説明

導電性シームレスベルト及び画像形成装置

【課題】従来の熱硬化性樹脂ベルトやゴム積層ベルトよりもコスト面でより好ましい方式である押出成形により製造された導電性シームレスベルトであって、耐久性、耐ローラ癖性、弾性率の3つの性能がいずれも優れた導電性シームレスベルトを提供する。
【解決手段】ポリアルキレンテレフタレート及び/又はポリアルキレンナフタレートを主成分とし、ポリエステルエラストマーを含む熱可塑性ポリマー成分と、導電剤とを加熱混合してなる成形材料を押出成形して得られるシームレスベルトに、電子線を照射してなる導電性シームレスベルトであって、電子線シームレスベルトするシームレスベルトのガラス転移温度が0℃以上60℃以下であり、該照射に、1回あたりの照射線量50kGy以上100kGy以下の条件で合計500kGy以上1500kGy以下の電子線を照射したことを特徴とする導電性シームレスベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスベルト及び該シームレスベルトを用いた、電子写真式複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ機等に利用される中間転写ベルト、搬送転写ベルト、感光体ベルト等の画像形成装置用ベルト等として有用な導電性シームレスベルトと、この導電性シームレスベルトを含む画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器等などの画像形成装置における画像形成方式としては、感光体からなる像担持体表面に形成したトナー像を、紙などの記録媒体へ転写する前に転写部材に1次転写し、その後、記録媒体に2次転写する中間転写方式や、紙などの記録媒体を転写部材により搬送し、記録媒体に転写する紙搬送方式などが知られている。転写部材としては、継ぎ目の有無に関わらず感光体ベルト、中間転写ベルト、紙搬送転写ベルト、転写分離ベルト、帯電チューブ、現像スリーブ、定着用ベルト、トナー転写ベルト等の導電性、半導電性、絶縁性の各種電気抵抗に制御したシームレスベルト(エンドレスベルト)が用いられている。
【0003】
例えば、電子写真方式に用いられる中間転写装置は、中間転写体上にトナー像を一旦形成し、次に紙等へトナーを転写させるように構成されている。この中間転写体の表層におけるトナーへの帯電、除電のためにシームレスベルトよりなるエンドレスベルトが用いられている。このシームレスベルトは、マシーンの機種毎に異なった表面電気抵抗や厚み方向電気抵抗(以下「体積電気抵抗」という)に設定され、導電、半導電、又は絶縁性に調整されている。
【0004】
また、紙搬送転写装置は、紙を一旦搬送転写体上に保持した上で感光体からのトナーを搬送転写体上に保持した紙上へ転写させ、更に除電により紙を搬送転写体より離すように構成されている。この搬送転写体表層においては紙への帯電、除電のためにシーム有り、無しのエンドレスベルトが用いられている。このエンドレスベルトは、上記中間転写ベルトと同様にマシーン機種毎に異なった表面電気抵抗や体積電気抵抗に設定されている。
【0005】
図1は一般的な中間転写装置の側面図である。図中、1は感光ドラム、6は導電性エンドレスベルトである。1の感光ドラムの周囲には、帯電器2、半導体レーザー等を光源とする露光光学系3、トナーが収納されている現像器4及び残留トナーを除去するためのクリーナー5よりなる電子写真プロセスユニットが配置されている。導電性エンドレスベルト6は、搬送ローラ7,8,9に掛け渡されて、矢印方向に回転する感光ドラムと同調して矢印方向に移動するようになっている。
【0006】
次に、動作について説明する。まず矢印A方向に回転する感光ドラム1の表面を帯電器2により一様に帯電する。次に、光学系3により図示しない画像読み取り装置等で得られた画像に対応する静電潜像を感光ドラム1上に形成する。静電潜像は現像器4でトナー像に現像される。このトナー像を、静電転写機10により導電性エンドレスベルト6へ静電転写し、搬送ローラ9と押圧ローラ12の間で記録紙11に転写する。
【0007】
ところで、電子写真式複写機、プリンタ等の画像形成装置に用いられる導電性エンドレスベルトの場合には、機能上2本以上のロールにより高張力で高電圧にて長時間駆動されるため、十分な機械的、電気的耐久性が要求される。
【0008】
特に、中間転写装置等に使用される中間転写ベルトの場合は、ベルト上でトナーによる画像を形成して紙へ転写するため、駆動中にベルトが弛んだり、伸びたり、蛇行したりすると、画像ズレの原因となるため、高寸法精度(ベルト幅方向の周長差が少ないことと厚みが均一であること)、高弾性率(ベルト周方向の引張り弾性率が高いこと)、高耐屈曲性(割れにくいこと)に優れたものが望まれている。
【0009】
また、近年カラーレーザプリンタやカラーLEDプリンタ等の電子写真式画像形成装置は、低価格なインクジェット方式の画像形成装置との競争が一層激しくなっている。そのため、電子写真式画像形成装置は、高速での印刷技術でインクジェット方式との差異化を狙い、感光体を4つ並べたタンデム型の紙搬送転写、中間転写方式により高速で印刷する画像形成装置が商品化されてきた。このため、画像形成装置用エンドレスベルトには、より一層の耐久性の向上と画像ズレ防止が益々重要となってきている。
【0010】
従来、エンドレスベルトについては、その素材の改良により一定の成果を上げてきている。しかしながら、最近では、高速印刷のみならず、画質の向上への要求も高まってきており、特に、広範囲な温度湿度の環境において、高画質な画像が得られること、カラープリンタ用の特殊な紙だけではなく、上質紙、再生紙、裏紙、OHPフィルムといった様々な用紙においても高画質が得られることがインクジェットプリンタとの差異化のために特に重要になってきている。
【0011】
そのため、トナーにおいては重合トナーの開発も進み、平均粒径として4〜6μmの小粒径で粒径ばらつきの少ないトナーが商品化されており、転写ベルトへの表面特性、化学特性、電気特性への改良要求も益々高まってきている。
【0012】
特に、中間転写装置等に使用される転写ベルトの場合は、感光体上のトナーを静電気力にて直接転写ベルト上に転写(一次転写)し、転写ベルト上でカラー画像を合成した後トナーを紙へ静電力で転写(二次転写)させるため、転写ベルトの表面電気抵抗や体積電気抵抗特性といった電気抵抗特性が重要であるだけでなく、物理的表面特性等においても改良する必要がある。
【0013】
例えば、近年益々小型化しているカラープリンタ、複写機は、転写ベルトと定着熱源との配置位置が近く、転写ベルトはローラに張架された状態で定着熱源の高熱にさらされやすいため、転写ベルト表面にローラの跡が残り、画像へ悪影響を起こしやすい。このローラの癖が残りにくい、すなわち、ローラ癖復元率が高い転写ベルトが必要とされている。
【0014】
また、2次転写後に転写ベルト上に残存したトナーをクリーニングブレードで清掃する際に、トナー表面に付着しているシリカ粒子、チタン粒子で転写ベルト表面が削られることにより画像へ悪影響が出るため、高弾性で表面硬度が高い転写ベルトが必要とされている。
【0015】
そこで、従来から耐折性、ローラ癖復元率(耐ローラ癖性)、表面硬度、弾性率を個々に向上すべく、シームレスベルトの機械的物性、熱的物性改質のために以下の技術が提案されている。
(1) シームレスベルトに結晶性熱可塑性樹脂と非晶性熱可塑性樹脂のポリマーアロイ(具体的にはPBT(ポリブチレンテレフタレート)/PC(ポリカーボネート)アロイ)を用いる(特許第3671840号公報)
(2) シームレスベルトにエラストマーを用いる(特開2005−309227号公報)
(3) シームレスベルトにガラス転移温度が高いポリマーを用いる(特開2005−266760号公報)
(4) シームレスベルトに電子線架橋を行う(特許第3821600号公報、特開2007−65587号公報)
【0016】
特許第3671840号公報のように、シームレスベルトに結晶性熱可塑性樹脂と非晶性熱可塑性樹脂のポリマーアロイを用いた場合、相溶性が増すほど非晶部の割合が増えるため、耐折性は増すが、耐ローラ癖性は悪化する傾向にあり、好ましくない。
【0017】
また、特開2005−309227号公報のように、シームレスベルトにエラストマーを用いた場合、エラストマーは室温付近〜室温以下にガラス転移温度を持つため、プリンターが使用される室温〜60℃の温度条件ではゴム状態となって柔らかくなるので、耐折性と耐ローラ癖性は良いが、弾性率が低く、削れ易いため、好ましくない。
【0018】
また、特開2005−266760号公報のように、シームレスベルトにポリブチレンナフタレートのようなガラス転移温度が60℃以上で高結晶化度の樹脂を用いた場合、弾性率は高いが、耐ローラ癖性は結晶化度によって良い場合と悪い場合があり、また、耐折性は低く、好ましくない。なお、ポリブチレンナフタレートのようなガラス転移温度が高い樹脂は融点も高いため、成形温度が高いことによる成形時のポリマーの酸化劣化が起こりやすく、耐折性が低下する可能性が高い。また、耐折性を上げるために、ポリブチレンナフタレートのようなガラス転移温度が60℃よりも高い樹脂に、ポリブチレンテレフタレートやエラストマーのようなガラス転移温度が60℃以下と低い樹脂をブレンドする手法では、ブレンド物全体のガラス転移温度が下がるため耐折性が上昇するが、弾性率が悪化するために好ましくない。
また、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのようなガラス転移温度が60℃以上で結晶化度が低い樹脂を用いた場合、弾性率は高いが、耐ローラ癖性と耐折性が悪いため好ましくない。
【0019】
また、特許第3821600号公報のように、芳香族エラストマーを主鎖に持つエラストマー製シームレスベルトに架橋剤無しで20〜100KGyの照射線量で電子線架橋を行った場合、架橋が進行し難く、目標とする弾性率のポリマーを得ることができない場合が多い。また、エラストマーが主成分であると、架橋前のガラス転移温度が0℃未満となり、架橋剤を配合するなどして架橋を進行できたとしても、目標とする弾性率のポリマーは得られにくい。また、目標とする弾性率のポリマーが得られたとしても、架橋前後での架橋度合いの変化が大きすぎるため、ポリマーの周長収縮率が大きくなり、寸法精度が悪くなる。また、収縮により電気抵抗値が変化するために好ましくない。
【0020】
また、特開2007−65587号公報のように、架橋前のガラス転移温度が60℃よりも高いポリマーに電子線架橋を行ったとしても、架橋前に目標とする弾性率を満たしているポリマーに電子線架橋を行い、弾性率を高めることになるため、耐折性が低下し、好ましくない。また、耐折性が低下しなかったとしても、電子線架橋では多少の収縮が起こるため、収縮によりシームレスベルトにクラックが生じてしまい、好ましくない。即ち、この特開2007−65587号公報では、シームレスベルトに電子線を照射する際、金属製の円筒体をベルト内に挿入し、この円筒体を回転させながら、ベルト表面に対し電子線照射を行っているが、ポリマーの電子線照射は収縮を伴うため、このようにシームレスベルトを金属製の円筒体に挿入して電子線照射を行うと、シームレスベルトにクラックが生じてしまい、好ましくない。
【0021】
また、概してこれらのPBT/PCアロイのような相溶性樹脂、芳香族エラストマー、ガラス転移温度が高い樹脂、或いは、ポリエステルエラストマーに対して、照射線量20〜100KGy程度の電子線を照射して行う電子線架橋では、耐久性、耐ローラ癖性、弾性率のいずれか1つ、または2つは改良されるが、3つの性能を合わせ持ったシームレスベルトを提供することは難しい。このため、これら耐久性、耐ローラ癖性、弾性率の3性能を合わせ持つシームレスベルトを開発することが望まれているのが現状である。
【0022】
なお、従来において、ポリマーに対する電子線照射に関してはいくつかの提案がなされているが、PBTのように分子内に芳香環を有しているポリマーは電子線照射時の電子をベンゼン環で共役させてしまうため、電子線架橋が進行しにくいとされている。例えば、特開昭57−212216号公報では、PBTに架橋剤を添加して10、20、又は30MRad(100、200、300kGyに相当)の条件で電子線照射すると、はんだ浴中で溶融しないPBTが得られると報告されている。しかし、本発明で目的とするような、静電吸着により保持した記録媒体を、駆動部材により循環駆動されて、画像形成体に搬送し、各トナー像を該記録媒体に転写する転写、搬送用導電性シームレスベルト用途においては、たとえ架橋剤を配合しても、100〜300kGy程度の電子線照射条件では目的とする弾性率を得ることはできない。また、1000kGy程度の高照射条件では、ポリマーの発熱を伴うため、シームレスベルト表面が変形してしまい好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許第3671840号公報
【特許文献2】特開2005−309227号公報
【特許文献3】特開2005−266760号公報
【特許文献4】特許第3821600号公報
【特許文献5】特開2007−65587号公報
【特許文献6】特開昭57−212216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、従来の熱硬化性樹脂ベルトやゴム積層ベルトよりもコスト面でより好ましい方式である押出成形により製造される導電性シームレスベルトであって、耐久性、耐ローラ癖性、弾性率の3つの性能がいずれも優れた導電性シームレスベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、電子線を照射するポリマーのガラス転移温度と電子線照射条件を制御することにより、耐久性、耐ローラ癖性、弾性率の3物性を調整することができること、即ち、特定のガラス転移温度のポリマーに制御された状態で電子線を照射して適度に電子線架橋することにより、ガラス転移温度以上でのポリマーの非晶部の運動性を適度に拘束することで耐久性と耐ローラ癖性を損なうことなく、弾性率を向上させることができることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0026】
本発明(請求項1)の導電性シームレスベルトは、ポリアルキレンテレフタレート及び/又はポリアルキレンナフタレートを主成分とし、ポリエステルエラストマーを含む熱可塑性ポリマー成分と、導電剤とを加熱混合してなる成形材料を押出成形して得られるシームレスベルトに、電子線を照射してなる導電性シームレスベルトであって、電子線照射するシームレスベルトのガラス転移温度が0℃以上60℃以下であり、該シームレスベルトに、1回あたりの照射線量50kGy以上100kGy以下の条件で合計500kGy以上1500kGy以下の電子線を照射したことを特徴とする。
【0027】
請求項2の導電性シームレスベルトは、請求項1において、前記成形材料に、前記熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.01〜5.0重量部の架橋剤が配合されていることを特徴とする。
【0028】
請求項3の導電性シームレスベルトは、請求項2において、前記架橋剤は、前記加熱混合される原料のうちの粉体成分に含浸させて配合されることを特徴とする。
【0029】
請求項4の導電性シームレスベルトは、請求項2又は3において、前記架橋剤がアリル系多官能モノマーであることを特徴とする。
【0030】
請求項5の導電性シームレスベルトは、請求項1ないし4のいずれか1項において、画像形成装置用ベルトであることを特徴とする。
【0031】
本発明(請求項6)の画像形成装置は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルトを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高耐折性で、ローラ癖復元率に優れ、しかも高弾性率の導電性シームレスベルトを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一般的な中間転写装置の側面図である。
【図2】ガラス転移温度の測定チャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の導電性シームレスベルト及び画像形成装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0035】
本発明においては、ポリアルキレンテレフタレート(PAT)及び/又はポリアルキレンナフタレート(PAN)を主成分とし、ポリエステルエラストマー(TPEE)を含む熱可塑性ポリマー成分と、導電剤とを加熱混合してなる成形材料を押出成形して得られる特定のガラス転移温度のシームレスベルトに、特定の条件で電子線を照射して電子線架橋を行う。
【0036】
一般的に、樹脂に対する電子線架橋において照射される電子線量は20kGy以上300kGy以下が好ましく、300kGyを超えるとポリマーの崩壊が優先したり、架橋が頭打ちになるため好ましくないとされている。また、ガラス転移温度を0℃以上に持つPATやPANは、ポリマー鎖中の芳香環含有割合が大きいため電子線架橋が進行しにくい。しかし、本発明においては、PAT及び/又はPANにTPEEをポリマーブレンドして芳香環の割合を下げ、また、1回あたりの電子線量50kGy以上100kGy以下の条件で、合計の電子線量が500kGy以上1500kGy以下となるように、電子線を複数回照射することにより、ポリマーの崩壊を伴わずに電子線架橋を進行させ、目的とする弾性率のシームレスベルトを得る。この結果、画像形成装置用ベルトとしてのシームレスベルトの要求特性である耐久性、耐ローラ癖性、弾性率のすべてにおいて優れたシームレスベルトを得ることができる。
【0037】
なお、本発明における成形材料には、熱可塑性ポリマー成分及び導電剤の他、架橋剤を含むことが好ましく、また、要求性能に応じて、酸化防止剤やその他の成分が配合されていてもよい。
【0038】
[熱可塑性ポリマー成分]
本発明に係る熱可塑性ポリマー成分は、PAT及び/又はPANを主成分とし、さらにTPEEを含むものである。
【0039】
ポリアルキレンテレフタレート(PAT)としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等を好適に用いることができる。これらの樹脂は市場で容易に入手可能であり、PBTとしては例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ノバデュラン 5050cs」、PETとしては例えば、三菱化学(株)製の「ノバペックス GM700Z」等を用いることができる。
【0040】
また、ポリアルキレンナフタレート(PAN)としては、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等を好適に用いることができる。これらの樹脂は市場で容易に入手可能であり、PBNとしては例えば、帝人化成(株)製の「TQB−OT」、PENとしては例えば、帝人化成(株)製の「テオネックス TN8065S」等を用いることができる。
【0041】
これらのうち、特にPBTやPBNは、結晶化度が他のPATやPANに比べて30%程度高いので、結晶化度が低い例えばPETやPENを用いた場合よりも、得られるシームレスベルトのローラ癖復元率が高くなり好ましい。
【0042】
ポリエステルエラストマー(TPEE)としては、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエステルを用いたポリエステル−ポリエステルエラストマー型のもの、並びにハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテルを用いたポリエステル−ポリエーテル型のものを好適に用いることができる。これらのエラストマーは市場で容易に入手可能であり、ポリエステル−ポリエステルエラストマーとしては例えば東洋紡(株)の「ペルプレンS3001」、「ペルプレンEN3000」等を、ポリエステル−ポリエーテルエラストマーとしては例えば東洋紡(株)製の「ペルプレンP150B」等を用いることができる。これらのエラストマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
熱可塑性ポリマー成分中のPAT及び/又はPANとTPEEとの割合は、使用目的に応じて設定することができるが、TPEEが多すぎると、電子線照射前後でのシームレスベルトの周長変化、電気抵抗値変化が大きくなるため、PAT及び/又はPANを主成分とする必要があり、(PAT及び/又はPAN)/TPEEの重量比率は50/50〜95/05、特に60/40〜80/20であることが好ましい。
【0044】
[導電剤]
導電剤としては、用途に要求される性能を満たすものであれば特に制限はなく、各種のものを用いることができ、具体的には、導電性フィラーとして、カーボンブラックやカーボンファイバー、グラファイトなどのカーボン系フィラー、金属系導電性フィラー、金属酸化物系導電性フィラーなどが用いられ、導電性フィラーの他には、イオン導電性物質、例えば四級アンモニウム塩等が例示されるが、これらの導電剤の中でも、カーボンブラックを用いることが電気抵抗率の湿度依存性が小さくなる傾向にあるため好ましい。カーボンブラックはイオン導電性物質と併用して用いても良い。
導電性フィラーであるカーボンブラックは、シームレスベルトにした際の機械特性、電気特性、寸法特性、化学特性を考慮して混合される。
【0045】
カーボンブラック等の導電剤の配合量は、熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して、10〜30重量部、特に12〜17重量部とすることが好ましい。即ち、カーボンブラック等の導電剤の配合量は用いる導電剤の種類、シームレスベルトに要求される導電性の程度によっても異なるが、その配合量が少な過ぎると導電性が発現されなかったり、カーボンブラック等の導電剤の分散状態が粗くなり電気抵抗率がばらつきやすくなったりし、また、接触抵抗が大きく環境に左右されるようになり、画像形成装置に搭載した場合、環境によっては画像異常を発生させる場合がある。逆に、導電剤の配合量が多すぎるとシームレスベルトの剛性が上がり、耐久性が損なわれたり、成形性が損なわれたりするため好ましくない。
【0046】
なお、カーボンブラックは粉体品、もしくは粒状品であることが好ましく、また粉体は均一であることが好ましい。また事前にシリコーン処理を施したカーボンブラックを用いてもよい。
【0047】
[架橋剤]
本発明において、電子線架橋は、架橋剤を用いなくても、電子線の照射条件を適度なものとすることにより進行させることができるが、電子線架橋を効率的に進行させるために架橋剤を用いてもよい。架橋剤としては、電子線の照射により熱可塑性ポリマー成分の架橋反応を発現させうるものであれば特に制限されるものではないが、好適にはアリル系多官能モノマーが用いられる。かかるアリル系多官能モノマーとしては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレートなどの1種又は2種以上が挙げられ、中でもTAICは好適に用いることができる。アリル系多官モノマーの中でもエポキシ基、グリシジル基を持つものは混練、押出成形時の熱で熱架橋してしまうため好ましくない。
【0048】
架橋剤の配合量は、熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して5.0重量部以下、例えば、0.01〜5.0重量部とすることが好ましい。
架橋剤の配合量が少な過ぎると、架橋剤を用いたことによる電子線架橋の促進効果を十分に得ることができず、多過ぎると架橋剤の分散不良で、得られるシームレスベルトの表面性状が悪くなり、また、弾性率も低下し、好ましくない。
【0049】
[付加的配合材(任意成分)]
本発明に係る成形材料には、各種目的に応じて任意の配合成分を配合することができる。
【0050】
具体的には、イルガホス168,イルガノックス1010,リン系酸化防止剤などの酸化防止剤、熱安定剤、各種可塑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋助剤、着色剤、難燃剤、分散剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0051】
特に、酸化防止剤の添加により、熱劣化による耐折性の低下を防ぐことができるが、添加しなくても目標とする耐折回数を満たすこともできる。
酸化防止剤を添加する場合、その配合量は、成形材料中の熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.01〜5.0重量部程度とすることが好ましい。
【0052】
[加熱混合方法]
本発明においては熱可塑性ポリマー成分と、カーボンブラック等の導電剤とを加熱混合して樹脂組成物とした後にシームレスベルトを成形してもよく、熱可塑性ポリマー成分とカーボンブラック等の導電剤を加熱混合してそのままシームレスベルトを成形してもよい。
【0053】
加熱混合手段にも特に制限はなく公知の技術を用いることができる。例えば、まず熱可塑性ポリマー成分、カーボンブラック等の導電剤、及び必要に応じて配合されるその他の添加成分を加熱混合して樹脂組成物とするのであれば、一軸押出機、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、プラストグラフ、ニーダーなどを用いることができるが、特に二軸混練押出機が好ましい。
【0054】
なお、この加熱混合に当たり、前述の架橋剤は通常液状であるため、加熱混合時の揮発を防ぐために、予め粉砕したポリマー成分やカーボンブラック等の導電剤といった粉体成分に含浸させて混合することが好ましい。
【0055】
[押出成形方法]
本発明のシームレスベルトを成形するための押出成形方法については、特に限定されるものではないが、特に望ましいのは、連続溶融押出成形法である。特に押し出したチューブの内径を高精度で制御可能な下方押出方式の内部冷却マンドレル方式あるいはバキュームサイジング方式が好ましく、内部冷却マンドレル方式が最も好ましい。
【0056】
[シームレスベルトのガラス転移温度]
本発明においては、このようにして、熱可塑性ポリマー成分、カーボンブラック等の導電剤及び架橋剤等の必要に応じて配合されるその他の成分を加熱混合し、押出成形して得られるシームレスベルトのガラス転移温度が0℃以上60℃以下であることを特徴とする。
【0057】
本発明におけるガラス転移温度とは、PAT及び/又はPANを主成分とするTPEEとのポリマーブレンドである熱可塑性ポリマー成分にカーボンブラック等の導電剤と必要に応じて配合される架橋剤、その他の成分を配合し、加熱混合、押出成形して得られる電子線照射前のシームレスベルトのガラス転移温度であり、原料とするPAT、PAN、TPEE自体はガラス転移温度が0〜60℃の範囲外であってもよい。
【0058】
なお、このシームレスベルトのガラス転移温度とは、後掲の実施例の項で説明するように、ティーエイインスツルメント製の動的粘弾性測定装置「RSAIII」を用いて、周波数10.0Hz、2℃/分の昇温速度、引っ張りひずみ0.05%の条件でのtanδのα分散のピーク温度をさす。
【0059】
本発明において、電子線照射前のシームレスベルトのガラス転移温度が0℃未満の場合、電子線照射による架橋前の弾性率が低くなるため、電子線架橋を行っても、目標とする弾性率まで到達しにくく、好ましくない。また、目標とする弾性率に到達したとしても、架橋前後での周長変化が大きいことによる電気抵抗値変化が大きくなるために好ましくない。
また、この電子線照射前のシームレスベルトのガラス転移温度が60℃を超える場合、プリンターの使用温度である室温〜60℃でのポリマーの運動性が制限されてしまい、耐折性が低下するため好ましくない。また、ガラス転移温度が60℃以下でも結晶化度が10%程度と低い場合は、耐折性は高くなるが耐ローラ癖性が悪くなるため好ましくない。また、ガラス転移温度が60℃以下で耐折性と耐ローラ癖性を満たすPAT、PANを実現できたとしても、ガラス転移温度が60℃を超えるということはポリマー鎖中のベンゼン環、またはナフタレン環等の芳香族環含有量が高いということになり、電子線照射による架橋効果が得られにくい。
【0060】
電子線照射前のシームレスベルトのより好ましいガラス転移温度は30〜60℃であり、また結晶化度は20〜60%である。なお、結晶化度には様々な測定方法があるが、例えば乾式密度計を用いて測定したシームレスベルトの密度と、文献値から得た各使用ポリマーの100%結晶化度の場合の理論密度値を用いて、その比から概略値を計算できる。
【0061】
本発明において、電子線照射前のシームレスベルトのガラス転移温度は0〜60℃であり、好ましくは30〜60℃であるが、このシームレスベルトのガラス転移温度は、ポリマーの選択、または配合比を制御することによって調整することができる。すなわち、熱可塑性ポリマー成分の芳香環含有割合を多くしたり、熱可塑性ポリマー成分中のPAT及び/又はPANの配合割合を多くしたりすれば、電子線照射前のシームレスベルトのガラス転移温度は高くなる。逆に、熱可塑性ポリマー成分中の芳香環の含有割合を少なくしたり、熱可塑性ポリマー成分中のPAT及び/又はPANの配合割合を少なくしたりすれば、電子線照射前のシームレスベルトのガラス転移温度は高くなる。
【0062】
[電子線照射]
本発明においては、上述の特定のガラス転移温度のシームレスベルトに対して1回あたり50kGy以上100kGy以下の照射線量の電子線を、合計の照射線量が500kGy以上1500kGy以下となるように電子線の照射を行って電子線架橋する。
【0063】
ここで、1回あたりの照射線量が50kGy未満であると、電子線架橋を十分に進行させるための照射回数を多く必要とし、好ましくなく、100kGyを超えると電子線照射でシームレスベルトが劣化するおそれがあり好ましくない。
【0064】
また、合計の照射線量が500kGy未満では電子線架橋が十分に進行せず、目的とする弾性率を得ることはできない。照射線量が1500kGyを越えると電子線照射でシームレスベルトが劣化するおそれがある。
【0065】
特に好ましい照射条件は、1回あたりの照射線量50〜70kGyの電子線照射を繰り返し10〜20回行って、合計の照射線量が500〜1400kGyとなるようにするものである。
【0066】
なお、ここで電子線照射に際しては、電子線の照射装置に対してシームレスベルトを支持する円筒を回転させるなどして、シームレスベルト全体に均一に電子線が照射されて均一な電子線架橋が進行するようにすることが好ましい。
また、シームレスベルトが電子線架橋時に収縮しても内部に挿入した金属製の支持円筒などによる張力が原因クラックが生じることがないように、シームレスベルトの内部に収縮分の空隙(空気層)を設けて支持円筒に取り付けることが好ましい。
【0067】
なお、電子線照射により、シームレスベルトのガラス転移温度が上昇する。本発明においては、ガラス転移温度0〜60℃のシームレスベルトに上述の条件で電子線を照射して、ガラス転移温度が30〜80℃で、電子線照射前後のガラス転移温度の差が3〜40℃である導電性シームレスベルトを得ることが、電気抵抗値制御、周長制御の点で好ましい。
また、電子線の照射で後述の表面抵抗値が変化するが、後掲の実施例の項に記載される表面抵抗値変化率は0.5〜2.0であることが好ましい。
【0068】
[導電性シームレスベルト]
本発明によれば、以下のような物性を有する導電性シームレスベルトを得ることができる。
【0069】
<耐折性>
本発明の導電性シームレスベルトを例えば中間転写ベルトとして画像形成装置に用いる場合には、耐折性が悪いとクラックが発生して画像が得られなくなるので、耐折性に優れることが望まれる。
耐折性の程度は、JIS P−8115の耐折回数の測定方法に従うことで定量的に評価でき、耐折回数の大きいシームレスベルトほどクラックが入りにくく、耐屈曲性に優れていると判断することができる。
具体的な数値としては、後掲の実施例の項に記載される測定方法で測定された耐折回数が10000回以上であることが好ましく、100000回以上であることが特に好ましい。
なお、後掲の実施例においては、実際にプリンター内でローラに張架、回転されて使用される場合の条件に近づけるために、使用するチャックの回転半径(R)は3.0mmとした。
【0070】
<ローラ癖復元率>
本発明の導電性シームレスベルトを例えば中間転写ベルトとして画像形成装置に用いる場合には、プリンター内でローラに張架された状態で60℃程度の高温下にさられた際に、シームレスベルトにローラの跡(ローラ癖)が着くと、画像に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
このため、温度23℃、湿度50%の条件で24時間以上状態調整したシームレスベルトを15mm幅、44mm長さに切り取り、この試験片を、直径14mmのローラに、試験片長さ方向がローラの周方向となるようにセロハンテープ等で固定し、温度60℃、湿度95%の恒温恒湿層に2時間放置後、温度23℃、湿度50%の環境下に24時間放置した後、試験片をローラから開放し、温度23℃、湿度50%で2時間放置した際の試験片の開口幅L(ローラにより断面略C字形に癖付けされた試験片の開口部の幅)から以下の式で求めた値をローラ癖復元率(%)とする。この値は40%以上であることが好ましい。
ローラ癖復元率(%)={開口幅L(mm)/試験片長44(mm)}×100
【0071】
<結晶化度>
上述のローラ癖試験温度下での結晶化度の変化が小さいポリマーほどローラ癖復元率が高い傾向にある。一般的に結晶化度の高いポリマーほどローラ癖試験温度下での結晶化度の変化が小さい。結晶化度が高すぎても耐折回数が低くなる。
このようなことから、熱可塑性ポリマー成分のPAT,PANとしては、一般的に結晶化度が高いとされるPBTやPBNの方が、一般的に結晶化度が低いとされるPETやPENよりも好ましく用いることができる。
【0072】
<引張弾性率>
本発明の導電性シームレスベルトを例えば中間転写ベルトとして画像形成装置に用いる場合には、シームレスベルトの引張弾性率が低いと、表面硬度が低くなり、トナーに含まれるシリカ成分などによって転写ベルトの表面が削られ、画像不良の原因となることがあるため、引張弾性率は高い方が好ましい。
このため、ISO R1184−1970に準拠して、本発明のシームレスベルトから切り取った幅15mm、長さ150mmの試験片について、引張速度1mm/min、つかみ具距離100mmとして測定した引張弾性率の数値として1800MPa以上であることが好ましい。
【0073】
<微小硬度>
本発明の導電性シームレスベルトを例えば中間転写ベルトとして画像形成装置に用いる場合には、シームレスベルトの微小硬度が低いと、転写ベルト表面が削られ、画像不良の原因となることがある。また、微小硬度が低いとトナーが中間転写ベルトの表面に埋没しやすくなり、2次転写性が悪くなるため、画像不良の原因となることがある。一方で、微小硬度が高すぎると、クラックが発生しやすくなり、シームレスベルトの機械的寿命が短くなるので好ましくない。
このため、本発明の導電性シームレスベルトの微小硬度の程度はフィッシャースコープ製の微小硬度計HM2000を用いて、押し込み荷重2.5mN、押し込み時間27秒の条件で測定したHUpl(ユニバーサル硬度の塑性硬さ)の値で200N/mm以上400N/mm以下であることが好ましい。
【0074】
<クリープひずみ>
本発明の導電性シームレスベルトを例えば中間転写ベルトとして画像形成装置に用いる場合には、シームレスベルトのクリープひずみが大きいと、転写ベルトに伸びが生じるために、寸法精度が悪くなり、画像不良の原因となることがある。
このため、クリープひずみの程度は、後掲の実施例の項に示されるように、幅20mm、チャック間長さ100mm、厚み100μmのサンプルについて60℃の温度条件で600gの荷重をかけた40秒後の伸び長さから計算した値として0.05%以下であることが好ましい。
【0075】
<表面抵抗値>
本発明の導電性シームレスベルトの抵抗領域は、その使用目的により異なるが、表面抵抗値1×10〜1×1016Ω/□の範囲から選定することが好ましい。
ここで、シームレスベルトの表面抵抗値は例えば三菱化学アナリテック(株)製ハイレスタなどにより測定することができる。表面抵抗値の測定方法の詳細は後掲の実施例の項に示す。
【0076】
<シームレスベルトの厚み>
本発明の導電性シームレスベルトの厚みは60〜150μmであることが好ましく、この範囲内において、使用目的に応じて適宜決定される。
【0077】
[導電性シームレスベルトの用途]
本発明の導電性シームレスベルトは、電子写真式複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ機等の画像形成装置に中間転写ベルト、搬送転写ベルト、感光体ベルトなどとして用いられる。本発明の導電性シームレスベルトはそのままベルトとして使用しても良いし、ドラムあるいはロール等に巻き付けて使用しても良い。
更に蛇行防止や端面補強等の目的のために、所定の寸法のシームレスベルトの内側及び/又は外側端部近傍に耐熱テープを貼り付けたり、或いはウレタンゴムやシリコンゴム等のテープをベルト内側の端部近傍に貼り合わせて用いても良い。
【実施例】
【0078】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果を示す。
【0079】
[原料]
原料は下記のものを用い、配合割合は表1,2の通りとした。
・PBT:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製
「ノバデュラン 5050CS」
・PBN:帝人化成(株)製「TQB−OT」
・PET:三菱化学(株)製「ノバペックス GM700Z」
・PEN:帝人化成(株)製「テオネックス TN8065S」
・ポリエステルエラストマー(TPEE):東洋紡積(株)製「ペルプレンS3001」
・ポリエステルエラストマー(TPEE):東洋紡積(株)製「ペルプレンP150B」
・ポリエステルエラストマー(TPEE):東洋紡積(株)製「ペルプレンEN3000」
・カーボンブラック:電気化学(株)製アセチレンブラック「デンカブラック粒状」
・酸化防止剤:クラリアントジャパン(株)製「PEPQ」
・架橋剤:日本化成(株)製「TAIC」(トリアリルイソシアヌレート)
・架橋剤:四国化成(株)製「DA−MGIC」
(ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸)
【0080】
[加熱混練]
各原料を、二軸混練押出機(IKG(株)製 PMT32)を用いて材料ペレット化した。架橋剤「TAIC」は沸点144℃程度の液体であり、混練時に液状で添加すると揮発しやすいので、カーボンブラックに予め含浸させてから配合、混練を行った。
該押出機はL/D=32、2ベント式、各々のベントより原料投入側にニーディングを配し、ポリマーの吐出量は14kg/hrとし、シリンダーの温度はホッパーに一番近いシリンダーから原料投入側のベントがついたシリンダーまでを250℃、それ以外を200℃とし、回転数は140rpmで実施し、吐出された溶融ポリマーをストランド状にして水槽を通過させた後、ペレタイズして所定の大きさのペレットを作成した。
【0081】
[押出成形]
上記ペレットを130℃で6時間乾燥し、直径184mm、ダイスリップ幅1.0mmの6条スパイラル型環状ダイつき40mmφの押出機により、環状ダイ下方に溶融チューブ状態で押し出し、押出した溶融チューブを、環状ダイと同一軸線上に支持棒を介して装着した冷却マンドレルの外表面(温度90℃)に接触させて冷却固化させつつ、次に、シームレスベルトの中に設置されている円筒形の中子と外側に設置されている4点式ベルト引取機により、シームレスベルトを円筒形に保持した状態で引き取りつつ、300mmの長さで輪切りにして、厚み100μm、表面抵抗値が1×10〜1×1013Ω/□になるように押出し量と引き取り速度、押出温度を調整して、シリンダー温度及びダイス温度240℃で、シームレスベルトを成形した。
【0082】
[電子線照射]
(株)NHVコーポレーション製の電子線照射装置EPS−750kVを用いて表1,2に示す照射条件で電子線照射を行った。表中、単位照射線量は1回あたりの照射線量であり、総照射線量は合計照射線量である。なお、電子線の照射には、幅120cm、長さ80cmの金属板上を、120cmの照射幅、1.2m/minの照射速度で往復照射し、片道1回の照射回数を照射回数とした。また、シームレスベルトは金属製の円筒の外周に支持して、装置の金属板上に平行に設置し、合計照射回数の4分の1回毎に周長の4分の1ずつ手動で回転させることにより、シームレスベルト全体に均一に電子線架橋が進行するようにした。
また、シームレスベルトが架橋時に収縮しても内部に挿入した金属製の円筒などが原因でクラックが生じることのないように、シームレスベルトの内側には収縮分の空隙(空気層)を設けて円筒に支持させた。
【0083】
[評価]
評価は必要に応じ、シームレスベルトを必要な大きさに切り開いて実施した。
【0084】
<ガラス転移温度>
ティーエイインスツルメント製の動的粘弾性測定装置「RSAIII」を用いて、電子線照射前後のシームレスベルトについて、周波数10.0Hz、2℃/分の昇温速度、引っ張りひずみ0.05%の条件で測定したtanδのピーク温度をガラス転移温度とした。この測定チャートを図2に示す。
【0085】
<耐折回数>
JIS P−8115に準拠し、電子線照射後のシームレスベルトから幅15mm、長さ100mmの大きさに切り取った試験片について、MIT試験機にて折り曲げ速度175回/分、回転角度135°左右、引っ張り荷重1.0kgfの条件、チャック間距離50mmにて、チャックの回転半径をR=3.0mmとして破壊に至る折曲回数を測定した。
【0086】
<ローラ癖復元率>
電子線照射後のシームレスベルトを、温度23℃、湿度50%で24時間以上状態調整した後、このシームレスベルトから幅15mm、長さ44mm試験片を切り取り、これを直径14mmのローラにセロハンテープ等で固定し、温度60℃、湿度95%の恒温恒湿層に2時間放置後、温度23℃、湿度50%の環境下に24時間放置した後、試験片をローラから開放し、温度23℃、湿度50%で2時間放置した際の試験片の開口幅(L)から以下の式でローラ癖復元率(%)算出した。
ローラ癖復元率(%)={開口幅L(mm)/サンプル長44(mm)}×100
【0087】
<引張弾性率>
ISO R1184−1970に準拠して、電子線照射後のシームレスベルトから切り取った幅15mm、長さ150mmの試験片について、引張速度1mm/min、つかみ具距離100mmで測定した。
【0088】
<微小硬度>
フィッシャースコープ製の微小硬度計「HM2000」を用いて、押し込み荷重2.5mN、押し込み時間27秒の条件でHUpl(ユニバーサル硬度の塑性硬さ)を測定した。
【0089】
<クリープひずみ>
電子線照射後のシームレスベルトから切り取った、幅20mmの試験片について、チャック間長さ100mm、60℃の温度条件で600gの荷重をかけたときの40秒後の伸び長さ(Z)から以下の式で算出した。
クリープひずみεt=(Z−100)/100
【0090】
<表面抵抗値変化率>
三菱化学アナリテック(株)製 ハイレスタ(HA端子)を使用し、電子線照射前後のシームレスベルトについて、500V、10秒の条件にて20mmピッチでベルト円周方向を測定し、得られた表面抵抗率の平均値を表面抵抗値とした。電子線照射前後での表面抵抗値の測定値から、その比を下記式で算出して表面抵抗値変化率とした。
表面抵抗値変化率(%)
={電子線照射後の表面抵抗値/電子線照射前の表面抵抗値}×100
【0091】
<画像評価>
電子線照射後のシームレスベルトを直径14mmのローラを有するタンデム式カラーレーザープリンタの転写ベルトユニットに装着し、温度60℃、湿度95%の環境下に2時間放置した後、温度23℃、湿度50%に24時間放置し、その後、この転写ベルトユニットをプリンタに搭載し、出力した黒色のベタ画像を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:目視で白抜けを確認できない
△:目視で凝視すれば白抜けを確認できるが、問題無いレベル
×:目視で白抜けが目立ち、問題があるレベル
【0092】
評価結果を表1,2に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
[考察]
<実施例1〜6>
PBT/S3001N=7/3(重量比)の配合で、架橋剤TAICの添加量を熱可塑性ポリマー成分に対して0〜5重量%とし、1回当り50〜100kGyで10〜15回電子線照射を行った例であるが、それぞれ耐折回数が10万回以上、ローラ癖復元率が40%以上、引張弾性率が1800MPa以上を示し、表面抵抗値の変化も小さいため、好ましい。
【0096】
<実施例7〜10>
PAT/TPEE、またはPAN/TPEEの配合を変えて、電子線照射を行った例であるが、それぞれ耐折回数が10万回以上、ローラ癖復元率が40%以上、引張弾性率が1800MPa以上を示し、表面抵抗値の変化も小さいため、好ましい。
【0097】
<比較例1〜2>
PAT、またはPAN単体に対し、電子線線照射を行った例であるが、電子線照射前のガラス転移温度が60℃より高いことから、電子線照射後のポリマーの非晶部の運動性がより抑制されるため、耐折性が低い。またローラ癖復元率の測定温度範囲で転移状態であるために、再結晶化しやすく、ローラ癖復元率が悪い。
【0098】
<比較例3〜7>
実施例1,3に対して電子線照射条件を変えた例であるが、比較例3、4は電子線照射を実施していないために引張弾性率が低い。比較例5は電子線照射回数が不足であるために架橋が十分に進行せず引張弾性率が低い。比較例6は電子線照射回数が多すぎるため崩壊が進行し、耐折回数が低い。比較例7は一度に300kGyもの高照射線量で電子線照射を行っているために、ポリマーに高熱が加わって劣化したために耐折回数が低い。
【0099】
<比較例8>
架橋剤としてグリシジル基を持つアリル系架橋剤DA−MGICを用いた例であるが、グリシジル基を持つために混練、成形中に熱架橋が進行してしまい、混練、成形不可能になるため、好ましくない。
【0100】
<比較例9>
TPEEを主成分としたために、架橋前のガラス転移温度が0℃より低い−10℃の例であるが、架橋前の引張弾性率が低いために、架橋後の引張弾性率が目標まで到達せず、好ましくない。
【0101】
<比較例10>
TPEEを主成分とし、架橋前のガラス転移温度が41℃の例であり、耐折回数、ローラ癖復元率、引張弾性率は目標を達しているが、架橋の進行具合が大きく、周長の変化が大きいことにより表面抵抗値の変化が大きくなり、好ましくない。
【符号の説明】
【0102】
1 感光ドラム
2 帯電器
3 露光光学系
4 現像器
5 クリーナー
6 導電性エンドレスベルト
7,8,9 搬送ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレート及び/又はポリアルキレンナフタレートを主成分とし、ポリエステルエラストマーを含む熱可塑性ポリマー成分と、導電剤とを加熱混合してなる成形材料を押出成形して得られるシームレスベルトに、電子線を照射してなる導電性シームレスベルトであって、
電子線照射するシームレスベルトのガラス転移温度が0℃以上60℃以下であり、
該シームレスベルトに、1回あたりの照射線量50kGy以上100kGy以下の条件で合計500kGy以上1500kGy以下の電子線を照射したことを特徴とする導電性シームレスベルト。
【請求項2】
請求項1において、前記成形材料に、前記熱可塑性ポリマー成分100重量部に対して0.01〜5.0重量部の架橋剤が配合されていることを特徴とする導電性シームレスベルト。
【請求項3】
請求項2において、前記架橋剤は、前記加熱混合される原料のうちの粉体成分に含浸させて配合されることを特徴とする導電性シームレスベルト。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記架橋剤がアリル系多官能モノマーであることを特徴とする導電性シームレスベルト。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、画像形成装置用ベルトであることを特徴とする導電性シームレスベルト。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の導電性シームレスベルトを含むことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−285478(P2010−285478A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138425(P2009−138425)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(393032125)油化電子株式会社 (36)
【Fターム(参考)】