ゴム部材の表面が磨耗したり、当接する感光体表面等を傷つけたりする虞がなくなる。
【0041】
本発明の表面処理液に用いられるアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、所定の溶剤に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものである。アクリルフッ素系ポリマーは、例えば、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有する溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。また、アクリルシリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。
【0042】
また、表面処理液には、導電性付与材としてさらにアセチレンブラック等のカーボンブラックを添加してもよい。
【0043】
表面処理液に用いられるカーボンブラックは、イソシアネート成分に対して0〜40重量%であるのが好ましい。多すぎると脱落、物性低下等の問題が生じ好ましくないからである。
【0044】
また、表面処理液中のアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、イソシアネート成分に対し、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーの総量を10〜70重量%となるようにするのが好ましい。10重量%より少ないとカーボンブラック等を表面処理層中に保持する効果が小さくなる。一方、ポリマー量が多すぎると、帯電ロールの電気抵抗値が上昇し放電特性が低下するという問題や、相対的にイソシアネート成分が少なくなって有効な表面処理層が形成できないという問題がある。
【0045】
さらに、表面処理液は、イソシアネート成分、および必要に応じて含有されるこれらポリエーテル系ポリマー、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーを溶解する有機溶剤を含有する。有機溶剤としては特に限定されないが、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン等の有機溶剤を用いればよい。
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
<ロールの製造>
3官能ポリエーテル系ポリオールであるGP−3000(三洋化成社製)100重量部に、トーカブラック#5500(東海カーボン社製)を4重量部、及びVULCAN XC(キャボット社製)3重量部を添加し、粒度が20μm以下となる程度まで分散させ、80℃に温調した後、減圧下にて6時間、脱泡、脱水操作を行ってA液を得た。一方、プレポリマーアジプレンL100(ユニロイヤル社製)25重量部に、コロネートC−HX(日本ポリウレタン社製)11重量部を添加・混合し、80℃に温調してB液を得た。このA液とB液とを混合し、あらかじめシャフト(φ:8mm、l:270mm)が中央に配置されている120℃に予熱されたφ23mmの鉄製パイプ金型に注入し、120℃にて120分間加熱し、両端部を除くシャフト表面に導電性ポリウレタン層が形成されたロールを得た。このロールの表面を1.5mm研磨し、外径を20mmに調整し、ロール(処理前)を得た。
【0048】
<表面処理液の調製>
酢酸イソブチル100重量部に、イソシアネート化合物(MDI)20重量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0049】
<ロールの表面処理>
23℃に保った表面処理液に、製造したロールを30秒間浸漬後、80℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成した。
【0050】
<後処理>
イソプロピルアルコールと水を1:1で混合した溶液を23℃に保ったまま、表面処理層を形成したロールを30秒間浸漬し、250mm/minの速度で引き上げ、その後120℃に保持されたオーブンで1時間加熱したものを実施例1の導電性ロールとした。
【0051】
(実施例2)
表面処理液の調製において、さらにアセチレンブラック(電気化学社製)3重量部を添加した以外は、実施例1と同様にして実施例2の導電性ロールとした。
【0052】
(実施例3)
<ロールの製造>
3官能ポリエーテル系ポリオールであるMN−3050(三井武田ケミカル製)100重量部に、デンカブラック(電気化学工業社製)を5重量部、及び旭#60(旭カーボン)5重量部を添加し、粒度が20μm以下となる程度まで分散させ、80℃に温調した後、減圧下にて6時間、脱泡、脱水操作を行ってC液を得た。一方、プレポリマーアジプレンL100(ユニロイヤル社製)25重量部に、コロネートC−HX(日本ポリウレタン社製)11重量部を添加・混合し、80℃に温調してD液を得た。このC液とD液とを混合し、あらかじめシャフト(φ:8mm、l:270mm)が中央に配置されている120℃に予熱されたφ23mmの鉄製パイプ金型に注入し、120℃にて120分間加熱し、両端部を除くシャフト表面に導電性ポリウレタン層が形成されたロールを得た。このロールの表面を1.5mm研磨し、外径を20mmに調整し、ロール(処理前)を得た。
【0053】
<表面処理液の調製>
メチルエチルケトン100重量部に、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製)2重量部をボールミルで3時間分散混合した後、イソシアネート化合物(MDI)20重量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0054】
<ロールの表面処理>
23℃に保った表面処理液に、製造したロールを30秒間浸漬後、250mm/minの速度で引き上げ、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成した。
【0055】
<後処理>
表面処理層を形成したロールの表面を、イソプロピルアルコールを浸み込ませたスポンジで払拭したものを実施例3の導電性ロールとした。
【0056】
(実施例4)
実施例3の表面処理層を形成したロールを、後処理として、両端に500gの荷重をかけてアルミニウム製の金属ロールに圧接した状態で回転させながら直流電圧500Vを10分間印加したものを実施例4の導電性ロールとした。
【0057】
(実施例5)
<表面処理液の調製>
メチルエチルケトン100重量部に、アセチレンブラック(電気化学社製)3重量部、及びアクリルフッ素ポリマー(モディパーF600;日本油脂社製)1重量部をボールミルで3時間分散混合した後、イソシアネート化合物(MDI)10重量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0058】
<ロールの表面処理>
実施例3の処理前のロールを、上述した表面処理液にNL環境下(25℃、30%RH)で30秒間浸漬後、500mm/minの速度で引き上げ、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを実施例5の導電性ロールとした。
【0059】
(比較例1)
後処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の導電性ロールとした。
【0060】
(比較例2)
後処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして比較例2の導電性ロールとした。
【0061】
(比較例3)
後処理を行わなかった以外は、実施例3と同様にして比較例3の導電性ロールとした。
【0062】
(比較例4)
実施例3の表面処理前のロールを、実施例3の表面処理液にLL環境下(10℃×30%RH)で5秒間浸漬後、100mm/minの速度で引き上げ、150℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを比較例4の導電性ロールとした。
【0063】
(比較例5)
比較例4の導電性ロールを、23℃に保ったメチルエチルケトンに30秒間浸漬した後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱したものを比較例5の導電性ロールとした。
【0064】
(比較例6)
エピクロルヒドリンゴム(エピクロマーCG−102;ダイソー社製)100重量部、液状アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)7.5重量部、VULCAN XC(キャボット社製)25重量部、亜鉛華3重量部、ステアリン酸2重量部、加硫剤1.5重量部をロールミキサーで混練り後、これをパイプ金型でインジェクション成型することにより、厚さ0.5mm、内径20.0mmのゴムスリーブ部材を形成した。
【0065】
実施例1の処理前のロールに上述したゴムスリーブ部材を被覆し、比較例6の導電性ロールとした。
【0066】
(試験例1)<インピーダンス測定>
各実施例及び比較例の導電性ロールのインピーダンス特性をインピーダンスアナライザー(BHA社製;インピーダンスアナライザーIM6e)を用いて測定した。測定は、N/N環境(25℃、50%RH)下、金属板にロールを当接した状態で、ロールの両端に500gの荷重を付加し、印加電圧を0.1V、0.2V、0.5V、1.0Vとして測定し、交流周波数0.1Hz〜1MHzにおけるインピーダンスZ(Ω)及び位相差θから抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)をコールコールプロットし、描かれる曲線の形状から等価回路を考察した。各実施例及び比較例の導電性ロールのコールコールプロットを図1〜11に示す。
【0067】
(試験結果のまとめ)
比較例1の導電性ロールは、コールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状ではなく、図6に示すように抵抗成分Zr(Ω)の増加に伴い、容量性リアクタンス成分Zc(Ω)は一旦減少したが、低周波領域において再び増加傾向が見られた。比較例1の導電性ロールは、実質的に単一の層を形成したものであるが、ゴム基材の状態または表面処理条件が不十分であったためにゴム基材と表面処理層で異なる回路が形成されていると考えられる。比較例2及び3の導電性ロールも同様に、コールコールプロットで描かれる曲線が図7及び8に示すように略単一の円弧状ではなく、等価回路が2つ存在していると考えられる。
【0068】
理想的な表面処理層が形成できなかった比較例1〜3の導電性ロールに後処理を行って得た実施例1〜4の導電性ロールは、コールコールプロットで描かれる曲線が図1〜4に示すように略単一の円弧状であり、電気的特性を1つの等価回路で表すことができるものであった。すなわち、電気的に単層であった。実施例1、2の導電性ロールは溶剤による膨潤と加熱によって、実施例3の導電性ロールは溶剤による膨潤によって、実施例4の導電性ロールは機械的な圧力と電圧の付与によって、導電パスが一旦切断された後、導電パスが再構築されたためであると考えられる。
【0069】
また、実施例5の導電性ロールは、後処理を行っていないが、コールコールプロットで描かれる曲線が図5に示すように略単一の円弧状であり、電気的特性を1つの等価回路で表すことができるものであった。これにより、理想的な表面処理層が形成された場合には、等価回路が一つとなることがわかった。
【0070】
一方、比較例4の導電性ロールは、コールコールプロットで描かれる曲線が図9に示すように複数の円弧からなるものであった。これにより、表面処理条件が不適切な場合は、コールコールプロットで描かれる曲線が複数の円弧からなり、より複雑な回路が形成されることがわかる。
【0071】
比較例4の導電性ロールにメチルエチルケトンを含浸させて導電パスの再構築を行った比較例5の導電性ロールは、図11に示すように略単一の円弧状ではなかった。これにより、表面処理条件が不適切であると、溶剤や加熱等による導電パスの再構築を行っても、等価回路は一つとならないことがわかった。
【0072】
なお、ロールの表面処理の代わりにゴムスリーブ部材を被覆した比較例6の導電性ロールは、コールコールプロットで描かれる曲線が、図11に示すように略単一の円弧状ではなく、2つの円弧からなるものであった。比較例6の導電性ロールは、物理的に二層で且つ電気的にも二層である。このように電気的に二層であるものはコールコールプロットで描かれる曲線が2つの円弧からなることが明らかとなった。
【0073】
以上の結果より、表面処理条件を選定し、ゴム基材の導電パスを一旦切断して導電パスが再構築された場合、導電性ロールは電気的に単層となるということが確認された。また、表面処理層を形成する際の条件が理想的なものである場合は、導電性ロールは電気的に単層となるということが確認された。
【0074】
(試験例2):画像評価
実施例3〜5及び比較例3〜5の導電性ロールを現像ロールとして、市販のレーザープリンター(MICROLINE9600PS 株式会社沖データ製)に実装し、NN環境(25℃、50%RH)で印刷を行い、その印刷物の画像評価を行った。また、LL環境(10℃、30%RH)、HH環境(35℃、85%RH)ので、初期の印刷物と1万枚通紙を行った後の印刷物の画像評価を行った。この結果を下記表1に示す。なお、画像が良好であった場合は○、画像がやや不良であった場合は△、画像が不良であった場合は×とした。「画像が不良」とは濃度ムラや劣化などが見られる状態を指す。
【0075】
【表1】
【0076】
(試験結果のまとめ)
コールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状であった実施例3〜5の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した印刷物の画像は、いずれの環境下においても良好な評価が得られた。また、長期間に亘って使用しても、良好な評価が得られた。
【0077】
これに対し、比較例3の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した初期の印刷物の画像は、NN、HH環境下では良好な評価が得られたが、LL環境下では、濃度ムラや白抜けがわずかに見られ、画像がやや不良であった。また、1万枚通紙後の印刷物の画像は、LL環境下では、濃度ムラや白抜けが見られ、画像が不良であり、HH環境下では、カブリの発生がわずかに見られ、画像がやや不良であった。また、コールコールプロットで描かれる曲線が複数の円弧状からなるものであった比較例4の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した印刷物の画像は、いずれの環境下においても濃度ムラや白抜け、またはカブリが見られ、画像が不良であった。比較例5の導電性ロールを現像ロールとして用いて印刷した初期の印刷物の画像は、いずれの環境下でも濃度ムラや白抜け、またはカブリがわずかに見られ、やや不良であった。また、1万枚通紙後の印刷物の画像は、いずれの環境下でも濃度ムラや白抜け、カブリが見られ、不良であった。
【0078】
以上の結果より、コールコールプロットで描かれる曲線が略単一で円弧状である導電性ロールは、電気的に単層であるため、いずれの環境の装置に組み込んで使用しても白抜け等のない良好な画像が得られるものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1のコールコールプロットを示す図である。
【図2】実施例2のコールコールプロットを示す図である。
【図3】実施例3のコールコールプロットを示す図である。
【図4】実施例4のコールコールプロットを示す図である。
【図5】実施例5のコールコールプロットを示す図である。
【図6】比較例1のコールコールプロットを示す図である。
【図7】比較例2のコールコールプロットを示す図である。
【図8】比較例3のコールコールプロットを示す図である。
【図9】比較例4のコールコールプロットを示す図である。
【図10】比較例5のコールコールプロットを示す図である。
【図11】比較例6のコールコールプロットを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム基材に導電性付与剤を配合して導電性を付与した導電性弾性層と、当該導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層とを具備する導電性ゴム部材であって、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるものであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ゴム部材において、前記コールコールプロットは、印加電圧が0.1〜1.0V、周波数が0.1×100〜1.0×106Hz、抵抗成分Zr(Ω)及び容量性リアクタンス成分Zc(Ω)がそれぞれ1.0×104〜1.0×109の範囲のコールコールプロットであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム基材がポリウレタンからなることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記導電性付与剤が導電性カーボンブラックからなることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記表面処理液が、さらにカーボンブラックと、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーとの少なくとも一方を含有したものであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項1】
ゴム基材に導電性付与剤を配合して導電性を付与した導電性弾性層と、当該導電性弾性層の表層部にイソシアネート化合物を含有する表面処理液を含浸させることによって形成した表面処理層とを具備する導電性ゴム部材であって、所定の周波数の交流電圧を印加した際のインピーダンスZ(Ω)と位相差(θ)から算出される抵抗成分Zr(Ω)と容量性リアクタンス成分Zc(Ω)との関係を示すコールコールプロットで描かれる曲線が略単一の円弧状となるものであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ゴム部材において、前記コールコールプロットは、印加電圧が0.1〜1.0V、周波数が0.1×100〜1.0×106Hz、抵抗成分Zr(Ω)及び容量性リアクタンス成分Zc(Ω)がそれぞれ1.0×104〜1.0×109の範囲のコールコールプロットであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性ゴム部材において、前記ゴム基材がポリウレタンからなることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記導電性付与剤が導電性カーボンブラックからなることを特徴とする導電性ゴム部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の導電性ゴム部材において、前記表面処理液が、さらにカーボンブラックと、アクリルフッ素系ポリマー、アクリルシリコーン系ポリマー、及びポリエーテル系ポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーとの少なくとも一方を含有したものであることを特徴とする導電性ゴム部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−33308(P2008−33308A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176455(P2007−176455)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】
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