説明

導電性シリコーン材料および導電性コーティング膜

【課題】
イオン伝導性置換基を有するオルガノポリシロキサンからなる導電性シリコーン材料であって、特にコーティング剤として製膜性が良好であり、かつ耐熱性に優れ、表面抵抗値の経時変化が少ない伝導性シリコーン材料、および該材料からなる導電性コーティング膜を提供する。
【解決手段】
メルカプト基を有しないシラン化合物Aおよびメルカプト基を有するシラン化合物Bを、反応系に供給し、共加水分解および重縮合を進行させて、オルガノポリシロキサンのゾル溶液を得る工程と、
該ゾル溶液を乾燥させて固化させて固化物を得る工程と、
該固化物のメルカプト基を酸化させる工程と
を含む方法によって得られるオルガノポリシロキサンからなる導電性シリコーン材料、ならびに該導電性シリコーン材料からなる導電性コーティング膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性置換基を有するオルガノポリシロキサンからなる導電性シリコーン材料、および該材料からなる導電性コーティング膜に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導体ないしは高分子固体電解質からなる膜として、パーフルオロアルキルスルホン酸膜等が使用されているが、この膜には耐熱性が不十分であるという問題がある。この問題を解決し、耐熱性を向上させた膜を得るために、有機−無機複合材料を用いることが検討されているが、該膜の材料として好適な有機−無機複合材料は、未だ開発されていない。
【0003】
具体的には、有機−無機複合材料からなる高分子固体電解質膜として、例えば、メチルハイドロジェンシリコーンに、メタクリル酸ポリエチレンオキシドをグラフト重合させた反応生成物と無機イオン塩とからなるものや(特許文献1)、オルガノポリシロキサンの存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を重合することによって得られる重合体に、リチウム電解質塩を含有する有機電解液を含浸させてなるもの(特許文献2)が提案されている。しかしながら、これらの有機−無機複合材料は、有機成分と無機成分との相溶性が悪く、そのために製造が困難であるという問題を有していた。
【0004】
また、最近では特定のシラン化合物を加水分解および重縮合しつつ、メルカプト基を有するアルコキシシランを後から加え、これらの化合物の加水分解および重縮合を続行させることにより各成分が均一に混合したゾル溶液を得た後に、該ゾル溶液を乾燥させ固化させることにより得られる固化物のメルカプト基をスルホン酸基へと酸化して製造される複合材料も報告されている(特許文献3)。この複合材料は、作業性、相溶性等がある程度改良されているが、特にコーティング膜としては製膜性に劣り、さらに得られた膜の表面抵抗値が経時で変化する等の問題があり、コーティング膜に用いる複合材料として不適切であった。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−55810号公報
【特許文献2】特開平11−232925号公報
【特許文献3】特開2004−107597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イオン伝導性置換基を有するオルガノポリシロキサンからなる導電性シリコーン材料であって、特にコーティング剤として製膜性が良好であり、かつ耐熱性に優れ、表面抵抗値の経時変化が少ない伝導性シリコーン材料、および該材料からなる導電性コーティング膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は第一に、(i)一般式(1):
Si(OR)4−m−n (1)
(式中、Rは非置換の一価炭化水素基であり、Rは置換の一価炭化水素基であり、Rは非置換または置換の炭素原子数1〜3のアルキル基であり、mは0〜2の整数であり、nは0または1であり、但し、m+nは1〜3の整数である)
で表されるメルカプト基を有しないシラン化合物Aおよび一般式(2):
HS−Y−Si(OR)3−p (2)
(式中、Yは非置換または置換の炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、RおよびRは独立に非置換または置換の炭素原子数1〜3のアルキル基であり、pは2または3である)
で表されるメルカプト基を有するシラン化合物Bを、反応系に供給し、共加水分解および重縮合を進行させて、オルガノポリシロキサンのゾル溶液を得る工程と、
(ii)該ゾル溶液を乾燥させて固化させて固化物を得る工程と、
(iii)該固化物のメルカプト基を酸化させる工程と
を含む方法によって得られるオルガノポリシロキサンからなる導電性シリコーン材料、
を提供する。
【0008】
また、本発明は第二に、(I)平均組成式(3):
SiO{4−(q+r+s+t+u)}/2(OR)(OH) (3)
(式中、Rは非置換の一価炭化水素基であり、Rは置換の一価炭化水素基であり、Rは式:HS−Y−(式中、Yは非置換または置換の炭素原子数1〜5のアルキレン基である)で表されるメルカプト基を有する基であり、Rは非置換または置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基であり、qは0.5≦q≦1.8の数であり、rは0≦r≦1.0の数であり、sは0<s≦1.0の数であり、tは0<t≦1.0の数であり、uは0<u≦1.0の数であり、但し、0.5≦q+r+s≦1.8の数であり、0<t+u≦1.0の数であり、かつ0.5<q+r+s+t+u≦2.8の数である)
で表されるメルカプト基を有するシリコーンオリゴマーCに、酸、金属βジケトン錯体、またはこれらの混合物(以下、「酸または金属βジケトン錯体」という)を混合し、液状混合物を得る工程と、
(II)該液状混合物を加熱して固化させて固化物を得る工程と、
(III)該固化物のメルカプト基を酸化させる工程と
を含む方法によって得られる導電性シリコーン材料、
を提供する。
【0009】
さらに、本発明は第三に、前記導電性シリコーン材料からなる導電性コーティング膜を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性シリコーン材料は、イオン伝導性置換基を有するオルガノポリシロキサンからなる導電性シリコーン材料であって、特にコーティング剤として製膜性が良好であり、かつイオン伝導性、耐熱性、耐水性、作業性等に優れ、表面抵抗値の経時変化が少ない導電性シリコーン材料である。この導電性シリコーン材料は、導電性コーティング膜の作製にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[導電性コーティング材料]
本発明の導電性コーティング材料は、高抵抗率計等を用いて、温度25℃、相対湿度40%の条件下で、10Vの電圧を印加して測定した表面抵抗値が、通常、1×10Ω未満、典型的には1×10〜5×10Ωとなるものである。また、該導電性シリコーン材料は、製造直後の表面抵抗値Aと製造から10日経過後の表面抵抗値Aとの比A/Aが3以下であり、好ましくは0.5〜2.5であり、表面抵抗値の経時変化が少ないものである。
【0012】
<導電性コーティング材料の製造方法1>
本発明の導電性コーティング材料は、例えば、上述のとおり、(i)上記一般式(1)で表されるシラン化合物Aと上記一般式(2)で表されるシラン化合物Bとを、反応系に供給し、共加水分解および重縮合を進行させて、オルガノポリシロキサンのゾル溶液を得る工程と、
(ii)該ゾル溶液を乾燥させて固化させて固化物を得る工程と、
(iii)該固化物のメルカプト基を酸化させる工程と
を含む方法によって製造することができる。
【0013】
各工程の詳細は以下のとおりである。
【0014】
−工程(i)−
工程(i)において、前記シラン化合物Aとシラン化合物Bとを反応系に供給する方法は、両シラン化合物が反応系に供給されれば特に限定されず、例えば、事前に両シラン化合物を混合してから供給しても、各々、別個の供給手段(例えば、反応容器または反応管に接続された供給管等)から供給してもよい。その際、両シラン化合物は、例えば、滴下、噴射、噴霧、流入等、いかなる形態によって反応系に供給してもよい。シラン化合物Aとシラン化合物Bの供給に当り、両化合物のいずれか一方の加水分解および/または重縮合が進行する時間はなるべくないように注意する。シラン化合物Aとシラン化合物Bとは実質的に一緒に加水分解し、重縮合が進行する必要がある。
【0015】
前記共加水分解および重縮合は、通常、水および加水分解触媒の存在下で進行する。両シラン化合物は、一度に全量を反応系に供給してもよいし、まず一部を反応系に供給してもよいが、該シラン化合物は均一に混合された状態で、水および加水分解触媒と接触し、加水分解および重縮合が進行する。
【0016】
前記反応系とは、シラン化合物A、シラン化合物B、水および加水分解触媒が相互に接触し、該シラン化合物の共加水分解、重縮合が行われる場所を意味し、バッチ式でも連続式でもよく、特に限定されないが、具体的には、例えば、バッチ式の反応容器、連続式の反応管やラインが挙げられる。
【0017】
前記共加水分解および重縮合の工程の具体例としては、バッチ処理で行う場合、反応容器等に両シラン化合物を一度に全量仕込み、十分に攪拌しながら、該両シラン化合物に、水および加水分解触媒を添加する方法;反応容器等に水および加水分解触媒を仕込み、十分に攪拌しながら、両シラン化合物を事前に混合して、あるいは別個に添加する方法等が挙げられる。連続プロセスで行う場合、例えば、連続的なライン工程において、該工程に設けられた供給管等(即ち、供給手段から水、加水分解触媒等をラインへと供給するための手段)から、シラン化合物A、シラン化合物B、水および加水分解触媒をライン中で均一に混合される形態でラインに供給する方法等が挙げられる。このライン中で均一に混合される形態とは、例えば、まずシラン化合物Aとシラン化合物Bとをラインに供給し、両シラン化合物が該ラインを流通する過程で十分に混合され、その混合された状態のシラン化合物に対して、供給管等から水および加水分解触媒が供給する等の形態である。
【0018】
前記共加水分解および重縮合により生成する前記オルガノポリシロキサンはゾル溶液の状態で得られる。このゾル溶液において、オルガノポリシロキサンの濃度は、5〜50質量%、特に10〜30質量%程度であることが望ましい。
【0019】
工程(i)で用いられる各成分の詳細は以下のとおりである。
【0020】
・シラン化合物A
前記シラン化合物Aは、上記一般式(1)で表されるメルカプト基を有しないものである。
【0021】
上記一般式(1)中、Rは、非置換の一価炭化水素基を表し、その炭素原子数は、通常、1〜10であるが、好ましくは1〜6である。この非置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、5−ヘキセニル基、9−デセニル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、プロピル基、ヘキシル基、フェニル基である。特に、導電性シリコーン材料において要求される特性が、主として、耐候性である場合にはメチル基が好ましく、撥水性である場合には長鎖(例えば、炭素原子数5〜10)アルキル基が好ましく、可撓性である場合にはフェニル基が好ましい。
【0022】
は置換の一価炭化水素基を表し、その炭素原子数は、通常、1〜10であるが、好ましくは1〜3である。この置換の一価炭化水素基としては、例えば、前記Rで表される非置換の一価炭化水素基として例示した基において、水素原子の一部または全部を下記の置換基で置換したものが挙げられる。置換基は、メルカプト基またはメルカプト基を有する基以外であって、例えば、(i)フッ素、塩素等のハロゲン原子、(ii)グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基等のエポキシ官能基、(iii)メタクリル基、アクリル基等の(メタ)アクリル官能基、(iv)アミノ基、アミノエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジブチルアミノ基等のアミノ官能基、(v)(ポリオキシアルキレン)アルキルエーテル基等のアルキルエーテル官能基、(vi)カルボキシル基、スルホニル基等のアニオン性官能基、(vii)−N(CH)X(式中、Xはハロゲン原子を表す)等の第4級アンモニウム塩構造を含有する官能基等が挙げられる。Rで表される置換の一価炭化水素基の具体例としては、トリフルオロプロピル基、パーフルオロブチルエチル基、パーフルオロオクチルエチル基、3−クロロプロピル基、2−(クロロメチルフェニル)エチル基、3−グリシジロキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、5,6−エポキシヘキシル基、9,10−エポキシデシル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロキシプロピル基、アクリロキシメチル基、メタクリロキシメチル基、11−アクリロキシウンデシル基、11−メタクリロキシウンデシル基、3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、3−(N−フェニルアミノ)プロピル基、3−ジブチルアミノプロピル基、3−メルカプトプロピル基、2−(4−メルカプトメチルフェニル)エチル基、ポリオキシエチレンオキシプロピル基、3−ヒドロキシカルボニルプロピル基、3−トリブチルアンモニウムプロピル基等が挙げられる。特に、導電性シリコーン材料からなる導電性コーティング膜と基材との密着性をより向上させる場合には、エポキシ官能基、アミノ官能基等が好ましい。導電性シリコーン材料中にビニル重合体が含まれる場合であって、シラン化合物が組成物中のビニル重合体とのより緊密なブロック化を行う場合には、ラジカル共重合が可能な(メタ)アクリル官能基が好ましい。また、シラン化合物がビニル重合体とシロキサン結合以外の結合で架橋を行う場合には、ビニル重合体中に含有される官能基と反応可能な官能基が好ましく、具体的には、例えば、エポキシ基(例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基等の官能基と反応する)、アミノ基(例えば、エポキシ基、酸無水物基等の官能基と反応する)等が挙げられる。
【0023】
は非置換または置換の、炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。このアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0024】
前記シラン化合物Aとしては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
これらのシラン化合物Aは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0026】
・シラン化合物B
前記シラン化合物Bは、上記一般式(2)で表されるメルカプト基を有するものである。
【0027】
上記一般式(2)中、Yは非置換または置換の、炭素原子数1〜5、好ましくは1〜3のアルキレン基を表す。このアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基等が挙げられる。
【0028】
およびRは、独立に、非置換または置換の、炭素原子数1〜3のアルキル基を表す。このアルキル基としては、Rで例示したものが挙げられる。
【0029】
前記シラン化合物Bとしては、例えば、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−メルカプトエチルエチルジエトキシシラン、γ−メルカプトメチルエチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトペンチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトペンチルトリメトキシシラン等が挙げられ、好ましくは、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランである。
【0030】
これらのシラン化合物Bは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0031】
前記シラン化合物Bの使用量は、特に限定されないが、前記シラン化合物A10質量部に対して、好ましくは1〜10質量部である。かかる範囲を満たすと、均一で安定なゾル溶液の調製が容易であり、電気伝導度が高く均一な導電性シリコーン材料が得やすい。また、均一で安定なゾル溶液の調製が一層容易となり、導電性シリコーン材料の耐水性と耐熱性が向上することから、シラン化合物Bの使用量は、より好ましくは1〜8質量部である。さらに、耐水性と耐熱性が著しく向上し、かつ十分に高い電気伝導度が得られることから、シラン化合物Bの使用量は、特に好ましくは1.5〜6質量部である。
【0032】
共加水分解および重縮合は、有機溶媒中で行っても、有機溶媒を用いないで行ってもよい。有機溶媒としては、親水性有機溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。反応溶液中のシラン化合物Aおよびシラン化合物Bの合計濃度は、15〜100質量%でよい。また、シラン化合物Aおよびシラン化合物Bは、これらの親水性有機溶媒に溶解させてから反応系に供給することが好ましい。これらの中でも、水の添加量を少なくでき、後述の工程(ii)においてゾル溶液を乾燥させて固化物を得る際に、乾燥時間を短縮できることから、メタノールが好ましい。
【0033】
・加水分解触媒/水
前記共加水分解および重縮合において用いられる加水分解触媒は、特に限定されず、加水分解性シラン化合物の加水分解触媒として従来用いられてきた公知の触媒を用いればよいが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、モノクロロ酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸;アセチルアセトナトアルミニウム等の金属βジケトン錯体等が挙げられる。
【0034】
これらの他にも、前記加水分解触媒として、共加水分解および重縮合を促進する作用以外に、プロトン源となり、導電性シリコーン材料の表面抵抗値を低下させる作用も有することから、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン化合物;オレイン酸、ステアリン酸等の水への溶解性が小さい有機酸;導電性シリコーン材料を構成するオルガノポリシロキサンの三次元網状構造から溶出しにくいプロトン酸部位(即ち、プロトンを供与できる部位)を有する、ジエチルホスフェイトトリエトキシシラン等の高分子化合物;前記三次元網状構造中で物理的に相互作用し保持される固体酸等も好適に用いられる。固体酸としては、例えば、α−Zr(HPO)・nHO、γ−Zr(PO)(HPO)・2HO、SnO・2HO、Sb・5.4HO等の水和酸化物、HSiW1240・nHO、HPW1240・nHO等のヘテロポリ酸等が挙げられる。これらの中でも、亜リン酸、リン酸、リン酸メチルエステル、リン酸プロピルエステル、リン酸ドデシルエステル、リン酸フェニルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸ジドデシルエステル等の炭素原子数1〜30のリン酸エステル、亜リン酸メチルエステル、亜リン酸ドデシルエステル、亜リン酸ジエチルエステル、亜リン酸ジイソプロピル、亜リン酸ジドデシルエステル等の炭素原子数1〜30の亜リン酸エステル等のリン化合物;ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、分子鎖側鎖にリン酸基を有するポリアクリレートおよびポリメタクリレート(特開2001-114834号公報参照)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(特開平6-93111号公報参照)、スルホン化ポリエーテルスルホン(特開平10-45913号公報参照)、スルホン化ポリスルホン(特開平9-245818号公報参照)等の耐熱性芳香族高分子のスルホン化物等のプロトン酸部位を有する高分子化合物、タングストリン酸、タングステンペルオキソ錯体等の固体酸等が特に好ましい。
【0035】
これらの加水分解触媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0036】
この加水分解触媒の使用量は、有効量でよく、シラン化合物Aとシラン化合物Bとの合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、特に好ましくは0.1〜5質量部である。適切な触媒量により、共加水分解および重縮合が適切に進行し、導電性シリコーン材料から導電性コーティング膜を作製する際に、被膜形成が良好に行われるだけでなく、十分なポットライフを確保できる。
【0037】
また、水の使用量は、共加水分解および重縮合が十分に進行する量であれば特に限定されないが、通常、シラン化合物Aとシラン化合物Bとの合計100質量部に対して、5〜100質量部であり、好ましくは10〜50質量部である。
【0038】
上記の共加水分解および重縮合が終了した後に、反応系に上記プロトン源となる化合物を添加してプロトン伝導性を付与または向上させてもよい。
【0039】
−工程(ii)−
工程(ii)では、前記工程(i)で得られたゾル溶液を、好ましくは、60〜150℃で乾燥させることにより、固化物を得る。この乾燥において、ゾル溶液中の溶媒が留去されるだけでなく、生成したオルガノポリシロキサン中に残存するアルコキシ基の縮合により硬化反応が進行する。
【0040】
−工程(iii)−
工程(iii)では、前記工程(ii)で得られた固化物のメルカプト基を酸化させることにより導電性シリコーン材料が得られる。メルカプト基は、例えば、過酸化水素、硝酸等のオキソ酸、過マンガン酸、FeCl、CuO、濃硫酸等の酸化剤、好ましくは15質量%の濃度に希釈した過酸化水素水により、スルホン酸基等のイオン伝導性を有する官能基へと酸化させればよい。具体的には、上述のとおり、ゾル溶液から膜等の固化物を製造した後、この固化物を、例えば、前記酸化剤を含有した溶液に浸漬することにより行うことができる。
【0041】
以上の工程により得られる、導電性シリコーン材料を構成するオルガノポリシロキサンは、通常、三次元網状構造からなるものである。
【0042】
<導電性コーティング材料の製造方法2>
本発明の導電性コーティング材料は、例えば、上述のとおり、
(I)上記平均組成式(3)で表されるシリコーンオリゴマーCに酸または金属βジケトン錯体を混合し、液状混合物を得る工程と、
(II)該液状混合物を加熱して固化させて固化物を得る工程と、
(III)該固化物のメルカプト基を酸化させる工程と
を含む方法によっても製造することができる。
【0043】
各工程の詳細は以下のとおりである。
【0044】
−工程(I)−
工程(I)において、前記シリコーンオリゴマーCに酸または金属βジケトン錯体を混合する方法は、特に限定されない。混合は、バッチ式でも連続式でも行うことができ、例えば、反応容器、反応管、ライン等を用いる。より具体的には、バッチ式の反応容器、連続式の反応管やラインが挙げられる。また、シリコーンオリゴマーC、および酸または金属βジケトン錯体は、例えば、滴下、噴射、噴霧、流入等、いかなる形態によって混合場所に供給してもよい。この供給において、シリコーンオリゴマーC、および酸または金属βジケトン錯体は、いずれも、そのままの状態であっても、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、水等の溶媒に溶解させた状態であってもよい。
【0045】
工程(I)の具体例としては、バッチ処理で行う場合、反応容器等にシリコーンオリゴマー、および酸または金属βジケトン錯体を仕込み、十分に攪拌する方法が挙げられる。連続プロセスで行う場合、例えば、連続的なライン工程において、該工程に設けられた供給管等から、シリコーンオリゴマーC、および酸または金属βジケトン錯体をライン中で均一に混合される形態でラインに供給する方法が挙げられる。このライン中で均一に混合される形態とは、例えば、シリコーンオリゴマーC、および酸または金属βジケトン錯体が該ラインを流通する過程で十分に混合されることである。これらのシリコーンオリゴマーC、および酸または金属βジケトン錯体の混合により液状混合物が得られる。
【0046】
工程(I)で用いられる各成分の詳細は以下のとおりである。
【0047】
・シリコーンオリゴマーC
前記シリコーンオリゴマーCは、上記平均組成式(3)で表されるメルカプト基を有するものである。このシリコーンオリゴマーCは、如何なる方法で製造されたものであってもよいが、前記シラン化合物Aと前記シラン化合物Bとを共加水分解および重縮合することにより、容易に製造することができる。
【0048】
上記平均組成式(3)中、Rは非置換の一価炭化水素基を表し、その炭素原子数は、通常、1〜10であるが、好ましくは1〜6である。この非置換の一価炭化水素基としては、前記Rで例示したものが挙げられる。
【0049】
は置換の一価炭化水素基を表し、その炭素原子数は、通常、1〜10であるが、好ましくは1〜3である。この置換の一価炭化水素基としては、前記R1で例示したものが挙げられる。
【0050】
は式:HS−Y−(式中、Yは前記と同じである)で表されるメルカプト基を有する基を表す。このメルカプト基を有する基は、特に限定されないが、例えば、γ−メルカプトプロピル基、γ−メルカプトエチル基、γ−メルカプトメチル基、γ−メルカプトペンチル基等が挙げられ、好ましくは、γ−メルカプトプロピル基である。
【0051】
は非置換または置換の炭素原子数1〜6、好ましくは1〜3の一価炭化水素基を表す。この一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;アリル基、ビニル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基等が挙げられる。
【0052】
OR基は加水分解性基を表し、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、イソプロペノキシ基、フェノキシ基等のヒドロカルビルオキシ基等を挙げることができる。これらの中でも、共加水分解および重縮合の反応性、エマルジョン中での安定性が良好であることから、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基が好ましい。
【0053】
qは0.5≦q≦1.8の数であり、好ましくは0.6≦q≦1.8の数である。qが0.5未満である場合には、上記平均組成式(3)中のRの含有率が低く、導電性シリコーン材料が硬くなり過ぎ、クラックが発生し易い。qが1.8を超える場合には、該式中の鎖状単位の含有率が高く、導電性シリコーン材料がゴム性を帯び、耐擦傷性が劣ることがある。
【0054】
rは0≦r≦1.0の数である。rが1.0を超える場合には、上記平均組成式(3)中の嵩高いRの含有率が高くなり、導電性シリコーン材料の硬度を維持するのが困難であり、耐候性も低下することがある。
【0055】
sは0<s≦1.0の数であり、好ましくは0.01≦s≦0.9の数である。sが1.0を超える場合には、上記平均組成式(3)中の嵩高いRの含有率が高くなり、導電性シリコーン材料の硬度を維持するのが困難であり、耐候性も低下することがある。また、該式中にメルカプト基を有することが導電性シリコーン材料の表面抵抗値を低下させるためには必須であるので、sは0を超えなければならない。
【0056】
tは0<t≦1.0の数であり、好ましくは0.05≦t≦0.8の数、より好ましくは0.2≦t≦0.7の数である。tが1.0を超える場合には、導電性シリコーン材料中のヒドロカルビルオキシ基が経時的に反応し、安定性の面で劣ることがある。
【0057】
uは0<u≦1.0の数であり、好ましくは0.05≦u≦0.8の数、より好ましくは0.2≦u≦0.7の数である。uが1.0を超える場合には、導電性シリコーン材料中のシラノール基が経時的に反応し、安定性の面で劣ることがある。
【0058】
これらのq、r、s、t、uは、0.5≦q+r+s≦1.8の数であり、かつ0<t+u≦1.0の数であることが必須である。q+r+sが0.5未満である場合には、導電性シリコーン材料が硬くなり過ぎ、クラックが発生し易い。q+r+sが1.8を超える場合には、導電性シリコーン材料がゴム性を帯び、耐擦傷性が劣ることがある。また、架橋可能な置換基の総数を表すt+uは、0<t+u≦1.0の範囲を満たす数であることが必須である。t+uが0である場合には、導電性シリコーン材料は硬化せず、1.0を超える場合には、該シリコーン材料を構成する分子が小さくなり、水溶性に富むものとなるため好ましくない。さらに、q+r+s+t+uは、0.5<q+r+s+t+u≦2.8の数であることが必須であり、0.6≦q+r+s+t+u≦2.5の数であることが好ましい。
【0059】
これらのシリコーンオリゴマーCは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0060】
シリコーンオリゴマーC、および酸または金属βジケトン錯体の混合は、通常、これら二成分のみで行われるが、必要に応じて、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、親水性有機溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、後述の工程(II)において液状混合物を加熱して固化物を得る際に、乾燥時間を短縮できることから、メタノールが好ましい。
【0061】
・酸または金属βジケトン錯体
酸または金属βジケトン錯体とは、上述のとおり、酸、金属βジケトン錯体またはこれらの混合物である。ここで、酸の具体例としては、上記で加水分解触媒として例示した化合物中の酸が挙げられる。酸または金属βジケトン錯体は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0062】
この酸または金属βジケトン錯体の使用量は、特に限定されないが、シリコーンオリゴマーC100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、特に好ましくは0.1〜5質量部である。かかる範囲を満たすと、導電性シリコーン材料から導電性コーティング膜を作製する際に、被膜形成が良好に行われるだけでなく、十分なポットライフを確保できる。
【0063】
なお、製造方法1に関して説明したプロトン源となる化合物を、必要に応じて、上記の酸または金属βジケトン錯体とは別途用いてもよい。
【0064】
−工程(II)−
工程(II)では、前記工程(I)で得られた液状混合物を、好ましくは、60〜150℃で加熱することにより、固化物を得る。
【0065】
−工程(III)−
工程(III)では、前記工程(II)で得られた固化物を用いる以外は、前記工程(iii)と同様にして、導電性シリコーン材料を得る。
【0066】
[導電性シリコーン材料の用途]
本発明の導電性シリコーン材料は、例えば、液晶、有機EL、PDP等のディスプレイ、タッチパネル表面の埃付着防止等の分野において、導電性コーティング膜等の用途に用いられることが好ましい。
【0067】
[導電性コーティング膜の製造方法]
前記導電性シリコーン材料の好適な用途である導電性コーティング膜を製造する際、その製造方法は特に限定されないが、例えば、得られたゾル溶液ないしは液状混合物を、例えば、ドクターブレード、バーコーター等を用いて、テフロン(登録商標)シート、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ガラス板等の材質の基体(支持体)の上に塗布するか、あるいはこれらの材質からなる浅い型に薄く流し込み、室温(例えば25℃)で風乾させるか、ないしは穏やかに加温(例えば80℃)して乾燥させればよい。この導電性コーティング膜の厚さは、用途により異なるが、通常、乾燥状態で、0.01〜100μm、特に0.1〜50μmである。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。なお、実施例において、「部」は質量部を表す。
【0069】
<実施例1>
テトラエトキシシラン(信越化学(株)製)89部、フェニルトリエトキシシラン(信越化学(株)製)38部、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製)38部、およびメタノール224部を混合した。この混合溶液に、水35部、および85質量%リン酸水溶液をリン酸として0.2部となる量を添加し、室温にて1日撹拌を継続した。得られた溶液を、ガラス板上にバーコーター(No.20)で塗布した。その後、ガラス板上の塗膜を80℃で1時間加熱して硬化させ、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿室で1日間静置し、コーティング膜を作製した。このコーティング膜を15質量%過酸化水素水中に14時間浸漬し、酸化処理し、その後、水洗し、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿室で、1日かけて風乾した。得られた酸化処理コーティング膜の表面抵抗値を、下記の測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0070】
・表面抵抗値の測定方法
高抵抗率計(三菱化学(株)製、商品名:Hiresta-Up MODEL MCP-HT450)を使用し、25℃、相対湿度40%の恒温恒湿室で、印加電圧を10Vとして、製造直後のコーティング膜の表面抵抗値(初期)Aを測定した。また、コーティング膜を製造してから10日間、25℃、相対湿度50%の環境下で保存し、その後のコーティング膜の表面抵抗値Aを測定した。
【0071】
<実施例2>
実施例1において、リン酸の代わりに1M硝酸水溶液を硝酸として0.2部となる量を用いた以外は実施例1と同様にして、酸化処理コーティング膜を作製し、その表面抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
<実施例3>
実施例1において、85質量%リン酸水溶液の添加量をリン酸として0.2部から1.7部に変更した以外は実施例1と同様にして、酸化処理コーティング膜を作製し、その表面抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
<実施例4>
メチルトリメトキシシラン(信越化学(株)製)52部、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製)55部、メタノール216部を混合した。この混合溶液に、水25部、および85質量%リン酸水溶液をリン酸として1.1部となる量を添加し、室温にて1日撹拌を継続した。その後、得られた溶液を用いて、実施例1と同様にして、酸化処理コーティング膜を作製し、その表面抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
<実施例5>
メチルトリメトキシシラン(信越化学(株)製)771部、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製)371部、およびメタノール148部を混合した。この混合溶液に、0.05N塩酸水79部とメタノール296部との混合溶液を、室温で、1時間かけて滴下した。この溶液を、70℃のメタノール還流下で、2時間熟成した後、該溶液に1質量%酢酸ソーダ−メタノール溶液75部を添加し、さらに同温で2時間熟成した。蛇管冷却器を備えたエステルアダプターを付け、オイルバスで加熱し、内温が120℃となるまで溶媒を留去し、シリコーンオリゴマーを得た。
このシリコーンオリゴマー100部に、85質量%リン酸水溶液をリン酸として1部となる量を添加し、30分振とうした。その後、得られた液状混合物を用いて、実施例1と同様にして、酸化処理コーティング膜を作製し、その表面抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
<比較例1>
テトラエトキシシラン(信越化学(株)製)89部とメタノール48部とを混合した。この混合溶液に水8部、および1M硝酸水溶液を硝酸として0.2部となる量を添加し、室温にて1時間撹拌を継続した。得られた混合溶液に、フェニルトリエトキシシラン(信越化学(株)製)38部とメタノール66部とを混合して添加し、約30分撹拌した。その後、この溶液に、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製)38部、メタノール110部および水27部を添加し、室温にて1日撹拌を継続した。得られた溶液を、ガラス板上にバーコーター(No.20)で塗布した。その後、ガラス板上の塗膜を80℃で1時間加熱して硬化させ、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿室で1日間静置し、コーティング膜を作製した。この膜の表面抵抗値を、上述の測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0076】
<比較例2>
比較例1で作製したコーティング膜を15質量%過酸化水素水中に14時間浸漬し、酸化処理し、その後、水洗し、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿室で、1日かけて風乾した。この酸化処理コーティング膜の表面抵抗値を、上述の測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0077】
<比較例3>
比較例2において、硝酸の代わりに85質量%リン酸水溶液をリン酸として0.2部となる量を用いた以外は比較例2と同様にして、酸化処理コーティング膜を作製し、その表面抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
注)
・表中の各成分の使用量の単位は「質量部」である。
・表中の「硝酸」は1M硝酸水溶液中の硝酸の量であり、「リン酸」は85質量%リン酸水溶液中のリン酸の量であり、「水」は1M硝酸水溶液またはリン酸水溶液中に含有される水以外の別添された水の量である。
【0080】
<評価>
比較例1から明らかなように、単にシラン化合物を逐次的に添加し、加水分解しただけでは表面抵抗値は1010Ωを超える。また、比較例2、3から明らかなように、酸化処理を行ってもメルカプトシランを後から添加した場合には、コーティング膜の製造直後(初期)は良好な表面抵抗値を示すが、製造から10日後には5倍以上の数値となり、経時的な変化が顕著である。
一方、本発明の請求項1または3の要件を満たす実施例では、コーティング膜の製造直後の表面抵抗値Aは8.0×10Ω以下と良好であり、またコーティング膜の製造から10日後の表面抵抗値Aも2.1×10Ω以下であり、製造直後の表面抵抗値Aと比べて多少変化するものの、その比A/Aは3以下であるから、経時的にも比較的安定である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)一般式(1):
Si(OR)4−m−n (1)
(式中、Rは非置換の一価炭化水素基であり、Rは置換の一価炭化水素基であり、Rは非置換または置換の炭素原子数1〜3のアルキル基であり、mは0〜2の整数であり、nは0または1であり、但し、m+nは1〜3の整数である)
で表されるメルカプト基を有しないシラン化合物Aおよび一般式(2):
HS−Y−Si(OR)3−p (2)
(式中、Yは非置換または置換の炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、RおよびRは独立に非置換または置換の炭素原子数1〜3のアルキル基であり、pは2または3である)
で表されるメルカプト基を有するシラン化合物Bを、反応系に供給し、共加水分解および重縮合を進行させて、オルガノポリシロキサンのゾル溶液を得る工程と、
(ii)該ゾル溶液を乾燥させて固化させて固化物を得る工程と、
(iii)該固化物のメルカプト基を酸化させる工程と
を含む方法によって得られるオルガノポリシロキサンからなる導電性シリコーン材料。
【請求項2】
前記シラン化合物Bの量が、前記シラン化合物A10質量部に対して、1〜10質量部である請求項1に係る導電性シリコーン材料。
【請求項3】
(I)平均組成式(3):
SiO{4−(q+r+s+t+u)}/2(OR)(OH) (3)
(式中、Rは非置換の一価炭化水素基であり、Rは置換の一価炭化水素基であり、Rは式:HS−Y−(式中、Yは非置換または置換の炭素原子数1〜5のアルキレン基である)で表されるメルカプト基を有する基であり、Rは非置換または置換の炭素原子数1〜6の一価炭化水素基であり、qは、0.5≦q≦1.8の数であり、rは0≦r≦1.0の数であり、sは0<s≦1.0の数であり、tは0<t≦1.0の数であり、uは0<u≦1.0の数であり、但し、0.5≦q+r+s≦1.8の数であり、0<t+u≦1.0の数であり、かつ0.5<q+r+s+t+u≦2.8の数である)
で表されるメルカプト基を有するシリコーンオリゴマーCに、酸、金属βジケトン錯体、またはこれらの混合物を混合し、液状混合物を得る工程と、
(II)該液状混合物を加熱して固化させて固化物を得る工程と、
(III)該固化物のメルカプト基を酸化させる工程と
を含む方法によって得られる導電性シリコーン材料。
【請求項4】
前記シリコーンオリゴマーCが、請求項1に記載のシラン化合物Aとシラン化合物Bとの共加水分解および重縮合によって得られる請求項3に係る導電性シリコーン材料。
【請求項5】
前記固化物のメルカプト基を酸化させる工程が、前記固化物と過酸化水素水とを接触させる段階を含む請求項1〜4のいずれか一項に係る導電性シリコーン材料。
【請求項6】
前記導電性シリコーン材料の製造直後の表面抵抗値Aと製造から10日経過後の表面抵抗値Aとの比A/Aが3以下である請求項1〜5のいずれか一項に係る導電性シリコーン材料。
【請求項7】
温度25℃、相対湿度40%の条件下で、10Vの電圧を印加して測定した表面抵抗値が1×10Ω未満である請求項1〜6のいずれか一項に係る導電性シリコーン材料。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の導電性シリコーン材料からなる導電性コーティング膜。

【公開番号】特開2006−131770(P2006−131770A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322800(P2004−322800)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】