説明

導電性ダイヤモンド電極、これを用いた、硫酸電解方法及び硫酸電解装置

【課題】導電性ダイヤモンド層の膜厚及び導電性ダイヤモンドの結晶性を制御することにより、電極の耐久性が高く、且つ、低セル電圧で酸化性物質生成効率が高い導電性ダイヤモンド電極、これを用いた、硫酸の電解方法及び硫酸の電解装置を得ることにある。
【解決手段】導電性基体と前記導電性基体の表面に被覆された導電性ダイヤモンド層よりなり、
1)前記導電性ダイヤモンド層の厚さが、1〜25μmであり、
2)電位窓が式(1)を満たし、
3)ラマン分光分析によるダイヤモンド成分Aと非ダイヤモンド成分Bとの比(A/B)が式(2)を満たすことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極を構成したことにある。
2.1V≦電位窓≦3.5V ・・・(1)
1.5<A/B≦6.5 ・・・(2)
A=ラマン分光分析における波数1300cm-1における強度
B=ラマン分光分析における波数1500cm-1における強度

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ダイヤモンド電極及び導電性ダイヤモンド電極を用いて硫酸を直接電解し、酸化性物質を安定して生成させる、硫酸電解方法及び硫酸電解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の電解めっきの前処理剤やエッチング剤、半導体デバイス製造における化学的機械的研磨処理における酸化剤、湿式分析における有機物の酸化剤、シリコンウェハの洗浄剤等の、様々な製造プロセスや検査プロセスに用いる薬剤として、過硫酸や過硫酸塩が用いられている。これら過硫酸や過硫酸塩は、「酸化性物質」と呼ばれ、この「酸化性物質」は、硫酸の電解によって生成することが知られており、既に工業規模で電解製造されている。
【0003】
本発明において、「酸化性物質」とはペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸を総称する過硫酸、過酸化水素を指す。電解生成物である「酸化性物質」を部材の洗浄や表面処理等に使用する時、多くの場合では、これら総濃度が高いほど効果の高い薬液となるため、高濃度な液を作製する方法が求められる。また、これらの製造においては電解法が用いられるが、セル電圧、電解電流、電流効率から算出される電力原単位を小さくすること、及び経時的に安定かつ高い電流効率を維持することは、生産に必要なエネルギーを小さくするため生産性向上に有効であり、それを実現するための電極の製造方法が求められる。また、使用される電極の耐久性が高いことは、電極寿命を延ばし、電極からの汚染発生がないクリーンな電解液を作製できることなどから有効である。
【0004】
特許文献1は、導電性ダイヤモンド陽極を用いて濃硫酸を電解し過硫酸を製造する硫酸電解方法及び製造された過硫酸を用いてシリコンウェハ加工物を洗浄する洗浄方法が記されている。この導電性ダイヤモンド電極は、従来、過硫酸塩を生成する電極として多用されてきた白金電極と比較して、酸素発生の過電圧が大きいため、硫酸を過硫酸に電解酸化する効率に優れている。また化学安定性に富み、電極寿命が長いという特長を有している。
【0005】
即ち、導電性ダイヤモンド電極は、他の電極触媒(Pt、PbO2等)と比較して過硫酸生成効率が高く、耐久性が高く電極からの汚染発生がないクリーンな電解液を作製できることなどから、特に半導体ウェハ等の洗浄液製造用途などで開発を進められている。
【0006】
然るに、特許文献1に記載の導電性ダイヤモンド陽極を用いて、濃硫酸を電解し、過硫酸を製造する硫酸電解方法は硫酸を電解して過硫酸を含む洗浄液を生成し、前記洗浄液をレジスト付きシリコンウェハ等の被洗浄物へ供給して洗浄を行ない、更に過硫酸濃度の低下した使用済み洗浄液を回収して再度電解することで過硫酸濃度を増加させて繰り返し同一洗浄液を洗浄に用いる方法であり、導電性ダイヤモンド電極の結晶性と、ラマン分光特性・電位窓の関係性及びペルオキソ二硫酸等の過硫酸や洗浄液中の酸化性物質の電流効率及びセル電圧等の生産性について開示がない。
【0007】
特許文献2は、工具用多結晶ダイヤモンドとして、膜厚を規定することでダイヤモンドの高い強度を維持し、ラマン分光のピーク強度比を規定することでダイヤモンドの耐摩耗性を高める方法が開示されている。更に、特許文献2に記載のダイヤモンドは、膜厚を50μm以上、ラマン分光分析によるダイヤモンド炭素と非ダイヤモンド炭素のピーク比(非ダイヤモンド炭素/ダイヤモンド炭素)を2.0以下の範囲とすることが記載されている。しかし、このダイヤモンドは、電解用電極でなく、導電性ダイヤモンド電極の結晶性と、電解特性の一つである電位窓との相関性及びペルオキソ二硫酸等の過硫酸や洗浄液中の酸化性物質の電流効率及びセル電圧等の生産性との関係性について開示がない。
【0008】
特許文献3は、オゾン水製造装置用の電解用電極として、導電性ダイヤモンドライクカーボンの導電性膜を有する導電性ダイヤモンド電極が開示されている。特許文献3に記載の導電性膜は、ラマン分光分析において、1340cm-1±20cm-1に存在するピークの積分強度Int<1340>と1580cm-1±20cm-1に存在するピークの積分強度Int<1580>との比が下記式を満足することで、電極の耐久性を維持し、高電流効率でオゾン水を製造できるオゾン水製造装置が開示されている。
Int<1340>/Int<1580>=0.5〜1.5
【0009】
しかし、ダイヤモンドライクカーボンとは、非晶質硬質炭素のことを示しており、結晶構造を有している導電性ダイヤモンドとは異なる構造であることが特許文献3に明示されている。
【0010】
然るに、特許文献3では、電極としてダイヤモンドライクカーボンを用いており、導電性ダイヤモンド電極の結晶性と、ラマン分光特性・電位窓の関係性及び導電性ダイヤモンド電極の結晶性とペルオキソ二硫酸等の過硫酸や洗浄液中の酸化性物質の電流効率及びセル電圧等の生産性との関係性について開示がない。
【0011】
然るに、上記特許文献1〜3に記載の方法は、導電性ダイヤモンド電極の結晶性とラマン分光特性・電位窓の相関性は明らかでなく、更に、それら方法では、電極の耐久性が高く、且つ、低セル電圧で酸化性物質生成効率が高い導電性ダイヤモンド電極を製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−278838号公報
【特許文献2】特開平2−232106号公報
【特許文献3】特開2008−266718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、電極の耐久性に優れ、低セル電圧で酸化性物質生成効率が高い導電性ダイヤモンド電極、これを用いた、硫酸の電解方法及び硫酸の電解装置を提供することにある。
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、導電性ダイヤモンドの結晶性が電解性能(電極の耐久性、セル電圧、酸化性物質の電流効率)と密接な関係があることを見出し、また結晶性の評価には、導電性ダイヤモンド膜の膜厚、電位窓の広さとラマン分光のピーク強度比から規定することにより、上記電解性能を達成することに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するため、導電性基体と前記導電性基体の表面に被覆された導電性ダイヤモンド層よりなり、
1)前記導電性ダイヤモンド層の厚さが、1〜25μmであり、
2)電位窓が式(1)を満たし、
3)ラマン分光分析によるダイヤモンド成分Aと非ダイヤモンド成分Bとの比(A/B)が式(2)を満たすことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極を提供することにある。
2.1V≦電位窓≦3.5V ・・・(1)
1.5<A/B≦6.5 ・・・(2)
A=ラマン分光分析における波数1300cm-1における強度
B=ラマン分光分析における波数1500cm-1における強度
【0016】
また、本発明による第2の解決手段は、前記導電性ダイヤモンド層として 1000〜6000ppmのボロンを含む導電性ダイヤモンド層を用い電極を提供することにある。
【0017】
また、本発明による第3の解決手段は、前記導電性基体がシリコン基板を用いた電極を提供することにある。
【0018】
また、本発明による第4の解決手段は、隔膜により陽極室と陰極室に区画し、前記陽極室内に導電性ダイヤモンド陽極を設け、前記陰極室内に陰極を設け、前記陽極室及び陰極室内に、それぞれ、外部より硫酸イオンを含む電解液を供給して電解を行い、前記陽極室内の陽極電解液中に酸化性物質を生成させる硫酸の電解方法において、前記導電性ダイヤモンド電極として、特定の導電性ダイヤモンド電極を用いるとともに、前記硫酸イオンを含む電解液の硫酸イオン濃度を2〜14mol/l含有する溶液とした硫酸電解方法を提供することにある。
【0019】
また、本発明による第5の解決手段は前記電解条件において、前記硫酸イオンを含む電解液の酸濃度を4〜28mol/lとした硫酸電解方法を提供することにある。
【0020】
また、本発明による第6の解決手段は、隔膜により陽極室と陰極室に区画し、前記陽極室内に導電性ダイヤモンド陽極を設け、前記陰極室内に陰極を設け、前記陽極室及び陰極室内に、それぞれ、外部より硫酸イオンを含む電解液を供給して電解を行い、前記陽極室内の陽極電解液中に酸化性物質を生成させる硫酸の電解装置において、前記導電性ダイヤモンド電極を用いるとともに、前記隔膜としてフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜よりなる隔膜を用いた硫酸の電解装置を提供することにある。
【0021】
また、本発明による第7の解決手段は、隔膜により陽極室と陰極室に区画し、前記陽極室内に導電性ダイヤモンド陽極を設け、前記陰極室内に陰極を設け、前記陽極室及び陰極室内に、それぞれ、外部より硫酸イオンを含む電解液を供給して電解を行い、前記陽極室内の陽極電解液中に酸化性物質を生成させる硫酸の電解方法において、前記導電性ダイヤモンド電極として、前記導電性ダイヤモンド電極を用いるとともに、前記硫酸イオンを含む電解液を(3)式、(4)式を満たす条件で電解する硫酸電解方法を提供することにある。
100≦X≦10000 ・・・(3)
25<Y<250 ・・・(4)
X=電流値/陽極液量(A/l)
Y=電流密度(A/dm2
【0022】
また、本発明による第8の解決手段は、前記電解条件において、硫酸イオンを含む溶液を(5)式を満たす条件で電解する硫酸電解方法を提供することにある。
18000≦Z≦1080000 ・・・(5)
Z=単位体積あたりの電気量(C/l)=電流値×電解時間/陽極液量(A・s/l)
【発明の効果】
【0023】
本発明による導電性ダイヤモンド電極、これを用いた、硫酸電解方法及び硫酸電解装置によれば、従来技術では達成できなかった電極の耐久性が高く、低セル電圧で高濃度の酸化性物質溶液を高い電流効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による硫酸電解方法及び硫酸電解装置に使用する電解セルの一例を示す全体図。
【図2−1】本発明による硫酸電解方法及び硫酸電解装置の一例を示す全体図。
【図2−2】本発明による硫酸電解方法及び硫酸電解装置の他の例を示す全体図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、導電性ダイヤモンド電極の結晶性と、前記導電性ダイヤモンド電極を電解セルに組込み硫酸の電解を行ったときの電極の耐久性・セル電圧・製造される酸化性物質溶液の酸化性物質濃度と電流効率の間に密接な関係があること見出したものである。
【0026】
ダイヤモンドは、構成している炭素原子それぞれがSP3混成軌道によって結合している立方晶であり、また、バンドギャップが広く絶縁体である。
一方、本発明における導電性ダイヤモンドとは、炭素とは原子価の異なる不純物を含むことで導電性を付与したダイヤモンドのことを示す。導電率を高める観点から、不純物濃度は高い方がよく、一方で高すぎると結晶性が崩れ、ススが付着したような電極となり、耐久性が乏しいものとなる。
【0027】
本発明における結晶性とは、結晶配列の規則性や炭素以外の不純物の含有量を表すものであり、具体的には非ダイヤ成分・グラファイト成分・アモルファス状のダイヤが多い場合、導電性ダイヤモンド層の膜厚が薄い場合、導電性ダイヤモンドの粒径が小さい場合、炭素以外の不純物元素の含有量が多い場合結晶性が低いものとなる。
【0028】
本発明者らによる多くの実験の結果、後述する実施例に示す通り、導電性ダイヤモンド層の膜厚、ラマン分光分析によるダイヤモンド成分Aと非ダイヤモンド成分Bとの比(A/B)は、いずれも、結晶性を表すファクターであり、それらを規定することにより、電極の耐久性が高く、低いセル電圧で電解を行え、酸化性物質の電流効率が高く、高濃度の酸化性物質溶液を製造できる導電性ダイヤモンド電極、これを用いた、硫酸電解方法及び硫酸の電解装置を得ることができることが明らかになった。
【0029】
本発明は、前記導電性ダイヤモンド層の膜厚が、1〜25μmであり、電位窓が式(1)を満たし、ラマン分光分析によるダイヤモンド成分Aと非ダイヤモンド成分Bとの比(A/B)が式(2)を満たすことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極を構成したものである。
2.1V≦電位窓≦3.5V ・・・(1)
1.5<A/B≦6.5 ・・・(2)
A=ラマン分光分析における波数1300cm-1における強度
B=ラマン分光分析における波数1500cm-1における強度
【0030】
先ず、第1に、導電性ダイヤモンド電極の膜厚の限定理由について説明する。
前記導電性ダイヤモンド層の膜厚は1〜25μm、より好ましくは1〜15μmであることが好ましい。前記導電性ダイヤモンド層の厚さが薄くなるほど、前記導電性ダイヤモンド層の製作時間を短縮することができ、また、導電性ダイヤモンドの結晶性が低いものとなる。結晶性が低くなると、酸化性物質の電流効率が高く、セル電圧が低くなるため好ましい。然るに、膜厚が薄くなりすぎ、1μmより薄くなると、基材の腐食などにより基体が露出したり、電解中に膜が剥がれ落ちるなど、電極の耐久性が乏しいものとなってしまう。また、膜厚が厚くなりすぎ、25μmより厚くなると、結晶性が高くなり、基材の露出がなく、基材まで電解液が浸透しないことから、電極の耐久性は向上するものの、酸化性物質の電流効率が低く、セル電圧が高いものとなってしまうため、本発明による導電性ダイヤモンド電極の膜厚は、1〜25μmが好ましい。
【0031】
次に、電位窓の限定理由について説明する。
尚、本発明における電位窓とは、水の電解反応において水素発生も酸素発生も起こらない電位領域を示す。
電位窓の広さが広い場合、導電性ダイヤモンド膜の結晶性は、高くなり、電極の耐久性が向上する。しかし、電位窓の広さが3.5Vより広くなると、酸化性物質の電流効率が低く、セル電圧が高くなる。一方、電位窓の広さが2.1Vより狭くなると、電極の耐久性が低くなる。
【0032】
また、ラマン分光のピーク強度比A/Bが大きい場合、導電性ダイヤモンド膜の結晶性は、高くなり、電極の耐久性が向上する。しかし、ラマン分光のピーク強度比A/Bが6.5より大きくなると、酸化性物質の電流効率が低く、セル電圧が高くなる。一方、ラマン分光のピーク強度比A/Bが小さい場合、導電性ダイヤモンド膜の結晶性は、低くなり、酸化性物質の効率が高く、セル電圧が低くなる。しかし、ラマン分光のピーク強度比A/Bが1.5以下では、電極の耐久性が低くなる。
【0033】
前記導電性ダイヤモンド層は1000〜6000ppm、より好ましくは3000〜5000ppmのボロンを含むことが好ましい。ボロン濃度が高くなるほど、結晶性が低くなり、セル電圧が低く、酸化性物質の電流効率が高い電極となるため好ましい。然るに、ボロン濃度が高くなりすぎ、6000ppmより多くなると、ススが付着したような電極となり、電極の耐久性が乏しいため、本発明による導電性ダイヤモンド電極は、1000〜6000ppmのボロンを含むことが好ましい。
【0034】
前記導電性基体は特に限定されず、タンタル、タングステン、チタン、ニオブなどが使用できるが、シリコン基板を用いた場合、より密着性が良い電極を作製できるため好ましい。尚、前記導電性基体の形状は特に限定されず、板状、棒状、パイプ状、球状などが使用できる。前記導電性基体はボロン、炭素などの不純物を含んでいてもよい。
【0035】
以下、本発明による硫酸電解方法及び硫酸電解装置の実施の一例を図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
図1は、本発明による硫酸電解方法及び硫酸電解装置に使用する電解セルの一例を示したものである。
この電解セルは、隔膜9により導電性ダイヤモンド陽極10が収容され、かつ前記硫酸イオンを含む電解液が満たされた陽極室3と導電性ダイヤモンド陰極12が収容され、かつ陽極室3と同濃度の硫酸が満たされた陰極室4に区画されている。陽極室3には陽極液供給口7が接続され、この陽極液供給口7を通して陽極液である硫酸が陽極室3に供給される。又、陰極室4には陰極液供給口8が接続され、この陰極液供給口8を通して陰極液が陰極室4に供給される。
陽極室3において生成した酸化性物質溶液は、陽極液排出口1より排出される。また、陰極室4において生成した水素及び硫酸溶液は、陰極液排出口2より排出される。
尚、5は、陽極給電端子、6は、陰極給電端子、11は、導電性ダイヤモンド陽極10の導電性基板、13は、導電性ダイヤモンド陰極12の導電性基板、14は、電解セルのシール材、15は、冷却ジャケット、16は、冷却水排出口、17は、冷却水供給口である。
【0037】
本発明における導電性ダイヤモンド陽極10及び導電性ダイヤモンド陰極12は、導電性基板11、13の表面に被覆された導電性ダイヤモンド層で構成される。
導電性ダイヤモンド層の被覆方法は特に限定されず、任意のものを使用できる。代表的な方法として、熱フィラメントCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、DCアークジェットプラズマCVD法などが選択できる。
尚、陰極としては、導電性ダイヤモンド陰極12に変えて白金その他の陰極を使用してもよい。
【0038】
本発明における硫酸イオン(HSO4-もしくはSO42-)を含む電解液は、2〜14mol/l、好ましくは3〜9mol/lの硫酸イオンを含有することが好ましい。
硫酸イオン濃度(HSO4-もしくはSO42-)が2mol/lより小さいと、反応物が少ないため酸化性物質の電流効率が低いものとなってしまう。また硫酸イオン濃度が14mol/lより大きいと、電解液の粘度が高くなりガス抜けが悪く、気泡率が増加し電解液の導電率が低下してセル電圧が高いものとなってしまう。
このため、本発明においては、前記硫酸イオンを含む電解液の硫酸イオン濃度は、2〜14mol/lとしたものである。
【0039】
本発明における硫酸イオンを含む電解液の酸(H+)濃度は、4〜28mol/l、好ましくは6〜18mol/lの範囲とする。
酸(H+)濃度が4mol/lよりも低いと、電解液の導電率が低く、セル電圧が高いものとなってしまう。一方、酸濃度(H+)が28mol/lよりも高い場合は、酸化性物質の電流効率が低いものとなってしまう。
このため、本発明においては、前記硫酸イオンを含む電解液の酸濃度は、4〜28mol/lとしたものである。
【0040】
また、本発明による硫酸電解方法においては、前記導電性ダイヤモンド電極を用いるとともに、前記硫酸イオンを含む電解液をX=電流値/陽極液量(A/l)が100≦X≦10000、好ましくは、300≦X≦6000とし、Y=電流密度(A/dm2)が25<Y<250、好ましくは50≦Y≦200を満たす条件で電解することが好ましい。
Xが100より小さいと、酸化性物質の電流効率が低いものとなってしまい、一方、Xが10000より大きいと、セル内に発生したガスが充満し、セル電圧が高くなってしまうことを見出したものである。また、本発明は、硫酸電解方法において、電流密度Y(A/dm2)が25以下では、酸化性物質の電流効率が低いものとなってしまい、一方、Yが250以上では、発熱が著しくなるため、電解液の温度制御が困難となってしまう。またガス抜けが悪く気泡率が増加し電解液の導電率が低下してセル電圧が高いものとなってしまう。
このため、本発明においては、100≦X≦10000、25<Y<250の範囲としたものである。
【0041】
また、本発明による硫酸電解方法においては、前記導電性ダイヤモンド電極を用いるとともに、前記硫酸イオンを含む電解液をZ=単位体積あたりの電気量(C/l)=電流値×電解時間/陽極液量(A・s/l)が18000≦Z≦1080000、好ましくは100000≦Z≦800000を満たす条件で電解することが好ましい。
Zが18000より小さいと、酸化性物質濃度が低くなる、一方でZが1080000より大きいと、酸化性物質の電流効率が低くなるので、その範囲は18000≦Z≦1080000としたものである。
【0042】
本発明における隔膜9とは、陽極室3と陰極室4を区画しつつ、イオン交換作用や、隔膜内の孔を通して電解液が陽極室3と陰極室4の間を移動することによって導電性を発現させるものである。構成材料は特に限定されないが、耐久性の面からフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜よりなる隔膜を用いることが好ましい。本発明において、隔膜がないと、酸化性物質が陰極で電解還元され、酸化性物質濃度が低下するため隔膜9を設けることが好ましい。
【0043】
本発明における硫酸の電解セル、配管、ポンプ、気液分離タンク等の硫酸電解液との接液部の構成材料は特に限定されないが、耐硫酸性を有するPTFE、PFAなどのフッ素樹脂、ガラス、石英であることが好ましい。
【0044】
本発明における硫酸イオンを含む電解液は、硫酸イオンの他に不純物を含んでいてもよいが、硫酸もしくは硫酸アンモニウム等の硫酸塩と、水から構成されている電解液は過硫酸製造の電流効率が高くなるため好ましい。また、有機物は電解によって生成した酸化性物質と反応し、電解液の酸化性物質濃度を減少させる原因となりうるため、含まないことが好ましい。また、半導体デバイス製造における洗浄剤等に使用する場合は、金属が不純物としてデバイスに悪影響を及ぼすため金属イオンを含まないことが好ましい。
【0045】
更に、本発明においては、電解の電解温度を0〜50℃とすることが好ましい。温度が低いほど酸化性物質の電流効率は高くなる。一方で低くなりすぎると電解液の粘度が高くなり、ガス抜けが悪く気泡率が増加し電解液の導電率が低下してセル電圧が高くなるため、電解温度を0〜50℃とすることが好ましい。
【0046】
また、本発明において、電解液の循環の有無は限定されないが、循環を行うと、電解液冷却を効率的に行うことができるため好ましい。電解液の循環を行う場合の陽極液量とは、電解セル、配管、気液分離タンク、ポンプ等、循環系内の陽極側全ての電解液の量の和を意味するものである。尚、本発明においては、電解液の循環を行わず、電解液を一度だけ電解セルに流通させる、いわゆるワンパスの場合も含むものであり、ワンパスの場合の陽極液量は、電解セル内に存在する陽極側の電解液量を意味する。
【0047】
図2−1は、陽極液及び陰極液をそれぞれ循環しながら硫酸を電解する、本発明による硫酸電解方法及び硫酸電解装置の一例を示したものである。硫酸イオンを含む電解液は、陽極液供給ライン18より、陽極液供給ポンプ19、流量計20を用いて電解セル21の陽極室3に供給され、陽極室3で電解され、流量計22、陽極液循環/排出ポンプ23を用いて陽極液循環ライン25により、陽極室3に循環される。そのとき、発生ガスは、陽極側気分離器26より分離され、発生ガス排出口27より排出される。電解が終了すると、製造された酸化性物質溶液は流量計22、陽極液循環/排出ポンプ23を用いて酸化性物質溶液排出ライン24より排出される。一方、陰極には、硫酸イオンを含む電解液を、陰極液供給ライン28より、陰極液供給ポンプ29、流量計30を用いて電解セル21の陰極室4に供給され、陰極室4で電解され、流量計31、陰極液循環/排出ポンプ32を用いて陰極液循環ライン34により、陰極室4に循環される。そのとき、発生ガスは、陰極側気分離器35より分離され、発生ガス排出口36より排出される。電解が終了すると、陰極液は流量計31、陰極液循環/排出ポンプ32を用いて陰極液排出ライン33より排出される。尚、電解セル21は、冷却ジャケット15及び冷却水循環ライン37により、冷却されている。尚、電解液の温度は、図1に記載の陽極液排出口1の電解液温度を測定した。
【0048】
図2−2は、陰極液のみを循環し、陽極液の循環を行わず、ワンパスで酸化性物質溶液を製造する、本発明による硫酸電解方法及び硫酸電解装置の他の例を示したものである。図2−2は、陽極液の循環を行わず、ワンパスで酸化性物質溶液を製造する点以外、図2−1と全く同一の工程であり、符号も同一の符号を用いているので、図2−2の工程の説明を省略する。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例及び比較例を挙げて、具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
尚、本発明における作製した電極のラマン分光特性測定、導電性ダイヤモンド電極の膜厚測定、ボロン濃度測定、電極の耐久性試験、電位窓の測定、電解に使用した硫酸イオンを含む電解液の作製、製造した酸化性物質溶液の酸化性物質の濃度測定は次の方法により行った。
【0050】
<ラマン分光特性測定>
導電性ダイヤモンドが作製できているかどうか、またA/B強度比を測定するため、電極の表面ラマン測定を行った。
・測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ラマン分光光度計
・型式:AlMEGA XR
・レーザー光:532nm
・露光時間:2.00秒
・露光回数:20
・バックグラウンド露光回数:20
・グレーティング:672lines/mm
・測定幅:700〜2000cm-1
・分光器アパーチャ:25μmスリット
・マクロ試験室にて、低分解能測定
・測定箇所:電極の最も長い距離を示す両エッジから均等に3等分し、そのセンター箇所をそれぞれ測定して平均値を確認した。
・スペクトル補正:全範囲の強度から2000cm-1のときの強度を差し引いた。
・ダイヤモンド成分:波数1300±50cm-1の範囲のピーク強度、ピークが確認されない場合は波数1300cm-1の強度
・非ダイヤモンド成分:波数1500±50cm-1の範囲のピーク強度、ピークが確認されない場合は波数1500cm-1の強度
波数1300±50cm-1の範囲でラマン活性を示したもの、すなわち波数1300±50cm-1の範囲でピーク、もしくはブロードな波形を示した場合を導電性ダイヤモンド電極が作製できているものと判断とした。
【0051】
<導電性ダイヤモンド膜厚測定>
導電性ダイヤモンド電極を電極の最も長い距離を示す両エッジから均等に5等分し基板ごと切断する。得られた断面を、走査型電子顕微鏡(製造元:JEOL、商品名:JSM6490)を用いて、加速電圧10kV、8000倍にて全切断サンプルの少なくとも片断面を観察・撮影し、平均値から膜厚を求めた。
【0052】
<ボロン濃度測定>
作製した電極表面を、二次イオン質量分析(製造元:アルバック・ファイ、商品名:PHI ADEPT1010)を用いて、一次イオンO2+、一次イオンエネルギー3keV、検出領域100μmφ、2次イオン極性ポジティブにて測定した。濃度換算はSiC組成中のBの標準濃度試料を併せて測定し、相対感度係数を求め試料に係数を代入した。
<導電性ダイヤモンド電極の耐久性試験>
陽極、陰極共に作製した電極を用い、図1に示す隔膜付き電解セル21を組み込んだ、図2−1で示す硫酸電解装置を用いて、次の条件にて酸化性物質溶液の製造を行った。
電流密度:100A/dm2
電解時間:12h
陽極液量:200ml
電解液温度:35℃
冷却水温度:15℃
陽極液流量:1l/min
陰極液流量:1l/min
陽極電解液:4.2mol/l硫酸(電子工業用の関東化学株式会社製硫酸を電子工業用純水にて希釈調製)
陰極電解液:4.2mol/l硫酸(電子工業用の関東化学株式会社製硫酸を電子工業用純水にて希釈調製)
隔膜:(住友電工ファインポリマー社製のポアフロン(登録商標))
電解終了後の電極を目視観察し、導電性ダイヤモンド膜の剥離が確認されなかったものを耐久性○、剥離が極わずか確認されたものを耐久性△、面積の半分以上剥離が確認されたものを耐久性×とした。
【0053】
<電位窓の測定>
電位窓の測定にはサイクリックボルタモグラムにより酸化還元分解電圧の測定を行った。すなわち、電解液に4.2mol/lの硫酸、作用極に基体上に導電性ダイヤモンド層を形成した電極、対極に白金線、参照電極に硫酸第一水銀比較電極を用いて50mV/sで電位掃引し±50mA/dm2の電流が流れたときの電位を測定し、還元及び酸化分解電位値から電位窓を決定した。
【0054】
<電解液作製に必要な硫酸質量>
1lの電解液を作製するのに必要な98%硫酸の質量を式(6)に基づき算出し、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)を採取し、超純水を加えて全1lの電解液とした。

C(g):1l電解液を作製するのに必要な98%硫酸の質量
【0055】
<酸濃度>
式(6)で採用した作製したい硫酸イオンを含む電解液の濃度(mol/l)に基づき、以下式(7)から酸濃度を算出した。
酸濃度=作製したい硫酸イオンを含む電解液の濃度×2・・・(7)
【0056】
<酸化性物質の濃度測定>
製造された酸化性物質溶液を100ml三角フラスコに0.4ml計り取り、超純水を加えて全3mlの試料液とし、ヨウ化カリウム(和光純薬工業(株)製)を超純水で調整し200g/lとした溶液を5ml添加して遊離ヨウ素にて着色させ、三角フラスコ内を窒素で満たしシリコンゴムで密閉した状態で30分間放置した後、0.02mol/lチオ硫酸ナトリウム溶液(和光純薬工業(株)製)を試料液が無色になるまで滴下した。測定回数は各試料3回とし、その平均値を用いて、以下式(8)により酸化性物質の濃度を算出した。

【0057】
<酸化性物質の電流効率>
製造された酸化性物質溶液の酸化性物質濃度を前記、酸化性物質の濃度測定で算出した値を用いて、以下式(9)により電流効率を計算した。

【0058】
<導電性ダイヤモンド層の形成:熱フィラメントCVDによる>
本発明における導電性ダイヤモンド電極は次の方法によって作製した。導電性基体として単結晶Siを使用し、基体表面を研磨、洗浄、ダイヤモンド粒子で核付けを行った後、装置内に設置した。導入ガスとして水素、メタン、Ar+ホウ酸トリメチルを用い、5リットル/分の速度で装置内に流しながら、装置内圧力を60Torrに保持し、フィラメントに電力を印加して温度2300℃に昇温した。このとき基体温度は800℃であった。
ホウ酸トリメチルは、液体状のホウ酸トリメチルを充填した容器内にArをバブリングすることにより装置内に導入した。
メタン流量、ホウ酸トリメチル流量を変えることにより、膜質を変化させた。
成膜時間を変えることにより膜厚を変化させた。
【0059】
<実施例1>
図1に示す電解面積1.000dm2の導電性ダイヤモンド電極を陽極、陰極共に用いた隔膜付き電解セル21を組み込んだ、図2−1で示す硫酸電解装置を用いて、陽極液及び陰極液をそれぞれ循環しながら硫酸を電解し、次の条件にて酸化性物質溶液の製造を行った。
作製した電極の特性を表1に示す。
陽極、陰極共に作製した電極を用い、隔膜付き電解槽を用いて、表1に記載の条件及び次の条件にて電解硫酸の製造を行った。電解液は、1lメスフラスコに、98%硫酸(関東化学(株)製)を式(6)に基づき403g採取し、超純水を加えて全1lに希釈し、硫酸イオンを4.2mol/l含む電解液とし、内300mlを陽極液、残り300mlを陰極液として使用した。酸濃度は式(7)に基づき算出したところ18.4mol/lであった。
セル電流:100A
電流密度:100A/dm2
電解時間:20分
陽極液量:300ml
電解液温度:28℃
冷却水温度:15℃
陽極液流量:1l/min
陰極液流量:1l/min
陽極電解液:4.2mol/l硫酸
陰極電解液:4.2mol/l硫酸
隔膜:(住友電工ファインポリマー(株)製のポアフロン(登録商標))
得られた酸化性物質溶液の結果を表6及び次に示した。
製造した酸化性物質溶液を用い、前記、酸化性物質の濃度測定方法に従い、滴定を行ったところ、0.02mol/lチオ硫酸ナトリウム溶液を44.00ml滴下したところで溶液が無色になった。さらに同手段で測定を2回繰返したところ、その測定結果は各々、44.00、44.00mlであった。それら平均値44.00mlを用いて、(8)式により酸化性物質濃度を計算したところ、1.10mol/lであった。また酸化性物質濃度を用いて、(9)式により電流効率を計算したところ、53%であった。
【0060】
<実施例2〜10>
実施例2〜10として、メタン流量、ホウ酸トリメチル流量及び成膜時間を変えることにより、導電性ダイヤモンド膜厚、電位窓、A/B、ボロン濃度を表1、2に記載のように変化させた電極を陽極に用いた以外は実施例1と同様の方法で酸化性物質溶液を得た。
得られた酸化性物質溶液の結果を表6、7に示した。
【0061】
<実施例11〜14>
電解液中の硫酸イオン濃度、酸濃度を表2〜3に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で酸化性物質溶液を得た。
得られた酸化性物質溶液の結果を表7〜8に示した。
【0062】
<実施例15〜16>
電解液中の陽極液量、電流値/陽極液量、電解時間を表3に記載のように変更し、図1に示す電解面積1.000dm2の導電性ダイヤモンド電極を陽極、陰極共に用いた隔膜付き電解セル21を組み込んだ、図2−2で示す硫酸電解装置を用い、陽極液の循環を行わず、ワンパスで酸化性物質溶液を製造したこと以外は、実施例1と同様の方法で酸化性物質溶液を得た。
得られた酸化性物質溶液の結果を表8に示した。
【0063】
<実施例17〜24>
陽極液量、電流値/陽極液量、電解時間、単位体積あたりの電気量を表3〜4に記載のように変化させた以外は実施例1と同様の方法で酸化性物質溶液を得た。
得られた酸化性物質溶液の結果を表8〜9に示した。
【0064】
<実施例25>
基体材料にニオブを用いた以外は実施例1と同様の方法で酸化性物質溶液を得た。
得られた酸化性物質溶液の結果を表9に示した。
【0065】
1)実施例1〜4の結果、電位窓が狭いほど、またA=ラマン分光分析における波数1300cm-1における強度とB=ラマン分光分析における波数1500cm-1における強度の比A/Bが小さいほど、酸化性物質の電流効率が高く、セル電圧が低いことが分かった。一方実施例2では電極の耐久性試験後の電極を目視確認したところ導電性ダイヤモンド膜の剥離が極わずか確認された。
2)実施例5、6の結果、実施例1の結果と比べて、導電性ダイヤモンド層の厚みが薄いほど、酸化性物質の電流効率が高く、セル電圧が低いことが分かった。これは導電性ダイヤモンド層が薄いほど、電位窓が狭く、A=ラマン分光分析における波数1300cm-1における強度とB=ラマン分光分析における波数1500cm-1における強度の比A/Bが小さくなったためであると考えられる。
一方、実施例6は実施例1の結果と比べて、酸化性物質の電流効率が低く、セル電圧が高いものとなった。
3)実施例7〜10の結果、実施例1の結果と比べて、ボロン濃度が高いほど、酸化性物質の電流効率が高く、それに伴う酸化性物質濃度が高く、セル電圧が低いことが分かった。これはボロン濃度が高いほど、電位窓が狭く、A=ラマン分光分析における波数1300cm-1における強度とB=ラマン分光分析における波数1500cm-1における強度の比A/Bが小さくなったためであると考えられる。
一方、実施例10では電極の耐久性試験後の電極を目視確認したところ導電性ダイヤモンド膜の剥離が極わずか確認された。
4)実施例11、12の結果、実施例1の結果と比べて、硫酸イオン濃度が低いほど、電流効率が低いことが分かった。これは硫酸イオン濃度が低いほど反応物が少ないためであると考えられる。また実施例1の結果と比べて、酸濃度が低いほどセル電圧が高いことが分かった。これは酸濃度が低く、導電率が低くなったことによるものと考えられる。実施例13、14の結果、実施例1の結果と比べて、酸濃度が高いほど、電流効率が低いことが分かった。これは、酸化性物質は酸濃度が高いほど分解しやすいためであると考えられる。また実施例1の結果と比べて、硫酸イオン濃度が高いほどセル電圧が高いことが分かった。これは硫酸イオン濃度が高く、粘度が高くなり、ガス抜けが悪く気泡率が増加し電解液の導電率が低下してセル電圧が高くなったものと考えられる。
5)実施例15〜18の結果、実施例1の結果と比べて、X=電流値/陽極液量(A/l)が大きいほど、酸化性物質の電流効率が高く、それに伴い酸化性物質濃度が高い液を得られることが分かった。一方で、X=電流値/陽極液量(A/l)が大きいほど、セル電圧が高いものとなった。これは、セル内にガスが充填してセル電圧が上昇したものと考えられる。実施例17、18ではセル電圧は良好であったが電流効率が低いものとなった。
6)実施例19〜20の結果、実施例1の結果と比べて、電流密度(A/dm2)が低くなると、酸化性物質の電流効率が低く、それに伴い酸化性物質濃度が低くなることが分かった。一方、実施例21、22の結果、実施例1の結果と比べて、電流密度(A/dm2)が高くなると、酸化性物質の電流効率は高くなるものの、セル電圧が上昇することが分かった。これは、電流密度が高いため、発生したガスがセル内に充填したためであると考えられる。
7)実施例23の結果、実施例1の結果と比べて、単位体積あたりの電気量が低くなると、酸化性物質の電流効率が高く、それに伴い酸化性物質濃度が低くなることが分かった。一方、実施例24の結果、単位体積あたりの電気量が高くなると、酸化性物質の電流効率が低く、酸化性物質濃度が高くなることが分かった。
8)実施例25の結果、実施例1の結果と比べて、基板材料がニオブになると、酸化性物質の電流効率、それに伴う酸化性物質濃度は良好なものの、電極の耐久性試験後の電極表面の目視観察で膜がわずかに剥がれ落ちていることが確認された。
【0066】
<比較例1〜4>
メタン流量、ホウ酸トリメチル流量及び成膜時間を変えることにより、導電性ダイヤモンド膜厚、電位窓、A/Bを表5に記載のように変化させた電極を陽極に用いた以外は実施例1と同様の方法で酸化性物質溶液を得た。得られた酸化性物質溶液の結果を表10に示した。
【0067】
比較例1ではセル電圧、酸化性物質の電流効率は良好な結果が得られたものの、電極の耐久性試験後の電極表面の目視観察で膜が大部分剥がれ落ちている箇所が確認された。
比較例2では電極の耐久性試験後の電極表面の目視観察における膜の劣化は確認されなかったものの、電解中のセル電圧が高く、得られた酸化性物質含有溶液の電流効率は低い結果となった。
比較例3ではセル電圧、電流効率は良好な結果が得られたものの、電極の耐久性試験後の電極表面の目視観察で膜が大部分剥がれ落ちていることが確認された。
比較例4では電極の耐久性試験後の電極表面の目視観察における膜の劣化は確認されなかったものの、電解中のセル電圧が高く、得られた酸化性物質含有溶液の電流効率は低い結果となった。
比較例5では電解中に電極が劣化し、電解液中にカーボンの粉末が目視で確認されたため、電解を中断した。
【0068】

【0069】

【0070】

【0071】

【0072】

【0073】

【0074】

【0075】

【0076】

【0077】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によるダイヤモンド電極は、特に、硫酸電解における陽極として使用すると、酸化性物質を安定して生成させる効果があるが、同時に硫酸電解における陰極として使用すると、その効果を向上させることができる。更に、本発明による導電性ダイヤモンド電極は、その他の電解用陽極及び陰極としても使用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1:陽極液排出口
2:陰極液排出口
3:陽極室
4:陰極室
5:陽極給電端子
6:陰極給電端子
7:陽極液供給口
8:陰極液供給口
9:多孔質PTFE隔膜
10:導電性ダイヤモンド陽極
11:導電性基板
12:導電性ダイヤモンド陰極
13:導電性基板
14:シール材
15:冷却ジャケット
16:冷却水排出口
17:冷却水供給口
18:陽極液供給ライン
19:陽極液供給ポンプ
20:流量計
21:電解セル
22:流量計
23:陽極液循環/排出ポンプ
24:酸化性物質溶液排出ライン
25:陽極液循環ライン
26:陽極側気液分離器
27:発生ガス排出口
28:陰極液供給ライン
29:陰極液供給ポンプ
30:流量計
31:流量計
32:陰極液循環/排出ポンプ
33:陰極液排出ライン
34:陰極液循環ライン
35:陰極側気液分離器
36:発生ガス排出口
37:冷却水循環ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と前記導電性基体の表面に被覆された導電性ダイヤモンド層よりなり、
1)前記導電性ダイヤモンド層の厚さが、1〜25μmであり、
2)電位窓が式(1)を満たし、
3)ラマン分光分析によるダイヤモンド成分Aと非ダイヤモンド成分Bとの比(A/B)が式(2)を満たすことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極。
2.1V≦電位窓≦3.5V ・・・(1)
1.5<A/B≦6.5 ・・・(2)
A=ラマン分光分析における波数1300cm-1における強度
B=ラマン分光分析における波数1500cm-1における強度
【請求項2】
前記導電性ダイヤモンド層が1000〜6000ppmのボロンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項3】
前記導電性基体がシリコン基板であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項4】
隔膜により陽極室と陰極室に区画し、前記陽極室内に導電性ダイヤモンド陽極を設け、前記陰極室内に陰極を設け、前記陽極室及び陰極室内に、それぞれ、外部より硫酸イオンを含む電解液を供給して電解を行い、前記陽極室内の陽極電解液中に酸化性物質を生成させる硫酸の電解方法において、前記導電性ダイヤモンド電極として、請求項1〜3に記載の導電性ダイヤモンド電極を用いるとともに、前記硫酸イオンを含む電解液の濃度を2〜14mol/lの硫酸イオンを含有する溶液としたことを特徴とする硫酸電解方法。
【請求項5】
前記硫酸イオンを含む電解液の酸濃度を4〜28mol/l含有する溶液としたことを特徴とする請求項4に記載の硫酸電解方法。
【請求項6】
隔膜により陽極室と陰極室に区画し、前記陽極室内に導電性ダイヤモンド陽極を設け、前記陰極室内に陰極を設け、前記陽極室及び陰極室内に、それぞれ、外部より硫酸イオンを含む電解液を供給して電解を行い、前記陽極室内の陽極電解液中に酸化性物質を生成させる硫酸の電解装置において、前記導電性ダイヤモンド電極として、請求項1〜3に記載の導電性ダイヤモンド電極を用いるとともに、前記隔膜としてフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜よりなる隔膜を用いたことを特徴とする硫酸電解装置。
【請求項7】
隔膜により陽極室と陰極室に区画し、前記陽極室内に導電性ダイヤモンド陽極を設け、前記陰極室内に陰極を設け、前記陽極室及び陰極室内に、それぞれ、外部より硫酸イオンを含む電解液を供給して電解を行い、前記陽極室内の陽極電解液中に酸化性物質を生成させる硫酸の電解方法において、前記導電性ダイヤモンド電極として、請求項1〜3に記載の導電性ダイヤモンド電極を用いるとともに、前記硫酸イオンを含む電解液を(3)式、(4)式を満たす条件で電解することを特徴とする硫酸電解方法。
100≦X≦10000 ・・・(3)
25<Y<250 ・・・(4)
X=電流値/陽極液量(A/l)
Y=電流密度(A/dm2
【請求項8】
硫酸イオンを含む溶液を(5)式を満たす条件で電解することを特徴とする請求項7に記載の硫酸電解方法。
18000≦Z≦1080000 ・・・(5)
Z=単位体積あたりの電気量(C/l)=電流値×電解時間/陽極液量(A・s/l)

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【公開番号】特開2012−132066(P2012−132066A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285100(P2010−285100)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000105040)クロリンエンジニアズ株式会社 (48)
【Fターム(参考)】